転生したらうちはイズナでした(完)   作:EKAWARI

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ばんははろEKAWARIです。
イタチさんの「父上」と「父さん」を使い分けていたり、目上や敬意を払うべきだと判断した相手にはちゃんと敬語や敬称を使ってたりしてる礼儀正しいところが好きです。
今回の話は殆ど原作沿いだけど、次回くらいから原作ブレイク始まるよ。


4.兄と柱間

 

 

 ……兄と柱間はどうやら会う度にどんどん仲良くなっていっているようだ。

 そんなことを思いながら鳥の視界でイズナは二人をさり気なく見つめる。

 

 あの日、後の木の葉隠れ創設者にして初代火影の千手柱間と兄が会っていると気付いた日から、実に一つの季節が終わろうとするほどの時間が経った。

 けれど、イズナは兄が宿敵とも言える千手家棟梁の嫡男と会っていることを父にも報告せず、ただ、兄が川辺に向かうときはこうして影分身を一体、山にいても不自然ではない野鳥へと変化させて、兄マダラに気付かれないよう彼の後を追わせ、本体は隠し事をしているなど微塵も感じさせないいつも通り、涼やかで悠然とした態度で子供達の面倒を見ていた。

 

 何故、そうしたのか。

 いけないことだとは判っている。

 うちはイズナとしての立場からすれば、一歩間違えればスパイと疑われる兄の行動は父に報告するべき案件であったし、兄を想う弟としては、彼の秘密の友人関係を覗き見するような真似は、人の心に土足で踏み入るような褒められたものではない行いである。

 けれど、イズナの中に眠るうちはイタチという故人の残滓が言うのだ。

 木の葉隠れの里、その始まりは今世の兄であるうちはマダラと、その好敵手であり不倶戴天の敵であった千手柱間が手を結んだことから始まった。

 戦乱の世であった当時、忍びの里システムという前代未聞の……のちに他国にまねをするものが続出したものを成り立たせた二人は、一体何を考えて、どんな思いで木の葉隠れの里を作ったのか。

 それを聞きたいと、うちはイズナの中のイタチの想いが訴えたのだ。

 推測は出来る。

 でもその人間の本当の想いなど結局本人でもなければわからない。

 だからこそ、知りたいと思ったのだ。

 その気持ちを。

 後に木の葉隠れと名付けた複数の一族からなる忍び里にどんな想いを込めて、どんな願いを託していたのか。その木の葉隠れの里の忍びであることを誇りとして死んでいったうちはイタチの願いを継承したものとして、本人達の口から偽りない想いを知りたかった。

 それが動機であったけれど、今は別の想いも生まれている。

 忍びの技を競い合いながら、未来について語り合う希望に満ちた二人の子供。

 次兄マダラと、未来の火影である千手柱間はイズナの想定よりずっとずっと仲が良く、性格は全く違うのにとても馬が合うようであった。

 こんなに活き活きとして、年相応に子供らしいマダラの姿なんて、弟であるイズナの目から見ても初めてのことだ。

 いつもうちは一族棟梁の嫡男として、張り詰め、気を抜くことも隙を見せることも良しとせず、自分たち兄弟を忙しい父母に変わり庇護者たらんとしていたマダラ。

 天才と言われ、同年代でも一歩抜きん出た実力を持ち、それに相応しい尊大さの鎧で自身を包み、故に誰にも心を許せなかったこの兄が、どうだ?

