タグにつけている柱間の出番は次回から、扉間の出番は次々回からの予定です。
木の葉隠れの里創設まではシリアス風味ですが里が出来てからはコメディ路線の予定でお送りします。
「ハァ……ハァ……」
瞳が熱い。
「おい、このガキ……ッ」
自分が変わる。変わっていく。
その眼に相応しく、体が、脳が作り替えられていく。
この感覚をオレはよく知っていた。
現在の体では初めての現象であったけれど、うちはイタチという男の人生の記憶まるごと21年分宿すオレはよく知っていた。
「眼を合わせるなっ!!」
……うちは一族の血継限界……写輪眼が、開眼したのだ。
2.写輪眼開眼
「はい、そこまで!」
澄み渡った快晴、向き合っている少年達二人を前に彼らより多少年嵩の少年が凜とした声を張り上げる。
それを合図に、一人は優雅にも汗一つかかず、もう一人は汗だくのへとへとなのを隠すことも出来ず、フラフラの体で礼を取る。
「ありがとうございました」
「あり、がとう、ございまし、たぁ」
向かい合う二人のうち汗一つ書いていないほうの少年のほうは、幼子とは思えぬ涼しげな声と品のある仕草でぐたりと座り込んだ一つ年上の少年へと手を差し出す。
「兄さん、立てそうですか?」
「……はぁ、はぁ……イズナは、すごいなあ。ボクじゃ手も足も出ないよ」
その手に掴まり、イズナと呼んだ少年よりほんの少しだけ大きな少年は、よく似た黒い瞳に感嘆の色を乗せながら、なんとか体を起こした。
「まあ……前よりは勝負になってたんじゃねェか?」
そういってこの中で一番の年長者である審判を務めた少年が苦笑する。
二人は……否、審判の少年まで含めて三人は兄弟であった。
この戦乱の世で千手一族と並んで最強と呼び声高いうちは一族の頭領たるうちはタジマの息子達である。
兄弟はいずれもツンツンとしたコシのある黒髪に、二重まぶたのくっきりパッチリとした黒い瞳に、白皙の肌、中性的に整った面立ちと、典型的なといっていいうちは顔である。
たとえその背にうちはの家紋がついておらずとも、見るものが見れば一目でわかるほどに典型的な一族の特徴を備えたその顔は、それだけ受けついだ血の濃さを想起させる。
その印象に違わず、タジマの次男であり今は跡継ぎの……この組み手で審判を務めた少年マダラと、タジマの末の息子であり五男坊にあたる涼しげな態度の少年、うちはイズナは天才と称していい才覚の持ち主であった。
別に今こうして汗だくで息を乱している少年……タジマの四男坊でマダラの弟にしてイズナの兄である彼が才能がないというわけでもない。
寧ろ一族の同い年の少年達から見たら彼でも抜きんでているほうであるし、そうでなくば初陣で死んでいる。が、それとは比べものにないほどイズナが年齢に似合わず異常に強いだけであった。
うちはイズナは不思議な子供だった。
うちはタジマの末の息子だが、末っ子らしい甘えたなところはあまりない。
強いて言うならタジマの次男坊である兄のマダラに対しては少しそういう側面を見せるが、基本的には涼やかで落ち着いている、品のある物静かな少年であった。
大人びている……という言葉で形容して良いのかわからぬほどに落ち着いた物腰はどこか仙人に通ずるものを感じるが、なにせ今は戦乱の世である。
子供はたくさん生まれたくさん死んでいく。
子供は小さな大人であり、幼くとも子供らしく扱われることはない。それが戦国の世に生まれた忍びの子の宿命でもあった。
故にどれほど早熟で大人びている子供であろうと、大人の視点から見れば手のかからない良い子以外の何物でもない。だからイズナがどれほど大人びていようが誰も気にしない。
同じくらいの年齢の子供達以外は。
けれど、子供達は知っている。肌で判っている。
イズナは自分たちと何かが違うのだと。
けれど、子供達は、うちは一族の同じくらいの年頃の子達はイズナのことが好きだった。
うちはイズナはとても大人びていたが、スカしているというわけではない。
悩みがあれば根気よく聞いたし、強くなりたいという子がいれば伸び悩んでいる内容についてコツを教えたり、手を差し出すことは厭わなかった。それでいて、見守るように必要以上に手を出すこともない。
その立ち振る舞いも、慈愛を含んだ眼差しも、とても5歳になろうとしている幼子とは思えなかった。
その有様は、まるで何千年も生きた仙人か仏のようだった。
