転生したらうちはイズナでした(完)   作:EKAWARI

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 ばんははろEKAWARIです。
 あと三話で完結すると思ったのに、例によって予定の所まで一話で終わらなかったので二話にわけました。
 なんか今回はオビトのお祖母ちゃん回。
 次回こそプロフェッサー猿飛ヒルゼンが出演する筈。お楽しみに?


11.受け継ぐもの其の壱

 

 

 夏の暑い日、火の国木の葉隠れの里からほど遠くない渓谷で、向かい合わせに2人の男が立っていた。

 1人は裾の長い墨色のうちはの戦闘装束に、白と赤を基調とした長衣と、赤い髪紐で一つに結わえた黒髪を風に靡かせている。

 色白の肌、三つ巴を映し出した鮮やかな赤い目はどこまでも静謐を湛えており、人の奥底の心胆まで見透かすようだ。通った鼻筋にぽってりと厚めの唇、そこそこの上背はあるが三十路近くなって尚、細身の体躯をした中性的な美丈夫。其の額には木の葉の額宛がしっかり巻かれ、長衣の背には「二代目火影」と鮮やかな緋色で刺繍されている。

 そう、彼こそが木の葉隠れの里が誇る二代目火影、うちはイズナ。

 対するは、白髪赤目をした強面の男。ガッシリとした体格に切れ長の一重の目は、男らしさを感じるつり目がちな三白眼。色白の肌に両頬と顎中央にある計三本の赤い線が特徴的だ。全体的に色素が薄い。

 黒い戦闘衣装の上に青い鎧を身につけており、首回りの白いファーが暑そうだ。額宛と一体型の面頬をつけており、こちらも額部分には木の葉のマークが刻まれている。

 彼は先代火影の実弟にして、木の葉隠れ忍術研究所の所長兼忍者アカデミー初代校長の、千手扉間である。彼は自分……正確には、自分たちと呼ぶのが正しいわけであるが、に崖上から注がれる数多の視線に、ムッツリと不機嫌気な表情を繕うこともせずに、同じ境遇の男に向かい言う。

「……戦いを見世物にされるのは、どうも慣れんな」

 その言葉にイズナも思わず苦笑する。

 それから凪のような静けさを思わせる微笑と物腰のまま、小川の(せせらぎ)のような落ち着いた声で言う。

「何かあれば手伝うと言ったのはアナタだぞ」

「む」

 そう言われると、文句も言えなくなる。

 そうやって生真面目にもムッツリ黙り込んだ男を前に、今代の火影となった男は、ククッとおかしそうに邪気のない……されど静かな笑みを浮かべると、眩しそうに目を細め、軽やかに言った。

「オレ達は、一蓮托生なんだろう?」

 ……それは扉間が10ヶ月ほど前、うちはイズナが次の火影に決定した、上層部会議直後にかけた言葉の引用であった。

「……行くぞ」

「ああ」

 

 

 

 11.受け継ぐもの其の壱

 

 

 来年の春の訪れをまって、木の葉隠れの里の創設者たる初代火影、千手柱間が引退する。

 そのことが正式に議会で決定したのは、11回目の武練祭が終わった2ヶ月後のことだった。

 まあ、前から柱間はそろそろ次代に引き継ぎたいな~っとさり気なく遠回しに自己主張していたのだが、その前年の勝手に弟達に執務押しつけて、マブダチのうちはマダラと一緒に尾獣探しのブラリ旅と、勝手に捕まえた尾獣達を他国に無料で分配未遂事件……扉間による軌道修正によって各国に買い取らせた、の事件のせいで、上層部に散々突き上げられたのが決め手だったと言っていい。

 では誰が次の火影になるのか。

 柱間の引退が発表された会議で、誰かがあっさりとごく自然な様子で言った。

「そりゃイズナ様しかいないでしょう」

「うむ、そうだな」

「イズナ君なら安心だ」

「二代目火影がイズナ様なら大名や役人達も諸手を挙げて歓迎されるだろう」

 ……議論する余地もない程に満場一致の可決であった。

 マダラは「流石オレの弟。イズナなら当然だ」と思ってそうな顔で兄馬鹿宜しくうんうん頷いているし、別世界で二代目火影となっていた千手扉間は、「まあ、妥当だろう」と思っていつもの調子で腕組みしながらムッツリ黙っていた。柱間は暢気な空気を振りまきながら「おお、次の火影はイズナ殿か」などと思いながら朗らかに笑っている。

