“乗っ取られ”の少女、対魔忍世界に迷い込む   作:天木武

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Act66 そもそもクジラは空を飛ばないっての

「グガアアアアアアアアッ!」

 

 巨大な空飛ぶクジラ・ケートスが吠える。タバサ自身、クジラを見たことは無いが、30メートルもの巨体が空を海のように泳ぐ姿には幾ばくかの畏怖と不気味さを抱かずにはいられなかった。

 

「話には聞いてたけど……思ってたよりでかいね」

 

 これまでの離れてた位置から小太郎たちのところへと合流。空を見上げながらタバサはそう声をかけた。

 

「ああ。頭ではわかってはいても実際に見ると……な」

「で、どうするの?」

「確かにでかいが、元々の作戦に変更はなしだ。……よし、皆始めるぞ! マヤ様、ナーサラ、ラティクール、まずは頼む!」

 

 一気に指揮官モードに切り替わった小太郎は、当初の予定通りに空中戦が可能な3人に指示を飛ばした。

 

 まずはマヤが操縦するゼクスがビームサーベルを構えた。他にも強力な遠距離兵器を多数装備しているために本来ならそちらを使いたいところだが、ケートスには実弾が通用しない。その上、有効なエネルギー弾はこの次元に来る前にもケートスと交戦したせいで撃ち尽くしてしまっている。

 

「行きます!」

 

 よって、ゼクスは白兵戦をメインとする形をとることとなった。

 マヤの気合の声とともにゼクスがスラスターを吹かせて突撃。巨大ロボよりさらに巨大な相手めがけて斬りかかる。

 

 が、そのビームの刃が命中する瞬間、ケートスの姿が消えていた。

 

「あれ……? あいつ消えたけど」

「ラティクールから聞いたが、次元移動と別にケートスは次元の狭間に潜り込めるそうだ。ただ、息継ぎのために長く潜ってはいられないらしいが。まあクジラも海に潜るしな」

「そもそもクジラは空を飛ばないっての」

 

 タバサの疑問に答えた小太郎だったが、すぐにゆきかぜにツッコミを入れられた。声に苛立ちがある。この時点で攻撃に参加できないから、というのもあるだろうが、今現在の戦況のせいというのもあるかもしれない。

 

 ゼクスのビームサーベルによる斬撃、銃剣よろしく先端が銛状になったラティクールのライフルによる突撃、そして説明不可能な方法で相手を“捕食”するナーサラによる攻撃。今のところはこの3人の攻撃がメインとなっていた。

 元々次元を渡っていた際にゼクスとラティクールには痛手を負わされており、さらにはナーサラからは本能的に恐怖を感じ取ったのだろう。ケートスは頻繁に次元の狭間に潜り込み、攻撃を回避している。

 

「やっぱりかなり警戒してるな。次の段階にいくか。マヤ様、お願いします」

『本当にいいんですね? このような危険なことをやったことはないのですが……』

「ええ。対魔忍……と異世界の英雄様なら可能です」

「その言い方はあまり気に入らない。私はただ敵を殺し続けただけだし」

 

 異世界の英雄様――タバサが小太郎と通信してるマヤの会話に割り込んだ。そうしつつも準備万端、小太郎が考えた次の作戦に備えている。

 同じく準備しているのはゆきかぜ、さくら、亜希、ライブラリーの4人だ。

 

 と、そこへ鶴が声をかけてきた。

 

「……タバサさん、本当は代わってもらうこと自体癪ではありますが、あなたの実力が本物なのは認めています。それにあなたからもらった一撃のおかげで右脚がやや不調ですので、その責任を取る意味でも、あとはお任せしました」

「ケンカ売ってきたのはそっちなんだけどな……。まあいいや。責任だなんだは知らないけどやるよ」

 

 相変わらずのタバサの物言いに鶴はムッとしたようだった。

 

「ま、まあまあ鶴先輩。ふうまちゃんの作戦がうまくいったら、その後は遠距離攻撃担当の私たちの出番ですから」

「……そうですね。私は私に出来ることの準備をするとしましょう」

 

 蛇子が間に入って一応場は収まったらしい。それを確認してから小太郎はゼクスへと通信を入れた。

 

「じゃあ皆、準備はいいな? ……マヤ様!」

『レッグミサイル、発射!』

 

 ゼクスの大腿部にあるランチャーからミサイルが5発、発射された。だが狙いはケートスではない。地上の、先程から準備している5人めがけてだ。

 

 常識では考えられないアクロバット攻撃。5人全員が見事ミサイルに飛び乗り、今度はマヤがそのミサイルをケートスの方へと誘導していく。

 

