パンチュ•パカブラ   作:ヤングコーン

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金さえ払えば何も言わず取り引きしてくれるミーシャ。一見は普通の人間だが、何やら不思議な雰囲気を纏っている。彼女とは初対面だが、彼女の開いた瞳の特徴には見覚えがあった。


4話 異星の血を継ぐ娘のパンツ

彼女はうつむいたまま顔を上げない。不思議な雰囲気の子だ。ぱっと見はまさに地球人なのだが…何と言うかこの星の民の様な気がしない。どこがと言われれば説明は難しいが。

 

この子の事は気になるがまずは店内で気になる物を探す事にした。店内を見て回り、欲しい物を選んで篭の中に入れた。まずはマチェットナイフ。漁火と戦った時に感じたが、相手が武器を持っている場合は少しでもリーチが長い得物を持つに限る。持ち歩いても邪魔にならないサイズで、カバー付きを選んだ。次にウエストポーチ。せっかく持って来たポーチもパンツで埋まってしまう。これなら持ち物に困る事もないだろう。

 

最後に気になるものと言えば食べ物だった。宇宙船に乗ってた非常食はまだいくつかあるが、この星の食文化も気になる所。俺は食べられそうな物をいくつか写真を撮ってジェーンに送る。

 

『私へのお土産ならスナック菓子をお願いするよ』

 

「俺はルームサービスか?」

 

「チップはパンツで」

 

「パンツじゃ腹は膨れない」

 

『冗談だよ。私も君らの生態に詳しい訳じゃないけど、カーグが食べている物を分析した範囲では私達が食べている物と君らが食べている物の成分はそう変わらない事がわかってる。ただ食品添加物や農薬の残留基準的に君らの体に安全か分からないから、確実に安全だとは言えない。それを踏まえて食べられそうな物は…』

 

「個人的にはこの小さな団子がきになってるんだ。甘くて美味しそうな砂糖菓子に見える」

 

『カブラン君その団子は駄目だ。殺鼠剤だから』

 

「そうか…」

 

俺はカゴをミーシャの元に持って行った。彼女は黙って篭の中身を1つ1つ触って何かを確認している。その行動の意味は分からないが時間がかかるようだった。俺は少し離れて小声でジェーンと話をする。

 

「それにしてもこの子、俺を見て驚かないんだな。漁火と言いこの星で俺の姿を見て驚いたり騒がれる人間がいるのか疑問に思えて来た」

 

「その漁火って子が驚かなかった理由は分からないけど、ミーシャが驚かないのは無理ないよ。その子、目が見えないんだ」

 

「そうだったのか…」

 

物をああして1つ1つ触っているのは購入した商品が何なのか確かめるためだったのか。なるほど。

 

「カブラン様、これ私のお弁当です。非売品です。カブラン様はお腹が空いておいでですか?…カブラン様??」

 

ミーシャの声がした。俺がさっき食べようと思って持って行った食べ物は売り者ではないらしい。顔は俺の方を向いていないが、眼を開けキョロキョロしながら言っている。その眼を見て驚いた。このネイビーブルーに輝く瞳…。俺は歩み寄り、屈んでその瞳を眺める。見た事がある目だ。

 

この瞳は…この瞳の色こそは…。

 

「ジェーン、この瞳の色、目が光る人種は他にいるのか?」

 

『ミーシャ、目を開いちゃ駄目だって言ってるのに…』

 

「カブラン様、私の目がどうかしましたか」

 

「…あ、いや…何でもない」

 

俺はもう一度離れてジェーンと話の続きをする。

 

「ジェーン、ミーシャはノーティアスの血が混じってる」

 

『のーてぃ…なんだって?』

 

ノーティアスは宇宙人の一種だ。高度な知能と科学技術力を持っているとされている。大きく膨らんだ頭に小さな顔、そこから下は垂れ下がった触手の様な物で直立している。特に特徴的なのはそのネイビーブルーに光る眼だ。

 

宇宙を往来して何ら調査を進めており、特に生物に関する調査や研究は意欲的だ。極めて冷酷で残虐であり、加虐心から特に意味もなく被検体を痛めつけたりもする。多くの目的情報があるが未だにその存在を裏付ける確かな証拠がないため都市伝説と考える同胞が多い。

 

『そ、それがミーシャだって?確かに彼女の目は変わってるかもしれないけど…、君の星の科学技術力でさえ都市伝説レベルの話なんだろ?そうとは限らない…』

 

「…俺が今朝、悪夢にうなされてただろ。今でもたまに夢に見るんだが、俺は幼少期にノーティアスに誘拐された事があるんだ。前後の記憶はあやふやだが、俺は家に帰ろうとしたところを連れ攫われた」

 

俺は断片的に残っている記憶をジェーンに伝える。激しく点滅する光を目に当てられたり、身体を焼く光線で体を焼いたり、ドリルで体のあちこちを削ったり…。変な物を口や耳に入れられたりもした。

 

今同じ体験をしても大きな心の傷を負うだろうが、今よりずっと幼い頃だったから心に非常に深い傷を負った。

 

「俺は自宅から200km離れた場所で発見された。体験した事を話したが誰も信じてくれなかった。俺の言う体の傷はどこにもなかったからな。俺は精神治療を受け、薬も飲まされた。妄想だったと認めるまで病院に通わされた」

 

『……………』

 

