“乗っ取られ”の少女、対魔忍世界に迷い込む   作:天木武

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Act77 ……やるせねえな

 タバサたちが協力した戦いを終え、不知火が正式に幻夢卿の座に就いてから数日が経過したある日のこと。

 

 今、一組の男女がヨミハラを訪れていた。

 独立遊撃隊の隊長でもあり、ヨミハラに足を運ぶ機会も多いふうま小太郎。そしてもうひとりが水城ゆきかぜ――先の淫魔族の一件で渦中の人物でもあった幻影の魔女こと、水城不知火の娘である。

 2人とも五車の制服でも対魔忍スーツでもなく私服だ。12月に入ったということもあり、ゆきかぜはスカートこそ履いているものの、寒くないように膝上までのニーハイソックスに脚を包んでいる。上着にコートを羽織り、チェックのマフラーも巻いて防寒対策は万全なようである。

 

 今回2人がヨミハラに来た目的は、常時潜入している対魔忍にしてバーの店長であると同時にヨミハラ町内会長でもある、静流からの頼みごとを小太郎が受けたからだった。強制はしないが可能ならば、といった程度のもの。その分の報酬は出すということで、バイトと任務半々と言った具合だ。

 

 ヨミハラには「安眠屋」という、その名の通り安眠を提供する店がある。太陽の光が差し込まない地下であることによる体内時計の不調が原因か、不眠症気味の者は少なくないという。そんな者たちに安眠を与え、短時間で疲労回復の効果が見込める、ということでヨミハラでは密かな人気の店だ。

 ところが、最近になって「安眠屋で悪い夢を見た」「余計に疲れるようになった」という噂を静流が耳にしたそうだ。直接調べたいところだが、既にヨミハラで顔が知られている彼女が出向いても警戒されて尻尾を出さないだろう。

 そのため、他の人間に頼もうとしたのだが、小太郎を始めとして独立遊撃隊のメンバーは度々ヨミハラを訪れているために、やはり顔を知られている可能性がある。

 

「……で、ふうまを経由してここの連中にあまり顔が知られていないであろう私にお鉢が回ってきた。そういうことでいいのよね?」

 

 独特のネオンに彩られたヨミハラ中心部に到着したところで、ゆきかぜはここに来ることになった経緯を改めて確認し、小太郎にそう尋ねた。

 

「ああ。俺や独立遊撃隊の面々、それからきらら先輩なんかはよくこの街に来てるから顔が割れてる。他に協力を頼めそうな亜希姉やタバサに至っては住んでるから完全に無理だ。……もっとも、タバサはそこを抜いてもこんな潜入任務っぽい真似は出来なさそうだがな」

「私だって自分でもわかってることだけど、忍法だけじゃなくて性格なんかも潜入任務向きじゃないわよ。それでもいいわけ?」

「こんな言い方は失礼かもしれないが……。今回に限れば逆に素人の方がいい。安眠屋を開いているエレーナには何度か会ったことがある。ノマドに所属しているらしいが、悪いことをするような奴には見えなかった。となると、何者かが安眠屋を妬んだか、個人的な恨みでもって、町内会長でもある静流先生の耳に意図的に噂を入れたんじゃないかって俺は考えてる」

 

 ふうん、とゆきかぜがひとつ相槌を打つ。

 

「まあいいけど。……でもこの街、あんまり好きになれないかも。気配が独特というか、なんか危ないというか。よくタバサはこんなところに住んでるわね」

「胃袋を掴まれた、ってやつだ。味龍のバイト、というか賄いはあいつにとって何にも勝るものなんだろう」

「住めば都ってところか。でもふうまと2人で来るならここじゃなくて別の街が良かったけど」

 

 その言葉を聞いたからか、小太郎が振り返る。どうしたのだろうと考えたところで、ゆきかぜは今の発言が「デートなら別な街でしたかった」という意味に捉えられかねないということに気づいた。

 

「あ、ち、違うわよ! 別にあんたとデートしたかったとか、そういう意味じゃなくて……」

「何言ってるんだ? 着いたぞ、安眠屋だ」

 

 そう言って小太郎が顎でしゃくった先。羊のマークが書かれた看板を掲げている店が目に入った。が、その看板をギリギリ確認できるぐらい。ここからだとかなり離れているという感覚だ。

