日が落ち、闇に包まれたセンザキの港内。
最小限だけの明かりを灯した小型のモーターボートが、こっそりと港から出港した。やがてその明かりも消し、真っ暗な海を静かに進んでいく。
「作戦はさっき話した通り実にシンプルだ。こいつで接近して直接乗り込み、俺とタバサと扇舟さんとウルグリムさんはブリッジへ行く。紅とあやめさんと篝は機関室を頼む」
その闇に包まれた船上、最終確認をする銃兵衛の声が響いた。オフィスにいたときのラフな格好と違い、闇に溶け込む黒を基調としつつも、ところどころに金の装飾が入った対魔忍スーツに身を包んでいる。
今、このボートにいるのは直接貨物船に乗り込む7人と、ボートの運転を担当する銃兵衛の部下の1人の計8人。運転担当の部下はナイトビジョンを装備し、海の闇の中を慎重に運転していた。
さらには風遁を得意とする紅とあやめの忍法によってボートを保護してもいる。これによってレーダーやソナーといった警戒の網をかいくぐり、貨物船側に気づかれないように接近して乗り込む、という作戦だ。
銃兵衛は最悪の場合――すなわち、実力行使に出るしかなくなり、貨物船をジャックしなければならない可能性も想定してる。そのため、船にとって重要であるブリッジ担当と機関室担当に人員を分けていた。まずは船内の状況を把握、その上で交渉を進める。だがそれが決裂して悪い想定の通りになってしまっていたら船ごと奪って港につけ、とにかく荷物だけは降ろそうという考え方である。
「ヨミハラから荷物を受け取りに来て海賊の真似事をするかもしれないとはね……」
計画を聞いた時から渋い顔だった扇舟が思わずぼやく。
「悪いとは思ってるよ。でもそれは交渉が決裂した最悪の場合だ。……それに、俺としてはただの脅迫とは思えねえんだ。あの船で何かが起こってるんじゃないかって予感がしてな。そうなった時、戦力は多いに越したことはない。だから頼み込んだのさ」
「まあいいではないか。乗りかかった船というやつだ。……現に今この世界の船に乗っているわけだし、これからはさらに巨大な船に乗ることになるのだろうからな」
ジョークを交えながらそう言ったのはウルグリムだ。
「……胃袋を掴まれたからか、ご機嫌ね」
「それはそうだろう! 食に興味がない我が友でさえ釣られるほどだ。料理が趣味である私としては高揚を覚えずにはいられない。昨日我が友の働き先で『ラーメン』というものを初めて口にしたが、この世界の食文化は驚くほどだよ。今日の昼にごちそうになった、彼の行きつけという店の料理もとても美味だった」
「ありがとよ。あとでおやっさんに言っておくぜ。……しかしまあ本当にうまそうに食ってたもんな」
状況の確認と話し合いを終えた後、遅めの昼食は銃兵衛行きつけであるカンザキ食堂のVIPルームを貸し切って行われた。そこで振る舞われた料理にウルグリムは驚愕しつつ、舌鼓を打っていたのだ。
「改めて思ったけど、塩すら使えない世界の食事とは比べられないよ。それでもあそこの料理は味龍と同じぐらいおいしいとは思ったけど」
タバサが会話に入ってくる。味龍でよく食べている麻婆豆腐やレバニラ炒めなどを食べ、感想として甲乙つけがたいと評しているほどだ。
「最後に出してもらった甘味など、いつぶりに食べたか覚えがなかったからな。あとは酒が飲めれば言うことはなかったが、まあしょうがあるまい」
「だったら、無事この件が終わったら打ち上げと行こうぜ。そこでなら酒も解禁だ。この世界の酒をごちそうするよ」
「おお! それはそれは。……ギャングというのはどうも悪いイメージしか持っていなかったが、君はまだ若いにも関わらず話がわかるし器もでかい。君のような者が率いているから、荒くれ者でもまとめ切れるのかもしれないな」
「よせよ、褒めても何も出ねえぜ」
どうやらウルグリムはすっかり銃兵衛と意気投合してしまったらしい。これから鉄火場に踏み込むかもしれないというのに陽気に会話を交わしている。
「見た目からはもっと硬派な人を想像してたんだけど……。ねえ、タバサちゃん。ウルグリムって元の世界でもあんなだったの?」
思わず、ツッコミを入れるように扇舟はタバサに尋ねていた。
