昔の話なのになんでフィクションばっかなんだろね、日本昔話って。
「ねーねーおばーちゃん! 日本昔話ってなんで“昔話”~って名前なのに、ほんとはなかったお話ばっかりなの~?」
「それはね、日本人は昔っから嘘吐きなのさと、童話を通してお子めらに知らしめたかったからさ」
「ひどい!」
「よぅくお聞き、坊……。昔の偉人~なんて言われちゃいるけどね、昔の人の大半なんてもんはね、理不尽の塊どもばっかだったんだよ……昔を話すとくればとりあえず何かを殺したり腹を裂いたり……ね」
「……ミモフタモナイ」
日本昔話~とか、それは昔のこと~じゃったぁ~とかあるけどさ。
日本昔話言うわりにはべつに実際あったわけじゃないんだよな、あれらって。
昔にあったってんならあの太鼓小僧が乗ってる龍だって居たってことになるだろ? でも龍で調べると、伝説上の生物ってことになってる。伝え説く、って意味ならそりゃあ居たのかもって思うけどさ、羽も無いのに空は飛べねぇだろ。
などと、まああああ生意気で可愛げもなくて、とりあえずなんにでもイチャモンつけたがるような面倒くせぇ馬鹿みてぇな性格の俺だったわけだが。
…………ある日、女性にザコ・ドリーム(王国兵士流究極奥義:鉄山靠の意)をブチかましたら、トラックに轢かれまして。めでたくこのくそったれな世界から解放されたわけなのだが……目を覚ましたら暗い場所にいた。なんか上手く力も入れられなくて、五感の全てを以て現状を把握しようとしたところ、なんか甘ったるい香りがして、背が触れている部分はしっとりぬめぬめ。あとなんか俺裸っぽい。え? なにこれ。あと体の動かせる可動域がやたら短い。
……これ、もしや転生した? 赤子からのやり直しパターン? ……え? 女性のお腹の中ってこんなに甘ったるい香りがするもんなの? とか思ってたら突然ゴパッシャアと音が鳴って、僅かな光とともに眼前へ迫る冷たい刃……怖っ!? こっ……ギャアアア怖いなにこれ怖いこわこわ助けてェエエエエエエエエッ!!?
と、叫んだつもりが、俺の喉からはホギャアアアアという悲鳴しか出なかった。
その声を聞いたからか、刃はそれ以上降りてくることはなく、途中まで割られたらしい母胎は左右にミギチチチゴパァと開かれて……怖い!? ママ殺された!? だだだだだ誰だ貴様! よくも我がママンを───
「………」
マ…………オヴァーサン?
割られ、開いた視界の先にはおばあさんが居た。
とても子持ちの女性を刺し殺すようには見えないやさしげなお婆様。なんというか、ド田舎の農村おばあさん、って例えればイメージが浮かんできそうなそのー……頭にこう、ぐるって手ぬぐい? を巻いた感じのあのー……もんぺ履いてるお婆様感。
そんなお方が俺を軽々と持ち上げると、あらあらおじいさん、などと口にする。
ハッとして俺はママンの御姿を一目……と振り向くと、なんかデケェ桃があった。
「………………(アッ……これ桃太郎かぁ!!)」
そして合点がいったのでした
どうやら俺、散々呆れを投げ飛ばしていた昔話の世界に飛ばされたらしい。
───……。
……。
そうして俺こと『ネクタリン・ドンブラシュタイナー』はすくすくと……って、いや名前ェェ!? 誰! ネクタリンはまだなんとなく分かるよ!? でもドンブラシュタイナー誰ェ!! どんぶらこから来てるの!? ていうかそもそもどんぶらこって何ィイ!?
やべぇこの世界やべぇ! ていうかお爺様お婆様がすげぇやべぇ……! なに平気で桃太郎にネクタリンなんて名前つけてんだいや拾ったのこの人たちだから名付けは自由かもだけどさぁああ……! え? なに? 俺これから『桃から生まれたネクタリン!』とか、『日本一の! ネクタリン!』とか自己紹介しなくちゃいけないの!? 語呂わっ……悪っ……~……無駄に桃太郎と語呂合ってる気がして腹立つ……!
