“乗っ取られ”の少女、対魔忍世界に迷い込む   作:天木武

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Act27 ならばその異世界人の全力、この老い先短い婆に是非とも見せてはくれないかね?

 稲毛屋の軒先。対魔忍スーツから制服へと着替えた凜子と、タバサ、ケイリー、孤路の4人が腰掛けて名物のアイスを口にしていた。先程言われた通り、タバサの分のアイス代は凜子が持っている。

 

「久しぶりに食べたけど、やっぱりここのアイスはおいしい」

 

 危うくがっつきそうになる心を抑え、少しずつ舐めるように食べながらタバサがそう言った。

 

「久しぶり、ってことは五車にいなかったんだ。どこ行ってたの? 任務とか?」

 

 ケイリーが無邪気に尋ねてきた。が、タバサは何やら困ったように凜子の方を見つめている。

 

「どうした? 私の方を見て」

「……これどこまで答えていいの?」

 

 自分に聞かれても、と凜子も困ってしまった。

 タバサの存在は大っぴらにはされていないが、知ってる人は知っている、という状態になっている。凜子はゆきかぜと仲が良いこともあってそれなりにタバサのことを知っていて、そのために興味を持ったわけだが、研修生であるケイリーは知らない側に入るらしい。

 

「先生方には何と言われたんだ?」

「無理に隠す必要はないけど自分から広めるようなことはするな、って。この場合判断が難しい」

「確かに……。それにケイリーはDSOからの研修生と考えると、情報が外部に漏れるということも考えられるからな。……いや、あそこならもうそのぐらいの情報は掴んでそうだが」

「DSO?」

 

 タバサが首を傾げた。それに対してケイリーが説明を始める。

 

「米連国防省傘下の防衛科学研究所のことだよ。私の手と足って機械でしょ。そういうのを研究してるのがDSOなの。……まあ米連には対魔忍と明らかに敵対状態にある特務機関Gとかってのもあるんだけど、私たちにとってもそいつらは敵だから、対魔忍とは友好関係にあるって感じ」

「うーん……。よくわからないけど、まあわかった」

 

 これは絶対わかっていないだろうな、とケイリーは思う。もっとわかりやすい例がないか考えた時に、少し前にタバサが口にしたある人物に思い当たった。

 

「そういえばさっき沙耶の名前がチラッと出たと思うんだけど、あの沙耶NEOを作リ出したのが特務機関G、それをどうにかしようとしたのがDSOって感じ」

「あ、じゃあ良い方か。話しても問題なさそう」

「……良い悪いで決めることではないと思うのだが」

 

 凜子が苦い顔をしながらそう口にする。

 

「そうは言ってもあれは狂ってるよ」

「まあ……内面を見通せるというお前からすればそんな風に捉えても仕方ないか。お世辞にもまともとは言い難い。多少マシになったとはいえ狂気の塊のような存在だからな」

「(見えなくていいものまで見えてしまう人にしかわからない苦しみだね。私はちょっとわかる)」

 

 孤路が同意する。霊魂の情報を読み取る魂遁(こんとん)の術の使い手であるために、普通の人が本来見えないものまで見えてしまうからだろう。

 

「とりあえず話してもいい相手ってことで進める。私はずっとヨミハラにいた」

「ヨミハラ!? なんであんな危ないところに……」

「危ないかな……。色んな人がいて面白いよ。人じゃないのもたくさんいるし」

「……面白いのは同意しちゃうかも。私もずっと研究所にいた後、見学ってことであそこに連れて行ってもらった時は面白く感じちゃったし」

 

 ケイリーは過去に同じくDSOに所属する、元対魔忍の甲河(こうかわ)アスカと共にヨミハラを訪れたことがある。外の世界を知らなかった彼女にとっては刺激的な体験であったのは事実だ。

 

「そのヨミハラの味龍って中華料理店でバイトしてた。賄いがおいしいから。皆もヨミハラに来たら食べに来るといいと思う」

「賄いに釣られてヨミハラでバイト……。やっぱりとんでもない子だ……。というか、アサギ先生もよく自由行動許したね。それもヨミハラなんて。異世界からの迷い人とか、手元に置いておきたいと思うのが普通だと思うんだけど」

「アサギはふうまに私のことを全部投げた感じだったから、あんまり関わってないと言えば関わってない。ただ、今回もしばらくしたらそのうち自由にしていいって直接言われてる。私としてはとてもありがたい」

「へぇ……。人格者と言うか何と言うか」

 

