“乗っ取られ”の少女、対魔忍世界に迷い込む   作:天木武

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Act95 この世界では、どうやら今日はこういう格好をする日のようだが……

 多数の死霊たちと対峙していた静流は、後方から誰かが迫る気配を感じ取っていた。敵であれば挟み撃ちという最悪の状況。だが足運びの雰囲気からそれは無いだろうと、どこか楽観的な考えを持って振り返る。

 目を移すと、その予感は正しいことが証明された。彼女が店長を務める酒場の2階にある宿泊所を利用している元対魔忍の女性と視線が合う。

 

「援護するわ! 静流さん、態勢を立て直して!」

 

 目が合った相手――扇舟が叫ぶ。強力な助っ人が来てくれたと静流が感じたのとほぼ同時、風のように彼女の横をすり抜けた相手によって1体の死霊が斬り裂かれて消滅していた。こちらも最近宿泊所に住み着くようになったウルグリムだ。

 今の彼の一撃から、恐るべき速度と戦闘能力の高さがあることを静流は理解した。まさしく望むべき展開。すぐに状況把握を完了させて思考を整理し、共に戦っていた学生対魔忍の少女に声を掛ける。

 

御影(みかげ)さん、強力な助っ人が来てくれたわ。引き気味の対処に変更を。私はこいつらをまとめて片付けるのに準備をするから、援護をお願い」

「えっ、あ、はい!」

 

 大きく後退した静流の指示に従い、御影と呼ばれたまだ若い対魔忍の少女――御影小梅(こうめ)は数歩分後退した。が、それでは今突如突っ込んできた相手に狙いが集中してしまうことに気づく。どうしたものかと小梅が一瞬迷っていると。

 

「影よ!」

 

 ウルグリムは得意のリビングシャドウを召喚。数の差による不利を一気に解消にかかった。

 

「影遁の術……!? しかもこれだけの影を生み出せるなんて……」

 

 思わず小梅がポツリと呟いた瞬間、2人を追い抜いて扇舟が戦線へと飛び込んだ。

 

「扇舟! 道を切り開く、行け!」

「わかった!」

 

 ウルグリムとシャドウたちの猛攻で死霊たちの壁に穴が開く。埋めようと立ち塞がった相手を爪で薙ぎ払いながら、扇舟はレイス連中へと狙いを定めていた。

 今、格下の死霊は「特性の毒」に成す術なく倒れた。ならば、より上位に位置するレイスであっても効果が期待できる。そう確信した扇舟は、1番近い位置にいたレイスとの間合いを詰めて貫手を突き出した。

 ゆらり、とレイスが動いて貫手を回避。だが扇舟は当然そこまで予測している。右手を横へと薙ぎ払い、レイスの体を斬り裂いた。

 

「……!?」

 

 声こそ無かったが、レイスは明らかに困惑していた。斬り裂かれた部分から消滅が始まり、やがて音もなく消え去る。予想通り、いや、それ以上の効果に思わず扇舟の口の端が上がった。

 扇舟が作った「特性の毒」は、通常の生物には全く効果はない。が、アンデッドとなれば話は別となる。

 

 その正体とは、いわゆる聖水であった。

 

 魔除けや悪魔祓いとして効果がある植物や魔草をメルメの店で見繕い、それらから抽出して作り出したものである。薬と毒は表裏一体。通常なら呪いに対して効果を生み出すようなその薬は、死霊たちに対しては強力な毒となっていた。

 

「急いで作り上げたものだったけど、狙い通りね。これなら……!」

 

 本来感情がないはずのレイスたちが目に見えて動揺しているのがわかる。この隙に付け入らない手はない。

 近くにいた相手に狙いを定め、扇舟は得意の低い姿勢から一気に肉薄。右手を一瞬動かし、フェイントを入れて相手の出方を見る。レイスは回避を最優先とし、間合いを取るためにすうっと後退しようとした。

 

「遅い」

 

 相手の動きが予測できるなら対処も可能だ。すかさず扇舟は大きく踏み込んで、胸部と思しき場所へ貫手を放つ。聖水を纏ったその一撃により、声もなく2体目のレイスが消え去った。

 

「す、すごい……。なんて高度に鍛え上げられた対魔殺法……!」

 

 まだ若い小梅は、思わずその動きに見入ってしまっていた。

 彼女も体術として対魔殺法を駆使して戦うためにその練度の高さはよく分かる。大胆、かつ無駄がない。だが対魔殺法を駆使しているのに、目の前の相手をこれまで見た記憶がない。一体何者なのだろうかと、戦闘中に似つかわしくなく思いを巡らせていると。

