“乗っ取られ”の少女、対魔忍世界に迷い込む   作:天木武

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Act63 もっと……強くならなければ……!

 出雲鶴。ふうま小太郎の専属メイドである。

 ひたすらに主人である小太郎のために尽くし、主人に近づく女がいれば吠え、主人を愚弄する発言をする者が噛みつく、まさに狂犬だ。

 だが、彼女にはそうなるだけの理由があった。

 

 タバサがこの世界を訪れる以前、五車では謎の失踪事件と連続殺人事件が発生していた。

 小太郎をはじめとした五車風紀隊は調査を進め、犯人が五車で教師を務めていた斉藤(さいとう)半次郎(はんじろう)であることを突き止める。予想外の事態こそあれど、風紀隊の活躍によって事件は一応の解決を迎えた。その際、犯人である斉藤に囚われていた鶴の救出に成功していたのだった。

 

 ただし、鶴は四肢を切り落とされ、全身にピアスや刺青を入れられた上で装置で食事や排泄を管理されて強引に生かされているという、地獄のような責め苦を受けていたのである。

 

 失った四肢をサイボーグ化し、肌に移植手術を受け、リハビリを終えて五車へと復帰した彼女は、その足で小太郎の元へと訪れていた。

 全ては受けた恩義を返すため。長い間囚われ、絶望の暗闇の中にいた自分に光を与えてくれたあの方のため。

 

 元々はふうま弾正に心酔したかのように付き従った父への反発から、ふうまに属さないという決意の表れという意味で父親の姓である「佐郷」ではなく、母親の姓である「出雲」を名乗っていた。

 だが、実際にそのふうまの現当主に助け出され、そんな考えはあっさり消し飛んだ。「仇は倍返し、恩は百倍返し」という、母の遺言でもある自身のモットーに則り、彼女からすれば年下でもあるにも関わらず、ふうま小太郎という主人のために尽くすことを決めたのである。

 

 こうして彼女は専属メイドとして、御庭番であるライブラリー――鶴にとっては父親である佐郷文庫と共に小太郎に仕えることになった。

 

「本当は御庭番となってお館様をお守りしたかったのですが、既にあなたがいるという事でメイドとなりました。どうぞお見知りおきを」

 

 それが、数奇な運命を経て同じ主に仕えることになった親子の最初の会話だった。

 言うまでもなくライブラリーは相手が自分の娘だということは当然気づいていたが、鶴も同様にこの時点でライブラリーは父親・佐郷文庫であると気づいていたらしい。彼女としては過去のわだかまりはまだ完全には解けていなかったものの、正体を隠しているのは理由あってのことだろうとその時点では深く追求しなかった。その後、五車決戦において鶴はライブラリーに対して娘として話し、親子間のわだかまりは解消されている。

 

 そんなふうま小太郎専属メイドとなった鶴であるが、先日のフュルストとの決戦の際には事前に休みを言い渡されており戦いに参加できなかった。小太郎は右眼を使って無茶をする可能性が高いと踏んだために、自分のことで冷静さを失いかねないと判断して敢えて鶴を遠ざけたのである。

 しかしそのことは隠し通されたのだが、帰ってきてどこか沈んだ様子だった主と父親の姿が気にかかり、小太郎を問い詰めた結果、うっかり「タバサに痛いところを突かれた」と口を滑らせてしまったのだ。

 

 今の鶴にとってタバサは「主に楯突いた不届き者」という相手でしかない。加えるなら、以前は素性不明にも関わらず成り行きでふうま家に転がり込んできたという過去もある。元々いい思いを持っていなかったと言えた。

 

「はあッ!」

 

 故に鶴に迷いはない。

 

 超高速で飛び込んでくるタバサ目掛け、機遁の術でブレードへと変化させた両腕を振るう。互いの2本の剣同士がぶつかり合い、両者は間合いを取り直した。

 

(速さは認めるがやはり一撃は軽い……。恐れるに足らず……!)

