今回の話は本当は前回とワンセットの予定だったのでタイトルこそ扉間とイズナですが、別名兄者結婚編です。ナチュラルに柱マダ戦国最強お笑いコンビがいちゃついてますけど、柱ミト&マダモブ♀要素ありありでお送りします。
……柱間とマダラは原作見ててもいちゃつきどつき漫才してるようにしか見えねえんだよなあ。
木の葉隠れの里が興って1周年を迎えた年の春、初代火影にして千手一族当主千手柱間が結婚した。
なにせ柱間は里長にして当主、そして唯一の木遁使いという立場の男だ。
いつまでも独り身が許されるわけもなく、前々から結婚しろという声は長老衆を中心に上がっていたが、「里がある程度落ち着くまでは」との声に、ならば1年待とうとなったのだ。
それに、そうなれば大々的にお披露目も出来るという目論見もあったらしい。
お相手は渦の国から来たうずまきの姫……ミトだ。
うずまき一族は燃えるような赤毛が特徴で、生命力と封印術に長けた一族で千手から見れば遠縁にもあたる。
うずまき一族は、今回柱間がマダラと共に一族の垣根を越えて作り上げた「忍び里」というシステムを非常に高く評価しているらしく、木の葉隠れの里を手本に「渦潮隠れの里」を興すことにしたという。
ついては両家の架け橋の証明として、うちの姫を何卒柱間殿の嫁に……というのが今回の経緯である。
まあ、柱間の嫁候補の釣書はそれこそうずまきミトの他にも沢山あったのだが、上記にも述べたように元々千手とうずまきは遠縁の親戚であることだし、うずまき一族は封印術に長けた一族だ。
中でもミト殿は若いながらに非常に優秀なくノ一で、多彩な封印術を自在に操るだけでなく、敵意の感知まで出来るのだという。これから里を興すという渦潮隠れと、この結婚を通して連携を高めていくこともあるだろうし、火影の嫁にうずまきの姫なら不足なし。
口うるさい長老衆まで諸手を挙げて皆喜ぶほどの、良縁だった。
因みに木の葉隠れの里もう一方の立役者であるうちはマダラについては、とうに結婚済みである。
「次の春分に行われるオレの結婚式、その夜の披露宴に弟のイズナ殿と一緒に参加して欲しいんぞ!」
と仕事帰りに友と共に飲みに行った際、柱間がそういえばマダラもうちはの当主になったからにはオレと一族内の立場は同じだよな~と思い「お前は結婚しないのか?」と問うた所「もう結婚してる」とかサラッと言われるものだから、あんぐりと初代火影様の口は大きく開いて暫し固まり、それから「え、え? えーーーー!!?」と激しく動揺のまま叫んでは「煩ェ!」とマダラにぶん殴られた。
「いつ、いつ結婚したんぞ!?」
「あー、この里に引っ越す十日程前だったか。そういやお前がうちに飲みに来るタイミングで鉢合わせたことはなかったから、紹介していなかったな」
「マダラの薄情者~!! なんで、式にオレを呼んでくれぬのだッ!!」
そのままワーワーと大声で叫んで騒ぐ姿はまるっきり子供のようである。
「喧しい。うちは千手と違ってそんな大々的に結婚をお披露目したりしねェんだよ……まあ、お前が披露宴に参加して欲しいってんならいくけどよ……嫁は行かねェぞ」
「なんで!?」
「いや、あいつ丁度臨月に入る頃だし……先週から実家に戻ってる。あと、オレに合わせてのそういう付き合いとか嫌がる奴なんだよ」
「既に子供まで出来てる!?」
突如知った友の近況に、ガーンとショックを受けてそのまま撃沈する柱間であったが、それでも気になったのだろう。結婚の経緯や相手についてそのままついで訪ねる。
だが、面白い話は特にあったかといえば別になかった。
柱間とミトが政略結婚であるのと同じで、言ってしまえばマダラの結婚もまた、族長としての責務の一環である。
まあ、『兄さんと柱間さんの夢見た集落で、そこで生まれてくる兄さんの子供を抱っこしたり……修行を見たりしたい』という弟の願いを叶えてやりたいという思いも若干無くもなかったが、あくまでも動機の一つだ。
当主となったからにはいつまでも独り身は如何なものか。
強くて優秀な血を残すのは一族としての義務であり、族長としての仕事の一つだ。
