リコリス・リコイル 幕末に咲くは彼岸花 作:砂岩改(やや復活)
たきなと千束の前世的な感じです。
《八咫烏》幕府などの公的機関が持つ組織とは違い傭兵的な組織として設立されたのがこの組織である。
その傘下にはという名前の女系暗殺部隊《彼岸花》男系暗殺部隊《君影草》および影武者部隊《花葵》主に表舞台では一切活躍せず暗殺や情報統制などいわゆる影の部分を専門とする組織であった。
主なき組織であったがその需要は高く、多くの場において活躍してきた。
そして時代は幕末、ペリー来航つまり《黒船事件》を皮切りに日本は大きく揺れた。
勅許を得ないまま結ばれた《日米修好通商条約》これらを始めとする施策に反対する者たちを弾圧した《安政の大獄》さらにそれを起因として水戸藩からの脱藩者17名と薩摩藩士1名が彦根藩の行列を襲撃、幕府のナンバー2である大老井伊直弼を暗殺した《桜田門外の変》。
激動の時代という名に相応しい事件が多発し日本中の治安は悪化、尊皇攘夷の志士たちとそれを抑えようとする幕府の小競り合いが多発、特に京都の治安は最悪であった。
いつしか外国を追い払うための尊皇攘夷は倒幕へと路線を変更し幕府との摩擦はさらに激化。
後に新撰組と呼ばれる《壬生浪士組》や京都の治安維持部隊《京都見廻組》が京都で暴れていた。
そんな血の雨が降らぬ日はないと言われるこの京都で小さな茶屋《百合花》が街にひっそりと経営していた。
「たきなちゃん、お団子二つちょうだい!」
「はい!」
店の常連であるはじめさんの注文後、すぐにお茶とお団子二つを出し店の中に戻る長い黒髪の少女《たきな》は慣れた手つきで団子をこね始める。
「たきなちゃん。この店、人増やさないの?」
「そんなに繁盛してるように見えますか?」
「でもたまに団体さん来るでしょう?」
「そうですけど茶屋なんで知れてますからね」
青い着物に身を包んだ彼女は無愛想ながらもしっかりと返事している。
愛想はよいとは言えないが女性にしてはハキハキとした物腰に好感を持つものも多く。
繁盛してはいないが閑古鳥が鳴いている訳でもない不思議な茶屋であった。
「たきなちゃん!」
「いらっしゃい、けんさん」
飛脚であるけんは汗を手拭いで拭きながら店内に入ると冷たい水を渡され一気に飲む。竹で作られたコップはこの店しかなく形は歪だが切り口はとても綺麗だった。
「なにがいい?」
「今日は腹減ったなぁ」
「じゃあ、水飯でいいね」
「いいね!」
水飯とはお茶漬けの湯を代わりに水にしたもので江戸時代の手頃な庶民食であった。
「たきなちゃんも17なんだから相手見つけないと行き遅れちゃうよ」
「私はこの店で死ぬから良いです」
「せっかくの美人が勿体ない。どうよ、うちの飛脚で良い何人か紹介しようか?」
「私より弱い男は話しにならないですよ」
「こりゃ、難しいな!」
はじめさんとけんさんの笑い声を聞きながら水飯を渡すと店の奥に引っ込むたきな。
「それ食べ終わったら帰ってくださいね!」
「なに、用事?」
「なきゃ言いませんよ!」
しばらくして二人を追い出した、たきなは店じまいを済ませると奥に引っ込む。
そして日が暮れ、灯りは月の光と篝火のみとなった街は昼間の喧騒とはうって変わって静寂が街を包む。
この京都では滅多なことがない限り町民などが夜に外を出歩くなどない、そんなことをすればいつ小競り合いの斬り合いに出くわすか分からないからだ。
そんな夜道で葵の羽織を着た人物がゆったりと道を歩く、頭には折編笠を被ったその人物は腰に二振りの刀をさしていた。
「なんだ?」
「………」
その人物の対面には酒を飲み、よい気分で歩いていた三人組の男たち、彼らは腰から刀を下げており対面する折編笠の人物を見て抜刀の構えを見せる。
「元土佐藩、田畑健次郎だな」
「なんだ、童か?」
高い声に対して子供といぶかしんだ彼らだったがその瞬間、敵対者は刀を抜きながら接近。
一人の喉笛に刀の柄で打撃、苦しみながら倒れる物の頭を蹴り飛ばし気絶させるとそのままもう一人の男の下顎を鞘でぶん殴り気絶させる。
「な、なんだコイツ!」
「…」
大きく刀を振りかぶる田畑だった振りかぶった手を抑えられそのまま殴り飛ばされた。
「が!」
悲鳴を上げながら倒れる田畑を静かに見つめると刀を元の位置に戻していると影から人物が現れる。
「またっすか、たきな」
「分かっていたはずです。こうなることは分かってた」
「このままじゃ。いつまでも彼岸花本隊に戻れないっすよ」
「戻る気などありません。桜」
桜と呼ばれた茶髪の彼女は苦虫を噛み潰したような顔でたきなの横を通ると刀を抜く。
「後始末するこっちの身にもなって欲しいっす」
だが同時に笛のなる音が鳴り響き、篝火が複数近づいてくる。
「あぁ、また奉行所に言ったすね…っておい!」
既に逃げはじめたたきなを追いかける桜は奉行所に捕まる男たちを見て頭を抱えるのだった。
「もう…こっちが起こられるんすけど!」
「諦めなさい」
「はぁ…」
いつも通りのたきなにため息をつく桜はもう一つの目的を果たすために口を開く。
「おい」
桜の言葉で姿を表したのは赤色の羽織を纏った白髪の女性。
「名は千束、齢は16。これから面倒を見るっす」
「私がですか?」
「楠木さんからの命令っすよ」
見慣れない白い髪を持つ少女は満面の笑みを浮かべながらたきなを見つめる。
「有名なたきなさんと一緒に戦えて嬉しい!よろしく!」