転生したらうちはイズナでした(完)   作:EKAWARI

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やあ、ばんははろEKAWARIです。
今回は次世代編といっていいのかなって内容ですが、初期構想だとカガミの出番など一切なかったはずなのに、気付いたらアカデミーで子供達と話しているシーンが消えて代わりにカガミとの会話シーンが出てました。コメントでカガミについて聞かれたせいっすかね? ではどうぞ。


12.受け継ぐもの其の弐

 

 

 うちはイズナが二代目火影として活動するようになって半年が過ぎた。

 とはいえ、火影業は順調そのものである。

 何せ元々イズナは火影補佐官として火影の仕事がどんなものかなど、引き継ぎをする前から知っている。寧ろ引き継ぎ作業1日目で「これ引き継ぎ作業する必要あるんですか……?」と言われた結果、火影を継ぐまでの期間、自分の前の役職引き継ぎとその引き継ぎ先への手伝いやアドバイス、与えられていた火影補佐官としての仕事を普通にこなして、火影を継承する一週間前にはやるべき仕事は全て終わらせた。

 そうして突如沸いてきた休暇を前に、姪や甥と共に甘味屋でまったりしたり、うちは一族で修行をつけてほしいと希望する子供達や、其の友達である別の一族の子供達、みんな纏めてイズナが修行をつけてやったりとか、イズナ的にはわりと充実した休暇を過ごした。とりあえず甥姪と一緒に食べる団子が美味かった。

 で、代替わりすると同時に実際に火影としての執務が始まったわけだが、先代である千手柱間とは違い、そもそもイズナは机に向かって書類相手に缶詰な日々は別に苦痛ではない。

 おまけに元々前世からアカデミー始まって以来の天才だの麒麟児だの囁かれてきただけあって、その頭脳も能力も頗る優秀だ。つまり、柱間がついつい逃亡したくなるような仕事量が机の上に置かれていたとしても、午後には綺麗に空っぽにしてしまうくらいに仕事が出来た。おまけに報告書に細かい添削までつける余裕まであるというハイスペックぶりである。

 しかし、次々とやってくる仕事をなんでもないように熟すイズナであったのだが、彼には憂慮があった。

 自分は別にいい。

 たとえ人の3倍くらいの仕事量を振られたとしても、普通にきっちり定時の17時には片付いている。何の問題も感じていない。だが、世間の平均的な能力に比べ、自分が人より出来る人間である自覚はある。つまりだ、今は問題ないがこの仕事量……後世の火影は困るのでは?

 

 ちらりちらりと脳裏をよぎるのは前世における弟の友人だ。

 うずまきナルト。

 四代目火影波風ミナトと其の妻うずまきクシナの遺児であり、九尾の人柱力だった少年。

 中にいる九尾と同一視され、長く里の大人達に疎まれて育ったけれど、それでもくじけず前をむいていた金髪碧眼のオレンジ色の忍服を着た少年。

 火影になりたい、火影になったらみんなが自分を見てくれると思っている彼に、『火影になった者が皆から認められるんじゃない。皆から認められた者が火影になるんだ』とだから仲間を忘れるなと諭したのは前世の自分……うちはイタチだった。

 彼との関わりはそこまで多くはない。

 そもそも暁にスパイとして潜入してた上に、世間における自分の立場はS級犯罪者だった。ナルトとの出会いも敵としてである。それでも、弟を諦めないと告げる強い瞳に、火影になりたいと真っ直ぐ告げる其の在り方に、夢を叶えて欲しいとイタチは思った。うちはイタチはうずまきナルトという人間を好ましく思っていたのだ。

 けれど、イタチは死人である。

 穢土転生で蘇ったときナルトと再会して、改めてこの子や新たな火の意思を継いだ子達がいる限り、サスケは大丈夫だなと安心した。穢土転生を解除するまでが役目だ。自分が黄泉へと帰った其の先の未来を、既に死人の立場でイタチは知ろうとも思わなかった。