そのことから当主になってまもなく、長老衆を中心にマダラのお相手探しが始められた。
とりあえずマダラの希望としては「夫としての義務は果たすが、オレに過度の期待を抱いたり、女々しく泣いてオレに縋り付くような弱い女でなけりゃあなんでもいい」と出し、結果「妻としての義務は果たしますけど、私にやたら干渉してきたり束縛してくるような男でなければなんでもいいわ。愛だの恋だの言い出さない殿方なら尚良し」などというふざけた結婚条件を掲げていた女の釣書が渡されることになった。父方の又従兄妹だった。
まあ、一族内なんて皆顔見知りなわけで、当然マダラもその女の事を前から知っていたが、そもそも男と女では別々に育てられるのが慣わしであり、そこまで詳しく知っているわけではないのだが、いざ顔合わせの時顔色一つ変えずに「あら、私のお相手は族長様ですか」とあっさり言う傲岸不遜さには良い度胸しているな、この女とは思った。
まあ、自分の顔を見るなり泣き叫んだり、あるいはやたら秋波を送られるよりは余程良い。
それでマダラが「不服はないのか?」と訪ねると、女は無関心な顔と平坦な口調で「特には。まあ干渉し過ぎてこなければそれでいいです」と返し……それ以上話すこともなかったので、10分ほど沈黙が続いた後に「結婚する(します)か」、と同時に口にしていたそうな。
そして次の日そのまま互いの兄弟と親だけ招いてさっさと式を挙げたんだとか。
いや、なんぞそれおかしくない? とはマダラの口から淡々と語られるその話を聞いた正直な柱間の感想である。
まあ終始そんな感じなので、この二人の結婚生活は新婚特有の甘さからはほど遠く、一応同じ家に住んでいるけどどっちかというと同居人みたいな距離感で、同居人と違うのは夫として妻としての義務で夜はやることやってたってくらいのものである。
……道理で気付かないわけだ。
そもそも族長であるマダラの家は広く、離れには弟であるイズナが同じ敷地内に住んでいるし、日中は雇いの女中が二人ほど通ってきているし、妻も妻で別に喧嘩しているわけではないのだが、実家に戻っていることや友人宅に遊びに行っていることも多いらしい。
特に柱間が飲みに来る日は火影の相手するの面倒だな~っという本音の元、敏感に察知しさっさと実家に避難してしまうそうだから、何度も遊びにいっているにも関わらず、一度も遭遇しなかった現状ができあがったようだ。
それに対し「あいつはそういう奴だからな」とカラッとしており、それほど頻繁に家から出ている妻に対し浮気を全く疑っていないあたり、まあなんだかんだ上手くいっているようである。
いや……それともただたんにそこまで妻となった女に興味がないのか、真相がどちらなのかはマダラのみぞ知る。
閑話休題。
ともかくとして、マダラ既に結婚してた事件に衝撃を受けたりもしたが、柱間とミトによる結婚式の話である。
花嫁一行は丁度式の一週間前に到着し、料亭で挨拶と相成った。
「うずまきミトです、これからよしなに宜しくお願い致しますわ、柱間様」
このときうずまきミト、若干16歳。
嫋やかな微笑みを浮かべ、そう三つ指をついて挨拶をしたうずまきの姫は、それはそれは美しく生命力に溢れ、キラキラと澄んだその心を写し取っているかのように輝いていた。
「千手柱間だ、うむ、お越しになったミト殿!!」
「あらあら、柱間様、私達これから夫婦になりますのよ? 呼び捨てでかまいませんわ」
「そ、そうかの? では、ミト。これから長い付き合いとなるが、末永く宜しく頼むぞ」
そういって照れたようにはにかむ若き初代火影と、お淑やかに笑う若き姫の姿は美男美女で誰がどう見てもお似合いだった。
そうして、木の葉萌ゆる夜と昼で日の長さが同じとなるその日、二人は火影塔のすぐ前で結婚式を挙げた。
「火影様おめでとうございます」
「おめでとう!!」
「なんて綺麗な花嫁さんなんだ」
「火影様ー! 末永くお幸せにー!!」
次々に押しかける里の民に祝福されて、照れるように笑いながら、年若き火影は美しい妻と共に花のシャワーを浴びるのであった。