「私が初めて会った時……まだ元ファーストブレイドだったという身分を隠してて、デビルズクロッシングに来た時はあんなだったかもしれない。あれがウルグリムの本当の姿なのかな。ウルグリムは本心というか本性というか、そういうのを隠すのがうまいから私にも読み解けない」
「食というのは人の心を豊かにする。あの陰鬱とした世界で味気のないスープやゴミのような味の配給食ばかりを口にしていた時と比べたら、こうもなってしまうというものだ。かく言う君も、ケアンにいた時より随分と明るくなったではないか」
「私に関してはイーサーの影響が大きいように思う。どうやらイーサーが存在することで心がざわつくようになって苛立ちに繋がってたみたいだから。……でもこの世界の食事がおいしいのは同意するし、そのおかげがあるかもしれないっていうのは否定できないかもね」
暗闇の中でウルグリムの口角が僅かに上がる。
「ケアンに戻る前に、是非とも君にはこの世界の豊富な材料や調味料を使って私の料理を振る舞いたいところだ。以前に作った私のスープは口に合わなかったようだったからな」
「味も何もしないからしょうがないよ。……じゃあ戻るまでに多少時間があるっぽいから、宿の台所なり味龍のキッチンを借りるなりして何か作ってもらおう」
結局話を振ったタバサも、銃兵衛同様にウルグリムのペースに飲まれてまるで緊張感がないと扇舟は思わざるを得なかった。
と、そんな一方、心願寺の3人がやけに静かなことが気になってもいた。かつてのふうまへの怨敵である自分がいることで、警戒をさせてしまっているのかもしれない。
そうも思った扇舟だったが、様子を窺うとずっと凛々しい姿だったはずの紅がどうも縮こまっているように見える。
「……こっちの緊張感の欠片もない話で気づかなかったけれど、大丈夫? 彼女、なんだか調子が悪そうだけど……。船酔いとか?」
「ああ、いや……。これは、その……」
「紅様は海や川が苦手なのよ」
言い淀んだ当人に変わって、あやめがそう補足をした。
「水が苦手なわけじゃないんだ。ただ、海や川みたいに水が流れてるところとなると、なんだか本能的にそれを避けたくなるというか……」
「気にすることはありませんよ、紅様! そんなところがあっても紅様が素晴らしい方であることは私がよく知っていますから!」
篝のなっているのかいないのかわからないフォローを受け、「うん、まあ……ありがとう」と一応紅は礼を言う。
「……そういえば。今私がこんな情けないことになってしまっているが、タバサに聞きたいことがあるんだった。この後共同戦線を張るのであればはっきりさせておきたい」
「ん、何?」
相変わらず調子は悪そうだが、それでも声色を硬くし、紅はタバサに問いかけた。
「さっき『私個人としては少し気になるところ』と言った部分だ。篝は『協力し終えた瞬間に骸佐を背中から刺そうとした』と言っていた。これは本当か?」
「合ってるよ」
「……私は義を重んじる
真面目に問いかける紅に対し、そんなことかと言いたげにタバサをため息をこぼす。
「紅の義っていうのが何かはわからないけど、私もこの世界に来てから『仁義』って言葉を知ったし、それに基づいて行動することもある。だけど、あの時にふうまも私がやろうとしたことに対して仁義に反するって言ってたし、この世界では受け入れられないことなんだろうなってのもわかる」
「共闘した相手を、それが終わった途端に背中から撃とうとしたんだぞ!? 卑怯とか卑劣だという考えはないのか!?」
「ないだろうな」
ウルグリムの声だった。さっきまでの軽い雰囲気は消え去り、今は剣呑な空気を纏っている。
「さっき剣を合わせた時に、君が正々堂々を好む人物だということはわかった。だから今の発言に至ったのだろうということも。だが、言い方はきついが、それは所詮この世界での基準だ。殊にケアンではそんなものは当てはまらない」
「言いたいことを言ってくれてありがとう。……共闘とか言ったところでいずれは敵になることが決まってる。だったら、消耗していようがこちらに背中を向けていようが、そこで討った方が早い。その方が合理的だ」
「まあ今の友の言い分はやや過激ではあるが、それでもケアンで生きたいのならば今の主張はもっともだと思っている。それ以前に、元より友には卑怯だの卑劣だのという感覚は存在しないのかもしれない。よしんばあったとして、その状況になる前に対処できなかった方が悪く、相手を責めるのは筋違いだ、と考えているかもな」
