“乗っ取られ”の少女、対魔忍世界に迷い込む   作:天木武

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Act31 だって今日は秘密の女子会、パジャマパーティーだからね!

「骸佐?」

 

 タバサがオウム返しにその名前を口にする。「ええ」と答えたのは今度はゆきかぜだった。

 

二車(にしゃ)骸佐。ふうまや蛇子にとっては幼なじみ。そして……ふうまが独立遊撃隊の隊長に選ばれるきっかけを作った……あいつにとっては因縁の人物」

 

 蛇子とゆきかぜは、まずそもそものふうま家の歴史についてから話し始めてくれた。

 

 元々ふうま一族は対魔忍内部でもかなりの発言力を持つ一族であった。しかし保守的な言動が災いし、対魔忍組織の改革を押し進めようとする主流派の井河一族とやがて対立を深めていってしまう。結果、当時のふうま一族の長であり、小太郎の父親でもあるふうま弾正は反乱を起こしたのだった。

 しかしその反乱は失敗に終わる。そして井河一族がふうまの里を攻め滅ぼした結果、残ったふうま一族は井河一族の支配下である五車の里へと下ると同時に大幅に力を失うこととなった。

 

「……ん? ちょっと待って。確か扇舟がふうまの父親を殺したって言ってた気がする。その時の主流派だったってことなんだろうけど、その後アサギと対立してる。なんで?」

「私もふうまちゃんやアサギ先生程詳しくはないんだけど……。その反乱の時に井河の中でも揉めたらしくて。扇舟さんが属してた井河長老衆と呼ばれる派閥はふうま一族を完全に滅ぼそうとした。だけど当時既に井河の代表だったアサギ先生はふうまちゃんや時子さんをはじめとした、恭順の意思を示した生き残りのふうま一族の人たちを庇護下に置くと宣言したの。私の家……相州家もふうま家に仕えてる形だから、その時の生き残りに当たるのかな。とにかく、結果として停戦という形でその反乱は終わりを迎えたわけ」

 

 タバサの質問に蛇子が答える。「んー……」と少し考え、再びタバサが口を開いた。

 

「じゃあ扇舟が属してたところはその後さらにアサギたちのところと内輪揉めして戦って負けた、ってことか」

「多分そうだと思う」

「不毛」

 

 対魔忍内部での争いに対し、タバサは一言で切って捨てた。だが直後「でも……」と付け加える。

 

「ケアンも似たようなものだから人のことを言えないか。イセリアルとクトーニックの驚異に晒されて滅亡の危機に瀕してるのに、人間同士で争って略奪しか考えないクズどもやら、己の思想こそが正しいからと相反する者と敵対する狂信者どもやら、そういった連中はたくさんいたし。……人間って愚かだね」

 

 呆れたようにタバサは大きくため息をこぼす。

 

「……ごめん、話の腰を折った。その反乱で前当主を失ったことがきっかけでふうまが今の立場……つまり現在の当主になったわけだ」

「うん、そうなんだけど……」

 

 ふうま一族は「邪眼」と呼ばれる異能系忍法を宿す一族である。しかし小太郎の右目は生まれた時から開かれることがなかった。いつかは力が覚醒するのではという希望を持たれていたものの、その時は一向に訪れず、やがては「目抜け」と蔑まれて落ちこぼれの烙印を押されることとなってしまった。

 

「子供の時はまだ良かったの。もしかしたらいつかは、って思われてたし。だから、蛇子とふうまちゃんと骸佐ちゃん……他にも銃兵衛(じゅうべえ)ちゃんや(くれない)ちゃんとかもいたけど、一緒に楽しく遊んだりしてた。でも段々大きくなって、ふうまちゃんは自分に力がないことで荒れるっていうか、色々諦めて無気力になっちゃって……。授業もまともに出ないで本を読んでる不良生徒になっちゃったの」

「まあ授業に出ない不良生徒なのは今もだけどね。……正直、私もずっと見下す側だったから、そこは申し訳なく思ってるけど」

 

 そのゆきかぜの言葉に「え」とタバサが反応した。

 

「ゆきかぜって昔はふうまと仲悪かったの?」

「悪いっていうか……」

「昔のゆきかぜ、いじめっ子。それ、ダメ」

「……! ……!」

 

 気づけばクリアとカラスにも非難されてしまっていた。

 

