おめでとうございます。

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あなたはデザイアグランプリにエントリーされました

 日中だというのに、カーテンを閉め切った薄暗い部屋で、あなたはうなだれている。

 

 あなたはひきこもりの男子高校生だ。学校には行っていない。

 それは高校で、酷いいじめにあっていたからだ。

 持ち物を隠される、教科書を破かれる、カツアゲに暴行など、枚挙にいとまがない。

 

 これ以上、生きていても仕方がない……。

 

 未来に絶望しかないあなたは、最近では自殺を考え始める始末だ。

 

 そんな中であなたは、ある人と出会うことになる。

 

 最初に現れたのは、一人の、不審者としか呼べない女性だった。

 なぜならその女は、ドアも窓もすべての鍵を閉めきった、密室となっているあなたの部屋に突如として現れたからだ。

 

 あなたは最初、その女性を見て幽霊かと思い、(おび)えた。

 震えるあなたのことなど意に介さず、女性は笑顔でこう告げる。

 

「おめでとうございます。今日からあなたは『仮面ライダー』です」

 

 女性──ツムリ──が差し出す黄色いプラスチック製の箱の中には、ベルト状の装飾品と丸いバッジ状の不思議な物体が入っている。

 バッジに触れた時、あなたの頭には体験したことのないはずの体験のイメージが浮かんできた。

 街を襲う怪物と、それから逃げ惑う人々。

 

 ツムリは話を続ける。

 

「仮面ライダーに選ばれたあなたは、街を襲う怪物『ジャマト』から人々を守るゲーム、『デザイアグランプリ』に参加する資格があります」

 

 話を聞きながら、あなたは誘導されるかのように腰にベルトを着け、バックルにバッジ状のアイテムをはめ込む。

 次の瞬間、あなたは宙に浮かぶ不思議な神殿へとワープしていた。

 神殿にはあなたと同じように、ライダーに選ばれたであろう老若男女、様々な人間が訳も分からず集められている。

 

 招集された人々の中央に立つ謎の女ツムリは、この集まりの企画を端的に説明した。

 

「デザイアグランプリに最後まで生き残った一人は、理想の世界を叶える権利を得ます」

 

 叶えたい願いを書け、と渡された紙に、あなたは理解が追いつかないまま『いじめのない世界』と書いた。

 

 場面が変化し、あなたと他の参加者たちは、戦闘空間であるジャマーエリアへと飛ばされた。

 服装も変わっており、腰には通信用の装備であるスパイダーフォンが差さっている。

 

 そのスパイダーフォンが鳴り、あなたたち参加者にツムリから連絡が入った。

 

『今回のゲームのルールは、ジャマト及び他のライダーを倒して、既定のポイントを稼ぐことです』

 

 彼女が言い終わるのと同時に、敵であるジャマト──鎧と斧を装備した『バイキングジャマト』が、遠方より集団で歩み寄って来るのが見えた。

 同時に、あなたたち参加者の体にも変化が訪れる。

 ベルトにハメられたアイテム『IDコア』によって、あなたたちはそれぞれのコアに刻まれたモチーフの仮面ライダーへと変身した。

 

 あなたが変身したのは、『アライグマ』がモチーフの茶色のライダー、『仮面ライダー アライブ』のようだ。

 この姿は、タヌキをベースとしたライダーのタイクーンと、同系列のスーツである。

 

 あなたはいじめっ子たちから、トイレに閉じ込められ汚物をかけられるという仕打ちを受けたことがあった。

 それ以来あなたは臭いに敏感になり、頻繁(ひんぱん)に体を洗わなければならなくなったのだ。

 そんな潔癖症なあなたが綺麗好きのアライグマのライダーになるのは、なんとも皮肉な運命を感じたようだ。

 

 昔の嫌な思い出が蘇っている内にも、ジャマトたちはあなたに迫っていた。

 目の前にまで接近してきたバイキングジャマトが、斧を振るいあなたの体を打ち()える。

 ライダーとなったあなたの体が火花を上げ、豪快に吹き飛ばされた。

 

 受け身も取れずに地面に叩きつけられる。

 もうろうとする視界の先で、あなたは見覚えのあるプラスチックの箱を目にした。

 それは、ライダーに変身するためのバックルとIDコアが収められていたのと同じケース。

 あなたは無意識にそれをつかんでいた。

 

 地面に倒れたままのあなたに、再び数人のバイキングジャマトが迫って来た。

 立ち上がろうにも、ダメージが大きく膝に力が入らない。

 うずくまったままのあなたに対して、敵は情けをかけることなく斧を振り下ろした。

 

 あなたは(うめ)くが、ジャマトたちは容赦なく攻撃を加え続ける。

 スーツ越しでも激しい痛みが伝わってくる。

 

 素体のエントリーフォームには攻撃力が無く、あなたはまともに抵抗することも出来ず、複数のジャマトになぶられ続ける。

 それは、いじめにあっていた時とまるで同じだった。

 

 ただ一つ違ったのは、そんなあなたを救いに来た者がいたことだった。

 

 一人のライダーが、あなたを囲むジャマトたちに体当たりをして、あなたを窮地(きゅうち)から救い出してくれた。

 救援に来たライダーに連れられ、あなたは安全な場所まで避難することができた。

 