異物は排除される。
幼い子供ならなおさら、そうなりやすい。
うちは一族で100年に一度の天才と言われている子供はイズナの他にもう一人いる。
イズナの実兄であるマダラがそうだ。
彼は5歳で戦場に出されて以来メキメキと忍びの才を開花させ、10歳になる今は歴戦の大人達ですら屠る手練れとして知られていた。
そんなマダラは一族の子供達には、実の兄弟を除き遠巻きにされている。
それはマダラの強さが異質に映るから、というのも理由の一つであろう。
実の兄弟であるイズナから見たマダラはとても不器用だけど愛情深くて、優しい人で、弟たちを守ろうと一生懸命なだけなのだけれど、ピリピリとした孤高の強者たるその態度は幼い子供達……場合によっては大人達にも受け入れにくいタイプの天才なのである。
それに対しイズナはそうではなかった。
イズナの才能が群を抜いていることなんて一目瞭然であったが、それでもイズナは他者を置き去りにしようとはしなかった。一人一人に同じ目線から声をかけ、その心に寄り添った。
それはまるで……理想の親のようであったのだ。
戦国乱世のこの時代において、子供達は使い捨ての肉壁に過ぎない。
多くが生まれ、多くが年端もいかぬうちに死んでいく。
そんな中自分だけ強くなることを由とせず、過干渉にならぬ範囲で少しでも生き残れるようにと強くなる術を与え、一人一人に向き合いながら見守るイズナの姿勢は子供達に安寧を与えた。
親にしてほしかった愛を与えてくれたのは、漸く5歳の誕生日を迎えようとしているこの幼子だけであったのだ。
だから子供達は、まるでひな鳥が親を慕うようにうちはイズナという異端の少年を慕った。
幼き少年は、うちはイズナは本当の意味で大人びていた。
その在り方は子供達を庇護する、大人そのものだった。
どうしてイズナがそうであったのか。
その大人達も子供達も、兄弟も誰も知らぬ理由だが、うちはイズナには前世の記憶がある。
うちはイタチという名の……この時間軸から見たら一世紀ほど未来にあたる時間軸を生き、自らの一族を滅ぼしてまで里と弟を守り抜いて汚名を被って死んだ青年の、21年分の記憶である。
他者から見れば悲惨な人生だったといえるだろう。
けれどそれでもうちはイタチはその人生に悔いはなかった。
たとえ里がどんなに矛盾や闇を抱えようと、木の葉隠れの忍びであることを、木の葉隠れのうちはイタチとして死んでいけた事を誇っていた。
それでも一度死して穢土転生で現世に舞い戻ったときに思ったのだ。
自分に嘘をつくべきではなかったと。
今世でもイズナは天才だと言われている。
けれど、前世のうちはイタチであった人生の時もそうだった。
木の葉隠れの忍者アカデミー始まって以来の天才であると、麒麟児であるといわれ、人は己を完璧と呼んだ。あの木の葉の闇を担っていた志村ダンゾウにさえ完璧であると称され、三代目火影猿飛ヒルゼンには齢七つの時には既に火影のような子であるとそう評価されていた。
一族のクーデター事件の真相を知らぬものには蔑まれ、真相を知るもの達にはこれぞ忍びの鏡と賞賛された。憎しみで道を一つに誘導した弟にさえ完璧だったとそう言われた。
とんでもない。うちはイタチは完璧などではなかったし、彼は失敗したのだ。
前世にあたるうちはイタチの人生においても己はうちは一族の頭領の息子だった。齢4つにして戦場へと連れて行かれ、幼くして忍びの才覚を現す自分に人は嫉妬と羨望と期待の重圧をかけた。誰もが己に期待し、お前なら出来ると言い、兄のように慕った友に……親友だったうちはシスイに眼と里と一族を託された。
なまじ優秀であったからこそ一人でなんでも出来ると嘯き抱え込み、自分に嘘をつき続けた人生だった。
オレは兄だから、だから弟はオレが守るのだと、5つ年の離れた弟をひたすら子供扱いして、一人の対等の人間として見ようとしなかった。
弟が……サスケが正しい道を歩むことを願っていたのに、結果的に罪人にしてしまった。
それは明確なうちはイタチの罪だと思っている。
愛していると言いながら信用しなかったことが、自分自身を認めてやらなかったことが、己が出来ぬことを許容し、仲間に託すことをしなかったことこそが罪だった。
そして今の己は、イズナは前世と同じ轍を踏むつもりはない。
うちはイタチは死者だ。