 

 タバサの訓練の様子を時折見ていたこともある鶴はすぐに考えをまとめ、己を奮い立たせた。

 

 再びタバサが突進してくる――と見せかけ、フェイントを入れて横に回り込んだ。

 対する鶴はその動きを見切りガード。続く高速の連撃もどうにか捌き切った。

 

「速さはあなただけの特権だと思わないことです!」

 

 反撃に振るわれる鶴のブレード。が、タバサには当たらない。まるで幻影のように紙一重で回避していく。

 

「そう言う割には遅いな。そんなのじゃ当たってやることはできない」

 

 露骨な挑発に、鶴の歯がギリっと鳴らされた。

 

「その発言、後悔することですね!」

 

 腕のブレードによる斬撃をタバサが回避したのに合わせるように、鶴が大きく飛び退く。同時に、腕のブレード化を解除。代わりに今度は脚をブレードへと変化させた。

 対するタバサは反撃に出た。バックステップ後の隙を狙うように突進。急速に間合いを詰め直しにかかる。

 

「フッ!」

 

 その飛び込んでくるタバサ目掛け、鶴はブレード化した脚を利用して回し蹴りを振り抜いた。完璧なタイミングで中段を狙われた攻撃に回避は間に合わず、タバサは両手の剣を十字にして防御するしかない。

 その蹴りの威力、そして速度は確かなものだった。先程まで簡単に鶴の攻撃をいなしていたタバサだったがそれができず、突進の勢いを殺され、思わずたたらを踏んで間合いを取り直すほどだ。

 

「私が得意とするのは刀脚……すなわち蹴りです。先程の遅いという発言、撤回させて差し上げます」

 

 鶴が動く。小刻みなステップを踏み、それまでの人間的なものとは全く異なる、予測できない動きで一気にタバサへと迫った。

 

「はっ、はっ、はあッ!」

 

 上段、中段、中段と3連のブレードによる蹴り。最初の2発こそ回避したタバサだが、3発目は回避が追いつかず、剣で切っ先を変えて防御せざるを得なかった。

 

「……なるほど、速い。認める。さっきの発言は撤回する」

 

 たまらず後退しつつ、タバサは口を開いた。

 

「ありがとうございます。では、そのままご主人様へも謝罪していただけませんでしょうか? もう二度と楯突かない、無礼な口は利かない、と」

「それとこれとは別問題。それに、言い方が少しきつかったのはあるかもしれないけど、ふうまのためを思って言ったこと。だから、それ自体については事実だと思ってるし、謝るつもりもない」

「そうですか。やはり痛い思いをしてもらわないとわからないようですね」

 

 ブレード化したアンドロイドレッグに力を込め、鶴が大地を蹴る。

 同時に、タバサは再び後方へ飛びながら右手を振った。間合いからは遥かに遠い。つまり、訓練中に何度か披露していた搦め手の何かと推測する。

 

(本命は閃光弾、あるいは牽制のための魔力のナイフか火炎瓶か爆弾あたり……)

 

 鶴は瞬時にそう判断し、考えをまとめて身構える。

 果たしてタバサが投げつけたそれは、鶴の眼前で炸裂して光をばらまいていた。

 

「やはり閃光弾ですか!」

 

 この攻撃を薄々予期していた鶴は、後方へと跳んだタバサがその後横に動くところまでを確認。それから目を閉じて閃光から網膜を防御しつつ、光の中へと飛び込んだ。

 

(視覚など不要……。あとは気配を読み取って戦う!)