 千手柱間の前ではまるで普通の子供だ。

 

 喜怒哀楽も激しく、怒り、慰め、喚き、笑い、肩の力も抜いて夢を語る。

 うちはの次期当主などではなく、柱間の前ではただのマダラとして、対等の友として立っている。

 そのことがイズナの心を揺さぶる。

 いつも背負い込みがちな兄が、不器用な優しさを持つこの人が、気負うこともなく素をさらしありのままでいれること、そのことが奇跡のように尊くて、弟として嬉しくて、そして……かつてうちはイタチであったものとしても、うちはイズナ個人としても酷く羨ましい。

 

 前世、うちはイタチであった頃、イタチもまた麒麟児と呼び声高い子供であった。

 戦後生まれとしては異例な事に、忍者アカデミーをたった一年……七歳で卒業し、早々に忍びとなり11歳で暗部入りし、13で暗部の分隊長に抜擢され、そのままクーデターを企んだ一族の滅亡と暁への監視スパイ忍務を言い渡され完璧に果たし、汚名を被り弟の目の前で死んでいった。

 それがうちはイタチという男の人生だった。

 誰が見ても異常な経歴と言える。だからこそ、イタチにはサスケにとってナルトのような存在が……マダラにとっての柱間のような対等な友はいなかった。

 友人がいなかったというわけではない。

 親友ならいた。

 当時うちはきっての手練れと言われた瞬身のシスイがそうだ。

 でも彼とは少し年が離れていたし、親友で同胞で対等でありたいとは思いつつも、完全に対等な関係とは言いがたかった。イタチは彼を通じて忍びとしての在り方を学び、いろいろな想いをシスイは弟分兼親友であったイタチに託して逝ってしまった。託す者と託された者。友人だけど同時に兄弟分でもあった。

 親にさえ滅多に甘えた記憶がないイタチが、珍しい事に彼にだけは少し甘えていたように思う。でも果たして逆に彼がイタチに甘えたことがあったのかどうか……そう考えればやはり、なんでも言い合える関係ではなかったのだろう。

 イタチには当然のように当たり前に対等な、同世代の人間がいなかった。

 

 イタチと似たような経歴の持ち主なら、いるにはいる。元上司であるはたけカカシがそうだ。彼もまた天才忍者として知られ、アカデミーに通っていたのは一年にも満たず僅か五歳で卒業し、六歳で中忍、人手不足の戦時中とはいえ僅か12歳で上忍に昇進した紛れもない出世株である。

 しかし彼の時代は戦時中であったため、戦後と違って人手不足なことから八歳や九歳でアカデミーを卒業が当たり前、という環境の違いもあったからだろうか。

 カカシはイタチと違い、アカデミー入学時に同期生であった猿飛アスマやマイト・ガイなどといった面子と仲が良く、普通に対等な友人づきあいを続けていたようであった。

 そう考えると似ているのは経歴だけだといえるだろう。 

 

 暁で長年の相棒であった干柿鬼鮫という男がいる。

 里にいた頃のことについて詳細は互いに聞いたことはない。けれど、どこかで似たものを互いに感じ取っていたのだと思う。彼との関係は終始良好で、一緒にいてそれほど疲れぬ相手だった。おそらく、この組織から与えられた相棒に互いにシンパシーを感じていた。

 けれど、そもそもイタチがS級犯罪者で構成される組織である「暁」に入った理由は、将来木の葉隠れの里に仇なすかもしれぬこの組織を内側から見張るスパイの為であり、れっきとした任務である。

 そのため、互いに相手のことを気にかけつつも、探り合うことが当然で、本心を晒し合うことも、素を見せることもあり得ない相手でもあった。

 だからこの男もまた対等の友ではありえない。

 穢土転生で現世に舞い戻ったとき、暫く行動を共にした長門を思い出す。

 長門……ペイン六道を動かし、暁のリーダーをしていた男だが、弟弟子であるナルトの言葉で初心に返り、救われたのだというこの男は憑き物が落ちた後は、とても穏やかな性質をしていた。

 穢土転生後……つまり死後ということになってしまうが、彼とは対等であれたように思う。もしも出会い方や時代が違えば彼となら対等の友になれたのかもしれない……あくまでも「しれない」だ。

 結局イタチには対等の友なんて存在はいなかったし、そんな存在がいたらおそらく一人でなんでもかんでも出来るなんて自分に嘯いて、何もかも背負い込み、これしかないとそんな盲信で道を見誤ることもなかっただろう。

 

