味龍で腹ごしらえを終えたタバサと小太郎の2人は、満足した様子でヨミハラを歩いていた。
「いやあ、うまかった……。今後ヨミハラに来る度にあそこに寄っちゃいそうだ。……まあさすがに毎回奢ってもらうわけにはいかないから、今日のやつは食べられてもたまに、だろうけど。タバサはどうだ? 満足したか?」
「大満足。あれなら毎食でもいい」
「そんなことしたら成人病コースまっしぐらになりそうだが……。異世界人ならもしかしたら無縁かな」
とはいえ、あれだけの食べっぷりを見せつけられたら毎食でも食べさせてあげたいと思えてしまうかもしれない。
「なんかさくらから聞いたけど、食べ物のお店でバイトするとご飯を出してもらえるって本当? もし私があそこでバイトしたら、いっつもあれ食べられるんじゃない?」
「あー、
「あのラーメンが食べられなくてもいい。チャーハンと餃子……だっけ、あれもおいしかったし」
タバサがヨミハラでバイトか、と小太郎は少し考えていた。
かなりの荒治療だが、ライブラリーの特訓の成果と合わせると一気に効果が見込めそうではある。ヨミハラの様々な人々を前にしても問題なく生活できるというのであれば、いよいよこの世界に適応したと言ってしまっても過言ではないだろう。
しかしまだ早いか、とか、もう少し様子を見てからでもいいか、と結局答えを先送りにし、タバサとの他愛もない会話を続けながら、小太郎はバイトの依頼主である瑠璃のところへと足を進めていった。
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ヨミハラは「闇の都市」と呼ばれるにふさわしく、魔界に通じる門がある。
小太郎からすればもう何度も通って慣れた道ではあるが、言うまでもなくタバサにとっては初めてだ。ヨミハラの街並みとは異なる大洞穴へと入り、そこから突如として整備された空間へと出る。さらにもう少し進むと魔界への門に通じている場所だ。
小太郎も初めて見たときは驚いたものだったが、タバサも同じだったらしい。くりっとした目をさらに見開き、辺りをキョロキョロと見回しているようだった。
その近辺にある建造物の中に、魔界の門の管理人・瑠璃の部屋があった。既に顔見知りとなりつつあった小太郎を見て衛兵は扉を開けてくれて、2人は瑠璃の部屋へと足を踏み入れる。
「うわ……」
そう声を上げたのはタバサだった。思えば自分も最初はそんな反応だった、と小太郎は思い出す。
部屋の中は壁まで本で埋め尽くされていた。そのために初めて見ればこういう反応になるのは当然と言える。タバサに本の価値がわかるかは疑問だが、この部屋の主同様本に興味がある小太郎からすると、言ってしまえば宝の山だ。
「ああ、ふうま小太郎か。今日は誰かを連れてきているのか」
その声は、突如して背後から聞こえてきた。何度か経験した小太郎は顔に渋いものを浮かべるだけで済んだが、初めてとなるタバサはそうはいかない。殊に「敏感すぎる」とまで称されるその察知能力でさえ背後に回られたことに気づけなかったと、反射的にその場を飛び退いていた。見れば、珍しく顔には焦りのような表情が見て取れる。
立っていたのは眼鏡かけた青年であった。しかしその目は2人を見てはいない。手に持った、開かれた本へと落とされていた。
魔界の門の管理人である瑠璃、その人だ。
「大丈夫だって、タバサ。落ち着け。……どうもこんにちは。こっちは今うちで預かってるタバサって子です」
「ふむ……。なるほど、面白い。興味はある。……が、もう少しでキリのいいところまで読み終わる。しばらく待っていてくれるかな」
そのまま、瑠璃は小太郎の答えを待たずにいつの間にか部屋の中央へと移動していた。そして何事もなかったかのようにそこにあった椅子に腰掛る。
「問題ないですよ。俺は慣れてますんで……」
言いつつ、タバサの方を伺う。少し平静さを取り戻りつつある様子で、彼女は尋ねてきた。
「……あの人、何者? いくら警戒心を緩めていたとはいえ、全く気づかずに背後を取られるなんて……。こんなこと今までなかった」
「魔界の門の管理者にして、この街を取り仕切る最大組織“ノマド”の大幹部。……ま、その正体はあんな感じの本の虫、ってところだけどな」
何度か顔を合わせたこともあって、小太郎はこの男の取り扱い方をなんとなくわかっていた。