前世の記憶も知識も己のものとしてもっているし、今のイズナの人格は前世であるイタチの延長線上にあるけれど、それでもイズナはイタチではないし、イタチにはなれない。
けれど、その想いを受け継ぐことは出来る。
もう、誰に嘘をついても自分に嘘はつきたくはない。
うちはイタチは汚名を被り、里を支える名もなき忍びの一人として、S級犯罪者として死んでいったけれど、それでも平和を愛し、少しでも多くの無辜の民の幸福を祈れるそんな青年だった。
イズナである今も同じだ。
戦も争いも嫌いであるし、人が死ぬと悲しい。
だから少しでも、多くの人が生き延びられたらいいと、祈るように同じ年頃の子供達の面倒を見ていた。
この手で出来ることなど限られている。たとえ前世の記憶や知識があろうと、幼い子供の体力やチャクラ量では出来ることに限度がある。この手で守ってやれなくても自分が与えた知識が、行動が彼らの生存を高めてくれたなら、それでいいとイズナはそう思った。
「ねえ、イズナは怖くないの?」
ぽつりと小さな声で一つ年上の兄が言う。
「明日の戦がイズナの初陣だよ? 怖くないの……兄も……死んじゃったし」
肩が、手が見れば震えている。
イズナはそっと目を伏せる。きっと四兄のこの姿を見たら、厳格な大人達や父のタジマは「忍びの子が震えるとは何事ですか」と叱り飛ばすことだろう。だけど、兄は、彼はまだ6歳なのだ。
前世のイタチの時代ならまだアカデミーに通っているような子供が戦場に出るなど、怖いのは当然である。だからそっとイズナはそんな兄の手を握って「……いいえ、オレも怖いですよ」と返した。
戦はいつだって怖い。
別に自分が死ぬことを恐れているとかではない。
今更だ、自分が戦うことに恐怖などない。
けれど、誰が死ぬか判らないことは怖いことだった。
戦の度、子供の数が減っていく。次は誰が死ぬのか判らぬまま子供達は怯え、それでもそれを表に出すことを許されずに戦場に出て死んでいく。
うちはタジマの子供達は、自分たちは五人兄弟だったという。
けれど、残っているのは今ここにいる三人だけだ。
長兄はイズナが赤子の時に戦場で死んでしまった。以来、次男のマダラこそがうちはタジマの嫡男である。
「安心しろよ、オレがお前達を守ってやるからな!」
にっとマダラが笑う。
「マダラ兄……」
「そうですね、マダラ兄さんありがとうございます」
ぎゅっと自分たちを抱きしめて太陽のように笑いかける次兄に癒やされ、微笑み返しながらもイズナは知っている。わかっている。これはマダラなりに自分たちを元気づけるための慰めの言葉で、兄の言葉通りになる確率はとても低いことを。
たとえ同じ戦場に出ていたとしても、部隊が違えば行動を共にすることはない。リスクの分散のためにもおそらく自分たち兄弟は同じ隊に入れられることはないだろう。
近くにいなければ守りようもない。だから、マダラがどんなに望もうとマダラ自身の手で弟達を守ることは出来ない。
それでもマダラはいつも言う。『オレがお前達を守ってやる』と。そしてそのための努力を欠かすこともない。この兄は努力家で懸命で直向きで、そんなところまで前世の最愛の弟であったサスケに良く似ていた。
けれど、ここまで懸命なのは自分たちを守ろうと必死なのは、忙しい父母に変わり親代わりを果たそうとするのは、長兄が死んで自分が後継者になってしまったこともあるのかもしれなかった。
死んだ兄の分も弟である自分たちを守りたいとそう強く思っているのかもしれない。
言葉にして確認したことはないけれど、それでも確信はある。
自分も前世では兄だった身だ。マダラの気持ちは痛いほどわかった。
けれど、弟達を守りたいというマダラのその願いは、望みは叶えるのはとても難しい。
うちはタジマの三男である3つ年上の兄は、7歳の誕生日を迎える前に戦場で死んだ。
千手との戦で敵に囲まれ、殺された。
いつも弟を守ると言っているマダラは三兄を守れなかった。
けれどそれは兄のせいではない。次兄は才能豊かな子供で、だからこそ前線に近い位置に送られることも多かった。たとえ同じ戦に出ていたとしても配置が違うのだ。一体どうやって守れというのか。遺されたのは、帰ってきたのは腕だけだった。
隣で耐えきれず泣く一つ上の兄と、対照的に泣けず無力に自分を責め心で泣いている次兄に寄り添い、3つ上の兄の墓に花を供えた日のことを昨日のように覚えている。
