“乗っ取られ”の少女、対魔忍世界に迷い込む   作:天木武

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Act51 お見せしよう、この私の真の力を!(I will demonstrate my true POWEEEEEER!!)

 タバサにとっての元の世界――異世界であるケアンで有象無象をひたすら斬り裂き殺戮(ハックアンドスラッシュ)し続けていた彼女からすれば、数だけの相手は敵ではなかった。

 召喚獣、魔法というしかない天界の力、そして磨き抜かれた二刀の技。四足の獣(ネメシス)球体の刃の精霊(ブレイドスピリット)が敵に襲いかかり、天井付近の空中から氷の槍(ブリザード)炎の塊(メテオシャワー)が降り注ぎ、両手に持った剣(ネックスとオルタス)が振るわれる。その度に羅刹オークやミノタウロスといった本来タフネスが売りのはずの怪物の死体が増えていった。

 もはや戦闘と呼んでいいものかわからない。淡々と作業のように敵を殺していく一方的な虐殺とさえ思えるその有様に、対魔忍の2人はある種の恐怖感さえ覚えていた。

 

 そして気づけば、ついさっき災禍が厄介だと思っていた数の敵はあっという間に屍の山へと変わっていたのだった。

 

「終わった」

 

 タバサが参戦してからさほど時間も経っていない。しかしそんなことを気にした様子もなく、彼女は振り返りながら不気味な仮面(ナマディアズホーン)越しにそう言った。

 戦闘に特化した対魔忍の実力者と謙遜無いのではないかというその殲滅速度の速さ。災禍と静流の2人が呆然としてしまったのは仕方のないことと言えるだろう。

 

「……強いのはわかっていたつもりだったし、若様が実力を買っていたことも知っていた。でも、まさかここまでとは……」

「この間Bunny Kingsで共闘した時にその強さを目にしていたはずだけど、格下が相手だとこうなるのね。……そりゃうちの大将もイングリッドもスカウトしたくなるのがよくわかるわ」

 

 2人が呆れたように感想を述べ合う。だがこの殺戮を引き起こした張本人は「何が?」と言いたげに首を傾げていた。

 

「ふうまと合流するんじゃないの? この上にいるよ」

「わかるの?」

「この距離まで近づけば気配を確実に感じ取れる。今は上の開けた場所で敵と交戦してるみたい」

 

 2人の対魔忍は顔を見合わせて頷く。

 

「行きましょう。静流さんの救出は成功した。次は若様をサポートしないと」

「ええ。私の無事を教えないとね」

 

 

 

---

 

 タバサの誘導に従って館のエントランスに出ると、そこは乱戦の真っ只中であった。フュルストの手下であろう、先程タバサが大量に片付けたような魔物たちと、見知った顔が戦っている。

 小太郎、蛇子、鹿之助の独立遊撃隊に加えてライブラリー。表向きは直接手を下せないものの、同じ組織内部の裏切者の処罰を手助けするために来たであろうリーナとその部下たち。そして、大太刀を手に鎧に身を包んだ、赤っぽい髪の見たことのない男も。

 

 とりあえずこの敵を片付けるところから始めないといけない。手近な敵を蹴り飛ばしながら、災禍は小太郎へと声をかけた。

 

「若様! 静流さんは救出しました。そちらはご無事ですか?」

「災禍か! よくやってくれた、感謝する。あと……タバサ!? どうしてここに……」

「保険として私が呼びました。私1人だけでは厳しいもしもの場合を想定したので」

「久しぶり、ふうま。……あの力は使うな、って言ったのに使ったでしょ」

 

 約1ヶ月ぶりとなる再会の挨拶を交わしつつも、タバサは先程自分が感じた魔性の力について尋ねていた。

 

「な、なんでわかるんだ……?」

「外にいたってあの気配は伝わる。そのぐらい異質で危険だから、私も紫水も使うなって言ってるんだけど……。でもライブラリーを近くに置いてたのに使ったぐらいなんだ、何か理由があったんでしょ?」

「まあ……な。……とにかく今はこいつらを片付けちまおう」

「ん。了解」

 

 会話が終わったということで、タバサは一気に敵陣へと斬り込んだ。

 

「なんだなんだ、また増えたぞ!? おい、お前たち、あれにも手を出すなよ! ……って、あの仮面と戦い方、もしかしてタバサまでいるのか!?」

 

