“乗っ取られ”の少女、対魔忍世界に迷い込む   作:天木武

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Act45 誰にも囚われない自分の人生、いいと思う

「ドロレスから連絡を受けて来てみれば……。なんだこれは、どうなっている?」

 

 ナイトメアが真っ二つに斬り裂かれて氷漬けにされ、コピーたちも動きを停止してようやく戦いが終わった頃。入口の方から女性の声が聞こえてきた。

 

「あ、イングリッド」

 

 現れたのは魔界騎士のイングリッドであった。しかしその姿は普段のものとは別、まさにこのバニーの日(8月21日)に合わせたかのような見事なバニー姿である。

 

「タバサか? それにお前は……バニーK……?」

「イングリッド……」

 

 今名前を呼ばれたまさにその人物だと言いたげに、彼女はかつて自身と剣を合わせた者の名を呼んだ。

 

「これはどういうことだ?」

「以前の私のあなたに対する妄執が暴走し、メンテナンスマシンがこのような機械を生み出してしまったようだ。迷惑をかけた、すまない」

「構わん。この街では日常茶飯事だ」

 

 特に気にした様子もなく、イングリッドはそう返した。それから、隣に立つ仮面の少女へと視線を移す。

 

「タバサ、お前も協力してくれたのか。だが確かお前はイセリアルの件の報告で五車へ行っていたはず。ここ最近もまだ姿を見ないとリーナが言っていた気がしたが……」

「こっちに来たのは今さっき。ふうまがこの件の解決を依頼されたから着いてきた」

「そうか。……しかしふうま、ということはふうま小太郎だな? しかも依頼をされた、と。そんなことをしたのは……」

「ドロレス」

 

 タバサに名前を呼ばれ、その依頼者当人であるドロレスはイングリッドの視線を受けてビクッと身を縮めた。

 

「……まったく、お前というやつは」

「だ、だって……。頼れそうなのがふうまぐらいしか思いつかなかったし……。で、でも解決してるしまあオッケー、みたいな?」

「仮にもここはノマドが管理するカジノだぞ。そこに対魔忍を呼ぶなど……」

「お話中すみません」

 

 と、そこで小太郎と紫水がフロアへと戻ってきた。

 

「……ふうま小太郎か」

「俺はこの件をドロレスから個人的に頼まれただけで、対魔忍どうこうは関係ないつもりでいます」

「私も同じ意見よ。あくまでヨミハラ町内会会長として来たつもり」

 

 静流もフォローに入った。これは助かったと、ドロレスはブンブンと首を縦に振る。

 

「そ、そうそう、そういうこと」

「……ハァ、調子のいいやつだ」

 

 呆れた様子でため息をこぼすイングリッド。そこで小太郎の傍らに見たことが無い少女が立っていることに気づいた。

 

「それで、お前は?」

「天宮紫水。お館くんと運命を共にする者」

「……ほう?」

「そこの彼女のお陰で私はこのコピーの体に一時的に憑依させてもらい、自分の手で不始末を片付けることができた」

 

 運命を共にする、という言葉に興味を持った様子のイングリッドだったが、直後にバニーKの言葉を聞いたことで今度はそっちに関心が移ったようだった。

 

「そうだったのか。それで、どうする? また私と戦うか?」

「いや、私は1年前のあの戦いでもう満足している。あとは消えるだけだ」

「そのことなんだけど……」

 

 そこで紫水が会話に割って入る。

 

「もしバニーKさんが望むなら、私の生命エネルギーでもう少しその体でいられるようにできる」

「この体で? 生きられるのか、私は?」

「うん。でもいつまでかはわからないけど……」

 

 バニーKがイングリッドを仰ぎ見る。どうすべきか伺いを立てているようだ。

 

「お前の命だ。お前の好きにするといい」

 

 イングリッドにそう言われ、しばらく黙っていたバニーKだったが心が決まったらしい。

 

「……私はあなたに囚われない、自分だけの生をもう一度歩いてみたい。今はそう思える」

「誰にも囚われない自分の人生、いいと思う。私の友達も今そうやってやり直しているところ」

 

 口を挟んできたのはタバサだった。やり直しているタバサの友達、つまり扇舟のことだと、小太郎にはわかった。

 イングリッドは何も言わず、ただ頷いただけだった。

 

「それじゃあ……。波遁の術……」

 