(めちゃくちゃな戦法だな……。ふうまはなんでこういう戦い方を思いつけるのか不思議だ。……いや、それより気になるのは)

 

 チラリ、とタバサは前を翔ぶライブラリーへと視線を向けた。

 彼の内面は読み解けない、というほどではないが読み解きにくい。しかし今この瞬間、それから少し前にゼクスを目にした時。その時だけははっきりとその心の内がわかった。

 

(さっきもだったけど、何でライブラリーあんなに嬉しそうなんだろう……。ふうまの家に居候してた時にああいうライブラリーはは全く見たことがなかったし。……まあいいか、自分のやるべきことに集中しよう)

 

 ミサイルはケートスめがけて迫っていた。にも関わらず、ここまで慎重すぎるほど回避に徹していた相手にそうする気配がない。実弾は効かないとわかっているために、無駄な攻撃と割り切っているのかもしれない。

 当然、その上に人間が乗っているなどとは夢にも思っていないだろう。仮に気づけたとして、ラティクールやナーサラとは違って脅威とすら見ていない可能性もある。

 

「一番槍、いくわよ! 飛べよ雷撃!」

 

 仮にそんな考えを抱いていたのだとしたら、まず最初のゆきかぜの攻撃であっさり消し飛んだに違いない。学生対魔忍であるにも関わらず、破壊力だけなら対魔忍でも指折りとまで言われるほどの強烈な雷撃弾を受け、その巨体がうめき声を上げた。

 外しようがないほどのドでかい的だ。全弾が吸い込まれるように体に命中していく。

 

 続けてさくらが影を無数の鮫の姿にして召喚。ケートスへと食らいつかせた。

 そこからは接近戦の2人。原理不明だがミニナーサラを融合させたことによって刀を強化した亜希と、テンションが高めのライブラリーがミサイルの速度を利用してすれ違いながら斬り込んでいく。

 

 最後はタバサだ。二刀流だったのを見て、マヤは接近戦担当と予想したのだろう。タバサが突き放すような態度を取ってしまったためにあまり話せなかったが、前の2人と似たようにケートスに刃が届く位置を誘導してくれている。

 

(じゃあその心遣いに甘えるか)

 

 まずは左手で軽く一撃(アマラスタのブレイドバースト)。続けて亜紀とライブラリー同様に刃を突き刺し、ミサイルの勢いでぶった斬っていく。

 

「ついでだ、くらえ」

 

 さらに通り過ぎた直後、ケートスの頭上から無数の炎の塊(メテオシャワー)氷の槍(ブリザード)が降り注いだ。本来なら範囲攻撃用として使われる天界の力だが、その巨体故に全てを浴びることとなった。

 

「グギャアアアアアアアッ!」

 

 巨体が空中でのたうち回る。明らかに効果ありだ。

 

「今だ! マヤ様!」

 

 それを見て、地上の小太郎はマヤに指示を出した。

 

『はい! ブースト全開!』

 

 ミサイル誘導を終えたマヤが最大出力でゼクスのスラスターを吹かせ、地上へ向けてケートスへと体当たりを仕掛けた。サイズでは負けているものの、超科学の結晶がその差をひっくり返す。みるみるうちにケートスは地上へと近づいていき、轟音とともに地面に叩きつけられていた。

 

「よし、ナーサラ! 頼んだ!」

「ナーサラ、大分裂。フィールド展開」

 

 ここで何でもありのナーサラの出番だ。突如ミニナーサラのサイズ数体に分裂して浮遊し始めたかと思うと、ケートスを中心に取り囲むように位置取ってフィールドを形成した。これが次元移動を防止するフィールドなのだろう。

 

「グギャッ!? グアアアアアアアッ!」

 

 実際、ケートスは次元移動が出来ずに混乱しているようだ。さらには、そのフィールドのせいで先程までのように空中に逃げることも出来ないでいる。

 

「これで陸に上がったクジラ、ってわけだ。畳み掛けるぞ!」

「承知いたしました、ご主人様。足の不調で先程の見せ場はタバサさんに譲りましたが、ここでなら……! 機遁の術・最期巖(さいごがん)!」

 

 汚名返上のチャンスとばかりに、鶴は機遁の術で右腕をライフルへと変化させた。ケートスに弾丸の嵐を放つ。

 

「ウォータージェットタコ墨ッ! プシューーーーーッ!」

 

 蛇子も最近開発した、高水圧でタコ墨を発射することで相手を切断するという新技で攻撃。さらに鹿之助の電遁の術や、科学の装備に身を包んだ咲の火遁の術なども襲いかかる。

 

「グガアアアアアッ!」

「何っ!?」

 

