今回の話……特に終盤の展開は、この「転生したらうちはイズナでした」ってネタが降りてきたときに1話の次に脳内に降りてきたシーンだったりします。
というわけで武練祭編です。
燦々と日が照る中、ヒュルリと木の葉が風に揺れ舞う。
渓谷の手前で赤い鎧をつけて対峙する、長髪の男が二人。
一人はうちはの族長・うちはマダラ。
まるでハリネズミのように量が多くてツンツンした黒い長髪を靡かせて、赤い瞳をギラギラと輝かせつつ、壮絶な表情でニィィと笑いながら、低くよく響く声でもう一方に声をかける。その姿は悪鬼羅刹のように見るものの目に映る。
「ハハッ、イイ顔してるじゃねェか、柱間ァ。お前もこの時を余程待ちわびてたと見える」
それに対するは千手の長にて木の葉隠れの里を治める火影、千手柱間。
ストレートの長い黒髪をこれまた風に靡かせながら、男らしく整った顔に真っ直ぐな闘志を乗せて、もう一方よりも爽やかな表情ながらもこの戦いに対する興奮に口角を上げ、好戦的に爛々と輝く瞳で友を見る。
「そうだな、マダラよ。主とこうしてヤリ合うのも、随分と久方ぶりだからな。どれほど強くなったかと思うと……心躍る」
「ハッ、そりゃあこちらの台詞だ」
ブワリ。
滾るあまりか、巨大なチャクラを双方荒立たせ、クツクツと腹の底から込み上げてくる笑いもそのままに、同時にニヤリ。
「行くぜ、柱間ァア!!!」
「来い、マダラァア!!」
そうして忍界最強の火影・忍びの神の異名を取る男と、そのライバルにして友人で、うちはの生きる伝説とも鬼神とも呼ばれる男は、うちはイタチの知る歴史で終末の谷と呼ばれた地にて激突した。
10.火影
木の葉隠れの里が出来てから3年目となる年、夏至の日に開催が決まったその前代未聞のイベントを前に、木の葉中の人々はわいわいと盛り上がっていた。
「おい、聞いたか。夏至の日に行われる第一回・木の葉隠れ武練祭! 目玉はあのマダラ様と火影様の一騎打ちなんだろ? お二人とも共に戦国最強と噂されていたし、どちらのほうが強いんだろうな?」
「ばーか、そりゃあ火影様に決まってる!」
「いやいや、そりゃわからんぞ? マダラ様も、うちはの生きる伝説、歩く鬼神と言われているお方だ。遠くから一度だけ戦っている姿を見たことあるけど、そりゃもうおっかねえのなんの。ありゃ人間じゃねえよ。火影様もそりゃあお強いんだろうけど、オレはマダラ様に賭けるぜ」
そんな会話がそこら中から聞こえてくる。
夏至の日に開催が決定した、火の国木の葉隠れの里主催、第一回武練祭。
名目上は戦神に武芸を奉納するお祭りということになっており、千手の神職を務める巫女姫と、うちはで知らぬものはおらぬ族長の弟イズナによって、まず舞台で剣舞神楽を奉納した後に、火影である千手の当主千手柱間と、うちはの当主であるうちはマダラ両名が、事前に結界を張って見学者には被害が出ないようにした上で、渓谷の前で戦い激突するのだ。
そのイベントを企画したのは、木の葉隠れ祭事企画実行委員会会長を勤めるうちはイズナその人だ。
イズナは知っていた。
自分の兄マダラが柱間と戦えないことに、日々鬱憤を募らせまくっていたことを。
なにせ、イズナのたった一人残った兄のマダラは……筋金入りの戦闘狂なのである。
本人は平和が来ること争いのない世の中が来る事を祈っていたにも関わらず、皮肉にも血湧き肉躍る戦いこそが何より兄を輝かせる。強者との戦いこそが何より楽しい、そういう人なのだが……残念ながらマダラと良い戦いが出来るものなど滅多にいない。
だって、腐っても戦国最強説流された片割れの一人だ。そこらの上忍レベルではとてもではないがお遊戯にしかならないし、S級任務も子供のお使い感覚でこなしてしまううちはが誇るハイスペックバトルマニアなのである。
そんな兄が人生で最も充実を感じる瞬間とは何か?
