「うわああああああん! ダバザアアアアア! どうじでも行っじゃうのがああああ!?」
クローンアサギの探偵事務所から出たところでリーナと別れ、寝起きしていた宿泊所に戻って軽く仮眠を取った後、タバサと扇舟は味龍へと向かっていた。味龍のメンバーは皆無事だったが、昨夜の異変についてはなんとなく知っていた、という程度だった。タバサが大雑把に状況を説明し、その上で一旦この街を出なければいけないことを告げていた。
そこで春桃がヨミハラを出ていくことをタバサに数度確認を取った後、突然泣き出したのだった。
「……なんで春桃がこんなことになってるの?」
泣き付かれた当人のタバサは困った様子で他のバイト仲間たちに救いの目を向ける。
「春桃さんのモットーは『店で働く奴は皆家族!』らしくて……」
葉月が困った様子でそう答える。
「だとしても大げさすぎると思う。扇舟にも言ったけど、今生の別れじゃないんだから」
「でもぉ……」
「でもじゃない。……まあいいや。とりあえず春桃は落ち着くまで置いておくとして。また戻ってくるつもりでいるけど、短い期間で抜けることになっちゃったのは申し訳なく思ってる。特にトラジロー」
「ん? なんでオレなんだ?」
「折角出前のやり方覚えてトラジローの負担減らせると思ったのにできなくなった」
そんなことか、と言いたげにトラジローがひとつ鼻を鳴らす。
「別にお前が気にすることじゃないのだ。また戻ってきたときにやってくれればいいぞ。あと扇舟の世話はオレに任せるのだ」
「わ、私の世話? 私のほうがトラジローちゃんよりかなり年上のはずなんだけど……」
「年だけ上でもうんこなのだ! どうせタバサがいなくなったのが原因で、明日といわず今日この後から凡ミス連発するのが目に見えてるのだ!」
反論しようと思った扇舟だったが、どうも否定しきれない予感がしてしまった。思わず言葉に詰まる。
「まあ店のことは心配しなくていいから、お前のやるべきことをやればいいのだ。……ああ、対魔忍のところに行くって話だったはずだから、天音と災禍にはよろしく言っておいてほしいのだ。もしあいつらが何か困ったことがあったら、連絡をくれればゆーきゅーを使って駆けつけてやるぞ」
「ん。わかった。伝えておく。じゃあ……」
そのまま最後の挨拶に移ろうかと思ったタバサだったが。
「ちょっと待てタバサ。……ふう、やっと落ち着いた。お前に渡すものがあるんだ」
ようやく平常心を取り戻した春桃がそう言うと、店の奥へと小走りで入っていった。それから封筒のようなものを手に戻ってきて、タバサへと渡す。
「これは……?」
「これまでのバイト代だ。お前、賄いよく食うから結構引いちゃってるけど……。でも小遣いとしては十分だろうから、受け取っておいてくれ。無駄遣いはするなよ」
「バイト代……。うん、ありがとう。大切に使う」
さて、とタバサは改めて味龍店員全員へと向き直った。
「じゃあ、さっきも言ったけど戻ってくるつもりではいるから。また、その時に」
「体に気をつけてね、タバサちゃん」
「なるべく早く戻ってこいよ!」
「待ってますからね!」
「タバタバがいない間、私に任せるヨー」
「じゃあまたな、なのだ」
扇舟、春桃、葉月、シャオレイ、トラジローの順に投げかけられた言葉を受け取りながら、タバサは味龍を後にするのだった。
---
ヨミハラから五車への道中は静流と一緒だった。一応ヨミハラで起きた重大事件ということもあり、彼女も直接報告を受けたいと帰還命令が出ていたらしい。
一方で同じく対魔忍のはずの亜希は特になにもないようだ。当人も「フリーみたいなもの」と言っていたのはそういうことか、とタバサは勝手に納得することにした。
リーナが注意を喚起していた武装難民とは衝突せずに済んだ。静流が前もって話をつけていたのかもしれない。帰りのルートで遭遇することはなかった。
そのまままえさき市へと出て、さらに乗り換えて五車町へ。ここを離れてから1ヶ月も経っていないはずなのに懐かしい光景だ、とタバサは感じていた。
「一応帰還命令ということだから、まずまっすぐ五車学園に行くわね。そのまま校長室へ直行、報告をすませるわ」
「ん。わかった」
校長室にはアサギと紫が待っていた。トップ3のうちの1人であるさくらは諸用で外しているようだ。