瑠璃は本に対しては異常すぎるほどの執着があるが、逆に言えばそれ以外にはさほどない。仮に目の前で多少自分の悪口を言われようが文句を言われようが、彼の読書の邪魔をせず、本に対して何かをするわけでなければ特に気にもとめないのだ。
「それより間違ってもあの人に敵対の意志なんか見せるなよ?」
「問題ない。敵意は全く感じられないから、私の方からということはない。それに……仕掛けたら生き残れる保証がない」
タバサを持ってしてこの評価か、と小太郎は思った。実際彼は瑠璃が戦う、というより一方的に邪魔者を排除する様子を目にしたことがある。まかり間違ってもケンカを売ろうなどとは思わないほどの相手だということはよくわかっている。
「待たせたね」
と、不意に瑠璃の声が聞こえてきた。やはりいつの間にか、座っていた椅子から2人の目の前へと移動してきている。
「まずふうま小太郎、これが今回君に持っていって欲しい本だ」
そう言うと瑠璃は本が入っているであろう包みを手渡してきた。
しかし軽く触っただけで、この包の中にある本は何か普通の本とは違う、ということが直感的にわかった。歴史を感じるというか、特別な力が込められているというか。
「あの……。もしかしてこれ、相当重要な本なんじゃ……?」
「ああ。占星術の解説書で、人間界で失われたと思われていたが魔界で保存されていた、私の秘蔵の一冊だ」
「いいんですか!? そんな重要なものを貸し出したり、ましてや俺なんかに運搬頼んだりして……」
ふぅ、と瑠璃はひとつ息を吐いてから口を開く。
「君は本の価値をはっきりと理解できる人種だ。私はそういう者にこの運搬を頼みたいと思っている。そして、どんな名著も読まれなければただの紙だ。価値の分かるものに読まれてこそ、本は本たり得る」
小太郎はその意見には内心で同意しつつも、同時にやはりそんな重要な本を任されるのは責任が重大すぎると思わざるを得なかった。
「届け先はこの街にある『占い屋ファンタスマ』のアンナという女性だ。詳しくはメモを残しておいたからよろしく頼む」
緊張した様子で包みを受け取り、小太郎は鞄の中へとその大事な届け物を閉まった。
「さて……」
瑠璃の目がタバサの方へと向けられた。じっくりと彼女を見つめた後、ゆっくり口が開かれる。
「まず、君はこの世界の人間ではないね?」
ズバリ言い当てたことに小太郎は内心驚いていた。が、一方のタバサは特に気にした様子もなく、首を縦に振って肯定する。
「やはりか。見るのは初めてだが……。もしかして“乗っ取られ”かな」
しかしその言葉を聞いた瞬間に一転、無表情無感情が多いはずのタバサに目に見えて動揺の色と、驚愕の表情が浮かぶのがわかった。
「私のことを何と呼んだ?」
タバサと出会って約1ヶ月ほどになるが、これほど緊張した声色を聞いたのは初めてだと小太郎は思っていた。
「“乗っ取られ”。その反応では当たっているようだね」
「その言葉の意味を知っているの?」
「“知って”いる。が、“識って”いるわけではない」
曖昧な言い回しに、タバサにしては珍しく、露骨に顔がしかめられた。
「言葉遊びをするつもりはない」
「結論を急がないでくれたまえ。あくまで知識として“知って”いるだけだ。しかしこの目で実際に見たことはない。よって、それがどういうものか、という意味では“識って”いるとは言えない」
「その知識はどこから得たの?」
「蒐集した本から。確かこの本だったかな」
瑠璃が人差し指を軽く動かすと、壁に羅列されている本の中でも特に奥の方から1冊の本が飛び出してきた。ややあって、ページが開いた状態でタバサと小太郎の前に降りてくる。
「その本は魔界を旅して回った男の日記のようなものだ。書かれた時期はおよそ100年ほど前。一応は冒険譚と銘打ってはあるが。その中でもその部分はやけに異質でね。眉唾ものだと思っていたから記憶にあった。詳しくはそこに書いてある」
2人は瑠璃が述べている部分を見つけた。
『その者は、昨日までとまるで別人であった。性格も違えば、言葉遣いも気配も違う。得体の知れない雰囲気を発し、何より、腕の一部が薄緑色に変色していた。私は思わずお前は誰かと尋ねた。彼はこの肉体を“乗っ取った”とだけ答え、ゆらゆらと私に迫ろうとした。私は反射的に近くに置いていた護身用の棍棒を手にして彼を殴りつけた。変色していた腕で頭をかばおうとしたようだが、腐っていたかのように飛び散り、そのまま頭も潰れて彼は絶命した』