可愛い娘をあやしている時?
違う。嫌いではないだろうが、そうじゃない。
友と酒を飲交している時?
まあ、楽しくないとは言わない。其の証拠に表情はいつになく緩んでいる。
弟と一緒に月見としゃれ込んでいる時?
月光浴を好むだけあり、最愛の弟と方や月見酒、方や月見団子を手に過ごす時間をそれなりには楽しんでいるかと。
だが正解は……柱間と殺し合っている時。
そうなのだ。マダラにとって柱間は友であるが、それ以前にライバルでもある。負けたくないと思うけど、同時に自分より強い、自分を負かせるとしたらそれは柱間しかいないと認めている。
きっと柱間と全力でぶつかって、その結果殺されたとしてもマダラは満足であろう。
柱間と戦い殺し合う瞬間に至福の喜びを感じている。
そういう人なのだ、うちはマダラという男は。
だが、今の2人は敵同士ではなく、千手柱間は守るべき火影様で、マダラは其の右腕で……それはそれで楽しんでいないわけでもない。だって子供の頃から同じ夢を見て、唯一同じ目線で言葉と技を交わした友なのだから。
特に2人で里設立の許可を取るために火の国首都まで共にした旅路は愉しかった。
2人揃って息抜群のコンビネーションで、次々やってくる刺客をちぎっては投げ蹴散らしぶっ飛ばして本当に楽しかった。おかげでそれまで『たとえ柱間相手だろうがやっぱり信じきれねェ』とか思ってたのに、気付いたらそんな感情どこかにいっていた。
あー、こいつ馬鹿だなあなんにも変わってねェやと思ったら、警戒するのも馬鹿馬鹿しくなって、友の……千手柱間という男の腑が見えた気がしたのだ。
それに本当はもう一度、マダラもまた子供の頃のように柱間と馬鹿をやって笑い合いたいと、そんな願望が捨て切れていなかった。その象徴ともいえるものをマダラは弟のイズナから受け取ってしまった。
自分と柱間が決別の時に互いによこした水切り石。「にげろ」「罠アリ去レ」と書かれたそれは確かな2人の友情の徴で、あの時マダラは確かに柱間の腑が見えていた……もっとも弟の危機を前に、それぞれの家のことも考えて柱間を切り捨てたのもマダラなのであったが。
だから、柱間に頼られ、一緒に夢見た集落を現実に変えて歩み、時には酒を飲交す今の在り方も嫌いではない……が、物足りなくはある。
何故ならマダラが全力でぶつかることが出来るのは、本気で相手になるのは柱間だけだからだ。
(柱間と戦いたい……)
酒を飲交しながら、時々かつての柱間との戦いを夢想したが、それでも立場的にお前と全力でまたヤり合いてェななんて、そんなことは言えなかった。
そうしてフラストレーションを溜めていた矢先に弟に言われたのだ。
『来年の夏に武練祭というイベントを考えているのですけど、マダラ兄さん、その祭りの目玉として火影様と戦いませんか?』
その言葉に気付いたら一も二もなく頭を縦に振っていた。
実際に次の上役会議の時に弟は、イズナはそのイベントの概要とメリットを訥々と語り、きっちりとわかりやすく纏められた資料と共に、お偉方から許可をしっかり捥ぎ取ってきた。
柱間とまたヤり合える。
そのことにどれだけマダラが歓喜し興奮し、夢見るほどこの日が来るのを心待ちにしたことか。
酒を飲交しながらダベるのも嫌いじゃないけど、柱間との殺し合いこそがマダラにとって一番の悦びだった。
もう一方の主役である初代火影様であるが、命の奪い合いが含まれぬ勝負なら、柱間もまたマダラと戦うことは大歓迎なのである。
何せ2人の出発点は水切りのライバル。
あの戦乱の世に、自分と同じように世の中を変えたいと願う馬鹿な子供が他にいたと知って、しかもそれが自分とは別の一族で、柱間はとても嬉しかった。マダラの存在を天啓だと思った。今でも柱間はマダラとの出会いは自分の運命だったと信じている。
だが、同時に忍びとしてはライバルでもあると、柱間だって認識している。
マダラと技を競い合い、夢を語り合ったあの日々は今でも柱間にとって心の宝物だ。
大切な友であるから、だからマダラの命を奪いたくない。
