“乗っ取られ”の少女、対魔忍世界に迷い込む   作:天木武

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Act97 彼女に真名を伝えろ……

(なるほど……。明確な場所までは把握できずとも、私が近くにいることまではわかるか。異世界の力を使っているであろう戦い方も興味深い。しかし……)

 

 吹雪が舞うヨミハラの街中。その中にある建物の屋上から、獣人のような男が眼下の戦闘を監視していた。

 この区域を辺り一体から分断した結界を作り出した張本人。死霊騎士のアヌビスである。

 

 結界師としても超一流の彼は氷の壁のような結界を作り出しただけでなく、自分の周囲にも結界を張っていた。これにより、タバサにすら位置を悟られること無く見事に潜伏している。

 

(異世界の小娘は我が主が気にかけるほどとは思えんな)

 

 吹雪を斬り裂いて、タバサの天界の力である氷の槍(ブリザード)炎の塊(メテオシャワー)が降り注ぐ。その槍に貫かれ、あるいは塊に押しつぶされて、尖兵として送り込んだ死霊とレイスが次々と消滅させられていく。

 さらには彼女自身の二刀流、加えて刃の精霊(ブレイドスピリット)四足の獣(ネメシス)による攻撃。そして武器とリングから放たれるエレメンタルの力。数の不利を全く気にすること無く、次々と戦う相手の数を減らしていっている。

 

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(幻影の魔女のアジトに攻撃をかけた際、ワイトは足止めさせていた手駒を全てこいつによって失ったと言っていた。センザキにちょっかいを出したウィスプも注意したほうがいいかもしれないとしてこいつの存在を上げた。それを聞いた主は興味を持ったようだが……。確かに強いのは認めよう。それでも対魔忍であれ魔族であれ、このぐらいの力を持つ者を探し出すことはさほど困難ではなかろう。……それよりも、厄介さでいえばやはりあの娘の方が上だ)

 

 アヌビスは雄叫びが響き渡る方ヘと視線を移した。吹雪で見えないが、その先で戦っているであろう対魔忍の娘。

 

(私の結界をあっさりと打ち破った……。そんな芸当ができる者は、おいそれとは存在しない。まず間違いなかろう。おそらくあれは霜の鬼神の族長、ラグナロクの娘。注視すべきはそちらの方だ)

 

 ビョルン=シュトゥルムは敗れるだろう。アヌビスはそう予想していた。だが別にそれで構わない。

 彼の目的は、主――すなわち、死霊卿が興味を持った存在である異世界人を己の目で確かめること。そして、対立する勢力である魔界九貴族の一角、“賢明卿”に力を貸すラグナロクの娘の存在を確認することだ。

 もしビョルン=シュトゥルムが敗れるほどの力を持っているとするならば、その存在はラグナロクの娘に違いない。仮にそうならなかったとしたら、所詮それまでの話だと言うだけのことだ。報告すべき内容はほぼ固まった。

 

 未だ地上で狂ったように剣を振るい続ける異世界人の少女を見下ろしつつ、考えをまとめたアヌビスはいつでも帰還できるように転移ゲートを起動できる状態にしていた。

 

 

 

---

 

(派手に暴れてみせてるけど、やっぱり姿を現す気はないか。じゃあしょうがない。こいつらをさっさと片付けてふうまの援護に行こう)

 

 どこかから監視されていることはわかっている。だがその位置がつかめない。

 相手はこちらの力を見たがっている。けしかけてきた雑魚を蹴散らしていればいずれ気が変わるかもしれない。

 

 そんな風に考えて死霊やレイスと戦い続けていたタバサだったが、おそらく元凶が顔を出してくる可能性は極めて低いと感じ始めていた。結局最初から捨て駒として戦力をぶつけてきたのだろう。いいようにこちらが試されたことは少し癪だが、そこで相手の位置を見抜き切れない自分が全て悪いと、タバサはドライに考えを割り切っていた。

 

 これ以上は時間を割くだけ無駄だ。とにかく早く敵を始末する。まずはより高位で比較的厄介な存在であるレイスから片付けようとタバサは考えを固めた。

 降り注ぐ氷の槍(ブリザード)炎の塊(メテオシャワー)の中で、迫りくる死霊たちを周回する幻影の刃(リングオブスチール)回転攻撃(ホワーリングデス)で薙ぎ払い、冷気を纏った突進(アマトクの息)でレイスへと体当たり。左の剣による牽制の一撃(アマラスタのブレイドバースト)を叩き込んだ直後、高速の三連撃(アマラスタのクイックカット)で斬り裂いて目の前のレイスを消滅させていた。

