ようこそ雪ノ下雪乃がいく教室へ   作:ゆうき35

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水泳

「おはよう!山内」

 

「おはよう!池」

 

登校すると満面のてっかてかの笑顔で池が山内に声をかけていた。

 

「いやあー授業が楽しみすぎて目が冴えちゃってさ!」

 

「なはは、この学校は最高だよな、まさかこの時期から水泳があるなんてさ!水泳って言ったら、女の子!女の子といえばスク水だよな!」

 

確か水泳の授業は男女混合。つまり雪ノ下や櫛田、その他大勢の女子の水着…肌の露出を目にすることになる。ただ、池と山内がはしゃぎすぎていて女子はドン引きだ。

 

「おーい綾小路」

 

突如、池の口からオレの名前が飛び出した。顔を上げると、笑顔で手招きしてくる。

 

「な、なんだよ」

 

「実は俺達、女子の胸の大きさで賭けようってことになっているんだけどさ」

 

「オッズ表もあるぞ」

 

正直この賭け事には全く興味が無かったが、折角掴んだ友達になる機会を失うわけにもいかない。

 

「えーとっ…じゃあ参加しようかな?」

 

「お!やろうぜやろうぜ!」

 

そうしてる間にもわらわらと男子が集まってきて、露骨に女子の胸の大きさで盛り上がり始める。教室に居た女子からは一層汚物を見るような目を向けられる。雪ノ下と櫛田しか名前と顔が一致しないオレは櫛田に投票して席に戻った。

 

「さて、誰に投票したのかしらエロ小路くん?」

 

雪ノ下の一部に目をやったオレはやはり櫛田とどちらかと言われれば当然櫛田だ。そう思った。

 

「ここで死にたいのかしら?」

 

………

昼休みが終わり、ついに池たちが待ち望んだ水泳の授業がやって来た。

 

「うわ〜。凄い広さ、中学の時のプールなんかより全然大きい〜」

 

男子グループから遅れること数分、女子の声が耳に届いた。

 

「二人とも、何やってるの?楽しそうだねっ」

 

山内と池の間に割って入るように、櫛田が顔を覗かせた。

 

「く、くく、櫛田ちゃん」

 

スクール水着を着た櫛田は、妖艶な身体のラインが浮き彫りになっている。男子の殆どが、一瞬櫛田の身体に釘付けになった事だろう。だが、俺も含め男子はすぐに視線をそらす。

 

「何を黄昏れているのかしら?」

 

雪ノ下は怪訝な様子で俺の顔を覗き込んできた。

 

「己との戦いに没頭してるんだ」

 

雪ノ下の水着姿。何ていうか、うん、控えめにいって素晴らしい。櫛田とは違う一つの造形美がそこにはあった。

 

「エロ小路くん、何か運動していた?」

 

「えっ?自慢じゃないが中学は帰宅部だったぞ」

 

「それにしては前腕の発達とか、背中の筋肉とか、普通じゃないわよ」

 

「両親から恵まれた体を貰っただけじゃないか?」

 

「ありえないわ」

 

「お前はアレか?筋肉フェチか?言い切れるのか?命賭けるか?」

 

「そう…そこまで言うなら命を賭けても構わない。どんなに先天的に優れていても使わなければ筋肉は衰えるものよ。何も努力なくその体を維持するのは不可能だわ」

 

「くっ…」

 

オレが言葉に窮していると救いの手がはいる。

 

「雪ノ下さんは泳ぎは得意なの?」

 

櫛田からの質問に雪ノ下は静かに答える。

 

「不得意なものはないわ」

 

「私は中学の時、水泳が苦手だったんだ。でも、一生懸命練習して泳げるようになったの」

 

「そう。頑張ったのね。と言えばいいかしら?」

 

「よーしお前ら集合しろ」

 

体育会系の文字を背負ったおっさんが声をかけ授業が始まる。

 

「見学者は16人か。随分と多いようだが、まあいいだろう。早速たが準備体操が終わったら、実力がみたい。泳いでもらうぞ」

 

