転生したらうちはイズナでした(完)   作:EKAWARI

7 / 15
ばんははろEKAWARIです。
なんか予定のところまでいかなかったんですが、長くなったので前後編に分けることにしました。というわけで扉間とイズナ前編です。


7.扉間とイズナ其の壱

 

 

 うちはと千手が同盟を組んだ日から6ヶ月、無名の世界初となる氏族を問わぬ忍び里が正式に認可され稼働し始めてから3ヶ月を過ぎた頃、正式に里の名は「木の葉隠れの里」と決まり、初代里長……火の国を守る影の忍びの長を略して『火影』と名付けられた、の初代火影に正式に千手柱間が任命された。

 これは合議の結果決まったことであり、ほぼ満場一致といって良かったのだが、初代火影となった柱間だけが「火影はマダラが良かったんだぞ~」と駄々を捏ねては「ウゼエ。民意で決まったもんにいつまでグチグチ言ってるつもりだ、ああ?」と本人に一蹴され、実の弟には「それより仕事しろ、兄者」とにべもない。

 まあ、でもこの結果は里が出来た時から分かりきっていたことでもある。わかっていなかったのは当事者である千手柱間当人だけだ。

 言われずとも皆わかっていることだろうが、木の葉隠れの里は戦国時代でも最強の名を欲しいままにしていた天敵同士であるうちは一族と千手一族が手を結んだことから生まれた。

 その後、うちの氏族も参加させて欲しいという各地から申し込みを来る者拒まずで受け入れ、現時点ではうちはに千手、猿飛に志村、秋道、奈良、山中と七氏族と……これからの発展を見越して引っ越してきた、忍びではない商人や鍛冶屋、飲食店を営む一家に大工などが暮らしている。

 他にもうちはの写輪眼の源流とも言われ、三大瞳術の血継限界を持つとして有名な日向家も里に加えて貰えないかと打診を受けている。

 きっとこの後更に増え、この先里は大きく発展していくだろう。

 そんな木の葉隠れの里だが、里を作ったうちはと千手は同格であり、この二家に優劣などないのだが……後から参入してきた氏族達からすれば、どちらを頼りにやってきたのかといえばそれは千手……もっといえば千手柱間の人望がでかい。

 なにせ、うちはといえば血継限界を守るためなのだろうが、閉鎖的かつ秘密主義で有名な血族だ。

 おまけに、現在の当主はあのうちはマダラである。

 

 マダラも柱間も、ここ2~3年前から戦国乱世でも最強格ではないかと囁かれ始めていた。

 それほどに圧倒的な武力を誇る二人であり、強いのも敵にまわすとおっかないのも大差なく、戦場で出会ったら「迷わず逃げろ」と言われている。

 そういう意味でも同格といっていいのだが、しかしこの二人には明確な違いがあった。

 マダラは……戦闘狂なのだ。

 本人は間違いなく皆争うことのない泰平の世を欲しているし、弟を守りたいという内に秘めた願いは純粋で、身内思いで情深く繊細で気を許した相手には甲斐甲斐しく尽くすタイプ……と美点もたくさんあるのだが、それらの美点は戦場では全く見えてこない。寧ろ逆の存在にしか見えない。 

 マダラが平和を望んでる?

 嘘つけ! ならなんであんな楽しそうに戦うんだ!! とはマダラと遭遇したら当然思う感想である。

 血飛沫をまき散らしながら、流れる長髪靡かせ鮮やかに戦場の華にして鬼神と貸すマダラの姿は、弱者相手にはゴミ屑を見るような目で見下しながら手を下し、強者相手にはニィィと凶悪な笑顔を浮かべながら笑って飛び出す……その姿のおっかないこと!!

