学校を出たオレは真っ直ぐ寮に足を向けた。そこには友達と出かけたはずの櫛田が、誰かを待っているのか壁に寄りかかっていた。オレに気づくと櫛田がいつもの笑顔を向ける。
「良かった。綾小路君の事待ってたんだよ。ちょっと話がしたくって。少しいいかな?」
「別にいいけど…」
まさかの告白…なんて展開は1%くらいしか考えてないぞ。
「私ね…雪ノ下さんの友達になりたいんだっ。協力…してくれないかな?」
「う〜ん。櫛田の気持ちはわかるけど…」
「ダメ…かな?」
可愛い+お願い+上目遣い=致死
「…仕方ないな。今回だけだぞ」
「ほんと!?ありがとう綾小路君!」
……
やってきました放課後。生徒達はおのおの放課後ライフを楽しむ為に、どこにいくか相談しあっている。一方オレと櫛田は目配せして、作戦決行を確かめ合う。ターゲットとなる雪ノ下は、いつものように黙々と帰り支度を始めている。
「なあ雪ノ下。今日放課後暇か?」
「部活があるもの。暇ではないわ」
「少し付き合って欲しいんだ。学校にカフェがあるだろ?女の子がいっぱいいる。あそこにさ、一人で行く勇気が無いんだよ。男子禁制って感じがするだろ?」
「今のあなたならわざわざ私を誘わなくても一緒にいってくれる女の子はいると思うのだけど」
確かに水泳の授業以降、オレの交友関係は広がった。須藤との中は近くなったし、平田とも普通に会話するようになった。オレから誘っても一緒にいってくれそうな女子にも心あたりがある。…だか、今回は雪ノ下でなければ作戦は失敗だ。
「…オレは雪ノ下がいいんだ。雪ノ下じゃないと困る」
「私はその気はないわ。ごめんなさい」
あれっ?また、振られたのか?
「ち…違うぞ。そういう意味では決してない」
「そうね…では、こういうのはどうかしら?奉仕部の活動内容は生徒の悩み相談や依頼を解決する事よ。女子の多いカフェに同行して欲しいという依頼を奉仕部にしてくれるなら受諾するわ。もちろん依頼なのだからいくらかポイントをもらうことになるけれど」
「ポイントか…」
「難しく考える必要はないわ。今回は簡単な依頼よ。喫茶代をだしてもらえればそれでいいわ」
「分かった。依頼しよう」
「じゃあ、顧問の先生に保健室に行けない事を伝えるから少し待ってもらえるかしら」
その後、二人で目的地に出発し、校舎1階にあるカフェ、パレットへと辿り着いた。放課後を楽しもうと続々と女子たちが集まってきている。
「凄い人ね」
「雪ノ下も放課後は初めてか?あ、そうか。ボッチだもんな」
「放課後は部活だと言わなかったかしら?鳥小路くん。嫌味のつもりなら、もっとボキャブラリーを増やすべきね」
注文を終えて、二人でドリンクを受け取る。
「席が空いてないわね。常々思うのだけど、空席がないにも関わらず食事を提供するシステムは成り立っているのかしら」
「ちょっと待つか。あ、いや、あそこが空きそうだな」
二人掛けテーブルの女子達がスッと立ち上がるのを見て、オレは足早にその場所を確保。奥側へと雪ノ下を通す。
「アレだよな。周りから見たら、オレたちカップルに見えたりし…ないだろうな」
「どう見ても主人と従者ではないかしら?それに一度言い出したら恥ずかしがらず言い切りなさい。聞いているほうが恥ずかしいわ」
行こっか、という声と共に隣の席の女子が二人ドリンクを手に取り立ち上がった。そしてまたすぐ、新たな来客で埋められる。櫛田だ。
「あ、雪ノ下さん。偶然だねっ!それに綾小路くんも!」
「…よう」
「…………」
「綾小路くんと雪ノ下さんも二人でここ、来るんだ?」
「大根小路くんから依頼を受けたからよ。さて、この状況を説明してもらえるのかしら?さっき私たちが座る前、ここに居た二人は同じクラスの女子だった。それに隣の二人もそう。これに気づかない人がいるとしたら、あなたぐらいよ」
「悪い雪ノ下。ちょっと根回しした」
「はあ、最初から普通に声をかけてくれればよいのだけれど」
「雪ノ下さん。私と友達になってください!」
「櫛田さん。『今の』あなたとは無理よ」
「私、どうしても雪ノ下さんと仲良くなりたいの。なんか、初めて会った気がしないっていうか…雪ノ下さんも同じように感じてくれたらな、なんて思ってる」