 米連に所属するケイリーは実験のために外にすら出られないという被検体を多く見ている。彼女自身、ヨミハラに見学に行ったのと同様、見聞を広めるためにこの五車に研修に来ているという経緯もあったりする。自由にさせてもらえるということがどれほどありがたいかはよくわかっていた。

 

 と、アイスを食べ終えてタバサが急に立ち上がった。怪訝そうに凜子が尋ねる。

 

「どうした? もう1本か? あまり食べると今後の食事にも影響するし、私の懐事情的にも嬉しいものではないのだが……」

「違う。アサギの名前が出て、さっき言われたことを思い出した」

 

 てくてくとそのままタバサは稲毛屋の店内へと入っていく。

 

「ねえ、おばあちゃん」

「ん? なんだい、まだ何か食べるのかい?」

 

 店主である老婆――「稲毛婆」こと稲毛夏(いなげ なつ)煙管(きせる)を蒸しながらタバサに尋ねてきた。

 

「違う。聞きたいことがある」

「人生の先輩である老人から話を聞く、いい心がけだねぇ。それで、なんだい?」

「さっきアサギに面白いことを言われた。私って人の雰囲気とか内面とかを見通せるらしいんだけど、その力を過信しすぎるなって。『わからない、よりもわかると思わされることが危険だ』って忠告された。どういうことか聞いても説明しにくいから、稲毛屋のおばあちゃんに聞けって」

 

 夏は肩を揺らせて笑っているようだった。

 

「まったく、アサギの嬢ちゃんには困ったもんさね。ま、確かにあの子は腹芸が苦手だ、説明できないだろうよ。本来そういうのができなきゃらならない立場だろうが、でもそういうまっすぐなところがまた魅力でもあることは事実か」

 

 煙管の灰を落とし、夏がタバサを真っ直ぐ見据える。

 

「タバサとか言ったね。内面を見通せる、と。私のことはどう見えるんだい?」

「パッと見は厳しげ、でもそれは相手を思ってのことで本当は優しい。なんか凄腕の対魔忍()()()って聞いてるけど、納得できる雰囲気がある」

「ほほう……。確かに優れた観察眼というか、直感というか、そういう類のものを持ってるねぇ。……でもね、既にアサギが言っていることが当てはまってるんだよ。今のお嬢ちゃんがまさしく、『わかると思わされてる』状態になるわけだ」

「それってどういう……」

 

 そこまで言ったところで、タバサは続きを口から出せずにジリっと一歩分後退した。店の中を伺っていたケイリーがその不審な動きに気づいて声をかける。

 

「タバサ? どうかした?」

 

 しかし答えはない。その声が耳に届いていない。それほどの衝撃を彼女が受けていたからだった。

 

「なるほど。その反応を見るに、内面を見通す力とやらは確かに本物のようだ。……嬢ちゃん、さっき私に言ったね。凄腕の対魔忍『だった』って。その考え、今も同じかい?」

 

 タバサは明らかに気圧されていた。目の前にいるのは老婆のはず。しかしそんな気配はまるで感じさせない。場合によってはアサギを凌ぐほどのプレッシャーを発している。

 

「なんで……。隠してたってこと……?」

「私の忍法は生命エネルギーを操る術でね。そのまま垂れ流してると効率が悪いから意図的に流れ出る分を絞ってるってのはある。でもそれ以上に……あんたみたいに力量を読める相手を欺くためというのもある。アサギの嬢ちゃんが言いたかったのは多分これだ。わざと弱く見せて隙を突く者も存在する。だからその力に便りすぎるな、ということだよ。……さて、折角だ」

 

 そう言いつつ、夏が立ち上がった。そのまま立ちすくむタバサの横を抜け、店の外へと出る。

 

「ちょいと体でも動かそうか。タバサがどれほどの使い手か、興味が湧いたしね」

「可能なら遠慮したい。……勝つイメージが沸かない」

「しかしこれから先、そういう相手と戦う可能性もある。その時に黙ってやられるつもりかい? ……よし、私から一本取れたらアイスを奢ってやろう。これならどうだい?」

「アイスは魅力的だけど……。うーん……」

「負けて元々なんだから胸を借りるつもりでかかってくればいいんだよ。ほら、本気で来な」

 

 渋々タバサが店から出てくると、既に夏はやる気で距離を取って立っていた。左手でクイクイと来るように合図している。その様子にタバサは大きく溜息をこぼしてからフル装備に身を包む。

 