だってマダラとの出会いは天啓だったと思っている。マダラがいなくば、里の夢もなかった。
同じ夢を抱いた友を、優しくて繊細で家族想いなこの友人を失いたくなどない。
だから、戦場でマダラと対峙することには憂鬱を覚えた。敵同士として過ごす日々は柱間の心を苛んだ。心底和解出来る日が来ることを願った。柱間はマダラと殺し合うことが嫌だった。写輪眼を発現するほどに自分を切り捨てることがマダラにとっても苦痛なのも知っていたから、尚更その手を諦めたくなかった。ただ、戦い合い殺し合い続ける日々を終わらせたかった。
だが、幼少の砌、マダラと切磋琢磨してたあの遠い日に抱いていたのは充足感だ。
馬鹿なことを言って、笑い合って、それから技を競い、忍び組み手を交わしたあの日々は本当に楽しかった。つまり、命の取り合いでさえなければ、柱間もまたマダラと戦うことは大好きなのだ。
あれからどれだけ強くなったのかを考えるとわくわくする。
それに両者の力に差はあれど、柱間と真っ当に戦えるのがマダラだけなのもまた事実なのだ。
火影としての仕事で書類仕事に忙殺される日々に、自分で選んだ道といえど鬱憤をため込んでいたのも事実だ。それが堂々とマダラとまたヤり合えると知った忍びの神のテンションはうなぎ登りに上がり、いつもは遅々として進まないことも多い書類の塔をバリバリと片付けはじめた。
そんな兄を見て弟は一言。
「能力はあるのだから、いつもそれくらい真面目に仕事しろ兄者」
と、そんな辛辣な言葉を吐いたとか吐かなかったとか。
とにかく命の取り合いでなくマダラと戦えるということは、柱間にとっても浮かれるくらい楽しみなことなのであった。
一方そんな風に浮かれる火影様とその右腕に対し、ピリピリしているのが木の葉結界班を率いる山中一族当主だった。
「これより、武練祭で使用する結界術の演習を行う!」
「「「はっ!!」」」
そのイベントの知らせと、正式に決まった企画書の写しを渡されたとき、山中一族族長の胸に襲ってきたのは、マジかよ……という感想だった。
自分の一族以外は敵が常の忍びとしては珍しい事に、山中・奈良・秋道の三家は猪鹿蝶として元々コンビを組んでおり、一緒に活動する仲であった。
そんな中、あの不倶戴天の敵同士で最強と言われたうちはと千手が当主の代替わりを期に手を取り合い、国の許可をもぎとって一緒に忍び里を興したと聞いたときは、なんの冗談かと思ったのも記憶に新しい。けれど、其の噂が真と知ると、奈良家当主と秋道当主と話し合い、その忍び里に加えて貰えないかと交渉することが決定したのだ。
猪鹿蝶の頭脳は奈良家だ。
その為奈良家当主に代表として交渉にいってもらったのだが、意外や意外。
なんの駆け引きもなくあっさりと千手柱間に「良いぞ!」と返事をもらい、かくて猪鹿蝶の三家は猿飛・志村に続く三番目に木の葉隠れの里に加わったのだ。
おかげで自分たち三家は里の幹部も幹部。
山中一族は里の結界・防衛関係の仕事の代表職を振られることとなった。
まあ、木の葉隠れ参入時点では妥当な割り振りではあった。
が、その時に比べ随分と木の葉隠れの里に参入する氏族の数も増え、山中一族よりも結界術に長けた一族も中には混ざっている。なので、この役職がちょっと身に余るなあ、と思っていた矢先のこれである。
まず、武練祭にはいくつもの目的がある。
一つには、うちはマダラと千手柱間のガス抜き。
木の葉隠れの里が出来て以来、この2人は碌に実力を発揮する機会もなく、鬱憤をため込んでいた。特に戦闘狂であるマダラは、最愛の弟もいるにも関わらずつい石碑に書かれていた道にフラフラしそうになったくらい、全力で戦う機会がないことに内心滅入っている。
はじめ、山中家当主や秋道家当主などが議会の際に、うちはイズナに質問をしたのだ。
「わざわざ木の葉から離れた渓谷に移動して開催せずとも、闘技場で戦えば良いのではないか?」
それに対して、イズナは静かに首を横に振り答えた。
「闘技場では兄と火影様が力の十分の一も出すことは叶いません」
