「さっきアサギ様がおっしゃられた通り、お前は今後五車の客人という扱いになる。異世界人ということは無理に隠す必要はないが、無駄に話が広がるのもあまり好ましくないので自分から不必要に明かすようなことはしないでほしい。授業は受けなくていいが、施設内は基本的に自由に歩いてもらって構わない。居候しているふうまの家で過ごしてもらってもいい。ただ、こちらが招集をかけた時は学園に来るように。あとはお前の稀有な能力と是非手合わせをしたいという者もいるから、可能ならそう言った者たちに協力してもらえるとありがたい。これからそういう相手のところに連れて行くところなんだが……。おい、聞いてるか?」
先導する紫が一方的に状況を説明しながら振り返る。その視線の先、タバサのテンションが明らかに下がっているようだったが、彼女は特に気にした様子もなく答えた。
「ん。大丈夫。わかってる。問題ない」
「……大アリに見えるんだが。ふうまと会えなかったのがそんなにショックか」
「別に……。あ、いや、うん。正直言うとショック。短期間に2回も肩透かし食らったから」
「奴が帰ってきたら文句をぶつけてやるといい。……それよりこの後に模擬戦を頼みを受けてるんだが、そっちに影響はないんだろうな?」
一瞬、答えに間があった。
「……本当はそういうの自体苦手だからあまりやりたくはないんだけど、まあ問題ない」
「今回頼んできた相手は前回の沙耶とは全く違う。純粋にお前の剣技を見たい、ということだった」
「ふーん……。もの好きな人もいるんだね。私のメチャクチャに見える超攻撃的な剣を見たいだなんて」
「……さっき私が言ったことを根に持っているのか? まったく……」
文句を言いつつも、紫がタバサを連れてきたのは体育館だった。てっきり前回同様地下のシミュレーションルームだと思ったタバサは首を傾げる。
「あれ? 地下じゃないの?」
「そこまで大掛かりじゃなくていいと言われた。ただ、相手の腕は本物だぞ。何しろ、純粋な剣の腕前だけならアサギ様に匹敵するのではないかと言われるほどの、対魔忍でも指折りの剣士だ。その剣の腕前からついた異名が“
「へぇ……」
その斬鬼の対魔忍が誰か、体育館に足を踏み入れて遠目からではあったがタバサにはすぐにわかった。扇舟同様の人のものではない義手と、さらに義足まで身につけた金髪の少女――を相手に、一方的に立ち回っている、髪を一つにまとめて青の対魔忍スーツに豊満な肉体を包んだ長身の女性の方だ。
「やっ! はっ!」
「ふむ、以前とは見違えるほどいい動きだ。しかし……」
長身の女剣士は相手の義手から伸びたブレードを刀で捌きつつ、それまで防御に回っていた動きから一気に攻撃に転じる。
「わっ、うわっ!」
「防御はまだまだだな。いつも言っているはずだ。気配を読め、と」
「そ、そんなこと簡単には……ひゃんっ!」
結局義手義足の少女はブレードを弾かれた衝撃で呆気なく尻もちをついてしまい、勝負ありとなったようだ。それを座って見ていた、一見根暗そうな片目が髪に隠れた少女が手を叩いて称賛している。
「さあ、もう1本……といきたいところだったが、どうやらお願いしていた客人が来てくれたらしい」
「客人?」
3人の目が体育館の入り口の方へ向けられる。教師である紫が見たことのない少女を連れて近づいてくるのがわかった。
「私の頼みを聞き入れてくれたことを感謝します、紫先生。その子が……」
「ああ。以前少し話したタバサだ」
紫に背中を押されてタバサが数歩その前に出る。
「タバサ、今私に話しかけてきたのが、お前と手合わせしたがっている秋山凜子だ。一緒に戦っていたのは研修生としてここに来ているケイリー・マイヤーズ。それから、あそこで座っているのが凜子同様、
「今紹介があった秋山凜子だ。変わった剣術を使うと聞いて、是非手合わせを願いたいと思っていた。よろしく頼む」
「タバサ。……うん、確かに沙耶より遥かにマシ、というか比べるのが失礼なレベルだ。いや、あれが狂ってるだけか」
