ヨミハラ、メインストリート近辺。
今ここは突如として街を襲った化け物による混乱から逃げてきた人々の臨時の避難場所となっていた。
その中で誘導役をしていた1人である扇舟が、巨大な緑の化け物がいると言われた方向から来た避難者たちを案内しつつポツリと呟く。
「タバサちゃん……」
名を呼んだ彼女は、その化け物の元へと向かい、今も戦っているのだろう。そう思うと不安が押し寄せてくる。
タバサは「絶対に来るな」と念を押した。毒手を持ち、「対魔忍有数の格闘術の使い手」と言われていた全盛期ならまだしも、今の自分は行ったところで間違いなく足手まといになる。そう思った扇舟は自分にできることをしようと、町内会長である静流と協力して避難者の誘導役を買って出ていた。
「彼女が心配?」
と、そこで静流が声をかけてきた。その問いに対し、扇舟は素直に頷く。
「……あの子は私なんかと比べ物にならないほどに強い。それはわかってる。それに、この街を襲っているという敵に対しても何かを知ってる様子だった。でも……」
「おそらく、彼女がいた世界の化け物なんでしょうね。なら、彼女に任せるのが正解だと思うわ。ふうまくんから保護者役を任された以上、あなたが心配するのもわかるけど、ここは彼女を信じるべきよ」
ごもっともな指摘だと、扇舟は反論せずにただ黙っただけだった。
タバサに命じられた通り、あの後扇舟は静流を起こし、街に異変が起きている可能性を伝えていた。
初めは半信半疑の静流だったが、まだ夜明け前の時間であるにも関わらずに街が騒がしくなりつつある様子から、異常が起きていることはおそらく間違いないとの結論に至った。
それから情報を集めようとしているうちに「街の外れに巨大な化け物がいる」「ゾンビが溢れている」と逃げてきた住民たちと遭遇。詳しい話を聞きながら、人の数が多くなっても身を寄せられる場所として、開けた箇所であるメインストリート近辺をひとまずの避難場所としたのだった。
「静流、何が起こってるの?」
そこで聞こえてきた声に、彼女は声の主へと視線を移した。そこにいたのは3人組。扇舟も静流同様にそうしたところで、危うく声が出そうになる。
声をかけてきた女は井河アサギと瓜二つの人物であった。いや、同一人物と言っていいほどに似ている。
クローンアサギ。その名の通り、とある巨大組織によってアサギの細胞から作り出されたクローンだ。扇舟同様、紆余曲折あった末にこの街にたどり着き、今は探偵業をしている。
「あら、探偵さん。良いところに来てくれたわ。頼みがあるの」
そして今静流が言ったように、街の人には彼女を「探偵」と呼ぶ者が多かった。
アサギと血縁関係にある扇舟は、味龍に来た彼女を見かけて大いに驚いたものだった。しかし店長代理である春桃に聞いても「あいつはこの街の探偵だ」としか言わなかったので、おそらく別人、それこそ自分同様何かがあってこの街に流れ着いたのだろうと深くは聞かずにいた。
それでも自分の姪と同じ顔を持つ人物を目にするとどうしても反応してしまう。そんな扇舟をチラリとだけ見た後で、クローンアサギは再び静流へと視線を戻していた。
「頼み? 依頼料を払ってくれるなら、喜んで」
「この街の危機……かはわからないけど、異変が起きているのは確かだからね。町内会長として何とかしないといけないから、勿論支払うわ。……ところで、いつもよりメンツが少ないみたいだけど?」
ハァ、とアサギがひとつため息をこぼす。
「時間が時間だからね。ミリアムもフランシスも爆睡中。私1人で来てもよかったんだけど、建物の振動で亜希も目が覚めたみたいで、あとナーサラもなぜか起きてたからとりあえず連れてきたの」
クローンアサギと一緒について来たのは対魔忍にしてふうま一族の剣士でもあるふうま亜希と、別次元から現れたという謎の生命体少女のナーサラの2人だけだった。
「いつもよりメンツが少ない」とは言ったが、静流は3人共腕利きであることはよくわかっている。よって、依頼を渋るという真似はしなかった。
「まあ3人でも大丈夫だと思うからお願いするわ。……逃げてきた人たちが言うには、街にゾンビが溢れているというの。本来ならこの街を取り仕切るノマドに対策をお願いしたいところだけど、まだ指揮系統が混乱しているから、フットワークの軽いあなた達に優先的に動いてもらいたくて」
「ゾンビ……? 死霊卿……とかいうやつ?」
「多分違うと思うわ。彼女……扇舟さんの同居人がちょっとわけありで、そいつらの正体を知ってるらしいの。確か……イセ……なんて言ったかしら?」
「イセリアル。そう言ったと思う」
静流とアサギの会話を途中で話を振られた扇舟がそう言ったところで、ぼーっとした様子だったナーサラが急に扇舟に目を向けた。
「イセリアル。それ、本当?」
「え? ええ、おそらく……」
「ナーサラちゃん、知ってるの?」
亜希が尋ねる。が、その問に対して答えず、ナーサラはアサギに言った。
「アサギ、頼みがある。とても重要。静流の依頼を終わらせてからで構わない。イセリアルという言葉を知っていた人、どうしても会いたい」
