“乗っ取られ”の少女、対魔忍世界に迷い込む   作:天木武

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Act5 MP回復するやつ?

「まずは任務お疲れ様、といったところね。ふうまくん」

 

 小太郎たちがタバサとともに五車町に帰ってきてから数日後。扇舟の件の事の顛末とその時現れた謎の少女についてどうにか報告書をまとめ終えた小太郎は、対魔忍養成機関である五車学園の校長室へと来ていた。

 部屋の主は対魔忍の総指揮官であり、この学園の校長でもあり、同時に“最強の対魔忍”とまで言われる井河アサギ。

 傍目には白のブラウスとタイトスカートに身を包んだスタイル抜群のただの美女にしか見えないが、最強という二つ名は伊達ではなく、これまでいくつもの修羅場をくぐり抜けてきた凄腕の女戦士だ。

 

 さらに2人の教師も同席している。金のショートヘアが似合い教師とは思えないラフな格好をしているアサギの妹である井河さくらと、青い髪をポニーテールにまとめて眼鏡を掛けて白衣を羽織ったアサギの右腕とも呼ばれる八津紫(やつ むらさき)。実質対魔忍のトップ3が揃っているような形である。

 

「ええ、まあ……。正直かなり疲れました。……主に報告書作成が」

 

 このメンツを前にするとさすがに緊張するなと思いながらも、小太郎は軽口を交えつつ受け答えた。

 

「にゃはは! 言うねえ、ふうまくん」

「アサギ様の前でそういう態度はあまり気に入らんがな」

 

 それに対する2人の教師の態度は真逆であった。

 さくらは元々明るい性格ということもあり、この程度の小言は軽く聞き流してくれたようだった。が、アサギを心酔ともいえるレベルで慕っている紫からすれば不快に感じたのだろう。

 

「私は別にかまわないわ。ふうまくんの気持ちはわからないでもないからね。……本来の任務の件と別にこれだけのことをまとめるとなればそうも言いたくなるでしょう」

 

 そして総大将の反応は特に気にしていない、というものだった。こうなると紫も口をつぐまざるをえない。

 そんな紫のやや面白くなさそうな反応を見たアサギはひとつ小さく笑ってから、報告書を手に取って本題を切り出し始めた。

 

「結果的に扇舟が助かったことについては個人的に感謝してる。……かつては敵対した私の伯母だったけど、救ってくれてありがとう」

「光栄です。……と言ってもいいんですかね。そこに書いてある通り、俺は目論見を外しました。“呪詛の魔獣”の核を破壊することには成功した。だけど、その結果何が起こるのか、そこまで考えが回らなかった。……もし、彼女が現れなかったら、ヨミハラの人々は“呪い”に襲われることになって、それを止めるために扇舟さんは間違いなく自害していたことでしょう」

「……でも、あの人は己の罪を悔い、罰を受ける覚悟ができていた、ということは確かみたいね」

 

 一瞬、遠い目を見せるアサギ。普段は厳しい瞳の中に、どこか優しさや安堵を秘めているようにも見えた。

 しかし次の瞬間にはもう普段の対魔忍の指揮官としての目に戻っている。

 

「扇舟のことはよくわかったわ。おそらくはもう心配ないでしょう。ヨミハラには静流も、一応亜希(あき)もいるわけだし。私ももう里の者に禁術に手を染めさせるような真似はさせないつもりよ。……それよりもあなたが連れてきた子、こっちのほうが頭を悩ませることになるかもしれないわ」

 

 まあそれはそうだろうな、と小太郎は苦笑を浮かべる。

 そんな彼の表情を見て非難されたと捉えてしまったの感じたのだろうか。アサギは慌てたように補足する。

 

「ああ、勘違いしないでね。連れてきたことを責めているわけじゃないの。むしろ逆、正しい判断だったと思う。あの街に置き去りにする方がよほど危険だと思うから。……彼女自身は勿論のこと、あの街にとっても、ね」

「報告書に書いた通り、彼女は敵意や殺意といった感情を直感的に把握してるんじゃないかと思います。だとするなら、ヨミハラではそういうのがあまりにも溢れすぎている……」