そうして夜は披露宴だ。
昼の結婚式は誰でも参加できるよう外で行われたが、夕方より開催された披露宴は違う。
参加するのは要人ばかりで、木の葉の上層部に火の国の大名からの使者などが集まり、政治色が強い。まあ殆ど挨拶巡りで終わってしまうので、食事を楽しむ暇もなく、本当に気軽に食事を楽しみ腰を落ち着かせることが出来たのはその後、馴染みの料亭を貸し切りにして親しいものだけを集めた無礼講な二次会の時だ。
もう、今日だけで一生分の祝福を受けたのではないかと思える柱間は、火の国の使者が帰った後漸くジワジワと結婚したという実感がわいてきたらしい。飲めや歌えやで用意してもらった大好物のキノコ雑炊を掻き込みながら、隣に座って同じく大好物の稲荷寿司をじっくり味わっているうちはマダラに寄りかかりながら、「マダラー! これも、美味いぞー飲んでるか? 今日は良き日ぞ、もっと飲めー!」とうざがらみしては「食事中に喋るな馬鹿、行儀悪ィぞ柱間ァ」とか言われて頭をグリグリされている。
まあ、いつも通りと言えばいつも通りである。
しまいには、マダラにじゃれつきながら、米粒を頬につけている姿を見て、「米粒までつけてガキかお前は。本当にてめえはみっともねェな、嫁に愛想尽かされても知らんぞ」なんて言いながら布巾でぐいぐいと柱間の顔に着いた米粒を拭い取り、甲斐甲斐しく世話を焼き始めてる辺り大概マダラも酔っているのやら……平常運転なのやら。
そんな風にマダラに世話されて嬉しそうに、更にマダラにじゃれにいく柱間という永久機関である。
……なんだこの二人の空間。
そんな二人を見ながら死んだ魚のような眼をした男が一人と、ニコニコ微笑ましそうに見ている少年が一人。
今日の主役の片割れたる千手柱間の弟である千手扉間と、うちはの当主マダラの弟うちはイズナである。
「兄者め……義姉者を差し置いて、何をまたマダラと延々と下らんことをしておるのだ、式を挙げた日くらい自重しろ兄者ァア」
などと怨霊めいた声を漏らす白髪の青年はこちらも平常運転である。
因みに主役のもう片割れたるミトは、柱間とマダラのすぐ側の席で此度親戚となった千手一族の女性陣とニコニコ楽しそうに会話をしており、やきもきする義弟と違って、友人にじゃれつく夫を気にしている様子はなかった。わあ、ミト強い。
まあ、ブツブツは言っても、めでたい席で大好きな兄のご機嫌っぷりに横やりを入れに行くのは遠慮したのだろう、いつもみたいに直接文句を言いに行くでもなく、隣でブツブツといっている扉間の姿は、それだけ兄弟の絆や兄への想いを感じさせて、にこにこ微笑ましくこちらも見守りつつ、イズナはキャベツを味噌だれにつけながらもきゅもきゅ食すのであった。
そしてクルリ、そんなイズナを恨めしそうにじと目で眺めながら、ため息を一つ。
苛立ち混じりのむすっとした顔で扉間はイズナに言う。
「おい、貴様はあれを見て本当に何も思わんのか!?」
そう指さす先には、マダラの膝に頭を乗せて寝転がりながら「んー……寝心地が悪い。マダラの膝は硬いのぅ」とかじゃれる柱間と、そんな昔ながらの友人に「なら、乗っかるんじゃねェよこの馬鹿」とか返しつつ、自身の膝の上に乗っかってる頭をべしべし叩きながら、お猪口で酒を煽るイズナの兄の姿。
イズナは口の中に詰め込んだキャベツをモグモグと20回ほど咀嚼してから、ごくん。
しっかり口の中身がなくなってから、凪のように落ち着いた物腰と声音で一言。
「仲良いですよね、あの二人」
となんでもないように返すのであった。
いや、仲が良いってレベルじゃないだろ。なんで成人したいい年の男二人が膝枕なんてしとるのだ気色悪い! とかいう扉間の渾身のツッコミは誰の心にも届きそうになかった。
(やはり、こいつとは合わん……)
主に感性が。
なんであれを仲良いなーって微笑ましそうに済ますのか。それがうちはイズムなのかそうなのか、うちはの愛ってそういうものなのか。そういやこいつらおかえりの挨拶で兄弟同士でハグとかしてたしな! スキンシップが平常運転か!! とりあえず兄者は自重しろ!!!