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「イングリッド様!」
リーナの声のテンションが一気に上がる。その様子に、今駆けつけたのは間違いなくリーナにとって尊敬する相手、同時に強力な味方であるとタバサは推測していた。
(あのイセリアルビヒモスの突進を止めるほどの勢いのある炎……。おそらくイーサーファイアとぶつかってもそれすら飲み込むほどの威力と考えられる。……味龍で数度見かけたときから思っていたけど、実力は間違いなく本物、というわけか)
タバサはそんな風に考えを巡らせていた。そうしながらも、攻撃の手は緩めない。
自分とリーナの間に割って入る形になった1匹目のイセリアルビヒモスは休むこと無く滅多斬りにし、先程召喚したネメシスとブレイドスピリットも呼び戻して挟み撃ちを仕掛けていた。
やがてその相手の姿勢が崩れたと分かると、
イングリッドが魔界の炎で吹き飛ばした2匹目は、大きなダメージを受けながらもまだ健在のようだった。フラフラと立ち上がり、再び駆け出して突進する。
だが今度の狙いは自分を攻撃した相手、イングリッドに切り替えたようだった。
「ほう。私が放った魔界の炎を受けてなお立ち上がり、しかも襲いかかってくるか。よかろう、相手をしてやろう」
しかしイングリッドは構えない。先程のような炎を放つ様子もない。ビヒモスが迫ってきてタックルが浴びせられる、その瞬間。
「ハアッ!」
すれ違いざまに気合いと共に魔剣を一閃。それだけで、相手の上半身と下半身は両断されていた。
「さ、さすがです! イングリッド様!」
リーナが称賛の声を上げる。それに対して小さく笑ってから、イングリッドはリーナに声をかけた。
「遅くなった。状況確認で動くに動けなくてな。しかし、周囲の避難完了の報告とお前が仕掛けたという情報を聞いたので駆けつけた。……それにしても、らしくないな。お前がその姿になったにも関わらず遅れと取るとは」
「も、申し訳ありません……」
まだ百花繚嵐状態のリーナがうなだれる。
次にイングリッドは、自身の右腕と呼ばれる者と共闘していた相手へと視線を移した。
「そしてお前が共同戦線を張っていた、この敵どもに詳しいという奴か」
「タバサ。……詳しい説明と仮面を取っての自己紹介は後でする。今はイセリアルセンチネル……このデカブツを倒すのに協力して欲しい」
「言われるまでもない。むしろこちらから願い出たいぐらいだ。こんなやつがいてはヨミハラが落ち着かないからな。……リーナ、いけるか?」
まだ足元が若干おぼつかない感じがあったが、頭を振り、リーナは立ち上がっていた。
「勿論です! 百花繚嵐リーナ、先程の汚名返上のためにも剣を振るわせていただきます!」
やや気負いすぎかもしれないが、それでもまだまだ戦えるのは確かなようだ。イングリッドは小さく頷いて了承した。
「それで、どこを狙えばいい?」
「先端のクリスタルを破壊したいところだけど、先に狙ってもおそらく再生される。まずは足を斬って倒して弱らせ、それから袋叩きがいいと思う」
イセリアルセンチネルはまるで巨大な樹木のように地に根を張っている。まずはそこを断つことをタバサは提案した。
「了解した。行くぞ、魔界の炎よ!」
イングリッドが魔剣ダークフレイムに炎を纏って一気に斬りかかる。一太刀でも浴びれば骨すら残さず燃やし尽くす、とまで言われる一撃だ。絶対の自信を持って放った攻撃だったが――。
「む……」
確実な手応えこそあったものの、それだけで切断、とはいかなかった。でかい図体は伊達ではないらしい。
しかし裏を返せばでかいだけ、とも言える。相手はこの場所から動く気配はない。というより、おそらく動けないのだろう。
ならば続けてもう一撃と動こうとしたところで。
「イングリッド様! 攻撃が来ます!」
リーナの声に反応して見上げると、先端付近の結晶部分からビーム状のイーサーエネルギーが迫ってくるのが見える。
「フン、その程度!」
しかし魔界騎士の彼女にとってはそんなものは驚異でもなんでもなかった。薙ぎ払うようにダークフレイムを一振り。それだけであっさりとかき消してしまう。
「さすが。これなら大して時間もかからず倒せそう。つまるところ、こいつが厄介なのって取り巻きが多いことだから」
言いつつ、タバサも持ち前の火力をフルで叩き込んでいた。
相手の足元にテルミットマインを設置。呼び出しているペットにも襲わせ、時折
「なるほど、手数勝負か。では私もそれに倣うとしよう」
言いつつ、ここまで一撃に重みをおいていたイングリッドは鮮やかな剣技の連続攻撃に切り替えた。それでも魔界の炎を纏った攻撃だ。太い根っこのように見えたデカブツの脚の部分はみるみるうちに傷だらけとなっていく。
「よーし、私も負けてられな……うわあっ!?」
そしてリーナも負けじと、更に攻撃の勢いを増そうとした時。イセリアルセンチネルは先程見せたイーサーの衝撃波を放ってきた。