「……イーサーコラプション」
「え?」
ポツリと呟いたタバサの言葉に小太郎が反応する。
「イセリアルに乗っ取られた肉体……いわゆる“器”は脆く、ここに書かれている通り次第に薄緑色に変色して
「つまりこれは『彼』がイセリアルに“乗っ取られた”ことを証明してる……ってことか?」
「おそらくそうだろう。続きを読んでみたまえ」
瑠璃に促され、2人はその先の文章へと目を移した。
『彼は何かに取り憑かれていたように思える。だが、魔界で様々な種族を見てきたがあのようなことが出来る種族は無い、と言い切っても言い。初めて目にした事例だ。死霊に憑かれた者を目にしたこともあるが全くの別物。元の人格すらも完全に消し去って上書きし、新たな人格を形成してしまうことは死霊には不可能だ。肉体の腐敗も異常である。他に事例が無い以上、名前のつけようがない。よって彼だった者が口にした通り、“乗っ取られ”という呼称が妥当に思える』
タバサと小太郎がそこまで読み終わったところで、本は自然に閉じられ、元の場所へと戻っていった。
しかし2人とも呆然とした様子でそのまま立ち尽くしていた。
「私が君を“乗っ取られ”と呼んだのは、ここに書いてあった事例に当てはまる部分が多かったからだ。君の雰囲気を探った時に、元の人格とは別に何かに上書きされたような跡があり、かつ取り憑かれたような気配もあった。異世界人という点も踏まえれば、この存在……イセリアルといったか、それが多く現存する世界から来たのではないか、と。ただ、体の変色は見当たらない。よって半信半疑でそう尋ねたのだが……」
「ほとんどは正解。私のいた世界……ケアンで起きた大異変の原因の半分はイセリアルにある。人類の敵として、そのぐらい多く存在する世界。そして確かに私は一度“乗っ取られた”。だけど、そいつは絞首用の吊り縄に私を置き残した」
なるほど、と瑠璃はひとつ間を起く。少し何かを考えた様子を見せてから、再び口を開いた。
「先の本のように器ごと殺してしまえば良いという発想からの行動と推測する。人類の敵、と称したぐらいだ。その考えに至るのはわからなくもない。しかし完全に乗っ取られる前、かつ肉体が死を迎える前にイセリアルが抜け出した、と」
「そういうこと」
「なのに人格が上書きされた跡がある」
「乗っ取られた時点で元の人格も記憶も失うらしい。だから今の私は元の私とは別人。今の私にイセリアルは取り憑いていないけど、一度は乗っ取られて別人となった以上、“乗っ取られ”という呼び方は間違えてはいないと思う」
ふむ、と彼は彼女の目を見つめながら何度か頷いた。
「逆に聞いていい?」
「本にあったイセリアルはどうしてそこにたどり着いたのか、かね?」
訪ねようと思ったことを先取りされる形になったが、特に気にした様子もなくタバサが頷く。
「質問を質問で返すようで申し訳ないが、君はどうやってこの世界に?」
「簡単に言えば……ワープポータルを抜けたら本来繋がるべき先ではなく、この街だった」
「ならばこの本のイセリアルも同じではないかな。たまたま、そこに迷い込んだ」
一瞬怪訝な表情を浮かべたタバサだったが、「……そうか」と何かを納得したように独り言をこぼしていた。
「イセリアルはイーサーをエネルギー源とする。でもおそらくだけど、この本の世界にもイーサーは存在しなかった。結果、器を乗っ取ることにこそ成功はしたものの、イーサーが無かったことによってケアンの事例よりも早くイーサーコラプション化してしまい、わずか1日と持たずに器が崩壊を始めた」
彼女自身で問いに対する答えを見つけたことに満足したのか、瑠璃はいつの間にかまた椅子の上へと移動していた。そして本を読み始めようとしている。
「私が“知って”いることはすべて話した。君のおかげでもう少し“識る”ことは出来たかもしれないが。つまり、残念だが君がずっと聞きたかったであろう質問に対する答えは持ち合わせていない、ということになる」
そんな様子を見つめたタバサは、どこか諦めたようにひとつため息をこぼすだけだった。
「……そう。わかった。ありがとう」
そのままタバサは瑠璃に背を向け、部屋を後にしようとする。