「悪かったとは今でも思ってるわよ! その件はちゃんとふうまと和解したつもりだし、今じゃ知識と指揮能力をはじめとして評価もしてる。……でも、それはふうまが独立遊撃隊の隊長に選ばれてからのこと。それまでのあいつは、私だけじゃなく他の人からもどうしても落ちこぼれっていう目で見られてた」

「そしてそんな風にふうまちゃんの見る目が変わった契機となった、独立遊撃隊なんだけど……。作られるきっかけになったのが、骸佐ちゃんが起こした事件なの。それが……ふうま再興を掲げて起きた、五車での反乱」

 

 骸佐の家である二車家は元々「ふうま八将」というふうま一族の中枢を担う家柄であった。しかし弾正の反乱でふうま八将はほぼ肩書だけが残される状態になってしまう。

 それでもふうま再興を夢見る者は少なくなかった。だが、そんな人たちにとっての希望だったはずの新当主・ふうま小太郎が落ちこぼれとわかると、落胆と不満を募らせていく形になってしまった。

 骸佐もその流れに自然の飲まれることになっていく。小さい時は仲良く遊んでいた当主をやがては蔑むようになり、苛立ちをぶつける相手になっていった。

 そして起きたのが、骸佐を首謀者とするふうま再興を掲げた五車での反乱だった。

 

「独立遊撃隊はふうまちゃんが責任を取る形で、骸佐ちゃんを何とかするためにアサギ先生が立ち上げた隊という意味合いが強いの。それに多分、ふうまちゃんも自分が不甲斐なかったからあんなことになったんだって自責の念もあっただろうし。出来ることなら、私はまた昔みたいに戻りたいと思う。でも……」

 

 蛇子は目を伏せ気味にして続ける。

 

「……骸佐ちゃんは、1度ふうまちゃんを()()()()。だから、それも難しいのかも」

「殺してる……? でもふうまは今生きてる。どういうこと?」

 

 タバサの問いかけに蛇子は難しい顔をしながら答えた。

 

「よくわからないんだけど……。ふうまちゃんの中に闇の力みたいな、不思議で危険な力が眠ってるとかなんとかって。それで、その力で奇跡的に息を吹き返したの」

「……ただ単に急所を外したとか、そう言うのじゃないの?」

「絶対に違う。あの時の骸佐ちゃんの大太刀は……ふうまちゃんの心臓を確実に貫いてた。それに、生き返った時に傷口が完全に塞がってたし……」

 

 だとすると本当に蛇子が言ったような力だろうか。タバサが考え込む。

 

「ふうまのその力は私も見たことあるから間違いない。でも忍法っぽくないっていうか……」

「ライブラリーさんも危険だからって忠告してるんだけどね……。ふうまくん、ああ見えて責任感っていうか自己犠牲の精神っていうか。そう言うのが強いから、多少無理してでも使っちゃってるっぽいんだよね」

 

 ゆきかぜとさくらも補足してきた。ここまで言われるのであればもはや疑う余地はないだろう。

 

「ってか、今の話聞いてると皮肉だなあって」

「皮肉?」

 

 そこでさくらがそう切り出し、ゆきかぜが首を傾げた。

 

「だってさ、ふうまくんを認められなくて反乱起こしたわけでしょ? そしたら独立遊撃隊が作られて、ふうまくんの知識と指揮能力が活かされた。さらに今度は実際に手にかけたら、なんか今までになかった力をふうまくんが手に入れた。そして今じゃふうまくんはそれなりに当主としての姿が板についてきてるようにも思える。……反乱をきっかけにそうなったっても考えられるけど、もし最初からふうまくんにそれだけの力があったら、その反乱も起きなかったんじゃないかなって」

 

 さくらの発言に、皆黙り込んでしまった。確かに皮肉な話のように思える。

 

「あ……。なんかごめんね。折角のパジャマパーティーなのにこんな暗い空気にしちゃって」

「さくらが謝る必要ない。この話題をそもそも切り出したのは私だから、謝るなら私。ごめん」

 

 タバサが軽く頭を下げる。が、すぐそれを戻した後、本当に悪いと思ってるのか怪しい口調で続けた。

 