「ほっほっほ、たくさん食べて、おーきくなるんだよ、ネクタリン」
「違和感!」
日本の昔話で、子供をネクタリン呼ばわりするお婆さんをどう思いますか? 普通じゃねぇ。
でもお婆さんの作るご飯をいつだって最強さ。正直とんでもなく美味ェ。だからついつい食べ過ぎてしまうんだけど、この体って絶対おかしい。食えば食う程体が大きくなって、筋肉もがっしりとついてくる。
お婆さんはそれに合わせて高速で衣服を作ってくれるし、そんな厚手の服に隠れるように育った筋肉は、たぶん村の誰よりも発達してる。
そうして育っていったある日、村の宝が鬼どもに奪われた。
正直、鬼が人間の宝を奪ってどうするのかとかスゲー疑問なんだけど……え? なにするのそれで。鬼に人間の通貨とか必要あるの? 金とか持ってってもどうすることもできんだろうに。
しかしそれは確かに村の宝であり、村でありひとつの家族のように育ってきた村の人たちにとって、それは冬を越すための蓄えでもあったのだ。返して貰わなければ村が危ない。ので、俺は鬼ヶ島へ行って鬼をこらしめることを決意した。
「ネクタリン、これを持っておいき」
「こ、これは!」
お婆さんが餞別にと大きな巾着に入ったきびだんごをくれました。
お婆さん料理は絶品です。中でも甘味はやたらとパワーが付くのです。これさえあれば鬼なんぞに遅れなどグオッフォフォ……!! と、サンシャインのように笑いながら、桃太郎もといネクタリンの旅は始まったのです。
───……。
……。
道中、犬が現れてなんか話しかけてきました。
「桃太郎さん。ぼくにきびだんごをひとつわけでくださいワン」
「誰だそりゃ。桃太郎? 知らないねぇ」
「エッ……いや、あなた桃太郎さんでしょ? ワン? ほら、鬼退治に行く……ワン」
「違う。人違いだ。俺の名はネクタリン・ドンブラシュタイナーだ」
「ネクタッ……ドンブラシュタイナー!? ネクッ……ドンブラシュタイナー!?」
犬は大層驚いておったそうじゃ。
とりあえず腹減ってるなら村行ってお婆さんになにか作ってもらえと言って、俺は歩き出した。
「ま、待ってください! ワン! 鬼ヶ島へ行くのでしょう!? 是非手伝わせてくださいワン!」
「え……無理」
「な、何故!?」
「いや………………喋る犬とか…………無理……」
「無っ…………!?」
「………」
「………」
旅は再開された。犬はついてこなかった。
……。
それからしばらく歩いていると、今度は猿が出てきた。
「きびだんご、ひとつくださいウキー!」
「いいだろう。代わりになにかよこせ」
「エッ……!? い、いやあの……ここはそのー……いいよ、とか快くあのー……ウキ……」
「対価がないならだめだ」
「い、いやさぁ……ちゃんと昔話しようよ……ウキ……。こっちも一応ホラ、テンプレっていうか……ねぇ?」
「お前が同行するのは桃太郎だろ? 俺ネクタリン・ドンブラシュタイナーだから猿のオトモはいらないんだ」
「ドンブラシュタイナー!? ドッ……ドドドンブラシュタイナー!?」
猿が大層驚いているうちに、俺の旅は再開された。
「あぁっ!? 待ってくださいウキ! た、対価! 対価支払いますからウキ! そのー……あっしがオトモになって、ともに鬼と戦いますから! ウキ!」
「その程度でお婆さん特性きびだんごの対価に見合うと……? 自惚れるなよエテ公が……!!」
