タバサの後に仮想イセリアルと戦った5人は見事だった。
五車町にイセリアルが現れたためにイセリアルセンチネルの撃破を目標に打って出る、という状況を仮定し、ステージは五車町をリアルに模したものだった。タバサが戦ったような完全に開けた空間と違ってメインとなる通りを中心に戦闘しつつ、限られた道幅の中、さらに横道からの奇襲にも備えなければならない。
だがそこはさすがの小太郎の指揮であった。
蛇子の吸盤センサーと、鹿之助の電遁を応用したソナーによって常に索敵をしつつ進軍。出会ったリアニメイターとリビングデッドの集団は、中遠距離において絶対的火力を持つゆきかぜと舞華の忍法で撃ち倒していく。
特に使役者さえ倒せば手下を無効化出来るという点は、この2人にとって有利に働いた。舞華の爆炎によってゾンビたちの焼き払うことで強引に道を切り開き、ゆきかぜの雷撃弾で使役者を狙撃。この戦法で敵集団を次々と殲滅していった。
多方面からの同時襲撃による戦闘を強いられたこともあったが、蛇子のタコスミ煙幕によって敵の足を止め、戦闘を一方向に集中して迅速に一点突破。その上で残りを各個撃破という手順を小太郎は的確に指示していく。
結局統率された戦闘によって仮想イセリアルの訓練はあっさりと終わりを迎えていた。あまりの早さにタバサが愕然としていると、アサギがフォローするように声をかけてきた。
「今回出した敵はさっきタバサが戦った時の2倍だけど、こちら側の戦力もタバサ1人に対すると5倍なんだから早くて当然とも言えるわ。それに、中遠距離戦に長けたゆきかぜと舞華が『使役者を倒せば手下を無効化出来る』という特徴に噛み合いすぎてるのもあるし。……でも、ふうまくんの指揮が見事なのはこれで伝わったんじゃないかしら?」
異論はない、とタバサは素直に頷く。
「私はずっと独りで戦ってきたから、役割を用意して分担するというのがこれほどだとは思わなかった。……ちょっと考えを改める」
「私やタバサの場合は極端な話、突っ込むのが仕事になるわけだけど、そのタイミング次第で効果が変わってくる。ふうまくんならそれを見極められると思うわ。例えばこの戦闘でよくやってみせたように、蛇子の煙幕を盾にして相手が怯んだ瞬間に飛び込むとか、あるいは逆に相手が無理矢理突っ切って来たところで待ち伏せるとか」
「イセリアルに煙幕は効いてるか怪しいと思ったんだけど……。でもそうか、人間が相手なら効果が見込めるのか。うーん……。突っ込んで斬ればいいって考えてたけど、奥が深い……」
良い変化だ、とアサギは小さく笑った。
「イセリアルのモデルについては後から手を加えるけど、一応これを原形にするつもり。タバサ、あなたの協力に感謝するわ。後は自由にしてもらって構わない。ヨミハラに行ってもいいけれど……。私としては、もうしばらくふうまくんの家にお世話になって、彼から集団戦についてレクチャーしてもらうのを勧めたい。あなたも今のを見て興味が湧いたでしょうし」
「ん。確かに。稲毛屋のおばあちゃんに『仲間と連携することをもっと学べ』って言われたのがよくわかった。ヨミハラに行くのは自分で納得できるようになってからにしようと思う」
「それがいいと思う。……それにしてもあの人にはほんと敵わないわね」
「アサギが言った『わかると思わされてる』についてもよくわかった。……あ、そういえば『アサギの嬢ちゃん』って言ってたよ。おばあちゃんから見たらアサギも私も変わらないみたいだね」
アサギの顔に苦いものが浮かんだ。やはりいつまで経っても子供扱いか、と思うしかなかったからだった。
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「どうしたタバサ、ボーッとして」
不意に小太郎に声をかけられ、タバサは現実へと引き戻された。
夕食前のふうま家。一足早く食卓についたタバサはボーッと上の空で視線を宙にさまよわせていた。その上で、少し前に仮想訓練場で見た、小太郎が指揮を執ったイセリアルの戦いを思い出していたところだった。
「さっきのふうまが指揮した戦いを思い出してた。見事だったな、って思って」
「そんな褒めても何も出ないぞ」
そう言いつつも、彼の表情には褒められた嬉しさが少し隠しきれずににじみ出ている。
「でも質問なんだけどさ。蛇子の煙幕ってイセリアル連中には効果無いと思ったんだけど、徹底して使ってたよね。あれなんで?」
「効果が無い……。そうか? 結構嫌がってるように見えたぞ。だから煙幕張って鹿之助に索敵させつつ、突っ込んできそうなのがいたらあいつの電遁で足止めさせてたんだが……」
