“乗っ取られ”の少女、対魔忍世界に迷い込む   作:天木武

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Act87 ギャングの掟ってやつさ

 薄暗い電灯の中、ブリッジを占拠した部隊――特務機関Gの特殊部隊兵士であるGソルジャーの隊長は苛立ちを隠しきれない様子だった。全身鎧のように身を包む個人用のパワードスーツである、パーソナル強化外骨格のヘルメットの下で意図せず舌打ちをこぼしている。同時に、手にしたサブマシンガンを指で無意識のうちに叩いていた。

 部下もそれは同じなのだろう。決して広いとは言えないブリッジの中をうろうろと歩く者や銃から手を離している者、バイザーを開けてあくびをしている者までいる。

 

「銃から手を離すな。あとお前はバイザーを閉じろ。作戦中だぞ」

「作戦中ねえ。そりゃ結構ですが、いつまでこうしてりゃいいんですか? もう3日目なんですがね。そもそもなんで通信入れないんです? 要求を早く飲め、さもなきゃ船員を殺す。これで済む話でしょ? それをわざわざ船室に押し込むような真似して……。見せしめに数人殺せばよくありません?」

「私語を慎め。受けた命令通りに行動しているだけだ。これ以上は上官への反抗とみなすぞ」

 

 へいへい、と反論してきた隊員が不満げにバイザーを降ろした。

 

(クズどもが……)

 

 内心で毒づきつつも、隊長と呼ばれた男も同じことを思っていた。

 

 与えられた指令は貨物船のジャック。しかし、それがただの乗っ取りではなく、特殊な命令つきだった。

 

「船を占拠したらセンザキの沖合に停泊、ブリッジ要員以外は各員の船室に押し込めておくこと。それを終えた後、貨物船の取引相手に船の通信士を使って輸送料の釣り上げと契約更改の通達を1度だけ入れてほしい。いいか、1度だけだ。その後は動きがあるまでブリッジを占拠したままそこにいる船員を見張るように」

 

 意図がわからないと心中でぼやいた隊長の心を見透かしたかのように、左目に切り傷のある司令官はさらに付け加えた。

 

「貨物船の取引相手……金崎銃兵衛という男は好奇心旺盛で進んで動くタイプだ。君はこの作戦を不可解と思っただろうが、奴も同じことを考えるだろう。そうなれば、自ら乗り込んでくる可能性が高い。そこを捕らえてもらいたい。人質として船員を利用してもいい」

 

 おそらく直接攻め込まないのは自分たちの組織が表立ってセンザキと争うことを避けるためだろう。特務機関Gはかつて彼の縄張りで厄介事を起こしたという過去がある。

 回りくどいとは思ったが、彼自身直近の作戦を失敗した身だ。厄介事を押し付けられるにはもってこいの人選、あるいはその分の責任を取れという意味もあるかもしれないと一応納得しかけた隊長だったが。

 

「侵入の際、1人同行させて欲しい者がいる。はっきり言うと人間ではないが、気にしなくていい。それから、乗り込んだ後の()()には自由に行動させるように」

 

 結局、明らかに人間ではない、グレーの肌を持つ女と思しき相手と共に、航海中のこの船に乗り込むこととなった。おそらくは裏で協力関係にあると噂されている死霊卿の手のもの、すなわち魔族と推測できる。

 ともあれ命令は絶対だ。司令通りにその後は勝手に行動させているため、今どこで何をしているかも把握していない。そもそも乗り込む前も部下の軽口に反応もしないで言葉すら交わさず、乗り込んでからも顔も合わせていない状態にある。

 さらにつけられた部下は問題を抱えた者ばかり。そんな連中とともに、本当に目的の存在が来るかもわからない3日にも及ぶ籠城だ。いくら直近の件があるとはいえまるで嫌がらせ。いい加減もう我慢の限界も近い。2回連続で作戦失敗となればどんな罰則を受けるかわかったものではないが、本部に連絡を取りなり引き上げるなりを考える時期かもしれない。

 

 そんな風に隊長の男が考えをまとめた、その時だった。

 

「誰だ!?」

 

 隊員の男の声でハッと我に返り、手にした銃をブリッジの入り口へと向ける。

 そこいたのは司令官から写真で見せられた、今回のターゲットであるド派手な金髪の男。ホールドアップ状態で両手を見せたまま、ブリッジ内へと無造作に足を踏み入れていた。

 

