“乗っ取られ”の少女、対魔忍世界に迷い込む   作:天木武

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Act26 では訓練切り上げだ。稲毛屋にでも行くとしよう

 “斬鬼の対魔忍”が敗北を宣言した。

 

 その衝撃的な事態に、場は一瞬しんと静まる。だが、すぐにケイリーが抗議の声を上げた。

 

「ちょ、ちょっと待って! 最後の一撃は同時……引き分けじゃない!?」

「いや。それは違う」

 

 凜子が木刀を引き、一瞬遅れてタバサも木剣を引く。これで終わりだという意思表示を込め、凜子は切っ先を後ろにして左手へと持ち替えた。鞘に刀を納めたような形だ。

 

「タバサは逆手に持ち替えてまで、敢えて刃の部分を避けて剣の腹で私の一撃を受けている。それが全てだ」

「え……どういうこと?」

「(日本刀のような片刃の剣で受ける場合、刃の部分で受けても体に当たるのは峰の部分だから斬れない。でも、タバサが使ったのは両刃の西洋剣。だから、凜子の剣を受けて勢いを殺しきれず体に当たった時、斬れないように剣の腹で受けた、ってこと)」

 

 孤路の補足に、凜子はその通りと頷く。

 

「実際タバサの体に剣の腹が当たりはしたが、私の刃が直接は届いてはいない。仮に真剣であったとして、止めた剣ごと、もしくは折って刃を届かせるとしても、それで致命傷を与えるより早く確実にこっちの首が飛んでいるだろう」

「じゃ、じゃあまさか……」

 

 ケイリーが言おうとしたその先を、凜子が続けた。

 

「……以上が下方からの斬り上げに対抗するためにわざわざ逆手に持ち替えた上で、剣の腹で防御したことに対する推測だ。タバサ、これは当たっているか? そして……お前はそれを狙ってやったのか?」

「うん、合ってる。実戦でも同じ状況になったらああやった。今凜子が言った通り、ダメージはもらうだろうけどこっちの体を真っ二つにされる前にそっちの首を飛ばせる」

「……見誤ったな」

 

 タバサの剣の本質を見抜く。そうしようとしたこと自体が根本的な過ちだったのかもしれない。凜子はそう気づいた。

 

(まさかあれほど凪いだ剣でありながら、その実、捨て身の剣だったとはな……。だが、死を受け入れて達観した末にたどり着いた剣ともまた違う。もしかすると本当に何も考えずに振るう、本能のままの剣なのかもしれない。とはいえ、致命傷さえ避けられればいいと判断し、己の体が傷つくことをも厭わず相手の命を断ちに来る。……あまりにも異端だ)

 

 しばらく凜子が考え込んでいるとタバサの声が聞こえてきた。

 

「で、終わりでいいの? というか、終わりたい」

「ああ。……いい経験をさせてもらった」

「よかった。もう1回やったら間違いなく私が負けるだろうし」

 

 タバサが仮面を外す。完全にもう戦う気はないようだ。

 

「間違いなく負ける? なぜそう言い切れるんだ? さっき私の攻撃に対して絶妙のタイミングで取ってみせた『後の先』があればそんなことは無いと思うのだが」

 

 凜子は気になったことを直接タバサにぶつけていた。それに対してタバサは答えない。というより、何を言っているかわからない、と言いたげに数度目を瞬かせた。

 

「……ゴノセンって何?」

「な……。狙ったのではないのか!? いや、本能的にやったのか……? とにかく、後の先とは相手が攻撃を仕掛けてきた時に逆に攻撃を繰り出す返しの技。カウンターと言ってもいいな。さっき私は仕掛けようと踏み込んだ瞬間、お前が飛び込んできてペースを乱され、見事に後の先を取られた。あれは狙ったのだと思ったのだが……」

「あ、それをゴノセンって言うんだ。それは狙ったよ。殺気の高まり方で来るな、ってのはわかった。だからそこを崩そうと思って飛び込んだ。凜子に主導権を握られたら終わりって予感があったし」

 

 やはり本能的に仕掛けていたのかと思うと同時、その察知能力の高さと直感の鋭さに思わず凜子は息を呑む。

 そんな凜子と対照的、そのタイミングで「ああ、そっか!」と突然ケイリーが手を叩いていた。

 

「凜子がいつも言ってる気配を読めって、さっきタバサがやったみたいなことってわけか!」

「……究極的にはな。しかし口で言うほど簡単ではないし、仮に攻撃の気配を読んだところでそこに攻撃を重ねて返すというのはかなりの高等技術だ。一歩間違えばそれまでだからな」

「(ねえケイリー、仕掛けて来るタイミングがわかったとして、凜子の踏み込みと上段斬りが待っているところに相手を崩したいという思いだけで飛び込める?)」

「う……。む、無理。せいぜい踏み込むフリのフェイントがいいところ。実際飛び込める人なんて自殺志願者ぐらいなものじゃないの?」

「(でも実際にやったんだよ、タバサは。……おそらく凜子も来ることを読みきれなかった。後の先を取られたのもあるだろうけど、その心の隙を突かれたことの方が大きいんじゃないかな)」