 それが終わると次の相手目掛けて高速突進(シャドウストライク)。やはり同様に、淡々と作業をするかのように敵を斬り裂いていく。

 

 無論無傷というわけにはいかない。死霊の骨のような爪によって引っかかれ、今もレイスが放った闇の力を持つ魔術を受けて体がわずかによろめいている。

 それでも攻撃する手は休めない。敵を斬れば斬るほど、引っかかれてできた傷も魔術を受けて気だるさを覚えた体も回復していく。ダメージを与えることによって起きる回復(ヘルス変換)。持って与えられた能力をフルに活用しての、時に捨て身とさえ見られる彼女の戦い方であった。

 

 元々質より量の相手を得意としていた、タバサ独壇場の戦闘だ。初めてこの世界に来た時に戦った“呪い”と比べれば、有象無象に過ぎない敵が全滅するのは時間の問題だった。

 目に付く範囲の敵を全て片付けて仮面越しにため息をこぼす。周囲の気配を探っても、自分を監視しようと潜伏している存在を感知することはできなかった。

 

(私への興味を失ったか、それとも……)

 

 異端の力を持つ小太郎に、明らかに内面が「変わった」とわかるきらら。特にきららが狙われていた、という発言からすれば、彼女の力を見るためにビョルン=シュトゥルムをけしかけた可能性も高い。

 

(いずれにしろここにもう用は無い。ふうまのところに行こう)

 

 そう思い、タバサは足を踏み出す。が、そこに疲労があるのを感じずにはいられなかった。

 

(この世界で戦闘するとこうなることが多いんだよな……。ケアンだと休み無しで戦い続けられたのに。美琴の話じゃ私の回復能力とイーサーが関係してるかもしれないってことだったから、今はあんまり無理はできないってことか)

 

 それでもまだまだ動くことはできる。この世界で戦っていて死の予感に直面したのは、少し前の不知火の件でシックスティと戦った時ぐらいだ。

 余力は十分。これから向かう先に待っているビョルン=シュトゥルムは間違いなく強敵だろうが、扇舟にウルグリム、さらには新たな力に目覚めたらしいきららがいる。そして何より、指揮を執るのはタバサが全幅の信頼を置く小太郎だ。きっと何かしら解決策があるに違いない。あるいは、もう戦いが終わっている可能性すらある。

 

(……いや、それは楽観的すぎか。まだ吹雪は収まってないし)

 

 とにかく援護に向かう。そう決めて、タバサは降りしきる雪の中を走り始めた。

 

 

 

---

 

 ビョルン=シュトゥルムとの戦いは佳境へと突入していた。

 

 きららを見た大男は、目の前の相手こそ自分が倒すべき存在だと判断したのだろう。歓喜にも似た雄叫びを上げ、まっすぐきららへと襲いかかった。

 唸りを上げる戦斧の攻撃を受ければひとたまりもない。休むこと無く繰り出される攻撃の前に、最大火力を持つきららは防戦一方に回ってしまっていた。

 どうにか食い止めようと他の味方が割って入ろうとするが、邪魔な虫を払うかのように反撃がとんでくる。加えて、タバサの攻撃でも小太郎の闇の力でもダメージを与えられないほどのタフネスさを誇る相手だ。リビングシャドウで撹乱しつつ放たれるウルグリムの斬撃も、特製の神経毒を塗布した爪による扇舟の攻撃もまるで影響が感じられない。

 

 このままでは埒が明かないと判断した小太郎は、大技による一発勝負の賭けに出た。

 最大火力を持つきららによる必殺の一撃である凍奔征走(とうほんせいそう)を撃ち込むために、彼女の霜の鬼神としてではなく対魔忍としての能力――変わり身の術を利用した。

 きららと入れ替わった小太郎が逃げの一手を売って時間を稼ぎ、大技の準備ができたところで忍法を解除する。そのせいできららだけを攻撃目標にしていたビョルン=シュトゥルムが翻弄された隙をつき、きららの凍奔征走が炸裂。相手の戦斧を吹き飛ばした。

 

 異変が起きたのはその時だった。これまで狂戦士にしか見えなかったビョルン=シュトゥルムの瞳に理性の光が戻ったのだ。

 だがそれも、直後に引き寄せられるように彼の手に斧が収まった瞬間には消え去ってしまっている。明らかに斧が自らの意思でその手に戻った、としか言いようのない動きであった。

 

(つまりはあの斧が元凶だ。呪いの武器か、そういった類のなにかだろう。おそらくあいつは斧に操られている可能性が高い。あれをなんとかしないと。しかし……)