「金崎銃兵衛……! 本当に来たか……」

「本当に? ……まあいいか。俺も有名人になったようで嬉しい限りだよ。それにしても、その最新技術がいかにも詰まってそうな装備……。まさかうちと取引相手である船を、あの特務機関Gがジャックするとはね」

 

 正体が看破された、と部下の間に目に見えて動揺が走る。だが目の前の男はそんなことをお構いなしにさらに口を開いていた。

 

「キャプテン、すまなかったな。さっきの言い分だとおそらくこいつらの狙いは俺だ。つまり、この船は間接的に巻き込まれた形になる」

「いえ、そんなこと……」

「無駄話をするな。今お前と船員の命はこちらが握っている。そのことを忘れるな。……おい、ボディチェックだ」

 

 5名の船員に銃を突きつける、同じく5名の隊員。それから指示を出している隊長。この状況で1人溢れていた隊員が、指示通り慎重に銃兵衛に近づいてボディチェックを行おうとする。

 

「……お前さんたち、捨て駒にされたな」

 

 そこで銃兵衛がポツリと呟きつつ、両目を閉じて俯いた。

 

「何を……」

「同情はするよ。だが、俺の縄張りを荒らした以上、どうなっても文句はなしだぜ。……タバサ!」

 

 続いてそう叫んだ瞬間。ブリッジ中が眩い光に包み込まれていた。

 

 

 

---

 

「敵の位置は覚えた?」

 

 銃兵衛がブリッジへと入っていった直後から、タバサたち3人は突入に備えて準備をしていた。

 ブリッジの直ぐ側で待機。銃兵衛が装着したボディカメラから流れてくる映像を、タバサが自分のスマホでウルグリムに確認させている。

 

「ああ。さっきの話の通りでいけそうだ。……しかし君が援護役、か。ケアンにいた頃は猪突猛進、飛び込んで斬るような戦い方しか知らなかったというのにな」

「この世界だと搦め手も有効だって学んだだけ」

「ほう。この()()()で君にそこまで考えを変えさせた存在がいるというわけか。興味深い。扇舟、君ではないのだろう?」

「私じゃないわ。そんなことより2人とも、雑談してないで準備を……」

 

 銃兵衛は身を晒して既に鉄火場へと足を踏み入れ、会話の様子からこの後全員突入しての戦闘が約束されている。にも関わらず2人からはそんな緊張感は全く感じられないと、思わず扇舟が小言をこぼそうかと思った、その時。

 

「タバサ!」

 

 銃兵衛の叫び声が聞こえると同時。弾かれたようにタバサはブリッジの入り口まで飛び出していた。中へ向けてフラッシュバンを放り込み、そのまま突撃を仕掛ける。

 

「影よ!」

 

 同時にウルグリムも天界の力を行使。4体の生きる影である“リビングシャドウ”を召喚。数の不利をひっくり返す状態を作り出した上で突入させ、自分もそれに続く。

 

「もう、この人たち……!」

 

 戦闘になった途端にスイッチが入る、まるで戦闘民族だ。結局のところ、準備ができていなかったのは自分だけだったと思いつつ、扇舟も一瞬遅れて内部へと飛び込んだ。

 

 ブリッジ内は一瞬で大混乱に陥った。敵は持っているサブマシンガンを使用していない。というより、使用できない、というべきか。

 目が見えない状態での発砲は同士討ちの危険性があることを承知している。加えて、狭いブリッジ内だ。室内専用に銃身の短い銃を装備してはいるものの、下手に撃てば跳弾が発生し、場合によっては自分に弾が返ってくる可能性もある。パーソナル強化外骨格に包まれているためにそのダメージは無視できるものであったはずだが、腐っても特務機関Gの兵士たちであったことが仇となった。鼻つまみ者と言えど優秀であるが故に思わず脳裏をよぎってトリガーを引くことをためらった、確実な隙であった。

 

 そこを狙ってまず動いたのは銃兵衛だった。事前の打ち合わせ通りに目を閉じ、フラッシュバンの閃光から視界を守っている。

 それでも直前の敵の立ち位置と気配で相手のことは把握済みだ。まず左手で腕を掴んで強引に引き寄せ、右手を装甲で守られた胸部に押し当てる。それから静かに口を開いた。

 

「邪眼……“金色の丸い眼(サイクロプス)”!」

 

 強烈な光から網膜を守るために閉じられていた銃兵衛の目が見開かれる。同時に、額に第三の目のようなシンボルも。美しくも禍々しい黄金の瞳と浮かび上がったシンボルから生まれた力は彼の体を伝播し、押し当てた手のひらから敵兵士へと放たれていた。