「嘘!? タバサが持ってるのあれ真剣だよ!? 凜子、コロ、止めなくていいの!?」

「あの様子からすれば、むしろタバサが無理矢理付き合わされているようにも思えるが……」

「(何かの拍子で怪我に繋がったりするのがちょっと怖い)」

 

 見物人3人は思い思いの感想を口にしつつも、老体である夏を心配しているようだった。だが唯一、タバサだけはそんな思いはまったくなく、凜子に仕掛けたときのように全力で、得意の消えるほどの速度で一気に飛び込んでいた。

 

「ほう、速いね」

 

 しかし夏はそう言って僅かに煙管を動かしただけだった。それだけで、どういう原理かタバサの体は宙に舞っていた。

 

「えっ……!?」

 

 何が起こったかわからずに目を見開く3人。一方、当のタバサ本人は空中のその状態から姿勢を立て直し、両手の剣を夏めがけて力任せに振り下ろす。

 

「おや、そこから反撃か。こりゃ驚いた」

 

 夏が老人とは思えない足取りで軽くステップして間合いを取る。一瞬遅れて、2本の剣が地面を抉っていた。

 さらにタバサは間合いを詰め直し、凜子の時同様に高速の連撃を放つ。ところが夏は手に持つ煙管を少し動かしただけでそれを全て止め切ってしまった。

 

 タバサが飛び退く。それから仮面越しにもわかるほど大きく溜息をこぼしていた。

 

「だから言ったのに。……勝つイメージが沸かないって」

「そう言わさんな。確かに猪突猛進、攻撃は最大の防御という感じだが、口で悲観的なことを言ってる割に剣自体はとても冷静で良い剣だ。出どころもわかりにくいしね」

「……全部止めてるくせに」

 

 そんな2人のやり取りを見ていた軒先に座ったままの3人だったが、凜子がひとつ息を飲んでから口を開いていた。

 

「……そう、読めないんだ」

「(凜子……?)」

 

 やけに硬い声に、孤路が声の主である凜子の方へ視線を移す。

 

「さっき剣を合わせた時に思った。大抵の者は剣を合わせればそれなりに心がわかる。だがタバサからはそれを全くと言っていいほど感じなかった。その上、出どころがわかりにくい剣を高速で連撃してくる。だからさっきの私は剣筋を見極めてから確実に防御する選択を取った。……しかし今のは違う」

「(うん。剣が出る前に既に止めに入ってる)」

「え……じゃあ何、それってもしかして凜子がさっき言った『後の先』ってやつじゃないの? 今度はおばあちゃんがやってるってこと?」

「ああ……。それも超高度な技術で、だ。相手に先に動かさせ、しかし技が起こるより先に止める。まさに理想的な動き……」

 

 そんな3人の会話が聞こえていたのか、離れていたというのに夏は鼻で嗤いを飛ばしてきた。

 

「そんな大層なもんじゃないよ。このぐらい、年を取りゃ経験で出来るようになる、年の功ってやつだね。かくいう凜子、あんただってやろうと思えば出来るんだろう?」

「……タバサほどの使い手が相手では到底無理ですが」

「だ、そうだ。凜子はあんたを随分と高く買ってるようだよ」

 

 夏は飄々とした様子でタバサへとそう言っていた。勿論戦闘中であるために、この間にタバサが攻撃を仕掛けてきても夏は文句を言うことなどなかっただろう。それでもタバサは攻撃をせず、いや、出来ずにいた。

 

「なんだい、だんまりかい? 釣れないねえ。まあいい。……そろそろ本気で来な」

「とっくに本気」

「いや、違うね。今の本気は剣で戦うという範疇での話だ。……あんたが初めてうちに来た時に軒先で話してたろ。召喚獣だかなんだか使える異世界人だと。ならばその異世界人の全力、この老い先短い婆に是非とも見せてはくれないかね?」

「……老い先短いとか心の中で全く思ってないくせに。でもわかった。アイスがかかってるし、ダメで元々って言われてるんだから出し惜しみ無しで行く」

 

 タバサの側に刃が渦巻く精霊2体と獅子のような四足獣が現れる。ブレイドスピリットとネメシスだ。

 

「え、何あれ!?」

「あれがタバサの異世界の力……!」

「(ワンちゃん……というよりライオンとか豹かな。あとは……精霊?)」

 

 ケイリーと凜子と孤路が思い思いの感想を口にする。

 

 その3体のしもべを夏へ向けてけしかけつつ、それより早くタバサが飛び込んだ。

 

