“乗っ取られ”の少女、対魔忍世界に迷い込む   作:天木武

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Act74 かつての仇である私の話を信じて、施しを受けてくれるのならば、だけど

 卑劣な奇襲でダメージを負いつつも、災禍はどうにかワイトを相手にしていた。

 攻撃を受けてスーツが破損したために機能に頼ることは出来ず、邪眼も痛みで集中が続くか怪しい。そもそも、一度痛い目を見ている相手だ。もう使わせる隙は与えてくれない、と考えるのが妥当だろう。

 よって無理には攻めない。防御一辺倒にだけはならないように要所要所で相手の攻撃を潰しつつ、ここまでをしのぎ続けていた。

 

「死にかけのくせに随分とがんばるわね」

 

 呆れたように、同時にまだまだ余裕を感じさせる様子でワイトはそう言葉を発した。

 

「でもその割には消極的すぎる。時間稼ぎでもしてるわけ? お前が苦しむ時間が増えるだけのようにしか思えないけれど」

 

 フッと災禍が小さく笑う。

 

「ええ。そんなところ」

「悪手だったわね。何を待っているのか知らないけれど、お前の勝機は短期決着にしか無かった。……疫病を撒き散らすシックスティと、空間を隔離するアヌビス。この2人の組み合わせを考えればね」

「……どういう意味?」

「気づいてないのならそれでいい。……どうせお前が死ぬことに変わりは無いのだからな!」

 

 ワイトがハンマーを構え、猛然と突撃を仕掛けてくる。安全策を取って間合いを開けて回避しようとした災禍だったが。

 

「ぐっ……」

 

 体が重い。意思に反して体が動いてくれず、結果的に反応が一瞬遅れた。やむを得ず、体に鞭打って強引に動かし、振り下ろされるハンマーの柄を蹴って攻撃を止める。

 

「まだあがくか」

 

 余裕たっぷりの様子でワイトは一旦ハンマーを引き、続いて横薙ぎへ。今度は緊張状態を保てたからか、災禍の体はどうにか言うことを聞いてくれた。大きく飛び退いて、それの回避に成功する。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 だがその代償として、災禍は片膝を着き、息を大きく乱さざるを得ない状況になっていた。

 

(おかしい……。確かに胸の傷は軽くないけれど、どうしてここまで動きに支障が……)

 

 そこでふと、先程ワイトが言ったことを思い出す。

 

「疫病を撒き散らすシックスティと空間を隔離するアヌビス……。まさか……!」

「ようやく気づいたようね。……お前の動きが鈍いのはその胸の傷だけじゃない。あの女がばら撒いている毒の影響もあるということよ。しかも空間が隔離されたことで霧散せずにより高い効果を発揮しているようね」

 

 まずい、と災禍の背を冷たいものが走った。だとするならば、確かに先程目の前の相手が言った通り、勝機は短期決戦にしか無かったのかもしれない。

 

「ほら、時間稼ぎをするんじゃなかったの? 無様にあがきなさい。あがいてあがいて、最後には自分がしたことは無駄だったと気づいて絶望しながら死んでいくのよ。アハハ!」

 

 ワイトが迫る。しかし、体が動いてくれない。

 心へのダメージは、時に体へのダメージを上回る。不知火が儀式を終えるまでの時間は稼ぐ。災禍はその気持ちを心の支えとしてこれまで戦っていたが、そこに強烈な一撃を叩き込まれた形になった。

 

(いえ……まだ終われない……! 最後まで戦い抜いてみせる!)