 この場で戸惑っているのはイズナ本人だけである。

 とはいえ、うちはイズナは多少天然ボケの気はあれど空気の読める人間だったので、内心の戸惑いは全く表に出さず、いつも通りの涼しげで上品な微笑みを浮かべて進行を見守っていたのだが。

 かくて、うちはイズナが木の葉隠れの里二代目火影に決定した。

 

 

* * *

 

 

「オレは……次の火影はアナタだと思っていた」

 会議が終わりゾロゾロと役員達が退出する中、イズナは白髪赤目をした初代火影の弟に向かって、話があるとばかりの目線を注ぎ、それに気付いた扉間と共に彼の執務室に入ると、そんな言葉を部屋の主に向かってかけた。

「ワシが?」

 その言葉に強面は変わらないながらも、扉間は不思議そうに片眉を上げる。

「おかしなことを……ワシよりも適任のものがおるというに、何故ワシが継ぐ必要がある」

 口に出して言ったりはしていないが、実際問題として扉間はうちはイズナこそが兄の跡を継ぐに相応しいと認めていた。

 うちは一族自体に対しては正直今も不信は抱いている。その写輪眼の仕組みを思えば、危惧して当然だ、とは扉間の言い分である。里から危険を遠ざけるのが自分の役目と自負していた。故に、圧倒的な強さと同時に危うさを抱え込んでいるうちはマダラなどは時限爆弾のようにしか思えず、どんなに兄や自分も認めるイズナが擁護しようと、いつか里に仇なすのではないかと猜疑心を止めることは出来ない。

 万華鏡写輪眼まで開眼しておいて、完全に自分の感情を抑制しコントロール出来るうちはイズナのような男のほうがレアなのだ。

 闇を見ても闇に引きずられず、痛みや悲しみ苦しみを知りながらも光を信じ、人を信じることを知っている。自分の夢を、子供達の未来を現実的な手段で解決しようと模索し実行出来る。一族の垣根に囚われることなく里人達を心から我が子を想うように慈しめる。そんな男だと認識しているからこそ、扉間はこの男ならば兄の跡を託せると思ったのだ。

「ワシにはアカデミーの校長と研究所の所長だけで十分よ。まぁ、近々上忍師として弟子を取ろうとは思っておるがな」

 そう、冗談めかして言う。

 まあ、元々表情がそんな変わるほうではないので、口角が薄ら上がったくらいなのだし、声音はそんなに変わって聞こえないのだが。

「……何かあれば声をかけろ。手伝いくらいするのは吝かではない。お前が表から里を背負うなら、ワシが裏から支えるくらいはしてやる」

 ポンと自分より少し年下の青年の肩を叩く。

 ……思えば、この男とも長い付き合いになる。はじめは敵同士だったが、されど今は同じ未来を見、同じ方向へ歩む(ともがら)であると思っている。

「ワシとおぬしは一蓮托生だからな」

 そういって扉間は、木の葉隠れ発足以来里を支え続けてきた術開発の天才は、目尻を和らげ、薄い唇の口角を上げて、男臭く微笑った。

 

 

 * * *

 

 

 さてさて、三十も半ばと男盛りな時期に火影を引退した千手柱間であったが、彼が火影を引退してどうしているかと言われれば、滅茶苦茶充実した日々を送っていた。

 これまで火影業が忙しくてあまり構えなかったから! を理由に子供達を構いまくったり……尚、子供達にはウザがられた。長男に修行をつけたり、趣味の盆栽の世話をしたり、庭造りにこだわってみたり、気まぐれから家庭菜園に手を出してみたり、禁術の編纂をしたり、書を嗜んだり……意外かもしれないが、柱間は達筆なのである。

 他にも趣味の賭け事で有り金全部巻き上げられて、弟の扉間にお説教されて連れ帰られたり、息子に花札教えるついでに賭場に連れて行こうとして、「お前砂利相手に何考えてんだ」といつもは自分に甘いはずの友まで冷たい目をして、弟の扉間とタッグを組んで叱ってきたり。

