“乗っ取られ”の少女、対魔忍世界に迷い込む   作:天木武

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Act67 握手、だったか。人間が行う、手を繋ごうという親愛の行為

 ラティクールを助けようと、ゆきかぜと鶴がケートスの攻撃を回避しつつ遠距離攻撃を仕掛ける。だが、ケートスに怯む様子も、潜って回避しようとする気配もない。多少ダメージを受けようと、ここでラティクールを確実に始末しようという魂胆なのだろう。

 

「ダメ! あいつ、逃げる気もなさそう!」

 

 ゆきかぜの悲観的な叫びが響く。

 一方、タバサも驚異的速度で間合いを詰めにかかっていた。が、それでも間に合わない。それより早くケートスの口内にラティクールが収まるのが先だと予想するのは容易だった。

 

「間に合えええええええ!!」

 

 そんな中、咲だけは諦めていなかった。火遁の術を利用して両手の武器と背部のロケットを噴射して急加速で空を飛んでいる。

 間一髪。ラティクールが口の中に消える前に咲は拾い上げることに成功していた。

 

「対魔忍……? なぜ……私を助けた……。お前は……ブレインフレーヤーが憎いんじゃなかったのか……?」

「そりゃ憎いわよ! でも、あなたは私のいた世界を破壊した連中とは違う……。そのことははっきりわかった。それに、私がこの世界に飛ばされて大怪我を負った時も私を治してくれた。だから、今のあなたは仲間よ!」

「仲間……」

 

 ラティクールを抱えたまま咲が着地する。振り返ると、ゆきかぜと鶴の射撃とタバサの斬撃を受けたケートスがまた潜ろうとしているところだった。ラティクールを始末しようと思ったために現れていた時間が長かったためだろう。

 

「ラティクール、大丈夫か!?」

「この程度……ぐっ……!」

「重傷ですが大丈夫だと思います! でも戦線に復帰するのは……」

 

 小太郎の問いかけに答えようとして答えられず、代わりにラティクールを抱きかかえたままの咲が状況を報告した。苦い表情が浮かんだ小太郎の方へ顔を向け、タバサが声をかける。

 

「……ねえふうま。怪我を負ったラティクールには悪いけど、今のは使えるかもしれない。私が囮にでもなれば、あいつが現れている時間が長くなって攻撃できる時間が増える可能性がある」

「却下だ。危険過ぎる。それにあいつは意外に知能があると見た。おそらく、ここから先はタバサを警戒してくるだろう。仮にタバサが狙われるように動いたとしても、ケートスはそれにはつられないと思う」

 

 即座に否定され、タバサはため息をこぼしていた。

 

「うーん……。後手後手だな。ラティクールも今のダメージは大きいみたいだし」

 

 タバサの言うことはもっともである。完全に予定が狂ってしまい、ケートス狩りの専門家も戦えるか怪しい状況。

 向こうが逃してくれるかはわからないが、ここは一旦撤退も視野に入れたほうがいいかもしれない。小太郎がそんな風に考えた、その時。

 

「……なんとなくわかった。多分そこ! とりゃあ!」

 

 ここまで遠距離攻撃に参加していなかった蛇子が、突如タコ足で地面を蹴って飛び上がったのだ。そして、何もない空間目掛けて両手とタコ足に握った小太刀を振り下ろす。

 

「小太刀四刀流!」

 

 傍から見れば自棄を起こしたか、ひどい場合は錯乱まで心配されるような行動だったかもしれない。だが直後――。

 

「グオオオオオオオオッ!?」

 

 まさに蛇子が小太刀を振るおうとしているその位置にケートスが現れ、攻撃が見事に命中したのである。

 完全に虚を突かれた様子のケートスは慌てて姿を消す。

 

「ウソ!? 蛇子、どうやったの!?」

「ちょっと前にタコ足センサーも通用しない姿を消す敵と戦った時があったの。その時に悔しい思いをしたから、センサーを鍛える特訓をしたんだけど、あいつが現れる前に匂いと振動でなんとなくわかるって感じ!」

 

 質問したゆきかぜが感心したような表情を浮かべている。が、直後、ようやく反撃ができるとよくない笑みへと変わった。

 

「……でもとにかく、これであいつが出てくる位置はわかる、ってことね」

「そうね。ふうまちゃん、指示は私が出すけど、いい?」

「勿論だ。皆、蛇子が出現位置を知らせてくれるからそれに従ってくれ!」

 

 反撃開始。そこからは一方的な、まさに「狩り」であった。

 

「W140! 近いのは亜希お姉ちゃんとライブラリーさん!」

「これはラティクールちゃんの分! くらえっ! ナーサラちゃんブレードッ!」

「覇王赤熱斬!」

 

 ケートスが姿を現した瞬間、待ってましたとばかりに亜希がミニナーサラによって強化された刀で斬りつけ、ライブラリーは高熱を帯びた腕部のブレードを振るう。

 

「グギャアアアアアアアッ!」

 

 面白いように直撃、耐えかねてケートスは再び潜っていく。

 