 バニーKに置かれた紫水の手から温かい光が広がる。先程タバサのグレネイドを超強化したときと同じような光景だった。

 

「ありがとう」

 

 感謝の気持を述べてから、改めてバニーKはイングリッドを見つめ直した。

 

「あなたにも感謝する、イングリッド」

「何、気にするな。それで、お前さえ良ければまたこの店を預かってほしい。一応ノマドの傘下である以上、上がりだけは収めてもらうが、それ以外について私は口を出すつもりはない」

「わかった」

「では頼んだぞ、バニーK……いや、カトリン・バルリングよ」

「……私の名を覚えていてくれたのか」

「強き者の名は忘れられないものだ」

 

 どうやらイングリッドとバニーK――カトリンの方は丸く収まったらしい。イングリッドは今度は小太郎の方へ歩み寄る。

 

「お前にも迷惑をかけたな」

「いえ、今まで助けてもらったドロレスからの頼みでしたし。それに、タバサをヨミハラに連れてくるのにタイミングを伺っていたってのもありますから」

「そうか」

 

 それからイングリッドはいつの間にか小太郎の側に近寄っていたタバサを見た。

 

「また助けられたな、タバサ。イセリアルの件に続いてか」

「別にいいよ。ふうまからの頼みを受けただけだし」

「それで、これからはまた味龍でバイトか? お前さえ良ければノマドでスカウトしたいところだが……」

「やめてよ。……ここに来る前もアサギからそんな話されて断ったばっかりなんだから」

「ハハハ! お前ほどの実力ならどこでも受け入れたいと思うだろうよ。なあ?」

 

 イングリッドがカトリンの方へ首を動かしながら尋ねる。

 

「……可能ならな。ガードマンとしては最適だ。さっき一緒に戦って思ったが、見事な腕前だった。それに、あれほど息が合うとも思わなかった」

「だ、そうだ」

「やだよ。私に会いたければ味龍に食べに来て。……って、バニーK……じゃなかった、カトリンはその体だと来られるかわからないか」

「ならばお前がこのカジノに来い。そうすれば会える」

「私にそんなお金はない。……まあいいか。お互い生きてヨミハラに住んでれば、そのうち会えるかもしれないし」

「ま、そういうことだな」

 

 さっきはもはや今生の別れだと思って挨拶を交わした2人。今度は前向きに別れを告げ合えた。

 

「さて、では帰るとするか。行くぞ、ドロレス」

「あ、その前にひとつだけいいですか?」

 

 帰ろうとするイングリッドを小太郎が呼び止める。

 

「なんだ?」

「……なんでその格好なんです?」

「フッ、今日がバニーの日だからな。去年着たものを引っ張り出してきただけのことよ」

()()()()()()思ったけど、似合ってるよ」

 

 タバサの褒め言葉にイングリッドは気分を良くしたようだ。

 

「褒められるのは悪い気はしない……。待て、()()()()?」

 

 しかし、そこで違和感に気づく。

 

「……お前は去年のバニーの日にはこの街にいなかったはずだ。どこで見た?」

「それはあれだよ、イングリッドが静流に渡した、イセリアル襲撃の記録と一緒に入ってた……」

「わ、わああーっ! す、ストップ! タバサ、ストーップ!」

 

 急に焦ったように会話を遮ったのはドロレスだ。

 

「ん? どうかした?」

「い、いや……その話題にはどうか触れない方向で……」

「なんで? ドロレスが用意したんじゃないの? あのたくさんのイングリッドの肖像画」

「……おい、静流。タバサが言ってることは本当か? 私が渡したあの記録媒体の中に、本当に私に関する何かが入っていたのか?」

 

 困った表情を浮かべた静流は、一瞬ドロレスの方を見て――。

 

「……ごめんなさいね」

 

 と、形式上でだけ謝り、今回のバニー姿や水着など、大量のイングリッド画像が入っていたことを暴露してしまった。

 

「ノオオオオーッ! ……もうダメポ……お姉ちゃんに怒られる……」

「当たり前だ! この馬鹿者! 余計なものを入れるな、とちゃんと忠告しただろう! なぜそんな物をあのファイルに入れた!?」

「お、お姉ちゃんの魅力が……対魔忍の人たちに少しでも伝われば、と思いまして……」

「そんなことはしなくていい!」

「……実際うちの大将はなんでこんなものが入ってるのか、ってとても困ってたわよ。画像を開くと呪いが発動する仕掛けになっているかもしれない、とか。私も色仕掛けじゃないか、って疑っちゃったし。結局いたずらか間違って入れたって類という結論になったけど……。前者だったのね」