長兄のことは覚えていない。イズナが物心つく前に死んだからだ。それでも初めての兄弟の死に、自分も悲しい気持ちになりながらも、泣けない兄マダラの心が心配でその日一日寄り添い過ごしたものだ。
それでも次兄は、弟が死んでも写輪眼を開眼することはなかった。
あんなに忍びの才に溢れているのに、こんなに愛情深い人なのに、マダラの瞳は未だ黒い。
* * *
血潮の匂いがする。そこかしこから血と火遁の焦げた匂いがする。
まだ忍びの里システムが出来る前の一族単位の戦場は酷く原始的で、見慣れているようで見慣れない。
そんな中、イズナは周囲の歳が近い子供達を守るように、鮮やかに、舞うように戦っている。
「ほ、本当にこれが初陣なのか?」
部隊に配置された大人が呆けるような声でそんな言葉を漏らす。
忍びの子は齢5つで戦場へと出される。それが戦国乱世の習いだ。
イズナはその才覚故に5つの誕生日を迎えるより少しだけ早く戦場へと出された。
けれど、周囲の子供の誰よりもイズナは鮮やかで、強かった。
幼い故にチャクラ量はたかが知れている。手足も小さく、体力もあまりない。
それでも彼は天才だった。
うちは一族は火遁と幻術に長けている一族として有名だ。
それは彼らの血継限界である写輪眼が催眠眼という性質をも持つからという理由が大きい。
けれど、そもそもうちは一族でなくとも幻術に長けているものなどいくらでもいる。
故に写輪眼を開眼していなかったとしても、幻術に嵌める手段などいくらでもある。
たとえば、音を使ったものや、手の動き、そんなものでも幻術に嵌めることは出来る。
イズナは前世のイタチの頃から、幻術も体術も忍術も、手裏剣術もどれも覚えるのに苦労したことがない。チャクラ量には不安があれど、当たり前のようにどれもこれも手足の如く扱う事が出来た。
一族が誇る写輪眼も、イタチからすれば手段の一つでしかなく、それがなくてもそれに変わる切り札も手段もいくらでももっていた。それがうちはイタチといううちは一族が産みだした天才だ。
そしてその生まれ変わりであるイズナも、その知識を全て受け継いでいた。
今戦で相対している彼ら……千手一族はうちは一族の事をよく知っている。
写輪眼の厄介さも忌ま忌ましさも、誰よりもわかっているのは彼らだろう。だからこそ眼を見て戦わない習慣が身についている。けれど、未だ写輪眼に開眼していないイズナにすればそんなこと関係がない。
眼を見て使う幻術にかからないなら眼を使わない幻術を使えばいいだけなのだから。
そうして、幻術に嵌め感覚を狂わせながら正確な投擲術で手裏剣を放ち、味方の子供達や自分に迫る魔の手は烏分身や口寄せの鳥たちを駆使して躱す。
それは間違いなく守るための戦いだった。
無駄が一切なく、美しささえ感じさせるそれはまるで演舞のような戦いだった。
見呆ける敵は代償にその命を散らした。
(いける……!)
だからこそ驕ってしまったのかもしれない。
たとえうちはイタチとしての21年分の記憶があろうと、どんな天賦の才に恵まれていようとうちはイズナは未だ5つになろうとしているだけの幼子にしか過ぎなかったというのに。
どんなに無駄のないチャクラの運用や技術力があろうと、その体力もチャクラ量もその年齢に準じたものしかなくて、この手で届く範囲などたかが知れていたというのに。
このまま守り切れると驕ってしまったのだ。
イズナの周囲に配された5~8歳ほどの子供達はどれも酷く疲労はしていたけれど、深手を負ったものや死者は一人も出ていない。それは間違いなくうちはイズナの戦果である。
それを見て部隊の大人は他の隊と合流を指示した。
疲労など微塵も感じさせぬ涼しげな機動で他の子供達を気遣い、奇襲に合わぬよう神経を張り巡らせながら、イズナもそれに続く。合流する予定の隊は一つ上の兄が属する隊だった。
そして、イズナはそれを見た。
……兄が敵の忍びに殺される瞬間を。
「……兄、さん」
まるでスローモーションのようだった。
700メートルほど先で崖の向こうに追い詰められ、兄の体に刃が刺さる。
小柄な体は宙に浮かび、兄の口から花のように鮮血が散る。
間に合わない。
千手のようにうずまきのように生命力に秀でた一族ならもしかしたら、助かった芽はあるのかもしれない。けれど小さなあの体に、大人が突き立てた太刀の一撃はあまりにも無慈悲で、見ずともわかる。兄はもう事切れている。