いい加減、胃薬を調合してもらうべきなのかもしれない。
扉間は思った。
なんで自分だけこんな心労負わねばならんのか、理不尽だ。なんらかの形で仕返ししないと気が済まない。
それからふと、ある噂を思い出し、ニヤリとそれはそれは悪い笑みを浮かべながら言った。
「おいイズナよ、良いのか? お前の兄は兄者の女房役とか呼ばれておるぞ」
自分の兄がおなごに例えられていると知れば、さすがのイズナも多少は動揺することだろう。
そう思って嫌がらせもとい皮肉を込めて、そんなことを言い出した扉間であったが、しかし、相手は隠れ天然ボケ……そうは問屋が卸さなかった。
「ああ……」
イズナは用意されていたわらび餅に手を伸ばしながら、火影室での二人のやりとりを思い浮かべる。
沢山積まれた書類を前に「マダラー! 助けてくれ全然終わらないんぞー!!」と泣き言を言いながらしがみつく柱間と、「ええい、離れろ鬱陶しい。っち、たく、だからそっちの書類は昨日のうちに片付けとけと言ったんだ馬鹿。お前が脱走なんてするからだぞ自業自得だ」とか口では厳しいことを言いながら、甲斐甲斐しく世話を焼き、テキパキと積まれた書類を柱間にも見やすいように仕分けして、片付けていくマダラの姿。
そんな口では厳しいながらも自分に甘い友の姿に感激して飛びついては、「仕事しろ馬鹿」とそのまま叩き落とされる火影様と、八つ時に「まぁ、お前も頑張ったからな、これくらい良いだろ」と照れくさそうにツンとそっぽを向きながら買ってきた饅頭と共に手ずから入れた茶を柱間に差し出す兄マダラ。
火影塔での日常である。
「柱間さんとマダラ兄さんのやりとりって夫婦漫才みたいですからね。気持ちは分かります」
ごくん。
わらび餅を飲み込んだ後、そう扉間に返すイズナに、ガクンと白髪赤目の青年はうなだれ死んだ目で黄昏れるのであった。
ところでこの会話をバッチリ聞いてる男がいた。
言わずと知れた千手柱間当人である。
「ぬ? マダラが女房役とな? 扉間よ、そのような噂が流れているとは真か?」
いつの間にか酒瓶片手にちゃっかり近寄ってきた本日の主役たる火影様は、まじまじと弟を見つめながら酒臭い息を吐きつつ訪ねる。
(何故に兄者が反応するのだ……)
扉間は遠い目をした。
そもそも、何故兄とその友のマダラがそんな噂を流されたかと言われれば、嫌みや皮肉の一環である。
元々うちはと千手は不倶戴天の敵同士であった。
争い憎み合い殺し合い……それが何百年も続いてきた。
ところが、柱間とマダラに代替わりした途端にこの両家は争いをやめ、手を取り世界初の忍び里なんてものを興した。それを聞いた他家の多くの感想は「ふざけんな、馬鹿」である。
おまえら、仇敵同士だろうが何仲良しこよししてんだよ、戦国最強と名高かったおまえらに手組まれたらこっちに打つ手なくなるだろうが、馬鹿野郎! しかも実際会ってみると関係に罅入れる余地あるどころか、ガチで仲が良いし、男同士のくせになにいちゃついてんだコラ! おまえらちょっと前まで殺し合っていたくせになんなのその仲の良さ、オマエら出来てんじゃねえの、クソッタレェ~!! という怒り混じりの皮肉を込めて、八つ当たりと共に流された噂なのである。
まあ、弱い犬はよく吠えるというし、所詮人の噂も七十五日だ。
扉間はこちらが騒がねばそんな事実無根の……事実無根だと信じたい、噂もそのうち消えるだろうと思ってこれまで放っておいたのだが、あんまりにも自分だけが胃を痛めている現状に腹が立ったので、軽口のようにその噂を口にしたのである。
だが、その皮肉を向けたかった相手はイズナに対してであって、断じて兄である柱間に対してではない。
まあそんなわけで、嫌がらせは失敗したことを悟りつつ「……まあ、そういう噂もある」と返すと、この兄はおかしそうに腹を抱えて大笑いしだした。