 

 最後に視覚で確認した位置、すなわち正面からではなく左手側から、低い姿勢で殺気が飛び込んでくるのがわかった。タバサが身をかがめつつ突進し、視覚を焼いた上で側面を狙ってくるという腹づもりだろう。

 

「全部視えています……。そこっ!」

 

 低い姿勢で飛び込んできた気配目掛け、ローキックのような形でブレード化した脚で蹴りを繰り出す。

 勿論、鶴はこれでどうにかなるとは思っていない。回避か防御をされる前提、相手の出方を見るためのあくまで牽制気味の攻撃だ。

 

 だが、予想に反して伝わってきた感覚としては直撃だった。

 こんな初歩的な攻撃を受けるわけがない。もしかしたら捨て身の攻撃のために敢えて受けたとも考えられる。

 とにかく現状を確認するべきだと、閃光から守るために閉じていた目を開き――。

 

「なっ……!?」

 

 鶴は絶句した。

 

 蹴りを直撃させた相手はタバサではない。召喚された四足の獣(ネメシス)だったのだ。

 

(馬鹿な……! なら当の本人はどこに……)

 

 刹那。召喚獣の後ろに、それまで全く感じなかったはずの気配と共に、ゾッとするほどの殺気が現れた。

 

(気配を……殺していた……!?)

 

 フラッシュバンを投げつけた直後、タバサは己の気配を極限まで殺しつつネメシスを召喚してけしかけた。視界を遮った以上、攻撃をしてくるなら気配を探る形になる。同時に、タバサは鶴が退かずに攻め込むという心の動きを読み切り、ネメシスを囮に鶴の動揺と攻撃後の隙を狙ったのだ。

 

 その考えに完全にハマった形となったが、まだ鶴は諦めない。蹴り終えた右足を戻しつつ、軸足の左足で地を蹴る。今度は左の下段蹴りで地を這うように迫るタバサを止めるのが狙いだ。

 

 が、さすがに後手に回りすぎた。

 脚のブレードが振り抜かれるより一瞬早く、タバサは間合いの内側に飛び込んでいる。そのまま、軸足になっている右脚のブレードへと両手の剣を挟み込むように力任せに叩きつけていた。

 

「ぐうっ……!」

 

 普通の脚ならば間違いなく斬り飛んでいたであろう強烈な一撃。タバサ得意の剣技(ベルゴシアンの大ばさみ)を受け、耐えきれず鶴は地面へと倒れ込んだ。

 

「終わりだ」

 

 人の声とは思えないほど冷たい声が鶴の耳へと入る。体を起こそうとするより早く目に入ってきたのは、右脚めがけて大上段から両手の剣を振り下ろそうとするタバサの姿。

 

「あ……」

 

 また、あの時のように脚を失う。

 

 本能的な予感が脳裏をよぎり、思わず鶴が目をそらした、その時。

 

「そこまでだ、タバサ」

 

 聞こえてきた、子供の頃によく耳にした声に目を戻すと、ふうま家御庭番・対魔忍ライブラリーがタバサの首元に腕部のブレードを突きつけていた。

 

「遅いよライブラリー。止めに入るならもっと早く来るべき」

 

 処刑執行(エクセキューション)は、寸前で止められていた。右脚は先程のダメージはあるものの、まだ繋がったままだった。

 

 その刃を振り下ろす意思はないと、タバサが両手の剣を引く。それを確認してからライブラリーも腕部へと刃を収納した。

 

「で、私が勝ったし、ふうまへの態度は今のままってことでいいよね。……それともまだやる?」

 

 ライブラリーが止めに来ているというのに、最後の言葉には本当にやりかねないほどの迫力があった。思わず鶴は大きくため息をこぼす。

 

「……いえ。私の負けです。素直に認めましょう」

「そ。ならいいや。もう今後突っかかってこないでね」

 

 タバサは一対の愛剣(ネックスとオルタス)どこか(インベントリ)へとしまった。そのまま頭防具も外してその場を後にしようとしているようだ。

 

「待ちなさいタバサ! ……鶴、大丈夫か?」

 

 父に問いかけられ、問題ないといいたげに鶴が機遁の術を解く。が、さっきタバサに斬りつけられた右の義足から痛みを訴える不快な感覚が走り、思わずうめき声がこぼれた。

 

