まぁ、何番煎じ何だって感じの小説です。
取り合えず読んで頂けると幸いです。
一応短編なので、さっさと終わらせれればなと。
(本格的に別の小説を執筆しねぇと殺されるかもしんないし……)
遥か昔、古代と呼ばれる時代よりも更に、遥かに古い時代。
そこには島があった。
その島には沢山の人々が、武や学に打ち込み平和に暮らしていた。
国の名はスカイ。
国を治めるは女王スカサハ。
見目麗しく、決して右に出る者は居ないと誰もが口を揃えて語る。
学にも秀でており、勿論武勇も並び立つ者はおらず。
国にいる数多の戦士達がみな、束になっても敵わない。
為政者、統治者としても優れ、心優しく慕われていた。
しかし今、その国を知る者は殆ど居らず。
いや、正確に言うならば、誰もが存在を信じない。
何故ならば、御伽噺や物語でしか語られる事は無く、忘れ去られた過去の遺物。
信じる者は、酔狂な考古学者か夢を見て現実を見ない馬鹿者ぐらいなもの。
まだポーネグリフを探し求めたり、空白の100年を追う方が現実的だ。
信じる者は馬鹿にされ、相手にもされないのだ。
誰もが言う、「御伽噺なのだ」と。
それも致し方無い。
その国が存在したとされるのは、遥か数千年は昔の事なのだから。
スカイ島。
最弱の海とも呼ばれる東の海にあるその島は、伝説、御伽噺の存在であった。
実在はするが、近付く事は凪の海を渡るよりも困難極まりなく、島には海王類よりも遥かに強力で恐ろしい生き物達が闊歩している。
そこに、本来ならばあるはずの無い五つの人影が歩いていた。
四つはなんとも、一桁ほどであろう幼い子供であり、自分達を狙う捕食者の気配に圧倒されて震えているが、強がっている。
恐れて泣き出したり気を失ったりしない辺り、中々に将来有望と言えよう。
残りの一つは大きく、そして老齢ながらも強者であることは間違いない。
緊張感の欠片も無いがそれでも、周りへの威圧は決して忘れない。
自分が強者であると示さねば、この島では生きていけないし、連れている四人の子が瞬く間にこの島の生き物達の胃袋へ収まってしまうだろう。
老人は、この島に来たことがある。
それどころか仲間と共に命を掛けた生存競争を丸3年も生き抜いて見せた、この世界でも一握りの強者であった。
今日この島に足を踏み入れたのは、何度目かの事だが、相変わらずの具合で寧ろ安心感すら覚える程度だ。
孫二人と、孫よりも可愛げのある孫と孫娘を連れて上機嫌な爺であるが肩書は中々。
海軍本部中将、モンキー・D・ガープ。
英雄と呼ばれるこの、孫たちから言わせればクソ爺は本日休暇の為に孫を連れて懐かしき地獄の修行をしたここへ十年ぶり訪れていた。
そして、敬愛すべき師に孫達を託すために。
教育方針は中々ぶっ飛んでいたり、普通の感覚を持つ者からすれば全く違う感覚の持ち主のガープではあるが、孫達に向ける愛情だけは嘘偽りの無い、本物である。
だからこそ、この弱肉強食ともいうべき世の中を生き抜いてほしいが為に、忙しく鍛えてやれない自分に変わってこの島の主の下へ預けるのだ。
まぁ、本人が真面目に職務に付いているかと言われれば全く以て否であるが。
最も仲が良い、センゴク中将曰く、
「過去の功績が無ければどうなっているか分からない」
とのことなので、推して図るべし。
「じいちゃん、ここなんなんだ?」
「こんな訳分かんねぇとこに連れて来やがって……」
「ここか?ここはな、『スカイ島』だ」
「なんだそれ」
麦わら帽子を被ったルフィと、癖のある黒髪にそばかすのエースはぶつくさ文句を言いながら鉄パイプを担ぎ、後ろを付いていく。
とは言えエースは文句こそ言っているが、ここでは祖父から離れた瞬間に自分達が死ぬと言う事が分かっているから大人しく付いていく。
これでも故郷のコルボ山でワニやらトラやら熊相手に何度も戦いを挑み、負け、そして捻じ伏せただけの力はある。
故に上二人の兄だけだが、それなりに彼我の力量を推し量る事も出来る。
「おいウタ、ルフィの事しっかり捕まえとけよ。こんなとこでどっかいかれでもしたら大変だ」
「うん」
一番下のルフィはその辺疎いところがある為に、兄達の言い付け通りウタがしっかりと捕まえている。
と言うか今にも走り出しそうな勢いで辺りを見回している。
妹分はウタ。
赤髪海賊団船長、赤髪のシャンクスの娘であり、そしてルフィの幼馴染である。
赤と白の半々に分かれた髪色に、将来有望な容姿である。
面倒な説明は割愛するが、今回の航海は今までの物よりも圧倒的に厳しく、そして生き残ることが困難なものであったからと言う理由で、お留守番させられている所にガープが襲来、ルフィが連れて行かれると言う事で一緒に付いてきた訳である。
これでも、幼心の中にルフィへの想いはあるし、父に置いて行かれたこともあって若干依存気味なところがある。
要は離れたくなかったただけなのだ。
ルフィ繋がりで仲良くなった兄貴分二人とも関係は良好。
まぁ喧嘩してボコられたり、勝負で負けて煽られた腹いせに崖から突き落としたり木の上から簀巻きにして吊るしたりと、豪快と言うか中々一筋縄では行かない性格の持ち主だ。
「スカイ島って、あのスカイ島?」
「どのスカイ島の事か知らんが、スカイ島はスカイ島じゃ」
黒色のシルクハットを被った少年、サボは諸事情で忘れたいが教養はある為にスカイ島の事を知っている。
それが、御伽噺や伝説だと言う事も。