いきなりの歯に衣着せぬ物言いに、意図せず凜子の顔に苦いものが浮かんだようだった。
「まあこの通り剣だけでなく人としても少し変わり者だが……。頼んできたのはお前だからな。私は後は知らんぞ」
「ええ、構いませんよ」
紫にそう言われ、凜子はそれまで手にしていた愛刀・“
「……なんで剣を収めてるの? さっきまで使ってたのに」
「真剣は使わない。ケイリーとやっていたのは実戦を想定しての訓練……まあ、ケイリーのブレードは義手から出るわけだから木剣を使うわけにもいかず、こちらも真剣を使わざるを得ないという事情があった。が、タバサはそういうことはない。それに剣術を見てみたいというのが目的だからな」
説明しつつ、今度は木で作られた武器が多く収められているかごの方へと歩き出す。
「そういうわけで木剣を使おうと思う。手に合うものを選んでくれ」
凜子は何本か木刀を手に取って感触を確かめているようだった。タバサもそれに習って近づき、西洋剣を模して作られた木剣を2本無造作に手に取る。
「……それでいいのか? もっとちゃんと選んでもかまわないぞ」
「別に。まあ振れればなんでもいいし。……見たいのは剣術なんだよね?」
「ああ。何やら特殊な力も使えると聞いたが、その辺りは無しでお願いしてもいいか? 私も忍法は使わないつもりだ」
「ん。わかった。武器以外の装備は……対魔忍スーツだっけ、そっちが戦闘用の装備してるから、こっちも合わせるか」
タバサは手品のように全身のコーディネートを戦闘用の装備に着替え、頭に戦闘時のトレードマークとも言える
「……いつでもいいよ」
まだ武器を選ぶ凜子から適当に距離を取り、フル装備に身を包んだ仮面のタバサは無造作に立つ。ピリッとした空気に凜子の手が一瞬止まった。
「……なるほど。やはり頼み込んで正解だった。まだ手を合わせてもいないというのにその気迫……。剣士として昂ぶるものがある」
無意識のうちに凜子の顔に微笑が浮かんだ。それから木刀の中の1本を手に取り、数度素振りをする。
「ね、ねえ、コロ、これまずくない? 凜子マジだよ?」
観客側に回っていたケイリーが隣の孤路にそう声をかけた。
「(多分大丈夫。凜子はそういうのを見誤らないだろうし、相手の子も……只者じゃないってことはここで見てる私にも伝わってきてるから)」
返ってきた声はようやく聞き取れるほどの声量だった。孤路はいつもこのぐらいの声量でしか喋らないために無口だとか声が出せないだとか勘違いされるほどである。が、ケイリーにはちゃんと聞こえてたらしい。
「それはなんとなくわかるけど……。あ、紫先生いるし、何かあったら止めてくれるよね」
「私は手を出すつもりは一切ないぞ。全部あの2人の自己責任でやってもらう。まあ木剣だ、死にはしないだろう」
「ひいっ……! 対魔忍式スパルタ……!」
怯えたようにケイリーが声を上げたところで、凜子も得物を決めたらしい。愛刀とほぼ同じ長さの木刀を手にしている。
「待たせてすまない。始めよう」
「ん」
「ケイリー、開始の合図を頼む」
突然話を振られ、静観を決め込もうとしていたケイリーは慌てた様子だった。
「わ、私!?」
「構えと始めだけ言ってくれればいい。……お前のほうが声が大きいからな」
「(悪かったね)」
相変わらずの孤路の声量だったが、同じ逸刀流として稽古をすることも多い凜子はこの距離でも聞き取れているらしい。からかったように小さく笑っただけだった。
「うー……。じゃあ、構えて」
渋々と言った様子でケイリーが立ち上がって、2人からは大分距離を取りつつもその中間に位置取る。
凜子はオーソドックスに正眼に構えた。が、タバサの方は相変わらず構えようとせず、両手を脱力させたままである。
「タバサ、構えて」
「これでいい」
ケイリーに促されても相変わらず構えようとしない。表情すら伺えない仮面と相俟って、何とも言えない不気味さが漂ってくる。
(構えないとか何考えてんのこの子……!? 凜子がその気になったら忍法がなくたって一瞬で間合い詰められて終わりだよ!?)
