「ハァ……」
味龍の店内。
卓上調味料の残りをチェックしながら、扇舟は無意識にため息をこぼしていた。
元々少なかった客足は更に遠のき、今店内にはほとんど客がいない。狼のような獣人と、端正な顔立ちの淫魔族と思われる男2人組が口数も少なく食事をしているだけだ。その2人も店の中が静かすぎて、話すとしても声量を落としながらという状態である。
オーダーも出前も入らないために皆手持ち無沙汰気味だった。
春桃は厨房にいるが、いつもはフル回転のコンロの火を珍しく落としている。トラジローは客席の一つに座って頬杖をつきながらぼーっとしているし、葉月とシャオレイも厨房に椅子を持ち込んで座って小声で雑談をしていた。
ただ1人、扇舟だけが心を紛らわせるように動いているだけだった。
少し前に常連とした世間話。それが今扇舟が余計なことを考えなくていいようにするために、何かしらやることを見つけようとしている理由だった。
今日の客の少なさを扇舟がボヤいたところ、常連客から意外な答えが返ってきていたのだ。
「なんというか……街全体の空気がヤバい。俺はここの飯を食いたい欲が勝って来たが、この空気じゃ出歩かないようにする連中のほうが多いだろう。この間謎の存在が来ただかゾンビが溢れただかって時はあまりに突然でどうしようもなかったが、ヨミハラの住民は本来そういうヤバい空気を察するのには長けてるからな」
ヤバい空気。同時に、このタイミングで「絶対ついてくるな」と言って店を出ていったタバサ。
どんなに気にしないよう心がけても、扇舟の頭の中に嫌な考えがチラついてしまう。
だが、仮にここで自分が出て行ったところで何ができるだろうか。
スパーリングでこそタバサ相手に勝ち星をリードし始めてはいるが、命をかけた実戦ともなればどこまでできるかもわからない。
彼女の義手もあくまで日常用で戦闘には全く向いていない。
何より、「絶対ついてくるな」と釘を刺されている。
そう思うと、彼女にできることは客の少なくなった店の中で何か仕事を見つけ、無理矢理にでも体を動かすことぐらいしか無かった。
「……おい、センシュー」
今も無意識にため息をこぼしつつ、空いたテーブルを心ここにあらずと言った具合で拭いていた時。不意に春桃から声をかけられた。
彼女の険しい表情が目に入る。
「何?」
「お前、もう今日帰っていいぞ」
「え……」
確かに客は少ない。しかし、それ以上におざなりに仕事をしていたように見られたとしても否定はできない。
「ごめんなさい……。もっとちゃんと仕事に集中するから……」
「違う。私は怒って言ってるんじゃない。そもそも店がこの状態じゃ仕事なんて無いようなもんだ。……私としては、お前のそんな様子が不憫で見てられないって思ったんだ」
「不憫……?」
扇舟がオウム返しに単語を口にする。
「ああ。……お前、タバサのことが心配なんだろ?」
「それは……そうだけど……。でも、タバサちゃんもおそらく私のことを心配してついてくるな、って言ったわ。だから……」
「……センシュー、お前が定休日の時の鍛錬に率先して参加してるのはなぜだ?」
「なぜ、って……」
最初はタバサ不在になって腑抜けてしまった従業員の心を叩き直すため。そんな目的だった。だがそれはすぐに達成され、扇舟の心のなかでは新たな目標が生まれていた。それは――。
「お前は、タバサと肩を並べたいと思っていたんじゃないのか?」
確かにそうだった。そのはずだった。
「……ええ、そうね。春桃さんの言う通り。だけど……まだそれは叶わない。私なんかがついていったところで足手まといになる」
「それは過小評価だぞ」
テーブルに頬杖をついたまま、どこか気だるそうにそう言ったのはトラジローだ。
「お前はスパーリングでオレと互角に戦えているのは事実だぞ。もっと自分に自信を持っていいんじゃないか? ……まあ、あくまでスパーリングのレベルだから、本気を出したらオレの敵じゃないけどな」
「多分センシューが気にしてるのは、今トラジローが言ったことなんだろうな。お前は練習と実戦が違うことをよく知っている。だから、二の足を踏んでしまっている。違うか?」
春桃の指摘に、扇舟は重々しく頷いた。
「……その通りよ」
「だとしても、実戦でもセンシューは十分強いと私は思うけどな……。あとはお前自身の心の問題じゃないかって気もしてる」
「心……」
「でもまあ、だからといってタバサを探しに行け、なんて軽々しくは言えない。下手すればお前の命、さらにはタバサの命にも関わるかもしれない話だからな。何より、あいつ自身がついてくるな、って言ってたし、なおさらだ。……私がお前に帰っていいって言ったのは、タバサの帰ってくる場所で待っててやれって意味で言いたかったんだ」