 現在イズナとして生きている今もそうだ。

 うちはイズナには対等な友がいない。

 それは忍びとして突き抜けたその才能だけではなく、精神年齢に開きがありすぎるという点も同世代の友人を作る障害となっている。

 同世代の子供達にとってイズナは庇護者であり、尊敬する理想の親にして師、そんな存在だ。

 誰もイズナを実年齢通りの幼い子供だなんて思っていない。イズナを守ってやらなきゃいけない小さな子供だなんて、そんな風に思っているのはせいぜい兄のマダラくらいだ。

 そのあまりにも幼子らしくない佇まいと、落ち着き払い悟りを開いた仙人のような物腰在り方に、一族の中にはきっとイズナは御伽噺に聞く六道仙人の生まれ変わりかなんかだと思って、拝む老人までいる始末だ。

 故に一族の子供達にとってイズナは対等な存在にはなりえないし、仮にイズナが彼らに友と呼んだら「畏れ多い」と彼らのほうから否定してくるだろう。そんなこと、言われずとも理解しているし、そうなるよう振る舞ってしまったのも自分だ。その自覚もあるし、後悔もない。そのおかげで戦死者は確実に減ったのだから。

 それでも、一人も自分と対等な友がいないという事実は、少し寂しくはあるのだ。イズナだって人間なのだから。

 だからこそ、互いに正体を隠しているとはいえ、飾らず付き合える対等な友を得た兄を羨ましく思う。

 

「よぉ、柱間」

 と明るく太陽にように快活な笑みを浮かべて、兄がおかっぱ頭の少年の名を呼ぶ。

「おう! マダラ」

 うちはイタチの時の歴史で「忍びの神」と後に呼ばれる戦国最強の男になるだろう少年が酷く、楽しそうに兄の名を呼ぶ。

 挨拶のように組み手を交わし、その忍びの技を競い合う。

 その実力はやや柱間が優勢なところはあっても、基本的に拮抗しているようだ。

 ポンポン飛び交う軽快なボケツッコミは、まるで漫才を見ているかのようだ。

 負けず嫌いで、ライバルで、けれどそのやりとりはコミカルでからっとしている。彼らは本当に仲の良い対等な友人であった。

 

「ホントに止まるんだ……」

「だからオレの後ろに立つんじゃねェー!!!」

「弱点見っけ……」

「小便したばっかの川に投げ込むぞゴラァ!!!」

 無邪気な少年達のやりとりは酷く楽しげでコントめいていて、戦乱の世とは思えぬくらいこの刹那だけは何よりも平和で、見ていて愛しい光景だった。

 いつも張り詰めていた兄が荷物を置いて自然体でいれるのが、酷く嬉しくて、平和からほど遠い時代と思えぬ心温まるやりとりは見ていて癒やされた。

 こんな風に誰かと張り合って、普通の子供みたいに喚き騒ぐ兄など、集落で見ることは出来ない。

 だから兄に悪いと思いつつも、イズナは里を作った想いを聞きたいという原初の望みの他にも、この二人のやりとりを聞くのが個人としても癒やしで楽しみとなっていた。

 けれど……わかっていたことだ、何事にも終わりが来ることは。

 

「イズナ」

 いつも通り子供達と広場で別れ、影分身を解いて兄や柱間の微笑ましいやりとりの情報を受け取りながら自宅に戻ったイズナを待ち受けていたのは、イズナやマダラの実父であるうちはタジマであった。

「話があります」

「……はい、父上」

 うちは一族の族長である父は厳かな態度で、屋敷に入り、座敷に入るとイズナに向き合い、言った。

「最近、頻繁にマダラが集落を抜け出し、どこぞに行っていること、お前は知っていますね?」

「……はい」

「以前からマダラにはそういうところがありましたが、最近やけにその頻度が高い。となると……誰かに会っていると考えるのが妥当……どこぞの馬の骨に誑かされたか。まぁ、いい。当主として命じます。イズナ、次にマダラが出かけるとき尾行し、相手が何者か突き止め報告しなさい。まさかお前に、出来ぬとは言うまいな?」