 と、そこでその中でもっとも大部隊である、ノマドの隊を指揮するリーナが乱戦に参加している数が増えたことに気づいたようだった。そしてその中にいたタバサを見つけて悲鳴のような声を上げていた。

 

「重ねて言っておく、あの仮面の奴には絶対に手を出すな、敵意も見せるな! 少し前にヨミハラで起きた謎の敵の襲撃事件、その時に暴れ回って1人でほぼ片付けたのがあいつだ! 本当に敵に回すなよ! 裏切者だ対魔忍だ以上に話がややこしいことになりかねない! ……くそう、誰だあいつを連れてきたのは!? 店で会う分にはいいが、戦場では絶対に会いたくなかったってのに!」

「……酷い言われようね。タバサちゃんに協力を取り付けたの失敗だったかしら」

 

 あまりのリーナの慌てっぷりに思わず災禍がボソッと呟く。

 だが当の本人は気にした様子もなしに敵を片っ端から斬り捨てていた。

 

 実力者が集まったこともあり、エントランスはあっさりと鎮圧された。

 ほぼ全員タバサにとっては見知った顔であったが、唯一、大太刀の男だけは見たことがない。同時に、先程まで共闘していたはずなのに、この場にいる全員に敵意を放っているようにも感じていた。

 

「あいつだけまだ敵意見せてるのが気になるんだけど。フュルストの仲間か何か?」

 

 自分の感覚に従い、この中で唯一敵意を見せている男を敵と判断してタバサは誰に尋ねるでもなくそう口にした。

 

「違うよタバサちゃん。あの人は……」

「おい、目抜け。お前の部下ならちゃんと教育しておけ。あのクソハゲとはもう手を切った。仲間呼ばわりされるのは腹が立つ」

 

 蛇子が否定しようとした矢先。その男が小太郎を「目抜け」と呼んだことでタバサの殺気が一気に膨れ上がった。一触即発の事態に陥ったと判断した小太郎が慌てて仲裁に入る。

 

「待て待て! 落ち着け、タバサ! 骸佐もあんまり煽るようなことは……」

「……骸佐? ふうま、今、骸佐って言った?」

 

 ゾッとするほどの空気が辺りに溢れる。タバサが明らかに怒っている。誰もがそのことに気づいた。

 

「つまりそいつが……五車で反乱を起こし、ふうま家に『身内から裏切者を出した』という汚名を被せ、そして一度ふうまを『殺した』、二車骸佐に間違いない?」

 

 止めに入った、自分に手は出してこないとわかっているはずの小太郎でさえ気圧されるほどの殺気。そのせいでタバサの問に答えることができない。

 

「……なるほど。そういえば、災禍は『フュルストと因縁のある外部の組織が討ちに来る』とか言ってたけど、裏切りに協力した相手をさらに裏切った二車忍軍のことだったのか。……組織の体裁があるとかなんとか聞いたけど、こんな不義を絵に描いたような奴に任せるとは、イングリッドもヤキが回ったな」

「何だと!? おいタバサ! お前とは心から敵対したくないが、イングリッド様のことを言われたら話は別だ! 今の発言は取り消せ!」

 

 さらにはリーナにまで話が飛び火している。

 

「私は事実を言ってるだけ。……そう言うリーナだって本当は不服だって心が漏れてる」

「ぐっ……! た、確かに不服ではあるが……。イングリッド様にはイングリッド様なりの考えがある! それにあの方が決められたことなら、私にとっては絶対だ!」

 

 場が混沌としてきていた。

 さすがにまずいと、小太郎の御庭番であると同時におそらくこの中で最も常識人、かつ実力者であろうライブラリーが会話に割って入った。

 

「ノマドの魔界騎士よ、さっきのこの子の発言については私から謝罪させてくれ。……そしてタバサ、落ち着きなさい。無駄に事を荒立てるんじゃない。今の我々の目的は囚われた静流殿を助け出し、この館を脱出することだ。君のお陰で無事それは成功し、あとはこの館を脱出するだけ。二車骸佐を討つことは目的ではない」

 

 圧倒的な威圧感を放ちつつ、ライブラリーはタバサをたしなめようと話しかけた。しかし、恩人に不義を働いた者を目の前にしたタバサには焼け石に水だったらしい。

 