 しかし、ここで予想外のことが起きた。ケートスがその場から姿を消したのである。

 

「次元移動は封じたはずだ……。と、なると……」

「この状態でもケートスは次元の狭間に潜れる。だがそれも限界はあるから、いずれは出てくる」

 

 空中から降りてきたラティクールが小太郎の言葉の先を続けながら、身につけている機械のようなものを見つめている。それがケートスが出てくるタイミングが分かるレーダーか何かなのだろう。

 マヤのゼクスだけ空中に待機したまま、ミサイルに乗っていた他の面々も地上に降りてきて最後の仕上げにかかろうとしていた。

 

「出てくるタイミングは?」

「私のレーダーでわかる。その時を狙えば……む?」

 

 が、不意にラティクールの様子が変わった。

 

「どうした?」

「レーダーの反応がおかしい……。まさか、人工餌を使ったから……!?」

 

 明らかにラティクールが動揺してる。それに反応したかのように。

 

「グオオオオオオッ!」

 

 ケートスが不意に身を現し、辺りにエネルギー弾を放出し始めた。

 

「うわっ!?」

「ちょっと! タイミング教えてくれるんじゃなかったの!?」

 

 完全にイレギュラーな事態に皆浮足立つが、相手の攻撃はどうにか防御か回避に成功している。文句を言いつつゆきかぜは雷撃弾を放ったものの、それより早くケートスは再び潜ってしまっていた。

 

「ど、どうすんだよふうま! これじゃ攻撃できないどころか、あっちから撃たれ放題だぞ!」

 

 鹿之助の泣き言に小太郎は一瞬押し黙ってから、答えを返す。

 

「慌てるな! 向こうもこちらからの反撃を恐れておそらく狙いをつけられていない。さっきの攻撃も手当り次第、って感じだった」

「いやいや、防御はそれでなんとかなるとしてもさ、さっきみたいに潜られたらこっちからの攻撃のしようが……」

「来る」

 

 反論しようとするさくらの声を遮ったのはタバサだった。

 突如、地を蹴って何もない方向へと飛び出していく。それとほぼ同時、ケートスがその先に姿を現した。

 

「グオオオッ!?」

 

 明らかに狼狽したような鳴き声を上げ、エネルギー弾を少し放っただけでまた潜っていく。攻撃を回避しつつ迫ったタバサだったが、その刃はやや遅れて空間をかすめるにとどまった。

 

「ダメか、間に合わない」

「ウソでしょ!? タバっちゃん、あいつが出てくるタイミングがわかるの!?」

「わかるけど結構曖昧でしかない。それに気配を読み取れるのは出てくる瞬間になるから、今みたいにこっちの攻撃の前に潜られる」

「なら方向を言って! 私たちがそこに攻撃を撃ち込む!」

 

 ゆきかぜが二丁拳銃を持つ手に力を込める。右腕をライフルに変化させている鶴も小さく頷いていた。

 

「それでもタイミング的には怪しいな……。向こうは適当に攻撃してすぐ潜ればいいわけだし。こっちの消耗待ちをされるとジリ貧になる」

「だとしても無策よりはマシだと思いますが。ご主人様、どうお考えになりますか?」

 

 鶴に話を振られ、小太郎は少し考えてから口を開いた。

 

「今のところ他に方法がない。消耗の話も出たが、闇雲に攻撃するより抑えられるだろう。タバサ、奴が来る気配を感じたら……」

「来るよ。ラティクールの直ぐ近く」

 

 話しているそばからタバサが相手の気配を読み取った。

 レーダーの不調により未だ動揺が隠せないラティクールの近くに巨体が現れる。それも彼女に背を向けた状態で、であった。

 狩るべき相手が近くに現れたこと、加えて背を見せていることに気づいたラティクールは、怒りの表情とともにケートスへと突撃を仕掛けていた。

 

「ケートス!」

「待てラティクール! 無茶は……」

 

 小太郎が静止の声を投げかけるよりも早く。

 

「グガアアアアッ!」

「うっ……ぐっ……!」

 

 最初から罠だったと言わんばかりに、ケートスは尻尾で背後から突撃してきたラティクールを上空へと打ち上げていた。小柄なラティクールの体が強烈な打撃であっさり宙に舞う。

 それからケートスはエネルギー弾を周囲にばら撒いて牽制しつつ、落ちてくるラティクール目掛けて大きく口を開けた。丸のみにするつもりだ。

 

「クソッ……! あのままだとラティクールがヤバいぞ!」

 

 重力で落下してくるラティクールと、その下で大口を開けて待ち構えるケートス。絶体絶命の危機に、小太郎が悲鳴のような声を上げていた。

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