「おはよう諸君。今日はいつにも増して落ち着かない様子だな」
ホームルームの開始を告げる鐘の音とともに、茶柱先生が入室してきた。
「佐枝ちゃん先生!俺たち今月もまたポイント0だったんすか!?俺たちこの1か月ホントに…死ぬほど頑張りました。なのに0のままなんてあんまりじゃないですか」
「勝手に結論をだすな。早速だが、今月のクラスポイントを発表する」
手にした紙を黒板に広げてポイント結果がAクラスから順に公開されていく。
「え?なに、92って……俺たちプラスになったってこと!?やったぜ」
ポイントを見つけた瞬間、池が飛び跳ねる。
「喜ぶのは早いぞ。他のクラスの連中もお前たちと同等のポイントを増やしているだろう。これは中間テストを乗り切ったご褒美のようなものだ。各クラスに最低100ポイント支給されただけにすぎない」
「あれ?でもじゃあなんでポイント振り込まれてないんだ?」
「少しトラブルがあってな。1年全体のポイントの支給が遅れている。おまえたちには悪いがもう少し待ってくれ」
「えー、学校側の不備なんだから、なんかオマケとかないんですかあ?」
「そう責めるな。学校側の判断だ。トラブルが解決次第、ポイントは支給されるはずだ。ポイントが残っていれば、だがな」
茶柱先生の何やら意味深な言葉が耳に残った。
……
「助けてくれ雪ノ下!」
下校時間が近づき、そろそろ本日の部活も終了しようとした時、須藤くん、櫛田さん、綾小路くんの3人が奉仕部に訪れる。
「…いきなり何かしら?」
「マジやべえんだって!助けてくれよ」
「須藤くん、少し落ち着きなさい」
「あ、ああ…わりい」
須藤くんは神妙な面持ちになると、ゆっくりと話し始めた。
「先週、顧問の先生から、夏の大会でレギュラーとして迎え入れるっつー話をされたんだよ。その帰りだ…同じバスケ部の小宮と近藤が俺を特別棟に呼び出しやがった。話があるとかなんとかで。無視してもよかったんだが、二人とは部活中にも度々言いあってたからいい加減ケリつけてやろうと思って。もちろん話し合いでだぜ?そしたら石崎ってやつがそこで待っていやがったんだ。小宮と近藤はそいつのダチでよ、Dクラスの俺がレギュラーになるのが我慢ならなかったんだと。痛い目みたくなけりゃバスケ部を辞めろと脅してきやがった。そんでそれを断ったら殴りかかってきたんだ。俺の事だけなら我慢できたんだ…。そしたらDクラスのダチの事まで悪く言い出しやがって、カッとなってつい殴っちまったんだ…」
「それで須藤くんが悪者にされちゃった、と」
「……」
「学校側は今の須藤の話を聞いてなんて言ったんだ?」
「来週の火曜日まで時間をやるから、向こうが仕掛けたことを証明しろとさ。無理なら俺が悪いって事で夏休みまで停学。その上クラス全体のポイントもマイナスだってよ」
学校側からの至れり尽くせりな対応が待ち構えているようだ。
「どうしたらいいんだよ俺は」
「そうね。まずは殴ってしまった事を反省しなさい」
「は?なんでだよ。正当防衛だろ?なあ」
須藤は納得いかないとテーブルを強く拳で叩いた。音に驚いた櫛田の両肩が跳ねる。
「悪ぃ、ちょっと取り乱した」
櫛田の若干怯えた表情に、須藤は申し訳なさそうに謝った。
「経緯はどうあれ社会にでれば傷害罪で15年以下の懲役又は50万円以下の罰金ね。学生だからと言って許されるという甘えは捨てなさい。それに今のも櫛田さんの演技とは言え、訴えでれば脅迫罪に該当する可能性もあるわ。一時的な感情に流されて人生を台無しにするなんて事はありふれているのよ」
「ゆきのん?演技ってなんの事かな?」
「それと、明日須藤くんの口からクラスのみんなに経緯の説明と謝罪は必要ね。あとは茶柱先生に同行してもらったほうがいいかしら…小宮くん、近藤くん、石崎くんの3人に『殴ってしまった』事を謝罪してきなさい。全てはそれからよ」
「泣き寝入りしろって言うのか」
「迷惑をかけたのなら、謝るのは当然のことよ。それに、仮に停学になってしまってもこれを良い機会と捉えるべきね」
「何言ってんだ」
「このままだと、須藤くんは同じような過ちを繰り返す可能性は非常に高いわ。人はね、感情をコントロールできるものなの。特に怒りの感情は容易な部類よ。アンガーマネジメント、聞いた事はないかしら?今回、あなたはそれを身につけなさい。それができるようになれば停学の期間なんて直ぐに取り戻せるわ。それに私は『殴ってしまった』事を謝罪するように言ったけれどそれだけよ。クラスメイトや被害者に心から謝罪をする事ができたなら、可能な限り減刑するという依頼なら受けてもいいわ」
「どうするんだ?そう話は単純ではないぞ」
「そうね。まずは情報収集からよ。目撃した生徒がいれば1番よいのだけれど、期待はしないほうがいいわね。関係者の人間関係や当日の行動など徹底的に調べあげたうえで、そこから矛盾点を見つけていくしかないわね」
「相手の対応次第か…」
「明確な証拠がない以上致し方ないわ。櫛田さん、綾小路くん、手伝ってもらうわよ」
……
次の日、先生の口からトラブルの内容が告げられた。騒然とするクラスの中、須藤は1人教壇にたった。
(どうやら覚悟は決まったようね)
「みんな、すまねぇ」
クラスメイトに向かって頭を下げる須藤。
「経緯はどうあれ、殴っちまったのは事実だ。みんなには迷惑をかける。このあと被害者の連中にも謝りにはいくつもりだ。その前に少し俺の話を聞いて欲しい」
そう言ってトラブルとなった日の経緯を話し始めた。最初はいつもの短気が原因と思っていたクラスメイトも須藤自身だけではなく、Dクラスの生徒も馬鹿にされていた事を知り、憤りを感じる生徒も出始めた。勉強会以降、授業態度や私生活に改善があったのも後押ししているのだろう。
「みんな、少し私の話を聞いてくれないかな?」
櫛田が立ち上がった。
「確かに須藤くんは喧嘩をしちゃったかもしれない。けど本当は巻きこまれただけなの。改めて聞くよ。もしもこのクラスの中や、友達や知り合いに目撃者がいたなら、連絡してほしいな。よろしくお願いします」
そう言って、櫛田も頭を下げた。
「僕は信じたい」
そう言って立ち上がったのは、平田だった。
「他のクラスの人を疑うならわからなくもない。でも、同じクラスの仲間を信じてあげられないのは間違ってると思う。精一杯協力してあげられるのが友達なんじゃないかな?」
「私もさんせー」
平田の言葉に女子のリーダー格の軽井沢が賛同の意を示した。
クラスのリーダーの平田、女子のリーダー格の軽井沢・櫛田が須藤を擁護する形に回ったため、他のクラスメイトたちもそれに続いた。
今後の対応をクラスで話し合ったが、今回の件、できる事は少ない。結果、目撃者探しを手分けして行う事になる。