 

 孤路の解説は的確だ、と凜子は内心で思っていた。確かに言われた通り高を括っていた部分が無いわけではない。だが、踏み込むまでにタバサが仕掛けてくる気配を全く感じなかったのだ。

 そこがタバサの凪いでいる剣の恐ろしさなのかもしれない。連撃を受けた時も感じた、技の起こりの読みにくさ。ノーモーションで強力な一撃を放ってくるような感覚がある。

 

 しかし、そんな思いの凜子に対してタバサは「もう1回やったら間違いなく負ける」と言い切った。とてもそうは思えない。凜子がそのことを尋ねた。

 

「……タバサ、さっきの質問の答えをまだ聞いていない。あれだけ完璧に後の先を取ってみせたにも関わらず、『もう1回やったら間違いなく負ける』と言い切った。なぜだ?」

 

 しばらく悩んでいたようだったが、考えがまとまったのか、タバサが口を開いた。

 

「そのゴノセンの話にも関わると思うんだけど、私って気配とか内面とか本質とか、そう言うのを見通す能力が優れてるんだって。……アサギには過信しすぎるなって釘を刺されたけど。まあとにかくそういうわけだから、さっきまでの凜子からは私の手の内を見たがってるなって気配を感じ取った。だからその隙をつく形で一応は勝てた。でももう1度やるとなったら、今度は多分そんな考えは捨ててくる。さっきので私の戦い方も理解しただろうから、まず勝ち目はない」

 

 思わず凜子は言葉を失っていた。攻撃の気配だけではない。戦う者の心の中まで読み通している。恐るべき相手だ。

 

「それに凜子って単純に剣の腕もすごいけど、多分そこに忍法を併用するから強いんじゃないの? 初めて五車に来る時に鹿之助が凜子の名前出してたのを今さっき思い出した。リフトに似た能力……確か瞬間移動とかできるんだっけ? なら強いに決まってる。そこまで解放されたらますます勝てない。よかったらその能力、ちょっと見てみたい」

 

 フッと凜子が自嘲的に笑った、次の瞬間。タバサの視線の先から、文字通り凜子が消えた。

 タバサが回れ右をすると、そこに愛刀・石切兼光を左手に持ちつつ、擬似的に抜刀したという体で右手の木刀をタバサに突きつける凜子の姿があった。

 

「……ほんとに消えた。しかもその左手の剣もいつの間に……」

 

 あくまでパフォーマンスで斬るつもりはないし、万が一で怪我もさせたくない。だがこういった芸当もできる。そんな言う意味を込めたその行動を取った上で、右手を下げてから凜子は説明を始めた。

 

「私の忍法は“空遁(くうとん)の術”。瞬間移動だと思っている者が多いようだが、厳密には“(くう)”を操る術だ。だからいわゆる瞬間移動だけでなく、遠くのものを引き寄せたり、視界だけを飛ばして遠くを見たりすることもできる」

「(でも1番危ないのは夢幻泡影(むげんほうよう)だけどね。当たったものを無理矢理跳躍させて消し去るっていうとんでもない技)」

 

 孤路が補足をする。相変わらずのボソボソ声だったが、タバサは聞こえていたようで大きく息を吐いた。

 

「うん、間違いなくヤバい。それをやられてたらあの防御は無意味だから、私の勝ちもなくなる。やっぱ勝つイメージが沸かない」

「夢幻泡影は気の集中が必要だ、おいそれとは使えない。もし使うとなればタバサなら察知するだろうから、さっきのとはまた違った結末になっただろう。それに空間跳躍に関しても、今私の跳躍先を読んで振り返ったではないか」

「さっき凜子自身が言った。気配を読むのとそれを対策するのはまた別問題だって」

「……確かにそうか」

 

 実際、空遁の術による変幻自在の跳躍からの奇襲と、物体を消し去る夢幻泡影を纏わせての必殺の太刀・“胡蝶獄門(こちょうごくもん)”。そこにさらに凜子自身の剣の腕前までもが加わる。“斬鬼”の異名は伊達ではないということだ。

 

「まあ私は手合わせを頼まれただけだし、凜子が満足してくれたならいいよ」

「そうは言うがな……。折角だ、そこの2人、タバサとどうだ?」

 

 急に話を振られ、ケイリーは凄い勢いで腕を左右に振った。

 

「無理無理! それにほら、私義手からブレード出さないといけないし!」

「タバサも真剣を使えば済む」

「絶対ダメ! 死んじゃうって! 私じゃなくてコロがやるってことで……」

「(私も遠慮しておく。凜子ほど物好きじゃないから。当人には悪いけど、あの戦い方を目にした上でやり合いたいとは思わない)」

 