「ガッハハ! なんとそのような噂を立てられているとは知らんかった! ふむ、マダラがオレの女房役か、おお……そうとも! オレとマダラこそが木の葉隠れの里の父母ぞー!!」
そういって、柱間は酔っ払いテンションもそのままにいえーいと、拳を天に突き上げながらガッハハとクルクル回った。
「は~しら~ま~!!」
ガッシリ、テンション高い火影様の肩を後ろから掴みながら、子供が夜道で見たら泣き出しそうな凶悪面を浮かべてマダラが言う。
「おい、コラ、だーれが誰の女房だって? 柱間ァ……このオレを女房……女呼ばわりするたぁ良い度胸じゃねェか」
元来プライドの高いマダラとしては、流石に女に例えられるのは腹に据えかねたらしい。
今に人でも殺しそうな、どす黒さを湛えた笑顔だった。
そんなマダラの反応を見て、ずぅううんと柱間のテンションがキノコでも生えそうな勢いで盛り下がる。
「……す、すまん。お前とセットでそう呼ばれるほど、他者から見てもオレ達が仲良しに見えてるのだと思うと嬉しくて……お前を傷付けるつもりはなかった……それほど嫌ならもう言わぬ……でも、お前がおらねばこの里が生まれなかったのは事実ぞ……オレとマダラが里の生みの親ぞ……」
「だああ! その落ち込み癖マジ鬱陶しいからやめろ! お前本当にそういうところ面倒くせえな!!」
「それに……オレとお前で選ぶなら、愛情深くて面倒見も良いし、細かいところまで気がつくマダラのほうが母親っぽいんぞ……」
ボソリ。
「ああ!? てめェ柱間ァ! 誰がいつもお前の尻拭いしてると思ってるんだゴラァ!! オレが母親ならてめェは夫というよりどら息子じゃねェか!!」
「ハッハッハ、すまんすまん。いつもお前には助けられておるな、感謝してるぞマダラよ」
付け加えられた一言に益々マダラは顔を凶悪に変えて、柱間の襟元をグイッと掴んでガクガク揺さぶりながら怒鳴りつけたが、残念なことにこの初代火影様には全く通じている節がなかった。
そんな二人のコミカルなやりとりを見ながらクスクスと上品に笑う女が一人。
「フフ……柱間様とマダラ様は本当に仲が良いのですね。妬けてしまいますわ」
今日柱間と結婚したミトだった。
彼女は袖口で口元を隠しながらクスクスとおかしそうに笑い、慈愛の瞳で二人を見つめている。
その姿も口調も、妬けてしまうと口で言いつつも実際は全く妬けているようには見えない、包容力と暖かさに満ち満ちたものであった。
それを見て、チラリ、マダラと柱間の二人は互いに目線を交わすと、マダラはニヤリと笑って言った。
「おいおい、柱間ァ随分とイイ女を嫁にもらったじゃねェか」
「そうであろう、オレの自慢の嫁ぞ!」
そういって柱間は太陽のように笑った。
(……楽しいな)
そんな兄達のやりとりを見ながら、しみじみとイズナは思う。
きっとこの先もこんな日常が続くのだろう。
続いて欲しい。
否、続かせる。
その為ならなんだって出来ると力強くイズナは思いながら、もきゅもきゅとよもぎ餅に舌鼓を打った。
「全く兄者は……」
隣でブツブツ漏らす苦労人な火影の弟を前に、イズナは苦笑しながら、そっとお茶を手渡す。
「扉間さん、いつもお疲れ様です」
そのイズナの言に、扉間は一瞬嫌そうな顔を浮かべると「おい」とぶっきらぼうな声で続けた。
「……前から思っておったが、その敬語と「扉間さん」とはなんだ。貴様、昔はそうではなかったであろうが」
どうやら昔と呼び方が違うことを、気にしていないような素振りで気にしていたらしい。
それにサラッとイズナは答える。
「今は同じ陣営ですし、それに上司ですから」
というのは建前だ。
実際はうちはイタチの時の歴史で二代目火影だった千手扉間という男に、その能力や人間性に敬意のようなものを感じているから敬語を使っているが正解である。
それに、益々ムッツリと不快気に眉を顰め、白髪の青年は言った。
「やめろ」
確かに自分の方が年上である。それにアカデミー事業の責任者は扉間であり、イズナは副官……そういう意味ではなるほど部下である。