 

 ギリッと歯を鳴らし、災禍が強引に立ち上がる。

 こうなれば玉砕覚悟。こちらが時間稼ぎをしていると思い込んでいる隙を突き、相討ちになってでも全身全霊を込めた一撃を叩き込むしかない。

 そう災禍が腹を括った、その時。

 

「それはよくない。言ったはずだよ、災禍にもしものことがあったらふうまが悲しむって」

 

 災禍の体を押しのけ、間に割って入ってきたのは――。

 

「タバサちゃん!?」

 

 思わず災禍が驚いたような声を上げる。そのままタバサは2本の剣を交差させ、ワイトが振り下ろすハンマーを両手の剣で受け止めていた。憎々しげにワイトの口から舌打ちがこぼれる。

 

「邪魔な小娘が! お前たち! こいつを近づけさせるなと……」

 

 そう言って首を動かしたワイトだったが。視線の先には配下であるはずのレイスや死霊たちが1体も残っていないことに気づき、言葉を失っていた。

 

「全員死んでるよ。……あ、元々死んでるんだからこれはおかしいか」

 

 数では圧倒的だったはず。にも関わらず、目の前の少女はジョークまで飛ばしてまだまだ余裕がある。ワイトの表情に目に見えて怒りの色が浮かんでいた。

 

「おのれ……! だが所詮1人増えたところでもう片方は死にかけ。こうなったら2人まとめて……」

3()()よ」

 

 その声と同時。ワイトは自分に迫る殺気を感じ取り、反射的に身を逸らしていた。一瞬遅れてそこを爪が薙ぐ。腕にわずかにかすり傷を負ったものの、奇襲はどうにか回避していた。

 

「やっぱりこいつも一筋縄じゃないかないか」

 

 ハデスシスターとその部下のハデスリリンを全滅させてきた扇舟だ。

 

「貴様も来たということは……ハデスシスターの奴は……」

「さっき首をはねてきた。……ああ、でもお前は死霊術師だったかしら? なら、あれをデュラハンとして復活させられるのかもね」

 

 軽口を叩きつつ扇舟がタバサと災禍と合流する。

 と、タバサが剣を握った右の拳を自分の方に突き出していることに扇舟は気づいた。小さく笑みを浮かべそこに自分の左の拳を軽く突き合わせる。

 小太郎たちと集団戦の訓練をした時、「うまくいった時はこうやって味方を称えるんだ」と教わったジェスチャーのひとつだ。

 

「さすが扇舟。あのぐらいの相手、なんてことはないって信じてたよ」

「ありがとう。タバサちゃんもうまくやったみたいね」

 

 やはりタバサに声をかけたこと、そして扇舟も呼んだことは正解だったと災禍は思っていた。かつて最悪の敵として戦った相手の背中が、今はとても心強く見える。

 

「ハデスシスターの奴め、口ほどにもなかったか。……それから私は死霊術師ではない、誇り高き死霊騎士(レヴァナント)、ネクロマンサーなどと一緒にしてもらいたくはないわね」

「レヴナント? ……ああ、死と苦悩の象徴だっけ。ケアンの星座で見た」

「何を訳のわからないことを……。もういい、2人だろうが3人だろうがまとめて片付けてやる!」

 

 ワイトがいきり立つ。だが、タバサと扇舟、隙のない様子の2人の殺気を受け、迂闊には仕掛けられないと思わず二の足を踏んだ。

 

「……タバサちゃん、扇舟、そのままで聞いて」

 

 これを災禍は好機と捉えた。今のうちに先程ワイトから得た情報、長期戦が不利だということを2人に伝えるべきだと小声で背後から話しかける。

 

「この空間、今はあそこでアンブローズと戦っているアヌビスという奴のせいで他から隔離されているということだけど、同時に来ているエレシュキガルの腹心……シックスティの能力によってこの閉じられた空間内に有害な毒が撒き散らされているらしいの」

「やっぱりか。なんかちょっと体に違和感があると思った。そいつがこの襲撃の親玉?」

 

 自分はかなり苦しい思いをしていると言うのに、ちょっと違和感、の程度で済んでいるのかと思わず災禍はツッコミたかったが、それをグッと堪える。

 

「親玉……と言ってもいいかもしれないわね。とにかく、長期戦になればなるほど相手が有利になる。だからできるだけ短期決戦狙いで……」

「ちょっとごめん。……扇舟、毒を扱ってる以上、私同様に毒に耐性があると思うけど、今体はどんな感じ?」

 

