世界観:世紀末的な 銃のある中世が近いかも
荒廃してるとこもあればあんまりしてないとこも
一応人は死ぬし奴隷表現もあるので一応R-15&残酷な描写
オタクの駄文
タグに曇らせ追記しました
ざあざあと、雨がアスファルトを打つ音だけが響く野外に、そいつはいた。血まみれの棒のような足は、這う這うの体でここまでたどり着いたことを知らせている。ぼろぼろな体で、消えてしまいそうなほど縮こまっているのに、ぞっとするほど冷たい緑の目。殺意のこもった瞳に射抜かれているというのに、おれの根っこはその悪意に反応しなかった。おれは傭兵で、よく出来た人間ではないといえども情はある。ガキは息も絶え絶えにこちらをにらみ続けていたが、さすがに限界のようで意識を失った。面白い、おれはこいつを拾うことにした。
◇◇◇
首から下に感じる違和感に、私は飛び起きるように目を覚ました。知らない天井に窓、ふかふかの毛布にベッド。違和感の正体は全身に巻かれた包帯と、この暖かさだったらしい。
「起きたか」
腰に刺した短剣を手で探るも見つからず、しかたなく床に降りて腰を低く構える。一番近い凶器は火かき棒、しかし火鉢は遠い。素手で戦うしかないか、と考えているとそいつは口を開いた。
「別になんもしないから安心しろ」
「包帯巻いてやったのおれだぞ」
嘘ではないだろう。
「なぜ私を助けたの」
男は答えず、どこかに行ってしまった。少し経って、湯気の立つ木皿を持って戻ってきた。
「食えよ、話はそれからしよう」
空になった皿を野良犬のように見つめるので、三杯ほどシチューを食わせてやってから話をした。大方の予想通り、こいつは西の方からきた奴隷商の奴隷のようで、隙をみて逃げ出してきたようだ。ここらには価値のあるものは何にもない。鉱山資源だってとうに枯れてるし、人見てもハゲのいかついやつか、擦れたガキばっかだ。奴隷の子供一人のためだけに危険を冒してくるような町じゃないし、ガキを引き渡して得られるようなショボい儲けが欲しいやつもいない。だから安心しろ、と伝えてもちっとも眠ろうとしないので、シチューのおかわりと白パンをやったら腹いっぱいになって寝た。起きている間はずっと火鉢を眺めて、火箸から目を離さなかった。安心を知らない、やはりこいつは面白いガキだ。
翌日、そいつは起きるなり飯を要求してきた。こいつがあほみたいにシチューを食ったので今日の分はない。代わりに焼いただけの肉をやったらおれの分まで食いやがった。あまりにも美味しそうに食べるので、特に止める気は起きなかった。
◇◇◇
彼は信用に値する。一週間かけて導き出した結論は、私に安寧を与えるものだった。彼は私に危害を与えようとするそぶりは見せなかったし、私に恐怖を与えないような気づかいも感じられた。一週間、彼は一日二食共に食事してくれて、たくさんの暖かいご飯を与えてくれた。彼がこの信用を裏切るなら、私には死ぬ覚悟がある。それほどまでに彼の隣は安心した。
「ねえ」
「ん」
「おかわり」
「まだ食うのかよ」
「ん」
「ずぶてぇな」
「ん!」
「ほら」
私の体中の傷が塞がってしばらく、彼から提案があった。この世界で生きていけるように、私を鍛える必要があると。枷の跡がずきりと痛む。泥を啜ってでも、二度と足枷はつけたくない。私は快く、彼に師事することを決めた。
ガキがおれに師事して二か月たった。手始めにナイフの握り方から教えると、一週間でチンピラをしばいて見せた。ナイフなしで。まるでスポンジみたいに教えたことはすぐ吸収していくので、教えていて気持ちがいい。要領の悪く、師匠にげんこつを落とされまくったおれの幼年期とは比べ物にならない。しかし、銃に関しては一筋縄では行かなかった。銃そのものにトラウマがあるようで、銃口に過剰に反応する姿は見ていて痛ましかった。ひとまず戦闘に関しては時間を置こうと、それからはゆるく、生存する術を教えた。食える植物から触ることさえ危険な植物、果ては薬になるものまで、持てる知識を総動員して教えるつもりだ。でもしばらくはゆるくやっていこう。おれもこいつも話し相手に飢えていて、座学の時間も飯を食う時もこんなに柔らかな雰囲気は久しい。にしてもこいつはガキ過ぎる。チビでガキっぽくて、本物のガキみたいだな。
彼に拾われてから四か月たった。近頃教わっている薬学はとても面白い。もとより私は薬売りの家系だったので、見覚えあるものもあれば初めて知るものもある。とにかく楽しくて、彼が部屋にいる時は教えを乞い、彼の暇がないときは山で薬草を摘んだ。図鑑に載っていない、新種の薬草を見つけたとはしゃぐ私に彼は