 

「着いた、って……。まだ距離があるじゃない」

「さっきも言ったが、俺は店主のエレーナと顔見知りだ。俺と関係がある人間ってことで身構えられるのはよろしくないから、あまり近づかないに越したことはない。……改めてだが、事前の打ち合わせ通り、あくまで店の雰囲気をゆきかぜなりに感じ取ってくれるだけでいい。潜入任務とか気負う必要はないからな」

「わかってるって」

「じゃあ俺は適当に時間を潰した後、あそこら辺で待ってる。頼んだぞ」

「オッケー」

 

 ゆきかぜは小太郎と別れて店へと足を進める。その背後、小太郎がひとつため息をこぼしたが、これからのことで頭が一杯のゆきかぜは気づかなかった。

 

(私はこの街の新入り……。最近不眠気味だからちょっとここを試してみたいと思って来た。最初だからとりあえず20分コース、と……)

 

 事前の打ち合わせで決めた設定を脳内で繰り返しながら、ゆきかぜは店の中へと入る。

 安眠屋ということもあってか、店内は薄暗かった。だが不気味さはなく、羊で装飾された内装からはどちらかというとファンシーさすら伝わってくるほどだった。

 

「い、いらっしゃいませ……! え、えっと……初めてのお客様……ですか?」

 

 と、そこで1人の少女が現れた。フードを被っているが、そこから角が見え隠れしている。おそらく魔族であろう。人魔が混合玉石である、いかにもヨミハラらしい。もっとも、必要以上にオドオドした様子はこの街とは似つかわしくないようにも思えてしまう。

 

「ええ。最近この街に来たんだけど、ちょっと不眠気味みたいで。噂でこのお店を聞いて試してみたいと思って来たの」

 

 何度も予行練習をして脳内で繰り返したセリフをゆきかぜは口にする。

 

「あ、ありがとうございます。看板にもあります通り、ここは安眠屋……安眠を提供するお店です。お客様のような方のためのお店だと思っています。私は店主のエレーナといいます。えっと……じゃあ初めてということで、1番オーソドックスな20分コースでいいですか?」

「え? あ、うん、それでお願い」

「質が良い睡眠であれば短い時間でも効果的……。むしろ、20分ぐらいの方が眠気や疲労回復には効果的で、夜の睡眠にも影響が少なく良いと言われています」

 

 へぇ、とゆきかぜは相槌を打っていた。小太郎からとりあえず20分コースを頼め、と言われた時に30分の方がキリが良いと思うのになぜ20分なのだろうかと疑問には思っていたのだ。

 

「はっ……! す、すみません! 私ってば、聞かれてもいないのに余計なことをペラペラと……」

「ううん、気にしないで。なんで30分じゃないんだろうっては思ってたところだったから」

「と、とにかく個室にご案内します。どうぞ着いてきてください」

 

 頼りなさげな背中に続いて歩きつつ、ゆきかぜはここまでのやり取りで考えをまとめていた。

 

(うーん……。今までの感じだと、これはどう考えてもシロね。この子、悪いことをできそうにないというか、ヨミハラ住人とは思えないほど弱気だもの)

 

 しかし、実際サービスを受けてみないとわからない部分もある。同時に、安眠を提供、ということにも興味がある。

 そう思って後についていくと、個室が並ぶスペースの、その中の一部屋へと案内された。ベッドが置いてあるだけの部屋、といった具合でお世辞にも広いとは言えない。寝台列車やフェリーの個室程度の広さといったところだろうか。とはいえ、完全個室で防音もされているようである。

 

 案内されるままにゆきかぜはマフラーを外して上着と靴を脱ぎ、ベッドに横になった。同時に、思わず「うわっ」と声が出そうになる。

 

(すっご……。部屋は狭いと思ったけど、ベッドも枕もふかふか……。睡眠不足の人ならこれだけで眠れそう)

 

 そんな感想を抱いているうちに、エレーナは杖を手に準備を整えていた。

 

「え、えっと……。部屋は部外者の侵入防止に外から鍵をかけさせていただきますが、もしもの時のために内側からも開けられるようになっていますので。それから、各部屋に監視カメラを設置していますので、何かあったら駆けつけます。……で、では眠りの魔術をかけさせていただきますが、よろしいですか?」