 これを見て平和を求めているんだと言われても、説得力なんてどこにもない。

 まあ、そんなマダラも戦の最中でなければわりと思慮深く、常識人の一面もあるのだが、ぶっちゃけその姿を知っている者は限られている。

 くどいようだが、うちはは閉鎖的な一族なのである。

 柱間はマダラの美点もよく知っているから、愛情深くて本当は良い奴だと思っているからこそ、かつて同じ夢を共有したマダラが火影となり、里の民達を兄弟のように我が子のように見守って欲しい! とか無邪気に思っているのだが、それに同意する人間がいるか? といったら別にいないのである。

 それに対して柱間はどうか? と言われたらマダラよりも圧倒的にとっつきやすい。

 とんでもない強さを誇るのも確かだし、柱間とて戦国を生き抜いてきた男故安易に敵を見逃したりはせず殺すときはきっちり殺すが、技の競い合いこそ好んでいても、だからといって戦まで好んでいるわけでもない。そのあたりは「いつの世も戦いか……」という口癖にも表われている。

 なによりうちはと違って千手は元々「愛の千手一族」とも言われ、他族の娘を嫁に迎えたり嫁に出したりと、親族も多く付き合いのある家も多い。そうなればプライベートの顔も自然知られるようになる。

 柱間の性格を一言で表すなら豪放磊落。

 からっとしていて付き合ってて気持ちの良い男であり、話せば話すほど人を惹き付けるカリスマ性を持つ、太陽のように明るい男である。

 長年の仇敵同士である千手とうちはが手を結んだというのは、他族にとって青天の霹靂に等しかったニュースであるが、実際に柱間を知るもの達からみればあの千手柱間なら有り得るのかも知れない……そう思わせるだけの魅力と不思議な説得力が柱間にはあった。

 

 火影の地位は火の国の代表と里の上役の間で選出され、決められた。

 その上役とは、まさに里に参入してきた氏族の族長達やその側近がそうであり、彼らの多くはうちはではなく、千手柱間が興した里であるから、ならば騙し討ちされることもなかろうと判断して里に加わることにしたのだ、里長に柱間を推すのは当然と言えば当然だった。

 他に里長候補といえば、うちはの内部では「イズナ様を里長に……」という声も実のところあったのだが、そのイズナ本人が千手柱間を火影に推薦していることを知るなり、彼らは「まあ、イズナ様がそうおっしゃるのなら……」と引き下がった。

 うちは一族内でイズナの人気は若者と一部の老人、女達を中心になかなかとんでもないことになっていたりするのだが、しかしそれ以前の問題として、イズナはこの時点で若干15歳、先月誕生日を迎えた……の少年で、「幻惑のイズナ」「烏使いイズナ」として勇名を馳せる優秀な忍びではあるのだが、他の氏族から見たイズナは現時点ではただのうちは族長の弟でありケツの青い若造なのである。当然、他族からしてみれば「そもそもなんでこんな小僧が里長候補に名が上がったんだ?」と困惑しかない。

 幼少期から何度も刃を交えてきた千手扉間から見れば、うちはの人間がイズナを火影に推薦しようとした件については「ああ……まあ、マダラよりは妥当だろうな」という反応だったりしたのはここだけの話だ。

 そうして順当に順当を重ねて里長は柱間と決まったのだが、元々この里は千手とうちはが組んだことにより出来たので、うちはの立場を汲まねばならんだろう。

 というわけで、うちはの族長であるうちはマダラが火影補佐官達の纏め役兼火影不在時の代役で、その弟でうちは一族内で圧倒的な人気を誇るうちはイズナが火影補佐官に就任することが無事決まった。

 他にも、柱間の弟である扉間、奈良と猿飛の長も補佐官と重役として里の運営を担うこととなる。

 

 さてさて、出来たばかりの里であるがやることはとても多い。

 それは法の整備であったり、それぞれの一族毎の風習の摺り合わせであったり、商店街や公園の整備など、やることを羅列してはキリがない。

 なので、それぞれ重役達で主に進める事業を分担し、里への結界関連については山中、法や風習の摺り合わせなどは奈良、飲食店や商人との繋ぎなら秋道、任務の依頼レベルの仕分け作業の原案作成については志村、全体の監督には猿飛……そして、忍界初の試みである、忍者アカデミー設立事業と木の葉忍術研究所の設立については責任者に千手扉間、その副官にうちはイズナがつくことに決まった。