紫は立ちっぱなしだったが、アサギと向かい合う形で静流とタバサが腰掛けるように促され、アサギの労いの言葉から報告は始まった。まず静流が事務的な報告をいくつか進める。特に話すことのないタバサは、少し前に瓜二つの顔を見かけた相手をただぼーっと見つめていた。
「どうかした、タバサ? 私の顔をずっと見て」
と、話が一段落ついたのか、アサギがそんな風に尋ねてくる。
「ん。どうってわけじゃないんだけど、やっぱり別人なんだなって」
「別人? ……ああ、会ったのね、ヨミハラで。私そっくりの人に」
少し声に硬さが入る。当然タバサはそれを感じ取り、同時に気にかけているという心の中も読み解いていた。
「会ったよ。顔は似てても中身は別人。でも、こっちのアサギ同様、苦労してるなあって思った。居候が特徴的すぎるし、何よりお金がないんだって」
「それはまた……。私とは別な意味で苦労してるのね。……それで、あなたから見て、彼女はどう映った?」
「ヨミハラには珍しい裏表なくいい人だと思う。だから居候も多いんだろうし。……というか、亜希から聞いてないの? 監視のために張り付けてたんだと思ったけど」
アサギが静流に目配せをし、静流は小さく首を横に振った。「自分は何も言っていない」という意味だろう。
「その亜希の監視って話、誰から聞いたの?」
「誰からも。ただ、あっちのアサギと亜希の雰囲気からそうなんじゃないかなって。当人たちは口では否定してたから訳ありっぽいし、それに互いに了承し合った上でかなっては思った」
なるほど、やはり鋭い、とアサギは心の中でタバサを称賛する。本当に思考を読み取れるのではないかとさえ思えてくる。
事実、アサギは亜希にクローンアサギの監視、さらには後の驚異になる可能性があるという判断から、場合によっては排除まで考えていたこともあった。しかし亜希の懸命の説得と、彼女が提示した「試験」にクローンアサギが合格したことで、今は考えを改めている。
「その件に関しては大体正解よ。……やはり怖いわね。あなたを敵に回したくない」
「冗談でしょ。あなたが本気になったら間違いなく私より強いのに」
「そういう直接的な意味じゃないのだけど……。まあいいわ。素直に称賛されたと受け取っておくから。……そんなあなたを敵に回してる連中の話に移りたいところなんだけれど、その前に個人的に少し聞きたいことがあって」
自分を敵に回している連中とは、言うまでもなくイセリアルのことだとわかった。そこでようやく本題か、と思ったがまだらしい。それ以上にタバサとしてはアサギの戸惑っているような心のほうが気になっていた。
「何?」
「私の伯母……扇舟のことよ。一緒に過ごしていたんですって?」
「ヨミハラにいるとなると、ふうまがいつも近くにいられるわけじゃないから代わりの保護者ってことみたい。……話は大体知ってる。本人が告白してくれた。かつてふうまの父親を手にかけたとか、この対魔忍の里を攻めたとか。でもずっと母親に縛られ続けていたっても言っていた。だからアサギも温情をかけて追放だけで済ませたんじゃないの?」
「……そう、あなたにそこまで話してるのか。……ええ、今言ったとおり。扇舟の件は彼女の母親である
ひとつ息を吐いてから、アサギは続けた。
「報告を受けた当初はふうまくんは何を考えてるのかとも思ったけど……。彼の判断は正しかったみたいね。命の恩人でもあるあなたを預けることが、彼女のためになる……」
「自分の子供みたいに大切に思ってるって言われた。本当は子供が欲しかったけどそれが叶わなかったからって」
「子供……。あの人がそこまで……」
「でも子供っていうのは守られるべき存在だと思うから、私としては違うかなって。私は扇舟のことは友達だと思ってるよ」
友達、という言葉はアサギにとって予想外だったらしい。キョトンしたようにタバサを見つめた後、フフッと小さく笑った。
「……友達か。いいかもしれないわね。あの人にとってはそれすらも初めての経験でしょうし。……そんな友達との同居生活を邪魔してしまったのは少しすまないと思ってる。でも、あなたがいた世界の化け物……イセリアルが現れたとなると、詳しいであろうあなたから話を聞かなくちゃいけないから、理解してもらえると助かるわ」
「それは勿論私も扇舟もわかってる。……扇舟は寂しそうだったけど。でもずっとここにいろってわけでもないんでしょ?」