「い、いや、いたずらじゃない。お姉ちゃんの魅力を……」

「それはもういい!」

 

 小柄なドロレスの頭にイングリッドの拳骨が落ちる。涙目になったドロレスを抱えるように脇に担ぎ上げ、イングリッドはわざとらしく大きく咳払った。

 

「……見苦しいところを見せた。静流、その画像は全く関係がない、可能なら消してほしい。うちの馬鹿が勝手にやったことで迷惑をかけたと井河アサギに伝えてくれ」

「ええ、了解」

「ではこれで失礼する。……くっ、格好がつかん……!」

「そ、そんなことないよ……。お姉ちゃんはいつでもかっこいい……」

「お前は黙っていろ!」

 

 最後までドロレスを怒ったまま、イングリッドはBunny Kingsを後にした。まさに嵐が過ぎ去った後、といった感じで小太郎はしばし呆然とするしか無かった。

 

「……なあ、タバサ。さっき言ってたイングリッドの画像って本当にあったのか?」

「あったよ。ふうま、あのイセリアルの記録見たんじゃないの?」

「いや、見たけど、アサギ先生から見せられたのは戦闘の動画だけだった。ちょっと見てみたかった気も……いてっ!? な、なんだ紫水? 急に足を蹴って……」

「私にこんな格好させたのに別な女の人に鼻の下伸ばして……。もう、お館くんなんて知らない!」

 

 あまりにデリカシーのない小太郎に紫水が拗ねてしまう。そんな様子に思わず静流は笑いをこらえきれない様子だった。

 

「……で、ふうまと紫水がじゃれ合ってるのはまあいいとして」

「あー……いや、できれば仲裁をしてほしいんだが……」

「あれは放っておいていいの?」

 

 そう言ってタバサが指さしたのは、本物の幽霊騒動のためにすっかり忘れ去られていたミスター・フールだった。

 が、先程までと態度がまるで違う。傲慢さは鳴りを潜め、揉み手でまめへと何かを頼み込んでいるようだ。

 

「どうかお願いしますよ、まめ師匠」

「やんだぁ、そんないきなり師匠だとか、やめてけれえ」

「いえいえ! 師匠の変化の術には脱帽です! このミスター・フール、心を入れ替えて師匠のもとで修業に励みますので!」

 

 どうやらまめの変化の術に完敗したことで改心したらしい。だが、これまで人を騙し続けてきたミスター・フールだ。おいそれとは信用し難い。

 

「あいつのことだ、改心したフリをしてあの子からもっとうまい変化の術の方法を盗み出そう、なんて腹積もりとも考えられるんだが……」

「それが困ったことに、私があいつの内面を読もうとすると本当に心を入れ替えたようにしか見えない。……でもアサギに忠告された『そう思わされてる』だけかもしれない。これまでやってることがやってることなだけに、後から何かあって尾を引かないようにここで殺しておくべきな気もするけど」

「うーん……。まああいつが大人しくなるならそれはそれでいいか。それに過去の自分を悔い改めてやり直すことは悪いことじゃないんだろ?」

 

 先程のカトリン、さらには扇舟まで引き合いに出されては反論のしようがない。やれやれ、とタバサはため息をこぼした。

 

「ふうまがそう言うなら、まあいいか。……よかったな、命拾いしたぞ、お前」

 

 ミスター・フール当人には聞こえないとわかっていつつも、タバサはそう独り言を漏らしていた。

 

「よし、これでそのミスター・フールの問題も今回の幽霊騒動も解決したってわけだ。……で、そこでタバサに頼みがあるんだが」

「何?」

「そろそろ紫水に機嫌を直すように説得してくれないか……? 多分俺が言うよりお前が言ったほうが効果がありそうで……」

 

 相変わらず不機嫌そうな紫水は小太郎の脛を蹴ったり足を踏んだりと執拗に足に攻撃を加えていた。さらにはガーディアンを召喚してその拳で小太郎のこめかみをグリグリし始めている。

 

