真選組の沖田さん(ドS)と型月の沖田さん(病弱) 作:芋けんび
真選組の沖田さんは病弱剣士
真選組の朝は早い。寝巻から真選組指定の黒い隊服に着替えた隊士達は、顔を洗い、歯を磨き、身なりをしっかり整えたら大慌てで広間に集まる。
集合時間に遅れれば、真選組副長の土方から局中法度で切腹を命じられる。いやいや、流石にそれはやり過ぎだろう、と局長の近藤が言えば、時間もロクに守れねー奴に隊士は務まらねぇ。と土方がタバコを吹かしながら言うまでがいつもの朝だ。
「ぐがー」
「おーい。会議中に寝てんじゃねーぞこら」
「んあ…、わかってますよ〜。堂々と寝ればいいんでしょう」
「寝方の問題じゃねー!会議中に寝るのを止めろって言ってんだよ!」
「まぁまぁ土方さん。そーちゃんも悪気があって寝てた訳じゃないと思いますよ?そこまで怒らないであげてください」
胡座をかいてだらしなく座る総悟をフォローを入れるのは、背筋をしっかり伸ばした綺麗な正座をするピンクブロンドの髪の毛を1つに束ねたポニーテールの人物。
男性、女性ともとれる中性的顔立ちで、首元には長い白色のマフラーを巻いている
「そーだそーだ。反省しろ土方〜」
「うるせぇ!アイマスクを頭に付けてる奴はどっからどう見ても寝る気満々だろうが!…ったく、総悟を甘やかし過ぎんだよお前は」
「んー、そんなことはないと沖田さんは思いますが」
「自覚なしかよ…」と頭を抱えながら首を横に振る土方。
真選組唯一の女性隊士にして八番隊現隊長。一番隊隊長の沖田総悟の義理の姉でもある。陽気ながら儚げな雰囲気を併せ持つ。
剣の腕前は真選組随一で、同じく真選組の中でも別格の強さを誇る沖田総悟には「儚げに見えて俺なんかよりよっぽど恐ろしい人」と畏敬され、副長の土方にすら「首根っこしっかり掴んでないと何やらかすかわかったもんじゃねぇ狂犬」と厳しい評価ながらも剣の腕は認められている。
元々は藤堂凹助が八番隊隊長を務めていたが、藤堂本人が「強い人が隊長になるなんて当たり前っスよ。俺は沖田ちゃんが隊長でいいと思うっス」と自ら隊長職を辞退した。
藤堂凹助は頭にバンダナを巻いた頬に切り傷がある男で、何かと語尾に「〜っス」と付けるのが特徴的。
気だるげながらも剣の実力は確かな強者で、自分よりも強い相手のことは素直に認める潔さを持つ。
実は隊長職が面倒臭いから桜之進に譲ったのではないか?と隊内では囁かれているが真実は定かではない。
「かぶき町周辺の警邏は十番隊と八番隊に担当してもらう。ここの所、白昼堂々と物取りを行う不届き者が多発していると上から報告があってな」
「お、今日は原田さん達の隊と一緒ですか!よろしくお願いしますね!」
「おぅ、任せときな。怪しいヤロー見かけたらすぐ知らせてくれ。俺がぶっ飛ばしてやるぜ」
「町からクレームくるような問題は止めてくださいっスよ原田隊長。この間もパトカーで町内かっ飛ばして問題になったばっかなんスから」
「あれは停止しろって呼びかけてんのに止まらねぇ犯人が悪いんだろうがよ」
「だとしても町の皆さんに迷惑をかけるのはダメですよ原田さん。もっと穏便に解決しましょうね」
「はいぃ!すんませんしたー!」
「頭下げるの早っ!?」
「あんな花のような笑顔で言われたら自分の過ちをすぐ認めるしかないだろ!」
「沖田隊長!俺にも怒ってください!」
「おいテメー。
土下座する勢いで桜之進に頭を下げる原田に周りからは笑いが巻き起こる。見かけは強面だが、心の中はピュアそのもの。どれくらいピュアかと言われれば、感動ものの映画ですぐ号泣するくらいには。
「ちっ。どいつもこいつも
「ハッハッハ!まぁ良いじゃないかトシ。
「とっつぁんね…」
とっつぁん、と言うのは幕府の治安組織を束ねる警察庁長官【松平 片栗虎】の愛称だ。
出動すれば彼が通った跡は塵一つ残らないことから破壊神と呼ばれ攘夷志士からも幕府からも恐れられている男。