「それはそっちの都合だし私の知ったことじゃない。不義の裏切者が部下も連れずに目の前にいて、こっちは戦力が揃ってる。なら今ここで確実に殺せる。そこのクズを殺してから脱出すればいい。フュルストを殺す奴がいなくなるって言うなら、代わりに私が殺してやる。リーナ、要はノマド内部以外の存在が殺せばいいんだろうから、それでいいでしょ?」

 

 リーナが答えるより早く、骸佐の舌打ちが響いた。

 

「……黙って聞いてりゃ言いたい放題言ってくれるな。お前が俺を殺すだと?」

「自分と相手の力量差も測れないなら、せいぜい死んでから後悔しろ」

 

 ライブラリーが入ってもなお、タバサは溢れ出る殺意を抑えようとしない。

 

「まったく、あいつを連れてきたのは誰だ……? フュルストの前に面倒事が増えたじゃないか……。お前たちわかったな? さっきはつい頭に血が上って言い争ってしまったが、敵とみなされたらこうなるから、あいつには絶対手を出すなよ。その代わり実力……特にあいつが敵とみなした相手を殺そうとする意志の力は本物だ。この中で1番強いのは誰か、と聞かれたら答えに困るが、この中で1番ヤバいのは誰か、と聞かれたら即答であいつだ」

 

 そんな中で頭を冷やすことに成功したらしいリーナだけが、マイペースに部下に言い聞かせている。あまりに場違いにも思えた小太郎だったが、そのおかげか少し心に余裕ができた。ひとつ息を吸い込み、言い聞かせるようにタバサに向けて口を開く。

 

「……タバサ。こいつについて随分詳しいってことは、誰かから聞いたんだろうが……」

「ごめん、ふうまちゃん。タバサちゃんが少し前にふうまちゃんが落ち込んでた時があって、原因が気になったからって聞かれて……。時子さんがふうまちゃんがなんとかしなくちゃいけない問題って言ってたらしくて、それでおそらくの原因ってことで骸佐ちゃんのことを話したのは私なの」

「……俺をちゃん付けで呼ぶな」

 

 蛇子の発言に対して骸佐がボソッとそう呟いたが、修羅場のこの状況では誰も拾おうとはしなかった。

 

「今蛇子が言ったことは本当か?」

「本当。ふうまが落ち込んでたのは、私が五車に戻ったタイミングでふうまがヨミハラに来てすれ違いになった日のこと」

「そうか……。あの日、か……」

 

 奇しくも今回の前に最後に骸佐と会った日だと小太郎は気づいた。

 

「その少し後にパジャマパーティーとかっていうのでゆきかぜの家に行った時に詳しく話を聞いた。他にも東京キングダムってところで一般人も巻き込んだ無差別攻撃をやったって話も聞いて絶対ロクな奴じゃないと思って殺したい奴リストの殿堂入りにしてたけど、予想に違わないクズだってことが実際顔を合わせてよくわかった」

「だとしても、だ」

 

 まだ殺意と殺気が入り混じった気配を抑えようともせずに振りまくタバサに向け、小太郎は真正面から立った。

 

「さっき蛇子が言ったよな。時子は俺がなんとかしなくちゃいけない問題だと言った、と」

「言った」

「俺もそう思っている。……これは、俺がなんとかしなくちゃいけない、俺自身の手で片付けなくちゃならない問題だ。それにライブラリーも言ったとおり、俺たちの目的は静流先生の救出、それが終わった以上、この館を脱出することだ。無駄に争いたくはない。それは忘れないで欲しい」

 

 仮面越しであるためにタバサの視線がどこを向いているのかはわからない。それでも小太郎はまっすぐに彼女を見つめながらそう言った。

 

 ややって、根負けした様子でタバサがため息をこぼす。同時に、それまでタバサから放たれていた気配が薄れていった。

 

「……わかった。ふうまがそう言うのなら、今はそれに従う」

 

 ようやく突如降って湧いた問題が解決した。そう思って胸をなでおろした小太郎だったが。

 

 パチ、パチ、パチと、そこで場違いにも思える手を叩く音が聞こえてきた。

 

「お見事ですねぇ。狂犬でさえも手懐ける、さすがは先程私を驚かせてくれたふうま小太郎といったところでしょうか。そのままその狂犬がそこのゴミと殺し合ってくれても良かったのですが……。まあ、なかなか面白いものを見せてもらいましたよ」

 

