“乗っ取られ”の少女、対魔忍世界に迷い込む   作:天木武

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Act96 待っていたぞおおおお! 巨乳ツンデレサンタ娘ちゃああああん!!

『……だから本来クリスマスっていうのは男女が共に過ごすような日じゃないんだよね。なのに最近の若い連中ときたら……』

「ちょっと待った。……ふうま、何人かが近づいてくるような気配がある」

 

 互いをよく知るために話す、などと意気込んでいた雪の悪霊だったが、女子に対する免疫がないのは致命的だった。タバサの怖い話が終わった後、結局は酔った説教親父よろしく、ぐだぐだとクダを巻き続けてタバサは適当にそれを聞き流す状態が続いていた。

 そんな中、不意にタバサは相手の言葉を遮って小太郎にそう声をかける。雪だるまの話を極力耳に入れないように半ば放心状態で暖を取っていた小太郎はその言葉でようやく目に光を取り戻していた。

 

「本当か!? 誰だかわかるか?」

「5人いる。扇舟とウルグリムは確実。あとは静流も。きららもいるみたいだけど……私が知ってる雰囲気とはちょっと違うような感じもして自信がない。それから全く知らないのが1人」

「多分知らないのは小梅だ。俺と一緒に静流先生の店にバイトに来てる。こちらは数的にもメンツ的にも間違いなさそうだ。やっと助けが来てくれたか……。でも扇舟さんはわかるが、そのウルグリムって人は誰だ?」

「静流から聞いてない? 私と同郷の異世界人。私を連れ戻しに来たんだけどトラブルで戻れなくなっちゃって。今味龍で働いている。私が戻らない上にこんな地下なのに雪が降ってきたから、2人とも店から来たんだと思う」

「……初耳だぞ」

 

 タバサの口調だと、ウルグリムの件は静流は知っているということになる。おそらく自分が知らないだけで静流を通してアサギの耳には既に入っているのだろうと小太郎は考えることにした。

 

「その人の件、俺に連絡くれてもよかったんじゃないか?」

「私もウルグリムもこの世界にまだ残りそうだからいいやと思ってた。……あ、そういえばセンザキに行って銃兵衛とか紅とかにも会ったって話すのもまだだったっけ」

「あいつらにも会ったのか? ……こいつじゃなくて俺がお前と話してればよかったな、こりゃ」

 

 思わず小太郎はため息をこぼす。が、雪の悪霊はそれを見て不満そうに口を開いた。

 

『あのさ、オレは女の子と話すってことを引き換えにお前を助けたわけ。なのにその言い分はおかしくない? あとお前の知り合いが来たなら、ついに巨乳ツンデレサンタ服娘に会えるってことでいいんだな?』

「まあ……。そうなるな。でもまだ当人に確認を取ったわけじゃないから……」

『うおおおおおっ! 楽しみだ! どこだ、オレの巨乳ツンデレサンタ娘ちゃん!』

 

 まだ見ぬ美少女への期待から雪の悪霊のテンションが上がったようだ。それに伴って行使している力の範囲も広がる。つまり、これまで寒さを食っていた範囲が数人が収まる程度だったものが、一気に数百メートル単位に広がっていた。

 

「ねえ、あそこ! なんか吹雪いてない場所がある!」

 

 その異変は探す側にも効果的に働いた。結界内の吹雪の中、小太郎を探していたきららが気づいたのだ。

 

「今の声……。きららかな?」

「多分そうだな。……おーい、きらら先輩! 俺はここです!」

 

 小走りに駆け寄ってくる気配を感じる。吹雪の中から現れたのは、白と赤のサンタ服を模した衣装に身を包んだきららだった。その彼女を先頭に、同じくサンタ服姿の静流と小梅、それから普段通りの格好の扇舟とウルグリムが続いていた。

 

「ふうま! 良かった、無事みたいね……。ってか、なんかここ妙に暖かいし……」

『待っていたぞおおおお! 巨乳ツンデレサンタ娘ちゃああああん!!』

 

 その時。高すぎる期待値のハードルを更に超えてきた美少女が目の前に現れたからだろうか。理性のタガが外れた様子の雪の悪霊が突然走り出した。

 

「あ、バカ! まだ先輩に確認も何も……」

「え……なんなのよ、この雪だるま!」

 