 

「ぐっ……! ゴガッ……!?」

 

 人が発したとは到底思えないおぞましい悲鳴。それと共に、ヘルメットのバイザー内部が血で溢れ返る。

 

 ふうま一族が発現しやすいと言われる“邪眼”の力。銃兵衛もそんな邪眼の持ち主だ。彼が持つ邪眼“金色の丸い眼(サイクロプス)”は金属を操る。

 相手は全身を金属も含まれる装甲で覆ったGソルジャーである。銃兵衛からすれば動く棺桶の中に自ら入っているようなものだ。古の拷問道具よろしく、金属を変化させて内部に無数の刃を作り出し、滅多刺しにして絶命に追い込んだのだ。

 

 それとほぼ同時に4体の影がブリッジ内を疾走した。ウルグリムが天界の力で呼び出した、影の戦士となった今は亡き無名の英雄たち。アミダハラで彼が武装難民相手に行使したものと同じ、リビングシャドウである。

 数の不利をひっくり返したシャドウたちは、人質の救出のために手にした影の剣によって銃を破壊しつつ敵への攻撃を行っている。さすがに相手の装甲を貫くのは難しいようだが、フラッシュバンと合わせて撹乱と人質の安全確保には十分すぎた。

 

 とりあえずは狙い通り。あとは混乱した相手を手早く片付けようと、次の獲物へと狙いを定めながら銃兵衛が叫ぶ。

 

「人質最優先だぞ! 忘れんなよ!」

 

 おそらく彼のすぐ脇を疾風のごとく突き進んでいったタバサに対し、念押しのつもりで言ったのだろう。

 そのことは当人もよくわかっているようであった。まずは敵が人質に向けていた銃を左手の剣による斬り上げ(アマラスタのブレイドバースト)で破壊する。それから斬り上げた左の剣(オルタス)右の剣(ネックス)を押し当てての、力任せな振り下ろし(エクセキューション)。小柄ながらもその全体重を乗せた一撃は、敵の頭を覆っていたヘルメットを砕き、脳天をかち割っていた。

 

受けてみよ(Take that)!」

 

 それから気合の声を上げながら、リビングシャドウを召喚したウルグリム本人が突撃した。タバサが得意とする高速の突進(シャドウストライク)同様、目にも止まらぬ速度で踏み込んだかと思うと、首を目掛けて強烈な挟み込む一撃(ベルゴシアンの大ばさみ)。「純粋な剣の腕前なら自分より上」とタバサが言い切ったその技のキレと、膂力の強さは本物だった。首の装甲を無視して跳ね飛ばして絶命させている。

 

 そんな中、人質を取っていた敵連中を銃兵衛たち3人と影の戦士に任せ、扇舟は敵の隊長と思われる相手に肉薄していた。情報を聞き出すために生かしたまま捕らえるように言われている。どのみちギミックの爪を展開させても敵の装甲を貫通できるかわからないために、4人の中でもっとも殺傷能力も低くなってしまう。その事実もあるだろうが、あくまで銃兵衛は対魔殺法の達人である扇舟ならば命を奪うことなく無力化するのに適役と言ってくれていた。

 

(なら……気を使ってくれた彼のためにもいいところを見せないとね……!)

 

 低い姿勢のまま蛇のように目標へと接近。まだ視力が戻っていないであろう相手に気配すらも悟られないようにした上で、無防備な顎目掛けて右の掌底を突き上げた。

 高性能な個人用の強化装甲に身を包んでいたとしても、内部の人間への衝撃を完全には吸収できない。人体急所のひとつである顎を強打されて脳を揺さぶられ、相手の意識が一瞬飛ぶ。その隙にマシンガンを奪い取りつつ重心を崩して足を払い、背中から強烈に床へと叩きつけた。

 重心が崩されれば呆気なく転ばされてしまう。そのことをよく知った、見事な対魔殺法による「崩し」であった。これだけの衝撃を与えればしばらくはまともに動けないだろう。背中から倒した相手をひっくり返してうつ伏せにして両腕を抑え込む。

 

「隊長格を確保! そっちは……」

 

 自分に担当された仕事を終えたところで、そう言いつつ扇舟はブリッジ内を見渡した。が、直後にその顔に苦いものが浮かぶのを自覚せずにはいられなかった。

 

 既にブリッジ内部は血の海(ブラッドバス)と化していた。特に異世界人2人が片付けたと思われる4人は装甲ごと叩き斬られているために損傷が激しく、血溜まりを作り出している主な原因と言えた。