……と。
2人が全力で戦うには狭すぎるのだ、闘技場だと。それに、そこを守る結界となると円形状で張ることとなるが、そんなやり方では結界班は10秒も持たない。神への奉納という意味でも失礼にあたるでしょう。といつも通り冷静にうちは族長の弟は解説した。
一つには、祭りを行うことにより経済の活性化と商人の呼び込み。
祭り当日は、渓谷の上の広場で有料の三段座席と、無料の立ち見席を用意するそうだ。それから木の葉と祭りの開催地の間をつなぐ形で、出店などを格安の出店料で出させる。
丁度夏至が開催日だ。
万が一にも熱中症で倒れないよう、見学席の上には日差しを遮る大きな簡易屋根をとりつけ、下忍相手のDランク任務として、当日交代交代で団扇で風を観客席に送り込む仕事を依頼書として出すとのこと。
まあ、ようは人力扇風機だ。
団扇で延々と風を起こし煽ぎ続けるには体力も忍耐もいる。風遁の適正のあるものが自力で行うにしても、風量の調節など繊細なチャクラコントロール技術を要求されることとなるだろう。なのでその辺を鍛えさせるのに良い機会だろうと、イズナはそう説明した。
因みに夏至を開催日に選んだのは、その日が一番火の神に近づく日だから、火の国の行事として縁を担ぐには良いだろうとのことだそうだ。
尚、席料や出店料などこの日の売り上げは必要経費を除き、全てアカデミーの運営費用と孤児達の支援金に回されるのだそうだ。
一つには、抑止力の誇示だ。
血で血を争う戦乱の世は、3年前のうちはと千手による和解と忍界初の忍び里システムによって終焉を迎えた。そして、木の葉隠れの里をモデルに各国でも忍び里の形成がブームとなり、今や歴史の転換点にきている。
そうして各国の実力が拮抗した時、どうなるか……一族単位から里単位に変わった大戦争の始まり……になる可能性がある。勿論、折角泰平の世が訪れたというのにそう易々と戦国時代に逆戻りする気はないが、何の手も打たなければ笑えないことにそうなる可能性が否めない。
それを奏上したのはうちはマダラだったが、そんな兄に対する弟の言は「そうならない為に努力するんですよ」とのことで、これもまたその為の一環なのである。
さて、敵に攻め込まれないようにするには一体何が有効であろうか?
平和を謳って自分たちは争いませんみんな仲良くしましょうなんて言って、うんそうしようなんて言う奴がどこにいる? いると思うのならそいつの頭にはお花畑が咲いている。
政治もまた、武力を介さない戦争なのである。
故に必要なのは抑止力の誇示だ。
自分たちにはこれほどの力があると、襲いかかったらどれだけ痛い目に遭うのか、どれだけ損害が出てデメリットが多いのか、それを判らせるのが近道だ。
だからといって襲いかかられてもいないのに、先手必勝とこちらから襲ってはこっちが悪人になるし、本末転倒だ。それに窮鼠猫をかむという言葉もあるし、相手に痛みや損害を与えるようなやり方をすれば、恐怖や恨み怒りなどによって何が何でも相手を潰さねばと思い、敵の敵は味方理論で一致団結して木の葉隠れの里に攻め込まれるかもしれない。
それでは意味がないのだ。
そこで、火影とその右腕の戦力を神への奉納をお題目として、堂々と見せつけることが出来る武練祭である。武力行為ではない、あくまでも祭りの一環だ、と言われたら他国に口を挟む隙はない。
柱間は強い。どれくらい強いかと言われたら、お前もう人間じゃないだろってレベルで、山を割り地形を塗り替えられるレベルで強い。
マダラも強い。何せこっちも余裕で地形とか塗り替えられる。おまけにバトルジャンキーで、戦場で嬉々として長い髪を靡かせ縦横無尽に駆け巡る様は、まさに鬼神の如き有様だ。
なら、見せつければいいのだ。其の強さを。
だから、祭り当日は他国のスパイも沢山入るだろうが、気にせず見せつけてから帰せばいい。ついでに財布の中身を沢山落としていってくれたら万々歳だ。
柱間とマダラの戦いは既に神話の粋に迫ろうとしている。同業者から見ても、実際の2人の戦闘力は突き抜けすぎてて、まんま報告すれば巫山戯ているのかと疑われるだろう。