「うん、お願い」

 

 エレーナの持つ杖がゆきかぜの方へ向けられる。と、それだけで急激な睡魔が襲ってきた。

 

(あ、これ一気に眠る感じ……)

 

 そんなことを考えているうちに意識が闇の中へと吸い込まれ――。

 

「……ん? えっと……?」

 

 心地よい、不思議なまどろみの中でゆきかぜの意識は覚醒していた。確かさっきまではヨミハラにある安眠屋のベッドの上にいたはず。だが今は地下のヨミハラではなく、春の日差しが降り注ぐ草原に寝転んでいた。体を起こし、辺りを確かめる。

 

(これは夢、かな……。そういえば、お店で眠ったら悪い夢を見たって情報もあったんだっけ。……あの子はシロだと思ったけど、それも演技とか? だとしたらとんでもない演技力だけど……)

 

 そんな予想を裏付けるように今のところ嫌な感じはしない。また横になり、夢の中で眠るのも悪くないかと思った、その時。

 

「……っ!? 誰!?」

 

 不意に、人の気配を感じてゆきかぜはその方向へと顔を動かしていた。

 

「あ……」

 

 しかしその強張った顔はすぐに虚を突かれたものへと変わっていく。

 そこに立っていたのは1人の女性だった。黒と白のレオタードのようなスーツに身を包み、頭には特徴的なウサギのような黒のリボン。そしてまさしく、ゆきかぜがずっと探していた顔――。

 

「お……お母……さん……?」

「ええ。そうよ、ゆきかぜ」

 

 ずっと聞きたかった、その声がゆきかぜの耳に響く。思わず、ゆきかぜは駆け出して抱きついていた。

 

「お母さん!」

 

 

 

---

 

「……やるせねえな」

 

 安眠屋のすぐ近く。待ち合わせ場所に指定した、通りに面した建物の角付近に背中を預けて腕を組みつつ、小太郎は不満そうにポツリと呟いた。

 

「最終的に提案にゴーサインを出した俺が言うのも何だが、残酷だよ。すぐそこに本人がいるんだ、直接ちゃんとした形で顔を合わせてやればいい。なのに夢の中でだけ、なんて……」

「それは私も同感。でも、不知火としてはそれが精一杯の譲歩だったんだと思う。……不知火は対魔忍から魔へと堕ちた身。直接会ったとなるとゆきかぜにも迷惑が及ぶ可能性があるって言ってた。でも、どんな形であれゆきかぜに会って、自分の目で見て、耳で聞けって私の頼みは聞き届けてくれた」

 

 その角から路地へと入った暗がりから聞こえてきたのはタバサの声だった。さらには先の戦いで共闘した扇舟と災禍の姿もある。

 

「それにしても、ミーティアの案も流石だと思ったけど、やっぱりふうまにも相談してよかった。……夢魔である彼女の力を利用して()()()()()()。そのために、()()()()()()()でゆきかぜをヨミハラに連れてくる。この計画のチェックに加えて各所への根回しの指示といい、さすが独立遊撃隊の隊長だね」

 

 そう、安眠屋の悪い噂というのも、静流からの依頼というのも、顔が知られていないであろうゆきかぜを選んだというのも全てがデタラメ。ゆきかぜを連れ出す口実に過ぎなかった。

 

 ミーティアは「自分は夢魔で夢を操れることができるから、夢の中で2人が会ってはどうか」という提案をしていた。さらに、夢を見せるとなると眠れる場所が必要であったが、ヨミハラならば安眠屋があるとも指摘。店主のエレーナとミーティアは仲が良いということで協力も要請しやすい、ということだった。

 そこで、アサギの了承を得てこの輪に加わる形となった小太郎はゆきかぜを連れ出す役割を引き受けた。加えて、今タバサが言ったように今回の案に落ち度は無いかのチェックと各所への根回しの指示も行っている。

 静流の方への根回しは災禍が担当した。詳しいことを伏せたまま、静流からの依頼という名目を使うことと、ゆきかぜが何かを聞いてきても誤魔化して欲しいと懇願。フュルストとの戦いで災禍に助けてもらって借りがある形の静流はそれを承諾した。

 