 けれど、信じていた。きっとナルト達がいるなら大丈夫と。

 そして思っていた。

 オレがそれを見ることはあり得ないけど、それでもナルトはどうか将来良い火影になってほしい。1人で何でも成せるなどと驕らず、仲間がいるということを忘れないで欲しい。でもオレの言葉は届いたように見えたから、きっとナルトなら大丈夫だ、同じ過ちを犯さないだろう。ナルトならきっと其の夢を叶えられるとそう思っていた。

 うちはイタチは死人だ。

 既に死んで生まれ変わって、転生して、ここにいる己はうちはイズナであり、イタチではない。

 でも自分の中のイタチに語りかけるように、イズナは夢想する。

 あのオレンジ色の少年が将来火影としてこの場に立つ姿を。

 そうすると見えたのだ。

 あまりに次から次へと舞い込む書類を前にぐったりと、「仕事、多すぎるんだってばよ~……」と撃沈する姿が。

 勿論実際に見えたわけではなく、あくまでイズナの想像である。が、ありありとそんな光景が脳裏に浮かぶほど、正直ナルトは事務仕事が得意そうではない。

 寧ろ先代の千手柱間と張るか、それ以上に苦手そうである。

 しかも……色々うちはイタチの知る歴史とは差異があるため、この世界でも生まれるかまでは知らないが、彼が生まれてくるのは今から45年近く未来なわけで……更に彼が成人して火影を継げるようになる頃となると、まあ70年近く先で、その頃には更に里は大きくなっているから其の分更に書類は増えてそうである。

 ……いや、そもそもこの世界でもナルトが生まれてくるのかは知らないし、この世界に生まれたとしてもこの世界の彼が火影を目指すかどうかまでは知らないけど。

 でもナルトが継ぐにせよ、継がないにせよ、先代の千手柱間といい、必ずしも書類仕事が得意なものが火影になるとは限らないのは事実なので、自分が火影である期間にその辺変えたほうがいいかなと、後に受け継ぐもののために思いながらも、イズナは休憩を取るため、口寄せの烏を執務室に一羽おいてから「少し出かけてくる」と声をかけ、暗部を連れて火影塔を出た。

 

 やはり考え事をする時のお供は甘いものに限る。

 甘味だ、甘味がオレを呼んでいる。三色団子がとても食べたい気分だが、今日はどこの茶屋にしよう。

 そんなことをウキウキルンルンと弾む気持ちで考えながら……尚、見た目はいつも通り涼やかで玲瓏なる美貌で、足音一つ立てていないし、平常通りにしか見えない姿で落ち着いた物腰であり、「火影様こんにちは」と言われたら、薄ら微笑を浮かべて「ああ」と返事しながらその都度手を振りながら歩くサービスつきな感じのイズナなので、内心団子でいっぱいで浮かれているようには全く見えないのだから、大した演技力と言える。

 そう思っているとタッタッタと軽快な音を立てて、よく知っているうちはの子供が前方からやってきた。

「あれ、二代目様だ! こんにちは」

「カガミ」

 それは前世にあたるうちはイタチの親友シスイの祖父……うちはカガミだった。

 うちは一族にしては珍しいクルクルの髪に、優しげな垂れ目が特徴の、10歳前後くらいの少年だ。

「息災か」

「はい、元気いっぱいです! 二代目様は?」

 キラキラとした笑顔が眩しい。

 シスイは釣り目であり、カガミは垂れ目という違いはあるが、別世界では祖父と孫だった……この世界でもシスイが生まれてくるかは知らないので、ここでも祖父と孫になるかは判らないが……だけあり、笑った顔や雰囲気はシスイとよく似ている。

