“乗っ取られ”の少女、対魔忍世界に迷い込む   作:天木武

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Act28 私にこんな好奇心があったことは自分でも驚くぐらいだけど

 煙の中から現れた、どう見てもそれまでの年齢の姿に見えない夏は、ニヤリと笑ってタバサに話しかけた。

 

「さすがだよ、異世界人。予想もできない力を使う。さっきも言ったけど、本気を出さなきゃおそらくやられてた」

「その姿がおばあちゃんの本気ってわけか」

「そういうこと。……ただ見た目はこんな若いのにおばあちゃん、ってのはちょっといただけないね。この姿の時は『夏』と呼んでおくれ」

「ん。わかった」

 

 全く動じた様子のないタバサに、夏は思わず苦笑する。見物人3人の方が全員唖然としている分、そのギャップが凄まじい。

 

「折角この姿を見せたってのに面白みがないねえ。もっと驚くとか、中身が一緒か疑うとか、そういう反応をしてくれてもいいだろうに」

「驚いてはいるけど、隠すのを完全にやめたみたいだから、中身の気配が前の姿と一緒でまあ納得できるというか。……なんだっけ、生命エネルギーを操れるんだっけ。それで肉体を全盛期に戻してる、ってところかな。つまりトゥルーパワーってわけだ」

「トゥルーパワー……真の力って意味では……まあ合ってるかな。生命エネルギーに関しても今あんたが言った通り、まったくもって見事な観察眼だ。……さて、その真の力を見せてるんだ、そっちも全力で来な」

「そう言われても、さっき既に全力だったし、なのに明らかにより強くなってそうだし……」

「……なあタバサ、そんな相手に1対1で勝てない時に勝つための方法を教えてやろうか?」

「え、そんなのあるの?」

 

 ニッと夏が小さく笑った。

 

「数の暴力で勝負するんだよ。……そこの見物人3人! タバサ側に加わりな! 4対1といこうじゃないか! ……どうだい、これならわからないだろう?」

「あ、なるほど」

 

 タバサも振り返り、仮面越しに3人に視線を送る。

 

「な、なんかあんなこと言ってるけど……。ど、どうするの凜子……?」

「……いや、面白いかもしれない」

「(タバサと直接戦いたくはないけど、一緒に戦うってのはいい機会だし、おばあちゃんも間違いなく強い……。何か得られるものもあるかも)」

 

 ケイリー以外の2人はすっと立ち上がり、一瞬のうちに対魔忍スーツに身を包んでいた。ただ1人、どうしても乗り気になれないケイリーだけがそこに取り残される。

 

「どうしたケイリー、いいから来い。多分私なんかと手合わせするより遥かにいい経験になるぞ」

「(それにタバサと凜子と私の3人は近接特化。雷の力を操ることで距離をとっても戦えるケイリーがいれば戦闘に幅が出る)」

 

 こうまで言われては、もうケイリーに断ることは出来なかった。

 

「あーもう! わかったよ、やればいいんでしょ! で、凜子、作戦は?」

「今から考える。……すみません、少し時間を頂いても?」

「ああ、構わないよ。その代わり、ちゃんと私を楽しませてくれればね」

 

 代償が少々重いかもしれない。凜子の顔に苦いものが混じった。ここに小太郎がいてくれれば、という無いものねだりの気持ちが浮かぶ。

 

「タバサも来い。作戦を立てる」

「それはいいけど……。私集団戦なんてほとんど経験ないよ」

「そこは戦っていくうちに慣れていってくれ。とりあえずほぼ前衛のみが3人、後衛も可能なのが1人の状況だ。ここは数の利を生かして……」

 

 そうやって凜子を中心として話し合う4人を見つつ、夏は満足げに鼻を鳴らした。それからポツリと独り言を呟く。

 

「……タバサ、あんたは間違いなく強い。でも戦い方から察するに、おそらくこれまでずっと1人で戦い続けてきたんだろう。……もし仲間と連携した上でその力を活かせるとしたらどれほどになるか。ふうまの坊やに是非とも指揮を執らせて見てみたいもんだね」

 

 その様子を想像し、年を老いてなお沸き立つ心を感じる。夏が楽しげに煙管の煙を(くゆ)らせたところで、話し合いが終わった4人が戦闘態勢に入ったようであった。

 

 

 

---

 

「ただいま……」

 

 夜。ふうま家に主人の声が響いた。それを耳にした執事の時子が、専属メイドである鶴よりも先に駆けつける。

 そこで見るからに疲れた様子の主の姿に、時子の中に焦燥感が芽生えていた。

 