だがどうだ? 全ての間者が同じ報告をすればどう思う? 目撃者はいくらでもいるのだ、こちらは2人の武力を隠す気などない。
さすれば気付くはずだ、木の葉と戦争する無謀さを。
敵にまわすことがどれだけ馬鹿馬鹿しいのかを。
当日は火の国の大名子息夫妻や、初代火影の舅にあたる渦潮隠れの長も賓客として訪れる。
彼らにもどれほどの戦力があるのか見せつければいい。
これほどの力があるのだと納得すれば、まわされる依頼の数もまた増えるだろう。木の葉隠れの里の良い宣伝になる。
一つは、木の葉隠れ結界班に経験値を積ませ、全体の力の底上げをさせること。
結局の所、何事も実践に勝る経験はなく、それが火影とその右腕の戦いを防ぐとなるととんでもない経験値となるだろう。
当日は、渓谷を守るように半円形状の結界を10人体制の3組30分交代で、一部5分ほど時間を被らせながら行うことになっている。
その時結界術は衝撃を逃がす形で張るのが基本だ。とりあえず、結界班は崖下、観客達は崖上という配置だが、無理にマダラや柱間の技を受け止めようとすれば、どれだけ強固な結界を張っていようとあっという間に壊れてしまう。なので、そらすように半円形状に張り、結界班はただ観客がいる木の葉方面さえ守れればそれでいい。
大体マダラと柱間の戦いで地形が変化しないと思う方がどうかしている。
なので客人達にさえ害が出なければそれでよいのだ。なので結界が張っていない部分がどれほど無茶苦茶になろうとも、当日は其の周辺に立ち入り規制だけかけてイズナは構わない方針だ。
大体そうでもしなければ兄とその友人は全力などとてもでないが出せない。
とはいえ、これはあくまで祭事である。
故に制限時間は2時間までと決められており、それを過ぎれば雇った楽団の大太鼓の音によって終了の合図を出し、兄達が和解の印を結ぶことでイベントの終了とする。
それが夏至の『武練祭』の目的の全容である。
というわけで山中家当主はその結界班の結界術が、当日使い物になるよう鍛えねばならない立場だが、要人も観戦に来るとのことなので、気が重い。
でも、やるしかないのだなんとしても。
まあ、それでももし万が一結界班の結界に当日問題があれば、要人の歓待という形でVIP席に座る初代火影千手柱間の弟である千手扉間と、うちはマダラの弟にして木の葉祭事実行委員会会長のうちはイズナがなんとかするそうだが、極力出来ればこちらに頼るな、死ぬ気でやれとのお達しなのであまり当てにするわけにはいかない。
そんな結界班達の額には木の葉を模した額当てが揃ってつけられている。
これが出来たのは半年前。
木の葉隠れの里も興って3年目に入り、随分と里も大きく所属する忍びも数を増やしたので、何か木の葉隠れの里の忍びであることを証明する揃いのものがいるのではないかと、言い出したのは当の里長火影様である。
そうして出来たのがこちら、木の葉を模した額当てで、これからはこれをつけたものが木の葉の忍びの証となる。それを聞き、試作品が出来て火影室に持ち込まれ、真逆の反応を示したのはうちはの兄弟だ。
兄のほうは「え? こんなダサいのつけるのかよ? マジかよ……」って言わんばかりの反応に対し、逆に弟のほうは嬉々として額宛を頭部につけて、上機嫌に木の葉マークを撫で回していた。
マダラは目つきも悪いし口も悪いが、こう見えて教養はしっかりたたき込まれているし、風流人なのだ。
衣装にはこだわりがあるし、粋を理解している。趣味は鷹狩りだし、月光の元詩を詠んで月見酒と洒落込むのも好きだ。そんな彼から見たら、この木の葉を模したみんな揃いの額宛は「ダサい」の一言。
だが、イズナの感想は違う。
たとえS級犯罪者として汚名を被り里の闇を押しつけられたとしても、それでも木の葉隠れを愛した忍び……それがイズナの前世であるうちはイタチという男の人生だった。だから、たとえ里を抜けてその証に額宛に傷を刻んでも、イタチは死ぬまで木の葉隠れの額宛をつけ続けた。それがイタチの誇りだったから。付け続けた額宛は彼の故郷への愛の証だ。