 一方で銃兵衛が相手をしたであろう2人は、外から見る分にはダメージを与えた形跡すら無い。それでもピクリともせずに床に崩れ落ちているのだから、当然死んでいるのだろう。

 

「隊長格は捕獲、他敵6名排除完了。人質も……無事だな、キャプテン?」

 

 ブリッジ内が閃光に包まれてから10秒と経っていない。あっという間に変わった状況に呆然としていた様子の船長だったが、自分以外の4名の船員が無事であることを確認して頷く。

 

「……驚いたわ。1番楽な仕事を任された私が言うのもなんだけど、ここまで綺麗に制圧できるなんて……」

 

 ポツリと呟いた扇舟に対し、銃兵衛は軽く笑ってみせた。

 

「『殺さないように捕まえろ』って指示はこの2人じゃ無理だろうから、適役を任されたと思ってくれていいぜ。……とはいえ、ここまで綺麗に決まったのはウルグリムさんのリビングシャドウのおかげってのがでかいな。まさに生きる影……。高技術の影遁の術を見てるようだった」

「影遁ってさくらが使うやつでしょ? あれとはちょっと違うよ。さくらは影の中に潜ったり影の刃を作り出したり応用を効かせられるけど、リビングシャドウはあくまで影の戦士を生み出すだけだから」

 

 制圧が完了したことを確認するようにブリッジ内を見渡しつつタバサがそう答えた。言われてみればそうか、と肩をすくめてから、銃兵衛はたった今助けた船長に声をかける。

 

「キャプテン、ブリッジ内を血の海にしたのは謝るよ」

「いえ、そんな……! 私達は無傷で助けてもらったわけですから……」

「そう言ってくれると助かる。疲れてるところ悪いが、状況を説明してくれないか?」

「はい……。その前に、そもそもとしてまず予定より輸送が遅れていたのはこちらのミスです。申し訳ありません……」

「それはいい。そういうこともあるからな。……こいつらにはいつ船を乗っ取られた?」

「ん?」

 

 なぜかタバサが反応してきた。少し考えた銃兵衛だったが、彼女が“乗っ取られ”と呼ばれていたこともあるとウルグリムから聞いたことを思い出す。

 

「いや、お前のことじゃない。……この単語今後使いにくくなるのか。ちょっとめんどくせえな。……で、どうなんだキャプテン?」

「センザキ到着予定の前日の夜だったと思います。闇夜に紛れていつの間にか乗り込んできたらしく、フル武装の相手に抵抗のしようもなくて……」

「だろうな。こいつらのこの特殊装備……。さっきも言ったがおそらく特務機関Gだ。通常ならアサルトライフルを携帯しているだろうが、今回は明らかに室内戦を想定してサブマシンガンを装備している。加えて、個人サイズの強化外骨格なんざ普通は見かけられる代物じゃない」

「通信も奴らに脅されてのことでした。あとはほぼずっとこのブリッジ内に監禁状態だったので……。他の船員はどうなってますか!?」

「そのことはあいつに直接聞く。ちょっと待ってくれ」

 

 そう言うと銃兵衛は扇舟がうつ伏せにして抑え込んでいる、唯一の生き残りの元へと歩み寄った。それから屈んで強引にヘルメットを脱がせ、顔を引っ叩いて起こそうとする。

 

「おい、起きろ。……あ、扇舟さんはどいてくれていいぜ。船員たちの様子を見てやってくれ」

「いいの? こいつが暴れても……って、ギャングスター様には愚問だったわね」

 

 扇舟がどけたタイミングで隊長格の男は目を覚ました。それから慌てたように上体だけを起こしたものの、さっきの扇舟の一撃のせいか背中を抑えてうずくまる。そうしつつも周囲を見渡し、状況が最悪であることを悟ったようだ。

 

「クソ……俺以外は全滅か」

「ああ。あんたには聞きたいことがあったから生かしてる」

「答えると思うか? とっとと殺せ」

「まあそう言うなって。俺の気まぐれで生き残れるかもしれないぜ。……俺としては疑問なんだよ。なんでこんな回りくどいことをしたのか、ってな。あんたさっき俺に対して『本当に来たか』と言ったな? ってことは狙いは俺ってことになるはずだ。違うか?」

 

 隊長格の男は銃兵衛を睨みつけたまま、ゆっくりと口を開いた。

 