「この人さっきから辛辣がすぎる!? やっ……やさしくしてくだせぇウキ! きっと役立ちますウキよ!?」
「外国人はみんな派手で爆発オチとかが好きなんだよ……桃太郎なんていかにもな日本名ならともかく、ネクタリン・ドンブラシュタイナーな俺にただの鬼退治が求められてるわけねぇだろうが……」
「あっ……なんかこれ成長の過程でおかしくなっちゃった系の人だ! ウキ! まままますます放っておけやせん! あっしも同行させてくだせぇウキ!」
「じゃあ最初の条件を出す。あっちにずうっと行った場所に、俺の生家がある。そこでお爺さんとお婆さんの許可を取ってくるんだ」
「何故!? ェッ……何故!? 許可!? 何故!?」
「馬鹿かお前はこの馬鹿。お爺さんとお婆さんが可愛がって育てた少年に、今巷で問題になってる猿が同行なんて、世間様が許すわけねぇだろうが」
「あなたどこにお住まいで!? ていうかたぶんその猿とあっしはまるで無関係ですから問題ないと思いますよ!? ウキ!」
「黙れ猿が……! 無抵抗の幼児を引きずるクズめ……!」
「猿ですけどそれ違う猿ですからね!? ていうか猿に猿めって、人間に人間めって言うのと同じですよ!? ちょっと冷静になりましょう!? ね!? ウキ!」
「馬鹿かお前は。桃から生まれた奴が人間なわけねぇだろうが。俺は
「そうなの!?」
猿が大変驚いておった。人間っぽく。
「ていうかほんと、桃から生まれたのになんで人間型なんだか……こういうのの所為で、神だとか精霊だとかも人間型~みたいに考えられちゃうんだよ。人間嫌い~だとかの精霊やら神様やらが人間と同じ姿してるわけねぇだろうがチクショイ……あ、なんか考えてたらイラついてきた。もうこれはあれだな、鬼にぶつけるしかないな」
「で、ではあっしも!」
「いらない」
「いらない!? 『危険だから来るな』ではなく要らない!?」
しつこい猿を無視して、俺の旅は再開した。
そういえば……エカテリーナ・サルノビッチってどういうキャラだったっけかなぁ……。
───……。
……。
遠目にキジを発見した俺は、見なかったことにして迂回して進んだ。
キジ? 知らない子ですね。童話・桃太郎では必須だったかもですが、これは童話・ネクタリンです。童話・桃太郎では断じてありませんので。
そんなこんなで鬼ヶ島に着いた俺は……
「そういえば……鬼のやつらはなんだってこんな遠い場所のちんけな村の宝なんぞ盗みに来たんだろ。もっと別に取れる場所とかあったろうに」
言いつつ、乗り込む前にお婆さんのきびだんごを食べます。
一つ食べれば矮躯であった体は伸び、二つ食べれば筋肉は肥大化し。
まるで怪人細胞を欲張り、食いまくったバクザン様のようにきびだんごの全てを独り占めした。
するとどうだろう。動物たちに分ける分まで体内に吸収された栄養は全身に回り、全ての細胞を超活性化。体は今この時にこそ最高の成長を迎え、少年から青年の姿へと変わっていた。
「さあ……鬼退治だ」
元々、古記のモモタリャーでは、鬼は別に悪さをしていない。
古記のモモタリャーでは、桃太郎は『あー……なんか今俺急に鬼の財宝めっちゃ欲しくなった。っべー、こりゃ強奪するっきゃねーわー』なんて理由で鬼退治に出かけた。
もちろんこの世界が古記モモタリャーの世界なら、俺だって鬼に関わることはしなかった。だが貴様らは村を襲った。襲ったなら……襲われる覚悟も、もちろんあるな?