 父と弟がそんな会話をしていることなどつゆ知らず、マダラはその日もイズナでなくばわからぬくらい上機嫌な気配を隠しつつ帰宅した。

 

 正直父の言うとおり尾行などしなくとも、イズナは次兄が会っている相手が誰なのかくらい知っている。

 寧ろ、父に命じられる前から影分身をわざわざ鳥に変化させて兄につけていたくらいだ。

 全ての兄と柱間のやりとりを知っているわけではないが、それでも殆どは知っている。

 けれど、父に命じられた通り次に兄が出かけるとき、尾行することとした。ただし、いつものように影分身ではなく、本体のほうで。

 それは正式に当主として命じられた以上忍務であったから、というのもあるが少しでも兄と柱間の友人関係が、その時間が続いてほしいという願いもあった。

 そんな弟の心情も知らず、今日もまた兄はおかっぱ頭の少年とコントめいたコミカルなやりとりを繰り広げ、直角ガケ登り勝負を行い、それから二人並んで森の景色を一望していた。

 うちはイタチの記憶を持つイズナは、その立地から当然のように気付く。

 二人が今上ったその崖が、後に火影岩が彫られる場所であることに。

 そしてイズナという監視者がいることにも気付かず、交わされる少年二人の会話に、弟たる少年はキュッと胸を締め付けられるような思いがした。

 

「……だったら、兄弟は死んでねェ。見守ることもできなかったくせに……何が……何が……」

 慚愧の念に沈む兄に、その友人たる少年が問う。

「もう兄弟はいねーのか?」

「イヤ……一人だけ弟が残っている。その弟だけは何があろうとオレが守る!!」

(……兄さん)

 その決意に満ちた声音に、自分の前世を思い出す。

 ……同じだ。

 うちはイタチもそうだった。たとえ一族を滅ぼすことになろうとも、それでも、弟だけは、一族の罪を何も知らないサスケだけは守ろうとした。そうして独りよがりで身勝手なやりかたで弟を守り抜いて死んだ、そんな人生だった。

 そう思えば、兄とはそんな生き物なのかもしれない。

 弟を守るためなら、自分の命さえ惜しくない。でもそれは同時にもの悲しい決意だった。

 そんな友人を前に、柱間がわざとらしいくらい明るく快活な声で宣言をする。

「ここにオレ達の集落を作ろう!! その集落は子供が殺し合わなくていいようにする!! 子供がちゃんと強く大きくなるための訓練する学校を作る! 個人の能力や力に会わせて任務を選べる! 依頼レベルをちゃんと振り分けられる上役を作る。子供を激しい戦地へ送ったりしなくていい集落だ!」

 イズナは思わず生唾を飲み込んだ。

 この時代から見て、一世紀近く未来の時間軸を生きたうちはイタチの記憶を持っているイズナは知っている。今、柱間が宣言した内容はこの時代の人間から見たら世迷い言か夢物語の類いだ。

 けれど、それが実際に果たされた世界があることを知っている。

 しかしまさかそこまで、最初っから里の構想にあったとは思っていなかった。

 うちはイタチの生きた時代、あの世界で忍者アカデミーを最初に設立したのは千手柱間ではない、二代目火影である彼の弟千手扉間だ。アカデミーの設立は二代目火影の功績とされていた。というのに、その発案者まで柱間とは思わなかった。