「でも、スカイ島って伝説じゃないのか……?」
「あるんだから伝説じゃねぇんだろ」
サボのつぶやきにエースが何言ってんだと答える。
途中、嘗てこの島に人間が住み、そして高度な文明が栄えていた町であろう、遺跡を通る。
大きな島だが、嘗ての繁栄の姿は無く、建造物は崩れ去り、木々や草花に覆われ、苔生してすらいる。
風化の跡は生々しく残っており、それだけで少なくとも自分達の想像する年月よりも遥かな時を、この遺跡が経ているのかが分かる。
人影は勿論無く、代わりに住まうのは時折空を飛び去るドラゴンなどの空想上の生物と言われる生物ばかり。
この島での生存を許されるのは、文字通り強者のみ。
弱ければ、特に外界から来た生物は人間含めて熾烈な生存競争を繰り広げるこの島の生物にとって弱く狩りやすい恰好の獲物でしかない。
「すげェ!今ドラゴン飛んでったぞ!!」
「でっかい!コルボ山の一番でっかい木よりも大きかったぞ!?」
「アイツ、食ったら美味ぇかな!?」
「よし、落として今日の飯にしよう!」
男の子らしく、三人は目を輝かせて口々に騒ぐ。
それどころかルフィは涎を垂らしながら鉄パイプを構えて殴り掛かろうとする。
「馬鹿モン、お前達じゃぁ逆に喰われるわい」
「いってー!!」
ガープに拳骨を食らい、止められる。
そんなことが何度かあったが、島の奥にまで進む。
島の奥地に行くにつれて、沿岸部よりも生息する生物はより強力になっていく。
暫く歩き、中心部に来ると島の中でも特に大きく高い台地が目の前に立ちはだかる。
「よし、登るぞ!」
「「「「えぇ~!?」」」」
高さは1000mはあろうかと言うほどの断崖絶壁を、死にそうになりながら登り切る。
子供にこの壁を登らせるのはどうか、と思うが目的の場所へ向かうにはどうしてもこの断崖絶壁を登らねばならない。
ガープがここで修業をした時に、センゴク達が聞いた話だと、どうやら大昔にはここへ至る為の道や階段があるにはあったらしいが、維持管理が面倒になったから無くしたとかなんとか。
その道には、幾つかの門があり、そこには門番としてドラゴンなどの幻想種、言わば空想の中でしか語られない生物達が守っていたと言う。
ただ、手懐けてはいるものの結局ドラゴンなので、訪れる者と対峙した時に道や門そのものをぶっ壊すのでその度に一々直しに行く労力が面倒になったとのこと。
だったらいっその事断崖絶壁にして、そこを登らせた方が良いとなったらしい。
勿論、登っている最中に襲われるのでそれを退けつつ登り切らねばならないので難易度はより上がっている。
因みにルフィがとんでもなく大きな鷹に連れ去られそうになっていた。
大体こういう時に割りを食うのはルフィである。
断崖絶壁を登り切ると、そこには城塞の様で、しかしなんとも流麗な巨大な城が鎮座していた。
無骨ではあるが、装飾などはとても凝っており物語の世界から飛び出してきたかのようなその佇まいは、誰もが圧倒されることだろう。
「うおぉぉ……!」
「嘘だろ、こんなデカい城が崖の上にあったのかよ……」
「うわぁ、絵本のお城みたい!」
「あれ、そういやルフィはどこ行った?」
「……おい、ウタ!?」
「……えへっ☆」
エース、サボ、ウタがそれぞれ圧倒され、感動し、目を輝かせている途中でルフィが居ない事に気が付く。
ルフィを捕まえておけ、と言われていたウタも城に到達し中に入った時点で思わず離してしまったのだ。
三人は焦る。
何故ならば、ルフィをこういうところで一人にしたら大抵碌な事にならないと身を以て学んでいるからだ。
今までは皆で協力して窮地を脱して何とかなって居たが、ここは別次元にヤバい。
道中での経験から、今までの様に自分達の力が通用するとは三人とも思っていなかった。
そしてその予感は的中する。
遠くから悲鳴が、それもルフィのものが聞こえてくるのだ。
「ぎゃぁ~~~!?!?」
悲鳴がする方を見ながら、あいつはまた何をやらかしたんだと思うと、とんでもない土煙や土埃を巻き上げながら建物が崩れていく。
遠くにルフィが見えると、その後ろに小山の様な大きさのドラゴンがルフィを追い掛けていた。
三人とも、急速に顔が蒼褪めていく。
次の瞬間、一斉に駆けだした。
「あのバカ、なんだってドラゴンに追い掛けられてんだよ!?」
「うわぁぁぁぁ~~~!?助けてくれぇ~~!!」
「こっちくんなバカ!?」
「ごめんルフィ、こっち来ないできゃー!?」
「ぎゃぁぁぁ~~~!?!!?!」
振り下ろされ薙ぎ払われた腕の風圧でルフィが三人よりも前に吹き飛ばされるが距離が遠かったこともあって無事だ。
すぐに飛び起きて走り逃げ出す。
4人で逃げ回る。
頼みの綱であるガープはこの城の主、四人の師匠となる人の下へ向かってしまったので残念ながら助けは期待出来ない。
「おい、あのドラゴン滅茶苦茶怒ってるじゃねぇか!?」
「何したんだ馬鹿ルフィ!」
「美味そうだったからぶん殴って倒そうとしたんだ!!」
「はぁ!?アンタやっぱりバカでしょ!」
「どこ殴ったんだよ!」
「目ん玉!」
「「「目ん玉ぁっ!?!?」」」
「なんだって、よりによって目ん玉なんか殴ったんだよ!!!」
「目ん玉が一番弱そうだったから!」
「「この馬鹿野郎!」」
「ルフィのバカぁ!」
「そりゃ怒るに決まってんだろ!」
「でもやっぱりアイツすごい美味そうだ!」
「「「言ってる場合か!!」」」
ずどーん!どかーん!