「もうひとつ確認したい。ふうま再興なんて御大層な目的を掲げて反乱を起こしたみたいだけど、ヨミハラにしばらくいてふうま再興がどうのって話は全く耳に入ってきてないし、ここにいる間も同じだった。そいつらは今どこで何をしてるの?」

 

 蛇子とゆきかぜが顔を見合わせる。それから言いにくそうに蛇子が答えた。

 

「東京キングダム……それこそ、今日ふうまちゃんと鹿之助ちゃんが行ったところを縄張りに、『二車忍軍』って組織を名乗って勢力を伸ばしてるみたい」

「……は? ふうま、そんなところに今日わざわざ行ったわけ?」

「一口に東京キングダムって言っても結構広いから……。今日ふうまが行ったところはさすがにその連中の勢力下じゃないと思う」

 

 ゆきかぜの補足に、さらに蛇子も付け加えた。

 

「蛇子の知り合いのワーウルフさんが仕切ってる獣王会っていうのもあるから。そこの勢力下は比較的安全だし、今日ふうまちゃんが行ったのもそこじゃないかなーって思うんだけど……」

「獣王会……。あ、どこかで聞いたことあると思ったらトラジローが所属してる組織か。じゃあトラジローもその骸佐ってやつのせいで困ってる可能性もあるんだ。ふーん……」

 

 表情は変わらないが、どことなくタバサから不満な気配が滲み出ているのは部屋の人間全員が気づいていた。しかしタバサはそれを気にした様子もなく続ける。

 

「とりあえずまとめる。ふうまの力も詳しく知りたいところだけど……。とにかく、気になってたことの答えは大体わかった。つまりあの日、ふうまが精神的に参ってたのは、おそらくその二車骸佐って奴に会ったから、ってことになる?」

「そうだと思う。ふうまちゃんがそんな状態になる相手で、かつ、どうにかしないといけない相手ってなると真っ先に思い浮かぶのは骸佐ちゃんだから」

「なるほど……。ん。ありがとう。気になってたことが解けたし、そいつについても色々聞けてちょっとスッキリした」

「ちょっと?」

 

 ここまでの話と、今の蛇子の明確な発言で満足できる答えが帰ってきたはずだ。そう思ったゆきかぜは思わず突っかかっていた。

 

「うん。確かにあの日のふうまの様子の理由についてはよくわかった。それはいい。でもそれ以上に……」

 

 ゾワッ、と冷たい不気味な空気が、楽しいはずのパジャマパーティーの部屋を駆け抜けた。

 

「今は二車骸佐って奴に対して腹が立ってる」

 

 相変わらずの無表情無感情だが、言葉通りタバサが怒っていることは、発せされる気配から明らかだった。

 

「右も左も分からないこの異世界で、ふうまは私が困らないようにしてくれたし、名前も与えてくれた。だから私はふうまに感謝してる。……そんなふうまを『殺した』時点でまず許せない。それに、そいつが馬鹿な行動をしたせいでふうまが責任を取らされてるのも許せない。そして、そいつのせいで今私が世話になってるふうま家の人たちが『身内から裏切者を出した』という汚名を被せられてることも許せない」

 

 仮にも骸佐の幼なじみであった蛇子としては、何かしら彼を擁護する発言をしたかったが出来なかった。それほどまでに、タバサの圧に恐怖を覚えていた。

 そんなしんと静まり返った部屋の中で、さくらは内心困っていた。

 

(まっずいなあ……。これタバっちゃん、マジでキレてるよ……。確かに気持ちは分からないでもないけど……ここまでキレるのはヤバいって。どうしよう……。勝手な行動とか起こされたりするとまずいし、時子さんとかライブラリーさんとかふうまくん本人とかに後で一応報告したほうが……)

 

 そんなことを考えていた、その時。急にタバサが体ごと視線をさくらの方に向けてきた。

 

「さくら」

「は、はい! なんでございましょうか!?」

 

 あまりにも絶妙のタイミング過ぎたために、さくらは思わず動揺してしまう。

 

「時子に言われたことは守る。骸佐の件はふうま自身が決着をつけなくちゃいけないこと。それはよくわかってる。……だから時子やライブラリー、あとふうま本人にも。今日のことは言わないで欲しい」

「ひ、ひいっ……!」

 

 心の中で思ったことをズバリ言い当てられてしまい、さくらは狼狽するしかなかった。

 