しかし、扉間は……口に出して言ったことはないが、このうちはイズナという人間のことは正しく評価しているつもりだ。副官? あくまでもそれは肩書きの話だ。
「いいか、兄者相手には弁えもらわねば困るが、オレにさん付けも敬語もいらんわ、気色悪い」
大体うちはイズナがメイン事業を担当することなく、副官止まりであるのは、ひとえに年齢の問題でしかない。実際はサブどころかメインでいくつもの事業を受け持て達成出来る能力があることくらい、扉間は誰よりもよく知っている。
おそらく扉間が知る誰よりもこの少年は優秀だし、うちは一族内でも彼の有能さは常識だ。
しかし、くどいようだがうちは一族とは閉鎖的な一族であり、他族から見たイズナは何故か異様に自分の一族に支持を受けているケツの青い若造にすぎない。年齢一桁で二つ名持ちになっていることからも、忍びとして優秀なのだろうとは思われているが、兄であるマダラのように個人主義に出ることもなく影に徹するその姿勢からも、そこまで能力が特出しているとはわからないのだ、有象無象には。
見た目は華奢で線の細い美少年なのもいけない。ようは舐められやすい外見をしているのだ。
それに対し、同じく族長の弟という立場で年若いながら、何故扉間がアカデミー開校に術開発研究所建設と二つも事業を任されたのかといえば、それを成せるだけの能力を知られているというのもあるし、見た目からして厳格で、体格も殆ど大人と代わり映えしないその容姿の説得力も一躍買ったのが大きい。
つまり、己とイズナの立場の違いを分けたのはそういうものが原因であり、それは年と共に実績を示せば解消される問題であり、いつまでも自分の副官という立場にこの男を置いていく気など、そんな勿体ないこと扉間は考えていない。
何故なら、この男は……。
「オレとお前は同格であろうが……!!」
そう、モヤモヤした想いを扉間が吐き出すと、イズナは一瞬ぽかんと、珍しくも放心したように目を見開き、それから嬉しそうに破顔した。
そしてふっと、大人びた笑みを続けながら、落ち着いた声で言う。
「同格、か。そうだな……ならば、次からそうしよう」
その覗き見た素の表情はあまりに酸いも甘いも知った大人の男めいていて、愛らしい美少年といった容姿とのギャップになんだか居心地の悪い想いを抱えながら、扉間はそんな自分の気まずさを誤魔化すように、ごほん。
咳払いを一つつくと、テーブルに並んだ料理から一皿を選び、ずいとイズナに差し出した。
「……それより、貴様、先ほどから見ておればキャベツと甘味と水菓子しか食わんではないか。もっと肉も食わんか、ほら」
ズザザザッ。
次の瞬間、イズナは見事なポーカーフェイスのまま距離を取る。
「……ぬ?」
再び皿を近づける。
イズナはスススと近づけた分だけ扉間から遠ざかった。
「……」
それからばつの悪そうな顔をして、ぽつり。
「…………ステーキは苦手だ」
などと、苦々しい声で言い出した。
「は?」
「焼いた肉から滴る肉汁と油……見ているだけで、胸焼けがする……気持ち悪い。駄目だ、それを食わねば飢え死ぬとでも無い限り食べたくない……肉は嫌だ」
普段は大人びていて隙のない少年が吐き出した子供っぽい本音に、扉間はがくりと脱力した。
「おぬし……そんなだから、いつまでも細いのだ……」
自分でも気にしていたのだろう、扉間の言葉を聞いてイズナは肩を落とし、無表情じみた顔のまま落ち込む。
(仕方ないな……)
元々扉間は四人兄弟の二番目である。千手柱間にとっては弟ではあるが、二人の弟がいた兄でもある。だから、だろう。らしくもなく、イズナの頭に手を伸ばし、ポンポンと励ますように撫で「まあ、肉が食えぬのなら無理はせんでもいいが、せめて魚は食えよ」と慰めの言葉をかけ、酒を煽った。
朧月がそんな一同を優しく照らしていた。
続く
水菓子=フルーツの別称