「そういうのは当人がちゃんと謝るべきだと思う」

「そうだよお館くん。なんでもかんでもタバサに投げないで」

「でもなあ……。美人を見かけたらつい気になっちゃうのは男の(さが)……いてて! す、すまん紫水! でもお前もかわいいからな!」

「う……」

 

 思わぬ不意打ちに紫水の攻撃が止んだ。

 

「ほんと、ふうまくんって天然ジゴロよねえ。罪な男だわ」

 

 呆れたようにポツリと呟く静流。

 

「……天然ジゴロって何?」

「ふうまくんみたいな人のことよ。詳しくは後で扇舟さんにでも聞いて。……って、タバサちゃんは早く扇舟さんに会いたいわよね」

「まあ……。確かに」

「ほら、そこのイチャついてる2人、タバサちゃんが帰りたがってるからさっさと行くわよ。この時間から五車まで帰るのは危険だし、うちの店の2階で仮眠を取っていきなさい」

 

 一方的に話をまとめ、静流は小太郎たち3人と一緒にBunny Kingsを後にしようとする。

 

 と、そこでタバサが立ち止まり、カトリンの方を振り返った。

 彼女もその気配に気づいたのだろう。タバサの方を向き直す。それから、別れの挨拶として軽く右手を上げ、タバサもそれに答えて右手を上げて返した。

 そのまま3人に続いて店を後にする。

 

「……誰にも囚われない自分の人生をやり直す、か」

 

 タバサにかけてもらった言葉を噛みしめるように独り言をこぼしたカトリン。が、改めて店内を見渡し、まずやるべきことは決まっていたのだと思わざるを得なかった。

 

「ひとまず、このめちゃくちゃになった店の片付けをしなくてはな」

 

 こうして、Bunny Kingsで起きたバニーの日騒動はようやく終りを迎えたのであった。




クバカブラ

敵対派閥である獣の悪評を最大まで上げた時に登場するネメシスクラスの敵。正式名称は「クバカブラ, 終わりなき脅迫」。通称ケモネメ(獣のネメシスなので)。高い回復能力を持つ獣のデカブツ。
タフさに定評があり、本編中ではナイトメア・バニーKの耐久力の高さからタバサはこいつを連想して引き合いに出している。
見た目は頭はヤギで体がクマのような、巨大で二足歩行可能な四足獣といったところ。その外見通りのパワーファイターで、一発が痛いメガトンパンチを連発してくる。
しかしそれ以上に足元に血溜まりのようなものを作り出す攻撃が非常に厄介。これはこちらに出血ダメージを与えつつOA低下とダメージ減少のデバフを与えると同時に、クバカブラ自身のヘルスも回復させるという効果を持っており、これが主に上記のタフさの原因となっている。
しかも冷気耐性(と生命力耐性)が高いため、冷気属性をダメージソースとする本来のビルドではダメージが通りにくいという不利な状況まで上乗せとなる。
……とはいえ、ネクオルサバターはそんなの関係なく張り倒せるだけの火力特化ビルドなため、本来のビルドなら血溜まりの上でぼっ立ちしてノーガードでぶん殴り合っても倒すことは可能だったりする。
一方で火力が不足気味のビルドの場合は血溜まりから定期的に離れて戦うしかない。というかそれをやらないと泥仕合どころか、最悪の場合だと相手の回復が上回って倒せないという事態に陥る可能性もある。
と、ここまででも非常に面倒そうな具合を醸し出しているが、こいつのヘルスを削り切ると、なんと「クバカブラ, 耐久」というサイズが小さいクバカブラ2体に分裂する。
そしてそいつのヘルスを削りきると、さらに「クバカブラ, 頑強」というもっとサイズが小さい2体に分裂する。
つまり上記のような特徴を持った化け物を都合1+2+4の合計7体を倒さないといけない。タフって言葉はクバカブラの為にある。
一応サイズが小さくなる度に多少弱体化はするものの、血溜まりは相変わらず設置してくるので、ネメシスの中で倒すのに最も時間がかかる相手かもしれない。耐久面でのライバルは鋼鉄ゴリラ女(アイアンメイデン)
ただ、SRではこの分裂が免除されている。というか、制限時間をオーバーすると報酬が減らされるSRで分裂されたらさすがに悪質すぎる遅延行為である。
ちなみに本編第1話のSRボス部屋で倒されている最初の死体はこいつだったりする。
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