「……金崎銃兵衛、お前はそのクソムカつく軽薄そうな面と違って頭は切れると見た。センザキを取り仕切ってるぐらいだからな。俺があれこれ言わなくても察しはついてるんじゃないか?」

「お褒めに預かり光栄だ。……特務機関Gは以前ストリートチルドレンの一件でセンザキにちょっかいを出して失敗している。表立って動いて争うようなことは避けたい。だからまずは面倒な俺を消してセンザキに少しずつ入り込んでいく。まあこんなところだろう。……だが、やり方が回りくどすぎる。俺がこの船に乗り込んで来なかったらどうするつもりだった?」

 

 相手もそのことは心に引っかかっていたのかもしれない。答える前に思わず押し黙るのがわかった。

 

「……俺もそれを直接司令に聞きたいぐらいだ。あくまで命令のとおりに動き、そして実際にお前は来た。それだけだ」

「そうか。じゃあ次の質問だ。ここにいる以外の船員はどうした?」

「船室に押し込めてある。後のことは知らん」

「見張りも立てないでか? ……既に俺の仲間が機関室も抑えてる。その時に機関室内部も含めて誰とも遭遇しなかったという報告を受けたんだが、どうにも解せないんだよ。ここを占拠した以外の仲間は本当にいないのか?」

 

 やはり即答はなかった。が、ややあって諦めたようにため息がこぼれていた。

 

「……あのクソ女がどうなろうと知ったことじゃないか。そもそも人間じゃないんだからな」

「何……?」

「この船に乗り込んだのはブリッジを占拠した俺たち7人と、完全別行動の女が1人。多分魔族の女だ。その女には自由に行動させろという命令だから今どこで何をしてるのかはわからない。……お前、さっき俺たちのことを捨て駒にされた、と言ったな? おそらくそれは正解だ。上の本命はあの魔族の女をこの船に潜り込ませることだったんじゃないかと思ってる」

 

 急に突拍子もない話が飛び出し、思わず銃兵衛の顔に疑念の色が浮かんだ。自分を混乱させようとしているのかもしれない。が、それにしては随分と淀みなく話したようにも思える。

 

「そいつは嘘はついてないよ。……ただ、まだ反撃の機会を伺ってはいるようだけど」

 

 そこで口を挟んできたのはタバサだった。全滅させた敵兵の死体をウルグリムと共にブリッジから引きずり出そうとしながら、もののついでのような口調である。

 

「そういやタバサは相手の内面を見通す能力に優れてるんだったか。となると、今の話もマジってことになるな。……でもまあ反撃云々は放っておいていい。俺はさっきこいつに気まぐれで生き残れるかもしれない、って言ってるんだ。それを自ら手放したいなら、まあ好きにしなって感じだからな」

 

 舐められている。まだ両膝をついたまま、隊長格の男はそう思った。おそらく情報を聞き出すために生かされているに過ぎない。ギャングとの口約束など守られるはずがない。

 何より、メインのサブマシンガンこそ手元にないもののまともにボディチェックも拘束もされず、「反撃したいならしてみろ」という態度を取られている。抵抗したところで大したことがない、と高を括られているのであろう。それが彼のプライドを傷つけてもいた。

 

(金崎銃兵衛……刺し違えても貴様は道連れにしてやる……!)

 

 気まぐれなどと言っているが、どうせ最初から見逃すつもりが無いと決めつけていた。ならば一矢報いてやろうと、背部装甲内に仕込まれているコンバットナイフの柄に手がかかる。

 

「ねえ、銃兵衛」

「大丈夫だタバサ。何も言うな。……全部わかってる」

 

 そして目の前の相手が仲間から声をかけられて視線を切った瞬間――。

 

「もらった! 死ねっ!」

 

 ナイフを手に立ち上がると同時、全体重をかけて刃を目の前の敵の体へと押し込む。人体急所である内臓を捉えた致命傷足りうる一撃――のはずだった。

 

「やっぱりな。俺のことを何も知らねえか」

 

 だが、目の前の男はまるでダメージを受けた様子がなかった。振り返った目が金色に輝き、額にも文様が浮かんでいる。哀れみを含んだような声でそう言いつつ、ナイフを握っていた右手を掴んで体から離す。当然のように血は全く出ていなかった。

 

「な……なぜ……」

()()()ナイフじゃ俺は殺せねえよ。……俺の邪眼は金属を操る。さらに発動中の俺の体はすべての金属の攻撃をすり抜けるのさ。こんなこと、センザキの連中なら大抵知ってるようなことだぜ」

 