これまで訓練で幾度となく凜子の強さを見せつけられているケイリーとしては全く理解が出来ない。
「本当にいいの? 知らないよ!?」
「いい」
「当人がそう言っているんだ、開始の合図を頼む」
相変わらずタバサは構えないまま、凜子は傍から見る分には一分の隙すら見せないままにそう言った。
「どうなっても知らないからね。じゃあ……始めっ!」
開始宣言と同時、ケイリーはその場から孤路の近くまで飛び退いた。おそらく凜子が一気に仕掛けてくる。その時になるべく距離を離しておきたいという思いからだった。
が、凜子は構えたまま動かなかった。一方のタバサもそのまま立っている状態である。
「……どうした? 来ないのか?」
「こっちのセリフ。来る気配が全くないからどうしようかなって思ってた」
既に始まっているはずなのに、両者とも動かないままにそんな話をしている。
「私はお前の剣術を見たい、と言ったのだ。遠慮せず打ち込んできてくれ」
「ん。じゃあ……」
タバサがそう言った瞬間、だった。姿が消えるかと思うほどの速度で一気に凜子へと肉薄。両手の木剣を突き出す。
「――ッ!?」
身をよじって右の剣を避け、左の剣は木刀を当てて軌道を反らせる。そのまま凜子は木刀を振り抜きタバサの首を狙った。
が、タバサは一歩分後退しながら上体を反らしてそれを回避。下がった一歩分を踏み出しつつ、両手の木剣による高速の連続攻撃を放つ。
「しっ! はっ!」
気合の声とともに凜子がそれを捌いていく。流れるようにタバサが放った挟み込むような一撃をしっかりと受け止めてから、凜子は距離を取った。
「……なるほど。確かに変わった剣術だ。早い上に、何より荒々しい。だが……」
数合打ち合っただけだが、凜子はその異質さを直に感じ取っていた。おそらく見ている他のメンバー、特に同じ逸刀流である孤路もまた似た思いを抱いているであろう。
傍から見る限りは恐ろしいほどに攻撃的。相手に攻撃させなければ防御の必要もない。まさしく「攻撃は最大の防御」を地で行くスタイルだ。
しかし一方で、凜子は違和感を抱いてもいた。
(確かに攻撃的だ。が、剣にその感情が乗っていない……。攻撃の激しさの割りに、剣から伝わるのは淡々とした印象……なんだこのギャップは……? まるで読めない……)
通常、数合打ち合えば相手の剣がどのようなものかを凜子は測ることができた。ところが今回はそれが出来ない。
ひとつ言えるとするならば、やりにくい、というのが素直な感想だった。攻撃の瞬間に発せられる気迫のようなものがない。故に技の起こりを読みにくく、動きを見て剣筋を予測してから防御するためにどうしても後手に回る。
そういう意味でも攻撃は最大の防御、とも言えるだろう。相手に攻撃をさせないような剣なのだから。
(ならば、その攻撃で補っている防御は如何ほどか……。そちらなら、剣の本質が見えるかもしれない)
そんな気持ちで凜子が口を開く。
「次はこちらから行くぞ」
そう言いつつ八相に構えた凜子だったが。
「あ、その前に確認なんだけど」
「……なんだ?」
手合わせ中に相応しくない言葉に一瞬戸惑う。が、自分もさっき口に出していたか、とその考えを改めてタバサの先の言葉を待った。
「今私から仕掛けた時、凜子は反撃できたと思ったけど基本的に防御を重視してた。次、凜子が来るなら私もそうしたほうがいいの?」
思わず小さく笑みがこぼれていた。確かにタバサの剣は読みにくく、凜子は後手に回った。それでも反撃する機会はあった。