ぎゃーぎゃーと、ともすれば緊張感も無いと思うような雰囲気で逃げる。
逃げている本人達からすれば命懸けではあるが、端から見たらどうしても真面目に見えない。
ドラゴンが自分の目玉を殴った下手人を追い掛け、叩き潰そうとその大きく太い腕を振り下ろす度に城が崩れていく。
大口を開けて喰ってやろうと首を伸ばし、そして間一髪のところで避ける。
大きな中庭に辿り着き、そこであっちへこっちへ逃げ回るものだから、綺麗に整えられていた中庭は見るも無残な有様だ。
「おいエース!流石にマジでやべぇぞ!?」
「んなこと分かってる!おいウタ!」
「なに!?」
「あいつウタワールドに引き込めねぇか!?」
「あんなデカいの無理!と言うかこんな状況で歌えるわけないでしょ!」
頼みの綱である、ウタの能力も小山と同じ大きさのドラゴンが暴れ回っている中で、しかも逃げ回りながらでは発揮出来ない。
どうすれば良いのか、四人で大騒ぎをしながら、城を破壊しながら逃げ回る。
すると、後ろから物凄い音と衝撃が四人を襲う。
「うわぁっ!?」
「なんだぁっ!?」
「ウタッ!」
「~~!?!?」
吹き飛ばされそうになるのをエースとサボは地面に張り付いて堪える。
転がるウタをルフィが受け止め、ウタは転がったことで目を回す。
「うん?なんだ、まだ生きていたか」
頭上から聞こえた声は、良く通る凛とした声だった。
土煙の中から現れたのは、紫色のタイツに甲冑を合わせたような出で立ちの美女であった。
マゼンタ色の長い髪を靡かせ、深紅の朱槍を担いでいる。
なによりも驚きだったのは、さっきまでルフィ達が命懸けで逃げ回っていたドラゴンをたったの一撃で倒したことだ。
その倒れた身体の上に立ち、ルフィ達を見下ろしている。
「な、な……」
「ドラゴンが……」
「凄い……」
「うおおぉぉぉっ!?!?すっげ~~!!」
三者三葉の反応を示す。
エース、サボは余りにも次元が違い過ぎると悟る。
ウタはその姿と成した事に小さく感嘆の声を上げ、ルフィは目を輝かせて叫ぶ。
「おう、お前ら」
「じいちゃん!」
「全く、お前の孫どものせいで城がボロボロじゃないか」
「いや~、すまんすまん。しかしお前達派手にやったな!」
悪びれなく、笑い孫に言うガープを若干ぶん殴ってやりたくなったスカサハだが、抑える。
そしてガープの頭には何故か大きなたんこぶが一つあった。
大方目の前の女性にガープが失礼な事を言ってぶん殴られたのだろう、とウタは思った。
「まぁ、いい」
親しげに話す二人の関係性は気になるところではあるが、何よりも気になるのは目の前の女性である。
なんせあのドラゴンをただの一撃で沈めて見せたほどの実力の持ち主だ。
下手をすれば、海軍本部の将官達よりも強いかもしれない。
そんな女に見られた四人は、身体を震わせた。
時は少し遡り、ガープと四人が分かれた後。
城の中にある大きな大きな広間、謁見の間とでも言うべきその場所に、島に足を踏み入れた人の気配を察知してスカサハが玉座に腰掛けて佇んでいた。
尋ね人を待っていると、大きな音を立てて扉が開く。
あの扉も高さが十数メートルに重さもかなりのものなのだが、家の扉を開けるが如く勢い良くぶっ壊さんばかりの音だ。
スカサハには唯一、この扉をこのように開ける者に心当たりがあった。
他の弟子たちは、大なり小なり問題がある連中が多い、と言うか寧ろまともな奴の方が少ないと言うべきだがそれでもあの大きな扉を壊さんばかりの勢いで開けるなんて言うのは、弟子の中でも特に問題児の中の一人しかいない。
広間の扉をぶち開けたのは勿論、ガープであった。
「扉は静かに開けろと、昔も言った筈だが……?」
「おぉ、そりゃすまん!」
「はぁ……」
幾ら言っても、どれだけ叱ろうとどれだけ罰を与えてもこの男は全く悪びれないし治らない。
額に手を当てて溜息を吐き、そしてまぁいい、と訪ねる。
「それで、何の用だ?」
「なんじゃ、師匠のとこに用事も無く来ちゃいかんのか」
「お前の面倒を見ているセンゴクの苦労が手に取るように良く分かるな」
時折連絡を寄越してくる弟子の一人、センゴクの苦労が良く分かる。
スカサハの頭の中で、毎日のように尋ねられ仕事の邪魔をされ諸々の問題事やらを押し付けられている弟子の一人の苦労と顔がありありと浮かんで来た。
勿論それは当たっている。
「まぁ、今日はちゃんと用事があってきたんじゃが」
「だからそれは何だと聞いただろう」
昔からであるが人の話は聞かないわ、やることなすこと大体こっちに被害が及ぶわで手を焼かされたものである。
別段実力だけではスカサハが圧倒しているが、ガープを鍛えて居た頃は良い意味でも悪い意味でも顔を顰めざるを得ない思い出でばかりだ。
なんせ、この城が建ってから唯一全損させた犯人でもある。
とは言えそれでも愛弟子の一人には違いなく、快く受け入れてしまう。
「ワシの孫達を鍛えて欲しいんじゃ」
「……お前に孫だと?」
「あぁ」
「そもそもお前が結婚していること自体に驚きを隠せん。お前みたいなのと良く一緒になる女が居たな」
ガープはこの性格と行動だから、まず一生涯独身だろうとスカサハは思っていた。
どれだけ器量と度量が大きいのだろうか。
いっそ女傑としての才能が有りそうだな、私が鍛えていたらどれほどの傑物になったのだろうか、と勝手に思ってしまう。
「良い女じゃったぞ。飯も美味いし家事もそつなく熟してな。まぁおっかなかったけど」
少し身震いをして、ガープは妻を思い出す。
それでも愛していた故に笑みが零れる。
それを見て、ガープが良き人生を送っている事が分かるとそれなりに嬉しくなる。
出来る事なら、結婚式ぐらいには呼んで欲しかったものだがそれをガープに期待するのは酷だろう、だってガープだし。
「それで、お前の孫達を鍛えて欲しい、だったな」
「そうじゃ」
「理由は?」
「……今の世の中は、弱い奴には優しくないからの」
「ふん……、随分と訳アリそうだが、まぁいい」
「受けてくれるか!?」
「まぁ、元々島に入った時点でお前の孫達の事はある程度知覚している。子供だ、鍛えて損は無い」
「相変わらずバトルジャンキーなんじゃな」
次はガープが呆れたように言う。
どっちも大概だと思うが。
すると、大きな音と振動が伝わってくる。
