“乗っ取られ”の少女、対魔忍世界に迷い込む   作:天木武

4 / 98
Act4 食べ物をおいしいと思ったことはなかった

 名無しの“乗っ取られ”の少女がタバサという名の少女に変わった翌日。

 1日休んだおかげもあって問題なく動けるということで、独立遊撃隊の3人はその少女を連れて対魔忍の里である五車(ごしゃ)町へと向かっていた。

 

 ひとまず彼女の身柄は五車で預かるのが妥当ではないかという小太郎の提案に対し、反対する者は誰もいなかった。対魔忍上層部との相談次第になるが、五車はタバサに似た境遇の存在を受け入れているという前例もある。総指揮官のアサギなら不条理な決断はくださないだろうという信頼感もあった。

 当人もそのことについては了承している。というより、「自分では何も判断ができない」とのことで、指示に従うという姿勢のようだった。

 

 当初は井河扇舟の監視と場合によっては保護が目的だったはずなのに、気づけば突如として現れた謎の存在――タバサと名付けられた少女の今後についても報告しなければいけなくなったと、小太郎は軽く頭を悩ませる。

 が、彼女が現れてくれなかったら扇舟はあの場で間違いなく命を絶つことになっていた。そのことに関しては感謝してもしきれない。

 

 帰りの道中はタバサへの質問が集中することとなった。

 小太郎たちにとって異世界に当たる彼女の世界はどういうものなのか。よく口にする“乗っ取られ”とはどういう意味なのか。“呪い”との戦闘中に見せた人間離れした力は何か。

 

 タバサのいた世界――ケアンは、この世界ほど文明は発達していないようだった。彼女の話から、近代初頭のヨーロッパ程度といった感じかと小太郎は推察した。

 彼女は自動車や電車を見たのは初めてだと驚いていたし、寝かせられていたベッドも元の世界とは比べ物にならないほどふかふかしていたと言った。銃は単発式のピストルやライフルといったものは存在するようだが、マシンガンのような連射機構を兼ね備えたものは無いという話だった。

 

 加えて、食事関連がこの世界と比べると比較にならないほど絶望的なレベルだということがわかった。

 昨日一通り話をした後、静流が簡単な食事にと作ったお粥を口にして、「今までで1番おいしい」と感想を述べたほどである。

 

 その1番の理由が塩を使えない、ということだ。

 

「塩自体はケアンにも存在する。だけど、塩は武器として使われるから、食事になんて回せない。ケアン全土を襲った天変地異、“グリムドーン”の際に侵攻してきた精神体の侵略者である“イセリアル”には効果があるとされたのが原因」

 

 結果、口にできたのは味気ないスープや、鮮度のないゴミのような味の配給食ばかりだったという。

 

「食べ物をおいしいと思ったことはなかった」

 

 ただ空腹を満たして栄養を得るためだけの、味とは無縁な食事。おいしいものが食べられない、どころかまともな味付けすらないというのはさすがにきついと思った小太郎だったが、どうやら他の2人も同じ感想だったらしい。渋い表情をしていたのが伺えた。

 

 加えて、そのイセリアルが、彼女が“乗っ取られ”と呼ばれるようになった所以でもあると説明してくれた。

 

「イセリアルは形のない精神体だけど、ケアンに存在する“イーサー”というエネルギーを利用して物質に干渉することができる。そして生物に憑依して“乗っ取る”ことで肉体を得て活動を可能にしている。ただ、乗っ取った肉体が死ねばイセリアルも死ぬらしい。……私は乗っ取られた時に吊るされてイセリアルごと殺されるはずだったけど、乗っ取ったやつが肉体の死より先に逃げ出したから死なずに済んだ。とはいえ、乗っ取られた時点で過去の記憶や人格を失うそうだから、過去の私がどんな人間だったのかはわからないけど」

 

 小太郎は名前を聞いた時に返ってきた要領を得ない答えについて、ようやく納得がいっていた。

 

 しかし“乗っ取られた”ことで、彼女は超人的な力を得たらしい。“呪い”との戦いの際に見せたのも、その副産物だということだ。

 

 それ以上に、“リフト”という力を得たことが、彼女が勇者として祀り上げられたものとして大きかった、と説明してくれた。

 タバサによると、リフトは簡単に言ってしまえばワープポータルのようなものだそうだ。リフトは元々イセリアルが利用してケアンに乗り込んできたもののために忌避する者も多い。が、大量の物資や兵力を一瞬で移動可能なその力は、人類反撃のために大いに役立ったのは事実らしい。

 

「つまり凜子(りんこ)先輩の空遁(くうとん)の術みたいなのを距離も規模も無視して使えるってことか!? やべーじゃんそんなの、反則だろ!」

 

 鹿之助の感想はもっともと言える。

 対魔忍の次期エースと目される秋山(あきやま)凜子が使う忍法・空遁の術は空間跳躍、簡単に言えば瞬間移動を可能とする忍法だ。奇襲や離脱用としてはこの上なく強力で便利な一方、跳躍距離は約1キロが限界、同時に跳躍できる範囲は周囲の数名程度、本人の消耗が激しく連続使用に制限がかかるという条件がついている。

 そして何より、跳躍先の見極めに失敗して壁の中のような場所に跳んでしまおうものなら、最悪の場合そのまま帰らぬ人になるという危険性までもはらんでいる。

 リフトはこれらのデメリットを全て取っ払ってしまった形だ。

 