さあ知れ。桃太郎が“鬼
『おい……なんか島の外れに小さな船が来てるオニ』
『え? マジかよお前こっから見えるのかオーガ?』
『見えるオニ……あとなんか変な髪型の筋肉ゴリモリマッチョな男が肉体ひとつでこっちに来てるオニ』
『肉体ひとつオーグル!? もしや変態!? 変態オーグル!?』
『やべぇオルクス! 親分に報告するオルクス!』
『落ち着くオーガ! 所詮やつは一人オーガ! やつの容姿から察するに、やつは人間のようオーガ! 人間相手はまずは会話から始めるのがいいと親分が言っていたオーガ!』
『人間といえば、今代の人間はほとほと困ったオルクスねぇ。40年に一度の物資交換の日だったというのに、会話にも応じなければ一方的に悪い鬼呼ばわりオルクス。対価にきちんと鬼の加護を40年分振りまいて、他の害獣や害虫から守られるようにしたというオルクスのに……』
『先代はそりゃあもういい人間だったオニ。きっと先代がどれだけ言って聞かせても、今代が聞こうとしなかったってオチオニよ』
『あのマッスルも、ちゃんと話が通じる相手だといいオーガねぇ……ん? なにかモゾモゾやってるオーガよ?』
『ありゃなにオーグル? なにやら岩を掴んで……』
『投げ───オワァアアアアアアアアアッ!!?』
『おわわ避けしぎゃあああああああああああっ!!』
『ギャアアー! オグレがやられたオニー!!』
『ち、ちくしょうやりやがったなオーグル! 話も聞かずに攻撃なんて、人間も堕ちたものオーグぼびゅぅっ!?』
『オーゲル!? オッ……オーゲルーッ!! うわぁああオーゲルがぁああっ!!』
『むむむ無茶苦茶だオーガ! あいつ、鬼ヶ島になんかいっぱい転がってる例の岩全部を武器にするつもりだオーガ!』
『ななななんだってオニ!? 鬼ヶ島といえばと問えばなんかいっぱい転がってるあのー……岩! って言われるのが大体な例の岩をオニか!?』
『ちょ、待っ……どう避ければいいオーガかこれ!』
『ととととにかく逃げるオニ! 逃げおびっびょ!?』
『オニーニョーォオオオッ!? ち、ちくしょうよくも俺の相棒をオーガァアアッ!! オッ……!? オォオオオオオオオオオおぶびょっ!?』
その日、鬼ヶ島は……イメージしてみるとまず思い浮かぶあの岩を武器に、鬼の全滅によってその退治が完了と成った。
俺はその地獄絵図から財宝を持ち帰り、今代の村長になんかやたらと感謝されつつ、残りの余生を平和に過ごした。
しかし桃人はそのパワーの所為か寿命がそんななかったようで、40年程度であっさり死んだ。なんか死ぬ寸前に害獣がーだの害虫の大群がーだの聞こえた気がしたけど、知らん。加護がどうとかも聞こえたけど知らん。
童話って結構しっぺ返しみたいながくるタイプ、多いもんね。多分それが来たんだろう。俺が死んだあとでよかった。
そうして俺は旅立った。案外好き勝手するのも悪くはなかった。でも、血みどろ劇場はいやだから……次に生まれ変わるんなら、誰かと戦う~とかは無しにしてほしい。
なんて考えていた俺が目を閉じ召されると、なんか次は赤い頭巾を被った幼女になっていた。
……なんでやねん。
そんな俺が、おばあちゃんという人間一人を生きたまま丸呑みにする、伝説の狼と戦うことになるのは……まだ先の話だ。
……あと赤ずきんは日本の話じゃねぇだろオイ!
え!? これ日本昔話の世界じゃなくて、“世界の童話”の世界なの!? その
Q:昔話ってなんでとりあえずなにかが死んだりするの?
A:今でいう感動ものの話でとりあえず誰かが死ぬのと同じノリらしい。印象に残るんだって。
Q:じゃあ童に聞かせるお話なのに、いじめとか、なにかを痛めつける傷つける描写が多いのは?
A:なにかしらの行動を起こした際、それを思い出して自分は悪役側にならないようにするため、とかっぽいです。もちろん根っこからのクズにはなんの意味もないどころか、いじめっ子にこそ憧れるらしい。すげぇ。