“乗っ取られ”の少女、対魔忍世界に迷い込む   作:天木武

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Act30 パジャマパーティー、スタート!

「それじゃあ……。パジャマパーティー、スタート!」

 

 ゆきかぜの掛け声に「イェーイ!」と参加女子が拳を突き上げる。が、その直後、途端に冷静になった様子で、参加者であるさくらがゆきかぜに問いかけた。

 

「……って、一応ノッてみたけど、これ配信とかしてないよね?」

「してないしてない! あくまで夜更かししながらどうでもいいこととか話そうって企画の集まりだし」

「よかった。ゆっきーのパソコンってすごいから、てっきりそう言うこともするのかなーとか思っちゃった」

「まあ私はゲーム配信をやる時もあると言えばあるけど……。って言っても、声だけね。使うとしてもガワにアバターって感じ」

「へぇー……。ゆきかぜちゃん色んなことやってるんだ。すごーい……」

 

 蛇子が感心したような声を上げる。それを聞いたゆきかぜは得意げに胸を張ってみせた。

 

 今回のパジャマパーティの提案者は蛇子だった。タバサがまた五車に戻ってきたことと、とあることをきっかけとして発案し、場所を提供する形でゆきかぜが乗った。そこにさくらとタバサが参加した形である。

 さらに、ゆきかぜの家、ということでタバサのように居候している少女2名も参加している。クリア・ローベルとカラスだ。

 

 クリアは元々、アサギ暗殺のために送り込まれた存在であった。本来は見た目通り子供っぽい性格で優しい少女なのだが、指示に逆らうと自我を奪うような仕掛けが施されていたり、挙げ句には体内に爆弾まで仕掛けられたりしていた。

 しかし小太郎を始めとした独立遊撃隊の活躍によりそれを回避。彼女自身が小太郎に懐いていたため、紆余曲折の末五車で預かってゆきかぜの家に居候する、ということになったのであった。

 

 カラスはその名の通り、魔界に生息するヤタガラス族という種族の子供である。ヤタガラス族は幼少時代は話すことが出来ないらしく、主にジェスチャーで意思疎通を図っているが、子供ということもあり、クリア同様無邪気な性格なために2人とも気が合っているようである。

 五車の外で出会ったのだが、やはり小太郎に懐いてついてきたために、紆余曲折の末ゆきかぜの家に居候することとなった。

 ただ、嘴には強力な毒があったりもする。それでも気にせず居候させている辺り、ゆきかぜの肝の座り方がわかる、というものかもしれない。

 

「……で、さっき軽く紹介しただけになっちゃったけど、どう? クリアとカラス、タバサと仲良くできそう?」

「大丈夫。タバサはふうまにあだなす存在じゃないからくちくしない」

「~♪ ~♪」

 

 クリアは言葉で、カラスは身振り手振りでタバサを歓迎しているようだった。それにタバサも答える。

 

「ん。よかった。……ゆきかぜの家ってことでさくらに連れられて来たけど、なんか立派な建物だし、執事はアンデッドだしで驚きっぱなしだったから」

 

 言うほど驚いていただろうか、とゆきかぜが記憶を探る。城のような家の外観を眺めた時も、冥遁(めいとん)の術でアンデッドになってなお仕えている水城家の執事を見た時も、タバサの表情にそれほど変化が無かったように思える。

 

「でもタバサちゃんのいた世界って、話を聞く限り私たちで言うところの中世ヨーロッパ的なイメージを受けるんだけど。こういうお城とかなかったの?」

 

 蛇子の問にタバサは首を傾げた。

 

「あんまり無い気がする。城、って言っても砦っぽい感じの建物の方が多かった。エルーラン帝国の首都とかまで行くとまた違うのかもしれないけど」

「エルーラン帝国?」

「ケアンで最も栄えてた国。……ただ、皇帝がイセリアルに“乗っ取られた”ことで一気に崩壊、グリムドーンを引き起こすきっかけになったわけだけど」

「あ……なんかごめんね……」

 

 つい気軽に聞いてしまったが、タバサのいた世界は終末世界だったということを改めて思い出し、蛇子が謝罪する。

 

「別にいいよ。……というか、今日ってどういう会なの? さくらについてくるように言われたからとりあえず来たんだけど……」

「こういう他愛もない……まあタバっちゃんの世界の話に触れるのはちょっとアレかもしれないけど、とにかく女子トークをするのがパジャマパーティーだからあんまり深く考えなくていいんだって」

「そうそう。ちょっと小腹が減った時ようにお菓子もあるから。蛇子の手作り特製タコスミ入りクッキーどうぞ」

「タコスミ……」

 

 タバサが蛇子から勧められた黒いクッキーを不審そうに眺める。それから恐る恐る口に運んだ。

 

「……うん、まあ、悪くない」

「わあ! よかった」

 

 蛇子は喜んでいるようだが、タバサとそこそこ一緒に暮らしているさくらは心の中でツッコミを入れる。

 

(タバっちゃんっておいしいものは素直においしいって言うから、今の言い方を考えるとイマイチなんだろうなあ……。タコスミ入れないで普通のクッキーにすればいいのに……)

 

 そんなことを考えながらゆきかぜが用意してくれた普通のチョコレートをつまむ。こっちは間違いない、とさくらはタコスミクッキーは避ける方向でいくことにした。

 

 他愛もない話をするパジャマパーティーということで、主に久しぶりに五車に戻ってきたタバサに関連する話を聞くことで時間は過ぎていった。

 ヨミハラでのバイトのこと、味龍の料理がおいしいこと、イングリッドとお茶を飲んだこと、久しぶりに帰ってきて凜子や稲毛屋のおばあちゃんと手合わせしたこと。

 