「これは……さっきの攻撃か……! イングリッド様、大丈夫ですか!?」
「む……。少しめまいがするが……。なるほど、お前はこの攻撃にやられた、というわけか」
「お、お恥ずかしながら……」
「でも今度は大丈夫そうだね」
魔界騎士2人にはそれなりに効果があったようではあったが、タバサは全く効いていないようであった。攻撃の手を休めることなくそう問いかけてくる。
「一度受けてある程度は慣れたからな! このぐらいなら……戦えるぞ!」
「よかった。じゃああれ、お願いしてもいい?」
タバサが顎でしゃくった先。少し前の状況と同じようにイセリアルビヒモスが生み出されようとしていた。
「さっきはあいつにやられかけていたんだったか。良かったな、リーナ。汚名返上の機会だ」
そしてイングリッドにまでこう畳み掛けられては、もう断ることもできない。
「うぅ……。デカブツ処理に加わりたかったけど……。イングリッド様がそう仰るなら! 汚名返上! てやああーっ!」
貧乏くじと思わなくもない。が、尊敬する主に言われたのだから、それこそが今やるべきことだと思考を切り替える。
花びらを舞わせつつ、リーナは2人の援護のため、イセリアルビヒモスへと飛びかかった。
マルマスタックルほんと悪質
シャドウボルト
ネックスに付与されたアイテムスキルで、攻撃時15%の確率で発動して0.5秒間隔で発射可能な赤い球体を放つ。
15%の武器ダメージと冷気・生命力ダメージを与え、ダメージの20%をヘルスに変換、さらに命中した相手のOAを80低下させる効果を持つ。
ツインファングに良く似た性能だが、貫通しない点とヘルス変換率が低い点、ついでに見えにくい点から劣化ツインファングと言った具合。
ただ敵のOA低下は実質こちらのDA増加と同義なので、回避率の底上げや敵からのクリティカル回避には役に立つかもしれない。
言い方は悪いが所詮おまけのアイテムスキルと考えればまあそこそこの性能と思えなくもない。
ヒーリングライト
オルタスに付与されたアイテムスキルで、攻撃時15%の確率で発動し、装備者の最大ヘルス量の5%分+固定値で800のヘルスを回復する。
リチャージが3.8秒と長めなのであまり当てにはできないが回復量自体はそれなり。
分類的には純粋な回復に当たるが、攻撃時発動で制御出来ないのでヘルス変換によるヘルス維持の補助感覚で使う形になる。
このアイテムスキルの実質上位互換としては星座スキルの「ドライアドの祝福」が当たると思われる。
ヘルス再生
ヘルスを自然に回復させる能力。数値が低いうちは殆どあてにできないが、大量に稼げると生存性を高める方法として機能するようになる。
特に武器参照のスキルが無いためにヘルス変換の恩恵を受けられないビルドの場合、これを稼ぐことで生存性の問題を解決することも可能。
秒間に数千レベルのヘルス再生を積んだビルドのヘルスバーの戻り方は見ていて凄まじいものがある。
装備やスキルで稼ぐ他に、天界の力の「ビヒモス」や「生命の樹」を使うのが一般的。
なおバフスキルの中にはヘルス再生にマイナスペナルティがかかるものもあり、合計した結果マイナスになってしまった場合はそのスキルが発動中はヘルスが減り続けることになったりする。
ヘルス回復
その名の通りヘルスを回復する能力。広義としてはヘルス変換やヘルス再生も含まれそうだが、ここではヘルスを直接回復する能力してカテゴリ分けする。
全キャラ共通の自発回復手段としてポーション(厳密には治療薬)がある。使用すると最大ヘルス量の25%+固定値で800のヘルス回復。その後25%の持続的回復。
非常に便利であるが、代わりに12秒という決して短くないリチャージ時間が設定されており、ポーションがぶ飲みゴリ押しがこのゲームでは不可能となっている。
加えてこれ以外の自発回復手段は、主にニューマチックバーストのようなマスタリーのスキル、あるいはアイテムスキルぐらいしか無い。
この内マスタリースキルの場合は他にバフ効果も含まれているためにそれを切らさないことが最優先であり、回復は副次的なものになる。
アイテムスキルの場合はポーション同様リチャージが長めな上に、使えるものがかなり限られてしまう。
その他、攻撃時発動、被打時発動時にヘルス回復をするアイテムスキルや星座スキル等もあるが、制御するのは難しいので完全に狙っての使用は実質不可能と言ってもいい。ヘルス減少時発動もあるが、保険という位置づけになると思われる。
よって、任意のタイミングで確実に使用できる自発回復はポーションのみという状態であり、最後の頼みの綱となる。
そのためになるべくポーションを使わないで生存性を確保できるよう、ヘルス変換やヘルス再生、防御スキル等を活用する必要がある。
……まあビルド例の中にはとにかく受けるダメージを減らすことに全てを捧げ、ヘルス変換もヘルス再生も捨ててポーションによる回復だけでなんとかするというとんでもないビルドも考案されてはいるようだが。