「すごいな蛇子。私が気配を読み取れるタイミングよりかなり早い段階で位置を把握してる。タコ足ってそんなすごいのか」

「人のものを羨ましがるのなら、あなたも修行でもされてみては? 事実、居候期間中に鍛錬したことで相手の内面を読み取る能力に磨きがかかったと父上も言っていましたし」

 

 タバサとしては独り言だったつもりだったが、いつの間にか鶴が近くに来ていた。

 

「それは確かにそうだけど……。なんかその言い方、ちょっとひっかかるなあ。私のために、って言ってる感じでもないし」

「当然です。先程は負けを認めましたが、いずれは私が勝たせていただきます。その際、『もっと修行しておけば』なんて言い訳は聞きたくありませんので……」

「鶴先輩、タバサちゃんとケンカしてる場合じゃないです! NE220、タバサちゃんは突撃で鶴先輩は援護!」

 

 蛇子から次のケートスの出現位置と叱責が飛んだ。肩をすくめ、一言言い残してからタバサは指定地点へと駆け出す。

 

「私に当てないでよ」

「努力はします」

 

 出現する一瞬前にタバサが気配を感知。消える突進(シャドウストライク)で一気に間合いを詰め、天界の力を併用しつつ得意の連撃を叩き込む。さすがに鶴もここは空気を読んだようで、タバサを背中から撃つような真似はしなかった。

 

「グギャアオオオオオッ!」

 

 堪らずケートスは潜っていく。もはや討伐は時間の問題のように思えた。

 

 そんな様子をずっと見ていた、咲の腕の中で介抱されていたラティクールが傷ついた体を無理に起こそうとする。

 

「くっ……」

「まだ無茶よ! そんな体で!」

「対魔忍……いや、眞田咲……。頼みがある……。これだけ人間たちの手を借りておいてどの口が、と思うかもしれないが……。ケートス狩りは我が一族の使命……。それを果たすためにも……お前の力を貸してほしい……」

「ラティクール……」

 

 咲は答える代わりに小太郎の方を仰ぎ見た。その様子に小太郎と、それから近くで今は指揮を執る形になっている蛇子も気づいたらしい。

 

「ふうまちゃん、あの2人、というかラティクールちゃん……」

「ああ。何かやる気だな。……まあ頃合いだ。最後はあの2人に任せることにしよう」

 

 そう言うと、小太郎は今度は無線へと呼びかけた。

 

「マヤ様、最終段階へ移行するので降りてきてください。ゆきかぜと鹿之助はゼクスの近くへ行って準備を。その他の皆はゼクスの射線上に入らないように。……咲、ラティクール! 最後の一撃を任せる! 思いっきりぶちこんでやれ!」

 

 視線を交わしただけで考えを汲み取ってくれたと、咲の顔が明るくなった。

 

「了解です! ありがとうございます、ふうまさん! ……ラティクール、やるよ!」

「ああ……! 来い、ケートス! 最後の勝負だ!」

 

 ふらつきながらも自分の足で立ち、ラティクールが吠えた。己の宿敵、狩るべき相手。ケートスも本能的に倒すべき相手とラティクールを見定めたのかもしれない。

 

「N150! 2人の真正面!」

 

 蛇子の声が響く。真っ向勝負だ。

 ラティクールは咲にしがみつき、咲は背部と両手の炎槍のロケットから炎を噴射し、加速の姿勢に入る。

 

「強襲兵装、フルブースト!」

 

 急加速で飛び出した咲とラティクールの前方。

 

「グガアアアアアアアアッ!」

 

 ケートスが姿を表した。同時にエネルギー弾をばら撒いてくる。

 

「防御は任せろ! バジュラ、ディフェンスモード!」

 

 ラティクールが彼女の周囲を浮遊する衛星兵器を2人を包み込むように配置。エネルギーシールドを作り出してケートスの攻撃を防御する。

 見事な2人のコンビネーションだ。結果、咲のブーストは最高速を維持したまま、一気にケートスの懐へと潜り込んだ。

 

「いっけええええええええッ!」

 

 咲が突き出した2本の炎槍と、ラティクールのライフルの先端の銛。それがケートスへと突き刺さり、突進のベクトルを変えて先程ラティクールがされたことのお返しとばかりに、ケートスを宙へと打ち上げた。

 

「グギャオアアアアアアアアッ!」

「今だ! 咲とラティクールは急速離脱! 鹿之助、ゆきかぜ! 頼んだ!」

 

 空中でのたうつケートスを見て小太郎が叫ぶ。

 

「電遁の術! タケミカヅチ!」

「雷遁の術! トールハンマー!」

 

 鹿之助がタケミカヅチで電子の世界を視ることでゼクスのエネルギー機構への給油口を作り出し、そこへゆきかぜの最大出力の雷遁を流し込む。エネルギー切れで使えなくなっていたゼクスの主砲への応急チャージである。

 

「マヤ様!」

「すごい、これが対魔忍の力……! いけます! 照準セット……発射!」

 