「ええ、そうね。……なんでそれほどまでに過敏なのかを疑問に感じたけど、ここに書かれたあなたの仮説は強い説得力があると思う」

 

 “乗っ取られた”ことによる肉体、及び精神面での変化。当然その影響はあると考えた小太郎だが、それに加えてタバサの元の世界――ケアンの、人類にとって絶望的状況も関連しているのではないか、と推察したのだ。

 

「人間を“乗っ取る”異世界からの精神体の侵略者“イセリアル”と、邪教の狂信者たちが人間の生き血を贄として、イセリアルとは別の世界から呼び出した魔物である“クトーニック”。それらの大規模な衝突により引き起こされた人類滅亡の危機である大異変、“グリムドーン”……。そんなのが起きた世界にいたのなら、過敏すぎるほどの感覚でないと生き残ることは出来ないのかもしれないわね」

 

 ヨミハラからの帰り道と、五車町に着いてからは一応の検査のためにタバサがしばらく過ごすことになったこの学園の中にあるラボで数度。彼女の元の世界について小太郎は詳しく尋ねて、その過酷すぎる世界と、彼女が置かれた状況からの仮説だった。

 

 なお、当初は異世界ということで目を輝かせていた鹿之助だったが、ケアンの悲惨な実情を知るたびに段々とその光が失われていき、五車町についた頃には「異世界っていってもいいものばかりじゃないんだな……」と死んだ魚のような目になっていたのは、まあある意味自然なことと言えるかもしれない。

 とはいえ、鹿之助も蛇子も時折ラボに顔を出してタバサの話し相手になっているらしい。タバサにとってラボでの生活は退屈らしいが、話し相手がいることについては「悪くない」と答えていたし、食べ物関連は元の世界があまりにも酷すぎたこともあって満足して食べているとのことだった。

 

「ふうまくんもだけどさ、お姉ちゃんも信じるの? あの子が言ってること全部。作り話だとかっては考えないわけ?」

 

 と、さくらが口を挟んできた。

 

「そういうのを含めて、彼女の人体構造やこの世界に適応できるかとかを調べるために今ラボで検査してもらってる。……もっとも、そういう線での問題は薄いって話だけど。ただ、“乗っ取られる”以前の記憶や人格まで遡るのは難しいって。そうよね、紫?」

 

 時折ラボにも顔を出す紫が「はい」と肯定しつつ、先を続ける。

 

()()()の性格は最低最悪だと思いますが、腕は確かなので言ってることに間違いはないでしょう。それに助手についているリノア・セリングも同じ意見のようです」

「ムッちゃんってなんだかんだ言って桐生ちんのこと認めてるよねー」

「黙れ貴様、殴られたいのか?」

 

 ああ、また始まったと小太郎もアサギもため息をこぼす。

 

 桐生ちん、とはラボの責任者であると同時に凄腕の魔科医でもある桐生佐馬斗(さばと)のことである。過去にとある一件で紫は彼を捕まえたのだが、それ以来桐生は紫に対して偏執的ともいえる思いを抱き続け、同時に対魔忍に協力している。

 ちなみにヨミハラでタバサの診察をした桐生美琴は彼にとって姉にあたる。が、彼にとってその姉は天敵らしく、当人の前で話題を出すことは禁止だったりする。

 

「とにかく、作り話云々はまずありえないわ。彼女は本物の異世界人で本当のことを話したのだと私は思ってる。……その上で彼女をどうするか。これはこの世界でも体に異常などが出ないで生活できるかどうかといった検査結果や、当人の意志を尊重したいところではあるけれど……」

 

 アサギがそこまで話した時、校長室のドアがノックされた。

 

「あら、そろそろ来てくれると嬉しいと思ってたらまさにそのタイミングね。入って頂戴」

 

 ゆっくりとドアが開き、「失礼します」とまだ少女とも呼べそうな人物が部屋に入ってきた。薄いグレーの髪に白衣を纏い、その手にはタコかクラゲに似たぬいぐるみのような物を抱きかかえている。

 

「待ってたわ、リノア」

 