「行こう、ふうま。預かったものを運ぶバイトがあるんでしょ?」
「え? あ、ああそうだけど……。いいのか? お前の質問とかなんとか……」
「私のことを“乗っ取られ”と呼んだから、この世界とケアンの関係だとか、戻り方だとか、とにかく何か知ってるんじゃないかと思った。でも、100年も前の本の知識で“知って”いただけだということはよくわかった。だから、さっき言われた通り、彼は私の質問に対する答えを持ち合わせていない」
相変わらず言葉は無感情だし、動作からも感情を読み取りにくい。
それでもタバサなりにショックを受けているかもしれないと小太郎は少し心配していた。先に部屋の入口へと歩き出した彼女の背中が、やけに小さく見えたのだ。
「どうしたの? 早く行こう」
しかし振り返った顔は普段とあまり変わった様子もない。自分の考えすぎかもしれないし、すぐに答えが出ることでもないのは事実だ。
小太郎は自分にそう言い聞かせ、今はタバサの言う通り頼まれた仕事をこなそうと考えることにした。
「じゃあ俺たちはこれで。預かった本、持っていきますね」
既に読書モードに入った瑠璃からの返事はない。
2人が退出し、部屋には本のページをめくる音だけが響いていた。
二刀流ツリー
ナイトブレイドの目玉でもある二刀流のスキルツリー。
二刀流を可能にするスキルや、二刀流の通常攻撃を確率で変化させるWPS、さらに通常攻撃変化であるWPSをさらに変化させるスキルが存在する。
・デュアルブレイズ:マスタリーレベル1で解放。二刀流を可能にし、刺突ダメージの追加と割合の刺突と冷気ダメージの強化、さらに物理耐性を強化する。物理耐性は稼ぎにくいためにこのスキルで得られるのは非常に重要。場合によっては防御スキルよりこっちを優先したほうが安定度が増すことさえある
・ベルゴシアンの大ばさみ:マスタリーレベル5で解放。二刀流のWPS。「挟み込むような斬撃」モーションで、高めの武器参照ダメージで前方範囲攻撃を繰り出す。165度の角度に最大3体まで攻撃可能
・アマラスタのクイックカット:マスタリーレベル15で解放。二刀流のWPS。「目にも止まらぬ連続攻撃」モーションで、高速の三連撃を叩き込む。武器参照ダメージは低めだが、複数回ヒットするため対単体用としては優秀
・ホワーリングデス:マスタリーレベル25で解放。二刀流のWPS。「周囲を薙ぎ払う回転攻撃」モーションで、それなりの武器参照ダメージに加えて刺突と出血ダメージも追加した範囲攻撃をする。360度の角度に最大8体まで巻き込めるので、範囲攻撃に乏しい二刀流としては非常に助かる
・エクセキューション:マスタリーレベル50で解放。二刀流のWPS。「両手の剣を渾身の力で振り下ろす」モーションで、単体に対し非常に高い武器参照ダメージと実数冷気ダメージを与え、ヘルス量から割合でダメージまで与えるタイマン用の切り札
・二ダラのヒドゥンハンド:マスタリーレベル10で解放。大ばさみ、クイックカット、ホワーリングデスを対象に毒酸ダメージと総合速度低下を追加、さらに刺突を酸へと変換する。特殊なスキルで、使い方を誤ると火力が落ちる危険性もあるスキル。二刀サバターの場合、刺突から得意属性への変換がさほど高くない場合は刺突だろうが酸だろうがダメージは大して変わらないので、総合速度低下と追加分の毒酸ダメージを変換するという目的で取る選択肢もある。なお、刺突から酸に変換された分に関しては、一度変換した属性は再変換出来ないため、刺突→酸→ネクオルパワーで火炎と冷気に変換、とはいかない
各種WPSは大体20%前後なので4つ合計で約80%。よって20%程度は変化せずに通常攻撃がそのまま出る計算になる。
通常攻撃扱いのファイアストライクにさらにWPSが乗るために強力なのは事実であり、ポイントを振った分だけ威力も発動率も増すが、威力はさておき発動率はすぐに伸びが悪くなるのでその分の費用対効果があるかは怪しいところ。
装備のブースト分で5も確保できれは各20%の発動率を確保できるので十分と思われる。
というか、正直WPSにポイント振るぐらいならデュアルブレイズに振って物理耐性を稼いで生存性を上げたほうがいいというのが個人的な考え。
エクセキューションだけはダメージの伸びが凄まじいので、余裕がある時は振り込んでもいいかもしれない。