「鶴!」

「……平気です。右脚の機能に少し影響があるかもしれませんが、大したことではありません」

「そうか……。脚のことはわかった。それと別に私が言いたいのは……」

「タバサさんにはもう手は出しません。……それでいいでしょうか?」

 

 なおも続けようとしたライブラリーだったが、娘が悔しそうに拳を握りしめていることに気づいた。親として、ここで干渉するよりも当人が心の整理をつけて答えを出すのを見守りたい、という思いに負けた。

 

「……無理はしないように」

 

 そうとだけ言い残し、ライブラリーはタバサを追った。

 

「この程度では……ご主人様をお守りできない……!」

 

 殺気こそ本物であったが、タバサを本気で殺すつもりはなかったし、向こうもそうするつもりがなさそうだということはわかっていた。それでも、タバサの態度だけは納得できず、改めさせたかった。

 そうして売ったケンカだった。しかし結果は完敗だった。

 

「もっと……強くならなければ……!」

 

 父の気配が遠ざかるのを確認してから、鶴は先程握りしめた機械の拳を地面へと叩きつけていた。

 

 

 

---

 

 ヨミハラ、桐生美琴のラボ。

 

 扇舟は新しい義手を装着し、各種認証等を終えて実際に違和感なく動かせるかの確認をしていた。そして今、美琴のラボの中で最も厳重に防護された部屋にいた。

 ここは美琴が様々な種の生物をかけあわせて造り出した、いわゆるキメラの能力を確認する部屋でもある。室内は戦闘をこなせる程度に広く、非常時に備えて強化扉に加えて隔壁も完備。さらには強力な催眠ガスを室内に噴射出来るようにもしてあり、キメラが暴れても鎮圧が可能となっている。

 

 これから扇舟がやろうとしていることは、義手の最終チェック、すなわち、実戦でのテストである。

 特に美琴にオーダーメイドした特製のギミック――扇舟が調合した毒がきちんと爪に付与されるか、そしてその毒が相手に通じるか。それらを確認するためであった。

 

 部屋の中、壁からやや離れたところに扇舟は立っていた。反対側には大型の獣を閉じ込めることも可能な電子ロックの檻。内側から暴れまわる音が響いており、凶暴な生物が中にいることを証明している。

 

『それじゃあ電子ロックを開けるけど……。本当にいいのね? もしもの時は催眠ガスであなたごと眠らせるから、ヤバいと思ったら言って頂戴ね』

 

 部屋にあるスピーカー越しに、部屋の外から強化ガラス越しに様子を窺う美琴の声が聞こえてくる。扇舟は小さく頷き、左手を前に、ギミックを搭載した攻撃用である右手をわずかに引いて戦闘の構えを取りつつ口を開いた。

 

「いいわ。始めて」

 

 美琴が手元のスイッチを操作して檻の電子ロックを解除する。中から現れたのは“デビルズドッグ”と呼ばれる、魔界からの瘴気によって魔獣化した野犬だ。ヨミハラ近辺に陣取る武装難民には猟犬として飼い慣らしている者もいる。

 サイズは超大型犬とも呼べるほどで、狼かと見間違うほど。魔獣化した際に変色した紅い眼をギラつかせ、口からは涎と共に瘴気の混じった息を吐き出している。

 しかも、これは美琴が手を加えた個体でもあり、事前に扇舟から毒の威力を試すために毒への耐性を上げておいて欲しいと頼まれていたような存在だった。

 

 少しこちらの目線が高い、と扇舟が深めに腰を落とす構えに切り替える。その上で殺気を放ち、相手を挑発した。

 すぐに目の前の獣はケンカを売られていると気づいたらしい。扇舟を睨みつけて低い唸り声で威嚇をし始める。

 

「唸るだけ? かかってくる度胸もないの?」

 

 扇舟がわざとらしく鼻で嗤ってみせる。相手は人間でない存在だったが、それでも小馬鹿にされたと感じたようだ。

 