不思議と、扇舟にとってその春桃の言葉はすとんと腑に落ちていた。
帰ってくる場所で待つ。結局、今と同じく待つことに変わりはないのかもしれない。
それでも、帰ってきた時にいの一番に会うことができる。それは悪くない。そんな風に扇舟は思っていた。
(待つ、か……。そうね、今の私にはそれしかできない。でも、それでいいのかもしれない。そして……さっき春桃さんに言われた『心』……。タバサちゃんは反対するだろうけど、帰ってきたら私も一緒に戦いたいって、そう伝えよう)
肩を並べて戦う。いつかは、と思って心の中に閉まっていた、今の扇舟の夢。
その事を考えていたら、自然と心が前向きになるのを感じていた。
「部外者が口を挟むようだけど、待っててもらえるってだけでも嬉しいもんだぞ」
と、そこで店内にいた唯一の一組の客のうち、獣人の方がそう声を駆けてきた。
「僕はどちらかというと待つ側だから、あなたの気持ちが少しはわかるかな。確かに待つ側としてはもどかしいけど、こいつもこう言ってるし、いい選択なんじゃないかなって思う」
今度はその相方のインキュバスだ。
元々仲良さげに食事をしていたので2人親友同士なのだろうと思っていた扇舟だったが、もしかしたらそれ以上の関係かも、と思わず勘繰りそうになる。
「そこの客2人、いいことを言ったのだ。おい春桃、何かサービスしてやれ」
「なんでトラジローがそんな偉そうなんだよ。……でもまあ私が言いたいのも同じようなことだ。だからセンシュー、今日はもう上がっていいぞ」
「その代わり、明日はまた2人一緒に顔を出してくださいね!」
厨房の方から葉月もやってきた。その後ろにはシャオレイもいる。
「センセンとタバタバ、両方いないと寂しいからネー」
「皆……。ありがとう。じゃあ好意に甘えて、今日はもう上がらせてもらうわ。その代わり明日はタバサちゃんと2人で一緒にまた元気な顔を見せるって約束するから」
扇舟はエプロンを脱ぎ、手早く帰る支度を済ませる。
「あ、センシュー。今日店に客が少なかったのは事実だし、街もちょっと空気がおかしいように思う。だから帰る時はくれぐれも気をつけろよ」
「ええ、心配ありがとう。……それじゃあ皆、お先に失礼するわ。また明日」
そう言うと、扇舟は味龍からヨミハラの街へと出て行った。
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「タバサっ!」
床に落ちた右腕を見つめて愕然としつつ、思わず小太郎は叫んでいた。
右腕欠損。言うまでもなく重傷だ。戦闘面では大きすぎる痛手、加えて出血が多ければ命にすら関わる危険性すらある。
さらに、タバサの右の腹部も抉られて出血している。右腕の切断面と合わせ、無視できない出血量のように思える。
ところが、当のタバサ本人にそこまで焦った様子はない。
まずはフュルストが両手の触手を再生させつつ引き戻し、絶対の優位性に浸りながら最後の総攻撃の準備に移るのを確認した。
それから
そうしつつ、空いた左手を背後に回して手を広げる。じゃんけんのパーの形だ。
『待った。来るな』
ハンドサインは、確かにそう言っていた。
(来るな……!? 来るなじゃないだろ……右手を失ったんだぞ……!)
混乱する小太郎をよそに、次のハンドサインが送られた。
動けるのであれば連携攻撃の準備をするよう要求するサイン。それから、人差し指を下に向け、親指を交差させるように横に出す、「T」の字に見える指文字を3度。そして最後に「自分は問題ない」という意味を込めて親指を立ててみせた。
(問題ない……? 本気で言ってるのか……? それにさっきの……)
使うかわからない、と本格的な練習はあまりしなかったものの、4人で試したことはある連携攻撃。タバサはハンドサインでそれを要求してきた。
(でも、そんなことをやる余裕があるのか? 誰が見ても重傷、それにこの後フュルストの攻撃が集中するのも考えられる。お前には防御の奥の手として
未だ頭の不快感が拭えないこともあってか、考えがまとまらない。タバサが捨て石になろうとしている。そんな考えまでもが脳裏をよぎっていた。
(……いや、違う。確かにあいつの戦い方には危うい部分がある。だが、1ヶ月間一緒に訓練してわかった。タバサの戦い方は捨て身でこそあれ、決して死に急いだものじゃない。たとえリスクを負ってでも目の前の敵を倒して道を切り開く。そういう戦い方だ。それに……)
かつて自分が言った言葉を小太郎は思い出す。
『タバサを常識の範疇で捉えようとするな』
そう、彼女を常識で測ってはいけないのだ。
今、タバサにはこの状況を打破できると確信できるだけの何かがある。だから、連携攻撃の要求をしてきたのかもしれない。
(だったら……信じるぜ、タバサ……!)