が、敢えてそれをせずに
そういう意味では凜子の行動は完全に読まれている。と言ってもいいだろう。凜子の笑みはそこに感心したという意味合いは確かにある。だが、それ以上に問いかけがあまりにナンセンスだと思ったからだった。
「実戦で『こちらから行くぞ』と言われて、お前は『じゃあ防御します』と言うか?」
「言わない」
「ならそういうことだ。……こちらに合わせる必要はない。普段どおりやってくれ」
「ん。わかった。防御は苦手だから安心した」
構えた凜子の闘気が高まる。「防御が苦手」、自分の予想を裏付けるかのような答えだ。ならばそこを突き、剣の本質を探らさせてもらおう。
凜子がそう考えて地を蹴った瞬間――。
「何ッ!?」
タバサも一気に飛び込んできた。狙ったタイミングがずらされる。やむなくそこでまず袈裟に振り下ろし、返す刀で横に薙ぐ。
凜子の一太刀目を突進の勢いを止めて急回避したタバサは、二太刀目の横薙ぎに対して剣を十字にして防御。そのまま刃の部分を滑らせて間合いを詰める。
「くっ……!」
凜子の木刀はタバサの木剣より長い。懐には入られたくないと、木刀を引いて後退しつつ上段から一撃。
力の均衡が崩れたことでタバサのバランスが僅かに崩れた。だが踏みとどまってそれを右に避け、タバサはさらに踏み込もうとする。
凜子も察知して反撃に相手の左側から斬り上げた。
が、タバサの左手には逆手に持たれた木剣。その
しかし両手の膂力を込めた凜子の一撃の威力を殺し切ることは出来ない。タバサの腹部に自身の左手に持った木剣の腹の部分が当たり――。
「……参った」
ほぼ同時に首元にタバサの右の木剣を突きつけられた凜子が、降参を宣言していた。
フレイムタッチ
マスタリーレベル5で解放されるデモリッショニストの常駐スキルで、一定量のエナジーを予約して実数火炎ダメージ、割合火炎・燃焼・雷・感電ダメージ、OAを強化する。
マスタリーレベル20で解放される後続スキルの「テンパー」を取得すると実数物理ダメージ、割合物理・体内損傷・刺突ダメージ、DA、報復ダメージが強化される。
本編中に登場していないが戦闘中のタバサは常時これを使用している設定。
デモリッショニストが得意とする属性である火炎と雷、さらにOAも強化する優良スキル。
しかも効果範囲は自分を中心に設定されているので、味方やペットボーナス型のペットにも有効(プレイヤーボーナス型のペットの場合、プレイヤー自体に効果が反映した上でペットにかかる形になる)。
ただ冷気型サバターからすると火炎と雷の割合強化は微妙だが、実数の火炎ダメージは完全に冷気変換できるので無駄にはならず、またクリティカルビルドでOAはいくらあっても困らないため本体には優先的に振る価値がある。
一方でテンパーは物理からの変換率があまり高くない、DAはそれなりに足りている、スキルポイントを他に回したいといった理由から1ポイントだけ振ってあとはブーストに任せている。
物理、刺突、報復をメインに使うビルド以外の場合、他ビルドでもとりあえずおまけ感覚で1だけ振るパターンが多いと思われる。
ちなみに、ネクオルパワーで酸ダメージを2:1の割合で火炎と冷気に変換できるのはこのスキルにスキル変化がかかっているおかげ。
さらに、ゲイルスライシズマークのスキル変化で実数冷気ダメージ追加と50%火炎とカオスダメージを冷気に変換するのもこのスキルに変化がかかっている。