“乗っ取られ”の少女、対魔忍世界に迷い込む   作:天木武

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Act21 ……これはヤバい。冗談抜きで

 闇の宮殿の中を、リーナと静流とタバサ、そして扇舟が歩いていた。

 

 あの後、リーナはイングリッドの命令通りに静流を呼びに行っていた。そこで「タバサから話を聞いていて、それが終わったから迎えに来て欲しい」と言ったところ、小太郎から保護者役の代理を任されているということで扇舟もついて行きたいという話になったのだ。

 

 自ら言い出したこととはいえ、ノマドの本部に足を踏み入れることに対して扇舟は非常に緊張していた。しかも大幹部のイングリッドと直接顔を合わせることにもなる。もしかしたら勝手についてきたことを咎められるかもしれない。

 そんな風に思っていたのだが、イングリッドは特に何も言わなかった。そして静流と何か事務的な話を始め、その間にてくてくと近づいてきたタバサは普段どおり声をかけてきたのだ。

 

「扇舟、言ったこと守ってくれてありがとう」

「タバサちゃん……。良かった、無事で……」

 

 そう言ってタバサを抱きしめる扇舟を見て、タバサのあの無謀とも言える戦い方を教えてあげたほうがいいかと思ったリーナだったが、心配事を増やすだけかと思いとどまった。

 

 そんな具合で、今は見送りも兼ねて闇の宮殿の入り口までリーナが案内している形だ。

 ちなみに、タバサは来る時は被っていた仮面を外している。あの時はイングリッドと2人きりだったので配慮をされたのだが、今回は他のメンツを見ても特に不自然ではないから大丈夫だろうという静流の判断からだった。

 

「ねえ、リーナ」

 

 ふと、背後のタバサからリーナに声がかかった。

 

「なんだ?」

「さっきイングリッドとドロレスと話してたんだけど……数日前にふうまがこの街に来てたって本当?」

「数日前……ああ! セルバンテスじいちゃんのあれか! 確かに来てたぞ。それがどうかしたか?」

「……ふうま、ヨミハラに来たら味龍に顔を出すって言ったのに出してくれなかった」

 

 明らかに声のトーンが落ち込んでいるとわかった。「あー……」とリーナは記憶を呼び起こそうとする。

 

「2人の話だとふうまが手伝ったイベント中に予想外のトラブルが起きて、それでヨミハラを出る時は慌ただしかったとかっても聞いたけど」

「そう、それだ! あの時はゲストに踊りの神とか猫の神とか結婚の神とか結構錚々たるメンツを呼んでたんだ。で、盛り上がったせいで神様たちが悪ノリしちゃって。その場にいないはずの人たちを転移させてきたりしたもんだから、そのせいで帰る時のあいつはすごくバタバタしてたんだ」

 

 リーナの説明を聞いて数度瞬きをしたタバサだったが、ややあって「……は?」と間の抜けた声をこぼしていた。

 

「……この世界ってそんな変な神様いるの?」

「お前の世界だって、さっき話してくれた……オレロンだっけ、それ以外にもいろんな神様いるんじゃないのか?」

「それはいるけど……。結婚は分かるにしても、猫とか踊りとかはさすがに。獣の神ぐらいの括りで、猫ってところまで細分化はされてない」

 

 そこに静流が「ちょっといいかしら?」と口を挟んできた。

 

「この世界、というよりこの国である日本には『八百万(やおよろず)の神』と呼ばれる言葉が昔からあってね。どんなものにも神様は宿る、という考え方をすることもあるの。その結果、細分化されたいろんな神様が生まれた、というわけ。……もっとも、あの時いた踊りの神はそこに該当するけど、結婚の神と猫の神は日本由来の八百万の神では無いはずだけれどね」

「じゃあこの世界自体にいろんな神様がいるってことか。へぇ……」

 

 さすがは五車学園で教鞭をとることもある静流といったところか。その博識さにタバサならずともリーナも感嘆の声をこぼしていた。

 

「まあそういうわけで、あの時のふうまはトラブっててしょうがなかったんだと思う。というか、あの時に頼んだのは私だからなんか責任も感じてる。すまん!」

「いや、まあそんな怒ってるわけでもないし、リーナに謝られるのもちょっと申し訳ないし……。この後ふうま本人に聞いてみるよ。……さっきイングリッドと話してるのがチラッと聞こえたんだけど、私って五車に戻ることになるんでしょ、静流?」

 

 さらっとそう言われたタバサの言葉に、扇舟が「えっ……」と明らかに動揺した声をこぼしていた。それを耳にした上で、静流は彼女の問を肯定する。

 

「聞こえちゃってたかしら。……ええ、悪いけど、そうなるわね。正体不明のイセリアルという存在は驚異となりうる可能性もある。だから、詳しいあなたには直接説明してもらいたいし」

「この街にもっといたかったんだけど……。まあしょうがないか」

「なるべく早く戻れるように便宜を図るわ。ふうまくんも口添えに協力してくれると思う。……だから扇舟さん、そんな落ち込んだ顔はしないで」

 

 不意に声をかけられ、扇舟は再び動揺したように静流を見つめる。

 