「オレも元気だ。……どこかからの帰りか?」

「はい! 扉間先生からお使いを頼まれて、その帰りなんです!!」

 そう楽しげに弾んだ声からは、恩師を心から慕っているのがよくにじみ出ている。

「そうか。……オレはこれから茶屋で休憩なんだが、良かったら付き合ってくれないか? お前達の話を聞かせてくれると嬉しい」

「いいんですか!? やったー! えへへへ、ヒルゼン達に自慢しよっと」

 そんなことを言うカガミを連れて茶屋に入り、団子を3人前注文する。……尚、そのうち2人分はイズナの取り分である。

 そうして、驕られた団子分の対価を払わなきゃと思ったのかも知れないが、カガミはコロコロと変わる豊かな表情と身振り手振りで、自分のまわりの友達のことや、機密に関わらない範囲で扉間の木の葉忍術研究所でのことなど、色々話してくれた。

「扉間のことは好きか?」

「はい、大好きです。扉間先生は一見とっつきにくて怖そうだけど、本当は優しいし、すごく教えるのだって上手くて、尊敬してます」

 そんな言葉に感慨深くなる。

 うちはイタチの時代、うちは一族が隅に追いやられたのは、二代目火影だった扉間の警務部隊に一族を纏めて押し込めた政策も原因の一つだと言われていた。でも、前々から遺跡や書籍などで創設期のことも調べていたイタチは違うのではないかと思っていた。

 千手扉間という男は、確かに敵から見たら恐ろしい男であっただろうと思う。その合理性に特化して、効率を突き詰めた手腕は、微塵の容赦もなくただ的確に敵の急所を射貫く。他国の同時代の影達から見た彼は、道徳心の欠片もない非道で卑劣な男である。

 だが、しかし彼は身内に認定した相手には須く平等だ。

 彼がうちは一族を危険視していたのも事実だが、その証拠に側近にうちは一族の者を取り立てていた。他ならぬこのカガミである。それに警務部隊自体が重要な立ち位置だったのも事実で、内心疎ましく思っていたのだとしても、それでもイタチの時代一般人には「うちははエリート」と尊敬の念を集めていたあたり、きちんと彼なりにうちはの立場も考えての政策だったことが窺える。ならば、うちはがああなってしまったのは、彼のせいではないのではないか?

 時代が変われば、其の時代に合わせ変えねばならぬこともある。それをしなかったのは其の時代の大人の怠慢である。

 シスイが死に、うちはイタチにシスイ殺害の嫌疑がかかったときに、父フガクの部下3人に対してイタチは言った。

『オレの器は、この下らぬ一族に絶望している』

 それもまた間違いなくイタチの本音だったのだ。こんな奴らの為に、シスイが死んだのかと思うとあまりにやるせなかった。最後まで里を想い、一族を想い、自分に眼を託して死んでいったシスイを思えば、あまりに彼が浮かばれなさすぎてやるせなかった。

 どうして、一族のことしか見えてないんだろう。

 どうして、其の先がないと、わからないのか。

 どうして、折角終わった戦争を、揺り起こそうとするのか。

 どうして、どうして……シスイはこんな奴らの為に死ななければいけなかったんだ。

 そんな想いを止めることが出来なかった。今思えば無理もない。なんだかんだと、どれほど早熟であろうとも、当時のイタチは12そこいらの子供だった。生まれ変わり、転生しうちはイズナとして生きている今の自分だからこそ、あの時のイタチは子供だったと、そう判る。

 わかっている。別にうちは一族だけが悪いわけでもないのだ。時代が変わったのに、政策を変えなかった上層部の怠慢も、ダンゾウの野望も、そういったものも原因だった。九尾の件もある。いろんなものが重なって、あれは起きたのだ。

 そして同じ過ちは起こさせない。

「カガミ、里は好きか?」

「はい! 里も、二代目様も、扉間先生も、ヒルゼンや、ダンゾウ、ホムラ、コハル、トリフ……みんな、みんな大好きです!」

 この笑顔を、子供達を守る。火の意思を次へと託していくその為の礎となる、それが火影を継いだオレの役割だと、そうイズナは思っている。

 