 またある日は、友人にして相棒のうちはマダラと共に超難関S級任務を散歩でもするようなノリで受けて出かけていったり、マダラの趣味に付き合って一緒に鷹狩りに行ったついでに、川魚を素手で捕まえて弟の扉間のお土産にしたり、土砂崩れで川にかかってた橋が壊れて困っている村の話を聞いたら、そのまま出かけて木遁で仮の橋を架けにいったり、マダラと一緒にS級任務受けて暴れたり、暴れたり、やっぱり暴れたり。ヒジキみたいなの生やした刺客を撃退しちゃったり。

 いや、もうこれまでの書類仕事への鬱憤を晴らすかのように、活き活きと好き勝手活動していた。尚、報告書は大体マダラが書いてくれた。

 因みに柱間の子供に関しての話なのであるが、彼は今年、正月を過ぎた頃に第三子に恵まれたのだが、そのことについて一言「子供が生まれるときには九尾の封印が緩むようでなあ、チャクラが漏れておったから慌てて抑えるハメになったものよ。ガハハハ」なんてイズナの火影就任祝いの酒の席で笑い話のように言い出すものだから、その場の空気が凍った。

 なんでそんな重要なことを言わなかったんだ、ふざけんなこの馬鹿と上層部に散々責められた初代様は威厳もなく縮こまり、ズゥウウンとその日一日鬱陶しくもキノコ生やして、嫁にヨシヨシされて過ごしたんだそうな。

 

 

 * * *

 

 

 まあ、火影が代替わりするも元々イズナが二代目を継ぐだろうというのは、木の葉隠れでは半ば常識のように思われていたので、特に火影交代の混乱や不安などもなく、するべき仕事をこなしていればそのうちに武練祭の時期が来た。

 今年から武練祭の剣舞神楽を奉納するのは、うちは族長マダラの長女にしてイズナの可愛い可愛い姪っ子と、先代火影千手柱間の長男だ。

 射干玉色をしたうちは装束の特徴を取り入れた巫女服を纏った齢14の美しい娘御と、千手らしい白い紋袴装束の意匠を取り入れつつも神職らしく纏めた舞い衣装姿の齢12の少年は、去年までの舞手と違い酷く初々しく微笑ましい。

 緊張に少し硬くなりつつも、それでも下を向くことなく必死に前を向くうちはの巫女は、夢叶った感動故かキラキラとその黒曜石の瞳を輝かせている。

 そんな姿を見て、イズナの口元と目尻も思わず緩む。

 

 兄マダラの娘である彼女が、初めて武練祭の剣舞神楽を見たのは彼女が5歳の時のことだった。

 その年の夏、兄嫁はマダラとの2人目の子供を身籠もり、産み月が近いのもあり実家のほうへと戻っていた。

 元々族長であるマダラ宅はうちはのどの家よりも大きく、昼間は通いの女中が2人雇われているし、敷地内の離れにはマダラの弟であるイズナも住んでおり、朝食とタイミングによっては夕食は共にしている。自分がいずとも人手は足りている。そのこともあって家に置いていっても問題ないと兄嫁は判断したのだろう、彼女は自分の出産準備に実家に戻る際に娘を連れて行くことはなかった。

 信頼からきた行動……ともとれるが、娘からしたら母に捨てられた気分だろう。酷くあっさりとした気質の女はうちはにしては繊細さに欠けており、泣き虫で甘えたな娘の心情がわからないらしい。

 別に我が子を愛していないわけではないのだろうけど、まあちょっと……いや大分無神経な所があるのだ、彼女は。

 娘にとって不幸中の幸いは、目つきが悪くて厳つい容姿をした父親は、溺愛というほど娘に入れあげてなくとも、意外にも子守は手慣れていたのと、そのあたりの機微に敏く気遣いが細やかな叔父が身近にいたという点だろうか。

 とにかく、出来るだけ兄弟2人揃っていつもより姪に気にかけて、寄り道せずに家に帰ったし、マダラは友からの酒の誘いも断って、出来るだけ寂しい想いをしないよう娘に構っていた。

 けれど、武練祭の時期は剣舞神楽の舞手であり要人を持て成す役目があるイズナも、武練祭で火影と戦いを奉納する父マダラも娘の相手をすることは出来ないし、母もいず寂しい想いをしている娘一人をあの広い家に置いていくなど、情深いうちはの人間として看過できない。