「え、それほんと? ……イセリアルは煙幕程度無視して突っ切ってくるはずだけどな。絡め手がまったく通じない、とは言わないけれど、それを無視して来る程度の知能しか無いはずだし……」
「さっきアサギ先生に話してなかったか? 本当はこんなに頭良くないとかなんとか。それで調整するとか言ってたような。そこの部分の差じゃないか?」
小太郎の指摘に、「んー……」とタバサは今ひとつしっくり来ていない様子だ。
「嫌がる、っていうのがなんか違和感あるなって。そんな人間みたいな反応はイセリアルはしないはずで……。人間……。あ、そうか」
不意にタバサは1人で納得し始めた。
「なんだ、どうした?」
「私があのイセリアルと戦った時に抱いた違和感の正体がわかった気がした。あいつら、動きが人間っぽすぎるんだ」
「あー……。言われてみると人間っぽい反応はあったかもしれないな。普段の対処法を応用したわけだし。……じゃあなんだ、煙幕を嫌がったり、あとは怯んだりとかか。そういう反応は本来ならもっと薄い、ってことか」
「そうだね。人間の成れの果ての連中もいるけれど、もう人間とは別物って考えたほうがいいと思う」
「わかった。後でアサギ先生に報告しておくよ。気づいてくれてサンキューな」
「ん」
そう言って了承の意思を示したはずのタバサだったが、やはりまだ何かを考え込んでいるようだった。
「……人間は煙幕を嫌がったり怯んだりする、か。ねえ、ふうま。舞華の昇任試験の時、武器を投げさせたのってふうまの指示でしょ?」
「ああ、まあな」
「意表を突くため?」
「そんなところだが……。舞華が伝治先輩に勝つには泥仕合に持ち込むしか無いと思ってた。耐久力勝負に持ち込めば舞華に勝ち目がある。だが逆に言えば、それ以外では伝治先輩がすべて上回ってる。真っ向からぶつかったらまず間違いなく勝てない相手だ。だからほんの僅かでいい、舞華が懐に潜り込むだけの隙が必要だったんだ」
「一見相手の得意間合いに入っただけの無謀な策だと思ってたけど、そんな狙いがあったんだ。相手の嫌がることを見抜かせたら天才、か……」
きららが言っていた言葉を思い出す。今までタバサは自分の土俵で戦うことだけをし続けてきたし、それ以外の戦い方を考えたことも無かった。
「もし、さ。私がふうまの指揮下に入ったとして。今までみたいなとにかく突っ込む戦い方以外に、相手が嫌がるような戦い方をふうまが教えてくれたとしたら、私って『化ける』のかな?」
「俺は化けると思うぞ。ただ、まだ実際のところ集団戦を見たことはないから、どのぐらいそれが出来るかわかってなくてなんとも言えないが」
「……そっか。人間が相手なら……。うん、面白いかもしれない」
ボソボソとタバサは独り言を続ける。集団戦に興味を持ってくれたことは喜ばしいかなと小太郎は思っていた。
「随分と話が進んでいるようですね」
と、そこで夕食のおかずをライブラリーが運んできた。
ふうまの御庭番にして料理上手な全身サイボーグ忍者。今日も夕食の手伝いをしていたのだろう。
「あ、ライブラリー。丁度いいところに来た。それ置いたらちょっとそこの椅子に座って」
ライブラリーが肉じゃがの入った器をテーブルに置いたところで、不意にタバサがそう切り出した。
「椅子に座れ? これでいいのかい?」
そう言って彼が椅子に腰を下ろした、その瞬間。
「ちょっとごめん」
タバサが左手を振り払うように動かした。そこから何かが宙に投げられたと思った直後、辺りがまばゆい光に包まれる。
「なっ!?」
「うわっ!」
ライブラリーも小太郎も強烈な閃光に、思わず顔をかばった。
そして光が収まり、まだ目がチカチカしながら2人が目を動かすと――。
タバサは座ったライブラリーの傍ら、首に手刀を突き付ける形で立っていた。
「ん。なるほど……。ライブラリーほどの使い手でも、椅子に座って動きにくい状態から突然閃光を浴びたら反応しきれないか」
「……どういうつもりかな?」
口調こそ穏やかだが、明らかに威圧感を持ったライブラリーの声だった。タバサは突き付けていた手刀を戻し、椅子に座りつつ答える。
「だから事前に謝った。ごめん、って」
「私は理由を聞いている」
「人間が相手なら、今まで使ってこなかった“乗っ取られ”の力が効果的に働くんじゃないかって思い当たった。私は突っ込んで剣を振るう戦い方しかこれまでしてこなかったし、それがもっとも早くて確実だと信じてた。そんなわけでイセリアルやクトーニック、正気を失ってる狂信者なんかと戦ってたケアンでは、搦め手を使う暇があったら斬った方が早いって感じだったけど、この世界で対人戦、さらには集団の中での戦いを考えたら使えるんじゃないかって。で、実力的に申し分なしのライブラリーに通用するならいけそうだと思ったから実験台になってもらった」
