“乗っ取られ”の少女、対魔忍世界に迷い込む   作:天木武

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Act9 オススメは看板メニューのセンシュースペシャルだ!

 小太郎の今回のバイトはヨミハラで魔界の門を管理する瑠璃(るり)という男から本を受け取り、それを必要としている人に渡すというものだった。

 瑠璃は異常とも言えるほどの本好きであり、辺り一面本棚で囲まれたような部屋にいる。しかし門の管理でそこから動けないために、信頼できる人間に本の調達や運搬を頼んでいるのであった。

 

 そんな偏屈な男に、同じ本好きとして小太郎は信頼を置かれている。面倒と思うことも少なくはないのだが、なんだかんだバイト代がいいので続けているという形だ。

 

「……というわけで、まずは瑠璃に会わないといけない。だけどその前に腹ごしらえしておくか。ちょっと気になってることもあるし。いいか?」

「任せる。私はついてきてるだけだから」

 

 タバサにとっては2度目となるヨミハラ。地下に眩く輝くネオンを見て、「ああ」と彼女は呟いた。

 

「私がこの世界に来た時の最初の街か」

「そうだな。あの時はこの世界のこととか全くわからなかっただろうから周囲を見る余裕もあまりなかっただろうけど……」

「うん、今ならちょっとわかるかも。ふうまが住んでる街と比べると、ここって変だね」

 

 変、というのはかなりストレートな言い方だと思わず小太郎は吹き出してしまう。

 まあそれもそうだろう。東京の地下300メートルにある地下都市。水道、電気、ガスといったライフラインは地上から違法に盗み引かれ、メインストリートはマシなものの、1本脇道に逸れれば治安も何もあったものじゃないという有様だ。

 さらに住民の種族は千差万別。人間ももちろんいるが、それ以外にオークや獣人や鬼族なども平然と歩いている。そもそもこの街を取り仕切る最大勢力の“ノマド”が魔族の集まりのようなものである時点で、もう何でもありの街なのだ。

 

 それに対して、一応は正義の味方を名乗っている対魔忍の里の五車町を比べるのがそもそもの間違いとも言える。

 

「血の気が多い奴もいるけど……大丈夫そうか?」

「ん。危なそうなのはいるし悪意を垂れ流してるのもいる。あとは、やけにこう……破廉恥な連中も」

 

 破廉恥、とはまた意外な言葉が飛び出した、と小太郎は思う。しかしその感覚はあながち間違えてはいない。

 闇の街とも呼ばれるヨミハラには娼館も数多く存在する。そのために女を抱くことしか考えていないような輩も決して少なくはないだろう。

 

「だけど敵意を向けてきてるのはいないし問題ない」

 

 その上でタバサはこう続けた。それを聞いて小太郎は少し安心する。

 

「それに向けられても今なら対処もできる、か」

「教えてもらった護身術で対処できるレベルがほとんどだと思う」

「そりゃ良かった。誰彼構わず剣を振り回して流血沙汰はいくらヨミハラでもちょっとまずいからな。……しかしそう考えると、最初にこの街から五車に戻るまでの間ってかなり危なかったんじゃないのか?」

「……言われてみるとそうかも。ただ、『戦闘行為は無い』って言われてたから、それを信じたってのはある」

 

 確かにそうは言ったし実際に戦闘は無かったのだが、もしかしたら、と思うと少々肝が冷える小太郎だった。

 

「それで、どこで食べるの? 気になることもあるとか言ってた気がするけど」

 

 と、メインストリートをしばらく歩いたところでタバサがそう尋ねてきた。

 

「このもう少し先……。見えてきた、あの店」

 

 そう言って小太郎は「味龍」と書かれた店を指さした。

 

「ライブラリーや時子や災禍の作ってくれる飯もうまいけど、あの店もうまいって評判だ。特にラーメンは基本的に素人がどう頑張ってもプロの味に勝てないからな。……まあライブラリーなら勝ちかねないけど」

「いつも食べてるものよりおいしい……。それは興味がある。早く行こう」

 

 タバサが早歩きになった。元の世界で食事関連が絶望的だったこともあってか、食べ物に対してはかなり貪欲になっているようだ。

 苦笑を浮かべつつ、小太郎は遅れた分を足を早めた。少し早く着いたタバサが「早く来い」とばかりに小太郎の方を見つめている。

 