 

 * * * 

 

 

 あれから、イズナは火影が不在でも里が回るように仕事の振り分けを見直し、改善案を上層部会議へと提出した。

 はじめは渋い顔をされた。

 まあ、一見火影が楽をしたいだけの政策に見えなくもないので、それはわかっていた。なので、訥々と火影に何かあった際に混乱が生じては意味がないこと、後世の為であることを納得いくまで説得した。

 元々イズナは仕事が出来るし、休暇は休暇で楽しむが仕事には真面目で誠実である。

 そういう共通認識があったことが功を奏し、イズナの案は最終的に承認された。まあ、日頃の行いの賜物だろう。これを提案したのが日頃から、ちょくちょく仕事から逃亡していた初代火影様であったのなら、「お前がサボりたいだけだろ!」と却下されていたに違いない。

 ただ、問題はあった。

 ……イズナは優秀すぎた。

 火影の仕事量を一般人が働くのと同じ量になるよう減らした結果、時間を持て余したのである。

 だからといって自分で出した提案を、暇だからというだけでやっぱり無しで! とはいかないし、そんなことイズナもする気はない。火影のやるべきことが減った分、仕事を割り振られた者達はひいひい言いながらもそれに慣れようと四苦八苦しているのだ、それを甘やかすのは優しさどころか残酷さだ。

 なので空き時間をどうするか考えた結果、アカデミーへの訪問と、武練祭の売り上げで支援金を出している孤児院への慰問の予定などを入れることとした。

 万が一があったとき連絡が出来るよう、火影室には口寄せの烏を残し、影から守る暗部が2人と、護衛小隊6人のうち3人だけ引き連れて火の国中にある孤児院に慰問する。

 時には不正や虐待を見つけて、その証拠つきで役人に突き出したり、などの1幕もあったが、基本的にはそこまで非道いのもそうそうはない。ただ、食事は足りているか、衣服はあるかなど孤児院の院長にその都度尋ねて、足りない物は金ではなく、里人に募りカンパされた物品を直接渡すこととした。

 それから実際に子供達とふれあい、話をする。

 30を過ぎてもうちはらしい美しい面立ちをした、静謐で柔和な微笑みを浮かべた二代目火影様はどこにいっても大体人気だった。

 そしてある日、孤児院で8歳の女の子に言われた。

 イズナが31歳の頃だ。

「火影様、あのね、わたし、武練祭の舞姫になりたいの」

 なんでも2年前の武練祭の時、当時はまだ生きていた両親と共に彼女は第12回武練祭を見に行ったんだそうだ。それが最後の両親との暖かな思い出だったという。そこで行われた生まれて初めて見る神楽に、彼女はとても感動したのだという。

「でも、あれはうちはか千手じゃないと出来ないって聞いたの。ねえ、火影様、わたしうちはでも千手でもないけど舞姫になれますか?」

 それにイズナは、ポンと優しく彼女の頭を撫でながら言った。

「大丈夫だ。本当にそうなりたいと望み、努力するのならなれるさ」

 10年後、彼女の望みは叶う。

 やがて大きくなった彼女はイズナの姪に弟子入りし、第16回目の武練祭で見事神楽の舞い手を務めた。その後も神楽に限らず様々な舞踊に精通した彼女は、世間を騒がし、火の国中で人気で色んなイベントに引っ張りだこの、その道で名を知らぬ者はおらぬ舞姫となった。その時に彼女は語ったという。「あのとき、二代目火影様に大丈夫と言われたから、凄く安心してそれで頑張れたのよ」と。

 以来、武練祭の舞い手にうちは一族か千手一族がなるという軛も解かれ、なりたい者がなれるようになった。

 三代目政権の時など、剣舞神楽を踊るのは男女一組だけでなく、順々に三組も踊るようになり、火影による演舞時間が短くなった代わりのように、神楽の閲覧のイベント時間を延ばしたりしたのだが……まあそれはちょっとした未来の話である。