「……私、そんなに落ち込んだ顔してた?」

「してた」

 

 タバサが即答。次いで静流も苦笑しつつ口を開く。

 

「それでしてないというのは無理があるわね。タバサちゃんと仲良く同居生活してたところを邪魔するようで申し訳ないけど、理解してもらえると助かるわ」

「別に今生の別れじゃないんだから、そこまで気にすることでもないと思うんだけど……」

「……そういうタバサちゃんだってふうまくんがお店に来てくれなかったって結構気にしてたじゃない」

 

 扇舟の思わぬ反撃にタバサの言葉が詰まった。が、ここで前を歩いていたリーナが大きく溜息をこぼしながら振り返る。

 

「あのなあ。お前たち子供じゃないんだからそのぐらいのことでいちいち揉めるなよ……」

「……リーナに言われたのはちょっとショック」

「なんだと! おいタバサ! 私を何だと思ってる!」

 

 結局言った当人も五十歩百歩。「馬鹿って言う方が馬鹿だもん」ばりのやり取りである。これには、唯一巻き込まれていない静流は苦笑を浮かべるしかなかった。

 

 そんなしょうもないなやり取りをしているうちに宮殿の入り口が近づいてきた。

 

「とりあえず見送りで私は入り口までだ。後は静流もいるし、迷うこともないだろう」

「そうね。わざわざありがとうリーナ。……って、そうだ、忘れるところだった。タバサちゃんに会いたいって人がいるんだった」

 

 思い出したように静流がそう言うと、タバサは不思議そうに首を捻っていた。

 

「会いたい? 私に? どうして?」

「さあ……。でも、あなたが異世界人だという説明をしていないのにイセリアルという単語に反応していた。……もしかしたら、何か知っているんじゃないかしら」

 

 今度の反応はより明確だった。無表情気味の彼女の目が細められ、眉がしかめられる。

 

「説明無しで私以外にイセリアルという名称を知っている人がいる……? どういうこと? 一体誰なの、その人?」

「探偵さん……というか、あの人が連れてた小さい子よね。確か……ナーサラ?」

 

 扇舟の問いかけに静流が頷く。

 

「そうね。会えばわかるけど、不思議な子よ。さっき私が依頼した件を探偵と一緒に完了報告に来たから、今は彼女の事務所にいると思うわ。できれば私はお店に戻って状況を確認したいから、タバサちゃんを連れて行ってほしいんだけど……。扇舟さん、場所わかる?」

「ええっと……。正直なところ自信が無いわね……」

 

 それならば店のことを後回しにして自分がついていくしか無いだろう。静流がそう考えた、その時。

 

「よし。なら私が案内しよう。ヨミハラを日々パトロールしている私なら地理はバッチリだし、探偵の事務所にも何度か行ったことがあるからな」

 

 そう言い出したのはリーナだった。

 

「あら、お願いしてもいいの?」

「ああ。……それに現時点で街の様子がどうなってるかをこの目で見たいという思いもある」

 

 ポンコツ気味なのは事実だが、街を守る魔界騎士としての誇りがあるのも確かなようだ。静流はその好意に甘えることにした。

 

「じゃあお願いするわ、魔界騎士さん」

「よし、任せておけ。一応イングリッド様に言伝するから、入り口を出たところでちょっと待っててくれ」

 

 入り口を出ると、リーナは近くにいた兵士に何かを伝えたようだった。相手が了承したことを確認すると、再び前を歩き出す。

 

「それでは行くか。静流、この2人を預かるぞ」

「ええ、よろしくね」

 

 

 

---

 

 日々パトロールしている、というだけあって、リーナは迷うことなくヨミハラの街の中、少し外れた道も気にせず進んでいた。

 本来ならタチの悪い連中がたむろしていたりする場所であるが、異変が起きた後ということと、時間的には夜が明けて早朝の時間帯ということもあってか、今日はそういった輩は全く見当たらなかった。

 

 しかし、時折そんな連中よりさらに悪いものが目に入ることもあった。ゾンビ化した上で命を落としたと思われる死体だ。

 

「……これは街の大掃除が必要かもしれないな」

 

 ポツリとリーナが呟く。無法都市故に流血沙汰は日常茶飯事、死人が出るのも当たり前というヨミハラだが、これだけ街が荒れてしまってはそんなことを言っている場合ではない。

 

「ゾンビ連中自体はほぼ鎮圧されているようだな。戦闘の様子は感じられない」

「代わりに衛兵みたいな人たちが多くいるっぽいけどね。あれもリーナのところの人?」

 

 裏路地を抜けて少し大きめの道に入ったところ。銃を手にした3名ほどの兵士の姿が目に入る。普段は見られない光景だ。

 相手は咄嗟に身構えようとしたが、その中にリーナがいると分かると緊張を解いたようだった。

 

「ああ。うちの兵隊だ。ご苦労様。この辺りは鎮圧済みか?」

「はい。化け物共との戦闘自体は全エリアで終わったようです。ただ、この混乱の影響か、武装難民の一部が暴徒化しているという情報もありまして……」

「やれやれだな……。タバサ、余計な心配かもしれないが帰る時は気をつけろよ」

「ん。わかった」

 