 こうして舞台は整った。おそらく今頃、ゆきかぜは夢の中とはいえ、久しぶりとなる親子の再会を果たしていることだろう。

 だが、さきほど小太郎が言った通り残酷でもある。ゆきかぜと同じ夢の中に入るために、安眠屋では不知火とミーティアも待機している。

 直ぐ近くにいる2人。現実で顔を合わせることもできるのに、それが叶わないのだ。

 

「……俺から言わせてもらえば、お前のほうがすげえよ」

 

 先程の「さすが」というタバサの称賛に対し、小太郎がそう答えた。

 

「不知火さんのことは極秘事項。俺は本来この件に関わることが出来ないはずだった。でも……お前の超強引な説得のお陰でアサギ先生が折れたんだろ?」

 

 タバサとしては、どうしてもこの件に小太郎を関わらせたかった。ミーティアの夢の中で会うという意見は悪くないと思ったが、その段階まで持っていくのがこのままだと難しい。

 夢に介入する以上、3人の距離が近くないと困難だという話だった。不知火とミーティアが五車に忍び込んで、という案も上がったが「私はまだ五車に戻るわけにはいかない」と不知火に固く拒否されたためにそれは断念することとなった。そうなると、ゆきかぜを連れ出す形を取るしか無いわけだが、このままのメンバーだとその役割担当は必然的に五車に出入り可能なタバサか災禍しか選択肢が無くなってしまう。

 タバサはゆきかぜの友人であるために不可能ではないが、腹芸は出来ない。途中でボロを出す可能性が高い。一方の災禍はゆきかぜとの接点が薄く、不自然極まりない。よってその役割はゆきかぜと顔馴染である小太郎が適任、とタバサは考えていた。

 加えて、小太郎の知恵を借りたいという意向もあった。ゆきかぜを連れ出す、と言っても具体案も思いつかない。少し前に見事な指揮を見たタバサとしては、全幅の信頼を置いている小太郎ならばなんとかしてくれるだろうとも考えていた。

 そして何より、小太郎もゆきかぜの大切な友人のひとりである以上、この話に加えるべきだというのがタバサの考えだった。

 

 そんな考えを持っていたタバサは、災禍が五車に戻る際に同行してアサギにこの件を直談判していた。が、小太郎が言った通り、その説得があまりにも強引すぎたのだ。

 

「アサギは私のことを敵に回したくないって言った。もしそれを本心から言っていないのであれば、私の意見は無視してくれていい。その代わり、私もいつ敵に回ってもいいと判断されたと捉えるし、場合によっては事を構える覚悟を決める。でも、本当に敵に回したくないなら、そして……ゆきかぜのことを思うのなら、私の意見を聞き入れて欲しい。……お願い」

 

 必死の懇願に、アサギもかなり悩んだようだった。しばらく考え込んだ後に渋々承諾の意志を示しつつ、「ただ、条件が3つあるわ」と付け加えた。

 

「1つ目。この件は話を知っている存在以外に絶対に口外しないこと。場合によっては母が魔に堕ちたということでゆきかぜの立場が危うくなる可能性がある。彼女はあなたにとっての友人だと言うのなら、そのことを徹底するように。2つ目。ゆきかぜ本人にも真相を知られないようにすること。つらいとは思うけど、不知火の意志でもあるし、あの子がどんな行動に出るかもわからない。今回はあくまで『不知火は生きている』ということを伝えて夢の中で会うことまでが条件よ。そして3つ目。……タバサ、こういう説得の仕方は今回限りにしなさい。あなたがゆきかぜのことを思って無茶をしようとしてるのはよく伝わった。でも、相手によってはこのやり方は己の力を背景にした脅迫と取られかねない。そうなれば反感を買って、メンツを潰されたと逆効果になることさえある。……よく覚えておきなさい」

 

 ここまで力が全てというような世界にいたタバサからすれば仕方のないことかもしれないが、力による要求が一度通ってしまえば、それ以降も通そうとしてくる可能性がある。そのことを知っているアサギとしては本来ならば突っぱねるのが当然であった。が、相手が相手であることと、彼女もゆきかぜのために何とかしたいというと思いがあったのだろう。強く釘を刺す形でタバサの意見を受け入れていた。

 