これが忍界最速と謳われた四代目火影波風ミナトなら、兄は助かったのかも知れない。
あるいは前世の親友で瞬身のシスイと謳われた彼なら間に合ったのかも知れない。
けれどイズナは、うちはイタチという人間の記憶を前世として持っているだけの子供だった。
ここから兄を救う道なんて、どこにもなかった。
無力感が胸を焼く。
目視出来る位置にいたというのに、イズナは兄を助けることは出来なかった。
「あ……あぁ……」
眼が熱い。
写輪眼が開いていく。
懐かしくて、けれどこの肉体では初めての感覚だった。
「ハァ……ハァ……」
怒りはない。
憎しみはない。
目の前で兄を失い、イズナの胸を満たしたのは、救えなかったという自分への失意だけだった。
* * *
戦が終わり、簡単な葬儀の用意と後始末に大人達が奔走する中、イズナは久方ぶりに父に呼ばれ、褒め言葉を与えられていた。
初陣で開眼するなどすごいことだと、その眼を褒められ、同じ部隊の大人からの報告で聞いた戦いぶりをも褒められた。
他の大人達の目もある。その場では族長に敬意を示すためにも微笑み「ありがとうございます」と返したけれど、イズナはちっとも嬉しくはなかった。
胸を満たすのはむなしさだけだ。
四兄の死はイズナの写輪眼開眼を祝う声に潰され、話題にも上がらない。そのことが酷く苦々しい。
別にタジマが息子の死をなんとも思っていないということはないだろう。きっと父だって苦しいに決まっている。息子の死が悲しくないはずがない。それでも自分を祝う声を聞くと「兄さんが死んだのに何を楽しそうにしているんだ!!」と怒鳴りつけてしまいそうになる。
うちはイタチであったとき、自分は末の弟ではなく兄だった。
兄弟は弟が一人サスケだけ。
年が離れた自分を慕う弟のことがイタチはとても可愛くて、その小さな手が自分の手をきゅっと握ったそのとき、ああこの子を守るのが兄としての自分の役目なのだと、そのために自分は生まれてきたんだと大真面目に思った。五歳の時のことだ。
サスケのことが可愛くて仕方なかった。
けれどイタチはサスケを置き去りにした。
「また今度だ」と何度も嘘をつき、復讐され弟に殺されることを望み、弟の気持ちを踏みにじった。
この世の不条理全てから守ってやりたかった。一方的に守られる側の弟の気持ちを考えることもなく。
うちはイタチは守る側の人間だった。置いていく側の人間だった。
こんな風に兄が目の前で殺されたなんて経験はなかった。
今なら、前世の自分は酷く傲慢だったのだろうと、イズナはそう思う。
兄と過ごした記憶がいくつもよぎる。
高熱を出した自分に見舞い、野山で摘んだのだろう花で花束を作ってくれた。兄弟達の中で一番泣き虫で、甘えたで子供らしい性格の兄だった。
自分なんかの開眼を祝うくらいなら、兄の死を悼んでほしかった。
「イズナッ」
「……マダラ、兄さん」
戦装束から着替え、血と泥を落とした次兄マダラが名を呼び、イズナは思考の海から意識を浮上させる。兄はイズナの肩を確かめるように触れてから抱きしめると、「イズナ」ともう一度名前を呼んでから静かな声で言った。
「……写輪眼、開眼したんだってな」
「……ええ、開眼しました」
「そっか……辛かったな」
そういって兄はマダラはぎゅっとイズナの体を抱きしめた。
その暖かな体温に酷く胸が締め付けられる。
兄は泣いてはいない。
この人が自分たち兄弟を誰より大事に思ってて慈しんでいた事は知っている。
亡くした兄はイズナにとっては兄だけど、マダラにとっても大切な弟で、悲しいのも苦しいのもきっと一緒で、だけど泣けないのは、泣かないのはもしかしたらイズナのためだったのかも知れないとそう思った。
「ねぇ、兄さん……」
ポンポンとあやすように自分の背を叩く兄は母の代わりを務めるかのようで、この人もまだ10歳なことを思えばもの悲しく、けれど寄り添うようなあり方が嬉しくも愛おしい。
「戦は嫌ですね……力ないものから死んでいく……」
「ああ……そうだな」
「父上に褒められても、ちっとも嬉しくありませんでした」
「……そうか」
「戦、無くなればいいですね」
「……そうだな」
二人寄り添って涙も流せぬままに兄弟の死を悼む。
そんな二人を月だけが照らしていた。
続く