 声が聞こえてきた方へと視線を移すと、そこに立っていたのは異形としか言いようのない怪物だった。

 顔には目も鼻もなく、耳まで裂けた口があるだけ。地球外生命体を思わせるようなその相貌に加え、全身は目でわかるほどに巨大な筋肉の鎧に包まれている。

 

 声を聞かなければ誰かもわからなかっただろう。だが、タバサ以外の者たちはその言葉から相手が誰であるかに気づいたようだった。

 

「フュルスト……!」

「ええ、フュルスト様ですよ。しかし今の私はこれまで溜め込んだ異界のパワーを解放し、己を超えた存在……。そうですね、魔人フュルスト、あるいはスーパーフュルストとでも言ったところでしょうか」

「……なるほど。道理でさっきまでとは全然姿が違うわけだ」

 

 そう話す小太郎の口調は硬い。相手が相当な力を持っていると直感しているようだ。

 

「魔界騎士の姿まで見える。側近のあなたをよこすとは、イングリッドはよほど私を消したいようですね」

「貴様に命を狙われたんだ、当然だろう! ただし、私がここにいるのはたまたまだ!」

「そうですか。相変わらず読めない人ですが……。まあそういうことでいいでしょう。……さて、戦闘を始めてもいいのですが。まずは話し合いから始めましょうか。もしかしたら、それで解決できるかもしれない」

「話し合いだと!? 今さら貴様と話すことなど何もねえ!」

 

 怨敵を前に骸佐がいきり立つ。

 

「黙りなさい。あなたに用はありません。私が話したいのは……ふうま小太郎、あなたですよ」

「……さっき俺が見せた『力』に興味がある、ってわけだ」

 

 タバサが屋外から気配だけを探っていた時、小太郎は確かに右眼の「魔性の力」を使っていた。それを見たフュルストは様子を一変させ、「素晴らしい」と歓喜の表情を浮かべていたのだ。

 

「ええ。先程は断られましたが、条件を変えてもう1度質問をしましょう。……今、この空間は私の魔術によって周囲の空間から切り離され、隔絶される形になっています」

「何……?」

 

 小太郎は耳を澄ませる。そういえば、少し前まで聞こえていた外の喧騒が今はまるで耳に入ってこない。

 

「……残念ながらあいつの言ってることは多分本当だよ。私がこの部屋に入ってきたときぐらいまでは、外での戦闘の気配も察知できた。今なら二車骸佐の部下だろうって予想できるけど、とにかく誰かが戦ってることはわかってた。でも今はそれが感じられなくなってる」

 

 タバサがそう言ったことで、フュルストの発言は間違いない、と小太郎は考えをまとめた。

 

「状況はわかりましたね? では、今ここから出ることも助けを呼ぶこともできないというのがわかった上で、再度質問です。……ふうま小太郎、私の元に来なさい。そうすれば他の者たちは無事この館を脱出でき、さらにあなたには世界の理を見せてあげますよ」

「……前半は、まあ考慮に値するかもしれないけどな。だがお前が約束を守るとは思えない。それに……世界の理なんてのは自分で見つけてなんぼだ」

「そうですか。交渉決裂ですね。……あなたたちはここで死んでもらいましょう」

 

 フュルストの殺気が膨れ上がる。戦闘は避けられない、と全員が臨戦態勢を取った。

 

「死ぬのはテメエだ! 俺とテメエの因縁、ここで終わりにしてやる!」

 

 骸佐が吠えながら大太刀を構える。が、タバサが冷静に独り言をこぼした。

 

「……よく言う。裏切りに協力した相手を裏切っただけのくせに」

「ホホホ! そこの狂犬、いいことを言いましたね。二車骸佐、所詮お前は器ではないのですよ! だから裏切りなどという行為をするしかないわけです」

「黙りやがれ!」

「ああ、そうそう。あなた同様私を裏切った2匹のゴミですが、あなたのお仲間だったようで。そちらの部屋に捨ててあります。あなたを殺して空間をもとに戻した上で、そのゴミにあなたも加えてあげますよ」

「このクソハゲがぁっ!」

 

 部下をやられたということで我慢の限界を超えたか。骸佐が1人で魔人フュルストへと襲いかかった。

 

「待て骸佐!」

 

 小太郎が叫んだのとほぼ同時、巨大な触手へと変化したフュルストの腕が突っ込もうとする骸佐へと叩きつけられる。

 