しかし、公私混同は日常茶飯事で優先順位が「娘>保身>職務」と毎晩のようにキャバクラで豪遊しては妻に怒られ、娘からはウザがられている可哀想なお父さんでもある。
「不定期に屯所に来んのは勘弁願いたいんだが何とかならねーのか近藤さんよ」
「とっつぁんも何だかんだで忙しい身だからな。時間を割いて俺達の様子を見に来ているんだろうさ」
「どう考えても俺らじゃなくて桜の様子を見に来てんだろありゃ。毎度毎度、クソ忙しい時に手土産片手に屯所にフラっと現れやがって」
「とっつぁんは目に入れても痛くないくらいに一人娘の栗子ちゃんを溺愛してるからなぁ。野郎共だらけの職場に女の子がポツンといるのが心配なんじゃないか?かく言う俺もかなり心配してるぞ」
「アレを襲う奴の気が知れねぇ。そもそもあいつが黙って襲われるたまかよ。『剣が折れたら鞘で。鞘が折れたら拳で』とか抜かす脳筋女だぞ」
実際、打倒倒幕を掲げる過激派攘夷党の巣に突入した際は、刀が折れたら相手を素手で殴り飛ばしていた。
一時現場で見せた、倒立した状態で、下半身を開脚させたまま地面に足をつかずに、上半身を高速旋回させる人間離れした動きは、とてもじゃないが真似できない。
「いたいけな女の子に脳筋とはなんだトシぃ!!」
「怒るトコそこ!?」
「このむっつり腐れマヨラーに何を言っても無駄ですよ近藤さん。自分が戦いで一回も桜姉ぇに勝てた試しがねーから恨み言吐いてるだけでさァ」
「むっつり腐れマヨラーってなんだお前っ!?明らかに私情が入りすぎだろうが!」
******
「あー!おきただぁ!」
「おきたおきたー!今度また鬼ごっこしようぜ!」
「かくれんぼの方が楽しいぞ!」
「ふふっ、いいですとも!鬼ごっこでもかくれんぼでも、沖田さんはいつでも受けて立ちますよ〜。あっ、横断歩道で止まるのは危ないので気を付けましょうね」
桜之進の足元に寄ってくる子供達。仕事中で忙しい身であるにも関わらず、嫌な顔1つしないでちゃんと目線を子供に合わせて柔らかい笑みを浮かべながら話を聞いている。
「はーい」
「はーい!」
「貴方まで返事してどうするんスか…原田隊長」
「はっ!?し、しまった!」
何がしまったなのか。
絶対零度の冷たい視線を原田に向けた。
沖田 桜之進は男女問わず人気がある。
丁寧な物腰で人当たりもいい。その上、真選組の隊士にも負けない強さと可愛さがある。それだけ注目を浴びながらも誰一人として彼女に言い寄ろうとしないのは一番隊隊長の姉だからだろうか。
つい先日も、休憩中に居間で沖田姉弟が仲良く団子を食べてる所を目撃した隊士が数人いたという。
陰で隊士達には、シスコン隊長なんて呼ばれてる事を総悟が知ったらバズーカで四六時中追いかけ回されるから皆黙ってるのは内緒。
*******
「ピー!はい、お兄さん。今信号が赤なのに無理やり渡ろうとしたよね?困るんだよねーそういうの。ルールはちゃんと守ってもらわないとさ」
「あん?今の何処が赤だったんだよ!ギリギリ黄色だったんだからセーフだろうが。言い掛かりつけてんじゃねぇよハゲ!」
「んだとゴラァ!イイか、これはハゲじゃねぇ。スキンヘッドっつーんだよ。そこらのハゲ頭と一緒にすんな」
「ハゲにハゲって言って何が悪ぃんだよ。意味合いは同じだろーが!」
駐車違反の切符切りが終わったので原田さんと合流してみれば何やらつば付きの帽子を被った若い男性と揉めていた。
隣にいる藤堂くんをチラ見すれば無言で首を横に振った。「そっとしとけ」と言う意味だろう。
いやいや、仮にも警察が騒動をガン無視するのはダメでしょうよ。
真選組所か警察機関への信用問題に関わるんですからちゃんと仲裁に入りませんと。
つい最近だってテレビで真選組を取り上げてましたけど、散々な言われようだったじゃないですか。
なんですかチンピラ警察24時って!