 とても犬とは思えない唸り声のボリュームを一段上げ、四足で床を蹴ってみるみるうちに扇舟との間合いを詰めてくる。それでも扇舟は動かない。

 相手が飛びかかり、扇舟の喉笛へと噛みつこうとした、その瞬間。

 

 あろうことか、扇舟は左手を相手の口の中へと突っ込み、敢えて装甲が厚い手の甲の部分を噛ませた。そのまま下顎側から親指で抑え込んで動きを封じる。

 そして右手の人差し指の爪部分を展開。毒を染み出させ、デビルズドッグへ軽く切り傷をつけた。

 

 効果はほんの数秒で現れた。

 噛みついていたデビルズドッグはその力が次第に弱まり、やがて全身が弛緩した様子で床に横たわって痙攣し始めたのだ。

 

「……あの牙でも左手に傷はつけられず、毒物耐性が高まっていたはずにも関わらずにこれだけの効果というわけか。十分ね。協力、感謝するわ」

 

 右手の爪を収納してからまだ自由に動けない犬の頭をポンポンと軽く叩き、その体を抱き上げて檻の中へと戻して扉を閉める。

 

「ロック、かけられるんでしょ?」

『それはできるけど……。別に殺しちゃってよかったのに』

「無益な殺生はしないことにしたの。使った毒もあくまで自由を奪う神経毒。自発呼吸は可能だから、数分もすればまた動けるようになってると思う」

 

 確かに檻にロックがかかったのを確認し、扇舟は部屋を後にした。

 外で待っていた美琴がタオルを放り投げてくる。

 

「ありがと。左手に傷はないけど、涎でベタベタになっちゃった」

「いくら強度を試したいからって、わざわざ噛ませたりする?」

「もし戦闘になったらあの比じゃない攻撃をこの手で受けることまで想定しないといけない。あなたの腕前を疑ってるわけではないけど、自分の目で確認しておきたかったから」

 

 そう言いつつ、疑似毒手として使った右手を見る。収納された爪部分からは毒も漏れてはいない。

 

「あとその毒も気になってたのよ」

 

 と、ここで美琴が口を挟んできた。

 

「あなたの毒に対する知識は本物だとよくわかった。あの犬の毒への耐性はかなり高めておいたはずなのに、まさかあんなあっさり麻痺するとは思ってなかったから」

 

 褒め言葉と受け取ったのだろう。扇舟は軽く肩をすくめておどけてみせた。

 

「でも、それなら神経毒じゃなくてより強力な致死毒にすればもっと楽だと思うのだけど。あなたなら調合可能でしょうに、なんでわざわざそんな面倒なことを?」

 

 扇舟から少し前の軽い雰囲気が消えた。

 

「致死毒はもしもの場合が危険過ぎるからね。それに……。いくら毒に頼るしか無いとはいえ、もう毒で人を殺すのは……どうしても抵抗があったのよ……」

 

 かつてはそれぞれの指に異なる毒を持ち、さらにはそれをブレンドすることで暗殺毒や溶解毒といった毒を操っていた。特に悪辣と評されたのが、右手の5本の指にある毒をブレンドさせて生み出す毒手奥義の「五道殺し」。命を奪わず人格を侵す精神毒で、時と共に精神を狂わせていく。

 弾正はこの毒を受けて反乱を起こしたのではないか、という噂もあった。

 

 その他に多くの敵も同胞も手にかけた。それを悔いてなお、自分には毒しか残されていない。そのこともまた、わかっていた。それ故の苦渋の決断として、神経毒というところに妥協したのであった。

 

 そんな扇舟の過去を知ってか知らずか、はたまた聞いておきながら本来は興味もないのか。美琴は小さく鼻を鳴らしていた。

 

「とにかく、私が作った義手には満足してもらった、ということでいいかしら?」

「ええ。これならタバサちゃんの隣に立つ時、私の武器になってくれる。……感謝するわ、美琴」

「どういたしまして。また何かあったら来なさい。……今度はお金じゃなくて私の頼みごとと引き換えになると思うけど」

 