 災禍の言葉を遮り、タバサが扇舟に尋ねる。

 

「……言われてみれば私も少し体が重い、という程度。それに、毒に対してなら()()があるから……」

「あ、そっか。()()に多少の解毒か抗毒の効果があるか。……よし」

 

 そこまで話を聞いたところで、不意にタバサが戦意を消した。それから2人の方へと顔を動かす。

 

「扇舟、災禍。ここを任せたい。どうも館の中……さっき言った親玉のシックスティって奴? そいつを止めないとヤバい気がする。不知火の方へ向かって行ってる」

「そんな!? イシュタルがいるはずなのに……」

「そのイシュタルって人には悪いけど、能力差がありすぎる。おそらく時間稼ぎにもならない。私が行った方がいいと思う」

 

 一瞬の逡巡の後。

 

「……わかった。本当は無理にお願いしたタバサちゃんに危険な思いをさせたくなかったんだけど……」

「このままじゃどっちにしろ皆殺しに合うから危険も何もないよ。……じゃ、行ってくる」

 

 言うなり、タバサは館目掛けて駆け出した。

 

「何っ!? 貴様……」

 

 ワイトが自分を追いかけてきそうな気配を感じ取り、タバサがフラッシュバンを投げつけた。不意に閃光に目を焼かれたことでワイトは怯まざるを得ず、攻撃を避けるためにその場から飛び退く。

 

 その間、扇舟は仕掛けようとはしなかった。ここで無理に仕掛けて仕留めきれる確証がない。故に安全策を取るという判断からだった。

 代わりに懐に左手を入れ、小さな黒い球体状の物を2粒取り出す。それを1粒口に放り込んだ後、災禍の名を呼んで残ったもう1粒を手渡していた。

 

「何これ? 兵糧丸……?」

「私が調合した丸薬。さっきタバサちゃんも言った()()よ。抗毒と解毒作用を持つ薬草や魔草を中心に練り込み、仕上げにタバサちゃんの世界のローヤルゼリーを配合して強壮効果も引き上げた物。一時的に疲労や痛みを感じにくくすると同時に、私の毒による自滅を防ぐために作ったの。あなたが受けている胸の傷の痛みと、あとばら撒いているという毒の効果を薄れさせてくれると思うわ。……かつての仇である私の話を信じて、施しを受けてくれるのならば、だけど」

 

 災禍は掌の上に乗ったままの黒い粒状の球体を眺め、小さくため息をこぼした。そしてそれをためらいなく飲み込む。

 

「……癪だけど、このまま足を引っ張り続ける方が耐えられない。これで本当に多少動けるようになるのなら、この丸薬と一緒に恨み言も飲み込んであげる」

「ありがとう。効果は保証する。即効性だけど、落ち着くまでは無理しなくていい。その間、どうにか私があいつを抑えておく。動けそうだと思ったら援護に来て。……短期決戦は難しいと思う。不知火のことはタバサちゃんに任せて、私はここを確実に切り抜けられる戦い方をするつもりよ」

 

 そう言い残し、扇舟はワイトの方へと歩き出した。

 相手はまだ視力が戻っていなかったようだが、気配を感じ取ったのだろう。まだ眩しがる様子で目を細めつつ、扇舟を睨みつけた。

 

「小細工のせいで1人逃したけれど……。まあいいわ。後ろのは戦えそうにないから、代わりにお前が戦うということかしら?」

「そう捉えたければご自由に。……人間だと思って見くびっているなら痛い目を見せてあげる。私の毒は淫魔族の化け物にも効いた。お前にも通用するかもね」

「言っていなさい。死霊騎士に毒など通じないわ。代わりにお前を肉塊にして、その後であのムカつく対魔忍も嬲り殺しにしてあげる」

 

 ワイトが頭上でハンマーを振り回してから構えた。対する扇舟も構えを取る。が、今まで取ってきたオーソドックスな構えとは違う。

 

(右手が前……スイッチしている……?)