「説得と言うより、あれは半分脅迫、もう半分はアサギの良心に訴えかけた泣き落としといった感じですけどね……。一緒に立ち会っていた私としても冷や汗ものでした。……タバサちゃん、アサギにも言われてたけど、今後ああいう説得の仕方は控えたほうがいいわよ」

「わかってる。私はそういう交渉事とかは苦手だし、ケアンじゃ話が通じないって判断したら叩き斬るだけだったからよかったんだけど……」

「いや、よくないわよ……。今回は五車ってことで無理だったけど、一緒にいる時はやっぱり私が交渉役を担当するわ……」

 

 少し呆れ気味に扇舟がツッコミを入れる。「まあとにかく」と、気にしていない様子でタバサは続けた。

 

「ゆきかぜのために居ても立っても居られなくて、なんとかしたかったって思いが先走ったのは否めない」

「俺もタバサの気持ちはわかるし、無理矢理にでも話を通してくれたことに感謝もしてる。ゆきかぜの母親……不知火さん関連でそんなことが起きてるとは思ってもいなかった。力になりたいって思いは一緒だからな」

 

 今の言葉の通り、実際小太郎はアサギから不知火の件を聞かされた時、アサギを目の前にしていたにも関わらず珍しく不機嫌な様子を見せていた。淫魔族の隠れアジトにある礼拝堂で不知火のことを聞かされた時のタバサ同様、もどかしさがあったのだろう。だからこそ、彼もこの話に関われることが決まってからは積極的に協力していた。

 

「でもこれって、本来なら幻夢卿って奴が娘に継がせてれば不知火は関係なく戻ってくることも出来たんじゃないか、って思っちゃう。……まあ説明は受けたからしょうがなく理解はしたけど」

 

 そう言ったのはタバサだ。

 

「娘には自由に生きて欲しいって考えの幻夢卿と、闇から不義を討つための力が欲しいっていう不知火の利害が一致した形って話だったからね。……幻夢卿、またの名を淫魔の王。その名の通り、子は多くもうけたけれどシックスティに仕組まれたこともあって跡継ぎ争いでことごとくが死んでいった。そんな中でたった一人、心から愛した侍女との間に生まれた娘だけは不毛な争いを避けて自由に生きて欲しいと願った。ロマンチックと言えばそうだけど、淫魔の王と言う割には妙なところもあるというか……」

 

 今扇舟が言ったことは戦闘後に不知火と話している時に明らかになったことである。幻夢卿・カーマデヴァの子供がその座を継げなかったのか、という指摘は不知火と話している間に3人の間から誰と無く出ていた。

 

「娘……リリムか。確かに自由には生きてるけどな」

 

 そしてその娘というのが、小太郎が口にしたリリムであった。

 

 元々は落ちこぼれ淫魔と思われていたが、それは仮の姿。己の本来の力と人格を封印して別人格を作り出し、さらに他の者はその事を一切気づかさせないという高度なプロテクトによって、跡継ぎ争いから逃げ延びた。

 だがあることをきっかけに封印していた人格が覚醒。タバサが海で見て「明らかにヤバい」と感じた大人っぽいリリムは、本来の力を解放した姿だったのだ。そして、そのリリムを守るという名目でアンブローズやイシュタルといった淫魔族の幹部もあの時海に集まっていた、というわけである。

 

「娘に自由に生きて欲しいと願った親と、娘を失わないために姿を消してでも力を得て闇から守ると誓った親。形はどうあれ、どちらの娘も親に愛されているのね。……羨ましいわ」

「扇舟……」

 

 母親から愛情を向けてもらえず、最後はに使い捨てられそうになった彼女の名を、事情を知っている災禍が思わず呼んでいた。確かに許すことが出来ない相手だが、あの戦い以降、今のふうま当主がなぜ彼女を許したのか、少しわかるようになっていた。

 

「……そろそろゆきかぜが起きる時間かな。うまくいってるといいけどな」

 

 不意に、時計を見ながら小太郎が呟いた。ここに集まった4人、皆その思いは一緒だった。




活動報告にも書きましたが、69話ぐらいからスタートした原作対魔忍RPGメインチャプター53の「女王の誕生」に当たる部分の話はこの回で終わりにするつもりでした。
が、文字数が長くなってしまったので、分割して明日続きを投稿して一区切りとする予定です。
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