小太郎は同隊の2人の方へと振り返った。
「蛇子! 鹿之助! 一度でいい、動けるか!?」
「な、なんとか……。静流先生のおかげで結構楽にはなったかな……。でも今のタバサちゃんのサイン……」
「本気なのか? やれっていうなら、無理すればやれると思うけど……」
まだ万全とは言い難く、2人ともタバサからのサインに困惑してはいるが、戦意は失っていない。
これならやれる。小太郎はそう直感した。
「タバサから直々の要求だ、準備するぞ! 三次元急襲連携戦法、『トリプルT』!」
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インベントリから引っ張り出した赤い色の液体――ポーションを飲み干したタバサは、空になった容器を床へと吐いて捨てた。
(ここが正念場だな。思ったよりダメージをもらったか。だがそれでも……)
床に落ちた自分の右腕を拾い上げる。それから片膝をついたまま、その腕の切断面同士を押し付け始めた。
(
目の前の相手は勝利を信じて疑っていない。自分をさっさと片付けたくてしょうがない。そんな気配をタバサは感じていた。
タバサにとって、自分へのダメージと引き換えにしてでも得たかった、狙い通りの相手の心の動きだった。
「さあ、覚悟するんですね異世界の狂犬よ! 今から滅多刺しにして息の根を止めてあげましょう! そうすればこの空間の中でまともに動ける者は私だけになる!」
フュルストはそんなタバサの策略に気づく由もない。もうひと押しで、厄介な相手を葬り去ることができる。
そんな誘惑には抗えず、その場から動こうともせず切断された腕を押し付けるという、今現在のタバサの不可解な行動に対して疑問も抱けない。
とにもかくにも勝利は目の前。それを確固たるものとするために、フュルストはそれまで防御に回していた触手を全て攻撃に動員しようとしていた。それぞれを剣状に変化させ、確実にタバサにとどめをさすつもりである。
「それでは……死になさい!」
無数の剣と化した触手の切っ先がタバサ目掛けて迫る。
だが当のタバサ本人に避けようとする様子はまったくない。変わらず片膝をつき、大きく深呼吸して集中力を高めてから、ポツリと呟いただけだった。
「“ブレイドバリア”……展開……!」
タバサの周囲に無数の
このブレイドバリアを生み出したのは、異端と呼ばれた“ベルゴシアン”というナイトブレイドのマスターであった。彼は召喚術の扱いが不得手で、安定したファンタズマルブレイドの使用ができない、という噂があった。
そこで彼は、発想を根本から変えることにしたのだ。
安定した刃を作り出せずうまく飛ばせないなら、不安定でも無数に作り出して飛ばさずに盾にすればいい。
それが、今タバサが使用しているブレイドバリア――先程小太郎が「防御の奥の手」と心の中で思ったものである。
「ホッホッホ! そんな刃の障壁など、すぐに打ち破ってさしあげますよ!」
絶対の勝利の確信を持って、フュルストは触手を振るいながらそう叫んだ。
その場から動かないタバサを串刺しにしようと無数の切っ先が迫る。だが――。
「何っ!?」
驚愕の声を上げたのはフュルストの方だった。攻撃のことごとくがファンタズマルブレイドによって弾き飛ばされていたのだ。
「な、なぜ……! なぜ通らない! この邪魔な死にぞこないを殺す絶好のチャンスだというのに!」
生み出された刃は、
しかし、代償も存在する。高い集中力と精神力を必要とするため、発動中はその場から動くことができない。
無敵のバリアを展開しているにも関わらず、動こうとしない相手を見て、フュルストもそのことに気づいたようだった。
「……いや、読めましたよ! その術、絶対的な防御力を誇るようですが、その分使用するのに負担が大きいと見た! 一度術を展開したお前はそこから動けない、ならば後ろを先に始末するだけのこと!」
フュルストは狙いを変えた。防御に徹して動けないタバサよりも先に、背後にいる小太郎たちへ。
しかし、タバサは焦りも慌てもしない。小太郎がもっとも信頼する男の名を叫んだだけだった。
「ライブラリー!」