 

 

 * * *

 

 

 二代目火影であるイズナ政権は、酷く安定して穏やかに時間が過ぎていった。

 だからといって、世界全体が泰平の世だったかといわれたらそれは語弊がある。あくまでも安定していたのは木の葉周辺だけのことであり、痛ましい事件もあった。

 そう、金閣銀閣兄弟による雲隠れの里へのクーデター未遂事件と、二代目雷影の殺害である。

 第17回武練祭が終わった翌年のことだ。

 その年、二代目雷影から木の葉に同盟を結べないかという打診があった。

 木の葉隠れの里からしてみれば願ってもない話ではあるが、しかしイタチの記憶を持つイズナからしてみれば、安易に飛びつけない話である。

 なにせ、前世にあたるうちはイタチの時の歴史では、この雲隠れの里から来た同盟の申請を受け、二代目火影だった千手扉間が出向き、そこでクーデターを起こした金閣銀閣部隊から木の葉の忍び達を逃がすために扉間が囮になり、一応彼は木の葉隠れに後に帰ってはきたものの……その時の戦いの傷が原因で死んだのだ。

 そしてこのクーデターが原因で第一次忍界大戦が狼煙を告げる……というのがイタチの記憶で知る歴史である。

 まあそのへんもあったので、火の国の大名を含め調整もあるので少し考えさせてくれと返答を先延ばしにしたところ、雷影はあああまり木の葉隠れの里は乗り気ではないのだな、と判断し、今度は岩隠れの土影に会談を申し込んだところ……そのタイミングで金閣銀閣兄弟によるクーデター事件が勃発した。

 正直、火の国と木の葉隠れの里には関係ない事件といえば事件だ。

 しかし、そもそも柱間が何故木の葉隠れの里を興したのかといえば、戦乱の時代を終わらせ、子供達を守るためだったのだ。他国のことだし、知りません~なんて、そのクーデターのせいで忍界大戦にまで発展することを思えば言えるわけがない。

 なので、イズナは迅速に各里や、国、あと同盟国である滝隠れの里や渦潮隠れの里などにも根回しし、世論を味方につけて、クーデターという手段で忍界の平和を荒らす金閣銀閣がいかに不届き者であり、それを放っておくことはいかに各里にとっても害であるのかを切々と訴えた。

 このイズナの対応に「他国のことなど放っておけ!!」と扉間は苛立ちを見せたが、扉間の兄であり初代火影である柱間が「よぅ言った!!」と大絶賛しイズナの肩をもったため、結局扉間は引かざるを得なくなった。

 そうした根回しが良かったのだろう。

 金閣銀閣によるクーデター事件は3ヶ月以内に収束し、忍界大戦が始まることもなかったことをここに記載する。

 

 そうしてイズナが火影になってからも瞬く間に時は過ぎていき、第18回武練祭の時期が来た。

 このとき二代目火影うちはイズナは47歳、対峙するは血継限界以外の木の葉隠れの里にある全ての術を解き明かしたと言われている男……教授(プロフェッサー)猿飛ヒルゼン27歳。

 実は2人がこうして武練祭の目玉として対峙するのは、これが2度目である。

 1度目は3年前の第17回武練祭。

 その時もヒルゼンは、上忍のみが参加できる武練祭火影への挑戦権をかけたトーナメントで見事に優勝を掴み、こうしてイズナに挑みかかってきた。

 イズナもうちはが生み出した天才ではあるが、ヒルゼンもまたあの柱間が一目置いていた猿飛サスケの嫡子で、全属性を巧みに扱う天才と名高い。イズナの前世にあたるイタチにとっては敬愛する火影の1人であり、歴代火影でも最強……柱間のとんでもぶりを知っているといや、それはないと思ってしまうが、まあそんな風に囁かれていた男でもある。

