俺はノーティアスだった。種族はパンチュパカブラではない。信じるものを根底から失ってしまった。何もかもが偽りの中で育った。ノーティアスでありながらパンチュパカブラの姿と心を持っている。かといってパンチュパカブラにはなれない。
生まれた瞬間から大きな矛盾をはらんだ存在。それが俺。何もかも分からなくなり、信じたいものもなくし、俺はただ茫然自失で座り込んでいた。
「どうすればいいんだよ…」
ソロルは俺の隣に座る。
「大丈夫?どこか痛いの?」
「ああ。心にぽっかり穴が空いてしまってな」
「痛い?」
「とても」
心配そうな表情で俺の顔を覗き込むソロル。彼女は手のひらを俺の頭の上にのせて撫でる。
「こうすると痛みが和らぐよ」
ノーティアスがそうなのか人間がそうなのかわからない。少なくともパンチュパカブラの体を持つ俺にはその感覚は分からなかった。ただ、慰めようとしている事は分かった。少しだけ嬉しかった。
ソロルは落ち込んでる俺に色んな事を話してくれた。先に生まれたのは俺で、後に生まれたのがソロルだった。しかし自我を持って動き始めたのはソロルが先だった。それで俺よりも多くの知識を持っているらしい。
何でも俺とソロルはある計画のために2つで1セットとして誕生したのだそうだ。
「私達にはね、兄弟姉妹がいたんだ。たくさんね。多くが短命で、皆死んじゃった」
俺はここに来るまでに見かけた失敗という紙を思い出した。あれはここで生まれた俺たちの兄弟姉妹だったのか。俺はふとミーシャの事を思い出す。そういえばあの子は…。
「他に生き残った兄弟姉妹はいないのか?逃げ出したり…」
ソロルは首を横に振る。
「分からない。逃げ出そうとした人はいると思う。でも成功体でもない限り、そもそも地下を抜ける事もままならないんじゃないかな。ノーティアスの死体はよほど保存環境が整ってないとほぼ溶けてなくなる。どのみち放っておいても問題なかったはずだよ」
彼女は俺の手を引っ張ってどこかへ案内する。ある扉を開けると外につながっていて、その先にはただただ行き止まりの謎の空間があった。見渡しても何にもない。しかし、よく見ると近くにはぱさぱさになったビニル袋の断片の様な物が点々と落ちていた。
ここまでの話の流れと言い、彼女がここへ連れてきて見せたかったものと言い…察するにこれはここで死んでいったノーティアスの死骸の一部…。殆どが土に還っていて分からなかった。
「マクシマスの死体がはっきり残ってたのは保存環境が整っていたからなのか?」
「あれは私が溶けないように加工したんだよ。お兄ちゃんはやって来た軍人に連れ去られるし…皆死んでるし…お父さんも…。私とても寂しかった」
ソロルは俺の手を軽く握る。体質なのかわずかに湿っていた。未だに実感はわかないけど彼女は確かに俺の妹で、あそこで倒れていたのは俺の父という事になる。俺は何も知らずに自分の妹をここに一人きりにしてのうのうと暮らしてたんだな。
俺もその手を軽く握り返す。彼女は手をつないだまま俺の前に出ると、足を延ばして俺の口に唇を押し付ける。僅かに甘い匂いがした。
「?」
「これはね、キス。ノーティアスじゃなくて人間の愛情表現の1つ」
愛情表現…。家族愛か。俺も牙をあてないように彼女にキスというものを返す。俺が口を離すと、彼女はそれを惜しむように背伸びを続けて俺にその行為を続ける。これはどのぐらい続けているのが普通なんだろう。
彼女の表情はどこか艶やかだった。異星人に、ましてや自分の妹に興奮する趣味はないはずだ。なのに、俺はどこか劣情を刺激された気がした。この期に及んで発情期か?わからない。彼女からする甘い匂いが徐々に強くなっている気がする。
やがて彼女は微睡んだ様な表情で唇を離し、手をつないでない方の手を握る。
「お兄ちゃん、こっち…」
そういうと寝室に案内される。
俺はふとジェーンの事を思い出す。そうだ…こんな所で寛いでる場合か?連絡は未だに来ないままだが、彼女はきっと俺を母星に返すためにあれこれしている。俺の事も信用してくれている。
だが…俺の元来た星はもう俺の帰るべき場所なのかも怪しい。
「ちょっと指を借りるね」
そういって握っていた俺の手の指を、あの錠付きのパンツの鍵穴の中に爪ごと入れる。一瞬パンツが青く光ったと思うとその場にガシャンと音を立ててずり落ちた。
「どうなってるんだ?」
「地球とパンチュパカブラの星。その2つの星で活動できるノーティアスを作る事。それがお父さんの計画、目的。それが最終段階に来たの。その方法はね…これまでみたいにいかないんだ」