「言うに及ばず!」
小太郎目掛けて突き進む触手の剣を遮るように、サイボーグ忍者が立ちふさがる。本来ならシルバーに輝くその体。それが今、赤熱化して燃え上がっていた。
「
いうなれば炎の化身。
ライブラリーは、文字通り炎を纏っていた。全身を結晶化する能力である彼の忍法、珪遁の術によるものだ。
攻防一体の力により、彼の体に当たる触手は焼け焦げ、あるいは腕部のブレードによって斬り裂かれる。
「なっ……! 馬鹿な! イーサーの衝撃波で動けないのではなかったのか!?」
「仲間のサポートと死に物狂いの戦いを見てなお、おとなしく寝転んでいることなどできんのでな!」
「よくやったし、よく言ったライブラリー。……反撃開始だ」
術を解き、左手に持った右腕をずっと切断面に押し付けていたタバサが立ち上がった。それから、右手を
「……よし、動くなら問題ない」
足で
「ま、待て! 貴様、なぜ右手が……!」
「ポーション飲んだ上で再生能力を高める効果もあるブレイドバリアを張ったんだ、そこまでしたなら
常識で計れない少女はさも当然とばかりに、愕然とした様子のフュルストにそう返した。
「ふうま! 蛇子!」
続けて、仲間の名を叫ぶ。
「こっちは準備オッケーだ! いくぞ、『トリプルT』!」
「タコ足ジャンプ、アンドキャーッチ!」
小太郎が牽制に手裏剣をフュルスト目掛けて投げ、同時に獣遁の術によって足をタコ足化させた蛇子がタバサ目掛けて跳ぶ。そのままタバサをタコ足で抱え上げ、さらにフュルストの頭上、天井付近目掛けて跳び上がった。
タコの足は筋肉の塊だ。蛇子は過去に小太郎と鹿之助の2人をタコ足で抱えたまま建物の屋根を飛び移ったことすらある。
よって、タバサ1人を抱えてフュルストの頭上まで跳ぶことなどなんということはないのだ。
「何をする気か知らんが……もういい! ここで貴様らを殺す!」
フュルストは完全に頭に血を上らせていた。
小太郎からの手裏剣は牽制と割り切り、受けてもダメージにならないと完全に無視。普段のような丁寧な言葉遣いはすっかり鳴りを潜め、怒りに任せてライブラリーに焼き払われた触手を強引に再生させている。空中の蛇子とタバサを貫くつもりだろう。
それより早く、タバサは蛇子に抱えられたまま、空中で次の行動に移っていた。フラッシュバンと、その閃光に紛れるようにしてスタンジャックスをばら撒いている。
「フルパワー! バンビーノ・スタニングスパーク!」
そしてその閃光を合図として、鹿之助がここまで温存していた大技を放った。
「ぬうっ……!?」
分厚い装甲に包まれたフュルストだったが、最大出力で放たれた電遁の術と、さらに足元にばらまかれたスタンジャックスの効果を無視することは出来なかった。かつて模擬戦で戦った対魔忍たちがそうであったように、一瞬
「いくよ、タバサちゃん!」
「了解」
「とおりゃあー!」
タバサはこの瞬間を待っていた。跳躍の最大点へと到達した蛇子は、タバサをフュルスト目掛けて
「小賢しい! この程度の目眩ましと小細工が通用すると思っているのか!」
空中で目標が分かれる形になったが、フュルストは迷うことなくタバサを迎え撃つつもりのようだ。一瞬止まった体を強引に動かし、再生が間に合った分の触手で応戦しようとする。
だが先程の一瞬のスタン。それが致命的だった。
フュルストの攻撃よりも早く、タバサの姿が消えていた。
筋肉の塊であるタコ足から投げられる瞬間、足場としてそれを蹴り、さらには重力による加速も加える。
これまでで最速となる空中からの
「き、決まった……。『トリプルT』……!」
鹿之助が信じられないといったような声を上げる。
トリプルT――
小太郎の牽制の手裏剣と同時、タバサを抱えた蛇子がタコ足ジャンプで敵との間合いを詰める。そこでタバサがフラッシュバンで相手の目をくらませつつスタンジャックスをばら撒いておき、鹿之助との連携技・スタニングスパーク。相手の動きを止めて蛇子はタバサを戦法名の通り
発案者と名付け親は鹿之助だった。いわゆる「戦術タバサ」を最大限活かす方法として「蛇子がタバサを抱えてジャンプしてさ、そのまま空から一気に襲いかかったらすげえ効果ありそうじゃねえか?」と考えたのが発端だった。