 

 体を落ち着かせるために呼吸を整えようと、離れた場所から見ていた災禍はその扇舟の構えの違和感に気づいた。

 さっきのテストの際に自分と戦った時、さらには遠目に見た限りだったがハデスリリンと戦っていた時は、防御用の左手を前に、攻撃用の右手を引いて構えていた。

 が、今度はそれが逆。爪を展開した右手が前、ほどよく脱力した左手が後ろ。さっきまでの構えからスイッチした形だ。

 

 通常、スイッチスタイルは相手に間合いを測られにくくしたり、これまでと別な角度から攻撃を仕掛けたりといった、いわゆる撹乱目的で使用されることが多い。だがそれはあくまでオーソドックスな構えを見せた後でのことだ。

 今回、扇舟はいきなりスイッチしている。この後オーソドックスなスタイルに戻して相手を惑わすためか、あるいは――。

 

(さっきの話からすると、毒……右手の爪による攻撃の手数を重視するため、とも考えられる。ジャブのように最速で相手を攻撃することに主眼を置いているということかしら)

 

 そんな風に考えをまとめつつ、災禍は互いに隙を伺う扇舟とワイトを見つめていた。

 と、そこで、そういえばと自分の体の異変に気づく。

 

 まだ胸からの出血は続いているもののその量は減ったように思え、何より傷の痛みは収まりつつある。そして、さっきまで重いと感じていた体が少し軽くなったようでもあった。

 扇舟が渡してくれた丸薬のおかげだろうか。これなら、扇舟が危険に陥った時も援護に入ることが出来るかもしれない。

 

(……私がかつての怨敵の援護に入る、か。昔からは全く想像がつかなかったわね)

 

 そんな風に考えて自嘲的に笑みを浮かべた災禍の視線の先、とうとう扇舟とワイトが激突した。

 

 まずはリーチで勝るワイトがハンマーを振り下ろした。それをあっさり見切って回避しつつ、災禍の予想通りに扇舟はジャブのように素早く右手の貫手を繰り出していた。

 口では強がっていたが、毒を怖がったか、それとも刃状の爪の方を警戒したか。ワイトはサイドステップでその攻撃を回避。僅かに肌をかすめられる程度でやり過ごした。

 反撃とばかりに、ワイトは今度はハンマーを横に薙ぐ。これに対して扇舟は災禍の蹴りに見せた時と同様の対応――すなわち、左手によるいなしを使って的確に勢いを殺した。そのまま間合いを詰め、前に出した右手で素早く貫手を放つ。

 

「シッ!」

 

 相手の攻撃後の隙を突いた反撃。胸元目掛けて迫るそれを、ワイトは咄嗟に手で弾いてガードした。が、その瞬間に扇舟は手首を返し、僅かながらも相手に傷をつけている。

 

「……イライラするわね、少しずつ引っ掻いてきて」

「そっちみたいな大ぶりは今の私の仕事じゃないの。そもそも当たらない攻撃に意味はないし」

「それって逆に言うと、当たれば大変なことになるというわけよ。……どういう意味か、身をもって味わうといいわ!」

 

 ワイトが頭上でハンマーを1度回転させ、勢いをつけて殴りかかってくる。大雑把な攻撃に見えるが絶妙の間合いからの攻撃だ。

 相手の懐に飛び込むにはリスクが高いと判断し、扇舟は後退して間合いから逃れた。それを見たワイトは空振りした今の攻撃の勢いをさらに乗せ、大上段からの振り下ろしを放ってきた。

 

「潰れなさい!」

 

 これも無理はできない。再び扇舟がバックステップを踏んだその眼前、地面のコンクリートを抉るほどの勢いでハンマーが叩きつけられた。破片が飛び散り、思わず扇舟は手で顔をガードする。

 ワイトはそれを見過ごさない。たった今叩きつけたハンマーを振り上げ、再び同じ攻撃をするべく間合いを詰めようとした。

 

「それは迂闊ね」

「なっ……!?」

 