「あいつは、利口だけどガキだな」
と、近所の坊主のおじさんにニコニコ話していたのを覚えている。彼は私を子供として扱わず、一人の人間として尊重してくれる。それでもたまに子供として扱ってほしい時もある。少しくらいはしゃぐのも許してほしい。結局私の見つけた薬草は新種ではなく、効能のないただの雑草だった。恥ずかしくなって、その時はげしげしと彼の脛を蹴った。
「右に、何人だ」
「右に三、人間じゃない」
乾いた銃声が三つに、立て続けに硬質な断末魔音が響いた。おれからみて右側の木陰に三匹、大きな蜘蛛が脚をきゅっと折りたたんでひっくり返っていた。
こいつを拾ってから二年たった。拾ったときは俺の腰ほどしかなかったガキは、今や背丈は俺の胸ほどにまで成長し、美しく育った。それでもおれにとってはガキなので、まだこいつの呼び名はガキだ。痛ましいトラウマも克服し、一人で狩りができるまでに成長した。
「今日はこれでいいだろう、最近は隣国との関係が悪化してるらしいからな。これ以上行くと危ない」
「そうだね、寒くなってきたし帰ろう」
「寒くなってきたし、久々にシチューでも食うか」
「わーい」
いそいそとすり寄ってくる。一年ほど前から、こいつはこういう習性をもつようになった。事あるごとにすり寄ってきて、鬱陶しいったらありゃしない。それでも基礎体温が高いのか、寒いときは湯たんぽ代わりに重宝するので、暑い時でなければ文句を言わないようになった。
隣国は王政の王国で、昔から連合の我が国とは相性が悪いようだ。我が国と言っても、おれたちの住む町はでかい国土の西の端で、枯れた町だ。吹けば飛ぶような町だが、侵攻の足掛かりにされる可能性はある。一月ほど前から町にはピリピリとした雰囲気が漂っていた。他愛もない話をしながら、おれたちは帰路についた。
一年ほど前から、私は先生に触れることを好むようになった。先生と触れていると安心する。事あるごとに私は抱擁をねだった。先生は鋭いので、単に私がじゃれているだけではないと気付いているようだった。私は先生に寄り掛かるようにして正気を保っている。表面上、他人と接することに怯えはなくなったけれど、それでも真の安寧は先生のそばではないと得られない。つまるところ、私は先生に依存している。危険な在り方だと思う。私の欲しかった、一人で生き抜ける力は得られていない。それでも幸せだ。先生はいつか独り立ちさせるために私に物を教えてくれたけど、それでも構わない。置いて行かれても彼に付いていこうと思う。
そういえば聞きそびれていた。彼が私を拾ってくれた理由は何なのだろう。
「ねえ、先生」
「なんだよ」
一応私は彼に師事しているので、彼を先生と呼び慕っている。先生はそんな柄じゃないとかなんとかいうけれど、私にとっては第二の父だ。父と呼ぶのはさすがに自重しているので、これくらいは許されて然るべきだ。
「なんで私を助けてくれたのか、まだ聞いてない」
彼の部屋で初めて目覚めたその日の問の答えを、私はまだ知らない。もしかして、体が目的だったりするのだろうか。先生は若いし、そういう欲がないことは確認済みだ。先生なら構わない。第二の父とは言っても実際に父ではないのだ。親愛と恋情は同居する。体が目的なら、ちょっぴり悲しいだけだ。
「あ?あー」
対して悩むそぶりもなく、先生は答えた。
「目が気に入ったんだ。きれいな深緑色で、光を湛える目。それだけだよ」
ほんの少しの間、先生の顔が見れなかった。
一週間経って。ついに隣国との戦争が始まった。不幸中の幸いか、戦争の火種となったのは随分北の方の国境で、ここまで戦火が及ぶには時間がかかるだろう。南に下って亡命するには十分すぎる時間がある。そう楽観視して身支度を整えていると、隣国の斥候が発見された。戦火は思っていたより静かに、素早く、枯れた町を襲った。
◇◇◇
割に合わない仕事だった。緊急を要する依頼だったとはいえ、ガキを置いて大した準備もなしに飛び込んだのが悪手だった。情は大いにあったから、ガキに何かあるといけねえと考えたんだと思う。聡明なあいつのことだから、敵討ちとかは考えないだろう。独りで生きる術も叩き込んだし、心配事はない。ガキなんて育てたことはなかったが、まあ器量よしに育ったと思う。
「あ」
─あいつは、利口だけどガキだな
「あいつまだ子供だったわ」
おれは死んだ
体幹が偏って腰いたい
それはそうとガキかわいそう