「おかえりなさいませ、お館様。それで……和解の席はいかがでした?」

 

 和解の席。それが今回小太郎がタバサと行き違いになる形でヨミハラに行った目的であった。元ふうまの対魔忍、鉄華院(てっかいん)カヲルが設けた席である。彼女はかつてふうま一族を支えた中枢、「ふうま八将」の幹部の一角だった。

 加えて、カヲルは今ではアミダハラ監獄の所長という立場でもある。そんなアミダハラ監獄にかつて小太郎が対魔忍の任務として潜入したことがあったのだが、その時にひと悶着が起きていた。それに対する手打ちという意味での和解の席と言われれば、かつてのふうま家幹部だった件と合わせて、小太郎にはもはや断るという選択肢はなかったと言ってもいいだろう。

 その和解の席が設けられた場所は、ヨミハラにあるカヲルがオーナーを務める高級クラブの「黒薔薇」だった。しかし、実際そこに赴いた小太郎は、そんな「和解の席」などというのは表向きの理由に過ぎないことを知ることとなったのだ。

 

「ああ……。完全にカヲルに担がれた。和解なんてただの口実。……あいつは俺をある人物に会わせたかっただけみたいだ」

「ある人物……? まさか……!」

 

 その先を言おうとした時子を小太郎は手で制す。

 

「いや、いいんだ。結局のところ俺がケリをつけなきゃならない問題だってのを改めて実感したって話だし。たださすがに疲れたから、今日は風呂入ってもう寝るわ」

「そうですか……。わかりました。……あっ、でも今日からまたタバサちゃんが来てるんで会ってあげてください。さくらさんと居間にいると思いますので」

「タバサが……? ああ、そういやヨミハラで昨夜タバサがいた世界の化け物が出たって話だったか。それで呼び戻した、と。……クラブでもその化け物の話がチラッと出たはずなのに、その後のせいで頭から完全に抜け落ちてた」

 

 普通に考えれば抜け落ちるはずがないニュースだ。が、それすら忘れるほどだったということになる。やはりフォローすべきかと時子が声をかけようとしたが。

 

「この間リーナの頼みで行った時も会えなくて今回は行き違いか……。あいつ怒ってないといいけど……」

 

 そう口にした時の様子は普段の小太郎に近いものがあったように感じ、あとは主に任せてみようと思うのだった。

 

「何かあったらお呼びください。タバサちゃんの説得係として一役買いますので」

「ああ、そのときは頼む」

 

 小太郎はそこで時子との会話を切り上げ、タバサがさくらと一緒にいるという居間へと向かった。

 

 時子の言葉通り、タバサは居間で居候のさくら――ブレインフレーヤーによって連れてこられた、五車教師のさくらよりも若いさくら――と話していたようだ。小太郎の姿を目にすると、なぜかさくらが不機嫌そうな顔に変わる。

 

「よし、タバっちゃん。打ち合わせ通りガツンと言ったれ!」

 

 さくらからそんな指示が飛ぶ。普段通りの無表情無感情を思わせる視線で、タバサは小太郎をじっと見つめていた。

 

「よ、ようタバサ。久しぶりだな。あー……なんだ、すまなかったな。少し前にヨミハラに行った時はゴタゴタしてて味龍に顔出せなくて、今日も行き違いになっちまったみたいで……」

「んー……。まあしょうがない。私は別に怒ってないから気にしないでいいよ。ふうま、今日疲れてるみたいだし、もう休んだら?」

 

 直前の時子とさくらの話っぷりからは予想していた態度と全く違う様子のタバサに、思わず小太郎は拍子抜けしていた。

 

「そ、そうか? じゃあお言葉に甘えて……」

「はあ!? ちょっと、タバっちゃん……?」

「いいから。……とりあえず久しぶりに顔見られただけでも良かった。詳しい話は明日以降でいいよ。お疲れ」

「お、おう……。悪いな。じゃあお疲れ」

 

 小太郎はそのまま居間を後にした。残されたさくらがタバサに詰め寄る。

 

「話が違うじゃん! 2回も会える機会をすっぽかされた上に凜子ちゃんと手合わせさせられた挙げ句、稲毛屋のおばあちゃんに4人がかりで挑んだのに完全に返り討ちにされたって愚痴ってやるんじゃなかったの?」

 

 今さくらが述べた通り、あの後4人がかりで挑んでも夏にはまるで歯が立たなかった。

 