 故に、姪に父親であるマダラの雄志を見せてあげようという想いもあって、イズナは正式にDランク任務として姪の武練祭への付き添いと子守を、アカデミーを卒業したての下忍達に依頼し、剣舞神楽奉納の時も関係者席に姪を座らせ、自身は役目を果たすために櫓舞台へ向かった。

 結果、姪は初めて見る剣舞神楽を前にキラキラと黒き眼を輝かせて、「おじさま、すごい! すごいすごい! すっごくきれー!! わたしも、わたしもこんなふうにおどりたい!」とピョンピョン飛び跳ねながら大絶賛した。その時から姪の将来の夢は武練祭の剣舞神楽の舞手になることになった。

 イズナの可愛い姪っ子はその後も舞いに対する興奮が抑えきれず、ふわふわ浮き足立った様子で、どんなに自分が感動したのかを一生懸命に叔父に語る。付き添いの下忍達と上忍師はそんな叔父姪2人の様子にほっこりしていた。

 それは渓谷に場所を移動しても変わらず、どうも姪には自分の父親の雄姿よりも、叔父が千手の巫女と舞っていた姿のほうが格好良く素晴らしいものに見えたようで、肝心の父親と初代火影様の怪獣大戦争が如し人外バトルにはあんまり興味を示さなかった。

「わたし、おじさまみたいな、まいてになる!!」

 とのことで、それを聞いたマダラはオレの弟が一番なのは当然だと、兄として誇らしく思うと同時に、1人の父親としては娘に全く興味をもたれなかったことに少し拗ねた。

 キラキラとした目で自分に憧れてくれた、可愛い姪の夢を叶えてあげたいと思わない叔父がいるだろうか? いやいない。

 それからイズナは火影塔に出勤し定時で帰れる日は一日一時間、姪の舞いにおける師となった。

「重心がずれている。もう少し肩を落とすんだ」

「はい、おししょーさま!」

 稽古中は叔父様ではなく、自分を師と呼んで、あまり要領は良くないながらも、一生懸命言われたことを熟そうと必死に努力する姪はとても可愛かった。

 ……正直言えば、イズナには少しだけ残念な気持ちもなかったわけではない。

 この里が出来る前に兄マダラにも語った話であるが、イズナは将来兄に子供が生まれたら、忍術の修行をつけてあげる日を楽しみにしていた部分があった。けれど、実際は忍術の師ではなく神楽を舞う為の師となった。

 だが、まあ……姪の性格を考えれば納得ではあるのだ。

 なにせこの子は兄マダラとあのマイペースな兄嫁の子供と思えぬくらい、泣き虫で内気な心優しい子だ。人を傷付ける力などに惹かれるわけもない。そう考えれば忍以外の夢を抱くのも、姪にとっては良いことなのかもしれない。

 だから、教えられることは教えるつもりだ。なんなら、千手の巫女姫に正式に依頼して、彼女の知る神楽舞いを全て伝授してもらうのも悪くない。幸い、自分なら一度見せて貰えれば大体覚えることが出来る。なので、一度覚えて改めて姪に教えていくのも悪くない……とイズナはそんなことを思った。

 それに忍術の師でなく舞踏の師であれども、師は師である。

 可愛い姪に教え託していくものがあるということが嬉しかった。

 そうして今年から、彼女が武練祭の二代目神楽の担い手となる。

 

 シャンシャンと、鈴の音を響かせながら黒い装束の巫女姫と、白い装束の少年が左右対称に飾剣を掲げながら舞台へと姿を見せる。

 始まれば緊張してた姿はどこへやら、年に似合わず厳かに、しかし若木のような瑞々しさを湛えながらうちはの少女と千手の少年が舞う。まるで巴を描くように、2人で1つの太極を顕す。