それも建物が崩れるような。
「はぁ……」
「ぶわっはっはっは!!!」
「お前の孫は、お前の孫と言う事か……」
大方ガープの孫がやらかしたのだろう、とアタリを付けて溜息を吐く。
城を直す事自体は、世界で唯一彼女が使える魔術で幾らでも出来るが、この先恐らくガープ達を鍛えていた頃と同じぐらいの気苦労と言うか、面倒を起こされるんだろうな、と思うと溜息の一つや二つ、吐きたくなってしまう。
今よりも圧倒的に強い人間や種族が栄えていた数千年前でも、城を壊すような奴は居なかった。
壊したとしても柱を折るだとかぐらいで全損なんぞとんでもない。
色々と騒がしくて仕方が無く、そして気苦労の絶えない日々ではあったが、しかし、嫌では無い思い出だ。
思い出せば、口角が上がり笑みを浮かべてしまう程度には良き日々、良き思い出である。
「しかし、随分と老けたな」
「わしゃそんなつもりは無いんじゃがのぅ」
どうやら他でも老けたと言われているらしい。
実力は衰え知らずだが、見た目だけで言えばそろそろ隠居を考えても良いぐらいの年頃だろう。
髪の毛は白髪に染まり切っている。
顔の皴には、それ相応の苦労が感じ取れる。
努力も怠ってこなかったのだろう、自由奔放が服を着て歩くガープだが、これでも人からは慕われやすい。
でなければ、センゴクもおつるもとっくに見捨てていてもおかしくは無い。
「お前さんだってワシ以上にババァだろうに」
「あ”ぁ”ン”?」
ババァの一言に反応し、ドスの利いた声に、子供が聞けば泣き出すか恐ろしさで気絶するであろう目と表情でぎろりとガープを睨む。
「すいませんでした」
余りの眼光の恐ろしさに平謝りするしかないガープは、スカサハの前で年齢の話は厳禁だと思い出す。
ここで修業の日々を送っていた時、それを理由に揶揄った事があるがあの時程恐ろしい思い出は無い。
「……まぁ、今でも鍛えている事だけは褒めてやろう」
「ワシとしちゃ、数千年も生きてて老けないそっちのが不思議じゃわい」
馬鹿正直に余計な事をまたしても言ったガープは、今度こそ拳骨を食らった。
これでも海軍本部中将であるから、ある程度は口をつぐんだりと言う事も出来るのだが気心しれた、何よりも己が慕う師の前と言う事で何時もより正直に、本来の姿に戻っている。
世界広しと言えど、海軍の英雄であるガープに拳骨を食らわせて地面にめり込ませるなど、スカサハぐらいしか出来ないだろう。
「なにすんじゃい!」
「女に年齢の事を言ったお前が悪い」
自分から年齢の話題を切り出しておいて、とガープは思う。
しかしスカサハは、どうしてもその姿を、若かりし頃と比べてしまう。
彼女にとって他の人間の生など瞬き程度の時間に過ぎない。
大昔、世界が神秘で覆われていた時代に精霊や巨人、悪霊などを殺して己の身体に神秘を取り込み過ぎたが故に人と言う存在から道を踏み外したスカサハは、この世界が終わるまで生き続けねばならない。
だからこそ、己が鍛えた弟子の老いと言うのは、不老の存在であるスカサハからすればなんとも言えないものである。
或いは、そこにある種の悲観も混じっているのかもしれない。
「さて、この女がお前達の師匠になるやつだ」
「スカサハだ」
ドラゴンを倒し、自己紹介をする。
短く、淡々と名乗ると子供達がそれぞれ口を開いた。
「俺はルフィ!」
「エース」
「サボです」
「ウタだよ」
それぞれ名乗り、そしてスカサハはじっくりと見る。
麦わら帽子の小僧が孫だな、とアタリを付ける。
なんせ性格が似ている。
「子供にしては、鍛えている方か」
「トラとクマとワニは倒せるぞ!」
「お前殆ど役に立ってねぇだろ」
「ワニに関しちゃ一回食われてるからな」
ふんっ、と自慢げに言うルフィにエースとサボが笑いながら言う。
「そんなことねぇ!」
「まだウタのが強いじゃねぇか」
「そりゃ能力使ったからだろ!」
「お前だってゴムゴムの実を食った能力者じゃねぇか」
「んぐっ!!」
わははは、と笑いながら言われ言い返せない。
とは言えどそれは三人と出会った頃の話で、今ではワニぐらいなら一人で倒せる。
「でも私の能力は聞いたら寝ちゃうもん」
「別にいいだろ。それで死んだことなんてねぇし」
「そうかなぁ」
あんまり考えてないルフィと、首を捻るウタ。
因みに今度こそは何処かへ行ってしまわないようにがっちりと腕を掴んでいる。
流石にもう一度ドラゴンに追い掛けられるのは御免だ。
「さて、と。まずはあの龍を怒らせた理由を聞いておこうか」
恐ろしい目付きで正座する四人を見下ろす。
「俺ァ悪くねぇぞ!」
「お、俺も悪くねぇ!ルフィがやったんだ!」
「私だって何もやってないよ!?被害者です!」
「おい俺を売るなよ!?」
「うるせぇ、お前がドラゴンを食おうなんてして殴ったからだろ!」
ぎゃぁぎゃぁ、と四人で騒ぐ。
売られたルフィの抗議も空しくあっさりと犯人とバレてしまった。
視線に気が付き、そっちを見るとさっきよりも鋭い目でルフィを見るスカサハが。
不味い、怒られる。
それもドラゴンを一撃で倒すような滅茶苦茶な強さを持っている奴に。
ルフィの内心は、それはもう大焦りで心臓バックバクである。
冷や汗も止まらない。
しかしその心配は杞憂であった。
「あっはっはっは!!」
「へっ……?」
「全く、お前の孫らしいな!」
見た目と違い大きく豪快な声で笑い、そしてガープを見る。
「そりゃそうだ、ワシの孫だからな!」
普通なら怒るが、何故か自慢気に胸を張って笑うガープ。
「お、怒らねぇのか?」
「うん?あぁ、なに、私の好きなものは『勇気ある者』だからな。まぁ、勇気かどうかと言われれば、ただの食い意地の張った馬鹿なだけの気もするが。いずれにせよドラゴンに喧嘩を売るとは普通は出来ない」
「お、お、おおぉぉ!!」
何となく褒められたと、ルフィは喜ぶ。
「それに、お前達の祖父も同じことをやったからな」
「じいちゃんも?」
「あぁ、この島に訪れた初日、私への挨拶よりも先に飯を調達しようとドラゴンに殴り掛かったからな。まぁ、違いと言えば仲間と協力して倒したことぐらいか」
「ぶわっはっはっは!!そんな事もあったのぉ!」
このじじいは昔も今も変わらなかったらしい。
とは言え、仲間と協力してとは言えドラゴンを、この島に来て初日に倒すなど中々の事だ。