 まだ小太郎から何の説明も受けていないきららからすれば、不審者ならぬ不審雪だるまが迫ってきたという状況に他ならない。反射的に彼女は前蹴りを繰り出しており、雪の悪霊は彼女の足裏に顔面から突っ込んで蹴り飛ばされる形となった。

 

『グググッ……。話が……違う……』

「まだ先輩には確認も何も取ってないんだ、そりゃそうなるだろ……。タバサの時は落ち着いてたのになんで今回に限ってこんなことしたんだ?」

 

 完全にノックダウンした雪だるまを覗き込みながら小太郎が尋ねる。

 

『だって……。予想以上に美少女過ぎて……。こんなかわいい子とクリスマスを過ごせると思ったら、つい……』

「女子の免疫無いもんな……。って、あんま言うとタバサに失礼になっちまうか」

「別にいいよ。私はかわいいとかよくわからないから気にしていないし」

 

 タバサも雪だるまを覗き込んだ。

 

「まあ、お前のおかげでふうまは助かったからそこは感謝してる。でもその後きららに取った行動を考えると、今のこの状況は自業自得としか言いようがない。仮に私でも正体不明の相手が突然迫ってきたら自衛のために多分斬ってるし」

『追い打ちかけないで……。でもクリスマスに女の子と過ごせたのは事実だからそれなりに満足もしてる……。もし良かったらだけど、来年のクリスマスもオレと一緒に……』

「あ、それは約束できない。その時までこの世界にいるかまだわからないし」

『……そうか、そうだね。そういう設定だったね……』

「だから設定じゃなくてタバサは本物の異世界人……。って、もう溶けちまってるじゃねえか」

 

 どこか満ち足りたような表情のまま、雪の悪霊はその名の通り雪のように溶けて消えてしまっていた。タバサが言った通り自業自得だから仕方がないし、クリスマスを女子と過ごすという望みは一応叶えたのだからいいかと、小太郎は考えを切り替えることにした。

 

「さて、と……。静流先生、来てくれて助かりました。色んな意味で」

「お礼なら鬼崎さんに。あの氷の壁を破ったのは彼女だから」

「ま、まあね! 私にかかればあのぐらい楽勝よ!」

 

 思わず静流が小さく笑いながら「楽勝ねぇ……」とこぼす。

 確かに、結界となっていた氷の壁はきららによって破られた。だが、立ち塞がっていた死霊どもを蹴散らして静流たちが駆けつけた時は、まだきららは壁を突破する方法を見つけられていなかった。血を滲ませながら拳を必至に叩きつけていたきららだったが、幼い頃に聞いた母の声を不意に思い出したのだった。

 

「『もっと優しい気持ちで力を使いなさい』。ママがそう言ってたのを思い出してね。そうしたらあの氷の壁を突破できたの」

「その後もすごかったですよ。氷の魔物みたいなのが襲ってきたんですが、きらら先輩があっさりなだめちゃったというか。戦闘もしないで追い返しちゃったんです」

 

 小梅の補足に小太郎が感心したような声を上げる。同時に「……ああ、そういうことなのかな」とタバサが呟くのが分かった。

 

「何がそういうことなんだ?」

 

 思わず気にかけた小太郎が尋ねる。

 

「さっき気配を感じ取った時、なんだかきららだけ以前と違う感じがした。気のせいかと思ったけど、多分きららの内面が少し変わったからなんだと思う」

「……あんた、そんなこともわかるの?」

「なんとなくね。以前は、集団戦のときもそうだったけど、多分ぶつかり合ってもなんとかなりそうって雰囲気はあった。でも今は……かなり分が悪いように感じてる」

「む……。昔は舐められてたのか。……まあいいわ。あんたのおかげでふうまが助かったってのもあるんでしょうし、今日のところは気にしないでおいてあげる」

 

 腰に手を当て、サンタコスのきららはどこか誇らしげにそう言った。

 

「それはそうと……。ふうまくん、そこにいるネイスは……」

 

 問いかけたのは静流だ。

 

「ダメージはあるみたいですが気を失っているだけです」

「よかった……。魔草をはじめとして魔界産の材料の仕入れは彼女を通してるから、何かあったら味龍としては困るところだったわ……」

 

 それを受けて安堵したように扇舟がそう溢す。

 

「あ、やっぱりそうなんだ。私そんなこと全然知らなかったのに」

「ヨルの魔草を仕入れることになった時に窓口に立ったのが私だったからね。……いえ、お店の話は後にしましょう。ふうまくん、この吹雪は何がどうなって……」

 