転生し、今の自分はイズナであってイタチではないけれど、それでもその想いを受け継いだのだ。
イズナにとってこの額宛はその証明だ。
それを今世でも額に巻けるのは誇らしく嬉しいことなのである。
なので正直マダラは「こんなダセえのつけたくねーな」が本音だったけど、弟があんまり嬉しそうに額宛をつけるものだから、自分はつけねえなんて言えなかった。ただ、せめてもの抵抗として、頭につけるのではなく腰帯代わりに帯の上に巻くことにしたのだが、それでご容赦願いたい。
そうやって額宛で一族の垣根を越えた統一化を図ると共に、忍びシステムも段々制度が整ってきた。
上忍、中忍、下忍でまずランク分けされることに決まったが、アカデミー卒業者は下忍からスタートすることに決まり、正式に下忍になったもの全員にこの額宛が支給されることとなった。
そして現時点では誰を上忍と中忍にするのかはそれぞれの一族ごとに、能力を判断して族長が任命して火影に承認してもらっている状態だが、今後のその形態でいくわけにもいくまい。
そこで今度からアカデミー卒業者は上忍師と組んで4人一組のフォーマンセルを基本として活動し、その実績に応じて、半年に一度開催予定の中忍試験の合否でランクの昇格を出来る制度とすることになった。この辺を整えたのは山中一族と同じく木の葉隠れ古参参入組の猿飛家である。
そして中隊長として働ける能力があるものを中忍とすることに決まったわけだが、ランクが変わればそのことが一目でわかる方法があったほうがいいのではないかと、今議論されている最中だ。
揃いのベストがいいのではないかとまあそんな感じで会議には上がるが、正式に決定するにはもう暫し時間がいるのかも知れない。
そして中忍から上忍の昇格であるが、一定数の高難度任務の達成と上忍2人以上の推薦で上忍に昇格するとした。
まあ、そんなわけでこうして皆揃いの額宛をつけて、来る武練祭に向け訓練を続けているのであった。
* * *
そうこうしているうちに武練祭当日が訪れた。
今日もまた良き日柄で……を通り超して真夏日でとても暑いのだが、それ以上に火の国初の試みにわいわい集まった人出の熱気がこれまたすごい。
木の葉から舞台となる渓谷と、そこより1㎞ほど離れた地点に設置された神楽用の櫓舞台……こちらも立ち見は無料であるが、座席は有料である、を前に人々は今か今かと演目を待っている。
祭りの開始は昼の2時。
まずは祭りの開始の挨拶と、その後にうちはイズナと千手の巫女姫による剣舞神楽が20分ほど、楽団による雅楽の演奏と共に行われる。
そうして約1時間後、3時半から渓谷のほうで初代火影である千手柱間とその盟友うちはマダラによる対戦が戦神への捧げ物として行われる。
その為、左右端の観客席を挟む形で戦神の像が飾られている。
そうして決着がつく……もしくは2時間が経過することによって和解の印により、祭りは終了となる。
その渓谷から木の葉に向かって2~3㎞離れた地点に簡易宿泊施設を用意しており、寝泊まりが可能だ。祭り前後3日間だけのみの出張営業という形で、遊女や、小さいながら賭博所も置いてある。
親子連れもいるであろうから、そういった大人の楽しみを出来る宿は揃って右側の通り、家族連れなどで楽しめる施設は左側と分けることになっている。また、要人・賓客用の宿は万が一があってはならない為護衛の忍びも配置させるし、他の簡易宿泊施設と違ってしっかりした造りとなっている。まあ、其の分一般人がそこを使用するとなるとお祭り価格なのもあってお高いのだが、簡易宿を選ぶもきちんとした宿を選ぶも個人の自由である。
そして、神楽が始まった。
シャンシャン、と涼やかな音を立てて、美しい黒と白の男女2人が舞台の上に姿を現す。
正面右に見えるは、白い巫女装束に緑の隈取りをし、髪を高らかに結い上げた千手の姫御子。
対し左に見えるは、伝統的で古風な黒きうちは装束にいくつもの飾りをつけ、姫と揃いの意匠をした赤い隈取りをし、これまた姫と同じく髪を高らかに結い上げたうちは族長の弟。
