「賛成ー!私たち、まだみんなの名前とか、全然分からないし」
一人が口火を切ったことで、迷っていた生徒達が後に続いて賛成を表明する。
「僕の名前は平田洋介。中学の時は皆から洋介って言われてたから、気軽に『洋介』って呼んでくれると嬉しいかな。趣味はスポーツ全般だけど、その中でもサッカーが好きで、サッカー部に入部する予定だよ。よろしく」
提案者である好青年はスラスラと、非の打ち所のない自己紹介をする。爽やかフェイスにサッカーが合わさることで途端にモテ度が2倍、いや、4倍アップする。平田の隣に居る女子なんて既に目がハートだ。
「もし良ければ、端の方から自己紹介を始めて貰いたいんだけど……いいかな?」
あくまで自然に、それとなく確認をとる平田。平田に指名された女子生徒は最初、緊張のあまり上手く喋れなかった。
「ゆっくりでいいよ。慌てないで」
その声に少しだけ落ち着きを取り戻したのか、はふーっ、ふーっと小さく呼吸を整えようと試みる。そらから暫くして…すらりと自分の言いたい事を言えたようだった。近くにいた少女の助け舟のおかげで、その少女は事なきを得たようだ。
自己紹介は続く。
「俺の名前は山内春樹。小学生の時は卓球で全国に、中学時代は野球部でエースで背番号は四番だった。けどインターハイで怪我をして今はリハビリ中だ。よろしくう」
「じゃあ次は私だねっ。私は櫛田桔梗と言います。中学からの友達は1人もこの学校には進学してないので1人ぼっちです。だから、早く皆さんの顔と名前を憶えて、友達になりたいと思ってます。私の最初の目標として、ここにいる全員と仲良くなりたいです。皆の自己紹介が終わったら、是非私と連絡先を交換してください」
「じゃあ次の人──」
促すように次の生徒に視線を送る平田だが、その生徒は強烈な睨みを平田に向けた。髪の毛を真っ赤に染め上げた、如何にもな不良少年。
「俺らはガキかよ。
自己紹介なんて、やりたい奴だけでやれ」
「僕に強制することは出来ない。
不愉快な思いをさせたのなら、謝りたい」
そう言って平田は頭を深く下げた。
「なによ、自己紹介くらい良いじゃない!」
「そうよそうよ!」
「ガキって言うけど、アンタの方がガキじゃない!」
さすが平田。あっという間に女子の大半を味方に引き込んだようだ。その反面不良少年をはじめ、男子生徒からは嫉妬に似た怒りを買ったようだった。
「うっせぇ。こっちは別に、仲良しごっこするためにココに入ったわけじゃねえよ。」
不良少年は席を立ち教室を出ていった。それと同時に数名の生徒も教室をでていく。
「えっとーー次の人お願いできるかな?」
平田がそう言うと雪ノ下がスッと立ち上がる。雪ノ下が持つ雰囲気にクラスメイトは飲み込まれたのか、クラスに静寂が訪れる。
「私の名前は雪ノ下雪乃。趣味は敢えてあげるとすれば読書かしら。学業も含め特に不得手なものはないわ。高校では…そうね。中学の時に『奉仕部』という部活に所属していたのだけれども高校でも同じような事をもう一度したいと考えているわ。いくらかポイントはもらう事になると考えているけれど、なにか悩みがあれば活用してもらえたらと思うわ」
(未練ね。由比ヶ浜さんと比企谷くんを拒絶したのは私にも関わらず…あの空間をもう一度取り戻したいと思っている。我ながら浅ましいわね)
その後も自己紹介は続き、いよいよ俺の番が巡ってきたようだ。
「えーっと、次の人………そこの君、お願いできるかな?」
「えー…えっと、綾小路清隆です。その、えー得意な事は特にありませんが、皆と仲良くできるよう頑張りますので、えー、よろしくお願いします」
……失敗した。思わず頭を抱え込む。誰からも注目されない上に記憶にも残らない。そんな最低の自己紹介に終わった。
「よろしくね。綾小路くん。仲良くなりたいのは僕らも同じだ、一緒に頑張ろう」
平田は爽やかな笑顔を振り撒きながら、そう言った。
「フォローしてもらってよかったわね。失敗ノ小路くん」