 扇舟がそこまで言った、その時だった。

 遠くのほうで野太い雄たけびのような声が響き渡った。

 

「……今吠えたやつが原因ですよ。ビョルン=シュトゥルムっていう霜の鬼神が暴れまわってるんです。意識を失う前のネイスはきらら先輩が狙われてる、とか言ってたんですが……」

「上等よ! 狙われてるとか言われて、はいそうですかって逃げられるもんですか! ふうまをこんな目に遭わせてるんだもの、その分はキッチリ返してやるわ!」

「とはいえ強敵だよ。確かにきららの力は増したように感じる。だけど、さっき私が戦った時はまともに傷もつけられなかった。ふうまの闇の力でも無理。結果的に時間を稼いで逃げるのが精一杯だったし」

 

 内面を見通す能力に優れ、力量差を正確に把握するタバサの忠告に、きららも一瞬たじろいだ様子だった。が、それでも己を鼓舞させるように手のひらに拳を打ち付ける。

 

「そんなのやってみないとわかんないでしょ! まさかあんたビビってんの!?」

「ビビってるわけじゃない。でも……。悪いけど、私はそっちの戦いには加われない」

「ハァ!?」

 

 言っている意味がわからないときららがタバサを睨みつけた。しかしタバサはきららの方を向いていない。その視線の先を追うように見つめたところで、タバサが言わんとしていることがわかった。

 

「死霊……!? 外で倒したのに、こっちにも……!?」

 

 思わず扇舟がそう呟く。彼女の言葉通り、吹雪の中にうっすらと死霊たちの姿が浮かび上がっていたのだ。一方でタバサは気にした様子もなく口を開く。

 

「結構な数いる。目的はわからないけど、もし戦闘に介入してくるなら足止めが必要になる。……質より量の相手は慣れてる。どのみち、さっきのあいつには私じゃダメージを与えられそうになかったし、絡め手も効くか怪しかった。だったらこいつらの相手は私1人が担当するから、ふうまに残りのメンバーを指揮してあの大男を倒してもらいたい」

 

 もはや小太郎のために火を起こす必要はない。炎を冷気に変えないように制限していた装備を元に戻したタバサは、戦闘用の仮面(ナマディアズホーン)を身に着けていた。

 

「いや、そうは言うが……」

 

 小太郎は思わずこの中で唯一知らない人物であるナイスミドルの男性――ウルグリムの方へチラリと視線を移した。タバサもそれに気づいたのだろう。

 

「ウルグリムは私と同じぐらい強いし、単純な剣の技術だけなら間違いなく私より上だと思う。センザキに行った時も紅との模擬戦で圧倒してた」

「あの紅を……?」

「それはいささか誇大表現だ。あくまで軽い手合わせをしただけのこと。彼女が本気を出せば全く別な結果になったという可能性が高かったと思うがね。……時に、この世界で過ごしてから我が友の戦い方が明らかに変わったわけだが、それを教えたのは君かね?」

 

 問いかけ自体は普通、語気も特に強い様子はない。しかし、小太郎は意図せず気圧されていた。

 タバサとはまた別な意味で百戦錬磨の猛者。言うなれば、五車学園の校長室でアサギと対面したときのような。この相手は只者ではないと一瞬で見抜きつつ、緊張した面持ちで「ええ、まぁ……」と小太郎は肯定した。

 

「そうか。この状況で自己紹介というのは悠長な気がしないでもないが、私はウルグリム。友と同じケアン……異世界の者だ。友から話を聞いて君には興味があった。是非私も君の指揮下で戦わせてほしい」

 

 願ってもない申し出だが、やはりどうにも体に力が入ってしまう。

 

「こちらこそよろしくお願いします。ふうま小太郎です」

 

 そう言いつつ差し出した右手を差し出す動きはぎこちなく、握手した手も汗ばんでいることを小太郎は自覚せざるを得なかった。

 

「ちょっと待ってウルグリム。タバサちゃんをひとりにするつもり? いくらなんでも……」

「扇舟、心配なのはわからなくもないが、友はあの程度の相手には遅れはとらんよ。たとえその数が膨大であろうと、さっき君が斬り裂いた上位種のような相手が出てきたとしても、だ。……ケアンではあの程度、日常茶飯事だ。そうだろう?」

 

 斬るべき相手の方へ顔を向けたまま、タバサは無言で頷いた。

 