「それじゃさっきまでと同じ……」

 

 そこまで言いかけ、夏はバックステップしようとした足を止め、その場でタバサの二刀を回避と煙管による防御に切り替えた。

 その上でチラリと飛ぼうとした背後を見る。いつの間にかそこには炎の壁――厳密には炎に見える冷気の壁である、テルミットマインが設置されていた。さらに両脇はブレイドスピリットが逃げ場所を塞ぐように待機し、ネメシスはタバサと一緒に攻撃を仕掛けてくる。

 

「……こちらの退路を断った上で召喚獣と一緒の切り込み。いい狙いだね。後はそれが当たれば、だが」

 

 先程までと同様、最小限の動きと煙管でタバサとネメシスの攻撃を捌いていく夏。このままでは結局変わらないと思いかけたのだが――。

 

「……ッ!」

 

 嫌な予感が駆け抜ける。視線を空に映すと、そこから炎の塊(メテオシャワー)氷の槍(ブリザード)が降り注ごうとしていた。

 

「なるほど……。異世界の力、恐るべし、だね……」

 

 夏はテルミットマインの直前、タバサの剣の間合いからギリギリ外まで後退し、そこで煙管を蒸して煙を吐いた。直後、夏目掛けて炎と氷が降り注ぐ。

 

「やったか!?」

「(あーあ、言っちゃった。ケイリー、それ絶対やってないから言っちゃダメなやつ)」

「……私も内心で大丈夫なんだろうなと高を括ってはいるが、少しは心配をしろ」

 

 もはやコントのような会話をしている見物人3人だったが。

 

「うん、やっぱりダメだ。勝ち目がない」

 

 その楽観的な見方は間違えていないと言いたげに、間合いを取り直したタバサはそう口にしていた。

 

「いいや、なかなかいい攻撃だった。少なくとも私に本気を出させたんだからね」

 

 まだ晴れない煙の中、聞こえてきたのはこれまでずっと耳にしていたしゃがれた声ではなく、凛とした声だった。

 そして煙が晴れる。そこに立っていたのは――。

 

「え、ええー!?」

「なんと……」

「(若くなってる)」

 

 先程までの老婆とは程遠い、妙齢の女性の姿をした夏であった。




ベールオブシャドウ

マスタリーレベル1で解放されるナイトブレイドの常駐スキルで、効果範囲内の敵のOAと総合速度(移動、詠唱、攻撃速度)を低下させる。
このスキル自体に毎秒攻撃判定があるため、攻撃時発動のスキルが発動しやすい。
しかしそれ以上にマスタリーレベル15で解放される後続スキルの「ナイツチル」が凶悪で、僅かな冷気と凍傷ダメージを与えつつ、刺突・冷気・毒酸というナイトブレイドが得意とする属性の敵の耐性を減少させる。
しかも重複可能なカテゴリであるため、他の耐性デバフと合わせてごっそり耐性を下げることに貢献している。
本編中に登場していないが戦闘中のタバサは常時これを使用している設定。
展開しておくだけで勝手に敵をデバフしてくれるスキルであり、特にナイツチルで減少する耐性の属性をメインにするビルドには非常にありがたい。
そうじゃない場合でもベールオブシャドウ本体だけでも十分便利で、このスキルのOAと総合速度低下もナイツチルの耐性デバフ同様重複するカテゴリである点も強み。
「敵を弱体化させる」という搦め手を使うナイトブレイドの特徴をよく表しているスキルともいえる。



ファンタズマルアーマー

マスタリーレベル10で解放されるナイトブレイドのスキルで、敵の呪文からのエナジー吸収と、敵からの攻撃に対してのエナジー吸収報復を付与し、装甲・刺突耐性・凍結耐性・石化耐性を強化する。
パッシブスキルなので使用する必要はなく、取得した時点で能力が反映される。
タバサも取得している設定。
全体的に地味な効果ではあるが、装甲強化は元がペラペラなナイトブレイドとしてはありがたいし、刺突耐性も耐性パズルを楽にしてくれる。
石化はあまり使ってくる相手がいないが、凍結はそれなりにいるために耐性値はあるに越したことはない。
エナジー関連はほぼおまけだが、二刀サバター程度のエナジー消費のビルドはこれだけでエナジー関連の問題の解決に繋がる。
ある程度ブーストできれば1振っただけでそれなりの効果が見込める縁の下の力持ち的なスキル。
装甲、刺突耐性、凍結耐性辺りに不安がある場合はポイントの振込先候補としても悪くない。
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