 マダラについては完全に柱間の補佐専門だ。

 しかし、そう決まったと同時に多くの者が疑問に思ったのは、何故イズナが扉間の学校設立や研究所の副官……サポートに選ばれたのか? ということだが、扉間からしたらイズナを選ばない理由のほうがない。

 だって、扉間は知っていたのだ。

 元々うちはは連携を得意とする一族ではなかった。

 秘密主義で閉鎖的な彼らは、一族内の結束力はあったものの一人一人の能力が高いからというのもあるのだろう、同時に個人主義者で溢れがちで、連携をそう得手としていなかった。

 ところがこの近年、若年層に限られるも、猪鹿蝶で有名な秋道、奈良、山中の連携に劣らぬ動きを見せる者がうちはにはちらほらと見受けられ、それは年を重ねる毎に増えて洗練されていく。

 それまで矢弓の如く子供が次々と亡くなっていたというのに、幼子でも見事に息の合った連携を見せるため大人でも手出しすることが難しくなり、次第にうちはは数を増やした。

 それが誰を中心をして為された事なのか。

 一体誰がこんな見事な連携を、その必要性を教え込み、咄嗟でも阿吽の呼吸で出せるよう昇華させたのか、扉間が調べぬ筈がない。

 中心にいるのは扉間よりいくつか年下の、いつも戦場で顔を合わせていた少年。

 そう、うちはイズナだ。

 あの少年を中心にうちはは変わった。教えたのは、イズナだ。

 つまりあの少年は教育の大事さを、適切な教育方法を知っている先駆者だ。ならば、敵でなくなった今、それを使わぬ理由があるものか。

 そうして会話を通し改めて思い知らされるのは、イズナの聡明さだ。

 1を聞いて10を知るという言葉があるし、まさに扉間自身そのタイプなのだが、これはイズナにも当てはまる。そんな二人の会話は事務的で淡々としているが、テンポが良く、時には扉間が気付いていなかった問題点をも指摘してくるので、彼との会話は扉間からしても大変為になったし、言いたいことが互いに呼吸するようにわかったものだから、ストレスも殆ど起きなかった。

 忍者アカデミーは入学年齢は4~6歳。

 一定のチャクラ量があることを条件に、簡単な筆記試験に合格すれば入学出来ることとした。

 教育期間は全部で6年。試験を受ければ短縮も可能。

 今は公園予定地で週に2度、お試し教室を行っている状態だが、来年の春から火影塔近くに建築予定の校舎で本格的に開校する予定だ。

 教育するには教師がいるので、何か適当な人材はいないかとイズナにふったところ、イズナと同い年くらいの四人のうちは一族のものを紹介された。

「お前がうちはの子供に教育の真似事をしていたのは判っている」

 最初にアカデミーの事業の責任者に扉間が就任したことを告げ、イズナは副官であること、お前がうちはの子供達に教育を施したのは知っているのだから、洗いざらい吐けとばかりに扉間が威圧したときにイズナが話してくれたことだ。

「確かに自分が彼らにチームワークを教えました」と。

 そうしてどんなことをしてきたのか聞き出すと、話の終盤にイズナが言ったのだ。

「後継者でないとはいえ、オレも当主の息子でしたからね。子供達の為にいつまでも時間を作るのは難しかった。そこで、オレが12になった時に言われたんです。『どうか、イズナ様、オレ達に任せてください』と」

 イズナは10歳までの子供を集め、それまで纏めて一人で面倒を見ていた。

 子供達は戦場に出てない5歳以下の年少組と戦場に出ている年長組にわけ、年少組の監督を影分身に任せ、年長組は自身で見ていたが、イズナはあくまでもその日の修行内容について方針を決めるのと審判役に徹し、よほど子供達が危険なことをやらかさない限りは手を出さなかったとのこと。

 しかし、それでもしっかり見守り、一人一人の行動全てを把握していた。

 何十人もいる子供達を相手に、である。

 人より情報処理に長けている扉間が聞いても、見ているだけとは実際にそれをするのがとんでもなく大変なことくらいよく判る。それを年齢一桁の頃から続けてたと聞いてしまえば、内心(化け物か……)と若干引いてしまうのも仕方ないことだろう。