「ワガママを言うようだけど、そのせいで行動を制限されたり今以上の監視をつけられるのはあまり好ましくないし。それに……ふうま本人に焦らせるような嫌な思いをさせたくない」

「あ……」

 

 最後の言い分は、黙っているべき理由としてはすとんと腑に落ちたとさくらは感じていた。

 

「本音を言えば、ふうまがさっさと何とかすべきじゃないかという思いはある。でもそれが簡単には出来ないんだろうってことも理解はしてる。だから急かすような真似はしたくない。何よりふうま自身が解決しなくちゃいけない問題ってずっと言われ続けて、そのことはよくわかってるから。勝手な行動はしないって約束する」

 

 困ったようにさくらは頭をかく。少し間を開けてから、わざとおどけたように口を開いた。

 

「……まあいいか。私からは言わないよ。だって今日は秘密の女子会、パジャマパーティーだからね!」

 

 無理矢理空気を変えるようにさくらはそう言った。やや滑稽でありながらも、あえてそう切り出したであろう言葉に対してゆきかぜが笑いながら答える。

 

「何それ。ここにきて突然女子会だのパジャマパーティーだので乗り切ろうとするのってちょっとずるくない?」

「あー……。でも本来楽しいはずのその空気を壊したのは大体私の責任だ。本当に申し訳ない。ちゃんと反省してる。ごめん」

 

 さっきと違い、タバサは今度は深々と頭を下げた。

 

「いいよタバサちゃん。それだけふうまちゃんを思ってるってことは伝わってきたし。……で、でも、ね。蛇子的にちょっと気になることがあって……」

 

 急に蛇子がモジモジしだした。どうしたのだろうとタバサが次の言葉を待っていると。

 

「そんなにふうまちゃんのことを気にかけてるってことは……。タバサちゃんって、そ、その……。ふ、ふうまちゃんのこと……す、好きだったりするの!?」

 

 顔を真っ赤にして蛇子がそう切り出した。それに対するタバサの答えはシンプルだった。

 

「ん。好きだよ」

 

 その一言を契機に、場が一気に本来あるべき女子会ムードに変わっていた。

 

「う、ウソ!? そんなあっさり言っちゃうなんて……」

「ちょっとタバサ! あんたもふうまのこと狙ってるの!?」

「タバサ、ふうまを狙ってる……もしかして、くちく対象……」

「……! ……!」

 

 蛇子、ゆきかぜ、クリア、カラスの順に一斉に反応を示す。が、そんな中、ついさっき女子会ムードに持っていこうとしたさくらだけがやや呆れ気味だった。

 

「あー……。皆の衆、盛り上がってるところ申し訳ないのだが……」

「何よ! ってか、さくらはなんでそんな平常心なわけ!?」

 

 ゆきかぜにそう言われてもさくらの様子は変わらない。

 

「いやあ……。多分タバっちゃんの『好き』って皆が思ってるのと違うよ、って言いたくてさ。私も先日似た思いを抱いたから『それは恋じゃないか』って尋ねたんだけどさ……」

「恋という感情はよくわからない」

「……って言うからね。今回の好きっていうのも、私たちに向けてる感情と近いんじゃないかなって思って」

「ん。確かにそう。ここにいる人は皆好き」

 

 「なぁんだ……」という声も聞こえつつ、部屋の中の熱が冷めていくのを感じる。女子会としては本来このまま恋バナで盛り上がるのが正しい姿なのかもしれない。しかし、こういうのも悪くない、とさくらは思っていた。

 

「……あ、でも話で聞いてるだけだけど二車骸佐は嫌い」

「だー! 折角女子会っぽくなってきたんだからそれを蒸し返すのは禁止ー!」

 

 さくらのツッコミで思わず場に笑いが起きる。夜も更けてきたが、パジャマパーティーはまだまだ続きそうだった。




Grim DawnのV1.1.9.7アプデが来たようです。
発売から結構経ってるのに相変わらず全体的に細かく手が加えられてるようですが、1番目を引いたのは「鍵ダンボスのMIドロップ率増加」と「異端者の墓の魔術師のドロップ率増加」ですかね。
アルカモスリングと魔術師リングはほんと全然ドロップしてくれなかったので、拾いやすくなったのはいいことだと思います。
あとはデモリのグレネイドに細かく手が入ってる様子。強スキルになるのかな……。
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