「まあ落ち着けって。店は逃げないからさ」

 

 やや遅れて着いた小太郎が店の入り口を開ける。中から中華料理店特有の食欲をそそる香りが鼻孔をついた。

 まだ昼時より少し早い時間帯の開店直後ということもあってか、ちらほら空いている席も見える。タイミング的によかったようだ。

 

「いらっしゃいま……ふうま小太郎!? どうしてここに!?」

 

 そして店内には小太郎にとって食事以外でのもうひとつの目的、「気になっていたこと」である井河扇舟がエプロン姿で働いていた。食事ついでに扇舟の様子も伺いたかったのだ。

 

 扇舟がこの店で働いていることは、“呪い”の件で事前に調べた時に確認済みだ。

 五車を追われ、母に捨てられたショックと過去の自分の過ちから自暴自棄になり、一時はこの街の娼婦にまで身をやつした。だが、ふとしたきっかけでこの店で働くようになり、次第に前向きに自分の生き方を考えられるようになった。そして、「生きて罪を償う」という意志にまで至ったということも、あの一件の時にわかっている。

 

 よって、そういった類で「気になっていた」わけではない。あくまでふうま小太郎一個人として、井河扇舟という人間を改めて見てみたいという思いからだった。

 

「こんにちは、扇舟さん。どうしてってヨミハラに用事があったんで、ついでに飯食いに来たんですよ。まあ扇舟さんの様子を見たかったってのもあるんですが、それ以上にうちの食いしん坊がこの店のこと話したら興味持ってくれたみたいで」

「……食いしん坊って私のこと?」

「他にいるか?」

 

 ミニ漫才のようなことをやりつつ現れたタバサを見て、扇舟は思わず目を見開く。

 

「命の恩人……。確か、タバサちゃん……」

「ん。そう、タバサ。あ、えーっとあの時の」

 

 扇舟にとっては命の恩人。しかしタバサからしてみれば「自分の敵を殺したら結果的に助かった人」。そのために反応にこれだけの差が出るのはまあ仕方のないことと言える。

 

「なんだセンシュー、トラブルかー?」

 

 と、その時厨房の方から元気な声が聞こえてきた。

 

「あ、違うの、ごめんなさい。知り合いが来てくれたから、ちょっと驚いて……。って、案内もまだだったわね。こちらへどうぞ」

「センシューの知り合い!? おお、それはよく来てくれたな!」

 

 今度は声だけでなくその姿を見せつつだった。案内されるままにテーブル席についた2人は声の主へと視線を移す。

 チャイナドレスに身を包み、いかにも中華娘といった風体。この店の店長代理である陳春桃(ちん しゅんたお)だ。

 

「味の方はあたしが保証するから、ゆっくり食べていってくれ。オススメは看板メニューのセンシュースペシャルだ!」

「センシュースペシャル……?」

 

 言うことだけ言って奥に引っ込んだ春桃と入れ変わるように、扇舟がお冷を持ってくる。

 

「一応私が考案したメニューってことで……。スープにヨルの魔草っていう、魔界で取れる希少な素材を使ったラーメンなの」

「え……!? ヨルの魔草って……!」

 

 小太郎が扇舟の耳元に顔を寄せて小声で尋ねる。

 

「……あれって禁制品じゃないんですか? 確か毒があるとか……」

「さすが、知識が豊富ね。でも大丈夫。正しい処理をして毒を抜けば違法じゃなくなって、絶品食材になるから。……ただ、私にとっても、あなたにとっても、忌むべき毒の知識がこんなところで活かされるのは、少し皮肉にも思えるけどね」

 

 “毒手使い井河扇舟”。彼女のかつての異名だ。両手の指ごとに異なる毒を持ち、ありとあらゆる毒を使い分けた。小太郎の父である弾正も、昔対魔忍内で起こった派閥争いの際にこの毒が遠因となって命を落としている。

 しかし今の彼女の両手は毒手のそれではない。アサギに対して扇舟の母親が率いる井河長老衆がクーデターを起こしたことがあり、それが失敗に終わった時の戦いで両手ごと斬り落とされ、義手になったからだ。

 とはいえ、そのおかげでまた料理ができるようになったというのも事実だった。今の扇舟は昔の自分を「母に言われるがままに動くだけだった哀れな存在」として、心から悔いている。