 イズナの教室は11になれば卒業であったらしい。

 まあ、学校とか教室とか卒業という言葉は使っていなかったそうだが、実際やってることは青空教室と大差ないので今後はそう扱う。

 そうして11になれば卒業した彼らであったが……大きくなるにつれ、イズナがとんでもない負担を背負っていることにも気付いた。

 何せ族長の息子である。

 年を重ねれば、任せられる仕事も増えるし、そうなると子供達を見ている時間を作るのも骨だ。

 そこでイズナ教室の卒業生達の出番である。

 彼らはとにかくイズナの役に立ちたかったし、11~13歳くらいの子供は、子供達に交ざるには大人すぎるけど、大人から見たら子供過ぎる微妙な年齢だ。大人と子供の中間……つまり一番暇を持て余していてやることの少ない年齢だったわけだ、イズナを除けば。

 だから彼は敬愛するイズナへの恩返しの為にも、それまでイズナがやっていた子供達への教育の件について手を上げた。

 とはいえ、彼らは超人ではない。

 イズナみたいに全部の子供を見る?

 どう考えても無理である。凡人は逆立ちしたって天才にはなれないのだ。

 なので、彼らはイズナのチームワークという教えを胸に、それぞれ役目を分担することにした。

 イズナの生徒の中でも特に仲が良かった三人組がスリーマンセルを組んで幼年組の修行担当、一人は模擬戦の監督担当、一人は幻術の指導担当、一人は体術の担当、一人は忍術の担当……とそれぞれ得意ジャンルごとに分かれることによってイズナがやっていた作業の穴を埋めたのである。

 そしてまた一年が経ったら、次に卒業した子供達が先輩の後を引き継ぐ。

 大体そんな感じで、ここ二年ほど、イズナ自身が子供達を直に面倒見るのは月に三回ほどに激減したわけなのだが、イズナとしては個人に頼りっきりじゃないこの変化を大層喜んだ。

 自分たちで考えて、みんなで力を合わせて次世代に繋げていくこと、一々言われずともそこを汲み取り行動に移した生徒達が誇らしかった。

 なので、今回イズナが子供達の教師にどうかと扉間に推薦したのは、イズナの後釜として子供を指導した第一号の生徒達だ。その中でも年長組担当の、模擬戦を担当していたもの、幻術を担当していたもの、体術を担当していたもの、忍術を担当していたものを扉間に紹介した。

 顔合わせの時は元敵同士なのもあり……まあ扉間が厳格な雰囲気で実際おっかなかったのもある、でコチコチに緊張していた彼らだったが、これから毎週末2日間、公園予定地でアカデミーの前身となる臨時教室を開く予定なのだが、その教師をやらないかとイズナに声をかけられると、俄然やる気に満ちた顔で「やります」と答えたので採用する流れとなった。

 とはいえ、そこまで問題が置きなかったわけではない。

 基本的にアカデミーは扉間に任された案件であり、その副官に正式にイズナが指名されているわけではあるが、それまでうちは一族は閉鎖的で秘密主義な一族として有名だった。

 ここ近年、若年層に限るとは言えうちはの若者達の見事なチームワークの良さこそ噂になっていたし、目を見張る者があったが、学校に集まるのは一族は一つではない。複数の一族が集まるのだ。

 なのに大事な我が子を預かる教師が、よりにもよって閉鎖的で有名なうちは一族。

 教育に差をつけられたりするんではないか? 

 自分の一族だけ贔屓するのでは?