 扇舟はこの攻撃を読んでいた。かつて達人とまで言われた近接戦闘の使い手からすれば、次の相手の出方は手を取るようにわかる。顔をガードしたことで視界が切れたと判断して追撃に来ると予想するのは容易だった。

 

 このタイミングでなら飛び込める。迷わず、扇舟は間合いを詰めにかかった。

 対するワイトは振り下ろしでは当たらないと即座に判断。振り上げた状態のまま、柄の先にある石突きの部分を突き出し、どうにか反撃に出る。

 

「ふっ!」

 

 石突きの先の柄を左手で払うと同時に体捌きで攻撃線上から身を外しつつ、扇舟は気合の声とともに右の貫手を伸ばした。

 どうにか身体を(よじ)ったワイトの左肩付近を扇舟の毒塗りの爪が掠める。堪らず、ワイトの方から間合いを開け直した。

 

 ここが好機。仕掛けるべきはこのタイミングと扇舟が思うと同時、背後からの気配も感じていた。次に聞こえてきた声で、自分の感覚は間違っていなかったと気づく。

 

「扇舟、足場を! 打ち上げて!」

 

 災禍の声だった。自分が渡した丸薬が効いてくれたと小さく笑みを浮かべつつ、扇舟はワイトに背を向けた。そこには、確かに駆け寄る災禍の姿が。

 

 短い指示だったが、災禍が何をやろうとしているのか、扇舟にははっきりとわかった。

 右手の爪を収納しつつ、腰を落としながらバレーボールのアンダーハンドレシーブのように両手を重ねて構える。災禍がそこに足をかけ、扇舟が肩越しに敵の位置を確認しつつ――。

 

「いけぇッ!」

 

 扇舟が災禍を指示通りに打ち上げていた。

 

 背中を見せた扇舟に襲いかかろうとしたワイトだが、災禍が大ジャンプをしてきたことに気づいて反射的に足を止める。空中で一回転しながら自分めがけて浴びせるように蹴りを放ってくるとわかり、慌ててターゲットを空中の相手へと切り替えた。

 

嵐月脚(らんげつきゃく)!」

 

 扇舟とのコンビネーションから生まれた、通常よりも高い跳躍から生まれる重力加速度と、自身の空中での回転。それらを全て威力へと乗せた、災禍自慢の義足による渾身の胴回し回転蹴り。

 その攻撃に咄嗟にハンマーをかち合わせたワイトだったが、攻撃の質がまるで比べ物にならない。結果的に防御にはなったものの、ハンマーごと後ろに吹き飛ばされていた。

 さらに体勢を崩したワイトへ扇舟が迫る。ハデスリリンとの戦いでも見せた、蛇のように地を這う低い姿勢から、相手の側面を突く形で一気に間合いを詰めにかかった。

 

「くらいなさい!」

 

 これまでの命中重視の軽い攻撃から一転。大ダメージを狙って扇舟は大きく爪を薙ぐように振るう。

 

「なめるな、人間風情が!」

 

 だがその一撃はまたも掠めただけにとどまり、ワイトは意地で直撃だけは避けていた。お返しにハンマーを振るうが、ヒットアンドアウェイに徹した扇舟は既に安全な距離まで遠ざかっている。

 

「なんだったかしら、『当たれば大変なことになる』とか言ってなかった? ……つまり今言った当人が受けた、こういう状況になるってわけね」

 

 煽るようにそう言った災禍には、先程までの苦しんでいた様子がまるで無い。おそらく、扇舟が渡した丸薬が効いているのだろう。そんな相手をワイトは憎々しげに睨みつけた。

 

「死に損ないが……! 大人しくしていればいいものを……」

「少し休んだら調子が良くなってくれたのよ。……代わりに、今度はそちらの調子が悪そうだけど。自分では気づいてないかもしれないけれど、さっきより動きが少し鈍くなってるわよ」

「強い耐性を持っていたとしても、この毒ならば多少は効く。そう予想した私の考えは正しかったわね」

 

 災禍に続いて扇舟からも口撃を受け、少し前の余裕を完全に失った様子でワイトは激昂した。

 