「ぐっ……! おおおおおっ!」

 

 骸佐は咄嗟に大太刀でそれをガードするが、威力は相当なものらしい。突撃の勢いを完全に止められ、その場に留まるのがやっとと言った具合だ。

 

「ほう、やりますね。あなたごときはこの程度……まあせいぜい全力の30%程度の力で十分かと思いましたが……。いいでしょう、全力でいきますよ!」

「チッ……!」

 

 どうにか受けたと思ったら30%程度だった。その言葉に骸佐の心に動揺が生まれ、加えて今の一撃の影響で行動が遅れる。

 避けるのは間に合わない。相手の言葉を信じる前提だが、単純計算で今の3倍以上の威力を持っているとするならば、完全に回避しきれなかった時のダメージは計り知れないだろう。しかし、防御するにしてもその攻撃を受け切ることが出来るかどうか。

 

「だから言ったんだ三下。力量差も測れてないって」

 

 その瞬間、飛び込んできたのはタバサだった。

 彼女は初撃をガードした骸佐の大太刀の腹の部分に思いっきり蹴りを叩き込んで後ろに吹き飛ばしつつ、その勢いで触手を避けつつ自分自身もフュルストへと肉薄した。

 

「何っ!?」

「死ねェッ!」

 

 空中で回転し、勢いをつけての両手の剣の叩きつけ(エクセキューション)。2本の剣はフュルストに直撃したが、金属音を撒き散らしただけだった。

 

「……くそ、硬いな」

「フン! 脆弱ゥ!」

 

 フュルストが触手を振るってタバサを襲おうとする。それに対してタバサは周囲を廻る幻影の刃(リングオブスチール)で迎撃しつつ高速の三連撃(アマラスタのクイックカット)を叩き込み、さらに回転攻撃(ホワーリングデス)で再度迫った触手を斬り払う。

 

「タバサ! 無理するな! 一旦退け!」

 

 小太郎からの声を受け、挟み込む一撃(ベルゴシアンの大ばさみ)を撃ち込んだ後、フラッシュバンを炸裂させながらタバサは大きく飛び退いた。

 

 続けて波状攻撃に移るべきか迷ったが、小太郎は一旦様子を見ることにした。

 この中で個別の戦力としては最上位クラスであろうタバサをもってしてもまともにダメージを与えられている様子がない。無駄に仕掛けて消耗するよりも、今攻撃した者から率直な意見を聞きたいと思っていた。

 

「……タバサ、どうだ?」

「硬い。手応え皆無ってわけじゃないけどちょっときついと言わざるを得ない。フラッシュバンも効いてるか怪しい」

 

 包み隠さない報告に、小太郎は小さく唸って考えを巡らせた。

 

「タバサの剣技でも通らない装甲か……。ライブラリー、どう見る?」

「私やタバサのような手数勝負の者とは相性がよく無さそうですね。一撃に威力がある使い手が欲しいところですが……」

「……Bunny Kingsの時と同じ状況ってわけか。しかも今度は紫水もいない。きららとかゆきかぜとか連れてきてくれればもっと楽だったと思う」

 

 いきなり無いものねだりを始めたタバサに対し、小太郎の表情に苦いものが浮かぶ。

 

(……いや、一撃の使い手ならいる。ただ……)

 

 小太郎は骸佐へと視線を移した。その視線は交わることはなく、案の定、骸佐は蹴り飛ばしたタバサの方を睨みつけていた。

 

「テメエ……いきなり蹴りやがって……!」

「私が飛び込まなかったら死んでた。……まああれは放っておくとして。ふうま、どうする?」

「俺とのスタニングスパークは?」

 

 鹿之助が口を挟んできた。が、小太郎は首を横に振る。

 

「悪いが期待できない。それにお前は来るべきチャンスに備えて体力を温存しておけ」

「お、おう……」

「ホッホッホッ! 話し合っても無駄ですよ!」

 

 タバサに斬りつけられた部分をまるで埃でも払うようにしながら、フュルストが高笑いとともにそう言った。

 

「そこの仮面の異世界人、噂には聞いていましたが、先程の攻撃からしてもなかなか手練の様子。狂犬かと思いきや確かに実力者のようです。……それでもこのスーパーフュルスト様のボディに傷をつけることは出来ないようですが」