 美琴からの頼みごと。絶対にロクなものじゃないだろうという予想は容易につく。定期的なメンテナンスは仕方のないこととして、できる限り世話にならないようにしようと、扇舟は密かに思うのだった。




斉藤半次郎

対魔忍育成機関であるはずの五車内部で、教師をしながら密かに連続殺人を行っていた殺人鬼。メインチャプター26のレイドボスでもある。
同時に、対魔忍にとって敵対勢力とみなせる内調とも繋がりを持っていたため実質スパイともいえる。
こんな奴が教師でいるとか五車の治安どうなってんだよアサギさんよお!……と思わなくもないのだが、アサギが取り仕切る前は弾正の反乱や甲河との確執といった対魔忍同士での一族の間の問題のみならず、井河一族内部でもアサギの派閥と長老衆の内部抗争など内ゲバの嵐でもっと悲惨な有様だった。
さらにはRPGの物語スタート時点でノマド幹部のフュルストが長らく保険医として潜り込めていたような状態だったので、もうしょうがないのかもしれない。そんなだから頭対魔忍とか言われちゃうんだよ……。

閑話休題、斉藤半次郎は眼鏡を掛けた優男といった出で立ちで、現代社会を担当していた。が、学生からの評判は軒並み悪く、半次郎も半次郎で一部の生徒を除いて教師も含めて「畜群」として見下していた。
ただアサギだけは高潔なものとして崇めており、そんな高貴な女性を苦しめ、それでもなお心が折れない様を見ることを悦びとしていたようである。とんでもねえ変態だ……。
最終的な目標はアサギであったが、その前段階として五車の生徒を含む多くの女性を誘拐、苦しめた上で殺害している。
その中で地獄のような責め苦に合ってなお屈しない鶴はアサギ同様の高貴さと評しており、特別な存在として強引に生かしていた。
彼曰く、アサギと鶴、この高貴な2人を屈服させた時に善悪の彼岸にたどり着くらしい。何言ってんだこいつ……。

“人遁の術”という忍法の使い手で、腕をもう2本増やしたり、他人の体に入り込んで操ったりする術を持つ。
また、対魔殺法もかなりの腕前であり、特に腕を増やしたことによる人体急所への同時攻撃を見せたりもしている。
その一方、突如空気中で小爆発を起こすという謎の攻撃方法も持ち合わせており、これは小太郎をはじめとする風紀隊の面々を苦しめた。
が、あと一歩で小太郎を仕留められるというその時に何故か爆発が起きず、逆に半次郎が動揺したその隙を突いてどうにか倒すことに成功。
これは本編で少し触れた「予想外の事態」によるものだが、とにかく連続殺人鬼である半次郎の撃破という目的に加え、鶴の救出も果たされることとなった。

余談だが、鶴は当初骸佐の反乱の際に死亡したとされていたため、そのタイミングで半次郎に拉致監禁されたと思われる。
つまり間接的に骸佐が原因の一端を担っていたと言えなくもないわけで、元々散々な評価だった骸佐にもう1つ悪評が追加されることとなり、密かにヘイトを増やす結果となった。
また、半次郎が出ていた頃のチャプター26ぐらいまでは、鶴は半次郎を含めて「佐郷鶴」と呼ばれており、仲が良いはずのなおや孤路もそれに対して特に訂正をしていないのだが、本編中で述べている通り鶴は父への反発から出雲姓を名乗っている設定となっており、本格的に登場した時は特に説明もなく「出雲鶴」となっていた。
キャラ解説によると父との離別時からそう名乗ったらしいので、弾正の反乱が失敗に終わって父・佐郷文庫が家族を捨てて米連に渡った辺り、およそ10年以上前から出雲姓を名乗っていると推測できる。
となると、この辺りの設定がどう考えても辻褄が合わなくなってしまう。おそらく後付けで変わったという説が濃厚だろう。まあ対魔忍RPGではよくあることなので、深く考えないほうがいいのかもしれない。
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