センゴクやおつると言った、面々が面々であったとは言え一端の海兵であったのだからそれは紛れも無く偉業と言えるだろう。
「じいちゃんすげぇ!」
「ボケ老人じゃなかったか」
「なんじゃと!」
「いでぇっ!」
けっ、とエースが悔しさ故に悪態を吐くと拳骨が振り下ろされる。
大きなたんこぶを作り、涙目になっている。
「それで、お眼鏡には叶ったか?」
「まぁ、ドラゴンに追い掛け回されて死ななかったところを加味して、及第点だな」
「相変わらず手厳しいな」
「どういうことだよ」
「なに、この島で、そしてスカサハに修行を付けてもらうには最初に自分の力を示さにゃならん。だがお前達は合格したと言う事じゃ」
「及第点だがな」
どうやらスカサハのお眼鏡に叶ったらしく、晴れてこのスカイ島で四人は修行をすることを許された。
とは言え実はスカサハは合格不合格に関わらず、この島で修行をすることを許し、そして自らが鍛えてやると決めていた。
曰く、子とは未来であり可能性である。
故にある程度の年齢に達した者が城の門を叩けば、鍛えるに値するかどうかを見極めるが子供に関しては全くの例外であった。
子供は鍛えれば鍛えるほどに可能性が広がる。
それを見ているのはなんとも楽しいのだ。
彼女自身、子供好きと言う事もあるし何より、本人も他人も気が付かず知らぬことだが本来の気質としてはどちらかと言うと寂しがり屋のところがある。
長い間この島でただ一人鍛錬に打ち込むことに飽き飽きしていたと言えば聞こえはいいが、実のところ寂しくなってきていたのだ。
ガープ達の世代を鍛えて以降、彼女のお眼鏡に叶う者がこの島に訪れなかった。
外界であれば、確かに鍛えるに値する者達は多いがこの島の事などただの御伽噺としか思っていない。
だから誰も訪れない。
精々沈没船の生存者が奇跡的に漂着したことが二度あったぐらいで、それも治療を施したら適当に船を作って食料と水を与えてやり、さっさと島から追い出すに等しく送り出していた。
だから久方ぶりの、と言う事で結構気合が入っていた。
「それに、お前達は中々面白い」
「俺達が面白いのか?」
「見所がある、と言ったんだ。鍛えたら、面白そうだ」
何となく、ルフィ以外の三人は背筋に悪寒が走った。
自分達は相当やべぇところに来てしまったのではないか、と。
その予想は後々的中することになるのだが、それはまた別の話だ。
「さて、と。取り合えず城を壊した罰を与えるとしよう」
「えぇぇ~~~!?許してくれたんじゃねぇのか!?」
「城を壊した事は別問題だ」
「うわぁぁぁ~~~!!」
「「「あっはっはっは!」」」
驚き絶望するルフィを、三人で笑う。
結局、スカサハから与えられた罰は一日飯抜きである。
ルフィにとっては何よりも重い罰であると一瞬で見抜いたからこそ与えられた罰だ。
目の前で美味そうに食べる五人を、縛られながら見ていたルフィの目の前でエースが煽り散らかしながら食べて腕を齧られたりしたがその日一日は取り合えず無事に終わった。
因みにその日の飯はスカサハが倒したドラゴンであった。
「じゃーなー!」
「しっかり強くなるんじゃぞ!そして立派な海兵になれ!」
「いやだ!海兵にはならねぇ!」
「俺も海兵なんかになって堪るか!」
「なんじゃと!?」
翌朝皆でガープを見送り、そして城に戻る。
「さて」
一息吐いたスカサハの前に、エース、サボ、ウタ、ルフィの順番で座り、与えられる鍛錬を待つ。
「なーなー、たんれんって何すんだ?」
「簡単なこと、私と戦うだけだ」
胡坐をかいて、座り聞くルフィとくっ付くウタ。
「それだけか?」
「今のお前達では、島のその辺放り出しただけで喰われるからな。最低限の力を付けさせる」
「そんなことはねぇ」
「いいや、ある。お前達は精々小山の大将ぐらいでしかない」
反論するも、あっさりと言われて詰まる。
実際、昨日島を歩いて分かったがこの島の生物は異常なほどに強い。
そしてスカサハとガープが居たからこそ、自分達は死んでいないのだとも分かっていた。
生半可な実力では、この島では生きることも許されないのだ。
それでも子供の意地か、はたまた別の理由かエースは認めたくないらしい。
「暫くは、身体を鍛えつつ私と鍛錬をして実力を付ける。良いな?」
「おう!」
「うん!」
素直なところがあるルフィは頷き、それに続いてウタが頷く。
サボも分かってはいるのか頷きはしなかったが、覚悟は決めた。
エースも渋々頷いた。
その日から、毎日毎日即死しない程度の過酷な鍛錬が始まった。
まず最初にルフィとウタには海楼石の小さな欠片が与えられた。
二人は能力者であるが、能力に頼り切る者は弱い。
能力者であることを過信して、早々に死ぬ者は過去にごまんといる。
故にまずは能力に頼らない、自分の力そのものだけを鍛えることにしたのだ
最初の頃は慣れずに、身体に力を入れるのも一苦労であったが実力が付いてくるにつれて段々と能力は使えなくとも十分に戦えるほどに成長した。
そうすると今までよりも少し効果の大きい海楼石が与えられ、そしてまた強くなり効果が薄くなると少し大きい海楼石が与えられる、とを繰り返した。
元々能力者ではないエースとサボには与えられなかったが、特に修行内容は変わらない。
最初の頃は四人ともただひたすらボコボコにされて行くだけだったが、才能があったのか、それとも生死を掛けた戦いばかりで人体が覚醒したのかぐんぐん実力を伸ばし、スカサハも驚くほどであった。
元々四人には十分以上の素質があったとはいえ、である。
四人とも覇気の素質が十分にあり、中でもルフィとエースは覇王色の覇気の素質がありスカサハを驚かせた。
覇王色の覇気を持つ者は、世の中にそう多くは無い。
数百万人に一人とも言われる稀有な才能であるが、世の中で名を轟かせている存在の殆どがこの覇王色の覇気の持ち主だ。
だから目立って沢山いる様に見えるだけで、実際は違う。
スカサハはと言うと、勿論覇気を使える。
しかしスカサハが女王たる所以は覇気ではない。
スカサハは生まれながらにしての絶対的な王であり、王者になり得る素質を持つ覇王色の覇気の持ち主とはまた別だ。
王になる資格があるのが覇王色の覇気であるが、結局のところはあくまでもなれる資格があると言うだけでしかない。