 

「とにかく、私の名前があるのは少し恥ずかしいけど、春桃さんの言った通りオススメメニューよ。2人ともそれでいい?」

「あー……。でも結構値段が……」

 

 そんな小太郎を見て扇舟は思わず笑っていた。確かにセンシュースペシャルはヨルの魔草を使う分、普通のメニューより値が張ってしまう。ふうま家当主としての姿が板についてきたように思えたのに、まさか金銭面で注文を渋るとは。

 

「じゃあ私に奢らせて。命の恩人の2人への支払いとしては、いささか安すぎるけど」

「え、いやでも……」

「いいのよ。あ、タバサちゃん食いしん坊らしいから半チャーハンもつけてあげるわ」

 

 店員スマイルを残し、一方的にオーダーを切り上げて扇舟が去っていく。そんな後ろ姿に、思わず独り言がこぼれた。

 

「……変わるもんだな、ほんと」

 

 あんな笑顔を見せることができたのかと、小太郎は驚いていた。敵対していた時に見せていた「怒」、それから母に捨てられたことを知った時とこの街で再会した時に見せた「哀」。喜怒哀楽のうち、最初と最後の部分を見たことがなかったのだ。

 

 しかし、そういえば、と目の前の少女に視線を移す。

 彼女は「怒」ぐらいの表情しかまともに見せたことがないように思える。いや、それも戦闘中は仮面をつけているから見たかどうかいうと若干怪しい。

 最近でこそ食べ物関連で「喜」「楽」辺りが少し見え始めた気もするが、それでも基本がほぼ無表情。“乗っ取られた”影響かもしれないが、感情表現に乏しいのは事実だ。

 

「なあ、タバサ。その……笑ったことってあるか?」

 

 ちょっと聞きづらいかもしれないと思ったが、意を決してそう切り出した。

 

「多分ある。私だって笑える。……ニイッ」

 

 そしてわざとらしく口角を上げた作り笑顔を見て、やっぱり聞くんじゃなかったと軽く後悔する小太郎だった。

 

「お待たせしました! センシュースペシャル2つです」

 

 そんな他愛もないやり取りをしているうちに、扇舟がトレーに乗せたラーメンを持ってきた。物思いにふけっていた時間が思ったより長かったのかもしれない。

 さらに後ろからは先程チラッと姿を見せた春桃も何かを持ってきているようだった。

 

「あとこれはセンシューから半チャーハンと、あたしから餃子のサービスだ!」

「ええっ!? いや、そんな……悪いですよ」

「気にするな! センシューの知り合いとか、ここの店員以外じゃフェルマぐらいしか見かけなかったからな!」

「ご、ご挨拶ね……。とはいえ言い返せないのも事実なのだけど……」

 

 あの扇舟がたじたじになってしまっている。これはなかなかレアな光景を見てしまったと小さく笑いつつ、その厚意に甘えることにした。

 

「じゃあ遠慮なく。ありがとうございます」

「いいのいいの。じゃあごゆっくり!」

 

 元気そうに厨房に戻る春桃に続き、扇舟も軽く一礼してその場を去っていく。

 

「餃子は6つ。俺は……1つでいいか。タバサ、5つ食べていいぞ。あと半チャーハンも」

「ありがとう。えっと……太っ腹」

「……そんな言葉どこで覚えたんだ?」

「さくら」

 

 予想通りの答えにため息をこぼしつつも。

 

「……まあいいか、食おう。いただきます」

「いただきます」

 

 2人はそう言ってから箸を手に、麺を冷ましながらすすった。それと同時に――。

 

「……ッ!」

 

 小太郎は目を見開いた。

 

「う、うめえ!」

「これはおいしい」

 

 タバサも同じ感想だったらしい。顔色こそ普段と変わらないまでも、明らかに声のテンションが上っている。

 それもそのはず。鶏ガラの濃厚スープにヨルの魔草の爽やかさが絡み合ったことで絶妙の味を作り出しているのだ。人間界の素材だけでは作り出せない、まさにヨミハラならではの味ともいえる。

 

「ズルズル! ズルズル!」

「ズーズーズーズー!」

 

 一心不乱に、それこそ貪るようにラーメンを食べる2人。タバサに至っては掃除機か何かという勢いで麺をすすり続けている。

 