 2人からの拒否を受け、凜子がチラリとタバサの顔色を伺うと「この人たちの言う通り」と言いたげだった。仕方ない、とひとつため息をこぼす。

 

「わかった。今日はここまでにしよう。タバサ、無理を言ったのに聞いてもらって感謝してる」

「ん。できればもう手合わせとか言って呼び出さないでね」

「……手厳しいな。私個人での頼みはしないつもりだが、集団戦の訓練では呼び出されてまた顔を合わせるかもしれないぞ。ふうまは集団戦において素晴らしい指揮官だからな」

「へぇ……」

 

 どうやら自分への忌避感以上に小太郎への興味が勝ったらしい。今日のところはこれでいいか、と凜子は自身を納得させることにした。

 

「さて。では訓練切り上げだ。稲毛屋にでも行くとしよう。タバサ、私から1本取った祝いだ。奢ってやる」

「いいの? ありがとう」

「やった! アイスアイス! 凜子、私には?」

「……お前は自分で払え」

 

 調子良く乗っかろうとしたケイリーを軽くあしらい、凜子はずっと監督していた紫のところへ歩み寄った。

 

「紫先生、監督ありがとうございました」

「タバサの戦いっぷりを見たくていただけだ。監督役というつもりはなかったよ。……それにしても斬鬼から1本取るとは、なかなかだ」

「ええ。いつか借りを返したいのですが……。当人が受けてくれそうにないのが残念です。そのつもりはないでしょうが、これは勝ち逃げですね」

「しかしもう一度やればお前が勝つとタバサは言ったんだろう? それにお前ほど剣に関して詳しくはないが、傍から見ていて剣士としてはお前の方が間違いなく上手(うわて)だと思う。1本取られはしたが、気は落とすなよ」

「お気遣い感謝します。しかし負けは負けですから。まだまだ修行が足りないと痛感しました。これからも精進します」

 

 どこまでも真面目な凜子に、紫は困ったような笑みを浮かべるしか出来なかった。

 

「おーい、凜子ー! 早く片付けて稲毛屋行こー!」

 

 と、ケイリーの声が聞こえてくる。完全に稲毛屋モードに入ってしまっているようだ。

 

「まったく……。では、これで。お疲れ様です」

「ああ。お疲れ」

 

 そう言って凜子は紫と別れた。

 

 タバサに勝ち逃げされたのは確かに心残りではあるが、異世界人との話には興味がある。うまく稲毛屋のアイスで釣ることには成功したのだから、色々と話を聞いてみるとしよう。

 そんな打算的な思いとともに、凜子は片付けを済ませつつあるケイリーたちのところへと足を進めた。




steamオータムセールが現地時間の29日まで行われているようです。
Grim Dawnもセール対象で、必須DLCまで揃ったお得パックのDefinitive Editionが前回から若干値上がりしてるようですが、それでもまだお安くなっております。
皆も乗っ取られになろう!(ダイマ)

ちなみに、対魔忍RPG的には今週金曜日から五車祭となっております。
その後、クリスマスにお正月も控えております。
石とお金のご利用は計画的に……。



ヴィンディクティヴフレイム

マスタリーレベル10で解放される、微妙にスキル名が言いづらいデモリッショニストの常駐スキルで、一定量のエナジーを予約してヘルス再生と総合速度(移動、攻撃、詠唱速度)を強化し、火炎報復ダメージを付与する。さらに相手の攻撃に対して円形の炎で勝手に反撃してくれるようになる。
なお、Vindictiveとは「復讐心」や「執念深い」と言った意味のようである。火炎反撃分を表していると思われる。
マスタリーレベル20で解放される後続スキルの「ウルズインの怒り」を取得するとヴィンディク本体の反撃スキルがヒットした際、効果範囲内に別の敵がいた場合にさらに追加のダメージを与えられるようになる。
本編中に登場していないが戦闘中のタバサは常時これを使用している設定。
ヘルス再生を重視せず反撃も特化しない本ビルドにおいてはとりあえず総合速度のために取るスキル、に留まってしまうために優先度が低く、1振りでもいいぐらいの感覚。
ウルズインの怒りにあるダメージ減少は魅力的ではあるのだが、タイマンの場合は発動しないという大きな欠点も足を引っ張ってしまっており、結果ダメージ減少効果はユゴールの黒血に頼る形を取っている。
とはいえ、スキルのポテンシャル自体は非常に高く、結構なヘルス再生を稼げるため、ヘルス変換に頼らずにヘルス再生で生存性を保つビルドにとっては防御の要になることもある。
また、ナマディアズホーンのスキル変化のおかげで、このスキルを展開するだけで5%物理耐性を得られている。
ちなみに、このスキルの反撃性能をスキル変化によって極限まで突き詰め、反撃をメイン火力にして敵を倒すカウンタービルドの例がサバターに存在しており、きっちり装備を揃えられれば高火力二刀ビルドに負けないほどの殲滅力を誇るほどになるらしい。
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