結局なんで200km先にいたのかは誰も分からない。ただ俺の地元は交通の便がいいから他の客に紛れて行ったとか、誘拐されかけてたとか色んな話が飛び交ったが結局何も分からずじまいだった。俺だって記憶が抜け落ちてて分からない。

 

ジェーンはあれこれ返答を言おうとするがそのたびに言葉に詰まって唸っている。

 

「ジェーン、いるんだ。この星に既にノーティアスが!そしておそらく近くに!」

 

恐怖と同時に興奮していた。誰も信じてくれなかった伝説の証拠が今ここにある。彼女に言っても仕方がないのは分かっているが、抑えられなかった。

 

夢中になって話していると、何かが後ろから抱き着いて来た。驚いて首を後ろにやるとミーシャが俺の腰のあたりに抱き着いていた。彼女は中腰で俺に抱き着いたまま動かない。

 

「ミーシャ?」

 

彼女は大きく息を吸って吐き、大きく息を吸って吐いている。

 

「カブラン様はとてもいい匂いをしておられる。もう我慢できません、もっと嗅がせてください」

 

「?????」

 

興奮気味のミーシャが俺にくっついたまま離れようとしない。彼女はうっとりとした表情で俺の匂いを嗅いでいる。彼女は目が見えないはず…いや、俺の話し声が大きくなり過ぎていた。声を頼りに来たのかもしれない。彼女は袖から拳サイズの木の実を取り出して俺に手渡す。

 

「このリンゴ、あげるので…食べてる間だけでも匂いを嗅がせてください」

 

「わ、分かった」

 

何か良く分からないがとにかくリンゴと言う木の実を食べてる間は好きにさせた。未だに目撃情報の少ないノーティアスに連れ攫われた事といい、俺の体質的な何かがあるのか?あるいはノーティアスに何かされた影響?よく分からないが彼女の向ける興奮の眼はまさにあの日のノーティアスと瓜二つだった。

 

やがてリンゴを食べ終えると、とにかくここを離れようとする。近くに連中がいるなら今は出会したくない。しかし彼女は俺の背中にくっついたまま離れようとしない。

 

「あの、あの…何か身に着けてる物を売ってください!何でもいいんです、あなたの身に着けてる何か…」

 

せっかく役立つ物を売ってもらって、乱暴に振り払って立ち去るのでは申し訳ない。だが、俺は早い所ここを出なければならない。しかし、俺の身に着けてる物で何か渡せる物はあるだろうか…。

 

しばらく考えたが、俺は朝からずっと被ってる漁火のパンツを脱いで、ポーチから2枚目の漁火のパンツを頭に被った。1枚目のパンツをミーシャに渡す。彼女はそれを受け取ると鼻に当てて嗅ぐ。

 

「他の何か…女の匂い?これは一体…」

 

「すまないが俺は服を着る習慣がない。つい先ほどまで身に付けていた物で渡せるものはそれぐらいしかない」

 

「ああいえ、結構です。ではお金を…」

 

「いや、お金はいい。代わりに欲しい物がある」

 

「はい、何でしょう」

 

「ミーシャのパンツが欲しい」

 

「フ…フフ。分かりました。申し訳ありませんが、両手が塞がっておりますので…。お手数ながらお手をお借りして良いですか?」

 

そう言うと彼女はゴロンと床に仰向けに寝転がる。俺は異星人に興奮するような性癖では無いが、漁火の事といい何だか卑猥な事をしている様な感じがして気が引ける。息が出来なければ死ぬ。死活問題なのだから言ってる場合じゃないが…。

 

俺は余計な考えを振り払い、彼女のパンツを掴み爪で傷つけない様にスルスルと脱がせる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

そしてポーチの中に入れた。

 

「…私のパンツ、どうするんですか?」

 

彼女な寝ながら尋ねる。

 

「頭に被る」

 

「フフ、フフフフフ…」

 

ミーシャは不気味な声で笑っていた。俺は荷物をまとめると玄関に向かった。

 

「世話になった。ありがとう、ミーシャ」

 

「きっと、きっとまた来てくださいね」

 

俺はミーシャの店を後にした。ひょっとしたら帰りに寄る機会があるかもしれない。その時は、この星で過ごした記念のお土産でも買おうか…なんて考えた。あまり無駄使いすると後でジェーンに怒られそうだ。

 

どんな事情があって彼女が人間とノーティアスの血を持つハーフになったのか非常に気になる。ただノーティアスは確実にいて、この星で何か活動している…。

 

気になる事は沢山あるが今はまず生き延びなければ。

 

『カブラン君、ミーシャの事は…』

 

ジェーンが消えそうな小さな声で俺に声をかける。

 

「恩人の友達を危険に晒す真似はしない。俺は何も見なかった」

 

『ありがとう』

 

時と場合によっては報告する必要がある。だが今は本当の事を言ってジェーンとの協力関係にヒビを入れるのは賢い選択ではない。しかし自分のせいで連れ去られ、俺が過去に経験した様な被験体になる想像をするととても話す気にはなれない。そんな状況にらならない事を心から願った。

 

ジェーンは地図に聖プディング大学に向かうまでのお勧めのチェックポイントと複数のルートを表示できるようにしてくれた。これでジェーンに確認しながら手探りで行く必要もなくなる。

 

俺は次のチェックポイントまでのルートを確認し次へ進む事にした。

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