 そんな風に密かに衝撃を受けているイズナを置き去りに、穏やかな声で兄と柱間のやりとりが続く。

「フッ……そんなバカなこと言ってんの……お前ぐらいだぞ」

「お前はどうなんだよ!?」

「ああ。その集落作ったら今度こそ弟を……一望できるここからしっかり見守ってやる……!」

 そんな友人を見て、柱間が笑う。

「へへへ……」

 声を出してマダラも笑う。

 そんな二人の友情がかけがえのないものに思えて、父に報告し、兄達がこんな風にただのマダラや柱間でいられる時間を終わらせることが、イズナには酷く苦痛だった。

 けれど、イズナは気付いてしまった。

 兄と柱間を尾行しているのは自分だけではない。もう一人いることに。

 それにこれが正式に命じられた任務である以上、どちらにせよ報告しないという選択肢などないのだ。

 マダラが帰宅するより先、一足早く集落に戻り、父に兄が会っていた相手は千手仏間の嫡男、千手柱間であったことを報告すると、父は狼狽と怒りが混じったような声を上げた。

「何!? それは真か?」

「は……間違いありません」

「おのれ仏間め……己が息子をスパイに仕立て上げたか」

 父はどうやら、千手柱間のことを兄から情報を聞き出すための間者と判断したらしい。ブツブツと、千手仏間に対する罵詈雑言を並べ立てている。

 おそらく……真相をこの人に告げたところで、何を戯けたことを言っているのかと父には理解されることはないのだろうと、イズナはしおらしく命令を待つ体で頭を下げながら思う。

「イズナ、マダラを連れてきなさい」

 ……そこからの展開は言わずともわかるだろう。

「え、は……あいつが、柱間が千手一族……?」

 兄はかわいそうな位に真っ青になっていた。

 真っ青な顔で酷く狼狽えているマダラだったが、元々兄はそれほど馬鹿ではない。だからたとえ姓を名乗っていなかったとしても互いにどこの一族のものかなど、本当は悟り分かっていたことだろう。

 分かっていても、信じたくないこともある。

 マダラにとっては今回の件がそうだった。それだけの話だ。

 そうして、間者の疑いをかけられたくなくば、柱間を使い千手一族の情報を持って帰ることを父から正式に命じられる。

 小さく肩をふるわせつつも、それでも振り絞るように「……わかりました」と返事する兄だったが、その常らしからぬ態度こそが、どれほどマダラにとってその命令が苦痛なのかを赤裸々に告げていた。

 言うことが終わり、父が去るも、兄はそのまま部屋が暗くなるまで食事も取らず座り込んでいる。

「マダラ兄さん……」

「イズナ、お前は……知ってたのか?」

「はい……父さんに報告したのは、オレです」

「そうか……」

「兄さん、オレは……」

「悪ィ、イズナ。暫く一人にしてくれねェか?」

 人に背中を見せるのが嫌いなくせに、背を向けてそう告げる兄は泣いているような気がした。

 

 そして決別の日が来る。

 互いに水切り石を投げて、おそらくそこに書かれた文字を見た兄と柱間は急用を思い出したなどと嘯きながら背を向け同時に走り出した。

「逃げるつもりですか……行きますよ、イズナ」

「……はい」

 そのまま川の中央に降り立ったのはタジマとイズナだけではない。

「考えることは同じようですね……千手仏間」

 鏡あわせのように千手の親子が向かいに立つ。

 幼くともその白髪赤目の特徴的な容姿で誰かわからぬはずがない。

「……のようだな、うちはタジマ」

「千手扉間……か」

「そういうお前は、幻惑のイズナか」

 タジマは仏間と向かい合い、イズナは扉間と向かい合い構えつつも、内心は憂鬱で仕方が無い。

 今回の件でどうやら自分にたいそうな二つ名がついていたことをイズナは初めて知ったが、まあそのことはどうでもいい。問題はこの流れだと自分は扉間と戦わざるをえない点だ。

 木の葉隠れの里が生まれることを、内心願っている身としては万が一でも扉間に死なれるわけにはいかないのだ。何故なら扉間こそがうちはイタチの辿った歴史においての二代目火影であり、里設立の立役者の一人であるからである。

 カリスマや戦闘能力の高さという点では柱間の方が優れているのだろうが、政治というのはそれだけでまわるものではない。実務能力という点で見れば、様々な術の開発者としても知られる扉間のほうが優れている。おそらく、この弟がいたからこそ、柱間の夢見た忍び里というシステムはあそこまでスムーズにまわったのだ。扉間なくばその損失は計り知れない。