「ならばここは友に任せるべきだ。それに……。何か思うところがあるようにも感じる。ケアンでも気が立っている時はあんな雰囲気だった。ああいう時は近づかないほうがいい。邪魔だと思われるだけだからな」

 

 つまり今のウルグリムの言葉が当たっているとするなら、タバサは苛立っているということになる。その理由も気にはなったが、今はビョルン=シュトゥルムの対策を最優先にすべきだと考えを切り替えた。

 

「じゃあタバサ、ここは任せる。無理はするなよ。何匹か撃ち漏らしたぐらいならこっちでもどうにでもできるように心構えはしておくからな。……よし皆、行こう」

 

 フル装備で戦闘態勢のタバサだけを残し、霜の鬼神をどうにかするために他の全員は吹雪へと消えていった。

 

「……撃ち漏らしは無いと思うよ。こいつらの目的は多分私だろうから」

 

 しばらくしてからタバサはポツリと呟いた。その彼女の全面に死霊たちが展開している。一触即発の状態。

 

「中途半端だな。……おい、本気で私を殺したいなら包囲させろ。その方が有効だろうし、こちらとしても一度に多くを斬れて時間短縮に繋がる」

 

 と、突如タバサは虚空に向かってそう声を上げていた。

 

「隠れるのがうまいのは認める。どこにいるかはわからない。でも、あの結界を張った張本人……どっかで私を見てるんだろ? こんな雑魚をけしかけても互いに無駄な消耗をするだけだ。お前が私の前に出てこい。それで全てが済む」

 

 幻影の魔女のアジトで感じた空間が遮断される雰囲気。それと今回の結界が似ている。タバサはずっとそのことを感じていた。その矢先に死霊卿旗下の兵隊である死霊やレイスが大量に現れたとなれば、前回と今回で結界を張った相手は同じだろうという予想にたどり着くのは容易だった。

 

「……無視か。ならこの雑兵をすべて消す。それでお前の考えが変わるかもしれないからな」

 

 タバサが消える。超高速の突撃(シャドウストライク)。手始めの挨拶代わりに1体目の死霊を切り裂く。吹雪の中の戦いの火蓋が切って落とされた。




雪の悪霊

雪だるまのような姿をした悪霊で、クリスマスを幸せに過ごすリア充への怨念が集まって生み出された存在。10年に1度現れると言われている。
寒さを食べるという能力を持ち、そのせいで記録的暖冬になってしまうこともあるとか。
初登場はRPGサービス開始後初のクリスマスイベとなった、2018年12月14日から28日まで開催の「悪霊とホワイトクリスマス」。
五車町から近い(といっても電車とバスを乗り継いで数時間かかる設定)都会の都市であるまえさき市にイルミネーションを見るために蛇子と一緒に来ていた小太郎をリア充と決めつけて襲いかかり(まあ実際彼は間違いなくリア充だろうけど)、最終的には魔女見習いのリリスによって消滅させられた。
……はずだったのだが、翌年のイベントにも何故か登場。
ただ、この時は本編中でも軽く触れたように凜子とまりが完全に手綱を握ってクリスマスケーキ販売のマスコットをさせられていた。
それでもクリスマスを女子と一緒に過ごせたということで当人はまんざらでもなかった様子。
その後しばらく出なかったが、本編の元になっている話である2022年クリスマスイベ「故郷からの刺客」で再登場。
原作では本編の状況から焚き火役のタバサがいないため、かなりガチで小太郎の命を救った功労者クラスの活躍をしている。
が、本編同様にきららの姿を見て抱きつこうとして蹴り飛ばされて消滅というかわいそうな最期を迎え、挙げ句小太郎もきららも特に気しないという扱いをされてしまっている。
このことについて「小太郎は一応命を救ってもらったのにちょっとひどくない?」と感じてしまい、とりあえずタバサと一緒に過ごさせてあげようという形を取ることにした。
なお、このさらに翌年のクリスマスイベにも登場。クリアやカラスと雪合戦したり、対魔忍の朝比奈(あさひな)逸華(いちか)とまた会おうと約束を取り付けたりとリア充のようなクリスマスを過ごした。よかったね、おめでとう。
こんな感じで10年に1度とか言われてたくせに既に4回ほどストーリーに登場しているわけだが、果たして今年のクリスマスは逸華との約束が果たされるのか、はたまた特に登場せずに終わるのか……。
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