「あなたが望むなら。しばらくいてもらうことにはなるけれど、イセリアルに関する情報やデータがある程度まとまった頃合いを目処に自由にしてもらうつもりよ。……まあ、ヨミハラに行くとなるとそれとなく静流の監視はつくけれど」
「問題ない。慣れた。……静流もそれなりに私のこと信用してくれてるようになったみたいだし」
チラリ、とアサギの視線が静流に移った。
「……恥ずかしながら今の言葉は否定しきれません。扇舟さんもそうですが、2人ともヨミハラでの生活を満喫していたようですし、目に余るような問題行動もありませんでした。自分としてはちゃんと目を光らせていたつもりではいます」
「大丈夫よ。実際問題を起こしたわけでもないし、非難するつもりはないわ。あなたは公私を分けられる人物だと信頼してる」
「恐縮です」
半ば社交辞令気味な会話を終えたところで、「さて」とアサギの雰囲気が変わった。
「個人的に聞きたかったことを聞けて満足したわ。私の関心事についての話はこのぐらいにして。……そろそろ本題に入りましょうか。言うまでもなく、ヨミハラで起きたイセリアルの件についてよ」
親和性
天界の力、すなわち星座の取得にかかわる条件。
アセンダント(上昇)、カオス(混沌)、エルドリッチ(不気味なもの)、オーダー(秩序)、プライモーディアル(原始)の5つに分けられているが、大体は覚えやすい色で語られるので、順番に紫、赤、緑、黄、青と呼ばれることが多い。というか正式名称知ってる人あまりいないんじゃないか説。
各星座の必要親和性を満たした上で祈祷ポイントを振っていく形になる。
祈祷ポイントはDLCを導入すると最大55ポイント。
最初にポイントを振る「岐路」は必要親和性が無いので、まずここにポイントを振ってTier1星座を取得する。
Tier1とTier2は星座を完成させると親和性が得られるので、それを利用して星座のツリーをどんどん開拓していくというシステムになる。
それぞれのTierで特徴があり、Tier1は必要親和性がどれかの色で1なので取得しやすく、完成に必要な祈祷ポイントは5ポイント以内な上にその際の取得親和性も多めだが、ステータスへのボーナスは控えめで、スキルもランク相当と言った感じ。
Tier2はTier1よりボーナスが強力でスキルも便利なものが多いが、必要親和性がTier1より厳しく、完成した際の取得親和性も少なめなものが多い。
Tier3は完成させても親和性を得られない代わりに強力なボーナスと星座スキルを持つ。
例えばTier1星座の「蝙蝠」は完成に必要な祈祷ポイントは5ポイント、必要親和性が緑1、取得親和性が緑3赤2となっている。
一方Tier2星座の「冬の精霊アマトク」は必要親和性が緑4青6で、完成に7ポイントも必要であるにも関わらず取得親和性は緑1青1となかなか渋い。
幸いスキルの「ブリザード」までは4ポイントで到達できるので、スキルだけ取って完成は諦めて3ポイント浮かせるというパターンが多く取られたりする。
Tier3星座の「ウルズインの松明」は必要親和性が緑15赤8と結構重め。そのためこういったTier3星座を目標にする形で、条件を満たすように親和性を稼ぎつつ取りたい星座をチョイスしていく形になる。
ちなみに緑と赤は両方同時に確保できる星座も多く、どちらも比較的確保しやすいのだが、以前少し触れた「オレロン」は紫20黄7というとんでもない重さを誇っている上に、紫と黄を同時に取得できる星座が非常に少なく、そもそも紫も20確保するのがなかなか厳しいためにロマン扱いされているという経緯があったりする。
また、その星座の取得親和性で必要親和性を満たすことも可能。
例えば岐路緑→蝙蝠と取得した場合、蝙蝠自身の取得親和性が緑3赤2のために完成時の親和性は岐路と合わせて緑4赤2となる。ここで緑1分の岐路を外しても必要親和性を満たしているため、岐路緑の分のポイントを回収できる。
これを応用することで、必要親和性:緑10・完成時取得親和性:緑3の星座を完成させる→緑の親和性が13になる→別の星座で緑3のものがあるならその分を外してポイントを浮かす、ということが可能にもなる。
ここが星座取得の仕様の若干の癖であると同時に、取得の幅をとめどなく広げている面でもある。
言葉で説明するのが難しいので、こればかりは実際触れてもらった方が理解が早い気がする(ダイマ)。