スカサハはそもそもの存在自体が絶対的な王者、誇り高く何者にも傅かず、そして生まれながらの支配階級と言える。
人々の上に君臨し、導き民を幸福にすべき存在として生まれ、国を治めていた時はスカサハ自身もそれを自明としていた。
他とはそもそもの次元が違うと言っても良い。
王としてその場に出れば、誰もが畏怖と共に首を垂れる。
それがスカサハと言う存在だった。
エースとルフィの覇王色の覇気は、今はまだ完璧な発現には至っていないが、それでも時折現れるそれは、何よりも将来性を感じさせスカサハを歓喜に震わせた。
そもそも覇王色の覇気は、人間的に成長せねば強化されず、スカイ島に籠りっきりの今ではどうしても一定以上となると限界がある。
武装色と見聞色は四人とも使えるようには鍛え上げた。
覇王色は、これから自分達で世の中に出たときに操れるようになるしかない。
それでも四人は、間違いなく時代を動かすであろうな、と思うほどの才覚の持ち主で、スカサハはそれを言わずともその将来を楽しみにするばかりである。
ある時は、生き延びて見せろと島の森の中に放り出した。
ある時は、寝入っている所を襲って抜き打ち鍛錬をやった。
ある時は、ドラゴンを狩ってこい、と言ったこともある。
またある時は、学も必要として多くの事を学ばせた。
エースとルフィは全く座学に興味無しの無駄であったが。
ある時は熱を出したエースの看病をしてやった。
怪我をすれば(鍛錬と修行によるもの9割)手当をしてやったし、腹が減ったと騒ぐ四人になんだかんだと毎日三食飯を作ってやった。
毎日泥だらけ煤だらけ埃だらけになる服を直して、仕立てて、洗って。
それらを手伝うと言ってくれた時はなんとも嬉しかった。
ある時は、ウタによる観客四人の小さな小さなコンサートを開き、ウタの歌声を聞き入った。
勿論、海楼石を身に付けていたからウタワールドが発現する事も無く、ただただ歌うだけ。
それでも、世界をひっくり返すほどの力がある。
寝る前に本を読んでやったこともあった。
魔術を見せた時は、それはもう目を輝かせて教えろ教えろとせがんで来て五月蠅かった。
まぁ今の人間は魔術を使えないの諦めて貰ったが。
あれから幾ばくかの年月が過ぎた。
四人とも見違えるほどに強くなり、そしてエースとサボは一足先に海へと出て行った。
餞別として、幾らかの金になるであろうものと食料水、それとスカサハは許していないが酒樽を幾らか持って行かれた。
しかも売りに出せば数千万ベリーは下らない程度の酒である。
次に帰ってきたら、一発殴ってやろうと思ったが、我が子の旅立ちである、それぐらいは許してやろうと笑った。
勿論海を渡る為の、大きいとは言えないがそれでも一人で旅をするならば十分な広さ、仲間を数人入れても問題無い程度の大きさの船も与えてやった。
そして今日は、ルフィとウタの船出である。
「いよいよ、船出だ!」
うおーっ!と両手を突き上げて叫ぶルフィと、その隣に立つウタ。
ここで暮らしていた間、ウタはルフィから鍛錬や修行でスカサハに離れろと言われる以外は基本的に離れなかった。
本人達は無自覚であろうが、見ているこっちとしてはじれったくて仕方が無いとエースもサボも、そしてスカサハも三人で笑った事もあった。
「全く、どうして能力者同士で船出になるんだ。海に落ちたら死ぬしかないじゃないか」
「大丈夫だ!」
どん、と胸を張るルフィにこのまま船出させて良いものかと心配になる。
なんせルフィはエース、サボと違って航海術などの、海を渡る為に必要な技術を一切身に着けていない。
何度も教えたのだが、どうも駄目で修業ばかりに精を出していたのだ。
と言うか基本的に座学が死ぬほど苦手なルフィは、読み書きこそ出来るがそれ以外は全く駄目と言う、船長を務めるのにそれでいいのかと思うぐらいには、戦闘以外で全く役に立たない。
まぁ、ルフィと一緒に船出すると言ったウタがそこらの技術は一通り身に着けたし、大丈夫だとは思うが結局二人は戦闘特化のところがある。
ウタも中々強く、ルフィの制御ぐらいは出来るようになっている。
と言うかそうでないと兎に角興味の湧いたものや冒険と言ったものに、松明の灯りに引き寄せられる虫の様にホイホイと近付いて行ってしまうルフィは危な過ぎて船出など許せない。
そのせいで修業中にエースもサボも、ウタも何度死に掛けたことか。
「全く、出来る事なら早いうちに専門の航海士を仲間に入れておけよ。海賊王になるどころか、その前に漂流して死ぬぞ」
「うおぉ~~~~!!」
「話を聞かんか、馬鹿者」
「いでぇっ」
全く話を聞かないルフィの頭に槍の柄を落とす。
本当にこんなんで大丈夫なのか、とスカサハはいよいよ本当に、心配になって来た。
「それで、お前達はどうするんだ?」
「取り合えず、フーシャ村に一回寄ろうかなって。皆に会っておきたいし、ダダン達にもお礼がしたいから」
「そうか。まぁ、あの村まではそう遠くは無い。最初の航海の良い練習になるだろう」
どうやらルフィとウタは最初にフーシャ村に立ち寄り、今までお世話になったお礼をしてから本格的に航海に乗り出すらしい。
荷物を積み込み、しっかりと重量配分に気を付けて固定する。
でなければ嵐に遭遇した時、荷物が動いて転覆する可能性があるからだ。
この辺、と言うか戦闘以外の事は大体ウタ任せであり、ルフィはその指示に従うだけだ。
じゃないと乱雑に積んで崩れたり、それこそ転覆してしまうかもしれない。
「じゃぁ、俺達も行くぞ!」
「うんっ!」
ウタは別れが惜しいのか、スカサハにぎゅっ、と抱き着く。
「ウタは甘えん坊だなァ」
「お前も抱き締めてやろうか?」
「いや、死にたくねぇ」
「そうかそうか、ほら抱き締めてやろう」
「いでででででっ!!」
余計な事を言うのは、ガープ譲りと言えるだろう。
これでもその辺は教えたつもりだったスカサハだが、どうにも意味は無かったらしい。
思いっ切り、抱き締めてやると悲鳴を上げるルフィ。
それでも最後に力を抜いて、優しく抱き締めてやる。
何となく、ルフィも抱き締め返して離れるとルフィとウタが並ぶ。
「母ちゃん!」「ママ!」
「うん?」
二人が呼ぶ。
そして、にかっ!と笑って大きく、そして元気な声で。