 

「御影さん! 奥の左側のレイス、魔術を使おうとしているわ! 援護してあげて!」

 

 その背後で準備のために時間を割いていた静流からの声が飛んだ。

 

「は、はいっ! 影遁・影縛撃!」

 

 小梅が自分の忍法である影遁を発動する。影遁使いとして有名なさくらと比べると技量も出力も明らかに劣ってしまっていることは、彼女自身痛いほど分かっている。実際、魔術を発動しようとしていたレイスの動きは一瞬止まっただけだった。

 

「くっ……。やっぱり一瞬しか……」

「あの人にとってはそれで十分よ」

 

 悔しそうに小梅が呟いたその時、背後から静流の優しげな声が聞こえてきた。言葉の通り、今ので攻撃の気配を感じ取った扇舟はその相手へと標的を変えている。レイスは慌てて再度魔術を発動しようとしたようだが、それより早く聖水を塗布した扇舟の爪が薙ぎ払われていた。

 

 ペースは完全に扇舟とウルグリムが握っていた。このままなら倒し切るのも時間の問題だろう。そんな空気が流れていた、その時。

 

「準備が整ったわ! 一気に殲滅するから、2人とも下がって!」

 

 そう叫ぶ静流の声が響いた。指示に従ってまず扇舟が攻撃の手を止めて後退。次いで、ウルグリムがシャドウの召喚を解除し、牽制用に魔力で作り出した幻影の刃(ファンタズマルブレイズ)を死霊目掛けて投げつける。これによって追いかけてこようとする敵の足が止まる形になった。

 

 そこへ、静流の足元から発芽した草が一気に伸びていく。木遁の術で急速に成長を促した結果だ。それは死霊やレイスへと食らいつくすかのように絡みつくと、あっという間に霊体である敵の体を消し去ってしまっていた。

 

「やっぱり吸魂草の効果は絶大ね」

 

 これ以上植物が成長して他に影響が出ないよう、枯らせながら静流はそう言った。

 

「すごいな……。植物を操るとは聞いていたが、今のが君の忍法というわけだ」

 

 二振りの剣を背中の鞘に収めつつ、感心したようにウルグリムが呟く。

 

「どちらかといえば私よりもこの植物が死霊相手に効果的という話だけどね。吸魂草と言って、戦場の跡地に現れる地縛霊なんかを駆除するために使う魔草よ。発芽までに時間がかかるけど、私の術と相性の悪い死霊相手には切り札になると思ってメルメから買っておいたの」

 

 自分の聖水といい、この戦いではメルメが間接的に大活躍だな、と扇舟は考えていた。

 

「あ、あの……。静流先生、このお二方は何者なんですか? 一緒に戦ってくれたんで味方ということはわかります。でも、そちらの男性は対魔忍っぽくないのにすごい影遁の術を使ったし、こちらの女性は見事な対魔殺法を見せていたので対魔忍だと思うのですが、見かけた記憶がなくて……」

 

 と、そこでおずおずと小梅が口を挟んできた。

 

「そうね、互いに知っておいたほうがいいわね。……彼女は御影小梅さん。このサンタ服の格好でわかるかもしれないけれど、今日は私の店のバイトに来てくれていたの」

 

 小梅がペコリと頭を下げる。その様子を見ていたウルグリムは彼女を見て、それから静流の服装も見た上で、訳ありげに扇舟へと視線を移していた。

 

「……何?」

「この世界では、どうやら今日はこういう格好をする日のようだが……。うちの店ではそんな様子すら無かったと思ってな。いいのか?」

「私に言われても困るわよ。店長代理の春桃さんの決定次第なんだし。それに、私みたいなおばさんがこの2人のような格好をしても似合わないと思う」

「またまた、謙遜を」

 

 ウルグリムの軽口に思わず扇舟が肩をすくめる。そこで静流が「そろそろいい?」と2人の紹介に移りたいと意思を示してきた。

 

「彼女は扇舟さん。味龍で働いているわ。あの対魔殺法で気づいたかもしれないけれど元対魔忍よ。でも脛に傷を持つ者が多いこの街にいるということは……まあそういうことだから、あまり深く詮索しないであげて」

「あ……。はい、わかりました」

 