 彼女こそが先程話題に出た桐生の助手、リノア・セリングであった。

 

「ラプラスの予知によるとこのタイミングで入るのが適切ということだったのですが」

 

 彼女が手に持ったぬいぐるみのような物。それこそが、今リノア本人の口から出た「ラプラス」である。かわいらしい見た目と異なり、演算によって予知能力を持たせたロボットなのだ。

 リノアはその予知能力で部屋に入るタイミングを計っていたのだろう。

 

「ええ、完璧ね。今あの子の今後をどうするか、ひとまず検査結果次第という話をしていたところ」

「では早速その点に関してですが、タバサさんはこの世界の人間とほぼ変わらない、と桐生先生と私は結論付けました。モニターできたのはまだこの数日間だけですが、バイタルその他に特に問題は見当たりません。よって、この世界への適応は問題なし、と判断しました。ただ……彼女の力についてはこの世界では存在しない未知な部分も多いために説明は少々難しい状況です」

「最後の部分はまあ仕方ないとして、それ以外は嬉しい報告ね。でも、彼女は“乗っ取られた”と言っていた。それでも人間とほぼ変わらない、と言えるの?」

「誤解を恐れずにものすごく噛み砕いて言ってしまうと、差があったとして対魔忍と一般人との差ぐらいなものです」

「……それって結構差あるよね?」

 

 アサギとリノアの会話にさくらが割り込む。

 

「人間というカテゴリで見た場合はその差は些末なものに過ぎないと思います。とどのつまり、戦闘能力の差……忍法を発動したりする対魔忍の根源的エネルギーである対魔粒子の有り無しと言った部分の問題かと」

「うーん……。そうと言えば……まあそうかもしれないけどさあ……」

「ちょっと待って。じゃああなたはあの子を『ほぼ』変わらないと言ったということは……。やはり対魔粒子に似たエネルギーがあの子の中にはあるということ?」

 

 このアサギの質問に対し、リノアは首を縦に振って肯定する。

 

「彼女からはこの世界には存在しない未知のエネルギーを検出しました。彼女に話を伺ったところ、“イーサー”と呼ばれるものではないかと。彼女の世界……ケアンにはそれが溢れていて、またイセリアルもその力を利用していたということでした。……イーサーを利用するイセリアルに“乗っ取られた”という経緯を考えると、そこが彼女の力の根源ではないかと桐生先生も私も予想してはいるのですが、如何せん未知のエネルギーのために細かいところまでは正直お手上げ、という状況です。加えて、彼女には“天界の力”と呼ばれる、ケアンの星々から得た力による魔法のようなものもあってこっちも解明不可能ですので、やはりどうしようもないといった具合です」

「天界の力は報告書にも合ったはず。確かふうまくんは目にしてるはずよね?」

「ええ。一言で言ってしまえばあれは今出た言葉の通りもう魔法ですよ。頭上から炎の塊降らせたり氷の槍降らせたり……。とんでもないです」

 

 ふむ、とアサギが唸ってひとつ間が空いたところで、先程のリノアの説明を聞いて気になっていたのだろう、紫がポツリと呟いた。

 

イーサー(Aether)……。つまりエーテルか」

「MP回復するやつ?」

 

 しかしその単語に対して反射的にさくらがそう反応した途端、部屋中の人間が思わずため息をこぼす事態となった。

 

「ちょっと何よ! 皆してその馬鹿にしたみたいな反応! ふうまくん、君なら私と同じ考えしたでしょ!?」

「え? いや、まあゲーム好きなんでちょっとは思いましたけど……。第五元素、ですよね? 四大元素に含まれない、ものすごく雑に言ってしまえば、ここまでずっと言われ続けてるような未知のエネルギーという意味の」

「さすが読書家ね。……かわいい妹のために説明してあげる。四大元素というのは、この世界の物質は火、水、風、土の4つから成り立つという考え方のこと。そしてそこに含まれないのが第五元素……元々は天体を構成するものとして提言されたらしいけど、一般的な認識としてはまあ今ふうまくんが言った通りの未知のエネルギーといったところね。そしてそこから派生して、物理や化学の用語など様々な場面で使われている。……もっとも、忍法の基本は“陰陽五行”から来ているから、対魔忍としては四大元素とはちょっとぶつかるところもあるといえばあるのだけれど」

