続きません
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カムラの里の技術教官、ウツシには2人の弟子がいた。
ウツシは2人をわけへだてなく指導する。
そして熱心な教育、指導の結果、ウツシは2人をどこに出しても恥ずかしくないハンターとして育て上げた。
2人の弟子。
1人は女ハンター。名前はキリエ。
肩口に切りそろえた銀髪は王国北方の出を現すものだ。
王国の人間がなぜカムラの里でハンターなどをしているかは、里長をはじめ限られたものにしかわからない。
太刀を佳く使う。
彼女の太刀捌きはそれは見事なもので、モンスターを殺すという血腥い行為が、彼女の手にかかるとまるでモンスターと示し合わせて舞いでもひとさし踊っているのではないかとすら思わされてしまう。
狩りに美学を求める所があり、罠の使用などは酷く嫌う。
また、多人数での狩りも余り好きではないとのことだった。
どちらかというと表情に乏しいため怜悧な印象を与えるが、感情自体は豊かで人付き合いを忌避するような性格でもない。
親しくなればむしろ接しやすいといえるだろう。
もう1人は男のハンター。
君だ。
外見は普通。中肉中背、黒髪の地味な顔立ち。やや猫背気味なのが特徴といえば特徴か。
君には拘りのようなものは何も無い。
得物はターゲットに優勢を取れるものを使う。
例えば飛竜種のような相手だったら飛び道具を中心に武器を選ぶ。
そして罠も採算が許す限りはいくらでも使うし、多人数で一頭を狩り殺すということにも抵抗はない。
腕が特別いいというわけではないのだが、常にモンスターに対して優位をとろうとするそのスタイルで極めて高い依頼成功率を維持している。
性格も無難だ。普通に話し、普通に反応する。
だが彼と話した者はみな例外なく、よくみれば見えない、でもみないようにすれば幽かに存在する壁のようなものを感じるだろう。
里のものたちは心暖かい。
キリエのことも君のことも、いまや里を代表する立派なハンターだとおもっている。
だが、やはり内心のどこかで、里の看板といえばキリエであるという気持ちを抱いていた。
残念ながら君とキリエでは人としての輝きが違うのだ。
キリエは輝き、君はくすんでいる。
みんなそうおもっている。
当の君でさえも。
そう、ウツシの弟子、その看板といえばキリエだ。
これは間違いない。
だが本当のウツシの本当の意味での弟子というのは、キリエではなく君であった。
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「あの、忙しいですか?」
集会場で君がストアのアイルーと物品の仕入れについて話していると、背後から声がかかった。
よく知る声だ。
いいや、と振り返って君はキリエに振り返る。
「あの、明日なのですが…依頼を一緒に受けませんか?」
キリエの言葉に君は首を横に振る。
仕事の準備があるのだ。
「そう、ですか…」
うつむいてしまったキリエに、君は事情を説明した
。
ギルド絡みの用事でちょっとした採取依頼があり、夜半でないとそれは採取できない類のものだから日中は眠りたいことを伝えると、キリエは頷き、それなら、と別の日を提示してきた。
その日には仕事ははいっていない。
君は快く了承する。
「はいっ。楽しみにしていますね」
キリエは笑顔を浮かべる。
君もまたかすかにだが微笑をうかべ、それじゃあ、と手をあげ去っていく。
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向かった先は修練場だった。
そこにはウツシが待っていた。
いつものひょうきんな様子は微塵もない。
やあ、愛弟子、と延々と続く雑談が始まることもない。
ウツシは無表情で、ただぽつねんと立っていた。
君も黙ってウツシの前にたつ。
「2人だ。中年の男、妙齢の女性。行商人。ニ刻後、大社跡の街道を通るはずだ」
淡々としたウツシの声に君は黙って頷き、踵を返した。
──始末は、いつも通りに
背中にウツシの声を受けると、背をむけたまま手を軽くあげる。
何度もやっていることだ、教官は心配性だな、と君は苦笑する。
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大社跡の街道を2人の行商人風の男女が歩いていた。
彼らは勿論行商人だ。
王国からの認可も得ている。
品物だってある。
王国の特産品を、カムラで捌く。
そしてカムラの特産品を王国で捌く。
そう、行商人"でも"あるのだ。
彼らはいわゆる王弟派である。
王国は今、女王派と王弟派のニ派閥に割れていた。
女王は王たるに相応しい人格、手腕、決断力をもっていた。誰もが、彼女こそが王であると声をそろえるほどに。
だが惜しむらくは、生来虚弱であったのだ。
月に一度は血を吐き、数日は寝込まなければいけない弱弱しい肉体は、月日を重ねる毎に益々と弱っていっている事を他ならぬ女王が自覚していた。
対して女王の弟君は女王ほどには為政者としての才はなかった。もちろん完全な落第点というわけではない。
周囲の助けさえあるならば、彼は彼なりに王としての役割はこなせたであろう。
ただ凡庸であるならば、女王はきっと彼に王位を譲ったに違いない。
だが現時点でその選択はありえないほどに彼には人格面での瑕疵があった。
その器に不相応な野心、そして秘めたる凶気、凶暴性。
領土拡張へ並々ならぬ興味を示し、仮に王弟が即位にでもなろうのものならたちまちに戦争へ突入してしまうのではないかという危機感があった。
ゆえに女王は王弟を遠ざけたのだ。
その好戦的な資質はどこからくるものなのか?