 ……とまあ、そんな感じの不安の声が上がった。

 なので、元々猪鹿蝶の連携の良さで有名な秋道、奈良、山中の一族の男達が代表で一名ずつこれまた教師として人材を提供し、うちはの四人を合わせ計七人が教師となり、その初仕事を猿飛、志村、秋道、奈良、山中の族長達が遠目から見学することに決まった。

 結果として、当初懸念されていた問題は起こることなく、イズナの推薦したうちはの教師達も驚くほど真面目に一族の垣根を越えて、真剣に指導していたし、これが初授業とは思えぬほど手慣れたものだった。

 実際、その授業に参加した各氏族の子供達……皆5~8歳くらいの厳選された20人である、の評判もとても良い。授業の最後に、うちはの教師陣のリクエストで急遽イズナもまたそこに混ざることとなり、その見事な手裏剣術を見本として披露したのだが、用意された20の的、真後ろにある的まで同時に真ん中ぴったりにあてる神業じみたその腕前に、子供達の興奮が上がりに上がったことを明記する。

「兄ちゃんすげー!!」

「はわわわ、かっこいい」

「きれー」

 あれは完全に子供達のヒーローだった。

 イズナは子供達の心をここでも見事掴むのであった。

 ともかくとして、イズナの推薦には間違いが無かったようだ。

 扉間はイズナが紹介したうちは一族のもの四人を、来年のアカデミー開校後も正式に雇うと決め、それぞれ雇用条件……週末に行う仮教室での給与も含む、のすりあわせなども行った。

 やることは多い。

 自分で術を開発する研究者でもある扉間としては木の葉忍術研究所のほうも早く軌道に乗せたいところであるが、最優先は世界初の忍者アカデミーという学校事業のほうなのである。

 どうにも研究所を本格的に始動させるにはあと2~3年待つ必要がありそうだ。

 

 コンコン。

 いくつもの書類という書類を自分に与えられた執務室で片付けていると、規則正しいノックの音と共が響く。それに嗚呼イズナが来たのかと思いながら「入れ」と許可を取ると「失礼します」とイズナはきっちり、躾が行き届いた綺麗な礼と共に姿を現した。

「……扉間さん、飛び級制度についてなのですが」

「問題があったか?」

 先にも述べたが、忍者アカデミーは4~6歳で入学、6年で卒業だが試験を受ければもっと早く卒業も出来る……という形で考えている。

 なにせ人によって才能は違う。しっかり学ばせるのもいいが、有能な人間を遊ばせておくのも勿体ないし合理的ではないなと思った結果、そのような形態で雛形を作ることにした。

「飛び級で短縮出来るのは3年まで……と制限をかけませんか?」

「……理由を聞こう」

 イズナがどういう人間かは扉間はわかっているつもりだ、何の理由もなくこんなこと言うはずもないと思うし、扉間が何故試験を受けたら6年に満たず卒業を可能にしようとしたのか、その考えは理解している筈だと確信をしている。

 なにせイズナは貴重な、扉間と同レベルで話せる人間なのだから。

 それに対しイズナはいつも通り涼しげな美貌に、落ち着いた口調で述べる。

「柱間さんが何故学校を作ろうと言い出したのか……里を作るに至った理由も同じですが、何故かは御存知ですか?」

「ああ……」

 他人であるイズナに言われるでもなく知っているし、イズナも扉間が柱間の語った夢を把握していると理解した上で言い出しているのはわかるが、それに何の関係があると、そんな思いも同時に扉間の胸にわく。

 そんな扉間の心の動きも見抜いていそうな程、相変わらず凪いだ黒の瞳に誠実さを浮かべながらイズナは言う。

「子供が死なない里……子供を守るのが動機です」

「何が言いたいのだ……」

「だからこそ、1年に満たず卒業が可能なシステムでは本末転倒に為りかねない」

 そう懸念を表明した。

 

 イズナには、うちはイタチという男の21年分の記憶がある。

 イズナの前世の記憶だ。ここと似た世界の、ここよりも時系列が60年ほど先に生まれた男の、記憶。

 うちはイタチは、アカデミー設立以来の天才と呼ばれ麒麟児と称された子供だった。

 故に戦後生まれとしては異例な事に僅か1年でアカデミーを卒業し、7歳で忍びとしての世界に入ったし、そのことを当時は疑問にも思うこともなかった。

 可愛い弟のサスケを守ってやる為にも早く大人になりたかった、というのもある。

 守りたいものがたくさんあった。

 うちはイタチは自分が子供であることを早々に放棄していた。

 それに周囲もうちはの棟梁の嫡男だった天才と言われるイタチに期待をかけていた。あまりにも早熟すぎて教師にも感嘆され、イタチを子供として扱うものはあまりいなかったのもその状態に拍車をかけた。