完全に真選組への風当たりが更に厳しくなってますよね。
「藤堂くん。私が二人を止めてきますので少しの間フォローお願いします」
「え?隊長仲裁に入るんスか?やめといた方がいいんじゃ…」
「揉め事は殴ってでも早めに止めろって土方さんも言ってたじゃないですか。ほっといたらもっと悪化してしまいますよ」
「副長、沖田ちゃんになんて事教えてるんスか…!え、まさかその言葉を鵜呑みにして本当に殴らないっスよね?」
「いくら私でもやっていい事と悪いことの区別は付きますよ〜。心配はご無用です」
殴り合いに発展しそうな二人に駆け寄って「はい、ストーップ!そこまでにしてください」と喧嘩を止める。
「どいてくれ沖田ちゃん!俺はこいつにハゲとスキンヘッドの違いを教えこまないといけねーんだ!」
「あんた警察か?だったらこのお仲間のハゲにも何とか言ってくれよ。ったく、こっちは急ぎの用事があって早く行きてーってのに…」
若い男性は呼び止められてイライラしているのか、さっきから貧乏ゆすりが凄い。
「お急ぎの所すみません。こちらもこれが仕事なのでどうかご勘弁ください。えーと、信号が無視っと。手短に済ませますので、一応荷物検査だけさせていただけますか?」
「え!?そ、それはちょっと困るかなー?なんて…はは」
「?何かご都合が悪いことでもあるのですか?」
「いやいや、ないよ!?」
「では、ご協力をお願いします」
「は、はい…」
イライラしたり焦ったり忙しい男性ですね。両手を上げさせて体を調べる。
ポケットには携帯のみ。持っていた茶色い鞄にはメモ帳と財布。そして透明な袋に入った謎の白い粉が大量にあった。
「これは何ですか?」
「ああ、えーと…。風邪薬だ。最近風邪気味でさ」
「なるほど、そうでしたか。お大事にしてください」
「あ、ありがとう。それじゃあ俺はこれで…」
足早に立ち去ろうとする男の肩を藤堂が「ちょっと待ってくださいッス」とがっしり掴んだ。
「あんた、麻薬売買で指名手配されてる【倉部 大志郎】じゃないスか?」
「なに?そいつは本当か藤堂。おい、テメー。ツラよく見せろや!…間違いねぇ。こいつ、局長が会議で言ってた指名手配犯だ。確保っ!確保ーー!」
「くそっ!どけっ!」
桜之進を突き飛ばして猛ダッシュで交差点を駆けた。隊員達が数人がかりで追い掛けるものの、男の逃げ足が早くすぐ距離を離される。
「沖田ちゃん!俺達も急いで追い掛け…あれ?沖田ちゃん?」
*****
路地裏に逃げ込んだ男は立ち止まって大きく息を吐いた。幕府の犬共と出くわすとは何ともツイていない。
「はぁ…はぁ…!ちっ、アホ共のせいで余計な時間を食った。早く行かねーと…」
長いこと逃走生活を続けていた男は脚力には自信があった。絶対に捕まってやらないという反骨精神にも似た抵抗。故に今回もどうせ逃げ切れると高を括っていた。
「それは無理だと思いますよ。私に見つかってますから」
「なっ!?お、お前…!」
薄暗い通り道から足音もなく姿を見せたのは先程自分が突き飛ばしたポニーテールの女だった。
「指名手配犯、倉部 大志郎。違法薬物所持、の容疑で貴方を逮捕します」
「クソが…!ぜってぇ捕まってたまるかっ!」
このままでは逃げ切れないと察した男は、ゴミが溜まったゴミ箱の上に置いてあった鉄パイプを手に取って殴り掛かる。
「……!」
目前の女が腰に差した刀の柄に手を掛けるが、もう遅い。鉄パイプは吸い込まれるように女の頭部へと命中するーー
ーーーはずだった。
「は?な、な、なな…!」
いつの間にか握り締めていた鉄パイプがバラバラになって地面に朽ちていた。一体いつ刀を抜いたのか?男の目にはただ柄に手を掛けて棒立ちしているようにしか見えなかった。
「近藤さんや土方さんに『殺すな』ってキツく言われてるので、大人しく捕まってくれませんか?うっかり殺して始末書を書かなきゃいけないのも面倒なんで」
口調こそ丁寧ではあるが、目付きはただ冷たく鋭い。
歩道で会った時の人懐っこい表情はなりを潜め、感情の一切を殺した能面のような顔で刀を突き付けてくる。
「(なんだコイツ…。本当にさっきまで虫も殺せないような平和ボケしたツラしてたヤツなのか?)」
「はぁ…やっと追い付いたぁ…。一人で突っ走っちゃダメっスよ、沖田ちゃん。原田さんが『速くて追い付けねぇ!』って嘆いてましたよ」
「す、すいません…。でも、藤堂くん。犯人を見つけました。とっとと捕まえましょうか」
「はいはい、お任せくださいッス」
「ちきしょー!!離せー!!」