「……あ、餃子。先に1つ食べておくから、あと食っていいぞ」

「ん」

 

 ハムスターのように口いっぱいに麺を入れたタバサを横目に見つつ、醤油それなり、酢多め、ラー油少々のふうま小太郎特製の割合でブレンドさせて餃子のタレを作る。それを餃子に少しつけて一気に口の中へ。

 

「熱っ……! でも……うっま!」

 

 溢れ出る肉汁で口の中を少しやけどしたかもしれないが、そんなことがどうでも良くなるうまさだった。反射的に小太郎の口をついて出たその感想に、タバサも彼を真似てタレをつけてから口へと運ぶ。

 

「……おお、これもおいしい」

 

 この瞬間に見せたタバサの感情は「喜」か「楽」か。

 確かに感情表現に乏しいと思うが、おいしいものを食べている時に嬉しそうだというのは間違いない。

 

(……ま、いいか。ゆきかぜも言ってたもんな。「どうあろうとタバサはタバサ」って。うまいものを食えば嬉しくなる。人間の真理ってやつだ)

 

 うまいこと考えがまとまったと思ったが、直後に我ながら何を知ったつもりになったのだろうか、と小太郎の顔に軽く苦笑が浮かぶ。とはいえ、タバサは満足してそうだしそれでいいかと思うことにした。

 

 そんな目の前の少女は食べることに夢中なようで、今度は半チャーハンに手を伸ばそうとするのだった。




ファイアストライク

デモリッショニストのスキルで、通常攻撃と同様に扱われる、いわゆる「通常代替スキル」。通称FS。
攻撃自体を強化した上で通常攻撃変化スキルが適用されるので、サバターの左クリック用スキルにしてメイン攻撃スキル。
本編中のタバサの剣による二刀流の攻撃は基本的にこれで行われているということで描いている(例外は左の剣だけの攻撃による「アマラスタのブレイドバースト」と消える突進の「シャドウストライク」)。
スキルツリーがマスタリー内で最も長く、ツリー内のスキルは4つ、武器種によって適用されるスキル変化もさらに2つ存在する。

・ファイアストライク:マスタリーレベル1で解放。いわゆる本体。武器ダメージの強化、火炎ダメージの追加、物理ダメージの割合強化。火炎ダメージの伸びが良いため、余裕があれば振り込みたい
・エクスプローシブストライク:マスタリーレベル10で解放。範囲攻撃化、武器参照ダメージの強化、物理ダメージと燃焼ダメージが追加。範囲攻撃は便利なものの、12からは伸びが悪くなるのでその辺りが目安にされる
・スタティックストライク:マスタリーレベル25で解放。割合火炎ダメージの強化と、確率による雷ダメージとノックダウンが追加。ノックダウンは便利だが確率発動のため安定性に欠けることもあって優先度は低い
・ブリムストン:マスタリーレベル50で解放。火炎ダメージとカオスダメージの追加。遠隔攻撃の場合破片が飛び散るようになる。追加される火炎ダメージの伸びが優秀な上に、本ビルドの場合はカオスダメージもネックスのスキル変化で100%冷気変換されるので、スキルポイントの優先的な振込先
・シーリングストライク:マスタリーレベル15で解放。最大3ポイントで、片手近接武器限定で15%のダメージ修正とクリティカルダメージ強化と33%のスキルエナジーコスト減少を得られる。二刀サバターの要
・シーリングマイト:マスタリーレベル15で解放。最大3ポイントで、近接遠隔問わず両手武器限定で20%のダメージ修正と15%のクリティカルダメージ強化を得られる

一見すると下2つのスキル変化を適用される武器の方が強く見えるが、二丁拳銃はこれらボーナスをぶっ飛ばすほどの手数が、拳銃+盾の組み合わせはディフェンス力が得られるため、これらのスキルのお陰でバランスが取れている、という見方が正しい気がする(拳銃+詠唱オフハンドの組み合わせは多分FS重視しないと思われるので……)。
ツリー内のポイントの振り方は人それぞれだが、本ビルドの場合、シーリングストライクは勿論取るとして、優先度順にブリムストンはできるだけ、ファイアストライク本体もできるだけ、エクスプローシブストライクは装備込みで12、スタティックストライクは1でいいというのが個人的な振り方。
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