「なら試そうか? ……きついってことと倒せないってことは全く別な話。いくら硬かろうが、斬り続けていればいつかは貫ける」

「ええ、そうかもしれませんね。あなたなら本当にそれをやりかねない。ですので……。念には念を入れ、さらなる切り札を用意して万全を期すことにしました」

 

 緑色の美しい結晶。

 

 どこからともなく取り出した、フュルストが手にしていたものを形容するならばそれが適切だろう。人を魅了しそうなその美しさ。思わず息を呑んだ者もいる。

 

 しかし、同じく息を呑んだタバサにとって、それは全く別な意味で、であった。

 

「馬鹿な……。なんで()()がそこにある!?」

 

 タバサにしては珍しい、明らかに動揺した声色だった。

 

「どういうことだリーナ! イングリッドはヨミハラのイセリアルについては確実に処分すると言ったはず……。なのになぜあいつは、()()()()()()()()()を手にしている!?」

「イーサークリスタルだと……!? フュルスト、貴様! イングリッド様や我々に隠れて……!」

「ええ、こっそりと回収させていただきましたよ。異世界の怪物の死体をね。他にも色々と盗み聞きをさせてもらい、そいつらの正体や名前も知ることもできました。そして、その化け物共のエネルギー源……イーサーについても研究し、この魔人スーパーフュルスト様をさらに強化する方法にたどり着いたのです!」

 

 嬉々として語るフュルスト。それから彼は自らの体にその結晶を押し当てようとする。

 

「させるか!」

 

 先程からの動揺した様子を隠しきれないまま、タバサが一気に消える速度の突進(シャドウストライク)で飛び込もうとした。

 

「邪魔ですよ」

 

 しかし、フュルストはタバサの進行方向目掛けて触手をやたらめったら振り回し、強引にその進路を妨害。結果として弾き飛ばされたタバサはダメージこそ避けた様子だったが、間合いを詰めきれず元の位置まで戻されてしまった。

 

「タバサ! 大丈夫か!?」

「……くそっ、手遅れだ」

 

 自分のダメージなど二の次といった様子で苦々しくタバサが呟いた。その視線の先で、フュルストの手にあるイーサークリスタルは持ち主の体と同化しつつある。

 

 勝ちを宣言するかのように、フュルストが叫んだ。

 

「それでは……。お見せしよう、この私の真の力を!(I will demonstrate my true POWEEEEEER!!)




ウォードン・クリーグ

本編ラストのセリフを原作で発言するAct1のボスキャラ。
最初に出てくるActボスであることも含めて非常に印象が強いため、多くの乗っ取られの記憶に残るキャラと思われる。
正確なセリフは「Ugh…… you're strong, but now…… I will demonstrate my true POWEEEEEER!!(ぐっ、強いな……だが今からお見せしよう、これが私の真の力だ!)」で、後半部分だけを本編で使用している。
特にトゥルーパワーという表現は数多の乗っ取られの心を掴んでいる様子。
第1形態のヘルスを削り切るとこのセリフとともにクリーグは第2形態へと移行、姿とBGMが変わり攻撃の激しさが増す。
クリーグというのは正確には器の名前であり、“乗っ取った”イセリアルがその正体。ただ、支配下に置いているものの元のクリーグの意思が多少残っているらしく、時々イセリアルの思考に干渉してきたりするらしいことが日記に書かれている。
倒すと「You may destroy my body, but you can't truly kill me……(私の肉体を破壊しようとも、私を真の意味で殺す事は出来ぬ……)」と意味深なセリフを残して消滅する。
そのセリフを証明するかのように、DLCを導入すると後に予想外な形で再び顔を合わせることとなる。
また、DLCを導入することによってこいつが使っていたと思われるセット装備「クリーグの武装」を入手することも可能。
ただし、DLC導入後のAct6で特定の敵からのドロップとなる。
が、逆に言えば狙ってのドロップができるために入手しやすく、一時期は「初心者はデスナイト(ソルジャー+ネクロマンサーのクラス、Death Knight)でこのセットを装備しておけ」と言われていたこともあり、「クリーグDK」というビルドで猛威を振るっていた。
今でも装備を突き詰めればSR75-76を回すポテンシャルはあると思われる。
ちなみに、味方NPCに「尋問官クリード」というキャラがいるのだが、クリーグと1字違いのために時折混同して間違えられたりする。
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