ソロルの顔が赤い。体もやや熱を帯びている。興奮している…?というべきなのか。
「この貞操帯はそのためにつけられてたんだ。もうわかるよね。…しよ?」
そういって彼女はマントを脱ぎ去りベッドに横になった。蕩けた表情で、体をくねらせ、誘っている。俺は自覚できるほどにたまらなく興奮していて、理性は焼ききれそうになっていた。
そうだ…触れた時のわずかに湿った何か。そして匂い。あれらは容姿が異なる者同士の性交を円滑にすべく興奮を高める様にするための作用があったんだ。ミーシャの様子が徐々におかしくなって行ったのも、今のソロルがそうであるように興奮を促す匂いを無自覚に放っていたせいだったんだろう。
実験体として成功したソロルは俺に、俺はソロルに興奮するようにできている。
帰る故郷も誇れる物もなくした。怒りと悲しみと憎しみをぶつける先がなくて、逃げ場を失っている。この感情を一時的にも慰める事ができる方法が、目の前にあった。
「ソロル…」
「お兄ちゃん…」
俺は彼女の隣に寝転んだ。そして静かに彼女を抱きしめる。しばらくそのままだった。ソロルは首をかしげる。
「お兄ちゃん、これじゃセックスできない…」
「俺、必ずお前を迎えに行くよ。それは今じゃないけど…。どうにかしてお前を俺の星に連れて行く」
「お兄ちゃん??」
これからどうすればいいかわからなかった。何もかも投げ捨てたくなった。でも、今は目の前に妹がいる。ミーシャだっている。彼女らは俺の家族だ。普通の暮らしを得るのは難しいと思うが、きっと不可能じゃない。
俺達は誰かの都合で生まれた都合のいい存在かもしれない。だが、生き方まで誰かの都合通りになるつもりはない。なっていいはずがない。ソロルは親の願いを叶える事しか生き方を知らない。なら俺が教えればいい。
彼女が俺の星で活動するのに多少の制限はあるかもしれない。その問題だってどうにかしてみせる。あらゆるものに頼ってでも、どんな手を使ってでも何とかする。
「美味しい食べ物も沢山ある。観光業も賑わってるから、景観もいい。治安は微妙だけど。一緒に旅行に行って、美味しいものを食べて…。一緒に暮らして、家族ってやつをしてみないか?」
「家族…」
ソロルがその単語に反応した。彼女は黙り込む。
「だからもうちょっとだけ、もうちょっとだけ待っててくれないか?」
「じゃセックスだけでも…」
「セックスもお預けだ」
直接的な血の繋がりはないと思うが、俺の星でも近親相姦はタブーだ。どのみち行為に及ぶつもりはないが、今はこうでも言っておかないと納得してもらえないだろう。彼女はため息をついて俺を抱きしめ返す。
しばらくそうしていたが、やがて俺はソロルを離し研究所を去る事にした。彼女は下水道に出るための道を俺に案内してくれる。向かう途中、何度も何度もちゃんと迎えに来る様に俺に話した。また寂しい思いをさせると思うと俺も少し辛い。
出口の研究所のドアに手をかけると彼女は俺のポーチを軽くつかんで止める。
「ねぇ…待ってる間、寂しくない様に何かおいてって…」
俺は少し考えたが、ドッグタグを取り出すとそれを渡した。
「肌身離さず持ってる数少ない物だ。それぐらいしかない」
ソロルはそれを受け取ると、彼女も何か俺に差し出す。確か貞操帯とかいうパンツ?だった。
「お兄ちゃんが私を忘れない様に、これを私だと思って大切に持ってて。ぞんざいに扱っちゃ嫌だからね」
「お、おう」
彼女はドアを開けるとやや追い出すように俺を外に出すと扉を閉めた。もう少しぐらいそばにいてあげればよかったか…そうは思うがジェーンの事もあるので先を急ぐことにした。
やがて息苦しくなって、パンツを頭に被ってない事を思い出した。俺は急いでソロルのパンツを頭に被る。
「いや、ダメだ呼吸できない」
ポーチからすぐにミーシャのパンツを頭に被り直して呼吸をする。ソロルのパンツはどうやら呼吸器としては使えないらしい。ミーシャのパンツを使い切ると残りは虚がくれたジェーンのパンツしかない。
ミーシャのパンツが呼吸器として問題なく使えるのでソロルのパンツも問題なく使えるとは思うのだが、今からソロルの元に行って漁火のパンツを履いてくれなんて言うのも怖い。俺はとにかく下水道の外へ急いだ。
投稿が遅れてしまいました。実はUFOにアブダクションされ、細胞を検査されたのですがその際に宇宙人に「ありえないなこの髪型」って言われたのでヘアサロンに行ってました。