顔に施された化粧のせいだろうか、それともその装束と奏でられる太鼓や笛の音の効果故か、揃いの鈴のついた飾剣を左右対称に携えた男女2人は、まるでこの世のものでないように神々しく美しい。
シャンシャンと、髪飾りと剣に取り付けられた鈴の音が涼やかに鳴る。
まるで巴を描くように、まるで2人で1つであるかのように、白き女が舞い、黒き男も舞う。
長い袖と取り付けられたいくつもの飾りがひらひらと蝶のように舞い踊り、人々を幻想の世界へと誘う。剣と剣を合わせる動作ですら、一つの絵のようにいつまでも見ていられるほど美しい。
琴が鳴る。
笛が響く。
シャンシャン、シャンシャンと清涼な鈴の音が夏の暑ささえ忘れさせる。
誰もがそこに神を見た。
本当に、恐ろしいまでに美しいひとときだった。
最後、2人揃って礼を取る、それを見て人々は息をするということを漸く思い出した。
次の瞬間喝采が沸いた。
「凄かった」
「ああ、国に帰ったあともこれは自慢できるぞ」
興奮のままに観客は喋る。本日の目玉は忍びの神とうちはの鬼神の一騎打ちである。そう皆思っていたし、それは正しい評価である。だが、その前にこんな素晴らしいものが見られるとは思っていなかった。
結局こんなものは前座に過ぎない、そんな予想は良い意味で裏切られた。
きっと何十年も練習してきたんだろう、そんな風にこの世の芸術の極致を見たとばかり賞賛している観客は知らない。
実は、この剣舞神楽の練習など、忙しさを理由に一度しか通して行われていなかったことなど。
千手の巫女姫とリハーサルの時に行って、彼女の演舞を目で見てコピーしたあと、通し稽古であまりにイズナが姫の踊りにピタリと合わせて完璧に熟すものだから、あ、こいつ練習いらないなって思われたことなど……天才というのはいるものなのである。
そうして渓谷に舞台を変え、いよいよ千手柱間とうちはマダラの戦いが始まる。
だがまあ……わかっていたことだが、奴らの戦いは次元が違った。
「柱間ァ!!」
「マダラァア!!」
そんな風に互いの名を呼び合いながら、爛々と目を輝かせ、活き活きと口角をつり上げながら、非常に楽しくバトルする火影とその右腕。地面は抉れ、岩盤は吹き飛び、木の巨人と青いチャクラで出来た巨人が大立周りを演じている。
大規模火遁が広範囲を焼けば、負けじと大木が花を咲かせながら相手に襲いかかり、「うちは返し!」なんて言葉と共に放たれたうちは族長の大団扇が巨大な風を発生させぶわりと花粉を巻き上げる。
その姿、はっきり言ってどこの怪獣大戦争。
いやいや、これが同じ人類とかおかしいでしょ! って話であり、案の定紛れているスパイ連中は顔を青くさせるばかり。
逆にここまで巨大な力だと現実感が薄れるのも確かで、エンターテイメントとして火の国大名の子息夫妻は「ほぉーほぉー」とキラキラ目を輝かせている。まるっきりヒーローショーを見ている子供が如き反応である。規模がでかすぎて、これがガチバトルということを理解出来ていないのかも知れない。
その隣に賓客として座っている渦潮隠れの里長は、「……柱間殿が娘婿で良かった」と引きつった青い顔でつぶやき、その更に隣の席に座っている火影夫人は「フフ……柱間様とマダラ様、楽しそうで良かったですわ」とニコニコ笑っている。わあミト強い。尚、マダラの嫁は「面倒」の一言で欠席した。
そして、兄嫁とよく似たニコニコ顔で自分の隣に配置されている男を見て、呆れを隠せぬ白髪赤目の火影の弟が1人。
「随分と嬉しそうだな……」
「ああ、嬉しいとも。兄さんは、火影様と戦っている時が一番活き活きとする。あの人が幸せなら、オレも嬉しい」
そう暖かく見守るような目で2人の戦いを見ているのは、うちは族長の弟であり、先ほど見事な神楽で観客を沸かせた当人のうちはイズナだ。
それを見て、内心でつい扉間は突っ込む。
(なんでおぬしは弟を見守る兄みたいな視線をしとるのだ。弟なのはおぬしだろうが……!)