 当人からのまさかの種明かしに愕然とする。つまり――。

 

「まさか特務機関Gともあろう存在がそれを把握していないとは考えにくい。だが今のあんたの様子から、その情報は与えられていなかったってことはよく分かる。俺を狙っていたようだが、装備も室内戦仕様とはいえ標準のもののようだしな。となると、()()()その情報を与えなかった、と考えるのが自然だろう。……だから言ったんだよ、捨て駒にされた、ってな」

 

 捨て駒。まさにその通りだろう。最初から勝ち目のない勝負を仕掛けさせられたようなものなのだから。

 同時に、それならば全ての辻褄が合う。直近の作戦を失敗した指揮官、寄せ集められたクズ連中、籠城しながら中途半端で不可解な要求、そして謎の女と、そいつに自由に行動させるような命令。

 

 つまるところ、謎の女のために使い捨てられても問題ない存在が集められたのだ。

 

「さっきも言ったが、同情はしてる。だが、俺の縄張りを荒らした落とし前はつけさせてもらう。ギャングの掟ってやつさ」

 

 胸に激痛が走ると同時、意識が遠のいていく。組織に使い捨てられた男の哀れな末路だった。

 

 一瞬、思うところがあるように今しがた自分が命を奪った男を見つめていた銃兵衛だったが、切り替えるようにひとつ息を吐いて口を開く。

 

「……さて、と。ブリッジは取り戻して機関室も抑えてある。あと気になるのは魔族の女ってやつだな。こいつらを囮に使ってまで乗り込ませた上で自由にさせてるぐらいだ。間違いなく何かあるはず。とっとと船を港につけて荷物を降ろしたいところだが、まずそいつをどうにかしないと……」

『銃兵衛!』

 

 ブリッジを占拠した敵を全滅させ、次のことを銃兵衛が口にした、その時。不意に通信で紅の声が聞こえてきた。

 

「ああ、わりいわりい。報告しておくべきだったな。こっちは奪還に成功した」

『そうか、それはよかった。だがこっちで問題発生だ。……どうやら船員たちが船室を出たらしい。あやめの風遁で調べたところ、この機関室目掛けて集まりつつあるようだ。そして……その船員たちはどうも人間の生気を発していないらしい……!』




ちょっと次回更新まで空くことになると思います



リビングシャドウ

天界の力、つまり星座スキルのひとつ。
Tier3の「無名戦士」の最後に位置し、6ポイントで取得可能。
星座自体の必要親和性は紫15黄8とかなり重い。しかしそれ相応に星座もスキルも強力である。

アサインしたスキルでクリティカルが発生した際に100%の確率で発動、二刀流の影の戦士・生きた影であるリビングシャドウを召喚する。
シャドウはプレイヤーボーナス型ペットのため、プレイヤーのステータスがそのまま反映される。
さらに不死属性のため、一旦召喚すれば存続時間が切れるまで暴れ回る有能さ。
プレイヤーを中心に索敵して敵を見つけるとシャドウストライクで突っ込み、二刀のシャドウブレイズで叩き切ってくれる。
刺突と出血がメインダメージだが、最大の特徴として、シャドウの攻撃のダメージは本体のプレイヤーにヘルス変換されるというものがある。
つまり召喚すればダメージを与えつつ本体の回復も行ってくれるという高性能ペット。
星座スキルのレベルが低い間は1体しか召喚できずに存続時間も10秒しかないが、最高までレベルが上がると3体まで召喚可能になり、存続時間も24秒まで伸びる。
星座本体の性能も刺突と出血ダメージを中心に攻撃面を伸ばしてくれて優秀なため、刺突や出血をメインダメージソースにしているビルドでは最終取得候補にも上がる。

ちなみに星座本体である無名戦士、及び召喚されるリビングシャドウだが、おそらくは本名や過去など全てを失った、かつてのファーストブレイドたちではないかと推測されている。
ログホリアンの項目で述べたように、同じくファーストブレイドだったウルグリムとは選択肢次第で1度だけ戦える機会があるのだが、その際彼もこの星座スキルを使用してくるためにその説の裏付けのようにもなっている。
なお乗っ取られの最大召喚上限は上記の通り3体。一方、ウルグリムは本調子ではない状態にも関わらず(モンスターデータによれば)最大召喚数が4体。しかも乗っ取られのリビングシャドウでは使用不可能なファンタズマルブレイズの投擲やリングオブスチールまでやってくる模様。
さすがはウルグリム、Grim Dawnのメインヒロインである。
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