王家という血筋はどうしても血が濃くなってしまうきらいがあるが、例えば競走馬でたとえると、近親の血を重ねることでその能力の向上、特化、尖化をはかるという交配技術がある。
だがこれにはリスクもともない、気性の不安定化、体質の弱化などのデメリットもある。
女王と王弟にはまさにその血の弊害がふりかかっていたのだ。
──女王はもはや政を為すことあたわず。その身は蝕まれ、一刻の猶予もなし。どうか女王位を退いてその身を安んじていただきたい
王弟は余りにも露骨に女王の王位を簒奪せんと目論み、憚らない。
だが決して暗い未来ばかりではない。
女王には2人の子供がいた。
第一王女であるチッチェ姫。
そして第二王女。
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「第二王女殿下は見るも美しい銀の髪色をしているそうだ。そしてまだ取るに足りぬ小娘らしい。カムラの里などという辺境へ逃がしたことを調べるのは苦労したが、ようやくみつけたぞ。こうして見つけてしまえば田舎者どもの目を盗み、お隠れになってもらうことは容易いであろうよ」
行商人風の男がにやりと横を歩く女性へ言う。
「そうですわね。しかしカムラの里はただの辺境ではありませんことよ?」
そう、超感覚に敏であるという竜人も複数名おり、また里人自体も油断はならない。
「ふん、所詮外の世界を知らぬ田舎者共の集まりよ。我らが邪魔者を何人葬ってきたかを忘れたのか?」
「ふふふ、そうですわね。さあ、もう少しで里に……っ!?」
女があわてて身を翻し、よじる。
直後、カカッという乾いた音と共に炭で黒く染められたクナイが女の背後の木へ突き刺さった。
「なんだ!?誰だ!?っうごっ……!」
男の顔を、体を硬い何かが弾き飛ばした。
男は数メートル吹っ飛び、もんどりうって転がる。
女は闇に目を凝らすがそこには誰もいない。
いや違う。いないのではない。いるがわからないのだ。そこに確かにいるのに見えない。
「ぐっ……くそ!何奴!」
男が叫ぶと、ひゅん、という音ともに今度は男の首になにかが巻き付いた。
それは糸だった。糸はまるで生き物のようにうねり、男の首を締め上げる。
「ぐうううううっ!!ぐえっ!!」
男は糸をはずそうともがくが、糸は外れず、ちぎれない。
オニクグツの糸は大型モンスターの体重にも瞬間的になら耐えうるものだ。
人間の力ではとても千切ることはできない。
「静かに」
低い声とともに、首筋に何か冷たいものが当てられる感触を覚える。
それが刃であることを直感的に悟った。
「ま、待…」
言葉を待つ事無く刃は男の首を搔っ切った。
その時女は確かにみた。
黒髪、印象のない顔立ちの青年を。
印象が無い、とは地味であるという意味もそうなのだが、なんというか記憶に残らないのだ。
こうして顔をみていても、少し目を外せば忘れてしまいそうな、そんな感覚。
つと地面をみると、盾が転がっていた。
この盾で男を吹き飛ばしたのだろうか?