 超未来のマヤの世界で戦艦の主砲に匹敵する、とまで言われるレベル5フェーザー砲が銃口から放たれた。煌めいた光の線はケートスへと直撃。土手っ腹に大穴を空ける。

 

「グギャッ……!」

 

 そのまま轟音とともにケートスは地面へと落下。しばらくのたうち回るようにもがいていたものの、やがてその動きは止まった。

 

「やったか!?」

「ふうまくん! それはやってないフラグだから縁起悪すぎ!」

「いや、でもあれだけの大穴をぶち開けたんだぜ? いくら全長30メートルの空飛ぶクジラといえど……」

「鹿之助のそれもアウト! あーもう……。蛇子、生体反応は?」

 

 さくらとゆきかぜがツッコミを入れつつ、今の男子2人の発言が悪い方向にいかないことを祈りつつ蛇子の回答を待った。

 

「……私のタコ足センサーじゃ生体反応無しだよ」

「私も気配を感じない。あれは正真正銘死んでる」

 

 蛇子に加えてタバサからも死亡確認の報告が飛ぶが、男子2人の発言で疑心暗鬼状態のさくらとゆきかぜはまだ不安そうだ。

 

「確認した。ケートスは死んでいる。……どう見ても致命傷の一撃だったじゃないか。あの連中は何をあんなに心配しているんだ……」

 

 咲の肩を借りながらケートスに近づいてラティクールが正式に確認したことで、ようやく全員が安心したようだ。

 

「人間に伝わる不吉な言い伝え……みたいなものかな。あなたももう少し人間について知れば、わかる時が来るかもね」

「これと同じか」

 

 そう言いつつ、ラティクールが右手を差し出した。咲がそれを驚いたように見つめる。

 

「握手、だったか。人間が行う、手を繋ごうという親愛の行為。そうだろう?」

 

 この世界に飛ばされてきた時、まだお互いのことをよく知らずに敵視し合っていたが、非常時ということで協力しようと咲が握手を求めた。その時のラティクールは「無意味な行為」と切り捨てていたが、ちゃんと覚えていてくれたようだった。

 

「ええ。……私は、私がいた世界をめちゃくちゃにしたブレインフレーヤーが憎い。そして、あなたがブレインフレーヤーであることに変わりはない。でも……私はあなたを共に闘った仲間だと思ってる」

「感謝する、眞田咲」

 

 ラティクールと咲、2人は固く握手を交わした。

 

『これで元の世界に帰れますね』

 

 無線からは、嬉しそうであると同時にどこか寂しそうなマヤの声が聞こえてきた。

 

「あ、その前に。マヤ」

 

 そこでタバサが無線に向かって話しかけていた。

 

『その声は……タバサさんですか?』

「ん、そう。さっきは私が悪かった。帰るにしても今すぐにってことじゃないだろうし、もし気が変わってないのであれば少し話したい」

『え、ええ! 勿論です!』

「意外だな。てっきりタバサはマヤ様に苦手意識か何かがあったんだと思ってた」

 

 口を挟んできたのは小太郎だ。

 

「そんな感じだったんだけど、私が一方的に勝手なイメージを抱いてただけだった。……例えば今回のケートスにしたって、『たまたまこの世界に現れただけだから殺すのはかわいそう』とか考えてるんじゃないかと思ったりしてた。全然そんなことなかったね」

 

 無線越しに笑い声が聞こえてきた。

 

『ごめんなさい、笑ってしまって。……でも、私はそこまでお人好しではありませんよ。そもそも、私がこの世界に迷い込んだのはあのクジラのせいですし。……ただ、またフーマと会えたことは嬉しくもありますけどね』

「あ、その辺も気になる。……うん、話題は事欠かなそうだ」

「俺のことを話題にされるのはあんまり穏やかじゃないが……。とりあえずマヤ様はゼクスを隠して、あとラティクールはケートスからエネルギーを回収して、俺はアサギ先生に報告かな。まあ諸々が終わったら俺の家でケートス討伐の打ち上げで飯でも食おうぜ。一応それとなく時子に話は通しておいたからな」

 

 実質指揮官の小太郎からの提案に「おぉー!」と感心と賛同の声が上がった。

 

『いいですね! さっきのスコーン……でしたっけ、あれも美味しかったですし、この世界の食べ物にとても興味があります』

「ふうまさんと一緒にご飯を食べられるなんて……! ラティクール、さっきのお茶会は不参加だったけど、今度はあなたも参加よね?」

「……もう少し人間を知ろうと思っているのは事実だ。参加してやろう」

 

 異世界の3人は乗り気である。タバサも食事会とくれば喜んで参加したいという気持ちはあるが、同時に今日中にヨミハラへと戻ることは不可能になってしまったとも思っていた。

 

(……まあいいか。元々もう1日かかるかもって春桃には言ってあるし。扇舟には悪いけど、今日は1人で過ごしてもらおう)

 

 傾きかけた陽を浴びつつ、タバサはそんなことを考えるのだった。

 

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