「人間の分際でこの死霊騎士に楯突くとは……! 貴様ら2人とも肉塊にしてやる!」

「やれるものならね。……扇舟、私はさっきみたいに隙を見て、あるいはあなたが危なくなったら後ろから仕掛ける。どうにか動けるようになって、一撃があるという意味合いを込めて大技を繰り出したとはいえ、本調子から遠いのは事実よ。矢面に立たせる形になるけど、前は任せた」

「わかった」

 

 かつては命を賭けて戦い合った敵同士、だが今は無防備な背中を見せ、援護を任せている。

 まさかこんな日が来るなどとは思わなかった。こうして互いに協力し合えることをどこか嬉しく思うと同時、虚しい過去だったと改めて思う。

 

(いえ、今はそれよりも……)

 

 まずは目の前の敵に集中しなくてはならない。災禍という力強い仲間がいれば、きっとこの状況は打破できる。

 そんな思いとともに、扇舟は再びワイトを睨みつけていた。




スリス

ゲームスタート直後のAct1で主に見かける、上半身は人間で下半身が蛇のようなモンスター。
巣のような場所から出てくることもあるため、事前にBWCを投げておいたりテルミットマインを仕掛けておいたりすると出オチを食らわせられる。
攻撃自体は冷気属性のものが多いのだが、本編中で述べているように体液に毒があるため、ゲーム中で毒が絡むアイテムにはスリスの名が入っているものも少なくない。
元々ケアンに存在していたわけではないようで、オズワルド・ハルゲイトという研究者がこのモンスターを創り出した全ての元凶としてジャーナルには書かれている。
ちなみに名付け親もこのハルゲイト。スリスリと動くから、という理由でスリスと名付けたのだとか。

ハルゲイトは共同研究者でもあるヘレンという妻と、エレナという娘を持つ研究者であったが、一言で言えばマッドサイエンティストであった。
彼はイーサーを利用して新たな生命創造を行って、人間と蛇のキメラであるスリスを作り出すことに成功。学会でドヤ顔で発表するというとんでもないことをやらかした。
当然生命に対する冒涜として出席していた他の研究員の怒りを買い、披露されたスリスはその場で処分、ハルゲイト自身は極悪犯罪人の烙印を押されて刑務所送りとなった。
……のだが、スリスは披露された個体以外にも存在することが後に判明。しかも繁殖力が高いために気づいたときには膨大な数へと膨れ上がっており、さらには先に述べたように体液に毒があることから、あっという間に生態系を破壊した。
特に排泄物によって水や環境が汚染されるという事態が深刻であり、最初にお世話になるコミュニティのデビルズクロッシングでも「地下にスリスが大量発生していて安全な飲水が確保できない」という理由から、初期のクエストとして討伐依頼が出るほどである。

そんなスリスだが、デビルズクロッシングの人々の信頼を得るようになるとその諸悪の根源であるハルゲイトの研究所を調べてほしいというクエストが発生し(ちなみに依頼人もイーサークリスタルの実験で自分の指が吹っ飛んでも実験の成功を喜ぶようなやべーやつである)、スリスが生み出された経緯が研究所内のジャーナルを読むことで明らかになっていく。
ジャーナルを読み進め、研究所の最奥に待っているボスと対峙した時、ハルゲイトがどれだけ邪悪な存在だったかわかるだろう。
Grim Dawnのダークな部分を詰め込んだエピソードと言える。

なお、研究所内はスリスの毒が蓄積されたと思しき場所があり、そこはダメージ床扱いになっていて一定時間ごとにゴリッとヘルスが削られるので注意が必要。
ダメージ床はグリドンの死因トップ5に入ると個人的に思っている程度に危険なので、なるべく早く抜けることを意識するのがいいと思われる。
……でもさあ、Actの大ボスの部屋の奥にダメージ床があってマップで全貌が見えてなかったらその先に何かあるんじゃないかって普通は思っちゃうよね。何もなくてリフトも使えないとか完全に罠だよね。
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