 労いにリーナが軽く手を上げ、それに答える形で兵士は頭を下げたのを見てその場を後にする。

 

「実は少し遠回りしている。街を見たかったからな、すまなかった。探偵の事務所はすぐそこだ」

「別にいいよ。こっちは案内してもらってる身だし」

 

 そして探偵の事務所の前へと到着。ドアをノックしようとするリーナを前にして、なぜか扇舟が緊張気味にひとつ深呼吸をしていた。

 

「どうしたの?」

 

 そんな様子に、タバサが声をかける。

 

「いえ、ちょっと、ね。……ああ、タバサちゃんがバイトに入ってから、もしかしてここの人たちまだお店に来たことがなかったか。探偵さんの姿を見たら驚くと思うから心の準備をしておいたほうがいいと思うわ」

「驚く? んー、わかった」

 

 直後、ドアが開いた。住人とリーナがなにやら話した後で、住人が顔を出して連れを確認する。その顔を見て、扇舟の予想通りタバサは「あ」と声をこぼしていた。

 

「わかった? 驚くって言った意味」

「ん。あれはパッと見完全にアサギだ。でもちゃんと見ないと判断できないけど、多分別人っぽい」

 

 さすが本質を見抜く力は抜群だ、と扇舟は内心でタバサを称賛する。これなら特に問題も起きないだろう。そう思い、リーナの手招きに応じて事務所の中へと足を踏み入れた。

 

 事務所の中には先程扇舟が会った3人がいた。本当はあと2人ほど居候しているらしいが、まだ寝ているらしい。奥でものすごいいびきが響いているので、間違いないだろう。

 

「奥から聞こえてくるフランシスのいびきは気にしないで。昨日も散々飲んで寝て、深夜の異変にも気づかず爆睡って有様だから。そしてミリアムもそれでも起きてこないし」

「あー……。想像できる」

 

 探偵の説明に対し、呆れ気味にリーナが言った。

 

「とにかくまず自己紹介しておくわ。私は探偵……まあ、アサギと呼ぶ人もいるわね」

 

 タバサが「ん?」と反応する。

 

「確かに中身に似てる部分もある。でも別人だということはわかる。それでもアサギなの?」

 

 聞きにくいであろうことをズバッと言ってしまった。まずいと思って扇舟がフォローする。

 

「ごめんなさい。さっき依頼完了で静流のところに来たときに話したと思うけど、彼女、そういうデリケートな部分に鈍いというか、少し変わってるというか……」

「異世界人だから、ね。まあいいわ。気にしてない。私のことは探偵でもアサギでも、好きに呼べばいいから」

「ん。わかった」

「次にふうま亜希。対魔忍よ」

 

 その探偵の紹介にタバサはまた何か思うところがあったようだ。

 

「ふうま……。うん、確かにふうまに近い雰囲気があるかも」

「おお、さっき静流に君のことを話された時はちょっと眉唾だったけど、探偵と私の内面を見通せるとは本物っぽいか。まあふうまと言っても私は分家だから小太郎とそこまで近い家柄でもないけどね。……さて、じゃあ最後。今回君を呼んだ本命、ナーサラちゃんに対してはどうかな?」

 

 そう言われて最後の1人、小さな女の子にしか見えないナーサラが紹介された。

 

「ナーサラ。あなた、イセリアルって言った人?」

 

 しかしナーサラがタバサにその言葉を投げかけたと同時。タバサは目を見開き動きが完全にフリーズしてしまっていた。

 

「……ああ、これは本当に本質を見抜く力を持ってるのね」

 

 ポツリと、クローンアサギがそう呟く。

 

「……これはヤバい。冗談抜きで。……ナーサラって言った? あなた、一体何者なの……?」




コンポーネント

装備品に取り付けて強化できるアイテム。コンポネとか略されたりする。箇所によって取り付けられるものが異なる。
各種ステータスアップの他、種類によってはアイテムスキルが付いているものもある。
この手のゲームでよく見られるファイアボルトみたいなものは武器に取り付けられるコンポネで使用が可能。
強力なコンポネのアイテムスキルは最終形でもメインスキルとして使われるものさえある。
要求レベルが存在しており、取り付けられたアイテムよりも取り付けたコンポネの方が要求レベルが高い場合はそこまで引き上げられる。
コンポネ自体を共有倉庫に預けて他キャラに渡すことも可能だが、上記の理由から育成したい低レベルのキャラに強力なコンポネをつけたアイテムを装備させる、ということは不可能。
取り外すことも出来はするが、発明家というNPCを利用しなければならず、取り外す際にアイテムかコンポネどちらかが破壊されることになるので装着は計画的に。
一部強力なコンポネはドロップしない代わりに設計図が存在し、鍛冶屋にクラフトしてもらうことでしか入手ができない。
その際に「ウグデンブルーム」という花の形状のアイテムを大量に要求されるため、「お花摘み」と称してウグデンブルームを探し回る乗っ取られも少なくない。
この辺の要素もグリドンで時間を食われる原因のひとつとも言える。
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