扉間は前から気付いていた。
イズナはマダラの末の弟であり、マダラが兄でイズナが弟である、間違いなく。
なのに何故かこうして、時折兄が弟を見守るような視線をマダラに向けているということに。
自身が兄でもあり弟でもある立場だからこそ扉間は気付いた。
(本当に不可解な所の多い男だ……)
しかし扉間にそのことを追求する気はない。
この男は自身の兄と同類であり、同じく里を守り、子供達の未来を思う同志だ、ならばそれだけわかれば十分だと扉間は思っている。
戦いを眺める。
扉間の目から見ても、とても忍びと思えぬ怪獣大決戦の如き兄達は活き活きと、童が泥遊びに興じるが如く楽しげに戦い続けていた。
* * *
結局柱間とマダラの戦いは時間内に決着がつくことはなく、三度響いた大太鼓の音色によって終わりを告げた。それまでの激しい戦いが嘘のように、ピタリと戦いをやめた双方は和解の印を結ぶと、揃って疲れを感じさせぬ優雅な仕草で礼を一つ、途端拍手喝采の大歓声で、大好評のまま第一回木の葉武練祭は終了を迎えた。
そうして武練祭は千手柱間が火影の座を退くまで毎年夏至に続けられた。
その度に忍びの神とうちはの鬼神はドッカンドッカンと怪獣大戦争を繰り広げたわけだが、10周年となる年、大名一家が揃って見学に来たその日、うちはマダラがどこぞで捕まえてきた九尾を口寄せで引き寄せた時は、尾獣を知るもの達は揃ってあんぐり口を開けた。
「九尾を連れてくるのはありなんぞー!?」
「煩ェ! 口寄せを連れてくるななんてルールはねェ!!」
とかって口論にもなったが、須佐能乎纏った九尾よりでかい木龍を出す柱間も柱間で大概である。
尚、その後九尾は柱間の妻ミトに封印され、火影と其の右腕による男2人ぶらり旅によって各地にいた尾獣達が次々捕獲され、第一回五影会議の時に柱間が尾獣の分配しようと言い出した時は、木の葉上層部の人間も閉口せざるを得なかった。
因みに、武練祭の後火の国では九尾たんぬいぐるみや、九尾たん饅頭、須佐能乎纏った九尾人形などが売れまくったそうだが、まあおかげで火の国の経済が活性化したので結果オーライという奴であろう。
* * *
『火影になった者が皆から認められるんじゃない。皆から認められた者が火影になるんだ』
その言葉を言ったのは前世にあたるうちはイタチであったが、今イズナはしみじみとその時の言葉が自分に返ってきてしまったことを実感している。
「イズナ様ー! おめでとうございます」
「二代目火影様万歳!!」
次々に振りかけられる言葉の中、陽気にガハハハと笑いながら14年と半年ほど火影を務めた先代火影……千手柱間が言う。
「欲を言えばマダラの火影姿も見たかったのだが、うむ、イズナ殿であれば安心して後を任せられるな! マダラの弟ならオレの弟も同然よ! 火影はこれで引退となるが、何かあればどんと頼るが良いぞ!」
続いて、兄が言う。
「イズナ、本当におめでとう。柱間の奴が着てるときはなんてダセえ格好だと思ったもんだが……お前には似合うな。まあ、困ったら柱間に頼らずともオレが支えてやるから無理はせずに頑張れよ」
それから、白い髪と赤い目をした先代の弟は「心配はいらんだろうが、まあ期待している」とだけシンプルに纏めた。
「イズナ、二代目火影就任おめでとう」
こうしてこの日、里中の民に祝福されて、木の葉隠れの里に新たな火影が誕生した。
うちはイズナ29歳の春のことだった。
続く