 白と黒、男と女、千手とうちは、右と左、上と下。

 太極から生じるは両義であり、陰の中の陰、陰の中の陽、陽の中の陰、陽の中の陽、これら併せて四象と為し、四象は八卦を生じさせる。之、宇宙也。

 シャンシャンと飾りにつけた鈴が鳴る。神に高らかに謁見を申し込むかのように、清涼な鈴の音を立て場を支配する。

 琴が鳴り、笛が響く。

 神よ、ここにあれと、宇宙を体現する。

 舞いは軽やかに、2人で1つであるように。長い袖と裾を靡かせて、ひらひらと。

 指先から振う飾剣の先まで神を宿す。

 ほうとため息をつくほど見事なれど、同時に先代よりも軽やかに、伸びやかに木の葉に芽吹いた若木2人は戦神に捧げる為に舞い踊る。

 どうか、どうかおいでませ、と神への祈りを天へと届かせるように。

 剣舞神楽。

 シャン。

 鈴の音を響かせて、少女と少年はゆるりと礼を取った。

 途端、わあっと歓声が広がった。

「今年の神楽も凄かったな」

「嗚呼。イズナ様が火影に就任し、舞い手が変わると聞いてどうなるかと思ったが、これは金を出すだけの価値があった」

「先代ほどこなれてはいないけど、でも初々しくて良いわよね。2人とも雛人形みたいで可愛いわ」

「オレ、ファンになっちゃったよ」

 そんな声が次々聞こえてきて、姪の初舞台をVIP席から見ていたイズナはそっと控えめに微笑んだ。

「確か、うちはの舞い手は火影殿の縁者であったか」

 眩しそうに目を細めながら姪を見守っていると、そんな風に火の国の大名に声をかけられる。

「はい、我が兄うちはマダラの長子で、私から見て姪にあたります」

「ホッホッホ、流石は『真眼のイズナ』の縁者。年若いながら見事な舞いであった。後で追加の褒美を取らす故、姪御殿によろしく伝えるがよい」

 そんな風に大名はご機嫌そうに笑った。

 

 だが、剣舞神楽が終わったということは、次の演目は火影による武練の奉納である。

 故に舞台を渓谷の底に変え、そこに立つは当代火影であるイズナと、先代火影の弟千手扉間だ。

 見れば、用意されている関係者席前列には、先代火影である柱間と其の息子、イズナの兄マダラと其の娘……イズナから見れば姪にあたるが、ワクワクとした顔で揃って並んで座っている。

 二代目火影としてイズナが武練祭の目玉として戦うと聞いたときから、兄達といえばこんな調子である。

 火影を継いだ以上イズナが祭りの最後に戦うのは当然として、まあ何故扉間が相手に選ばれたかと言われたら、木の葉隠れが生まれる前の戦いでは、戦場で顔を合わせてもイズナと扉間の戦いに決着がつくことがなかったため、ライバルであると兄達に認識されているのもあるし、いつもいつも弟達同士の戦いをしっかり見る機会がなかったため見たかったという兄馬鹿的な理由もある。

 まあ、あれだけ馬が合っているので当然なのかも知れないが、マダラと柱間は全く違う性格性質のように見えて、それでも一部はよく似た同類なのだ。

 扉間から見れば、確かに自分たちの戦いに決着はついたことはないが、実のところイズナはどこか手を抜いていたように感じていたし、トータルでは同格と思っていても、忍びとしてはイズナの方が格上だと思っていたりするのだが。

 兎も角も、静かに対立の印を結んで、2人の戦いは始まった。

 

 そこらの熟練の忍びでも目で追えない超スピードで、両者共に印を組む。

 扉間の水遁が激流のように小さく纏まった分威力を増して飛び出し、それをうちはらしく火遁で相殺するのかと周囲に思わせながら、しかしイズナが出したのもまた水遁であった。

 何故、と普通は疑問に思うのだろうが、しかしイズナは扉間がどういう人間であるのかよく知っているつもりだ。

 水遁と火遁がぶつかったとき何が起こるのか、といえば水蒸気による霧の発生である。視界が潰されれば一見写輪眼があるイズナのほうが有利に思えるだろうが、その心理を利用して意識の外から攻撃を放ち仕留めにかかってくる、そういう男だとイズナは扉間を正しく評価している。

 そうして相殺されても気にすることもなく、流れるような動きで扉間もイズナも次の手に切り替える。その切り替えの鮮やかなこと! 体術に忍術、手裏剣術を問わず、次から次へと出てくる術の応酬は、あっという間に100を超えるのではないだろうか。

 無駄が一切なく、刹那のタイムラグさえ存在しない武技の応酬は、削ぎ落とされた美を感じさせてそれはそれで酷く芸術的である。

 その時観客達もまた理解した。

 怪物の弟は、それもまた只人ではないことを。

 大体にしてド派手で、豪快な兄達の巨大さで陰に隠れがちであるが、そもそもこの弟達2人も兄達2人とは全く別方向の天才である。

 千手扉間は忍びの才としては秀才レベル止まりであるが、合理性に特化し無駄を排したその戦い方こそが何より恐ろしい。人の思い込みの虚を突くことに長けているし、忍界一とマダラに評されるくらいにはスピードも速い。何よりいくつもの禁術を生み出した術開発の天才である。また千手一族だけあってチャクラ量も体力も恵まれているほうだ。