 さすがに夢幻泡影こそ封印したものの、凜子の空間跳躍から繰り出される予測不可能なはずの斬撃。

 タバサのブレイドスピリットとネメシスとテルミットマインによって逃げ道を塞いだ上での孤路得意の逸刀流の超高速居合。

 前衛特化3人の手数で夏の動きを制限した状態で放ったケイリーの人工雷遁。

 その上でそこに加わるタバサの二刀による連続攻撃と、“乗っ取られ”としての様々な力。

 

 それら全て、夏にはまるで届かなかった。

 

「あんまり長いことこの姿だと生命エネルギーを消費するから、今日はここまでかな」

 

 夏がそう言い出したときには、4人とももう打つ手なしという完敗の状態だった。

 

「まあそんなに気を落とささんな。皆なかなか筋がいい。もっとうまく連携されてたら、ひょっとしたら私が降参してたかもしれないからね。……特にタバサ、あんたは仲間と連携することをもっと学ぶべきだ。間違いなく化けるよ。機会があるなら、ふうまの坊っちゃんに色々聞いてみるといい」

 

 口でこそ「降参してたかも」などと言ったものの、そんな気配は露程(つゆほど)も見せず、普段の稲毛屋のおばあちゃんに戻った夏はくつくつと笑っていたのだった。

 

 その話をタバサから聞いたさくらは「ふうまくんがいないからって勝手に連れ回された結果じゃん!」と怒り心頭の様子だった。

 

「さっきも言ったけど元はといえば全部ふうまくんが悪いみたいなもんでしょ!? だからガツンって言ってやるって話だったのにどうしたのよ!?」

 

 そんなさくらと対照的、タバサは落ち着いたまま静かに口を開く。

 

「うん、そのつもりだったけど……。今日のあの様子じゃダメ」

「ダメ?」

「精神的に相当参ってる。あんなふうまは初めて見る。ここでさっき言われたことをやると私が追い討ちをかける形になる。それはあんまりよろしくない」

 

 内面を読み取る能力に長けたタバサだから気づいたのだろう。事実、さくらは小太郎の異変に全く気づいていなかった。

 

「参ってるって……どういうこと?」

 

 タバサは答える代わりに部屋の外の方へ視線を移した。

 

「時子、いるんでしょ? 来てもらってもいい?」

 

 果たしてタバサのその言葉の通り、部屋の外で待機していたと思われる時子が姿を表す。

 

「……気配を殺すのには自信があったのに、失いそうだわ」

「私がふうまを責めなかった時に動揺したでしょ? その時に気配に気づいた」

「うぅ……」

 

 執事としての面目丸つぶれだ、と言いたげに時子はがっくりと項垂れる。が、タバサはそんなことを気にしない様子で続けた。

 

「で、私が聞きたいのは大体わかってると思うけど。なんでふうまがあんなに落ち込んでるっていうか、精神的にダメージを負ってるの?」

「……ごめんなさい。それは答えられない。これはお館様がご自分でなんとかしようとしているし、しなくてはならない問題だから……」

「そっか」

 

 意外にあっさりと引いてくれた。そう思った時子だったが。

 

「さくらは心当たりない?」

 

 聞くだけ無駄だと判断して質問の相手を変えただけのようだった。

 

「その前に私の質問の答えは!? ふうまくんが参ってるってどういうこと!?」

「ふうま、今日ヨミハラに行ったのは知ってるよね。それで、アサギが言うには時子に聞いても詳しい答えはぼやかされたから、おそらくふうま家が関わる話だろうって。今の時子の反応からもそれで間違いないと思う。そこで何か……ふうま家に関わるショッキングな話とかあったんじゃないかなって。……で、私より先輩居候のさくらなら何か知ってそうだと思った」

 

 うーん、と考え込んださくらだが、すぐに時子が鋭い視線を送っていることに気づく。

 

「ちょ、ちょっと時子さん、そんな怖い目で見ないでよ。どっちにしろ私には思いつかないって」

「……よかった。余計なことを言いそうなら、ここから無理矢理にでも引きずり出そうかと思ったし」

「こ、怖っ……!」

「じゃあ結局この家の中で今日のふうまがおかしい原因を探るのは不可能か。ん、よくわかった」

 

 そう言ったタバサだったが、時子としては引っかかるものがあったらしい。

 

「……その言い方、この家じゃないところでは探すつもりかしら?」

「あんなふうまを見て気にするなって言う方が無理。こっちの調子が崩れる」

「……タバサちゃん、もう1回言っておくわね。この件はお館様御自身が決着をつけなくちゃいけない問題。無闇矢鱈と手を出すことは……」

「わかってる。でも原因は知りたいなって思っただけ。……私にこんな好奇心があったことは自分でも驚くぐらいだけど」

 