「まあそんな感じ。さすがウルグリム。私のことをよく解ってるね」
紅が言葉を失うのがわかった。卑怯や卑劣といった感覚がない。それはつまり――。
「お前も……そんな卑怯な手段を用いるということか……?」
絞り出すようにそう言った紅の声色からは緊張が感じ取れた。それでもタバサは特に気にかけた様子もなく返す。
「その方が生き残る確率が高いと判断したらね。……隙を見せればすぐそこに死が待っている。死んだら終わり。生き残ることこそが最優先。ケアンはそういう世界だと思ってるし、私はそういう認識でいる」
「誤解を招きたくないから補足しておくが、何も友は自ら進んでそのような行為に手を染める、と言っているわけではない。それに、薄情というわけでもない。ログホリアンというケアン滅亡の元凶となった化け物と戦った際、私はそいつらの世界である虚無界……まあ簡単に言えば異世界へと飛ばされた。だが、友は危険を顧みずに私を助けに来てくれた。……私を正気に戻す方法はいささか野蛮だったがね」
「クリードが行けって言ったからだけど……。でもまあ私自身も助けたいとは思ってたのは事実か」
それでも納得できないのか、暗闇の中で紅の表情は険しいままのようだった。そんな彼女をチラリと見てから、どこか不機嫌そうにタバサが口を開く。
「っていうかさ、紅はやけに私に突っかかってくるけど、そもそもはあのクズが対魔忍を裏切るだの無差別破壊をしただのってが悪いと思う。そのせいでふうまが割を食わされてるんだろうし。だったら背中から刺されようがしょうがないでしょ」
「う……。確かに骸佐のやったことを出されると……それはその通りと言えなくも無くなってしまうんだが……。いや、しかしだな……」
「その辺にしておけ、紅」
そこで割って入ってきたのは、少し前までおちゃらけていた銃兵衛だった。
「相手は異世界人だ。俺たちとは価値観が違うところだってあるだろう。それにタバサの言う通り、骸佐の野郎はやったことが最悪だ。俺の界隈で言うなら、仲間を裏切った挙げ句カタギに手を出してるってことにもなる。卑怯だ卑劣だをなんとも思わないっていうタバサでさえ嫌悪感を示してるんだ、相当だってことだよ。……とはいえ、お前が義を重んじることはよくわかってる。でも今日のところは目の前のことに集中してほしい。このタイミングでのいざこざはあまりよろしくない」
「それは、まあ……。その通りだが……」
「異世界人2人は俺の側に組み込んである。お前に迷惑はかからないし、俺が責任持って手綱を握る。それでいいだろ?」
銃兵衛にここまで言われ、紅としてはもう反論はできなかったらしい。大きくため息をこぼすのが精一杯の抵抗だった。
「……わかった。私も感情的になってしまったところがあるのは事実だ。ただ……。さっき手を合わせ、あれだけ優れた剣士だと眩しく映ったウルグリムが、卑怯な手も辞さないというタバサの考えに賛同するのは……。少し、ショックだった」
「あまり私を美化しない方がいい。自分の過去を誇示するわけではないが、かつては口に出すことを憚られるような汚れ仕事をいくつもこなしてきた。それこそ、君が言う『義』というものとは対局にあると言ってもいいだろう。……だからこそ、君の剣は真っ直ぐで羨ましいと思えたがな」
それをきっかけとして船上から会話が消え、ボートのモーター音だけが響く。少し前までの陽気さは完全に消え、重苦しい空気がたちこめていた。
「……ま、これから踏み込む先が鉄火場という可能性もあるんだ。このメンツに限って無いとは思うが、気を抜いてたせいで、なんてよりはこのぐらいの緊張感があったほうがいいだろうよ。……そら、もうすぐ着くぜ。これから乗り込むのはあのドでかい貨物船。このボートと比べたらまさにアリとゾウだ」
紅へのフォローも兼ねてであろう、そう言った銃兵衛の視線の先。闇の中にいくつかのライトを着け、静かに佇む巨大な塊――味龍が受け取る予定の調味料も積んだ大型貨物船が近づいていた。
インクィジター