 小梅は扇舟の名前に心当たりはなかったらしい。何かがきっかけで抜け忍になった、とでも考えたのだろう。静流の機転で嫌な過去を探られなかったことに思わず扇舟は小さく息を吐く。

 そんな彼女の様子に気づいたのだろう。チラリと視線を送ってきた静流がひとつウインクしてみせた。

 

「次に、ダンディな彼はウルグリムさん。異世界人よ。扇舟さんと同じく今は味龍で働いている。御影さんはタバサちゃん……ここ最近転入してきた3人と別に、学園に在籍はしていなかったけど五車にしばらくいた子のことは知ってる?」

「噂程度に……。あの凜子先輩に勝った人がいて、なんか異世界人だっては聞いたことがあるんですが……」

「その彼女を探すために来たのが彼になるわけ。ただ、トラブルでもうしばらくこの世界にいるみたいだけれど」

「じゃあさっきのは影遁の術ではないんですか?」

 

 興味本位の小梅の問いかけに対し、ウルグリムは首を横に振って否定した。

 

「そういえば銃兵衛も似たようなことを言っていたな。リビングシャドウは名も無き影の戦士を召喚する天界の力というものだ。君たちのいう忍法とは全く別なものになる。……見た限り、君は先程敵の影を束縛、ひいては本体の動きまで阻害したように見えた。しかし私にできるのはあくまで影の戦士を召喚すること。君のように影を使って何かをすることはできないのだよ」

 

 小梅は影を操る自分の忍法と似てこそいるものの、全く別物だとわかったらしい。同時に、ほんの一瞬で自分の忍法を見抜いたということも。ただ頷きつつ、感心したような声を漏らすばかりだった。

 

「御影さん。自分にコンプレックスを抱く必要はないわ。まず、今彼が言った通りあの影の戦士は影遁とは全く別物。そして、あなたは私の指示通りにちゃんと援護して、レイスの魔術の発動を止めているのだから」

「それはそうかもしれませんけど……。でも、止められたのはほんの一瞬だったし……」

「例え一瞬だったしても、私にとっては絶妙の援護だった。だから、今静流さんが言ったようにもっと自信を持った方がいいと思うわ」

 

 照れくさそうに小梅が俯いている。そういえば年下の対魔忍をこんな風に褒めたことは今まで無かったのではないだろうか、とふと扇舟は思っていた。

 

(井河長老衆だった頃は、常に他人を道具としてしか見ていなかった……。きっと私は彼女のような未来のある若い対魔忍を何人も手にかけてきたのね……)

 

 一瞬、扇舟の表情が曇った。静流が目ざとくその様子に気づいたらしい。手をパン、と叩いてその場の全員の注目を集めて話題を切り替える。

 

「さあ、敵を片付けて自己紹介も済んだところで鬼崎さんのところへ行きましょう。彼女は一足先にあの氷の壁へと向かった。冷気の扱いを得意としている彼女なら、中へ入る方法をもう見つけているかもしれないわ」




影遁の術

異能系忍法のひとつで影を操る能力。本編中で小梅が使用しているが、一般的には対魔忍主要キャラの1人であるさくらの方が有名。
影に潜む、影から物を取り出す、影を生物のように変化させて襲わせるなど用途は多岐にわたっている。
あまりにも便利で強すぎるため、原作ゲームでのさくらは制限をかけられるような形が多いように感じた。具体的には早々に敵に捕まったり力を使えない等のペナルティが与えられていたり。
そういった束縛から解き放たれたRPGでは全忍法の中でトップクラスに使い勝手が良いのではないかと思うほどのチートっぷりを披露し、大体さくらのおかげでなんとかなったなんてことはザラとなっている。
RPGの奥義を見る限りだと自分の影分身のような存在を作り出して攻撃なんてこともしているため、極めている者ならばリビングシャドウを凌ぐ汎用性を秘めている可能性もある。
本編で登場した小梅は相手の影を操って動きを封じたり、自分の影を操って通常考えられない動きをしたりと操る能力に特化しているようである。
とはいえさくらと比べるとその力の差は歴然のようで、当人はその事にコンプレックスを抱いている気配もある。
他には井河長老衆に属していた、アサギと遠い親戚に当たる井河影臣(かげおみ)というキャラも影遁に近い術を使用していた。
が、彼の場合は敵キャラの噛ませ役として1チャプターに登場しただけな上に、有用装備を落とすレイドボスになっているため、ATKと会心をアップさせる装備目的でひたすら狩られまくってる男という印象のほうが強いかもしれない。
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