「よかった、大きな怪我はないみたいね」

 

 意外にも、あなたを救ってくれたライダーは女性だった。

 彼女の名は、『仮面ライダー グロウ』。

 珍しい、白いカラス(crow)をモチーフとした戦士だ。

 

 あなたはグロウに、助けてくれたことの礼を伝えるとともに、頭を下げた。

 一度は自殺を考えたこともあるあなただったが、いざ死が目の前に迫るとやはり恐怖心が(まさ)ったようだ。

 涙を流すあなたを、グロウは優しく抱きしめ落ち着かせてくれた。

 生まれて初めて感じる、他人からの温もりだった。

 

 しばらくして落ち着いたあなたにグロウは、このゲームを生き残るための攻略法を教えてくれた。

 ライダーはまず、ゲームエリア内に点在する『レイズバックル』と呼ばれるアイテムを手に入れなければならない。

 このアイテムが無ければ、ライダーは攻撃手段も防御手段も持ちえないのだ、と。

 

 あなたはそこで、先ほど見つけたプラスチックの箱を思い出した。

 ケースを開けると、そこには大型のバックルが一個収められている。

 

「これは、『ブーストレイズバックル』ね。これはライダーの力を大幅に強化させるものだけれど、一度のゲームで一度しか使用できないの」

 

 だから、ここ一番の強敵にしか使っちゃダメよ、とグロウは言った。

 

「代わりに、これをあげる」

 

 グロウは、自身がゲットしたレイズバックルをあなたに渡してきた。

 それは『ハンマー』と『シールド』の二個もあった。

 

 ジャマトから助けてくれただけでなく、貴重なアイテムまでくれるなんて、なぜ自分にそこまでしてくれるのか?

 あなたは、おどおどとたずねた。

 

「困ってる人を助けるのに、理由なんていらないでしょ」

 

 グロウの純粋な優しさに、あなたは心の底からの喜びを感じた。

 他人からここまで優しくされたのは、初めてだったからだ。

 同時に、この恩を返さなければ、とあなたは思った。

 

 あなたは、グロウを守り、共にこのゲームを勝ち残ろうということを彼女に伝えた。

 

 ハンマーとシールドを装備し、攻防ともに強化されたあなた──仮面ライダーアライブは、率先してジャマトと戦い始める。

 最初にやられるがままだったのが嘘のように、アライブとしてのあなたは勇敢(ゆうかん)に戦い、次々とジャマトを蹴散らしていった。

 そうしてグロウを守り、ついにあなたはすべてのバイキングジャマトを排除することに成功したのだ。

 

 しかし、まだゲームは終わらない。

 

 どうやらジャマトを倒しただけでは、ゲームをクリアするまでのポイントが足らないようだ。

 となれば、残された道はただ一つ。

 参加者である他のライダーを倒す……。

 

 おあつらえ向きに、あなたの視界に一人のライダーの姿が映った。

 毒々しい紫色と、雄牛の角を備えた『仮面ライダー バッファ』だ。

 

 見るからに強敵であろうバッファだが、あなたの闘志は燃えていた。

 あなたはバッファを倒し、グロウと共にデザイアグランプリを攻略することを心に決めているからだ。

 

 幸いにも、バッファはまだあなたの存在に気づいていない。

 あなたは足音を殺して、バッファの背後から奇襲を仕掛けようとする。

 

 その時……。

 

 あなたは殺気を感じてふり向いた。

 先ほどまであなたが庇っていたグロウが、いつの間にか『アローレイズバックル』を装備している。

 グロウは武器であるアームドアローを、なぜかあなたに向けていた。

 

 グロウは無言で矢を射る。

 放たれた一矢は、あなたのベルトにセットされている『アライブIDコア』に直撃し、これを粉砕した。

 

 ノイズが走ったように、あなたの体の存在がぶれ始める。

 IDコアの損傷はつまり、あなたがゲームで敗北したことを意味するからだ。

 

 なんで……?

 

 信じられない行動だ。

 虚を突かれたあなたは、(つぶや)くようにグロウに問いかけた。

 

「あなたを助けたのは、私の代わりに戦って、邪魔者を減らして欲しかったからなの」

 

 グロウはただ、あなたを都合のいい(コマ)として利用していただけだったのだ。

 ジャマトを倒してあなたに加算されたポイントが、あなたを倒したグロウにすべて移動する。

 

「それと、これも欲しかったのよね~」

 

 そう言ってグロウは、あなたが落としたブーストレイズバックルを拾い上げる。

 あとはもう、グロウはあなたに一瞥(いちべつ)もくれることなく、横を素通りしてバッファの元に向かって行った。

 

 『白いカラス』。そんなものは現実には存在しない。

 同じように、あなたを助け仲間となってくれる友もまた、この世には存在しなかったようだ。

 

 あなたの存在は、あなたの命は軽んじられ、愚弄(ぐろう)された。

 未知の世界で新しい自分に『変身』できるかもしれない、と希望を抱いたあなただったが、残念ながら生き残る(alive)ことはできなかった。

 

 あなたは絶望の叫びをあげることも無く、静かに涙を流しながら、ジャマーエリアから消滅した。

 あなたはデザイアグランプリからリタイアした。

 

 それは、この世界からの退場をも、意味していた……。


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