 故にその成長が楽しみな忍びであった。

「二代目様、胸を借ります」

「来い」

 如意棒を構え、闘志を燃やす若者に対し、イズナはだらりと手を下げ一件隙だらけに見える姿をさらす。でも知っている。見る者が見ればわかるのだ、どこにも隙などないことを。

 元より格上相手なのは承知の上。ヒルゼンは果敢に駆け出す。

 ゴウッ。

 ヒルゼンの踏み込みにより地面に裂け目が出来岩が飛び、そして如意棒による重い打ち込みがイズナを襲う。それを一瞬で重心を見切り、すっと手を添えることによって綺麗に逸らした。

 次いで、足下にある岩盤が砕け舞う。

 猿飛ヒルゼンは小柄な体に、扉間につけられた「サル」というあだ名によく合う俊敏さを持つが、その身に似合わずとんでもないパワーファイターである。

 何せイタチの時の歴史では50を超え、引退し老いて尚、その如意棒の一撃は九尾を里の外まで吹き飛ばすほどのものであった。故に、まともに受けたらイズナの細い体など一撃で戦闘不能に追い込まれる。が、それはまともに受けたらの話である。

 故にいなす。全ての攻撃をそらし、口寄せの烏で惑わせ、眩ませる。

 高速で印を組み、火遁を放てば火遁で返す。地面を破壊し、巻き上げるほどの攻撃を息も尽かせぬほどの怒濤の勢いで繰り出せる。これがヒルゼンの強みである。

 そのあまりの破壊力に観客達も息を飲む。

 膂力に恵まれることはなかったほっそりとしたイズナの体など、一撃あたればそれだけで致命傷である。そう、当たればだ。一撃も当たらない。どれほどの猛攻も涼しい顔でやり過ごし、意識の外から手裏剣が迫り来る。次の瞬間分身大爆破。しかしそれを容易に食らうヒルゼンに非ず、爆風をも使って一度距離を取る。瞬間、大手裏剣が迫り来る。

 次は自分の番だというように、涼しげな顔をしたまま次々に術がヒルゼンに襲い来る。それらを回避しながら相殺して、隙をついて火遁・火龍炎弾を繰り出す。

 息をもつかせぬ迫力と緊張感ある戦いに観客の喉が知らず鳴る。

 そうして流麗と豪快、印象は真逆なれどどちらもテクニカルな技の応酬の末、ついにその時が来た。

「うぉおおおっ!!」

 闘志を燃やした若者の一撃がついに二代目火影を捉えた、そう思われた次の刹那、それは綺麗にひっくり返った。

「八咫鏡」

 年老いて尚、玲瓏な凜とした声が響く。

 同時に、緋色の巨人が出現し……いや、幻術によってそこにあることに気付かせていなかっただけで、ヒルゼンが飛びかかるより先にでていたのだが、その盾が全ての攻撃を跳ね返す。

 自分の放った技を返された衝動で一瞬ヒルゼンの体が硬直する。次には決着がついていた。

「降参するか?」

「……参りました」

 そういって手を上げるが、其の瞳に敗北感などなく、次は勝つと言わんばかりに爛々と眼が輝いている。いい目だ、そう思ってふっと目を細めてイズナは笑う。

 次の瞬間、割れんばかりの大歓声が飛び交った。

「凄かったな」

「ああ、3年前の戦いも凄かったけど、それ以上だった」

「それにしても、あの赤い巨人なんなの? まるで女神様みたいだった」

「オレ知ってる。親父に聞いたことある。扉間様との戦いでもあの巨人出したって聞いたぞ」

「ただの眉唾話だと思ってたんだが、本当に赤い巨人なんていたんだな。ってことは、マダラ様の青い鎧巨人みたいなのも、初代様の木で出来た巨人とかもマジでいたの? え? マジ?」