 三代目火影にさえ7歳にして火影のような考えを持つ子と見られていた。

 だが、今にして思えば、イタチが子供らしからぬ子供だったのも事実ではあるが、それでもあのときのイタチは子供だったのだ。

 子供らしくあれる時間は有限だ。

 そして子供同士の付き合いがあるからこそ、結べる絆もある。

 これは後悔……にあたるのだろうか。

 別にその人生やその時々の選択に対しての後悔は全くなかったのだけれど、それでも思うのだ。

 もう少し同期の子達と足並みを揃えて成長していたら、自分はサスケに対してあんな失敗はしなかったんじゃないかって……自分を見失い何者かわからなくなることもないのなかったのではないかって。

 子供同士での付き合いでしか育めぬ関係もある。

 同じ年の子供達と切磋琢磨する、その経験が圧倒的に自分には不足していた。今も、前世も。

 だから、子供が子供でいられる時間を作る、そのこと自体が柱間が理想に掲げた「子供を守る」という事に繋がると、イズナはそう信じている。

 扉間も馬鹿ではない……どころか有数の頭脳の持ち主だ。イズナの言葉を聞いてどういう意味かは数瞬で理解をする。その上で「それは必要か?」と問う。

 それにイズナは「はい、必要なことです」とキッパリと言い切った。

 

(ふむ……)

 

 そんな凜とした澄んだ黒い眼で、力強く扉間を見ている年下の少年を前に、扉間は以前から思ってた思いが胸をもたげ、心の中で苦笑する。

 

(やはり、兄者と似ているのかもしれんな……)

 

 そんなことを思っているとしれたら大概の人間にはぎょっとされるのかもしれないが、扉間はほぼ確信にも満ちた思いでそんなことを考える。

 自身の兄千手柱間と、うちはマダラの弟うちはイズナ。

 両名の表面的な印象は、真逆だ。

 扉間の兄である柱間は、豪放磊落を絵に描いたような性格で、太陽のように眩しく騒がしい。甘いところも多いが頑固で理想主義者で、その理想を果たすために耐え忍ぶことを知っている人間だ。

 戦乱の世の常識に真っ向から刃向かい、子供を犠牲にするこんな忍び世界は絶対間違っていると豪語するほどに自分というもの、考えを持っている人間で、迷惑をかけられることも多いが、扉間は自分と全く違う強さを持ったそんな兄が好きだった。

 対してイズナは、長年の宿敵だったうちはの人間だ。

 月を思わせる静謐さがあり、物静かで大人びており、部下思いで思慮深い。いつだって沈着冷静で聡明で頭が良く回る。その目は何もかも見透かすようだ。涼しげな美貌は人形のように作り物めいており、その纏う独特の雰囲気は、まるで何千年も修行した仙人か、悟りを開いた高僧のようだ。

 一見すると兄とは真逆の人間のように思える。

 だけど、扉間はこのイズナと何度も対峙し、何度も刃を交えてきた。隙など全く見せぬこの少年を倒そうと、何度も情報を探り方法を模索した。そうして見えてきたことがある。

 おそらく、イズナは兄者と同類ともいうべき人間なんだろう、と。

 先の青空教室での振る舞いを思い出す。

 イズナは、どの子供にも分け隔て無く平等に慈しむ。

 人を殺す術に長けているにも関わらず、人を殺すことを忌むべき所業と想い、平和を愛し生きることの出来る人間だ。なんでもない日常こそを愛している。

 そして先を見つめている。

 自分の理想を追い、それを果たすために努力を怠らない人間だ。夢を現実にしようと足掻きもがける人間だ。きっと、兄の思う里の姿に、火影に一番近いのは、体現しているのは……兄が火影にしようとしたマダラなどではない、この少年だ。

 