 

 考えをまとめつつ、少し前と同じ状況に戻ってしまったことに小太郎は歯噛みした。

 今もきららは防戦一方、それを少しでも軽減させようとウルグリムと扇舟が前線で、静流と小梅が後方から援護をしているが、やはり相手の手が止まる様子はない。

 もう一度きららの凍奔征走に頼りたいところだが、おそらくそれも難しい。一度見せた以上、変わり身の術による幻惑はもう通用しないだろう。どうにかしたいところだが、何も良い案が思いつかない。さすがに小太郎が焦りを感じ始めた、その時。

 

「珍しいね、ふうまがそこまで焦ってるなんて」

 

 もしかすると現状を打破できるかもしれない声が聞こえてきて、小太郎は思わず振り返った。そこで予想通りの声の主と、予想外の人物を見て思わず目を見開く。

 

「タバサ! 無事だったのは良かったし助っ人が欲しかったから助かるが……。なんでネイスを……?」

 

 小太郎の言葉通り、タバサはずっと気を失っていたはずのネイスに肩を貸していたのだ。

 

「死霊どもを片付けてここに向かう途中、安全な場所に横にさせておいたはずなのに必死になって歩いているのを見たから。話を聞いたらふうまに伝えたいことがあるって。この状況をどうにかできるかもしれないみたいなことを言ってたから、連れてきた」

「ああ……。助かった、味龍の店員……」

 

 礼を述べつつ、ネイスはタバサの肩に回していた腕を外した。が、やはり体は回復したとは言い切れなかったようで、そのまま膝をつきそうになってしまう。慌てて駆け寄った小太郎がその体を支えた。

 

「大丈夫?」

「私のことは構うな……。さっき言ったように、手はある……。だからお前はやるべきことをやれ……」

「ん、そうだね。じゃあ行ってくる」

 

 先ほどまともにダメージを与えられなかった相手だったが、タバサは怯むことなくビョルン=シュトゥルム目掛けて飛び込んでいく。タバサのことが少し気がかりな小太郎だったが、それよりも、とネイスに声をかけた。

 

「ネイス。今、手はあると言ったな? それは一体……」

「あいつは……ビョルン=シュトゥルムは狂戦士の斧……『ケラウノス』に操られている……」

「みたいだな。さっき一瞬手放させた時に理性が戻った。もう一度そうしたいところだが……その方法がなくて今困っている」

 

 チラリ、と小太郎は戦闘の様子を伺う。タバサが加わったことで一瞬は盛り返したようだったが、やはりきららが猛攻に晒されていることに代わりは無いらしい。

 

「霜の鬼神の長であるラグナロク様……。その娘の力を覚醒させるんだ……」

「ラグナロクの娘……きらら先輩が……!?」

「そうだ……。彼女に真名を伝えろ……。偉大なる霜の鬼神の長、ラグナロク=シンモラ……。その娘の名は……」




メダル用増強剤

第2段大型DLCであるFGで追加された要素。ルーンとも呼ばれる。
ステータスを強化する他の増強剤とは全くの別物で、移動スキルが使用可能になる。
本編中でタバサが使用している「アマトクの息」はこれに当たる。
移動用や離脱用などの使い道があるが、バージョン1.2.0.0ではこれと別に回避スキル(無敵状態で短距離を移動)が実装され、実質移動スキルがもうひとつ増える形となった。移動スキル→回避スキルと繋げることで短距離ではあるものの高速移動も可能。

低レベルのものはFGをプレイすればほぼすぐに使用可能になるが、高レベルのものは派閥のクエストをクリアしたり、シャッタードレルムを攻略して設計図を手に入れて鍛冶で作る必要がある。
移動スキルと一口に言っても6種類に分けられ、ナイトブレイドのシャドウストライクに似たものから、跳躍してのリープ攻撃、高速バックステップなど様々なものがある。
その中でもアマトクの息は「ラッシュ型」と言われるタイプに分類され、指定した位置目掛けて通路上の敵を貫通してダメージを与えながら高速移動を行う。
移動距離に制限があるものの敵がいなくても使用可能なため、移動手段の他に緊急回避としても使えて使い勝手が最も良く、遮蔽物の先を指定しても迂回可能な範囲ならちゃんと移動してくれる。
似たように移動する回避スキルの場合はこうはいかずに遮蔽物で止まってしまうため、このタイプ独自の強みでもある。
アマトクの息は冷気属性のダメージを与えるが、同時に凍結もさせるために耐性がない敵の手を止めることも可能で、困ったらこれを選ぶ乗っ取られも少なくないと思われる。
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