今日の授業はこうだ。男女別50Mの自由形で競争する。それぞれ1位になった生徒には5000ポイントが与えられる事になった。女子は人数が少ない事もあり、5人づつ泳ぎ、タイムが早かった生徒が優勝。男子はタイムが早かった上位5位で決勝を行う事になる。まずは女子からスタートだ。1番人気の櫛田は4コース。応援する男子たちに笑顔で手をふる。

 

「うひょおおおおお!」

 

悶える男子たち。櫛田は31秒台となかなかの好タイムだったが結果は2位。

 

続いて第2レースが始まる。雪ノ下は第2コースだ。先程まで騒いでいた男子は雪ノ下が登場すると見惚れたのか、打って変わって沈黙になる。

 

スタートすると雪ノ下と小野寺。水泳部の女子とマッチレースになった。結果は雪ノ下の勝利。タイムも25秒台と好結果を残した。

 

プールサイドにあがってきた雪ノ下に声をかけにいく。

 

「凄かったな」

 

「高校生の日本記録は24秒をきるわ。私もまだまだね」

 

「お前は何と戦ってるんだ…」

 

「それよりあなたは自信あるの?」

 

「当たり前だろ。ビリにはならん」

 

「真面目に泳がないという事ね。そうね…では、こうしましょう。もし、男子の決勝であなたが私のタイムを上回ったら、友達ができる事になるわ」

 

「なっ…」

 

「せいぜい頑張る事ね」

 

どうする清隆?俺はこの水泳の授業そこそこの順位で終わるつもりだった。これまでの学生生活で須藤達と会話はするようになったが、まだ友達とは言えない。これは明確に友達ができる始めてのチャンスだ。しかも、相手は雪ノ下…。だが、雪ノ下が記録したタイムはおそらく男子の中でも上位だろう。事なかれ主義・目立ちたくないオレにとっては非常に難しい問題だ。オレはどうするか悩みながら予選を迎える。最初の組に配属されたオレは2コースで、隣の1コースは須藤だ。まだ、考えはまとまらないがここで須藤に勝ってしまうのはまずい。オレは須藤より少し離された2位で終わる事にした。

 

「やるじゃないか須藤。25秒切ってるぞ」

 

…つまり雪ノ下を上回るには今の須藤と同じぐらい泳ぐ必要がある。それからも予選は続き次のレースは平田が1位、最後は高円寺が23秒22という破格のタイムを叩き出した。これでオレも決心が固まる。雪ノ下のタイムを上回っても1位になる事はない。予選の結果を見ても須藤に少し勝つぐらいでちょうどいいだろう。折角の機会だ無駄にするわけにはいかない。

 

これから男子の決勝が始まる。オレも無事上位5人に残れた。

 

「綾小路くん。予選は須藤くんにおよばなかったけど凄かったね。水泳得意なの?」

 

同じく決勝にすすんだ平田が声をかけてくる。

 

「ああ、水泳はそこそこ自信があるんだ」

 

「そうなんだね。決勝も頑張ろうね」

 

決勝は大きな波乱もおきず高円寺が1位となり、オレが2位、須藤が3位となった。雪ノ下のタイムも無事上回る事ができただろう。

 

プールサイドに上がると雪ノ下が話かけてきた。

 

「やればできるじゃない」

 

「ああ、これでオレ達は友達という事でいいんだな」

 

雪ノ下はからかうような笑顔をオレに向ける。

 

「あら?私は一言も『私と友達になれる』とは言ってないのだけれども」

 

「なっ…だましたのか?」

 

「心外ね。私は嘘は言わないわ」

 

その時だ。須藤がこちらに近づいてきた。

 

「すげぇじゃねぇか、綾小路。でも、次は絶対勝つからなっ。運動できんなら一緒にバスケやんねぇか?初心者でも俺が教えるからよ」

 

また、今まで話した事もない女生徒にも声をかけられる。

 

「綾小路くん、すっごく格好良かった!水泳得意なんだね」

「ねぇねぇ、中学では水泳やってたの?」

「なんかその、凄く男らしいよね。綾小路くんって。細身だけどバスケットやってる須藤くんよりガッチリしてるって言うか」

「今までノーマークだったけど顔も悪くないし、意外と優良物件?」

 

「良かったわね。友達ができそうじゃない」

 

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