だが実際に試したところ、「確かに頭上からという三次元的攻撃は効果はあると思うがリスクも無視できない」「私もだけどタバサちゃんの負担が大きすぎる」「そもそも私が単独で突っ込めばよくない?」といった残り3名の意見により、数度練習しただけでお蔵入りとなっていた。
しかしこの状況においては「空中からの攻撃」というのが非常に有効だった。
タバサが狙いたいのは、フュルストの背中にある体から生えたイーサークリスタルだ。二次元的な動きでは回り込まないと狙えないが、この三次元攻撃ならそこも狙いやすい。
加えて、タバサが相手を「騙した」のも功を奏した。
自分の窮地を装って相手を攻撃に集中させ、再び防御態勢に入る前に一気にケリをつける。小太郎たちとの訓練によって得た対人戦の技術と、戦闘の駆け引き。相手の内心を読み解けるという特性も相まって、やはりそれは強力な武器となっていた。
「練習しておいてよかった。三次元的攻撃がここまで活きる時がくるとはね。それに……騙すのもうまくいって私の狙いも完全にハマった」
かくして、タバサ渾身のブラフと三次元急襲連携攻撃の合せ技により――。
「ぐ、ぐおおおおおおおおおおおお!!!!!」
フュルストのおぞましい悲鳴とともに、背中のイーサークリスタルが粉々に砕け散っていた。
ブレイドバリア
マスタリーレベル20で解放されるナイトブレイドのスキルで、発動すると周囲に無数の刃を召喚して3秒間ダメージを100%カット、すなわちあらゆる攻撃を受け付けなくなる。さらにヘルス再生を大幅に上昇、CC耐性も強化され、物理報復も付与される。
「防御の奥の手」として満を持して登場した感のある、3秒間無敵になることができるスキル。……なのだが、本編中にもある通り移動は不可能。それどころか、使用中はこちらからの攻撃は勿論のこと、ほとんどすべての行動が制限され、リフトを開くかポーションを使用するぐらいしかできない。
そのため敵に囲まれているような状況で無計画に使ってしまった場合、状況がさらに悪化することまである。
とはいえ、1振りでも3秒間無敵を得られることは事実であり、ポーションを再使用したいけれどまだリチャージ中、という時にほぼ悪あがきで使うことでもしかしたら生き延びられることがあるかもしれない。
ただ、積極的に使わないのであればどうあがいても最後の最後に使う保険でしかないため、誤発動を嫌ってここへの1ポイントすら切る人もいると思われる。実際誤発動すると3秒間動けずものすごく悲しい気持ちになる。
また、自分で使うとイマイチだが、敵が使うと非常に面倒であり、先に触れたクロンリーのギャングのネメシスであるファビウスがこいつを使ってくることで有名。これがファビウス唯一の問題の「ある一点」である。
展開中はダメージを与えられないのでライフスティールができない。さらに、タイムが設定されているSRだと遅延行為になるために非常に悪質。
とはいえ、先に述べたようにファビウス自体はネメシス中でも弱い部類に位置するのは救いとも言える。
余談だが、アルカニストのスキルには「エレオクテスの鏡(通称:鏡)」という本スキル同様3秒間無敵になるスキルがあるのだが、こちらはリチャージが長い代わりになんと移動も攻撃も可能。
そのため、ナイトブレイドとアルカニストを組み合わせたクラスの「スペルブレイカー」では鏡を早めに使い、それでも危険になったらブレイドバリアで鏡のリチャージ時間を稼ぐという「攻めの鏡、守りのブレイドバリア」というテクニカルな使い方をするビルドも存在するらしい。
ちなみに召喚する刃はファンタズマルブレイズであり、実はリングオブスチールも同様に無数のファンタズマルブレイズを召喚しての攻撃なのだが、向こうは短時間に術者の周囲を高速移動するように召喚することで攻撃用に、こちらは術者を守るように長時間召喚することで守備用に使うという違いがあるように思える。
なおこのスキル、本編中でも少し触れているように編み出したのは異端のナイトブレイドマスター・ベルゴシアンである。