NARUTOジャンルでは久しぶりで、小説書くのも久しぶりなので読みにくい部分もあるかもしれませんが楽しんでいただけたら幸いに思います。
……失敗と偽りばかりの人生だった。
「だから今度こそ本当のことをほんの少しだけ」
それでもその人生に悔いはない。
たとえどんな汚名を受けたとしてもどんな風に思われたとしても、誰が知らなくても己自身がオレは木の葉のうちはイタチだと判っていたから。
弟を、父を、母を、友を、木の葉隠れの里を、多くのものを愛していたから。
迷子の幼子のような顔をした弟を見る。
……サスケにはたくさん心労をかけた。
弟をこれほど苦しめ追い詰めたのはオレだ。
兄だからこそただ守るだけでなく、サスケの力を信じてやるべきだったのに、ついぞそのことに死ぬまで気づけなかった愚かな男、それがオレだ。
今なら何がまずかったのかわかる。
一人でなんでも出来ると嘯き、他者を頼ろうとしなかったこと、己に嘘をつき己自身を認めてやれなかったこと、弟の憎しみを煽り誘導して一本道を歩ませようとしたこと、それは即ち誰の事も信用していなかったということだ。それがオレの敗因だった。
人は支え合って生きていくものだというのに、そんなことに死んでから漸く気づいた。
人はオレを完璧と呼んだ。
オレもそう思い込もうとした。
だがオレは誰より不完全で嘘つきだった。
自分の本心を偽り続け、サスケを、最愛の弟の人生を歪めてしまった。
だからこそだ。
嘘をついてばかりの人生だったけれど、それでも今この瞬間だけでもお前に誠実でありたいと思う。
「お前はオレのことを、ずっと許さなくていい……」
許される資格もない。
それでもオレの本当の想いを伝えよう。
「お前がこれからどうなろうとおれはお前をずっと愛している」
そしてオレはその言葉を皮切りに、穢土転生が解け黄泉の国へと満ち足りた気持ちで戻っていった。
それがオレのうちはイタチとしての最期の記憶。
後悔はない。
もう弟はオレに守られているだけの小さな子供じゃない。
きっと道を間違えたとしてもナルトを含め多くのものが弟を支えてくれるだろう。
死者であるオレにこれ以上語る言葉はない。
だからこの思考も……ここで終わるはずだった。
* * *
「……い…………おい……ズナ……」
はじめに感じたのは水面を揺蕩うような感覚。
頭は重く思考が鈍い。
遠くから誰かの声がする。
懐かしいような親しい人の声。
(……親しい?)
不思議に回らぬ頭で考える。
はて、何故オレは今そんなことを考えているのだろうか。
オレは、うちはイタチはすでに亡くなり、穢土転生も解除されたはずなのに。
「……ズナ、……ズナ」
泣きそうな声で誰かが必死に名前を呼んでいる。
甲高い声変わり前の少年の声。
それが誰かに似ているようで、酷く懐かしくて……。
(……サスケ……?)
ふと今し方別れたばかりの弟の名を呼ぼうとして声が碌にでないことに気づいた。
喉がヒリヒリして唾液すら出てきそうにない。
重い頭を動かそうとしてパサリと頭の上に乗っていた手ぬぐいが落ちる。
そうして漸く開けた視界の先には、十に満たない程の年齢をした弟の幼少期にどこか似通った少年が心配そうな形相で己を見ていた。
一瞬わけがわからず戸惑う。
そんなオレにほっとしたように眉間の皺を少し緩めながら、愛しさを滲ませた口調で少年がいう。
「良かった! 目が覚めたんだなイズナ! お前三日も熱が出て目を覚まさなくて……もう駄目かと……心配したんだぞ」
そう言って涙ぐみながらも気丈な笑顔を見せて彼はオレをそっと抱きしめた。
「……にい、さ……」
渇いた喉で噎せながら無意識にそう返した時、唐突にオレの脳裏の靄が晴れた。
(そうだ、オレは……オレの名前はうちはイズナ)
うちはタジマの五男坊で……ついこの間3歳になったばかりのうちは一族頭領の息子だ。
このどこかサスケに似ている少年は兄の一人であるうちはマダラで、忙しい父母に代わり積極的にオレや他の兄弟の面倒を見ていた。面倒見が良く愛情深い優しい人で兄たちの中でもオレは特にこの人によく懐いていた。
オレの大好きなマダラ兄さん……。
うちはイズナとしての記憶を元にそう思う一方で、先ほどまで表面化していたうちはイタチとしての思考が戸惑いをもたらす。
(うちはマダラとイズナの兄弟だと……?)