 

 姉の説明を「へー」と感心した様子でさくらは聞いていた。仮にも教師がそれでいいのかと小太郎は思わず心の中で突っ込む。

 

「とにかく、私たちとの違いはそのイーサーの部分ぐらいなもので、日常生活に支障はない、というわけね」

「はい」

「……じゃあ次の段階にいきましょう」

 

 少し前まで部屋に流れていた空気が突如として嘘のようにどこか重々しく変わる。硬い表情のまま、アサギはその先を続けた。

 

「ふうまくんの報告書にもあってずっと気になっている彼女の戦闘能力……。この目で確認させてもらうわ」




各種ステータス


ヘルスとエナジー

ヘルス:いわゆるHP。0になると墓が立ち、ハードコアモードだと一巻の終わり。ポーション、ヘルス変換、ヘルス再生、自発回復型のスキル等で回復可能。また、非戦闘時には活力ゲージを利用して急速回復できる。活力ゲージは敵を倒すと落とす生命のエッセンスや配給食で回復できる上にゲージ自体が長めなのであまり枯渇を心配しなくもよかったりする。
エナジー:いわゆるMP。底を尽くとスキルが使えなくなって非常に困る。また、常駐型のスキルには予約として常に差し引かれるものがあり、実質上限を減らされる形となる。ポーション、エナジー吸収、エナジー再生、特殊なスキル等で回復可能。


属性値

体格、狡猾、精神の3つのこと。レベルアップやクエストで得られるポイントで、装備の要求値として必要になる他、各パラメータにボーナスを与える。当初は振り直し不可だったが、DLCのAoMを導入すると振り直し用のポーションが手に入るようになる。

体格:ほとんどの武器や防具で必要。特にヘビーアーマータイプの防具ではかなりの値が要求される。ヘルス、ヘルス再生、防御能力にボーナスがかかる。
狡猾:剣や銃といった武器で必要。体格ほどではないがヘルス、物理・体内損傷・刺突・出血へのダメージ、攻撃能力にボーナスがかかる。
精神:詠唱用武器やローブやアミュレットやリング等で必要。体格ほどではないがヘルス、エナジー、エナジー再生、狡猾で対象となっている属性以外の、主に魔法属性へのダメージボーナスがかかる。

まずは装備要求分振ることが大前提。その上で、基本的には生存性を考えて体格に振るのがセオリーだが、物理や刺突ビルドの場合は狡猾にガン振りしたり、後述する攻撃能力と防御能力のバランスを考えて体格と狡猾で配分するパターンもある。
精神は振った分に対するリターンが薄いため、装備要求分だけ振られるのがほとんど。


攻撃能力と防御能力

攻撃能力:通称OA(Offensive Ability)。敵への攻撃の命中率、クリティカル発生率、クリティカルダメージに影響する。クリティカル時発生のスキルがあるため、採用している場合にはそれなりに必要。
防御能力:通称DA(Defensive Ability)。敵からの攻撃の被打率、被クリティカル率、被ダメージ軽減率に影響する。昔は被打率に下限がなかったために鬼のようにDAを盛って敵の攻撃を避けまくるビルドが猛威を振るった時期もあったのだが、調整によってあえなく終焉を迎えた。


マスタリーレベル

各マスタリーに存在する、本体とは別なレベル。
マスタリーレベルにスキルポイントを振ることで上昇し、最大50まで振ることが出来る。
振った分だけヘルス、エナジー、体格、狡猾、精神が上昇する。
が、それ以上に1,5,10,15,20,25,32,40,50の度に新しいスキルが解禁される方が重要かもしれない。
それぞれTier1~9の順に分類されており、高いマスタリーレベルを要求されるスキルのほうが一般的に強力。
また、スキルの振り直しはマスタリーレベルでも可能なので、同じクラスであれば後になってからの大幅な軌道修正も可能となっている。
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