 皆興味津々と言った感じである。特に闇の街の話、さらにはノマドの幹部と一緒にお茶を飲んだという話は対魔忍からするとかなり刺激的な話だったようだ。

 

「イングリッドって最強の魔界騎士、とか言われてるあのイングリッドでしょ? 威圧感とかなかったの?」

 

 ゆきかぜの問いに、タバサは考え込んだ様子を見せてから答える。

 

「まあ間違いなく強いのはわかったけど、こっちに敵意を向けてこなかったから大丈夫だった。それにその前に共闘してて、向こうもこっちが余計なことをする気がないってわかってたのもあるんじゃないかな。裏表がない人だから、結構話しやすかった」

「ノマド幹部相手に『話しやすかった』で済ませてるの、大物感あるわぁ……」

 

 信じられないと言いたげにゆきかぜがそう口にし、皆揃って首を縦に振っていた。

 

 そんな感じで、女子トーク、からは少し離れているかもしれないが、場はなかなかに盛り上がっていた。

 

「でもさ、あの時も言ったけど、帰ってきたタバっちゃんが凜子ちゃんとか稲毛屋のおばあちゃんと戦う羽目になったのって、ふうまくんがいきなりヨミハラに行って行き違いになっちゃったからだと思うんだよね」

 

 そうして話がしばらく続いた頃。ここでようやく女子トークらしく、男子の名前が出てきた。

 

「ふうまちゃんって時々そういうところ自分勝手だよね。今日だってさくらちゃんとタバサちゃんを置いて鹿之助ちゃんと男2人で東京キングダムに出かけちゃったし。まあこのパジャマパーティーもそれに対抗してやろうって思ったんだけどさ」

 

 タバサが五車に戻ってきた以外の、このパーティーを開いたもうひとつの理由。それが、今蛇子が言った、要するに男2人で遊びに行ったことに対するあてつけであった。

 

「……でもまあなんかレースを見に行ったらしいから、そう言う趣味は男子向けかもしれないけど」

「え!? 東京キングダムのレースって……もしかして『デスグランプリSP』のモデルになってるやつじゃないの!? ふうまの奴、なんで私に声かけないのよ」

「ゆきかぜちゃんもそういうレースとか興味あるの?」

「実物はあんまり。でもデスグランプリSPはFPSの息抜きにやることもあるから知ってるって感じ」

「げ、ゲームの息抜きにゲーム……」

 

 完全にゲーマーの発言だ。にも関わらずゆきかぜは全身日焼けしているのだから、それと同じぐらい外でも遊んでいるのだろう。一体どうやってそんな時間を作っているのか、蛇子は不思議に思ってしまった。

 

「そのことなんだけど……。実は今日の件、タバっちゃんが一枚噛んでるっていうか……。私は影に潜ってついていこうと思ったんだけどね」

 

 そう言い出したのはさくらだ。さくらの忍法は“影遁(えいとん)の術”。影を操る忍法である。特に今言ったように影に潜ることを得意としており、人知れず小太郎のボディーガードを務めたりすることもあった。

 

「タバっちゃんに止められたの。『気心の知れた男2人で行ったほうがふうまくんのためにもいい』とかって」

「どういうことよ?」

 

 ゆきかぜが怪訝そうな顔でタバサを見つめる。

 

「んー……。あ、ちょうどいい機会だしあの事も含めて聞いてみるか。私がここに戻ってきた日、さっきさくらが言った通りふうまと行き違いになったんだけど、夜に帰ってきたふうまが精神的にかなり参ってたっぽくて。だからちょっとでも気分が晴れたほうがいいだろうなってことで、あまり気を使わないで済むであろう鹿之助と2人で行かせるように言った」

「……まあタバサちゃんがそう言うなら。気配を察知したり内面を見抜いたりする力は本物ってよく言われてるし、本当にふうまちゃんが精神的に少ししんどかったんだろうなっては思う」

 

 そう言った蛇子へとタバサは体ごと動かしてまっすぐに視線を向けた。

 

「な、何……?」

 

 その勢いに一瞬怯む蛇子。

 

「ここから先が私が本当に聞きたいこと。……ふうまが精神的に参ってる理由を聞こうとしたけど、あの状況だと当人には聞きたくないからって時子に聞いてみた。そうしたらなんかふうま自身がどうにかしなくちゃいけない問題だから答えられないって。それが何か、付き合いの長い蛇子とかなら知ってるんじゃないかって思った」

「い、いきなりそんなこと言われても……」

「何かふうま家が関わってるような、そういう問題。心当たりない?」

 

 しばらく唸っていた蛇子だったが、不意に「あっ!」と声を上げた。

 

「ふうま家に関わってて、ふうまちゃん自身がどうにかしないといけない問題っていうと……」

「あれ、しかないわよね……」

 

 蛇子の言葉をゆきかぜが続ける。

 

「え、蛇子だけじゃなくてゆきかぜも知ってるの?」

「知ってる。……というか、里の人間ならほぼ知ってる。確かにあれはふうま家に関わる問題……汚点だろうからね」

「汚点?」

 

 ハァ、と蛇子が大きく溜息をこぼした。それから渋々と言った様子で口を開く。

 

「ふうまちゃん自身がどうにかしないといけない問題……。多分、骸佐(がいざ)ちゃんの件だと思う」

 




小太郎と鹿之助が2人で行った東京キングダムのレースですが、原作であるRPGのマップイベント「イングリッドの休暇」の部分に該当しています。
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