それは知っている。
判っている。
(創設期の人物じゃないか……)
うちはマダラ。
戦国時代にうちは一族を纏めていた男。
初代火影であった千手柱間と共に木の葉隠れの里を作り上げ、後に里を抜けて九尾と共に木の葉を襲い、忍びの神と謳われた千手柱間と終末の谷での戦いの後死亡したといわれた人物だ。
オレと共にうちは一族を滅ぼした仮面の男トビも「うちはマダラ」を名乗っていたが、そちらは偽物で本物のマダラではないと判断している。
そしてうちはイズナはそのマダラの弟だったと伝えられている人物だ。
のちにマダラは弟から目を奪い永遠の万華鏡写輪眼を手にしたという。
いずれにしてもそれは、オレの……うちはイタチの知る限り70年近く前の出来事だ。
そしてうちはイタチもまた死んでいる。
ならばこうしてイタチとしての記憶もイズナとしての記憶もある己はなんなのか?
おそらく転生……ではないだろうか。
生者を生け贄に死者を塵芥で形作る穢土転生ではない。所謂生まれ変わりというやつだ。そうであれば理解できる。
こんな風にくっきりと記憶が残っているのが異常といえば異常であろうが、おそらくこの記憶は、うちはイタチという男の人生は己の前世の記憶というやつなのだろう。
何故なら記憶がはっきりした今、己はうちはイズナであり、それ以外の何者でもないからだ。
うちはイタチは死んでいる。
ならば己は……たとえその価値観や性格に人格がうちはイタチの延長線上にあろうともうちはイタチであるはずがない。
けれどおかしなことだ。転生というものがあるのなら、普通は未来に生まれ変わると思うのだが、ここはうちはイタチから見たら100年近く過去の世界だ。
(いや、過去ではないのかもしれない……)
病明けの重い頭でそう思う。
うちはイズナの記憶によると今は戦国乱世である。
忍びの子は5つで戦場に出され、弱いものは死ぬ。
うちはイタチの人生の時のように忍者アカデミーなんてものはなく、子供は大人の弾除けでしかないし、忍務の難易度も分けられたりなどしていない。
当然だ。アカデミーというものは忍びの里システムが出来た後に考案され、二代目火影である千手扉間によって作られたものなのだから。
これがうちはイタチの記憶する戦国期と一致するのなら、それは今の時代から見て未来に出来るものだ。子供を守るという考え方自体そもそも存在しておらず、産めよ増やせよと多産によって損失を補填する、それを当然の考えとしている時代なのである。
故にマダラも、他の兄達も子供ながらにとうに初陣は済ませている。まだ戦場に出た事のない兄弟など自分と一つ上の兄くらいのものだ。
幼きこの身で世のすべてを知っているなどいうつもりもないが、自分がうちはイタチだった時代に調べた戦国時代の状況と今の状況はよく似通っている。
そう考えるとやはり、イタチから見て100年前の過去の世界に逆行転生してしまったように感じる。
けれど、イタチという前世の記憶を持つ自分がここにいる以上、うちはイタチという男がたどった世界と同じ歴史をこの世界も辿るとは限らないのではないだろうか?
平行世界という概念がある。
世界はいくつも枝分かれしており、一人の人間の行動次第でいくつも世界が分岐するという。
バタフライエフェクト、胡蝶の夢、いろんな呼び名があるがまあ示しているのは同じものである。
ならばうちはイタチの延長線上の人格を宿す自分がうちはイズナとしてここにいる以上、うちはイタチの記憶にある歴史と同じになりようがないのではないか?
そも自分はイズナとしての知識を抜けば、歴史としてしかこの時代のことを知らない。
うちはマダラが元は五人兄弟であることもうちはイタチの知識では知らなかった。
果たしてそれが元のイタチの知る歴史のほうもそうであったのか、答えを知りようもなかった。けれど確信はある。おそらくここはうちはイタチの生きた世界とよく似ているだけの別の世界なのだろうと。
そしてそう思う方がずっと楽だ。
何故ならうちはイタチは元の世界のうちはイズナのことを知らない。
イタチの知る世界の史実通りにしようとするほうが土台無理なのであるし、自分がイタチであったときのように再び自分に嘘をつき続ける人生を歩むつもりなどオレにはないのだから。
「イズナ?」
ふと黙り込んだ自分を心配するような声に思考の海から浮上する。
「……こふ」
兄さんと声をかけようとして声が出なくて再び咳き込む。
三日間発熱したというだけあり、炎症がおきているのだろう。喉が張り付く感じがなんとも不快だ。
そんなオレの背を摩りながら、心底心配そうな声でマダラがいう。
「大丈夫か? イズナ、兄ちゃん気が利かなくてごめんな。ほら、ゆっくり飲め」
そう言ってオレの半身を起こしながら、自分より5つほど年嵩の少年は水差しをオレの口元へと差し出した。こくりと喉を鳴らし水を飲む。それだけの行為が酷く億劫だ。熱で乾いた喉はヒリヒリと痛み、口を開けることすら難儀するほどであったけれど、それでも水で喉を潤すたび少しずつ渇きは癒やされた。