 ……人外に足を突っ込んでいる兄と比べてはいけない。

 うちはイズナは、兄であるうちはマダラ同様忍びとしては天賦の才に恵まれている。幻術・忍術・体術に手裏剣術まで全てが高ランクの超一流とも呼ぶべき使い手であり、そこらの上忍程度ではその高速で結ばれる印を見切ることは出来ず、口寄せ契約を交わした烏を使役し、幻術も絡めて攪乱するような虚と実織り交ぜる戦い方が非常に上手く巧みである。だが一番恐ろしいのはその洞察力と聡明さであり、五手も六手も先を見据えて行動する。常人と比べ最も彼が隔絶しているのは、その視野の広さや在り方といえる。ただ、惜しむらくは体力やチャクラ量といったものはそこまで恵まれているとはいえず、どちらかといえば多いほう止まりなことだろうか。

 その点、あの千手柱間相手に丸一日ぶっ通しで戦い続けられるチャクラ量と体力を誇るうちはマダラと比べれば、残念ながら肉体的には恵まれなかったともいえる。

 それでも、その頭脳に関していえば、弟達は揃って兄達を凌駕している。

 2人とも判っている。

 これがどういう戦いであるのかを。

 これは武練祭。

 戦神に戦いを奉納するお祭りであり、見学者にとってこれはエンターテイメントであり、求められているのはパフォーマンスだ。見応えのある戦いを観客は求めている。

 そして木の葉隠れの里からの思惑としては、火影の武威を他国に示すことに拠る抑止力の誇示こそが重要な仕事だ。間者の戦意を折ることが出来れば、それでこのイベントは成功といえる。

 ……はっきりいえば、扉間はこういう戦いはやりにくい。

 何せ、彼の戦い方はひたすら合理性に特化している。水遁で人を殺すのに大量の水などいらぬとばかりに、チャクラも練らずに圧縮した水針を飛ばす「天泣」などの術に、その理念はよく顕れている。

 最小の労力で相手を効率よく殺す、それが千手扉間の戦い方であるからして、こういうエンターテイメント的な戦い方など、これまで意識したこともない。

 だが、必要性はわかっているし、そもそもその頭脳こそが恵まれた男である。故に、パフォーマンスとして普段は使わないような見た目が派手な術も技の応酬に織り交ぜる。

 次々に繰り広げられる多彩な忍術や体術。

 息の合った技の応酬の数々。

 機能美に特化したように見せて、双方とも観客へのサービスも捏ねて派手で見栄えのする技も混ぜている。

 それをみて、ほうと感嘆のため息をつきながら親子連れでやってきた娘がつぶやく。

「きれい……」

 兄2人の戦いが人間やめた怪獣大戦争で剛の極致であるのなら、弟2人の戦いは技を極めた柔の極致である。其の戦いはまるで一つの芸術のように美しい。

 そして、この2人の戦いに決着がついたのは、開始してから30分ほど経ったくらいのことだった。

 飛神神斬りで貫かれたのは烏分身で、ザァーッと大量の烏が飛び立ち観客の目が眩んだ次の瞬間、緋色の巨人が扉間の体を押さえ、イズナの形良くほっそりした指がピタリと男の頸動脈を押さえるようにかけられていた。

「終わりだ」

 これがもしも戦の最中ならば、扉間は認めなかっただろう。

 だが、これは祭りであり、更に言うならば二代目火影の力のお披露目でもある。そこの所を弁えているからこそ、扉間は「そうだな……」と素直に負けを認めた。

 赤い巨人が解かれる。

 巨人の正体は、別々の能力を宿す万華鏡写輪眼を備えたうちは一族が手にする絶対防御、須佐能乎である。が、名称は知らずとも、去年まで毎年行われていた先代火影とうちは当主の戦いをもって、青い鎧巨人の存在は人々には知られている。ならば、この赤い巨人もおそらくあれと同じものなんだろうとは予想はつく。