「「行ってきます!!」」
「あぁ、行って来い」
永い人生、多くの出会いと別れを経験したスカサハにとっても、辛い別れであった。
なんせここまで親しく、それこそ自分の事を母と慕ってくれるような者は誰も居なかった。
スカサハは、その存在が絶対であるが故に孤独であったのだ。
多くの部下や仲間は居た。
だが決して、家族は居なかった。
だからこそ何時しか自分の事を母と呼び慕い、そして自分も我が子として想っていたからこその、辛さである。
辛いと言っても、それは悲しいものでは無い。
自分の子達が、ここまで大きく成長し、そして旅立っていく事への嬉しさ故の辛さであった。
二人への餞別は、刃渡り15cmほどの短剣を送った。
しっかりとした装飾が施されているが、世界に12工あるとされる、大業物にも負けず劣らずのものだ。
エースにも同じような、装飾と形が違う短剣を、サボには槍術の才能があった事から槍を送った。
二人がもやい縄を解き、帆を張って船を出す。
大きな声を出しながら両手をぶんぶんと振っている。
最後の餞別だ、と言わんばかりにスカサハは船出を祝福しているかのような雲一つない晴れた大空に向かって魔術を一発放った。
それは高く高く飛んでいき、そして炸裂する。
きらきらと色彩を放ちながら落ちていく。
互いの姿が水平線の彼方へ消えるまで、見送り、見送られていた。
スカサハは鼻の奥がつん、としたのを覚えた。
二人の前では泣くまい、としていたが、姿が見えなくなると少しだけ涙が溢れた。
一人、森の中の道を歩く。
四人が森の中で修業する時に目印となるように、大昔使われていた主要な道だけを整備していたのだ。
城まで続く幅広い道は、意外と真新しいところが多い。
派手に暴れたりして道が吹っ飛んだり抉れたりしてその度にスカサハが魔術を使って直していたのだ。
だから、新しく綺麗な整えられた石畳の道が島の中を十時に走っている。
何時もは修行で走り回るから騒がしい森の中も、今日ばかりは静かだ。
城に戻ると、より一層静かに感じてしまう。
あれほど騒がしく、静かに出来ないのかと怒鳴った事もあるほどなのに、今はスカサハ一人だけしか城に居らず、そして伽藍としている。
自分一人以外の気配は無く、あるとすれば精々門番のドラゴンぐらいなものだ。
たった五人で過ごしていたのに、あれほど城の中が騒がしかった日々は殆ど無い。
千人もの人間がこの城に居たときよりも、息子達と過ごした時の方が騒がしく楽しい日々であった。
ふと、城の中を巡ってみようか、と思った。
槍を仕舞い、手ぶらでふらふらと城の中を歩く。
城門から、外周をぐるっと一周。
外周だけでも沢山の思い出がある。
始めてここに四人が来た時は、ルフィのせいで城が半壊した。
罰として飯抜きにしたし、やんちゃ盛りの四人が走り回ってはその度に追い掛けてとっ捕まえていた。
この辺も、と言うより城そのものを何度魔術で直したか分からない。
だが嫌では無かったし、寧ろ手の掛かる方がやりがいを感じていたのだろう。
城門に戻ってくると、城の中へ。
城の中は特に思い出深い。
城と言うものを見たことが無い四人は、中を隈なく探検し尽くして調度品や装飾品をかなりの数、ぶっ壊したりもした。
落ち着きと言う概念から最も遠いであろう四人。
食堂に向かえば、五人で毎日三食テーブルを囲んでいた記憶が蘇る。
なんせルフィとエースが大食らいなものだったから、一日に作る食事の量が半端では無かった。
毎日毎日、パンやら米やらを焼いて炊いて。
食事とは修行の中でも特に基本中の基本であるから、昔から気を使っていたがあの四人、特にエースとルフィは取り合えず食えるものなら何でも食うから不味く無ければ丸焼肉だけでも喜んで食べていた。
まぁ、流石にそればかりと言うのは駄目なので普通に野菜も食わせたが。
少し経った頃、ウタとサボが手伝いを買って出てくれた。
なんとも言えない嬉しさで思わず笑みを浮かべてしまったぐらいだ。
そんなサボとウタを見て、エースとルフィも手伝おうとしてくれたのだが、まぁ才能が無い。
一生懸命になってやってくれるのは微笑ましく嬉しいが、逆に邪魔になるし皿を割るぐらいならまだ良い方。
そもそも厨房を破壊するし、特に盗み食いをすると言う事で早々に厨房に関しては一切出入り禁止になった。
それでも懲りずに盗み食いをしようとするから、ルーンで罠を仕掛ければ驚くほど簡単に捕まる。
その度に拳骨と罰を与えて、それでも懲りないと言うのだから良い根性をしている。
三人で並んで料理をして、それをエースとルフィが待っている。
見慣れた光景であったがそれが無くなると寂しいものだ。
恐らく、これから先一人で食事をすることになるだろうが、今までとは違ってどこか味気無く感じてしまうだろう。
中庭に出れば、そこで洗濯物を干した思い出が蘇る。
家事なども修行の内、と言う事で殆どの事を自らの手でやって、そしてやらせていた。
船出をすると言うのなら、それぐらいは出来なければならない。
毎日朝起きてすぐに、前日の修行や鍛錬、週に一度の休日で遊んで回り汚れた服やらを洗っていた。
桶の前で座ってごっしゃごっしゃと、泡塗れになりながらだ。
結局男三人が遊び始め、最初から最後までちゃんとやるのはウタぐらい。
その時は大抵飯抜きにするぞ、と言えば大人しく言う通りにするのだ。
洗濯物を張ったロープに干して、その時にまた遊び始めた男三人がせっかく洗った物を汚して拳骨をくれてやったのも何度あったことか。
城内に戻る。
風呂場も中々思い出深い。
能力者だから水に入ると力が抜けてしまうルフィは、最初の頃は余り風呂を好まなかった。
ウタは女の子だから喜んで入っていたが、最初の頃はルフィを風呂に入れるのは苦労した。
無理矢理入れて風呂嫌いになっても困るし、かと言って修行や鍛錬で思いっ切り汚れているから入らないと言うわけには行かない。
そこはうまい事、エースとサボ、ウタにも協力してもらって入って貰うようにしていた。
今では普通に風呂に入るが、最初は本当に大変だったのだ。
風呂に入れば、石鹸やらで泡だらけになりながら遊んで水を撒き散らし、大騒ぎをする三馬鹿を相手にまた拳骨を落とす。
別に遊ぶなとは言わんが、周りを汚したりするなと言うわけだ。