マスタリーのひとつで、二丁拳銃を含む遠隔攻撃とエレメンタル属性による攻撃を得意とする。特殊な装備無しにマスタリースキルだけで二丁拳銃が可能になるのはインクの特権。
自前の攻撃手段は少ないものの刺突も得意。また、レジを下げられるためにイーサーとカオスにもそれなりにシナジーを持つ。
「尋問官」の名の通り、帝国が公認していない魔術師や、クトーン教団のような邪教徒を監視・逮捕、場合によっては排除する「ルミナリ」と呼ばれる帝国の機関の構成員。例えるならケアンの公安といったところだろうか。
そのためにオカルティストやネクロマンサーも本来は排除対象のようだ。実際オカルトと組み合わせたクラスの「デシーヴァー」は「詐欺師」という意味だったり、ネクロと組み合わせた「アポステイト」に至っては「背教者」と直球である。
まず特筆すべきは遠隔攻撃のWPS(通常攻撃変化)を3種も持っていることだろう。これにより、(他に装備やもう片方のマスタリーでも補う必要はあるものの)WPSの発動率を100%にして攻撃全てを変換するということも可能となる。
特に通常代替攻撃、かつ遠隔だと破片が散らばる効果が追加されるFS(ファイアストライク)を持つデモリッショニストとの相性は抜群であり、銃+盾でも両手銃でも二丁拳銃でもWPSに変わったFSの高速乱射で敵を薙ぎ払える。
一時期は銃・盾・ベルトの「ストロングホールドセット(現在はリージョンの砦セットに改名)」と、頭・体・肩・腕の「
盾と正義セットによるディフェンスと、セット効果でWPSが追加される上に物理→火炎変換(例えば星座のメテオシャワーは火炎と物理のハイブリッド。これが得意属性の火炎1本に寄るので威力がぶっ飛ぶ)等があるために盾持ちとは思えない殲滅力を併せ持って雑に強く、何より名前のパワーワード感も持ち合わせていたのが大きいと思われる。
今は正義セットよりもシャッタードレルムで手に入るセットの方が安定感が増すということで「ストロングシャッター」が正統進化版ビルドとして考案されている。パワーワード感は失われたものの攻守ともにさらに隙がなくなり、やはり雑に強い。
地面に刻んだ魔法陣の上に乗るとバフが得られる「インクィジターシール」も強力。
これには攻撃ごとに一定量のダメージを無効化する効果があり、早い話が廉価版ブラストシールドである。
さすがに本家ブラストシールドほどの無効量はないものの、シールを展開して乗れば効果を得られるために非常に扱いやすく、難易度ノーマルの間ぐらいはこの上に乗っていればほぼ安全といえるほど。
最終的にはダメージ量が大きすぎて賄いきれなくなってくるが、それでも質より量の攻撃には効果的に作用するので大体のビルドでマックス振りが推奨される。
ダメージ無効以外にもエレメンタル耐性を増加したり、後続スキルでダメージを強化したりと非常に優秀。
ただ、逆に言うとインクはシールへの依存度が高く、その上で戦うのが前提になりがちなのでやや手間がかかり気味になるかもしれない。
他にも即時ヘルス回復+DA強化+ヘルス増加+イーサーカオス凍結耐性上昇等の効果がある「ワードオブリニューアル」のツリーや、クリティカルが出ると攻撃面を強化するパッシブバフの「デッドリーエイム」、攻防を同時に強化可能な優秀過ぎる排他スキル等も持つ。
強いて短所をあげるとするならば、上で述べたシールへの依存度の高さと、あとはオカルティスト同様に自前のマスタリースキルによる攻撃にややクセがあるところ、そして豊富な遠隔WPSを持ちながら自前のマスタリーだけでは通常代替攻撃スキルを用意できないことだろう。
特に自前の攻撃スキルであるルーンは強力ではあるが地面にルーンを刻む→敵が近づいて発動という手順のために発動までにラグがあり、使いにくいと感じる人もいるかもしれない。
とはいえ、どのマスタリーとも噛み合いやすく、さすがはDLCといえる強力な万能マスタリー。
遠隔WPSの恩恵が偉大すぎるので、武器攻撃がメインの遠隔ビルドは気づいたら片側が軒並みインクなんてことはザラ。実際自分のデータ確認したらマジで例外が闇炎パイロぐらいしかなかった……。
相性抜群のデモリッショニストと組み合わせたクラスは「ピュリファイア」、ナイトブレイドと組み合わせたクラスは「インフィルトレイター」となる。