 などそんな声が飛び交う。

「でも、火影様相手にここまで戦えるあいつもすげえよ」

「ああ……本当に二代目様やられちゃうのかなって思ったもん、吃驚した」

 それらの声を聞いて、イズナは……ああ、そろそろ潮時だな、とそう思った。

 初代火影である柱間から受け継いだもの、受け継ぐもの、それを次代の火の意思に渡す時が来たのだろうと、自分に対して闘志を燃やしている青年を見ながらイズナは思った。

 

 

 * * *

 

 

「い、今なんと?」

「次の上層部会議で、君を次の火影に推薦しようと思っている」

 猿飛ヒルゼンは呆然とした顔で、火影椅子の今代の主を見る。

「おそらく承認されるだろう。君のことは誰もが認めている。オレは君なら良い火影になると思っている」

「……引退されるのですか?」

「何も今すぐじゃない。君が今年に入って綱手・自来也・大蛇丸の3人を受け持つ上忍師になったばかりなのは知っている。だから、そうだな。2年後に火影を継ぐ。其の心づもりでいて欲しい」

 そのイズナの言葉に、ヒルゼンは漸く感情が追いついたのだろう。

 じわじわと不安や責任感……そしてそれ以上の喜びが胸に溢れ、誇らしさに胸を張りながら「はっ!」と返事をした。

 

 志村ダンゾウが千手扉間の木の葉忍術研究所所長室に呼び出しを受けたのはその一週間後のことだった。

「は? 今なんと……」

「サルが次の火影に決定した。……まあ継ぐのは2年後だがな」

 それはダンゾウにとって青天の霹靂であった。

 ダンゾウにとって猿飛ヒルゼンはライバルであり幼馴染みであった。また2人でツーマンセルを組んで任務に出たことも多く、ヒルゼンにはもしかすれば親友とそう思われているのかも知れない。

 けれど、ダンゾウは自分に出来ぬことが出来るヒルゼンに劣等感を抱いていた。あの甘さを憎みながら羨んでもいたのだ。ダンゾウにとってこいつにだけは負けるのは嫌だ、そう思っていた男こそが猿飛ヒルゼンだ。故に、敬愛する師から告げられた言葉に、幼馴染みとして友として喜ぶべき場面だろうと思いながらも、昏い気持ちがドロドロと沸く。

 どうしてあいつばかりいつもいつも……皆に認められるのだ、と嫉妬する。

 そんなダンゾウを前に、とても自分より20以上年上と思えぬ若々しい容姿の師はこう続けた。

「それに伴い、ワシも引退を考えておる。アカデミーの次の校長はカガミに譲り、そして研究所所長は……」

 次の瞬間、抱いていた黒い気持ちも忘れ、ダンゾウは呆けた。

「ダンゾウ、お前に任せようと思うておる」

「え?」

 目を瞬かせる。

 次にジワジワと師である千手扉間の言った言葉が徐々に胸に浸透する。

「私で、よろしいのですか?」

「だからそうと申しておるだろう、待て、何故泣く」

 ダンゾウはずっと認められたかった。

 ヒルゼンよりも自分をこそ認めて欲しかった。

 それは誰に?

 師だ。ダンゾウは誰より師である千手扉間を敬愛していた。火影よりも敬愛していた。その師に自分の研究所の跡を継いでほしいと言われたとき、報われたとそう思ったのだ。

「里にとってこの研究所はなくてもならんものだ。お前はここからサルを支えてやれ」

「はい、扉間先生、喜んで」

 かくて別世界では「根」という暗部組織を作り、木の葉隠れの闇となった男は、根を張ることもなく、一研究員として生きていくこととなるのだ。

 そしてこの2年半後、火影の代替わりと共に、忍者アカデミーの校長と木の葉忍術研究所の所長も代替わりすることとなる。

 うちはイズナが50歳の誕生日を迎えた日のことだった。

 

 

 続く


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