大きくなってからは男女で分かれて入っていたがそれでも騒がしいことには変わりない。
寧ろスカサハと言う監視の目が無くなったことで余計に騒がしかったかもしれない。
恐らく他の国々、特に考古学者達がどれだけの金を払ってでも読み漁りたいと思うであろう、大図書館は大抵サボとウタが使っていた。
魔術が掛けられてどれだけの年月が経とうとも劣化しない本たちは、知的好奇心の強いサボとウタを大きく刺激したらしい。
大昔の字ばかりで書かれた分厚い本を抱えて持って来て、これを読んで教えて欲しいと二人が言えば、喜んで教えた。
今の時代に役に立つかどうかは分からないが、知識としてある分には良いだろう。
鍛錬が終わり、夜になると飽きずに読んでいて、なんだかんだと離れたくないのかエースとルフィも傍にいた。
まぁ、流石に図書館が暴れていい場所ではないと、最初の一回で学んだのかそれ以降は大人しくしていたが、そわそわとして、鍛錬の疲れもあるのだろう早々に寝落ちしてしまうのが殆どだった。
四人に読み書きを教えたのも、図書館だ。
サボとウタは問題無かったが、やっぱりエースとルフィには苦労させられた。
なんせじっとしていられないのだから椅子に座らせて教科書を開かせるだけでも一苦労だ。
それでも根気良くやったお陰で、四人とも読み書きは出来るようになったのは、スカサハの苦労の賜物だろう。
まぁ、ルフィに限って字は汚いが一応読める程度にはなったので妥協した。
エースとルフィも偶に本を読むこともあるが、大抵飽きてしまってさっさと外に遊びに出て行ってしまう。
それでも必ず読むと一緒になって読んでいた本があった。
それだけは、あの二人も何度も読み返していたのだ。
子供用の物語で、幾つかの章毎に本が分かれているがあれだけは、取り合ってでも読んでいた。
内容は極々在り来たりな、冒険をするものだ。
仲間を集めて、誰も行ったことの無い所へ。
そんな内容だ。
持って行くか、と聞いたらまた帰って来た時に読むと首を横に振った。
この本に負けないぐらいの仲間達を集めて、とびっきりの大冒険の話をしてくれると言って。
本棚からその本を出して、ぺらぺらと捲れば、夜に寝る前に、何度も何度も読んで聞かせてやった時の事をも思い出す。
目を輝かせながら聞いて、そして色々と質問をしてきたり、俺だったらこうするとか、じゃぁ俺はああする、と話をした。
鍛錬の疲れもあってか、大体一部を読む頃には寝てしまう。
寒くなったりはしないが、標高があるから夜は少し気温が下がるこの城の中だから、布団を掛けてやり、魔術の灯りを消す。
それが一日の終わりだった。
そうやって過ごしている内に、何時しか四人はスカサハの事を母と呼び慕う様になった。
エースは「おふくろ」と。
サボは「母さん」と。
ルフィは「かあちゃん」と。
ウタは「ママ」と。
永い人生の中で多くの民こそいたが、子がいたことも無ければ勿論母と呼び慕われることなど一度も無かった。
何となく、それを許したが今では呼ぶ声が無いから寂しい。
四人が使っていた自室を巡る。
全てとなり同士で、スカサハ自身もすぐ向かいに部屋を移した。
最初は四人で一緒になって寝ていたが、成長するに連れて一人一人の部屋が与えられたのだ。
夜の城と言うのは、特に人気のないこの城は子供にとっては怖いものだったらしく泣き付かれた事もある。
怖くねぇ!とルフィは強がりを言って、なら一人で寝るんだな、と言うと泣きながら一緒に寝ると言ってくっ付いてくるのだ。
それが可笑しく、可愛らしいのだ。
エースとウタが熱を出した時は、修行と鍛錬を休みにして看病をしたこともある。
病気とは全く無縁であろうに、あの時だけは風邪を引いたのだ。
熱を出して寝ているエースの隣に居てやれば、唐突に自分の事を語り始めた。
エースは数十年前に鍛えてやったことがある、ゴール・D・ロジャーの実の息子だと言う。
どうやら世間では、ロジャーを鬼と呼び、そしてエースを鬼の血を引く子、と言う事で相当な扱いを受け、そして自分は生まれてきて良かったのかと思い悩んでいるのだと言った。
熱に魘されていなければ、凡そ口に出すことなど無かったであろう。
そのころには、一緒に生活を始めて数年が経っていたし、スカサハは勿論エースの事を自らの子として愛していた。
頭を撫で、抱き締めて例え何があろうとエースはスカサハの子だと、お前を愛すと、そう伝えてやるとエースは声を上げて泣き始めた。
泣き声を聞いて、三人が扉の隙間から覗いていたが、今はそっとしておけと手で合図をして、暫くの間抱き締めて背中を撫でてやった。
エースの性格だ、後々三人に見られたことでいじけるかもしれないとスカサハが気を利かせたのだ。
翌日、部屋を離れて戻ると四人でベッドの上で話していたのを見た。
何となく入るよりもこっそりと見ていた方が良いと思ったからだ。
すると、
「なぁなぁエース」
「なんだよ」
「俺達家族だろ?」
「何言ってんだ、兄弟じゃねぇか」
「そっか。しししっ」
「なんなんだこいつは?」
ルフィの要領を得ない質問に、首を捻るがそれをウタが代弁した。
「ルフィはエースの事が大好きって言いたいんだよ」
「はぁ?」
「勿論俺達もな」
なんだかよく分からない、と最初はきょとんとしたエースだが、意味が分かると心底嬉しそうに笑ったのだ。
スカサハは入らなくて正解だったか、と思いながら部屋に入った。
するとわーっとルフィが寄ってきてそのまま四人を抱き締めた。
ぽかんとした後に、それぞれ抱き着いて来て。
「お前達は、私の大切な子だ。何があっても愛しているからな」
「なんだ、見てたのかー」
「何のことか分からんな」
結局三日間修行と鍛錬を休み、その間はずっと五人でくっ付いていた。
そんな、多くの思い出が蘇る。
数千年数万年の人生の中でも最も色鮮やかな、色彩豊かな日々であった。
静かになった城の中を歩きながら寂しく感じ、そして四人の道行きを願った。
因みに後日酒蔵を見に行くと中にあった酒樽やボトルが丸々一棚分、消えて無くなっていた。
それも狙ったかの様に希少なものばかり。
もしかしたらもう一話か二話ぐらい書くかも。
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