ライブラリーは無言のまま腕を組み、椅子に座ったタバサの方へ顔を向けている。サイボーグ故に表情を窺い知ることは出来ないが、雰囲気的に怒りを抑えているようにも感じた。
「……言いたいことはわかったが、あまり心地の良いものではないな」
「それはここに来た当初の私も同じ。……弄ぶように敵意をぶつけられたのは不快だった」
「む……。今になってそれを持ち出してくるか……。その分はあの訓練で相殺かと思ったのだが……」
「まあ大人として大目に見てやってくれ、ライブラリー。タバサも今後はこういうことをやるならやるってちゃんと断ってほしい。……正直まだ目が少しチカチカしてる」
「あ、ごめん……」
主がこう言ってタバサも謝罪した以上、ライブラリーももう責める気はないらしい。組んでいた腕を解いていた。
が、小太郎はライブラリーがもう大丈夫だと解ると同時。椅子から立ち上がって前のめりになりつつ、目を輝かせてタバサに声をかけていた。
「とりあえずこの件はこれで収まったこととして……。ものすごく気になることがある。タバサ、さっき『今まで使ってこなかった』って言ったな? それは今の閃光を作り出した技というか、力というか、それ以外にもあるんだな?」
「ある。ちなみに今のは“フラッシュバン”。実際に体験してもらった通り強烈な光で相手の目をくらませることが出来る。ただ、殺傷能力がないから、使うよりも斬った方が早いって判断して私は特に使わなかったんだけど……」
「有用性ははっきりしたな。使い方次第だ。そして何より……集団戦において間違いなく効果的だ。今使ったの以外のものも気になる。とりあえず飯食ってちょっと休憩したら使える力を一通り見せてくれ」
小太郎にしては珍しく、タバサも思わず気圧されるほどにぐいぐいと来る感じだった。
「……ふうまがこんなに興奮するの初めて見たかも」
「そりゃ興奮するだろ! 今日お前が仮想イセリアルと戦ってた時、舞華に『お前ならタバサをどう指揮する?』って聞かれてからずっと考えてて、俺が指揮を執ってあの4人と一緒に戦ってる時も『ここにタバサがいたらどう扱うか』って頭によぎってたんだ。それが俺の想像を遥かに超える戦い方をできるかもしれない、ってなったらテンションも上がるってもんだよ!」
「うーん……。そういうものなんだ……」
若干引き気味のタバサ。
「よし……。じゃあ、さっき言ってたどのぐらい『化ける』のか。俺が体感させてやる。この後に他の力を見せてもらってからの判断になるが……。俺と蛇子と鹿之助のいつものメンバーにタバサを加えてどのぐらいできるか。それを確かめようぜ」
今日(2023/01/07)から23日まで、対魔忍RPGで復刻ストーリーイベント「罪と罰」が開催されています。
ストーリー終盤部分がこの話の1話後半と2話に当たります。
このイベントがこれを書くきっかけになったと言ってもいいかもしれない、個人的に印象深いイベントです。
というか、復刻ってことは扇舟ショックからもう1年近く経ってたのか……。
フラッシュバン
マスタリーレベル1で解放されるデモリッショニストのスキルで、敵を混乱させてDAを低下させる閃光弾を投げる。通称フラバン。
マスタリーレベル10で解放される後続スキルの「シーリングライト」を取得すると総合速度低下と、敵に5秒間近接・遠隔ファンブルを付与する。
ダメージは与えられないが低マスタリーレベルで手軽に取得でき、かつ1振りでも機能するために補助スキルとしてはなかなか優秀。
混乱は雑魚を黙らせられ、DA低下はこちらのクリティカル率増加に繋がり、総合速度低下とファンブルは生存性の上昇にも繋がる。
ただ、ダメージを与えられないという点がネックで、ヘルス変換のために攻撃の手を止めなくない二刀ビルド辺りは投げる間も斬りたいというのが本音。
また、DA低下、総合速度低下、ファンブル全てが加算されずに最も効果数値の高いもののみが適用されるカテゴリにあるため、他でこれが確保できるなら必然的に重要度が下がってしまう。
元にした本来のビルドでは、ペットのネメシスでDA低下、二ダラのヒドゥンハンドで総合速度低下、サークルオブスローターで近接のみとはいえファンブルを確保できているため、攻撃の手を止めたくないという点と操作を増やしたくないという点も合わさって取得を諦めている。
遠隔系ビルドとの相性は悪くなく、特に逃げ撃ちしつつリチャージのたびにスキルを使う系のビルドの場合、他のスキルの使用と一緒に投げ込んでしまえばいいので操作量増加も気にならない。
基本的には攻撃の前に一発放り込み、強敵の場合はその後定期的に使う形が有効。
ファンブル無いならとりあえず取って定期的に投げとけレベルの良スキル。