 その言葉に時子はややキョトンとした様子で、一方でさくらはなぜかニヤニヤ笑っていた。

 

「……わかりました。あなたのその言葉を信じるわ。立場上、私の口からはそれが何かは言えないけれど、お館様の問題解決の邪魔にだけはならないようにして頂戴」

「ん。わかった」

「えぇー、時子さんそれでいいの? ……タバっちゃんがふうまくんをそんなに気にする、ってことはだよ。それ……もしかして恋じゃないの?」

 

 突如さくらの口から出てきた「恋」という単語。時子は思わずそれに反応して顔が赤くなってしまっていた。

 

「こ、恋!? そうなの、タバサちゃん!?」

「……さくらの言ってることがよくわからない。そもそも私は恋という感情を知らない」

「フフーン、じゃあこのさくら様が教えてあげるよ! 例えばだよ、タバっちゃん。ふうまくんのことを考えると急に胸が苦しくなったり……」

「別に」

「まぶたを閉じるとふうまくんの顔が思い浮かんだり……」

「無い」

 

 あまりにも素っ気なく、しかも動揺すら全くしない様子のタバサに、さくらは白け顔になってしまった。

 

「……ごめん、時子さん。私の考えすぎだったみたい」

「そ、そう……。まあよかったわ。……鶴さんが勘違いしたらタバサちゃんも危なくなるかもしれなかったし」

 

 全く話についていけないタバサは「なんで鶴が出てくるの?」と言った様子だが、2人は答える気はないらしい。

 

「とにかく、最後にもう1回断っておくけれど……」

「ふうま自身が決着をつけなくちゃいけない問題、でしょ。私はただ勝手に調べて、そんなことがあったんだって思うだけ。……ふうまの邪魔をする気はないよ」

 

 これ以上はもう口を挟めないか、と時子は思った。あとはタバサ次第、そんなふうに考える。

 

 彼女が言った「好奇心があったことは自分でも驚くぐらい」という言葉。それは、タバサ本人と同じぐらい時子も驚かせていた。食べることは好きなようだが、それ以外あまり興味を示さない彼女が、ふうま小太郎という人間に関心を持っている。

 さくらが言う恋かどうかはわからない、というよりありえなさそうな反応だ。それでも、この世界で()()()()()()()をしている時子としては、これはいい傾向かもしれないと、見守ってみたい気持ちになったのだった。




タバサと小太郎が行き違いになった理由について後半部分で小太郎に述べさせていますが、原作である対魔忍RPGのストーリーイベント「別れの夜会」の部分に該当しています。
ヨミハラの話なのに珍しく静流が登場せず、仕事を代わりの対魔忍(そのイベントの報酬でもあった星乃深月(ほしの みつき)、本作で今後登場するかは怪しいところ)に任せているという原作設定のおかげもあって、一応矛盾なくタバサとともに静流を五車に戻すことが出来ました。



アナトミーオブマーダー

マスタリーレベル20で解放されるナイトブレイドのスキルで、生命力ダメージの割合強化、生命力減衰と出血ダメージの割合強化と持続時間延長、人間へのダメージ増加、%で狡猾性を強化する。
パッシブスキルなので使用する必要はなく、取得した時点で能力が反映される。
タバサも取得している設定。
一見パッとしない効果のように思えるが、%狡猾性上昇のおかげでクリティカル率に関係するOAが強化されるため、クリティカル重視ビルドにはそれなりに有用なスキル。
また、狡猾性の上昇がダメージに直結するために狡猾ガン振りまである物理・刺突・出血ビルドとの相性もよい。
あとは生命か出血を使う上で余裕があるならばダメージ強化のためにポイントを割くといった感じ。
人間へのダメージ増加はおまけ感覚だが、人間の敵は結構多いので意外と有用だったりする。
パッシブスキルということで、困ったらとりあえず1だけでも振っておけば機能してくれる。



マーシレスレペトワー

マスタリーレベル32で解放されるナイトブレイドのスキルで、実数の毒ダメージを追加し、冷気・凍傷・酸・毒ダメージと報復ダメージを割合強化する。
パッシブスキルなので使用する必要はなく、取得した時点で能力が反映される。
タバサも取得している設定。
毒を重視するDoTビルド、あるいは報復ビルド向けのスキルで、冷気や酸を使う場合でもこれよりもメインに使うスキルや防御スキル系に振った方が効果的なため、かなり影の薄いスキル。
とはいえパッシブスキルということで1だけでも振っておけば機能するので、該当属性を使用する場合はとりあえず1振りで多少なりともダメージ底上げするのがいいと思われる。
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