 が、なんだか兄が使役するほうよりも、女性的で優しげな造形である。

 それを見て観客らはあの巨人って術者の気質とか反映してるのかなーと、一部のものは思ったとか思ってないとか。

 また観客は知らないことだが、これを使用し続けるのは細胞に負担がかかりまくるので、兄のように長時間イズナは使うことは出来ない。彼はマダラと違い体力おばけではないのだ。

 ともかくも、決着はついたので共に和解の印をとる。

 それから、イズナは観客のほうを見てふわりと微笑み、扉間に目配せすると、水遁と火遁を適切に組み合わせ、使役している烏たちが飛び立つのにあわせるように崖の上まで虹を出現させた。

 その粋な演出に「わああーーー」と観客が沸く。

 先代とは全く違うが、それでも美しささえ感じる技巧の極致とその演出に観客達は沸き立ち、スパイはその技量の高さに腰を抜かし、大盛況でもって第12回武練祭は終了を迎えた。

 去年とは全く違う内容ながらそれでも感動を与える戦いを見せた新しき火影を前に、皆、新しい時代の幕開けを感じていた。

 

 ……が、当事者である当代火影イズナと、先代の弟で左腕を務めていた扉間だけがこのイベントに問題点を感じていた。

 まず、第一に、2人とも必要とあればいくらでも戦えるし手を汚せる人間であるが、別に戦うこと自体は好いていない。

 特に扉間は必要ならいくらでも戦うけど、こんな催しに関わる時間があるなら術開発に時間をかけたいし、イズナの火影としての顔見せも兼ねているため今年は付き合ったが、毎年付き合えと言われたら御免被る。はっきりいって冗談ではないし、自分はそんな暇人じゃない。

 と、2人が思うということは……後続の火影の中にも、こんなイベント面倒だなあと思うものが出てくる可能性が高いということである。そりゃ当然だ。火影を目指しているものがみんなバトルが好きか? と聞かれたら、ただ里をよくしたい守りたいから火影になるのであって、別に戦うこと自体はそんなに……って者も混ざるだろう。

 そもそも武練祭を開催することにはいくつか目的があったのだが、毎年開催するハメになったのはどうしてかといえば兄達2人のガス抜きの為である。

 千手柱間の場合は執務疲れからの気分転換であり、うちはマダラの場合は生粋のバトルジャンキー故、柱間との戦いが一番の特効薬であることから心を安定させるため……って側面がでかかった。

 つまり、火影が代替わりした以上、毎年やる理由もないなっていうのがイズナと扉間の結論である。

 時代が変われば必要なものも変わる。

 先代から受け継ぎ、次代へ繋げていかねばいけないものは残し、逆に不要なものは排除していく。それが二代目火影を賜った自分に与えられた使命であるとイズナは思っている。

 受け継いでいくもの、それは想い、意思、命。

 時代は変われば人は変わる。

 それでも変えてはいけないものもあれば、変えたほうがいいものもある。

 だからこれも、必要な仕事だ。

 とりあえず扉間と議論した結果、これからは武練祭は3年に1度の開催とし、そして火影と戦う相手については、武練祭の一ヶ月前に上忍以上のものの中から立候補者同士で闘技場にてトーナメントを組み、その優勝者と戦うという形でどうかという方向で決まった。

 あとは細かいところについてレポートという形で、今回の武練祭を終えて見えた問題点などを纏め、次の上層部会議の際に提出、承認を得る。

 そうやって扉間との議論を白熱させているイズナは気付いていなかった。

 今年の武練祭で念願だった剣舞神楽の舞い手を務めた姪が、自分の父と先代火影主催で貸しきりで行う身内だけの慰労会に、師匠にあたる大好きな叔父が来てくれると期待して、ワクワクと待ち続けていることに。

 きっとすぐに来る。叔父は褒めてくれると思っていたのに、1時間経っても現われず、2時間経っても姿を見せず、先代火影が自分の父の胸に寄りかかって鼾をガーガーかきながら寝こけてもやってこなかった時の姪の気持ちに、イズナは気付いていなかった。

 

 後日姪に「私、ずっと待ってたのに、なんで叔父様来なかったの。私の、晴れの舞台だったのにぃ」と泣かれながらなじってこられたので、ひたすら謝って、彼女の機嫌を取り戻すために休日を潰して彼女の買い物に付き合い、甘味処で姪が満足するまでひたすら団子を貢がされることになるのは、まあ仕方のないことなのである。

 

 

 続く


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