斐甲斐しく世話を焼きながらじっと見つめるもの言いたげな視線に、安心させるようになんとか目尻を和らげゆっくり見返す。
すると今世の兄たるマダラは、「ん……熱はもう大丈夫そうだな」とオレの額にこつりと己の額を当て安堵したように柔らかな声で「良かった」とつぶやいた。
続いてとたとたと軽くも騒がしい音が近づく
「マダラ兄! イズナの調子どう?」
「イズナだいじょうぶ?」
そういってクリクリとした黒い眼がかわいらしいよく似た幼い兄弟が二人、襖を開けて顔を覗かせた。
「イズナ! 目が覚めたんだな!」
「イズナ、あのねボク花つんできたんだ、きれいでしょ。これみてはやくげんきになってね」
そういって今の己よりは年上だが、まだ幼児といって差し支えない年齢の兄二人は突進するようにギュウギュウとオレを抱きしめた。
「こら! お前たち、イズナはまだ目が覚めたばっかりで、まだ体力も戻ってねェんだ! もっと静かにしろ」
そんな風に困ったような顔をして弟二人を引き剥がすマダラに、いつかの前世の自分が重なる。
うちはイタチであったとき、自分は兄の立場だった。
けれど、今の己は、うちはイズナは弟だ。
こうして思考がクリアになった今しみじみと思う。
かつて己がうちはイタチであった時、あの世界のうちはマダラについて知っていることはそう多くはない。うちはマダラとはうちは一族の祖とも呼べる歴史上の人物であり、本人に会ったことはない以上、史跡や歴史書などからどういった人物か予測するしかなかった。
ただ確かなのは、かつてうちはイタチであったとき、自分はうちはマダラという人物に良い印象は抱いていなかったことくらいだ。
けれど、自分がうちはイズナとして生まれたこの世界でここにこうして生きている等身大のマダラは、イズナとしての自分が大好きなマダラ兄さんは、前世の最愛の弟サスケにその顔もチャクラもよく似ていた。
まるで兄弟が年齢差もそのまま立場を入れ替え逆転したみたいだ、とそんなことを思った。
……前世の自分はこんなに兄弟はたくさんいなかったけれど。
「ほら、お前たちが騒ぐとイズナが休めないだろう」
「えー?」
「はーい」
「全く。イズナ、大丈夫か? お腹は空いていないか? 困ったことがあれば何でもいえよ。叶えられることがあればオレが叶えてやる」
そういって慈愛に満ちた顔でニッと笑いながら、ポンポンとリズム良く背を摩るツンツンとした黒髪の少年は太陽のように眩しくて、前世の最愛の弟であるサスケにも似ていたけれど、少しだけ四代目の遺児たるあの少年……ナルトにも似ていた。
「ううん、大丈夫だよ、マダラ兄さん……ありがとう」
うちはの瞳力は闇に浸り、憎しみや失意を募らせるのに比例し強まるという。
この世界のうちはマダラは、自分の知る限りまだ写輪眼は開眼していない。
ならばもしかしたら、自分の前世にあたるあの世界でも、昔のうちはマダラはこんな風に太陽のように笑える少年だったのかもしれない。
深い瞳力は強い愛情の持ち主である証明のようなものでもあったのだから。
かつてうちはイタチであったとき、己はうちはマダラに良い感情など抱いていなかった。そしてその人物評はうちはイズナとして生まれ変わった今も特に変わっていない。
前世のうちはマダラのことは今も好きではない。
だけど、オレは、イズナはこの人が好きだ。
この人が笑えば嬉しいし、この人が悲しめば悲しい。
今もほら、ポンポンと背を優しく叩きながら子守歌を歌ってくれている。
「……兄さん」
「おやすみ、イズナ」
落ち着き澄んだ暖かい声。
大好きな手の感触を感じながら、微睡みの中、この心優しく愛情深い少年に、うちはイタチの時と同じ歴史を辿らせるのは嫌だなとそう思った。
転生するなんて思わなかったけれど、死んでも人はそう変われないと思うけれど、それでも文字通り転生したのだから、今度の人生はもう嘘で誤魔化したり一人で出来るなど驕らず、人を頼り、好きを伝えていきたい。
アナタを一人にはしないから、だから今だけこのまま微睡ませてほしい。
うちはイタチ享年21歳。
転生したらうちはイズナでした。
続く
原作で判明していないところは捏造ですので、マダラが5人兄弟で「弟たち」と複数形で呼んでいることから長男~三男のいずれかと、イズナがマダラの弟ということはわかっててもそれ以外の兄弟の年齢や名前が不明ですのでとりあえず当小説内では以下の設定で書いていますので、あくまでもこの小説内の設定としてご理解いただけたら助かります。
第一話時点の兄弟達の年齢
長男 ??? 生きてたら10歳、故人。
次男 マダラ 8歳
三男 ??? 6歳
四男 ??? 4歳
五男 イズナ 3歳
イタチさんとサスケが5歳差の兄弟なのでそれを逆転してみたのと、原作の柱間とマダラの水切り出会いイベント見てると見た目マダラとイズナ兄弟はそれくらい年離れていそうに見える&イズナは末っ子属性に見えるので5歳差にしました。