あれから時は過ぎ、七年の月日が流れた。
ハナコは大学の経営学部を卒業し、月村家を出てマウクランに住み着いた。
大学で栄養学を専攻したすずかは、卒業と共に調理師学校へと入り、調理師免許を取得しようとしている。
もっとも、すずかが持つ予定の料理店はマウクランで建設中のため、日本の調理師免許は飾りにしかならないが。
アリサは大学卒業後、グルメエイジ社へ入社した。幹部待遇であり、次元世界の事情に詳しい者として世界間の食材取引に関わっていくことだろう。
なのは、フェイト、はやては時空管理局でそれぞれの道を歩んだ。
一時期は管理世界でアイドル的人気を誇ったが、最近はそれも落ち着いてきた様子。今は、じっくりとキャリアを積み重ねている。
三人はいずれもグルメ細胞に適合し、なのはに至っては時折マウクランで食材の捕獲を行なって、グルメ細胞を成長させていた。そのためか、最強の魔導師『白い魔女』として時空管理局の内外に名が
Dr.ゼロは、ジェイル・スカリエッティの名を完全に捨て去り、ナンバーズを率いて今もグルメ研究に明け暮れている。
そして、あの小さかったヴィヴィオはすっかり成長し、九歳となった。
母親代わりのクアットロと共にミッドチルダに住み着き、
そんなヴィヴィオは最近、ある将来の夢を周囲に話していた。
その夢を叶えることは、なかなか困難で、ハナコはそれを応援したいと思っていた。ゆえに、ハナコはヴィヴィオに一つの試練を与えることにした。
「いい? ヴィヴィオ。あなたが美食屋を目指したいなら、自力でこの食材を取ってくるんだよ」
ある日のマウクランの中央研究所。ハナコはヴィヴィオを前に、そんな要求をした。そして、ハナコはさらに言う。
「目標はガラナワニ! 捕獲レベル6の強敵だよ!」
「はい、ハナコお姉ちゃん! ゆりかごは使っていいですか!」
ハナコの前でヴィヴィオが手を挙げ、とんでもないことを言い出した。
『聖王のゆりかご』。ヴィヴィオが所有する、巨大戦艦である。
「ダメに決まっているでしょ。食材ごと一帯を吹き飛ばすつもり?」
「ええー、となると、素手と魔法で捕獲レベル6かぁ……危なそう」
「危ないと思うなら、なんでお友達を連れてくるかなぁ」
ハナコは、ヴィヴィオの両隣に立つ二人の少女にそれぞれ目を向けて、ぼやいた。
そう、ヴィヴィオは本日、マウクランに二人の友人を連れてきていた。
いずれも彼女のSt.ヒルデ魔法学院での学友で、それぞれコロナとリオという名前だ。
「いいんです。伝説のマウクランに来られるというなら、少しの危険くらい……」
友人の一人、コロナがそんなことをハナコに言う。
その言葉の内容に、ハナコは少し驚いた表情を見せる。
「伝説って……。この世界でグルメ研究を始めてから、二十年も経ってないよ?」
「でもでも、グルメ時代は、このマウクランから始まったって……」
「ああ、それは本当」
世は空前のグルメ時代。いつしか、ミッドチルダでそんな言葉がささやかれるようになった。
数年前から管理世界の市場で、それまでの常識を破壊するような美味しい食材が流通し始めた。次第に人々は美食に酔いしれ、熱狂した。
それに合わせて、人々の間でとある都市伝説が流行した。これらの美味なる食材は、マウクランと呼ばれる伝説の地から流れた作物や畜肉であり、マウクランには未知の味が無数に眠っている、と。
ハナコがこの都市伝説を知っていたら、こう答えただろう。嘘偽りの一切ない真実であると。
「一応、無人機を付いていかせるし、いつでも助けには入れる。でも、ガラナワニのいるガラナ半島は危険がいっぱいだし、ガラナワニはすごく強いよ」
「大丈夫です! わたし達、『ストライクアーツ』やっているので!」
ヴィヴィオの友人、リオが拳をグッと握りながら、ハナコの言葉にそう答えた。
ハナコはそれを「ふーん」と眺めながら、言う。
「『ストライクアーツ』って、ミッドチルダの格闘技だよね?」
「はい!」
「うーん、それって対人用の技術だよね。巨大な猛獣にどこまで通用するのか……」
ハナコがそう言うと、リオはムッとした顔をする。
その様子にハナコは苦笑して、さらに言う。
「ま、実地で試してみるといいよ。何事も経験経験」
ハナコのその言い様に納得できないのか、リオはムスッとしたまま出発の準備に入る。
コロナはあわあわとしながらも装備を確認し、ヴィヴィオも最近クアットロに貰ったばかりの魔法のデバイス『セイクリッドスター』の調子を確かめる。
それから出発準備は整い、ヴィヴィオ達三人はハナコが用意した無人輸送機に乗りこんでいく。
「それじゃあ、ヴィヴィオ・ナンバーズ、ガラナワニの捕獲に行ってまいりまーす!」
輸送機の入口で、ヴィヴィオがハナコに向けてそう言った。
それをハナコは笑顔で見送り、輸送機は宙に浮き、標的が居るガラナ諸島へと向けて飛び始めた。
「さて、あの子達は、私とすずかさんの『人生のフルコース』のドリンク、気に入ってくれるかな?」
ハナコはそう言って、ヴィヴィオが初めて体験する冒険を静かにモニターし始めた。
マウクランは未知の味にあふれている。グルメ細胞がマウクランを美食の楽園に変え、今やマウクランには多くの美食屋志望者が訪れるようになった。
厳しい自然は人を拒み、時には美食屋が命を落とすこともある。
それでも、美食は多くの人々を魅了して止まず、美食屋達はマウクランに夢を見た。
「あとは肉料理を残すのみ、か。もしかしたら、ヴィヴィオが私の最後の『フルコース』を見つけてくれるかもしれないね。そうしたら、みんなと一緒に食卓を囲んで、美味しいお肉が食べたいな」
ハナコは、そんな夢の世界で今日もグルメ研究を続ける。
いつか、自身の舌を満足させてくれる素敵な『人生のフルコース』がそろうことを彼女も夢見ながら。
◆◇◆◇◆
誰かが言った……
全身の肉がチーズのようにまろやかで、とろける肉汁があふれ出る獣がいると――
年代もののウイスキーがパンパンに詰まった木の実が生る、広大な果樹園があると――
ふわふわのジェラートが天辺に降り積もる、ザッハトルテの山脈があると――
次元世界のどこかに、美食の楽園『マウクラン』があると――
そこには……想像もつかない美味なる食材が無数に存在していると――
世界中の人々が思った
それらを食したいと――
<完>
『おいしいおにくがたべたい』は以上で完結です。
あとがきは2022年11月11日の活動報告に掲載しています。
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