 うちはの大人達が千手を信用出来ないと思うように、扉間とてうちはを信用出来ない。

 とくにマダラなど信用出来ない相手の筆頭だ。兄の底無しのマダラへの信用こそ扉間の理解の範囲外である。

 それは何も千手と不倶戴天の敵だったからなんて感情論な理由ではない。

 うちはが悪に憑かれやすい一族だからだ。

 奴らの瞳力は憎しみの強いものこそ顕れるというそんな噂がある。

 けれど、この噂はほぼ本質を突いているだろうと確信している。

 何故なら扉間はあの日、父がうちはタジマと相打ちとなって死んだあの時に見たからだ。

 あの眼を。

 うちはマダラと、うちはイズナの変質を。

 

 扉間は感知タイプだ。

 だから、感じたのだ。

 あのとき、マダラのチャクラは禍々しく悍ましく変化していった。その変化を目の前で見ていたからこそ知っている。

 マダラが父親の亡骸を前に、憎悪と怒りに飲まれると同時に奴の脳内には特殊なチャクラが吹き出していた。それが視神経に反応し、奴の目は模様を変えた。

 酷く不吉で闇深い、悍ましいチャクラだった。

 そしてそんな兄を見ながらイズナのチャクラの反応も変化した。暗い感情を呼び水にやはり脳内に特殊なチャクラが吹き出し、その眼の模様を変えた。

 とはいえ、兄の方と違って弟は変化して尚、そんな悍ましい気配はなかったのだが……。

 しかし、目の前で見たから尚更理解したのだ。

 写輪眼とは、負の感情を呼び水に進化する忌まわしき力であると。

 あの時のことを思い出す度、ゾッとする。あまりのことに言葉をかけることさえ忘れたほどだ。

 まあ、空気を読まぬ柱間の一言を呼び水に、すぐに正気に戻ったイズナがマダラを丸め込んだ故に何も起こらなかったが、あれを放置し、奴が闇を育てていたらどうなったかなど扉間は考えたくもない。

 うちはマダラは危険だ。

 兄はマダラは愛情深くて繊細という。

 意外かも知れないが扉間もそこは理解している。その上で、危険だと口を酸っぱく言っているのだ。

 マダラは強い。

 おまけに戦闘狂で、平和を求めていると言われても納得が出来ないほどに、戦場でこそ活き活きと輝く。そんな人間が、あんな眼を持っていて、しかもすぐに感情的になるのだ。

 情深いと言うが、それが原因でいつ足を踏み外すかわからぬ危うさがマダラにはある。

 そんな奴、信じられるか。いつ火種になるかわらかない地雷を抱えるなんて冗談じゃない、というのが正直な扉間のマダラに対する感想である。

 マダラは兄やイズナとは違う。

 あれは平和を享受出来る人間ではないと、扉間はそう思っている。

 強さだけは本物なのに、不安定。

 そんなやつを身内に抱えるのはごめんなのである。

 

(でもまあ、この男がいればなんとかなるのかもしれん)

 

 チラリと自分より年若い少年を見る。

 うちは一族には情深く繊細な者が多いが、この少年もそうだ。

 彼にもまさしくその特徴は備わっている。

 だが、彼が他のうちは一族と違うのは彼の心は酷く安定しており、マダラなど多くのうちは年長者に見る不安定さがない。それに本当の意味で目が良い。先を見通し真実を見通せる眼を持っている。

 人と協力することを、慈しむことを知っている。

 子供を宝と、一族に囚われることなく全体を見て、人に寄り添えるそのその在り方は酷く好ましい。

 きっとこの里で誰よりも兄と同じものを見ているのはこの少年だ。

 気付けば薄らと唇の端が持ち上がる。

 愉快な気持ちをポーカーフェイスに隠して、扉間は「なら、許可しよう」とイズナに告げた。

 

 うちはなど信用出来ない。

 奴らは危険だと扉間は正直に思っている。

 けれど、もしかしたら考えを変える日も来るのかも知れない。

 来ないかも知れない。

 全てはこの少年次第だ。

 けれど、そんな賭けも悪くないなと、珍しくもそんなことを思いながら、今日も扉間は仕事に忙殺されるのであった。

 

 

 続く

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。