「でもこの世界じゃ使えないみたい。ケアンでも場所によっては繋がりが弱くて使えないところもあったし、まあそういうものだと思ってるけど」

「そっかあ。使えたらよくあるファンタジー小説みたいに『異世界で無双しまくり!』って感じだったかもしれないのにな。でもまあタバサは元々強いか。……俺も異世界行ったら強くなったりしないかなあ……」

 

 呑気にそう言った鹿之助の言葉を耳にしつつ、小太郎としてはリフトの力は使えなくて助かったとも少し思っていた。

 

 そんなものが存在したら間違いなく世界のパワーバランスが崩れる。たとえ使えるのが彼女1人だけだったとしても、だ。

 話に聞くケアンほど絶望的ではないとはいえ、この世界は様々な勢力が争い合いつつもどうにか致命的な大破滅だけは免れるという危ういバランスのもとに成り立っている。そこに、人類が圧倒的不利な状況から巻き返すほどの猛威を振るったリフトなんてものが入り込んだら歯車が一気に狂いかねない。

 

 もっとも、そんなリフトの力を抜いたところで、タバサには今鹿之助が言ったとおり圧倒的な戦闘力がある。“乗っ取られた”時の副産物と、ケアンの星座に祈りを捧げたことで得られた“天界の力”というものだそうだが、個の戦闘力だけなら対魔忍の中でもトップクラス、と言ってもいいかもしれないほどだ。

 

 なお、今彼女は首から下は本来の装備に戻しているが、戦闘時につけていた仮面をつけておらず、剣も手元にはない。

 ヨミハラを出る時に基本的に戦闘行為は行わないことと、仮面は目立つから外しておいてほしいと言ったところ、どこへともなく仮面と剣を消し去ってしまったのだ。

 どういうことかと尋ねると「外してインベントリに入れた」という答えが返ってきた。どうやら彼女だけが使用できる魔法の収納領域があるようで、そういうのが大好きな鹿之助はこれにも大いに興味を示していたのだった。

 そして小太郎ももう「異世界から来たのだからそういうものだ」と半ば諦め気味に割り切り、深く考えないようにしていた。

 

 結局のところ、リフトが使えないといってもこの世界ではありえないような異常な力を彼女が秘めていることは事実だ。

 このことは対魔忍の総指揮官でもあるアサギの耳に確実に入れる必要がある。

 

(はぁ……。扇舟さん助かったのは本当に良かったけど、この子のことどうやって説明したらいいんだよ……)

 

 タバサとだいぶ打ち解けた様子の2人を見ながら、この後まとめるであろう報告書のことを考えるとどうしても気が重くなり、やれやれと小太郎はひとつため息をこぼした。




乗っ取られ

意味合いとしては本編中にある通りで、主にプレイヤーキャラを指す言葉。そこから派生してGrim Dawnのプレイヤー自体を指すこともある。
すぐ煽る、すぐキレる、(ハクスラなので仕方ないが)大体のことを暴力で解決するというやべーやつ。
キレッキレに翻訳されたセリフは「乗っ取られ語録」とまで呼ばれ、本編中に登場した「そうかもな。死ね!」(敵対してるギャング勢力のボスにいきなり攻撃する時)や、「安らかに眠れ、クズ」(そのギャングの手下が今際の際に吐く捨て台詞に対する返答)がそこに該当する。
タバサに関しては「ケアンと違って心が落ち着く」ということで攻撃性が抑えられている設定を取っている。



デモリッショニスト

マスタリーのひとつで、銃による遠隔攻撃と火炎・雷属性を得意とする。
どちらかと言えばキャスターに当たるのだが、スキルは閃光弾、電撃まきびし、火炎瓶、爆弾、拡散爆弾、迫撃砲、火炎放射地雷とどう見ても魔法じゃないものが揃っている。
特に二刀サバターにとって通常攻撃扱いになるファイアストライクが非常に重要。
銃のアイコンをしているが近接でも使用可能。ただし、銃だとスキルツリー最後のスキルを習得することで着弾時に破片が飛び散るようになる。
これのおかげでナイトブレイドのスキルに多く存在する「通常攻撃が○%の確率で変化する」という通常攻撃変化(Weapon Pool Skills、通称WPS)の恩恵を受けられる。
柔軟性の高いマスタリーではあるものの、ヘルスが伸びにくい点と、排他スキル(超強力な常駐スキルだが、そのカテゴリ内で1つしか発動できないスキル)が無い点が短所。


ナイトブレイド

マスタリーのひとつで、二刀流と冷気・刺突・毒酸属性を得意とする。
「Nightblade」なので騎士の刃ではなく夜の刃、要するに暗殺者系。
敵の攻撃速度を遅くする、攻撃をファンブルさせる(外させる)、自らの回避率を上げて避けるといったいかにも忍者な搦め手系の戦い方が特徴。
特に二刀流を特殊な装備を頼らずに可能にするのは本マスタリーだけであり、二刀流のWPSも豊富に存在する。
ここがファイアストライクとガッチリ噛み合うところであり、二刀サバターの強みとなっている。
デモリッショニストの万能性には負けるが、バフスキル、パッシブスキルに優秀なものが多く、メインマスタリーにしてもサブにしてもいい味を出してくれる。
一方でデモリッショニスト同様ヘルスが伸びにくく、排他スキルが無い点が短所。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。