 決して千手の味方と思われぬ振る舞いつつ、互いに損害が出ぬようにする。この場で必要なのはそれであろう。とはいえ、前世を思えば慣れた仕事でもある。と、イズナは思い直し、内心の憂鬱を消す。

 そも、相手はあの千手扉間である。

 向こうも未熟な子供に違いないが、油断すればやられるのはこちらであろう。

「「やめろ!!」」

 互いの兄同士の声が重なり響く。

 タジマと仏間、互いの族長同士が向き合い、自分は扉間と刃を交える。タジマは扉間の命を狙い、仏間はイズナの命を狙っている。

 さて、どういなすか、とイズナが行動に移るより先に後方から投げられた二つの石が、父親二人の子を狙った武器を弾き落とす。

 マダラと柱間、はじめに互いが交換した石がとぷんと水の中に沈んだ。

 兄二人は弟二人の間に割りいり、互いに向き合う。

「弟を……傷付けようとする奴は誰だろうと許せねェ!」

 兄が吠える。

 けれど柱間と……友になった少年と敵対することが本意でないことは明らかであった。

 マダラは言う。

「オレ達の言ってた……バカみてーな絵空事にはしょせん……届かねーのかもな……」

 そんなことないと、言えたらどれほどいいだろうか、と弟たる少年は思った。

 動揺する柱間の想いを置き去りに、マダラは決別の言葉を吐く。

「オレは……うちはマダラだ」

 次に友に向けた兄の目は、赤く赤く血のような赤に染まっていた。

 うちは一族の血継限界……写輪眼。

 それは失意や愛の喪失にもがき苦しんだときに目覚める、うちはの誇りにして呪われた目。

 兄弟の誰が死んだ時にも目覚めなかったそれに、千手柱間との決別によってマダラが目覚めたその意味がわからないはずがない。

 つまりは、マダラにとって、千手柱間とは、同じ未来を夢見た友との決別は、それほどに……重かったのだ。愛の喪失に苦しみ、写輪眼に目覚めるほどに。

 兄は去る。

 友と呼んだ相手に背を向け、もう振り向かない。

 

 その夜、オレは、うちはイズナは密かに集落を抜け、昼間に兄二人が決別した川辺に来ていた。

 兄と柱間が投げ、親たちが放った武器を弾いた石がどのあたりに落ちたのかは覚えている。

 その石にメッセージを書いて、兄は柱間に、柱間は兄に送った。

 それを拾い上げる。

 マダラから柱間に送られた石には「にげろ」と、柱間からマダラに送られた石には「罠アリ去レ」とそう書かれていた。

「ああ……」

 それを見てイズナはたまらない気持ちになる。

 敵同士なことは、互いに兄弟の敵であったことは、昨夜には既に二人はわかっていたはずだ。

 それでも尚、互いを思い遣り、相手の無事を願った。

 その友情のなんと尊いことか。

 うちはイタチの知る歴史を思い出す。

 木の葉隠れの里は、仇敵同士であった筈のうちはマダラと千手柱間が手を結んだことから生まれた。

 しかし、のちにこの二人は火影の座を競い、マダラはそれに破れ、里を抜けて九尾を操り里を襲撃、柱間と一騎打ちに臨み、初代火影・千手柱間に討たれることによって最期を迎えたという。

 うちは一族がイタチの時代警戒されていたのも、このときのマダラの行いが大きい。

 これほどに互いを思い合っていた親友の二人が、共通の夢であったはずの里を作り上げ、戦乱の時代を終わらせたのに、なのに何故最後は敵対して殺し合ったというのか?

 ふざけるな、とマダラの弟としてイズナは思う。

 兄は、マダラは幸せになるべきだ。

 その思いは、里を作るに至ったその想いは願いは尊いものなのだから。

 

(兄さん、オレはあなたの、あなたたちの夢が叶う瞬間を見たい)

 

 だから、イズナは決意した。

 この二人の友情をここでは終わらせないと、二人の友情はオレが守ると決意した。

 

 

 続く


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