「ナンパの常套句かしら?…そうね。私は『今の』あなたとは無理といったのだけど、それをここで説明するのは憚れるわね。櫛田さんさえ良ければこのあと2人で話できないかしら?」
「うん!こちらこそだよっ」
「では、今は紅茶を楽しみましょう。折角、金小路くんが奢ってくれたのだから」
……
「どうぞ」
私は櫛田さんと二人っきりで話す為、自室へ招いた。
「わ〜。綺麗にしてるんだねっ。雪ノ下さんって感じがするよ。でも、パンさんのヌイグルミがあるのは意外かなっ」
「好きな所に座ってもらって構わないわ。カフェの後だけど、飲み物が必要なら用意するけど」
「ううん。気にしてもらわなくても大丈夫だよっ。それに『今の』私とは友達になれないってどういう事なのかな?」
「あなたは私の姉ににているもの。苦手というのも正直な思いではあるのだけれども、あなたは本心から友達になりたいとは思ってないでしょう」
「私が雪ノ下さんと友達になりたいって思っているのは本心だよっ」
「私だけじゃない。誰も友達なんて思ってないのではない」
「ひっ…ひどいよっ」
「私と友達になりたいというのなら、まずはその仮面を外す事ね」
「仮面なんてかぶってないよっ」
「そう…私の見当外れであれば申し訳ないんだけど、あなたは相手が求める櫛田桔梗を演じている。そうではないの?」
「…………」
「私は上辺だけの友人関係を求めていないわ。それがあなたと『友達』になれない理由よ」
「うるさい」
「私は何か間違った事を言っているかしら」
「うるさいうるさい。私は1番になりたかった。勉強でも運動でもっ!でも、それは無理だと早々に理解した。誰もがあんたみたいにはなれないのっ。だから、私は誰よりも優しく誰よりも親身になる事で、誰よりも多くの『信頼』を得ることにしたの。それの何が悪いわけ?あなたに私の苦しみが理解できるの?」
「別に悪いとは一言も言っていないのだけれども…。むしろ尊敬するわ」
「へっ?」
「さっき話をしたのだけど、私の姉はあなたに似てるの。いえ、あなた以上ね。学業や運動ができる事は当たり前で、両親、教師、クラスメイト、時には近所の子供にまで、まわりが期待する全てを演じきっていた。妹である私が気付かないレベルでね。私はそんな姉に憧れた。でも、私にはできなかったの。あなたは私ができない事を日々やっているのよ。尊敬する事はあっても非難することはないわ」
「雪ノ下さんは…私に表の顔と裏の顔があってもいいの?」
「人間多かれ少なかれ使い分けているものでしょう。それにそれが私に何か不都合があるものなの」
「た…例えばだよ…あ……ウザい。マジでウザい、ムカつく死ねばいいのに……山内とか池とかいうヤツなに?胸ばかりジロジロ見てくるなよっ。自己紹介もウケ狙いのつもりなの?あれで女子に相手されるとおもってるのがホント残念。って言ったらどう思う?」
「同意ね。何かおかしい事を言っているのかしら?」
「じゃあ…これは友達の友達の話なんだけど、友人の秘密をこっそり掲示板に書いていたの。それがクラスメイトに見つかって、クラス中に非難された。その子は報復にみんなの秘密を暴露して学級崩壊をおこしたの」
「……そうね。まずその子が掲示板に秘密を書いた事は褒められた事ではないわね。そこは反省すべきだと思うわ。ただ、その後は攻撃されたからやり返しただけでしょう?ばらされて困る秘密を握られているのに『みんな』が味方になったから反撃されないなんて妄想もいい所だわ。そのクラスメイトには良い勉強になったんじゃないかしら」
「ふふふっ、はははははっ。あんた私の中学にいればよかったのにね」
「友達の友達の話ではなかったのかしら?」
「いいよ。もう別に。あなたの事気に入ったわ。私と『本当の』友達にならない?」
「今の櫛田さんなら構わないわ」
「ちなみに水泳の時の男どもどう思った?」
「くずね。生きている価値もないわ」
「私よりひどくないっ?」
「思った事を言っているだけなのだけれども…」
……
次の日の朝、教室ではいままでに見られない光景があった。
「ゆきの〜ん。おはよー!今日も1日頑張ろうね」
「はあ、櫛田さんもそう呼ぶのね」
「こっちのほうが可愛くない?」
「リアクションまで一緒なのね」
あの後、2人になにがあったのか?オレには全く理解できなかった。