青年がゆっくり近寄ってくる。
女は後ずさり、逃走を試みようとした。
話してわかる相手じゃないと一目で理解していた。
女の足がなにかを踏みつける。
柔らかい。
瞬間、糸が全身に巻きつき、女は身動きがとれなくなってしまう。
クグツチグモだ。
大型モンスターでさえも一瞬で行動不能にしてしまう糸を吐き出すそのクモは、オニクグツのそれと同様にとても人間の力で引き千切れるものではなかった。
狩猟では余り役に立たないクグツチグモだが、君の "本業" では役に立つ。
女の首に刃が迫る。命乞いをしようにも、口も糸で塞がれ声がでない。
女は喉に焼きごてを当てられたかのような熱さを覚え、そして次第に寒くなり、やがて何も感じなくなった。
君は二体の死体を引きずり、闇の向こうへ歩いていく。
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夜の修練場にウツシは立っていた。
普段の陽気さはかけらもない、寒々しい雰囲気を身に纏っている。
「…終わったのかい?」
君が頷くと、ウツシは満足そうに目を細めた。
「死体は王弟派の有力貴族の家に放り込んでおくよ。キリエ殿下の命を狙った不逞の輩だからね。せいぜい悪趣味にデコレーションしておこう…」
それにしても、とウツシはウンウン頷く。
「愛弟子!君も仕事が早くなったねぇ!もういつでも僕の後を継げそうじゃないか!ハンターズギルドがじきじきに後継者に仕立てろと送ってくるだけはあるね!僕も今後は里の護りじゃなくてエルガド方面での仕事も増えてくるだろうから、君の存在はとても頼りになるよ!」
君はかぶりを振る。
ギルドナイト【写し鏡】の名前を継げるほどに階梯を極めたなどと増長してはいない。
少なくともいまはまだ。
「まあ暫く、王国の政情が落ち着くまではキリエ殿下の護衛をしてもらうよ。王弟派については尻尾をつかみ次第アルロー教官が動く」
君が「あちらの姫は?」と訊ねると、ウツシはそれも心配ないと請合った。
「アルロー教官をはじめ、王国の精鋭が目を光らせているよ。あの口が悪い特命騎士ちゃんなんかもね」
ああ、と君は頷いた。確かに彼女は口が悪い。
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エルガド地域を管轄するハンターズギルドは裏で王国上層部と繋がっている。
これは女王派の王国上層部という意味だ。
ギルドはその地域の安定化を重視している。
これはあらゆる意味での安定化だ。
生態系は当然のことだが、地域の主たる国の政情にもその範囲は及ぶ。
なぜなら政情の不安定化による戦争や内乱の勃発は、周辺環境を激変させかねず、それはギルドにとっては歓迎出来ないことであるからだ。
よって、凶を発する王弟、領土拡張を求める野心溢れる王弟が王位を継ぐことをギルドは認めない。
王国は今後も女王が王権を握り、仮に没した場合はその意思を引き継ぐチッチェ姫に、そしてチッチェ姫も隠れた場合にはキリエに、その王権を引き継がせ、現女王の敷く政策を継承してほしいと考えている。
キリエを幼くしてカムラへ逃がしたのはリスクヘッジの観点からによる。
ギルドが恐れているのは、女王、チッチェ姫、キリエの3名が同時に没することだ。
これは石橋を叩いてわたるといった類の話ではなく、王弟が現実にその3名の命を狙っている以上は当然の事。
まあ本来はチッチェ姫もまたどこかへ飛ばしてしまいたいのだが、それは王国軍のメンツが許さない。
ギルドと王国の連携を佳く回すためには、王国のメンツも尊重しなくてはならない。
そういう内部事情もありチッチェ姫の身は王国軍が護衛している。
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↓ギルドナイト【写し鏡】について↓
ギルドナイトの中でも上澄みに位置するものには異名が与えられる。【写し鏡】にこめられているのは、手本となるような存在である、という意。
そして鏡には邪を払うという意味合いもある。キリエ第二王女の手本となり、その身に迫る魔手を払うためにハンターズギルドはギルドナイト【写し鏡】をカムラへ派遣した…のかもしれない。
そして君もまたギルドナイトである。
ウツシは師匠としてキリエを護り、君は友としてキリエを護る。
だがギルドとしては君に次代の写し鏡となってもらい、ウツシはまたどこかの地方で便利に使いたいという思惑がある。