ようこそ雪ノ下雪乃がいく教室へ   作:ゆうき35

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1巻
入学


4月。入学式。オレは学校に向かうバスの中、座席に座りゆらゆらと揺れていた。乗り合わせたほとんどの乗客は、高校生の制服を身にまとった若者たちだ。

 

「席を譲ってあげようとは思わないの?」

 

「実にクレイジーな質問だね、レディー」

 

「君が座っているのは優先席よ。

 お年寄りに譲るのは当然でしょう?」

 

OL風の女性は、優先席を老婆に譲ってやって欲しいと思っているようだ。

 

「あの……私も、お姉さんの言う通りだと思うな」

 

その声の主はOLの横に立っていたようで、思い切って勇気を出した様子で少年に話かける。俺たちと同じ制服だ。

 

「今度はプリティーガールか。

 どうやら今日の私は思いの外、女性運があるらしい」

 

「お婆さん、さっきからずっと辛そうにしているみたいなの。席を譲ってあげてもらえないかな?その、余計なお世話かもしれないけど、社会貢献にもなると思うの」

 

パチン、と少年は指を鳴らした。

 

「社会貢献、か。中々面白い意見だ。確かにお年寄りに席を譲ることは、社会貢献の一環かもしれない。しかし残念だが私は社会貢献に全く興味が無い。私はただ私が満足であるならばそれでいい。それともう一つ。このように混雑した車内で優先席に座っている私を槍玉に挙げているが、他にも我関せずと座り込み沈黙を貫いている者は放っておいていいのかい?お年寄りを慮る心があるのなら、そこには優先席か否かは瑣末な問題でしかないと思うのだがね」

 

しかし、少年に真っ向から立ち向かった少女はそれでも挫ける事はなかった。

 

「皆さん、少しだけ私の話を聞いてください。どなたかお婆さんに席を譲ってもらえないでしょうか?誰でもいいんです、お願いします」

 

少女は臆することなく真剣に乗客へと訴えかけた。何となく、周囲の人間はどうするんだろうと少しは気にかかった。辺りを見渡すと、大体は見て見ぬふり、あるいは迷っている素振りを見せる人たちの二極だ。しかし…オレの隣に座っていた黒髪の少女はまるで違っていた。

 

「嘆かわしいわね」

 

その少女はそう呟いて立ち上がると老婆にむかって声をかけた。

 

「お婆さん。こちらにどうぞ」

 

「ありがとうございますっ!」

 

少女は満面の笑みで頭を下げると、混雑をかき分け老婆を空いた席へと誘導した。老人は何度も感謝しながら、ゆっくりとその席に腰を下ろす。

 

それから程なくして目的地に着くと、高校生達の後ろについてバスを降りた。目の前にある天然石を連結加工した作りの門が俺を待ち構えていた。東京都高度育成高等学校。日本政府が作り上げた、未来を支えていく若者を育成する、それを目的とした学校、今日からオレが通う事になる場所だ。

 

……

ぐるりと教室を見渡し、オレは自分のネームプレートが置かれた席へと向かった。窓際近くの後ろの方の席。一般的に当たりと言ってもいい場所だ。さて、どうしたものか。この空いた時間で行動を起こして、誰かと親しくなってみるか?丁度前の方の、太った少年は一人で寂しそうに(想像)背中を丸めていた。葛藤の末重い腰をあげようとした時、その少年は既に別の生徒に話しかけられていた。

 

「先を越された…!」

 

頭を抱え、自分の不甲斐なさに猛省。思わず深いため息が腹の底から出る。気がつくと教室の大半は生徒で埋まり、隣の席に鞄を置く音が聞こえてきた。

 

「入学早々随分と重いため息ね」

 

隣の席に腰を降ろした生徒は、バスで老婆に席を譲った少女だった。

 

「…同じクラスだったなんてな」

 

確か、1年生のクラスは全部4つ。一緒のクラスになるのも不思議な確率ではないが。

 

「オレは綾小路清隆。よろしくな」

 

「いきなり自己紹介?」

 

「別にいいだろそれくらい」

 

とにかくオレは誰かと自己紹介したくて仕方がなかったのだ。このクラスに馴染むため、せめて隣人の名前くらい早めに知っておきたい。

 

「お断りするわ。

 あなたのその無機質な目を見てると身の危険を感じる」

 

「なっ…だが、1年間、お互いに名前も知らずに隣の席で過ごすのは、居心地が悪いと思うけどな」

 

「私は既に知っているのだけれども。綾小路くん?」

 

「……」

 

オレが言葉に窮していると、その少女は笑みを浮かべた。…可愛いじゃん。ていうか、すげえ美人じゃん。

 

「ふふっ、冗談よ。私は雪ノ下雪乃」

 

「一応オレがどんな人間か教えておくと、特に趣味はないけど、何にでも興味はある。友人は沢山いらないが、ある程度いればいいと思っている。まぁ、そんな人間だ」

 

「つまり…価値の無い人間。そういう理解でよいのかしら」

 

「何だろう…オレの全てを1秒で否定された気がする…」

 

「否定『された気がする』のでは無く『された』のよ。

 日本語は正しく使いなさい」

 

それから数分ほど経って、始業のチャイムがなった。ほぼ同時に、スーツを着た一人の女性が教室へと入ってくる。

 

「えー新入生諸君。私はDクラスを担任することになった茶柱佐枝だ。普段は日本史を担当している。この学校には学年ごとのクラス替えは存在しない。卒業までの3年間、私が担任としてお前たち全員と学ぶことになると思う。よろしく。今から一時間後に体育館にて入学式が行われるが、その前にこの学校における特殊なルールについて書かれた資料を配らせてもらう。以前入学案内と一緒に配布はしてあるがな」

 

その後の茶柱先生の説明は要約すると以下の内容だ。

 

・敷地内で買えないものはなく、学校内でもそれは同様

・ポイントは毎月1日に自動的に振り込まれる

・全員平等に10万ポイントが支給されている

・当校では実力で生徒を測る

 

「では、良い学生ライフを過ごしてくれ」

 

そう締め括って、喧騒に包まれる教室から立ち去った。先生がいなくなり、高額なお金をもらって浮足立ち始めた生徒たち。

 

「皆、少し話を聞いて貰っていいかな?」

 

そんな中、スッと手を挙げたのは、如何にも好青年といった雰囲気の生徒だった。

 

「僕らは今日から同じクラスで過ごすことになる。だから今から自発的に自己紹介を行って、一日も早くみんなが友達になれたらと思うんだ。入学式まで時間もあるし、どうかな?」

 

……

【雪ノ下 雪乃】

 

学力:A

知性:A

判断力:B+

身体能力:B+

協調性:D

 

面接官コメント:

入学試験では最上位の成績を獲得。面接試験でも模範的な対応であった。やや協調性に欠けるものの中学校での奉仕部の活動を通じて改善がみられる。総合的に判断し、Aクラスへの配属が妥当であるが、両親の強い要望によりDクラスとする。

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